再生可能エネルギーとしての新たな時代の水力

井上 素行 白石 栄一
客員研究官 推進分野ユニット

1.はじめに

 地球温暖化対策が世界の重要なテーマとなっている。石油などの化石燃料は、エネルギー利用の際に地球温暖化の原因となるCO2が発生することや、その資源がいずれは枯渇することが危惧されている。そのため、代替エネルギーとして太陽光や風力等の再生可能エネルギーの積極的な導入が進められる中、水力発電が再び注目されている。

 我が国はアジア・モンスーン地域に位置し潤沢な降水に恵まれ、また国土の約7割が山地からなり脊梁山脈が列島を縦貫している。このため、豊かな流量を有する急勾配の河川が山間地から扇状地、沖積平野を経て海に注いでおり、水量と落差に依存する水力発電の利用に適した気象と地形条件を有している。明治31年に来日したグラハム・ベルは、「日本は川が多く、水資源に恵まれている。この豊富な水資源を利用して、電気をエネルギー源とした経済発展が可能だろう。電気で自動車を動かす、蒸気機関を電気で置き換え、生産活動を電気で行うことも可能かもしれない。日本は恵まれた環境を利用して、将来さらに大きな成長を遂げる可能性がある」1)と、気象と地形に恵まれた日本の未来を予言した。水の流れは私たちの身の回りのいたるところに存在しており、かつては数多くの水車小屋が村の動力源として利用されていた。また、1920年頃には素掘りの農業用水路で0.5〜1m程度の落差を利用して0.5kW前後の出力を得る安価でポータブルな螺旋水車が富山県の鍛冶によって考案され、これが全国に普及して農家の脱穀や籾すりの動力源として広く用いられるようになった。戦後はモータが普及し、用水路が改修されるとともに姿を消したが、創意工夫を凝らして身近な水力エネルギーを活用する一つの原点がここにみられる。このように豊かな水力エネルギーを潜在的に有している日本であるが、水力発電に利用している量はそのうちの10%強程度にとどまっている。

 我が国の水力発電は全発電電力量の10%弱を占めるにすぎないが、発電過程においてCO2を排出しないため、石油火力等に比べて年間約7,000万トンのCO2排出を抑制していることになる。この値は日本全体のCO2排出量の約6%に相当する。また、水力発電は太陽光や風力に比べて気象の変化に対して安定した発電が可能であるとともに、負荷追従性に優れているために電力系統の安定に寄与する特長もある。さらに、我が国のエネルギー自給率はわずか4%であるが、そのうち35%は水力発電であり貴重な純国産エネルギーでもある。

 2003年4月に「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(RPS法)が施行されて、1,000kW以下の水力発電所も対象となった。従来からの発電事業の所管官庁である経済産業省のみならず、環境省、国土交通省、農林水産省、厚生労働省、総務省などの各省庁が、小水力発電によるエネルギーの活用に動き始めている。これらを受けて地域の多様な関係者が事業主体となって、様々な遊休落差を利用する水力発電の取り組みが徐々に始まりつつある。

 一方、数多くの経年水力発電設備が更新の時期を迎えているが、発電機能の維持・向上とともに、設備の条件によっては環境面・安全面での改善の取り組みが必要になっている。

 さらに、海外においても再生可能エネルギーとしての水力の有効活用の取り組みが進められており、アジア諸国では地域社会や自然環境と調和した水力開発が求められている。

 本稿では、再生可能エネルギーとしての水力発電を取り巻く国内外の状況および様々な遊休落差を利用した水力発電技術の動向を概観するとともに、環境に優しい水力の更なる有効活用に向けて何が必要かについて述べる。

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2.水力発電の現状

2−1 水力発電のしくみと種類

2-1-1 絶えることのない水循環の利用

 水力発電は、地表に降った雨や雪が自然の地形の効果や様々な生産活動の場で集まって流れる水のエネルギーを電気エネルギーとして取り出すものである。このため、資源そのものを消費することはなく、自然が織りなす永続的な水循環(図表1)を利用している。

 水力発電の出力および発電電力量は次式によってあらわされる。
出力(kW)=機器等の発電効率×重力加速度×落差(m)×水量(m3/s)
発電電力量(kWh)=出力(kW)×年間運転時間(24h×365日)×設備利用率注)

