STI Hz Vol.2, No.1, Part.12:(社会実装の新潮流)群馬県桐生市 ― 地域力による脱温暖化の取組と今後の展開STI Horizon

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  • DOI: http://dx.doi.org/10.15108/stih.00020
  • 公開日: 2016.03.25
  • 著者: 斎藤 尚樹,浦島 邦子,梅沢 加寿夫,村田 純一
  • 雑誌情報: STI Horizon, Vol.02, No.01
  • 発行者: 文部科学省科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)


科学技術の社会実装・社会イノベーション展開の新潮流

群馬県桐生市 ― 地域力による脱温暖化の取組と今後の展開

群馬大学 宝田 恭之 教授、小島 由美 技術補佐員
桐生市 亀山 豊文 市長、鳥井 英雄 副市長
聞き手:総務研究官 斎藤 尚樹
科学技術動向研究センター上席研究官 浦島 邦子、特別研究員 梅沢 加寿夫、村田 純一

JST社会技術研究開発センター(RISTEX)が平成20~25年度にわたって実施した「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」1、2)研究開発領域・プログラムは、脱温暖化・環境共生に関わる研究開発を推進するために、地域社会を分野横断的・総合的な視点から持続性のある複合システムに発展させることを目標としたもので、地域住民やステークホルダーが地域の未来を共有する多様な「場」の形成の重要性を考慮し、持続的・自律的な地域社会の主体となる産官学市民や人文社会科学研究者と自然科学系研究者の連携を通じて人材育成にも貢献するものであった。

群馬県桐生市を舞台に展開された研究開発プロジェクト「地域力による脱温暖化と未来の街-桐生の構築」3)(以下、「本プロジェクト」)は、このRISTEXの研究開発プログラムで採択・実施された。活動の中心は「低速電動バス(MAYU)の開発と地域での運行試験及びそれに伴う新産業の創出」や「『未来創生塾』などの市民を対象にした人材育成の場の継続的な運営」である。本プロジェクトは一定の成功をおさめ、現在はその成果を踏まえた統合実装プロジェクトが平成28年度末までの予定で継続されている4)

今回、本プロジェクトの研究代表者である群馬大学の宝田教授と、プロジェクト当初から自らを準プロジェクト員とし、現在も対象地域の行政の長であり続けている亀山桐生市市長に、プロジェクト発案の経緯や地域のコミュニティとの関わり方、プロジェクトを進める上で苦労された点などについてお話を伺った。

なお、当研究所が実施した第10回科学技術予測調査では、地球温暖化に関するシナリオの一部として、「持続可能な未来構築に貢献するエネルギー・環境・資源」5)(エネルギー・環境・資源のテーマ)及び「地域資源を活用した食料生産と生態系サービスの維持」6)(地域資源、農と食のテーマ)について検討した。この内容からみた考察も加える。

宝田教授へのインタビュー

二酸化炭素排出量の把握を通じた学生の変化

脱炭素社会を考えるようになったきっかけは、1990年頃、群馬大学の担当するゼミで学生にエネルギーの利用について考えさせようとしたことでした。本プロジェクトが始まるずっと前です。ゼミの8人の学生それぞれにまず自分が3か月間どのくらい二酸化炭素を排出しているのか調べさせたのです。当時、日本の二酸化炭素(民生)の排出量は一人平均120モル/日ですが、2人の男子学生は270~280モル/日も出していました。一方で47モル/日しか出していない学生が一人いて、残りの学生は100モル/日前後で平均的でした。しかし、270~280モル/日はアメリカ、カナダの平均排出量に相当する量です。環境を学びたいと言ってきているのにエネルギーをそんなにたくさん使っているのはおかしいと、学生たちにはその後の3か月で、全員少なくとも平均以下に、可能なところまで削減するように言ったのです。3か月後、270~280モル/日だった学生たち は車に乗るのを止め、健全な生活をしただけだったのですが、平均以下になりました。47モル/日だった学生は、気の毒だったのですが、皆で 取り組むのでということで一緒にやってもらい、38モル/日まで減らしました。アパートには七つの電球があるので、いる場所だけ付けてほかは消す。その結果、削減はできましたが、もう二度としたくないとの感想でした。つまり、省エネは嫌なことでは続かないということです。楽しくエネルギーを削減することが重要です。

エネルギー消費を減らす工夫が数十あった中で、もっとも良いと思ったのは、一人で部屋にいないで友達と行動を共にすることでした。一緒にやって楽しかった、友達が増えて良かったということでした。つまり良好なコミュニケーションがとても大切であることを実感したことになります。

