STI Hz Vol.3, No.2, Part.11:論文データベース分析から見た大学内部組織レベルの研究活動の構造把握STI Horizon

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  • DOI: http://doi.org/10.15108/stih.00085
  • 公開日: 2017.06.25
  • 著者: 村上 昭義
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.3, No.2
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

レポート
論文データベース分析から見た大学内部組織レベルの研究活動の構造把握

科学技術・学術基盤調査研究室 研究員 村上 昭義

概 要

 当研究所では、自然科学系の論文データベースを用いて、学部・研究科、附置研究所といった大学内部組織レベルの研究活動について分析を行っている。

 本レポートでは、「論文データベース分析から見た大学内部組織レベルの研究活動の構造把握」として2017年3月に公表した報告書の概要を紹介する。報告書では、大学における論文産出構造の詳細を明らかにするために、31大学の約900の大学内部組織について研究活動の可視化を行うとともに、工学部・工学研究科といった大学内部組織分類ごとに論文数を集計し、分類ごとの研究活動の特徴を明らかにした。加えて、各大学内部組織が個性を持って研究活動を行っていることを明らかにした。

キーワード:大学内部組織,論文分析,大学改革,研究拠点

1. はじめに

第5期科学技術基本計画1)においては、「科学技術イノベーションを推進する上で、その中核的な実行主体である国立大学の組織を抜本的に改革し、機能の強化を図ることが喫緊の課題」とあり、大学改革の重要性に言及している。他方で、我が国の財政状況の影響を受け、国立大学の運営費交付金が長期的に減少する中で、各大学は、自大学の強みや特色の把握、それに基づく自己改革を進めつつある。このような大学改革を取り巻く状況において、日本の大学システムを全体的に俯瞰するとともに、個別大学の状況についてより詳細に多様な視点で分析を行うことが、今後の政策立案や各大学の研究マネジメント等を行う上で重要と言える。

これまで、当研究所では、大学機関レベルの論文データベース分析を行うことで、各大学の“個性(強み)”を把握してきた2)。2017年3月には、大学における論文産出構造をより詳細に明らかにするために、学部・研究科、附置研究所といった大学内部組織レベルでの研究活動について分析を行い、「論文データベース分析から見た大学内部組織レベルの研究活動の構造把握」として報告書3)を公表した。

この報告書では、次の3つの観点から分析を行った。まず、論文データベース分析を通じて大学内部組織レベルでの研究活動の可視化を行った。次に、大学の規模によって、大学内部組織の構成や、それに伴う研究活動の状況が異なると予想されることから、論文数シェアで見た大学規模別の集計を行い、大学内部組織分類ごとの特徴を明らかにした。最後に、「理学の学部・研究科」のように同じ大学内部組織分類に属する個別の大学内部組織が、どのような論文分野バランスを持つのかという視点で分析を行い、大学内部組織レベルでの個性を把握した。

本レポートでは、この報告書の概要を紹介する。

2. 調査手法の概要

本調査研究で用いた論文データベースは、トムソン・ロイター社(現:クラリベイト・アナリティクス社)のWeb of Science XML(SCIE:2014年末バージョン)を基に、当研究所が、独自にデータクリーニングを行い、構築したものである。SCIEは、自然科学系の論文データベースであるため、人文社会学系の分野は分析対象外である。分析対象の文献の種類は「Article」と「Review」である。「Proceedings paper」を分析対象としていないため、情報技術等の「Proceedings paper」も重視する分野の分析結果の解釈には注意が必要である。論文のカウント方法は、分数カウント法を用いた。

分析対象はNISTEP大学・公的機関名辞書(Ver.2015.1)4)において大学内部組織情報の整備を進めてきた31大学を設定した。また、大学の規模別の比較を行うため、これらの31大学を論文数シェアによって3つのグループに分類した。これまでの当研究所における調査との整合性を保つため、グループ分類は先行研究5)(2005年~2007年の論文数シェア、2007年時点に集計)に準じている。グループごとの大学数は、第1グループ(大阪大学・京都大学・東京大学・東北大学の4大学)、第2グループ(岡山大学・金沢大学・九州大学・慶應義塾大学、等の13大学)、第3グループ(岐阜大学・近畿大学・熊本大学・群馬大学、等の14大学)である。第3グループに分類される大学は、日本全体で27大学存在するが、分析対象の大学は14大学であり、全ての大学ではない。