2-1-2 水力発電の種類

 水力発電は、出力規模、落差を得る方法、水の使い方によって図表2〜図表4のように分類されている。

2−2 我が国の水力発電の変遷

 日本の水力発電の歴史は古く明治時代から始まる。明治から昭和30年頃までは電力のベース需要を分担する流れ込み式水力発電と、ピーク需要を分担する小規模な調整池式水力発電が中心で、水力発電の季節的な変動などを小容量の火力発電で補完していた。昭和20年代には農山村の電化を促進するために農協などが中心となって積極的に中小河川での小水力発電の開発が進められたが、電力会社の配電網が整備されるに従い消えて行った4)

 戦後、大ダムによる比較的規模が大きい貯水池式などの水力発電の開発が行われたが、高度経済成長期以降は電力需要が年々急激に増大したために、短期間で大規模な発電所を経済的に建設できる石炭・石油火力、そして窒素酸化物などの排ガス対策からLNG火力、さらにはエネルギーセキュリティの向上やCO2対策などの観点から原子力発電が電源開発の主役を占めるようになった。建設に長期間を要し、規模が小さく割高な水力発電の開発は急速に減少した。その後、ピーク電力の供給源として急激な負荷変動への即時対応性に優れている揚水式発電が、大型火力や原子力発電と組み合わされて積極的に建設されたが、電力需要の伸びが鈍化し、これについても新規地点はみられなくなった。そして今、地球温暖化問題やエネルギー源多様化への対応、地域社会の活性化などの観点から環境に優しい水力発電が再び注目されるようになっている。

 水力発電の開発が減少してきた理由を整理すると、図表5のようなことが挙げられる。

2-3 包蔵水力

2-3-1 理論包蔵水力と包蔵水力

 地表に降った雨や雪が山から川を下り、海に注ぐまでの水の位置エネルギーの総和(蒸発散量は無視)を理論包蔵水力という。理論包蔵水力のうち、算出時点における技術的水準から開発可能と考えられるもの(既開発分+未開発分)を包蔵水力と呼んでいる。その値は技術の進歩、経済状況、環境条件などによって変化するものである。世界エネルギー会議(2007)5)によると、アジア、北米、および中南米の地域が特に大きな水力ポテンシャルを持っている(図表6)。我が国は豊かな降水と山地に恵まれているために大きな理論包蔵水力を有している。例えば国土面積がほぼ同じドイツ(120TWh)と比べると6倍、国土面積が27倍であるカナダ(2,216TWh)の1/3の値である。しかし、我が国では理論包蔵水力に対する包蔵水力の割合は19%となっており、開発可能量はさほど多くないと考えられている。

2-3-2 我が国の未開発包蔵水力

(1) 資源エネルギー庁による包蔵水力未開発地点の調査結果
 包蔵水力調査結果6)(2004年3月)によると、未開発地点は2,717地点、発電出力では約12GW、発電電力量は約45.8GWhであり、既開発と工事中の水力発電所の合計値の約1/2となっている(図表7)。このうち、30,000kW未満が約98.6%、平均出力は4,500kW程度である。規模が小さく奥地の地点で発電原価が割高となるなどの不利な条件を抱えている地点が多い。

 また、図表7では1,000kW未満の地点数が急に少なくなっている。包蔵水力調査は、流域毎に開発可能地点を抽出し、予備設計などを行い開発可能量を推計しているために、抽出された地点の精度は高い。しかし、経済性が低いと思われる渓流や小河川は最初から検討対象とされていないことなどから、多くの小規模地点が推計の対象外となっている可能性がある7)。なお、1,000kW未満の地点については、約3GWの未開発地点が存在するのではないかとの試算もある8)

(2) 未利用落差包蔵水力調査結果

 前項で述べた従来の包蔵水力に含まれていない、ダムや水路などの既設構造物を利用した未利用落差発電包蔵力についての(財)新エネルギー財団による調査結果(2008年3月)を図表8に示す9)。未利用落差発電の未開発地点は、1,389地点、発電出力約330MW、発電電力量は約1.7GWhとなっている。しかし、この調査においても管理者へのヒアリングにより水力の開発可能地点が選ばれていることなどから候補地点が抽出し切れていない可能性がある。

(3) その他の未開発水力の調査

1) 農業用水路の活用等による小水力発電

 我が国の農業用水路は総延長が約40万Kmに及び理論包蔵水力は、5.7TWhと推定されている10)。経済性などを考慮した農業用水路の包蔵水力量は図表8に示したが、これまでは、水路を流れる流水の持つエネルギーを電力に変えることは対象としていなかった。近年開発が進められている流水利用型発電などを活用すれば、農業用水路の包蔵水力はさらに向上すると考えられている11)