8人の学生との調査で見えてきたことの一つに、現在は過度の分散化社会になっていることがありました。特に心配なのは、コミュニケーションがバーチャルになってきたこと。これでは社会に出たらうまくいかない。科学技術の進歩で先進国が失ったものとも言えるでしょう。今は、子供の頃から家族と一緒にいなくて済み、大学で友達付き合いをしなくても卒業していく。それで就職すると、社会人としては役に立たないと企業から文句を言われる状況です。



宝田 恭之 群馬大学 教授

脱温暖化を通じた担い手づくり

平成20年度のRISTEXの公募を見つけたのは、そんなことがあった後、二酸化炭素の排出削減にどう取り組んだらよいのか、少し範囲を広げて研究したいと思っていた矢先でした。ちょうど群馬大学工学部の学部長をやっていた頃で、領域総括の堀尾先生に説明会で話をしてもらいました。前の副市長の八木さんに話をしたら説明会にも来てくださって、面白いということで話が進みました。

本プロジェクトを始めるとき、桐生として何ができるかとか、社会への貢献等を考えました。それで、究極的には、脱温暖化だけではなく、教育を通じて、人と人のつながりを大事にし、価値観の変化に機敏に対応したりできる人材を育てること、「本物の贅沢」と「バーチャルではなくリアルな感覚」を知ってもらうことも非常に大事だと思いました。

工学部が志向する「ものづくり」にしても、使うことを考えるとリアルな感覚は必要です。商品を手にして本物の贅沢を知ることが大切だということです。20世紀型の産業には行き過ぎの面があると思います。例えば車でいうと、GDPを伸ばすために、一人に一台車を売る。その結果、地方では既に一人に一台の車の所有が当たり前になって、ガソリン消費とともに二酸化炭素の排出量が増えたわけです。同時に人と人とのつながりも希薄になってきました。企業には、新製品を短いサイクルで出すより、製品寿命を長くすることを望みます。例えば車の寿命を10年から20年にする。そして、価格を2倍にする。2倍の価格でも購入するような付加価値を付けるべきです。その場合、使い続けるために、機能や能率以外の飽きの来ない付加価値、例えば芸術性や歴史、文化の重みを含むようなものが必要ですし、これこそ一生ものだということが必要になるのではないでしょうか。そこで重要なのが感性です。

コミュニティの形成

桐生市では平成19年に「工学クラブ」を作りました。以前から、工学部を受験する学生が工学を知らないで入学してくるのを危惧していたからです。小学校の理科は、主として教育学部出身の先生が多いから理学的な視点になっていた。中学、高校にも工学を知る先生がほとんどいなかった。ものづくりは工学なのに、知らないで受験するのはおかしいと思いませんか。ちょうどそのときの県の教育長が群馬大工学部の卒業生だったので話をして、群馬県内の小中学校が全部、工学クラブに入りました。16万人ですよ。このクラブの原型はヨーロッパのサッカークラブで、そこでは、小学生くらいの子供からワールドカップの選手までが一つの組織でつながっています。工学においてもそうした情報の提供が必要だと思いました。高校が工学クラブに入るようになったのは、始めて4年目、つまり1期生の子供たちが高校生になった後です。

桐生市には以前から「まちの中に大学があり、大学の中にまちがある推進協議会」7)の取組があって、大学と市が共同で街を元気にしようということで、前市長と、北関東産官学研究会の根津理事長(元群馬大工学部長)が先頭に立って設立しました。そして、桐生市の商工会議所が取り組んできた「ファッションタウン桐生推進協議会」や工学クラブの各組織を協働させる体制が作られました。幾つか別々にやっていた活動が一つにまとまったことで、協力が格段に取り付けやすくなりました。

スローモビリティ

桐生には市民が一丸となって一緒に取り組む土壌があると思います。産官学民、街丸ごと一体化を目指しました。ソーシャルキャピタルの強化と言うこともできると思います。この体制を生かして開発に臨んだのが、スローモビリティのMAYU(8輪の電気バス)です(写真1)。


写真1 低速電動バスMAYU

出典:(株)桐生再生ホームページ8)

MAYUは、市内と近郊の27社で共同開発しました3)。ちなみに名前は市内の小学生に公募して付けたもので、桐生の伝統産業である織物のもととなる「繭」から来ています。