また、学部・研究科に対応する大学内部組織は、当研究所の「大学等における科学技術・学術活動実態調査報告(大学実態調査)6)」の分類を参照し、「理学の学部・研究科」、「工学の学部・研究科」、「農学の学部・研究科」、「保健の学部・研究科」、「その他の学部・研究科」に分類した。学部・研究科以外の大学内部組織は、(A)共同利用・共同研究拠点、(B)世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)、(C)研究所等(附置研究所等)の3つのうちいずれかに該当するものは「研究拠点」に分類し、それ以外の学内組織は全て「その他の組織」に分類した。

各大学の大学内部組織は、論文の著者所属に記載されている情報を基に、NISTEP大学・公的機関名辞書(Ver.2015.1)4)及びNISTEP論文機関名同定プログラム(Web of Scienceバージョン)を用いて同定している。各大学の大学内部組織は、組織の改編、改組等が絶えず起きている。現時点(2017年3月)で存在しない大学内部組織も、分析対象期間(2009年~2013年の5年間)の論文の著者所属に出現し、分析に含まれている可能性があることに注意が必要である。

大学内部組織の決定率を上げるため、報告者独自による大学内部組織の表記ゆれの検証及び名寄せを行うとともに、NISTEP大学・公的機関名辞書は収録対象としていない大学内部組織についても、Web等の情報を用いて同定を行った。しかしながら、論文の著者所属に大学名のみが記載されているレコードや大学内部組織名が判別できないレコードが一定数存在している。これらのレコードは大学内部組織名が未決定であるとした。大学内部組織が未決定の論文割合は、分析対象の31大学全体の総論文(分数カウント法)の約4%であり、本調査研究の分析対象外とした。

3. 大学内部組織の可視化

大学内部組織単位で論文データベース分析を行うことで、各大学の大学内部組織の研究活動が、どの論文分野において実施されているかが把握できるようになった。代表的な分析例として、図表1に東京大学の大学内部組織と論文分野(研究ポートフォリオ8分野)との対応関係を示す。図表1の左側では、東京大学の大学内部組織ごとの論文数シェアを表し、右側では東京大学の論文分野ごとの論文数シェアを表す。帯の流れは、両者の対応関係を示しており、東京大学の場合、それぞれの大学内部組織が多様な論文分野の論文を産出している複雑に入り組んだ構造を形成していることが分かる。

大学内部組織の状況を俯瞰するために、分析対象の31大学全ての大学内部組織(当該期間に論文の著者所属に出現した893の大学内部組織)について、総論文における分野シェアに基づく論文分野マッピングを行った(図表2(A))。1つの円は、1つの大学内部組織に対応し、その論文規模(論文数)を円の面積で表す。各々の位置は、各大学内部組織の論文分野バランスから決定している。1分野に特化して論文が出されている場合はその分野の周辺に、AとBという2分野から論文が出されている場合は、AとBの間に各円は配置される。各円から伸びる線は各大学内部組織において0%より大きい割合を持つ論文分野を示す。円のそれぞれの色は、大学内部組織分類ごとに塗り分け、代表的な4つの大学内部組織分類の主要な位置を点線で囲んでいる。「理学の学部・研究科」(紫)と「工学の学部・研究科」(赤)は、比較的近い位置に分布し、やや広がりを持っている。他方、「農学の学部・研究科」(黄)や「保健の学部・研究科」(青)は、「理学の学部・研究科」と「工学の学部・研究科」に比べて、分布の広がりが小さい傾向が見られ特定の位置に集中している。「研究拠点」(緑)は、マップ上において全体的に散らばって分布している。

図表1 分析例:東京大学の大学内部組織と論文分野との対応関係

注1:Web of Science XML(SCIE, 2014年末抽出データ)を基に科学技術・学術政策研究所が集計。文献の種類はArticle、Reviewを用いた。論文のカウント方法は分数カウント法である。出版年2009年~2013年の5年合計値である。
注2:論文分野とは、ジャーナル単位で論文に付与された分野のことであり、ここでは研究ポートフォリオ8分野で示す。
注3:大学内の論文数シェアが1.6%以下の大学内部組織は、図表中の「その他の学部・研究科」、「その他」にまとめている。

次に、全論文に占めるTop10%補正論文割合(Q値)(図表2(B))、国際共著論文割合(図表2(C))、産学連携論文割合(図表2(D))の状況をそれぞれ示す。これらでは、図表2(A)のマッピングの配置を変えずに、それぞれの割合の高低を赤色の濃淡で表示した。図表2(A)の大学内部組織分類の色分けとの対比から、全体として「研究拠点」と「理学の学部・研究科」で、Q値と国際共著論文割合が高い傾向にあることが示唆される。また、産学連携論文割合では、「工学の学部・研究科」の割合が高い傾向にある。