2) 既存ダムの徹底活用

 我が国の包蔵水力には、治水用ダムなどの遊休落差や貯水容量を利用する水力発電はカウントされていない。そこで、仮に経済性や環境面、技術面等の様々な未解決の課題や制約条件を外して既存ダムの運用方法を変え、また必要により嵩上げするなどして水力発電に徹底活用した場合の発電量についても試算が行われている。その結果によれば、さらに34TWhの新たな発電ポテンシャルがあると考えられている12)

2-4 小水力発電を促進する制度等

2-4-1 新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法

 新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(通称:新エネ法)は、新エネルギー利用等の促進を加速させるために1997年6月に施行された。新エネルギーとは、「有力な石油代替エネルギーのうち経済性の面における制約から普及が十分でなく、その促進を図ることが、石油代替エネルギーの導入を図るため特に必要なもの」と定義されている。このうち水力発電については、当初、新エネルギーの対象にはなっていなかったが、2008年4月の政令改正により1,000kW以下のかんがい、利水、砂防その他の発電以外の施設を利用する水力発電(従属発電)が新エネルギーに追加された。

2-4-2 電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法

 電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(通称:RPS法)は、新エネルギーの普及を促進するために2003年4月に施行された。電気事業者に対して新エネルギー等から発電される電気を一定割合以上利用することを義務付けている。水力は、当初、1,000KW以下の水路式の発電所に限られていたが、開発に際する環境への負荷が小さいことや、未利用エネルギーの有効利用として自治体や市民からの関心が高まっていることなどをふまえて、2007年4月同法施行令の改正の際に、「出力1,000kW以下の水力発電所」と改められ、水道用水・工業用水・農業用水・河川維持流量の放流によるダム式またはダム水路式の水力発電所(従属発電)が追加された(図表9)。

2-4-3 各省庁における取り組み

各省庁は、CO2の削減・エネルギー源の多様化・施設の維持管理費の節減・地域の活性化等の観点から、再生可能エネルギーとしての小水力発電を促進しており、取り組みとして、水力発電に関する制度改革、規制緩和の検討、施設の調査・設計・建設費の助成などを始めている。

経済産業省資源エネルギー庁は、2002年度から地方公共団体等が開発する自家消費型の水力発電所を対象に発電施設の調査・概略設計、事業計画の策定までを全額国庫補助として支援している14)。また、「地域新エネルギー等導入促進事業」として出力1,000kW以下の水力発電設備に対する導入補助を行っているほか、1,000kWを超え30,000kW以下の中小水力開発の設置および改造等に対して出力規模別に10〜20%の建設費の補助を行っている。特に新技術の採用に対しては50%の補助を行っている。さらに、「水力発電に関する研究会」を設置し、低コスト化技術、水利権許可・維持流量手続き、立地地域との共生、補助制度などを今後の課題とすることを中間報告として2009年6 月に取りまとめた。また「再生可能エネルギー全量買取に関するプロジェクトチーム」が、2010年3月を目途に買取方式のあり方を検討しており、水力発電については対象とする規模、大規模水力発電所についての増加出力分の取り扱い等について議論している。また、「原子力安全・保安部会小型発電設備規制検討ワーキンググループ」では、小規模な発電施設における専任の主任技術者のあり方について規制緩和を行う方向で検討を進めている。

国土交通省では、市町村長に向け砂防施設へ水力発電施設の設置を呼びかけ、自らも砂防施設への発電施設設置のための調査検討を2009年度より開始した15)。下水道の分野においては、下水処理水の放流渠等における落差を利用した水力発電を推進している16)。また、小水力発電の普及促進に向けて、水利使用許可申請書類の簡素化を行い、ガイドブック等の整備も進めている。

農林水産省では出力数百〜数千kWを対象に、地域用水環境整備事業、かんがい排水事業等の土地改良事業、農村振興総合整備事業などの助成制度を実施して農業用水路や農業用ダム等を用いた水力発電を支援している。

厚生労働省においても、水道施設における水の位置エネルギーを利用した水力発電が積極的に進められている17)

総務省では「緑の分権改革」の推進事業として、地域における小水力発電等のクリーンエネルギー資源の賦存量の調査やエネルギー活用の事業化のための調査等18)への支援を開始した。

また、環境省では1,000kW以下を対象として小水力発電による市民共同発電実現可能性調査委託業務などの施策により地域住民による水力開発促進のための取り組みを行っている。