MAYUはゆっくり走ることで街並みがよく見え、バス内外コミュニケーションが取れます。大阪大学の土井先生には、スローモビリティは輸送手段でない、街の良さが理解できる「感性装置」だと言われました。最高時速19km/時ですから、重要伝統的建造物群保存地区もゆっくり見られます。

未来創生塾

平成24年に開設した未来創生塾9)では、「感性を育み、楽しい未来社会を担う人材育成」を目的に歴史、文化、産業、工学、海外・国際関係、社会貢献、芸術といったテーマに沿って、1学年で18~20回の活動を行っています。主に小学生を対象とした4学年制のコースで、土日や夏季休暇に実施しています。郷土に誇りと愛着を持ち、人と人のつながりを積極的に築けるようになるというのが目標です。この年頃の子供たちを対象にしたのは、この目標達成に一番効果的で、親御さんが積極的に関われるというのも重要と考えたからです。未来創生塾には必ず親子そろって参加していただいています。

「未来を担う子供たちに、人と人がつながる力を育て、桐生の良さをよく知ってもらう。」という趣旨に賛同した一流の学者や文化人が、ボランティアの講師陣として集まってくれました。一流の人を育てるには一流の講師が必要です。

文化編ではまず桐生伝統の織物を教えています。ただ、織り機をみんなに貸すわけにはいかないので、原理を講義して、カード織りというのを二人一組、親子でやってもらっています。20~30枚の段ボールを重ねて、角に糸を通す。それが経糸(たていと)になる。経糸を持って交差させ、横糸を挟まなくては織れません。印象的だったのは、確か小学4年生だった男の子で、お母さんが買物に行っている間に自分で織り機を作ってしまったことでした(写真2)。小さなきっかけで興味を持って、実際に作ってしまう才能があることに感激しました。


写真2 カード織りを1 人でできるようにしたところ

提供:未来創生塾

実際の織り機を見せてもらうなど、企業見学も行っています。地元企業で先端的なことをやっているところがいろいろあります。学生が卒業後、大企業を目指すのだけが良いとは限らず、1人当たりの生産性を見れば決して引けをとらないところもあります。みんな知らないだけなのですが、子供たちに対する親御さんの影響は大きいので、まずは親御さんに知ってもらうことが大事です。

桐生の豊かな自然を生かすことも実践しています。清流読書です。夏の暑い日、清流の冷たい水に足をつかりながら読書に浸るのです。桐生の夏は暑いですが、汗は出ないし、景色は良いし、自分の世界に浸れる。何にも煩わされないので心地よい。実際に経験していただきたいものです。ものすごい贅沢感ですよ。

未来創生塾では市場の流通の勉強もしています。旧市街と西の新里・黒保根地区とともに地産地消を理解して地域全体を発展させることは重要です。それに、西部地区の野菜にはユニークなものがあります。農家に行ってその時期に栽培しているものを聞きます。朝取りの新鮮な野菜を届けるため、農家は早起きして、キュウリは夜中の2時から収穫しています。子供たちがそれを仕入れて販売し、旬の作物を取りたてのおいしい時期に頂く、これも本当の贅沢です。MAYUを使って引き売りにしたら、人が集まって、あっという間になくなってしまいました。

課題と今後

良いことばかり話しましたが、課題ももちろんあります。その一つは、公平性をどう保つかです。MAYUは街ぐるみで開発しましたが、現時点では企業がそれぞれの事業として引き取る形になっています。国や市の立場で考えると、今後も同じように優先的に投資することは考えられません。

それに、現在、MAYUの乗車賃は無料で利用しやすいと思いますが、定期運行は土日と祝日のみで一日6便だけです。現在は桐生市からの委託事業として運用されているので、市の方で運用の仕方もいろいろと検討いただいています。

国の資金を使う上でも課題がありました。本プロジェクトとは別の補助金獲得を市で進めていただいたのですが、研究が終わると成果も返せと言われて、応用・実用に移せませんでした。行政側での連携強化、縦割りの克服が課題の一つではないかと感じました。

組織の運営の仕方も大きな問題です。参加者が100人を超えると経費や運営が大変になりますし、例えば、もし未来創生塾でいじめなどの問題が起きたら、今のままでは先に進めなくなります。NPOにするという方法も考えていますが、これまでは産官学民の連携というユニークな取組がコミュニティを強くしてきたわけですし、まだまだ議論が必要です。