図表2 31大学全ての大学内部組織の論文分野マッピング(A)とTop10%補正論文割合(B)、国際共著論文割合(C)、産学連携論文割合(D)の状況

注1:Web of Science XML(SCIE, 2014年末抽出データ)を基に科学技術・学術政策研究所が集計。文献の種類はArticle、Reviewを用いた。論文のカウント方法は分数カウント法である。出版年2009年~2013年の5年合計値である。
注2:この論文分野マッピングにおいて「材料科学」、「化学」等の円周状に配置している論文分野の順番は、関連する分野を隣り合うように配置し、大学内部組織分類の特徴が最も分かりやすい順に並べている。
注3:複数の論文分野に割合を持つ大学内部組織は、各論文分野の中間的な場所に位置している場合がある。


4. 大学内部組織分類を用いた論文産出構造の把握

論文数シェアに基づく大学グループ別の集計を行い、論文産出構造の把握を試みた。図表3 に大学グループ別の総論文に占める各大学内部組織分類の論文数シェアを示す。

第1グループでは、総論文に占める「工学の学部・研究科」と「研究拠点」の量的貢献度が大きい。第2グループでは、「保健の学部・研究科」と「工学の学部・研究科」の量的貢献度が大きく、「研究拠点」の割合が第1グループに比べて小さい。第3グループでは、「保健の学部・研究科」の量的貢献度が最も大きく、これに「工学の学部・研究科」が続く。しかし、「研究拠点」と「理学の学部・研究科」の量的貢献度は、第1グループ、第2グループに比べて小さい。このように、論文産出への量的貢献度が大きい大学内部組織分類は、大学グループによって異なることが確認された。

図表3 大学グループ別の大学内部組織分類の論文数シェア

注1:Web of Science XML(SCIE, 2014年末抽出データ)を基に科学技術・学術政策研究所が集計。文献の種類はArticle、Reviewを用いた。論文のカウント方法は分数カウント法である。出版年2009年~2013年の5年合計値である。大学内部組織が未決定の論文を除いた分析である。第1G(4)、第2G(13)、第3G(14)の括弧内の数字は、大学数を表す。四捨五入の割合で25%以上のものを赤い枠線で示した。


次に、研究活動の観点として、Top10%補正論文、国際共著論文、産学連携論文の3つの論文の種類に着目し、それぞれの全論文に占める割合を大学グループ別、大学内部組織分類ごとに算出した(図表4)。

注目度の高い論文(Top10%補正論文)の全論文に占める割合(Q値)を見ると、「研究拠点」を除いた大学内部組織分類において、第1グループ>第2グループ>第3グループの順でQ値が高い傾向にある。したがって、第1グループにおいて注目度の高い研究活動が実施されている状況が分かる。また、第2グループでは「研究拠点」のQ値が最も高い。

国際連携の下で研究活動が行われているかという観点で国際共著論文割合に注目すると、第1グループでは、「研究拠点」、「理学の学部・研究科」の順で国際共著論文割合が高い傾向にある。第2グループと第3グループでは、「研究拠点」、「農学の学部・研究科」、「理学の学部・研究科」の順で国際共著論文割合が高い傾向にある。

民間企業との連携による研究活動が行われているかという観点で産学連携論文割合を見ると、第1グループと第2グループでは、「工学の学部・研究科」の産学連携論文割合が高い傾向にある。第3グループでは、「農学の学部・研究科」の産学連携論文割合が最も高く、これに「工学の学部・研究科」が続く。

図表4 大学内部組織分類別の研究活動の状況

注1:Web of Science XML(SCIE, 2014年末抽出データ)を基に科学技術・学術政策研究所が集計。文献の種類はArticle、Reviewを用いた。論文のカウント方法は分数カウント法である。出版年2009年~2013年の5年合計値である。大学内部組織が未決定の論文を除いた分析である。第1G(4)、第2G(13)、第3G(14)の括弧内の数字は、大学数を表す。