2-5 水力発電の環境面での特徴およびコストバランス

2-5-1 水力発電の環境面での特徴

 水力発電は他の自然エネルギーに比べてエネルギー変換効率およびエネルギー密度の高さが特長である。また、太陽光や風力と異なり気象変化等の影響が小さく、安定した発電が可能であるため、大量に導入した場合でも既存の電力系統に与える影響が比較的小さい。さらに、調整池式や貯水池式などの水力発電は系統の周波数の変化に応じて電力の過不足を自動的に補う負荷追従性の機能を有していることから、既存の電力系統の安定性向上に寄与することも可能である。

 また、水力発電は、図表10に示すように設備の設置から運転・保守等までを含めたライフサイクルを通したトータルのCO2の排出量が非常に少ない。既存施設を活用する小水力発電では、従来型の水力発電に比べてさらにCO2排出量が約半分に抑制されるという報告もある19)

 その一方で、我が国では水の流れが台風や前線性の降雨によって激しく変化し、地域によっては出水時に大量の土砂や流木を伴うこともあり、自然と共生した水利用の難しさを抱えていることも事実である。このため、発電施設の形式や規模、流域の条件等によっては、河川の水質や水量、地形などを変化させて環境に大きな負荷を与える場合もあり、そのための対策技術の確立は不可欠である。

2-5-2 水力発電のコストバランス

 水力発電は、設置に要する資本費の割合が80%以上と大きく、これが発電単価を割高にする大きな要因になっている。一方、一度設備を設置すると燃料が不要なことから原油等の価格変動に左右されることなく、適切なメンテナンスによって永続的に電力を生み出すことができる。その他の変動費部分は安価となっており長期的にはローコストとなる特性を持っている。従来は火力発電と経済性の比較を行い優位である場合に開発が行われてきたが、最近では、CO2を排出しない効果をCO2クレジット価値などで付加して評価するような考え方がなされるようになってきた。また水力開発に多様な事業者が参入するようになったため、投下資本を一定期間内で回収し耐用年数内に再投資の積み立てが可能であれば事業性ありと判断する考え方や、RPS法に基づく取引単価と比較して開発の可否を判断する考え方も出てきた。

 モデル試算による各電源の発電コスト比較を図表11に、RPS法下での取引単価を図表12に示す。現時点で水力の発電単価は再生可能エネルギーのなかでは劣っていないが、主要電源である火力や原子力発電に比べると割高である。また、他の再生可能エネルギー、例えば太陽光発電は、産官学による技術開発や国や自治体による導入助成金、余剰電力の買取制度等、利用拡大によるコスト低減への強力な施策が進められている。水力の利用にも同じような考え方の導入が必要であることに加え、やはり建設費の一層の低減のための技術開発と施策も必要であろう。

2-6 海外の状況

2-6-1 諸外国の取り組み状況
 世界エネルギー会議(2007)5)によると、世界的に見て、水力発電はエネルギー密度が高いために現在最も容易に大きな再生可能エネルギーが得られる電源である。2005年時点では、世界全体の再生可能エネルギーによる発電量の87%を占めている。このため、2005年の1年間だけで18GWの新たな水力発電が運転を開始している。水力発電は160カ国で利用されているが、2030年までに現在の発電所の大部分が更新時期を迎え、発電の容量を最も低コストで増やす方法は既設設備の更新・拡大であるとされている。また、世界には45,000の大ダムがあるが、大半は水力発電が設置されておらず、これらへの発電施設の付加が考えられる。

 以下に地域別に水力開発の特徴を述べる5)

(1) 北米における膨大な水力ポテンシャルへの対応

 カナダは膨大な水力発電のポテンシャルを有しており、全発電量の60%を水力でまかなっている。現在、比較的規模が大きい既設水力発電の拡大や新設のためのプロジェクトが進められている。

 米国も膨大な水力ポテンシャルを有しているが、全発電量に占める水力の割合は6.7%である5)。太陽光発電や風力発電が増加する中、米エネルギー省は、需給の変動に対して柔軟にエネルギー供給が可能な水力発電を拡大するため、既存水力設備の改良への投資を行っている24)

