STI Hz Vol.4, No.4, Part.11:(レポート)客観的根拠(エビデンス)に基づく政策のためのデータ・情報基盤(第三回)~政策研究のためのNISTEPデータ・情報基盤~STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00159
  • 公開日: 2018.12.20
  • 著者: 岸本 晃彦、富澤 宏之
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.4, No.4
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
客観的根拠(エビデンス)に基づく政策のための
データ・情報基盤(第三回)
~政策研究のためのNISTEPデータ・情報基盤~

第2研究グループ 客員研究官 岸本 晃彦、総括主任研究官 富澤 宏之

概 要

「客観的根拠(エビデンス)に基づく政策のためのデータ・情報基盤」シリーズの最終回である第3回として、本稿では、「政策研究のためのNISTEPデータ・情報基盤」について紹介する。まず、政府の科学技術政策の基本的な方向性等を示すデータとして、長期的な方針・計画と、実施された施策に関するデータを紹介する。次に、政策を形成する際に役に立つツールとして、NISTEPで実施・蓄積してきた将来の技術予測に関する調査と、研究者や有識者への意識調査等のデータ検索システム等を紹介し、最後に政策研究のためのデータ・情報基盤の今後の方向性について述べる。

キーワード:政策のための科学,科学技術基本計画,科学技術白書,デルファイ調査,定点調査

1. データ・情報基盤の構築

科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、文部科学省の「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』」(SciREX)推進事業の一環として、エビデンスに基づく科学技術イノベーション政策の基礎となるデータ・情報基盤の構築と活用を推進している。

本シリーズの第1回、第2回で説明してきた企業名辞書、大学・公的機関名辞書は、企業や大学・公的機関のデータを分析する際に有用なもので、NISTEPは継続的に整備をしている。今回の第3回では、まず、政策の分析をするための基礎的なエビデンスとして2つのデータについて紹介する。すなわち、政府の科学技術政策に関する長期計画である科学技術基本計画などのテキストを集めた①基本政策系列データベース、及び、実施された施策のデータとして、文部科学省の科学技術白書から抽出した②重要施策データベースについて述べる。次に、政策形成に資するデータとしてNISTEPが実施・蓄積してきた調査のデータ、すなわち、将来展望に関する③デルファイ調査と、産学官の研究者や有識者の意識を調査した④NISTEP定点調査の検索システムを紹介する。最後に、Web上でデータを収集する助けとなる⑤国内外の関連データのリンク集について述べる。図表1には、今回、紹介している政策研究のためのデータ・情報基盤とともに、NISTEPデータ・情報基盤の公開Webサイト1)の項目を示している。

図表1 SciREX関連公開データの全体像図表1 SciREX関連公開データの全体像

2. 科学技術イノベーション政策のデータ

2-1 基本政策系列データベース

政府の科学技術政策は、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が司令塔となり「科学技術基本計画」を5年ごとに答申して閣議決定される。この計画に沿って、科学技術イノベーション総合戦略が毎年定められている。これらは内閣府から公開されている。

科学技術に関する長期計画については、科学技術基本計画(1996年)が策定される前から、内閣総理大臣の諮問機関として総理府に設置の科学技術会議において、諮問第1号「10年後を目標とする科学技術振興の総合的基本方針について」に対する答申(1960年)などの形で示されてきた。これら科学技術基本計画以前の科学技術政策に関する長期計画についても、全文テキストデータを収集した。これらを合わせNISTEP基本政策系列データベースとして公開している(図表2)。これらの計画は、基本政策、重点分野、システム改革、といった軸で分類され、異なる形式、年代についても同じ軸で比較できる。

図表2 基本政策系列データベースで扱っている計画等図表2 基本政策系列データベースで扱っている計画等

2-2 重要施策データベース

文部科学省から発行される科学技術白書は、科学技術に関して実施された施策が網羅されており、上記の長期計画とほぼ同時期(昭和33(1958)年)に旧科学技術庁において始まり、継続的に発行されている。

この科学技術白書の中で、政策形成に重要と思われる事項を抽出し、重要施策としてデータベースを構築し、SciREX関連公開データ1)のひとつとして公開した。重要施策の抽出基準は、①対象分野で影響力の大きい計画の策定・改正、②法令や制度の制定・改正、③国の機関の設立・大きな部局の新設、④研究のパッケージとしての事業、⑤個別研究課題の中でも、ある施策群の中で先駆けとなる意義を持つもの、などとした。

また、基本政策系列と同様に基本政策、重点研究開発の推進、科学技術システム改革などに大きく分類し、更に細かく整理・分類して検索できるようにしている(図表3)。

重要施策を分野、キーワードで検索できるほか、重要施策の推移を一見して把握できるように項目を段階状(Step状)に表示する機能も備えている。

図表3 科学技術白書から抽出した重要施策データベース図表3 科学技術白書から抽出した重要施策データベース

3. デルファイ調査検索

政策は将来に向けた方針や方策を示すものであり、政策立案に将来展望は不可欠である。NISTEPでは、科学技術の将来を予測した「デルファイ調査」の蓄積がある。デルファイ調査は、今後30年間で実現が期待される科学技術等の実現時期や重要性などについて、数千名の専門家の予測をまとめたものである。調査は1971年から2015年まで5年ごとに10回にわたって実施されている。将来実現が見込まれる技術等として示された予測課題(トピック)の総数は9000件以上に上り、世界的にみても、最も大規模な予測調査のひとつである。