5. 大学内部組織分類ごとの論文分野の特徴分析

「理学の学部・研究科」、「工学の学部・研究科」、「研究拠点」において、それぞれの主要な7分野と、それら以外の15分野を「その他」にまとめ、分析対象の31大学全体の論文分野バランス(平均値)を求めた(図表5)。主要な論文分野は、「理学の学部・研究科」では、物理学(26.4%)、化学(23.5%)、数学(11.9%)であり、「工学の学部・研究科」では、化学(28.9%)、物理学(22.2%)、工学(16.0%)、材料科学(12.8%)であった。「理学の学部・研究科」と「工学の学部・研究科」の論文分野バランスが比較的類似している。これは、図表2(A)の特徴にも見られた傾向である。「研究拠点」の主要な論文分野は、物理学(24.7%)、化学(17.0%)、材料科学(11.2%)であり、多様な論文分野バランスを持つ大学内部組織が多く、「その他(23.2%)」も大きい割合を占める。図表6には、「研究拠点」における平均と比べて特定の論文分野に重みを持つ大学内部組織を示した。これらの大学内部組織では、いずれも特定の論文分野に特化して研究活動が行われていることが分かる。

図表5 大学内部組織分類別の論文分野バランス(31大学全体の平均値)

注1:Web of Science XML(SCIE, 2014年末抽出データ)を基に科学技術・学術政策研究所が集計。文献の種類はArticle、Reviewを用いた。論文のカウント方法は分数カウント法である。出版年2009年~2013年の5年合計値である。
注2:それぞれの大学内部組織ごとに、22分野を論文数シェアの大きい主要な7分野と、それら以外の15分野を「その他」にまとめて表示している。


図表6 「研究拠点」の平均と比べて特定の論文分野に重みを持つ大学内部組織

注1:Web of Science XML(SCIE, 2014年末抽出データ)を基に科学技術・学術政策研究所が集計。文献の種類はArticle、Reviewを用いた。論文のカウント方法は分数カウント法である。出版年2009年~2013年の5年合計値である。
注2:図表中の数値は、各大学内部組織の分野割合に対して平均割合を引いた値である。すなわち31大学全体平均割合は、レーダーチャート上で0.0%(黒色点線)に相当する。各論文分野内において全体平均との差が最も大きい特徴的な6つの大学内部組織を示す。
注3:番号は、調査資料-258の本文中の図表に対応している。これら以外の大学内部組織の状況は、報告書の参考資料を参考にされたい。

6. まとめと示唆

論文データベース分析を通じて観察される研究活動の特徴は、大学内部組織分類によって異なることが本調査研究から確認された。研究活動の質的な状況の全般的な傾向を見ると、注目度の高い論文や国際共著論文は「研究拠点」や「理学の学部・研究科」から産出される割合が高い傾向が見られる。他方で、産学連携に注目すると、「工学の学部・研究科」において産学連携論文の割合が高い傾向にある。

次に、各大学グループの特徴に注目すると、第2グループの「研究拠点」は第1グループと同程度のQ値を持つ。第2グループの「農学の学部・研究科」は国際共著論文割合が高い傾向にあり、第3グループの「農学の学部・研究科」は産学連携論文割合が高い。

また、本調査研究から、各大学内部組織が個性を持つことが示された。大学の個性化を図るには、この大学内部組織レベルの個性をどのように引き上げていくか、個々の大学内部組織が持つ個性をいかに大学の個性につなげていくかが重要と考えられる。国レベルの研究の多様性は、各個性の重なりとして実現される。これら大学や国レベルでの研究多様性を確保する際には、本調査研究で明らかになったように大学内部組織の分類によって、研究活動の質的な違いがあることを考慮し、それぞれの特徴を踏まえた研究マネジメントが必要であると言える。なお、本レポートの詳細データについては、報告書(http://hdl.handle.net/11035/3159)3)を御覧いただきたい。


参考文献

1) 第5期科学技術基本計画:https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html

2) 文部科学省科学技術・学術政策研究所 調査資料-243「研究論文に着目した日本の大学ベンチマーキング2015-大学の個性を活かし、国全体としての水準を向上させるために-」:http://hdl.handle.net/11035/3116

3) 文部科学省科学技術・学術政策研究所 調査資料-258「論文データベース分析から見た大学内部組織レベルの研究活動の構造把握」:http://hdl.handle.net/11035/3159

4) 文部科学省科学技術・学術政策研究所「NISTEP大学・公的機関名辞書(Ver.2015.1)」:
http://www.nistep.go.jp/research/scisip/data-and-information-infrastructure

5) 文部科学省科学技術政策研究所 NISTEP REPORT No.122「日本の大学に関するシステム分析-日英の大学の研究活動の定量的比較分析と研究環境(特に、研究時間、研究支援)の分析-」:http://hdl.handle.net/11035/689

6) 文部科学省科学技術政策研究所 調査資料-130,149,167,181,193「大学等における科学技術・学術活動実態調査報告(大学実態調査)」(2006~2010年度の5年間にわたる調査)