(2) 欧州における河川環境の改善と再生可能エネルギー拡大の取り組み

 EU諸国では経済性に優れた水力地点の開発が一巡し、再生可能エネルギーの拡大という趨勢の中で、今後の関心は小水力発電の開発と既設発電設備の将来の更新に移っている。

 欧州議会と欧州閣僚理事会は2000年に、「EU域内の水質保全を義務付ける水枠組み指令」により、EU域内の表面水・地下水・沿岸域の海水等を2015年までに生態学的・科学的に健全な状態に改善し維持することを加盟国に義務付け、河川環境の保全や環境放流に関する取り組みを強化する方針を打ち出した。一方、2001年には「再生可能エネルギー起源電力指令」が制定され、水力を含む再生可能エネルギー発電を増強することとなった。この指令は、2010年までに再生可能エネルギーによる発電電力量を一次エネルギー消費量の12%まで、総発電電力量の21%まで増加させることを加盟国に求め、特にEU内の15カ国に対しては国ごとに示唆的目標値を設定している。これら二つの指令の下で、EU域内の水力発電部門は、河川環境の保全に配慮しつつ社会に受け入れられる水力発電を推進しつつある。EU諸国では、水力を含む再生可能エネルギーによる発電の促進策として、@固定価格買取制 A固定枠制(RPS法等) B税額控除などを採用している。さらに、2007年の欧州エネルギー政策案では再生可能エネルギー起源の発電電力量を2020年までに総発電電力量の34%まで増加させることを目指している25)

(3) アジアにおける水力開発のニーズ

 中国やインドでは1990年から2007年の17年間で電力の使用量はそれぞれ5.3倍および2.7倍に増えた。しかし、まだ一人当たりの電力消費量は日本に比べれば1/4および1/16である。このため、中国やインドなどの新興国では大規模な水力開発が積極的に進められている。

 東南アジアには未電化の地域が多く、電化率を100%にしようというのが各国共通のエネルギー政策である。しかし、中央政府に必要な資金が無いため、大規模な発電施設の開発財源は海外援助に頼っている26)。独立発電事業者による水力開発は全体計画無しに虫食い的に行われる場合があることから、地域社会や生態系への環境影響、一河川単位の治水、灌漑用水確保などに十分配慮した適切な開発が求められている25)

2-6-2 国際エネルギー機関や国際会議等の状況

(1) 国際エネルギー機関における技術協力

 国際エネルギー機関(IEA)の下で1995年に「水力技術と計画に係る実施協定」が、カナダ、フィンランド、フランス、日本、ノルウェー、中国、スペイン、スウェーデン、イギリスの9カ国が参加する形で発足した。各国共通の問題にこれまで蓄積した水力技術を集結し、その研究成果を共有することで水力エネルギー技術の開発・普及に貢献することを目的に活動している。これまでに、「環境に配慮した今後の水力開発ガイドライン(2000年)」、「水力発電の環境影響緩和策の好事例(2005年)」などを発表している。

 現在、具体的には「小水力発電に関する効果的な開発促進策、革新的技術情報の収集・発信」、「水力発電と環境」などについての活動が行われている27)。日本からは(財)新エネルギー財団が実施機関として参加している。

(2) 水力発電に関する国際会議

 欧州や北米等においては水力発電に関する国際会議が活発に開催されている。

 北米では、「HYDRO VISION 2xxx(米国出版社主催)」と「WATER POWER xx(米国出版社主催)」がそれぞれ隔年で開催されている。欧州では、「HYDRO2xxx(英国出版社主催)」が毎年秋に開催されている。また、EU加盟国内で欧州小水力協会と開催地の国内小水力団体の共同開催で「Hydroenegia 2xxx」が、小水力発電にかかわる関係者を対象として隔年で開催されている。一方、東南アジアでは「ASIA 2xxx(英国出版社主催)」が、隔年で開催されている。

 これらの会議では、水力発電に関する政策や制度、水力発電の費用評価、コミュニティへの環境影響評価、発電設備の維持管理や革新的技術、ダムの堆砂対策、魚の通過などの発表があり、活発な情報交換と議論が行われている。水力発電事業者、メーカーやコンサルタント、行政関係者、生態・環境研究者など多数の参加があるが、日本からの参加者は非常に少ない。

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3.水力発電の技術動向

3-1 様々な遊休落差を利用した小水力開発

3-1-1 小水力開発への多様な事業主体の参加

 前述のように1,000kW以下の小水力発電はRPS法による電気事業者への利用の義務付けがある。また政府による導入助成などもある。そこで、近年、電力会社以外に、市町村・土地改良区・民間企業・特定非営利法人・個人等、多様な事業主体による水力開発が行われるようになっている。