調査結果は、従来、報告書の形で公開してきたが、検索可能なデータベースとして電子化し、「デルファイ調査検索」のシステムを構築した。これをSciREXのデータ・情報基盤構築の一環として位置づけ、データ・情報基盤のホームページに公開している1)。デルファイ調査検索では、予測の課題、実現予測時期、重要度、などを記載しているが、調査項目は、調査回によって若干異なっている。そこで全ての項目についての記載はその回だけの表(各回の調査結果の検索・表示)として出力している。一方、どの回にも共通に記載されている項目については全ての年を通じて閲覧できる形式を採った(全調査結果からの一括検索・表示)。デルファイ調査検索では、実施した全ての調査結果をキーワード等によって検索できる(図表4)。また、各課題の近さについて、類似性の高い課題を集めて表示できる機能も備えている。

図表4 デルファイ調査検索の表示例図表4 デルファイ調査検索の表示例

4. NISTEP定点調査検索

「科学技術の状況に係る総合意識調査(以下、NISTEP定点調査)」は、第3期科学技術基本計画の開始時(2006年度)以降実施しており、基礎研究の多様性など通常の研究開発統計からは把握しにくい、日本の科学技術やイノベーションの状況について、産学官の研究者や有識者への意識調査から明らかにすることを目的としている。NISTEP定点調査の結果は、審議会資料等にも度々引用され、広く認知されているものである。「NISTEP定点調査検索」は、第4期科学技術基本計画中の5年間に実施した調査の結果を表示検索できる機能を持つものとして、SciREXのデータ・情報基盤構築の一環として作成し、Web上で公開している1)

研究者や研究環境などの状況について、有識者や研究者からの回答の機関属性別(図表5)、個人属性別の集計、あるいは時系列の表示ができる。また、自由記述のキーワード検索もできる。自由記述は文字数で250万字(文庫分約25冊分)を超える研究者や有識者の生の声である。なお、第5期科学技術基本計画中のNISTEP定点調査の自由記述についても、エクセル形式で公開している。

図表5 NISTEP定点調査検索の表示例図表5 NISTEP定点調査検索の表示例

5. データ・情報基盤リンク集

政策研究を進めていくときに、既存のデータとしてどのようなものが、どこにあるのかを知ることはかなり困難である。そこで、日本も含めた主要な国・地域の科学技術に関するデータ・情報基盤として、どの国・地域のどの機関から、どのような名前のデータベースとして、どのサイトからどのような経路を経て入手できるかを調査し、リンク集として提供している1)(図表6)。

このリンク集に収録した件数は、110件である。地域別で示すと、日本42件、海外68件で、海外の内訳は、世界12件、欧州6件、英国7件、オランダ3件、ドイツ11件、フランス5件、米国22件、中国2件である。同じデータをカテゴリー別でも調べることができる。カテゴリーとしては、インプット(人材、研究資金)、アウトプット(科学知識、知的財産)、アウトカム(イノベーション、企業・産業)を設定している。

図表6 データ・情報基盤リンク集の表示例図表6 データ・情報基盤リンク集の表示例

6. 政策研究のためのデータ・情報基盤の今後の方向性について

6-1 内閣府の行政事業レビューシートに基づく科学技術予算の公開について

「政策立案の過程で必要となる信頼性のあるエビデンス」は2018年6月15日に閣議決定された「統合イノベーション戦略」の中で、知の源泉という重要なものに位置づけられており、内閣府では「エビデンスシステム」の構築が進められ、「科学技術関係予算の集計に向けた行政事業レビューシートの分類について」が2018年5月に公開されている2)。ここには、科学技術関係予算として集計された年間1100件以上に及ぶ予算を含めた事業レベルのデータが初めて提供されている。これは、政府の科学技術関係の政策研究を進める上で極めて貴重な情報である。公開が継続され、政策研究に有効に活用されることが望まれる。NISTEPとしても政策研究の観点から本データを活用したデータ整備を実施していきたい。

6-2 NISTEPでデータ・情報基盤を構築、公開する意義について

NISTEPでは、政策の研究・分析のためのデータ・情報基盤の構築を目指している。前回までに紹介したように、名寄せに必要な辞書を、共通基盤として整理、公開してきた。また、NISTEPオリジナルのデータとして、デルファイ調査、定点調査、の調査データを継続的に収集・蓄積してきた。さらに、文部科学省の科学技術白書を利用しやすいような形に整理し、世界中の関連するサイトを調査したリンク集を作成し、公開してきた。これらは、継続的に実施することに意義があり、NISTEPはその重要性を踏まえて改良しつつ、今後とも継続していきたいと考えている。

参考文献

1) SciREX関連公開データ
http://www.nistep.go.jp/research/scisip/data-and-information-infrastructure

2) 科学技術関係予算の集計に向けた行政事業レビューシートの分類について
https://www8.cao.go.jp/cstp/budget/2018shukei.html