桐生同様の事業は、工夫次第で他の自治体でも展開できると思います。ただ、その地域に合ったやり方があると思うので、桐生のケースがそのままの形では当てはまらないでしょうが、基本的な方法論は一緒です。自分たちの地域の歴史や文化的背景を見直して強みを探すことが、まずは重要だと思います。

亀山桐生市長へのインタビュー

群馬大学工学部との関わり

桐生市は以前から群馬大学の工学部と密接な関係がありました。市としては地域の「知の宝庫」として位置付けています。今は理工学部に変わりましたが、理工学部が街の中心にあることで、大学の先生方、大学生と市民との交流が図れていることも魅力と思っています。

大学を拠点として活動する未来創生塾は、市民の支持で継続していて、子供たちのレベルアップにもなっていると感じています。

群馬大学の理工学部に入学する学生の半分が地元出身で、就職で地元に残るのは1割程度と聞いていますが、宝田教授がいつもおっしゃっているように、就職も地元企業をもっとよく知れば大都市に行かなくてもよいというふうに、今後は社会の価値観も変わっていくことを期待しています。



亀山 豊文 桐生市長

桐生市の街づくり

桐生市は市民力・地域力が高く、活発な団体が多いのが特徴です。そのため、むしろ市の方が市民団体に引っ張られてきました。また、大学の歴史を見ると、市民自ら大学を作ったという誇りがあるので、市としても大学とは積極的に連携しています。

少子高齢化は、人口構成の相対的な課題で、街の規模に合った人口構成が必要と言えるでしょう。桐生市の人口は2030年頃に8万人、2040年頃6万人を切る予測となっていて危機感はありますが、新しいものと古いものが混在し、融合する街にして、若い人にとっても魅力的な街づくりを進めることで、過去の街並みも生かされると考えています。

ある雑誌の格付を見ると、桐生市は住みにくい街の上位で、「田舎暮らし」の点数が高くなっています。1人当たりの大規模施設の数を競えばそういう結果になってしまいますが、桐生には、自然の中で遊ぶ場所が、我々の子供時代と同じくらい残されています。都会的な街並みに変えたり、大規模商業施設に頼ったりすると、街としての本来の魅力がなくなってしまうのではないでしょうか。だから桐生市を都会のようにしようとは思いません。

最近気付いたのですが、旧桐生市街には回転すし屋がありません。旬の作物をおいしく食べる食文化が残っています。パチンコ店は大手3社が出店していますが、風俗営業は規制条例を制定する必要性がないくらい自主的にルールが守られています。つまり市民が街と人づくりに関して、意識が高いことの表れかと思います。

低速電動バスMAYUの運用

本プロジェクトは平成25年度まででしたが、市民とのネットワークができて、MAYUの運用も民間に受け継がれて継続しています。

健康長寿の観点では、MAYUを高齢者のモビリティとして使ったところ、年配者の外出が増えて、元気になったという話が聞かれました。また、MAYUで子供たちが高齢者施設を訪問する取組では、子供たちは出掛けられるので喜ぶし、年寄りは子供たちが好きなので、両者にとってとても良い状況が作り出せました。

ゆっくり環境に優しく走ることの「強み」を生かして、谷川岳、尾瀬、上高地などの観光地で走らせることも検討しました。実際、富山県黒部市の宇奈月温泉では「EMU」の愛称で走行中です。

桐生の旧市街地には歴史的な商店も残っています。これは大型商業施設に負けない魅力と自負しています。MAYUで市の西部、新里・黒保根地区の地の野菜を販売したら、大きな反響がありましたので、地産地消の街づくりにも貢献できると考えています。

こうした取組は、市民の参画による脱温暖化の街として国や県の行政の見方も変わってきたと思います。

一方、課題もあります。MAYUでの高齢者の送迎を継続したいと思っていますが、民間のバス、タクシーと競合すると都合が悪い。そこで入り組んだ路地で使うなど、役割の分担を考えています。そのような需要、料金をどうすべきかなどを調査しているところです。予約制の乗り合い自動車のような方法も考えています。

取材を終えて

取材の当日はあいにくの空模様で底冷えする天気であったが、お会いする方々は皆温かく迎え入れてくださった。そして、お会いする方々全てから桐生への「愛」を感じ、それが本プロジェクトの原動力であることを痛感した。これは実際に桐生を訪れてみて、初めて分かったことであった。

一方で、桐生市中心の商店街はシャッターが閉まったままの店も目に付いた。残念ながら、桐生市内の移動手段の大半は今もマイカーだそうだ。今回導入されたMAYUがそれに代わるようになれば状況も変わってくるだろうが、そう簡単ではない。