 例えば、山梨県都留市は、市役所前を流れる小河川に、直径6mの木製下掛け水車による最大出力20kWの発電装置を設置した(図表13)28)。当該河川は塵芥が多いこと、年間を通じて流量変動が大きいことなどから、水力利用がしにくかった。そこで、逆洗浄による新型除塵装置を開発し、また発電機を可変速にするなどの改良を行った。事業費については市民ミニ公募債(約39%)、(独)NEDOの補助金(約35%)および市の予算(約26%)が用いられている。地域の人々に親しまれ、自主的な河川美化の運動につながる等の副次効果も現れている。発電した電気は市役所の使用電力の一部としている。水車・発電機は実績が豊かなドイツ製品を輸入して使用している。なお、この開発計画に先立ち、地元の市民グループや工業高校、大学などによって発電利用のための現地の試験研究が行われている。

 長野県飯田市も、環境省の「平成21年度小水力発電による市民共同発電実現可能性調査委託業務」に採択され、小水力発電の開発が始まっている。発電施設の計画から必要な河川維持流量の検討まで、市民が自ら考える活動である。

 栃木県の那須野ヶ原土地改良区連合は2009年2月、農業用水を利用した最大出力340kWと170kWの水力発電所を完成させた。既設3発電所と合わせて出力合計970kWとなっている。

 また、丸紅(株)は、2000年に長野県伊那市の三峰川電力を買収し、既存発電所の放水を再利用した最大出力480kWの発電所を2009年に完成させた。今後4年以内に全国10カ所で新規建設や既存施設の買収を目指すと発表している29)。また、カワサキプラントシステムズ(株)では、川崎重工業(株)と共同開発したダムの維持放流発電などに適用できる水車と発電機一体型の出力20〜500kWの小水力発電装置の製造・販売を開始した30)

 東京電力(株)でも自社による小水力開発とともに、グループ会社である東京発電(株)において、小水力発電の計画から設計・工事・運転・保守までを様々な事業者と共同実施する取り組みを展開している31)。また、2005年7月には任意団体として全国小水力利用推進協議会が発足し、小水力利用に関して調査研究し、普及発展のために導入をサポートする活動などを行っている。

3-1-2 小水力発電の技術動向

(1) 国内の小水力技術事例

 小水力発電を促進する制度等を受けて、既存のインフラ施設や中小河川での様々な遊休落差を利用した小水力発電への取り組みが徐々に始まっている。以下にその技術の例を示す。

1) 砂防施設を利用した水力発電

 砂防堰堤を取水施設として、その落差を利用した水力発電が試みられている。土砂を貯留することが第一義の目的であるため、浸透式取水となる例が多い。群馬県桐生市の利平茶屋水力発電所は落差が約70m、0.046m3/sの水量で出力は22kWである。年間約110,000kWhの発電量があり、その内約10,000kWhを市の公園施設で自家消費し、余剰電力は電力会社に売電している。一般家庭の年間消費電力量を4,700kWh/年32)とすると、約23戸分の発電量に相当する。

2) 河川内の取水堰の落差を利用した水力発電

 京都市景観保全会は、観光地である嵐山の渡月橋直上流で、桂川を横断する取水堰の約2mの落差を利用して水力発電施設を設置した(図表15)33)。一級河川区域内に発電施設を設置した初めてのケースで、出水時に河川の通水能力に支障が生じないように形状や構造面での工夫が行われている。発電した電気は渡月橋の夜間の照明に使用され、余剰電力は電力会社に売電されている。この事業は、河川管理者・土地改良区・電力会社など様々な関係者の協力によって実現した。

3) 農業用水路を利用した水力発電

 図表16に農業用水路に連続的に設置できる流水利用型の発電機の設置状況を示す。水路幅4m、流速2mの水路に直径2.25m、幅2m金属製下掛け水車を用いた実験では、1基あたり約770Wの発電が可能であった34)。使用した発電機は1基60万円以下であり、設備利用率を75%とした場合9年弱で償却可能と計算されている。出力は小さいが、安価であり、設置も容易で、簡易な構造であるため、修理も地域の小規模の鉄工所で可能である。

4) 河川維持流量の放流設備を用いた水力発電

 水路式発電所においては、取水地点から発電所の放水地点までの河川の減水区間の流況を改善するために、河川維持流量を流す措置がとられているが、この維持放流を利用した水力発電所の建設が各所で進められている。中部電力の畑薙第二ダムではダム直下への0.55m3/sの維持放流水を活用して170kWの発電を行っている。

 また、治水専用ダムにおいても維持放流水を用いた発電が行われており、新潟県の加治川治水ダムでは最大1,100kWの発電を行っている。

5) 廃止水力発電所の再生

  諸事情により発電所が廃止されて、設備が放置されている地点や水路の一部が用水に使われている地点において、これを再び利用して水力発電所を復活させる取り組みが行われている。静岡県の伊豆市を流れる狩野川では、2006年に11年間の停止期間を経て落合楼発電所が再開した。発電所再生後は流木や土砂堆積により荒れていた取水堰周辺も整備され、再び魚道が機能し、アユが遡上して、地元からも喜ばれている。出力100kW、使用水量3m3/s、有効落差4.8m、年間発生電力量は約765MWhである31)

6) 汎用品を用いた低コスト水力発電

 小水力発電可能な地点は全国に多数存在しているが、規模が非常に小さいために、建設費のコストダウンが不可欠である。このため、水圧管路に、安価で施工性がよい汎用のポリエチレン管や硬質塩化ビニル管を採用し、制御用に汎用パソコンを採用するなど、地点の状況に応じて要求品質を変えて、できるだけ簡易な発電システムにするよう試みられている36)

7) 上水道を利用した水力発電

 浄水場から給水所へ水道水を引き入れるときの余剰水圧を利用した水力発電の例を図表17に示す。東京都水道局では、図表17に示す方式で、南千住給水所と亀戸給水所にそれぞれ95kWと90kWの発電設備を設置した37)

8) ビル内の水力発電

 ビルの水蓄熱式空調設備においても未利用の水力エネルギーが存在する。水蓄熱式空調設備の場合、冷却水は建物の地下にある蓄熱槽からポンプでくみ上げられ、各階に設置された空調機を冷却後、再び地下に戻る。この地下蓄熱槽に戻る際の流量と落差を利用して発電が試みられている。このような配管に設置する発電機一体型水車と制御盤をパッケージ化した製品が流量と落差に応じて販売されている。都城市役所では空調冷却水循環系統に発電機を取り付けて空調システム運転時に約2.2kWの発電を行っている38)

(2) 海外の小水力技術事例

 水力発電の利用拡大を目指して、魚類の保護や超低落差利用、水力開発のためのコンピュータ支援システムなどの技術開発が各国政府の支援や大学などの研究機関の協力の下で行われている。

1) 魚を傷つけない超低速回転水車の開発

 欧州や北米では、水力発電用タービン通過時の魚類の死傷が問題視される場合がある。近年、ヨーロッパウナギの生息数の減少が著しく、ウナギの回遊時に水力発電の一時的な運転停止が提案される状況にまでなっている。このような事象に対応する超低落差タービン(VLH)が、フランス研究・教育省、環境エネルギー管理庁およびカナダ天然資源局の補助金を受けて、フランスの民間会社で開発された。水車直径を大きくし、低速回転とするとともに、数値流体解析により羽根の形状、外殻との隙間を調整し、機器の魚類への接触を防ぐ配慮を行っている。試験では、スモルト(鮭の幼魚)については97%の生存率が、ウナギについては約92〜93%の生存率が確認された。最初の商業運転用機が2007年3月に設置され、回転数34rpm、落差2.5m、流量22.5m3/sの下で出力438kWを達成している39)

2) 超低落差用高効率水圧利用水車の開発

 流水のエネルギーではなく、水車の羽根を水路床まで伸ばすことで上下流に水位差を発生させ、水圧を利用する超低落差用高効率水圧利用水車が、英国の大学で開発された(図表18)。羽根をねじる形状にすることで、羽根が水に入る際と出る際の損失を少なくし効率の向上を図っている。モデル試験では、流量3.6m3/s/m wide、落差2mで80%以上の効率が得られている39)

3) 門扉一体型発電装置

  既設ダム等の門扉に組み込む軸流水車一体型発電機が、オーストリアで開発された。既存の構造物を利用するため土木工事が少ない、発電施設設置のための新たなスペースを要しない、などのメリットがある。単体ユニットの総出力は200kW、落差1.0m〜10.3m、ランナー直径910mm である。ユニットを25基設置することで全体の出力は5,000kWが得られている40)

4) 水力エネルギー資源の開発計画支援ツール

 地理情報システム(GIS)を用いた米国内の河川における水力地点の探索・評価用のツールが、米国のアイダホ国立工学環境研究所によって開発されている。このツールでは、約500,000カ所の水力地点および130,000カ所の実施可能性を有する水力地点を表示することができる。開発の予備的評価を行うために、道路網・送電網・土地利用形態なども表示できる。また、カナダでもカナダ天然資源省の援助を受けて、工事数量やコストを算出できるシステムが開発されている41)