別の問題もある。今の若い世代には、個人経営の専門店は敷居が高く、中に入ったら何かを買わないといけないという先入観があって、近所にあってもなかなか入れないと聞く。そこで、地元の親子を集め、商店街を店の中まで皆で何も買わずにただ歩いて見て回ったのだそうだ。一見迷惑そうな行為だが、店の人たちからは不評どころか好評だったとのこと。

地球温暖化や少子高齢化は一朝一夕で解決できる問題ではない。今回のプロジェクトの成功も、諸問題の解決に向けた一つの布石でしかないのかもしれない。しかし、宝田教授に焦りの色は見えない。もっとずっと長い目で先を見ているのだ。地元を愛する人たちに囲まれて、そんな人たちに育てられた子供たちも地元に根付いていく。新しく築かれたその仕組みは明らかに本プロジェクトの見える成果であって、全ての根本なのである。

第10回科学技術予測調査から見た桐生市の取組

 脱炭素社会を目指す桐生市でのプロジェクトの目標と、当研究所で行った第10回科学技術予測調査の結果を図表にまとめた。今回の予測調査のうち、技術実現/社会実装予想年が2020~2030年の範囲にあり、本プロジェクトの目標である低炭素の街づくりと下支えする基盤整備に関連したトピックスの一例を挙げている。俯瞰してみると、技術実現から社会実装までの予測期間は2~5年の範囲にある。技術開発だけでは必ずしも社会実装に至るとは限らず、法制度や各種の許認可制度、税制まで含めた社会システムの整備が必要で、それ相応の時間を要することが読み取れる。


図表 「地域力による脱温暖化と未来の街 – 桐生の構築」の研究目標と関連する科学技術予測調査のトピックス

出典:参考文献3、10を基に科学技術動向研究センターにて作成

 今回のRISTEXによる研究開発プログラムは、新技術の開発より社会実装に主眼を置いたことが画期的であり、本プロジェクトは、桐生の特性をよく生かしてこの課題に取り組み、一定の成功をおさめた好事例であると言えるだろう。

環境、温暖化への取組から研究を始め、地域社会の活性化、自然と文化、農業-市場-食文化のつながりを含め郷土を見つめる教育を一貫して行えるように、産官学民が取り組む仕組みができたことが大きなポイントと考えられる。今後の展開には課題があるものの、少しずつ進めていくという意識が大切で、支援者やフォロワーが増えることが期待される。

科学技術の社会実装には市民のコンセンサスを得ることも重要で、人と人のつながりを強くする取組が欠かせない。このことは、今後、他の自治体で同様の取組を進める上でも重要な要素であることを肝に銘じておきたい。


注 群馬大学では平成25年4月に理工学部を設置し、それ以降の工学部の学生募集は停止している。

参考文献

1) 地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会:https://www.ristex.jp/result/env/

2) 「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」研究開発領域・プログラム成果報告書:
http://www.ristex.jp/env/01intro/pdf/rep01.pdf

3) 「地域力による脱温暖化と未来の街-桐生の構築」研究開発実施終了報告書:
http://www.ristex.jp/examin/env/program/pdf/H25houkoku_Takarada.pdf

4) 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)における平成26年度研究開発成果実装支援プログラム(成果統合型)の新規実装プロジェクトの決定について:http://www.jst.go.jp/pr/info/info1028/

5) 「第10回科学技術予測調査 国際的視点からのシナリオプランニング報告」より「持続可能な未来構築に貢献するエネルギー・環境・資源」:
http://hdl.handle.net/11035/3079

6) 「第10 回科学技術予測調査 国際的視点からのシナリオプランニング報告」より「地域資源を活用した食料生産と生態系サービスの維持」:
http://hdl.handle.net/11035/3079

7) 「産学官・地域連携」のモデルを目指して 鳥井英雄:
http://www.ccr.gunma-u.ac.jp/09/2010/Pdf/CenterNews2010_P023.pdf

8) 低速電動バスMAYU、(株)桐生再生:http://saisei.kiryu.jp/EVbus.html

9) 平成24年度の未来創生塾の活動:
http://takarada-lab.ees.st.gunma-u.ac.jp/website/index.php/kenkyu/“平成24年度 未来創生塾/

10) 第10 回科学技術予測調査 分野別科学技術予測:http://hdl.handle.net/11035/3080
デルファイ調査検索:http://www.nistep.go.jp/research/scisip/delphisearch