3-2 既設水力発電設備の持続的活用・改良

3-2-1 既設設備の持続的活用のための取り組み

(1) 経年設備の運用・保守・改良

 我が国の水力発電は明治時代に始まり長きにわたって純国産のクリーンなエネルギーを生産し続けている。2009年現在、約半数の発電所が運転開始後60年以上を経過している。水力発電設備は、適切に維持管理を行えば一般に、水車発電機は50〜60年、土木構造物は100年以上使用できる。これまで、様々な時代に造られた水力設備を現場技術者が地域の関係者と協力し合って世代を超えて運用し保守管理してきた。この間、河川の出水予測やゲート操作などの運用管理システムの開発や、ダム・水路・水圧鉄管・水車発電機などの経年設備を低コストで安全に使い続けるための点検や健全性評価技術、補修技術の開発が行われ、現地で適用されている。今後はこれらの経年設備への対応とともに、戦後に作られた大型の水力設備の老朽化への対応、およびこれを支える技術の継承と人材の育成が重要である。

(2) 環境対策

 我が国は気象や地形の変化が激しい。台風や前線、低気圧などによって激しい降雨が発生すると、時には流れは濁流と化し、地域によっては夥しい土砂や流木などが一気に流出する。これが河床を洗い、また氾濫の原因にもなるとともに、海域に様々な物質を供給する。出水後は速やかに清流に戻ることが多い。しかしながら、一部の既設の水力発電所は、このような自然の変化に大きな影響を与え、ダムの堆砂や水質の悪化、水路式発電所の減水区間における景観や自然環境への影響などの問題がみられるようになり、環境対策が必要になっている。

1) 減水区間における清流の回復

 水路式の水力発電所では、取水地点から下流の発電所の放水路まで河川水を導水路でバイパスするため、この区間の河川では減水区間が生じる。建設時にはその時代の社会的背景もあり、減水区間の環境維持のために必要水量を確保する配慮が十分ではなかったが、発電ガイドライン42)により、水利権の期間更新時に生物の生育・生息状況、水質、景観の改善を図るように河川維持流量を流す措置がとられ、近年は対象発電所の約8割で清流が回復している43)。年間一定水量の放流が行われているところが多いが、河川の実態に合わせて季節別に変化をつけた放流を実施している例も出てきている。

2) 魚道の整備

 発電用取水堰では段差によって上下流への魚の移動に支障が生じることがある。そのため、様々な魚種を対象に魚道の研究が行われ、多くの堰で魚道が整備されるようになっている。

3) ダムの堆砂、水質対策

 土砂流出が激しい流域において、土砂吐きを有しない大規模ダムでは、ダムが土砂の流下を遮断し、貯水池への大量の堆砂により貯水池機能の低下とともに貯水池直上流部における河床上昇や下流河川での河床低下などの河川環境の変化、川砂利の不足、さらには海岸侵食への影響などが見られるようになっている。また、洪水後の濁水の長期化現象や貯水池の富栄養化現象が発生している。これに対して、洪水時にダムから排砂を行う試みが始められつつある44)

4) 水力発電所周辺環境の創造

 水力発電所を設置する場合には、従来から周辺環境を保全し発電所による影響を緩和することに主眼が置かれてきた。近年、新たな環境が魚類や鳥類の生息・繁殖の場になり、河川景観が観光、リクレーション、地域社会への開かれたコミュニティの場として利用されている。このような副次的なプラスの効果も評価する方法について検討が行われている45)

3-2-2 ダム・発電所のリニューアルによる発電利用の向上

 中国電力(株)の帝釈川発電所は、大正13年の完成以来80年が経過し、洪水対応の煩雑なダム貯水池運用を改善する必要があったことから、ダムおよび発電所のリニューアルが実施された。帝釈川ダムの洪水処理能力とダムの安定性の向上を図るとともに、ダムの未利用落差を有効活用して、既設の4,400kWから11,000kWと2,400kWの二つの発電所に再開発した。帝釈川ダム周辺は国指定の名勝で国定公園第一種特別地域内に位置しているため、周辺の自然環境の改変を極力抑制するとともに観光資源となっているダム湖の景観と利用の保全を図り、また動植物への影響にも十分な配慮を払いながら工事が実施された46)

 現地で長年設備を使い込んできた経験と最新の技術に基づき、設備の更新時期に合わせて機能面・安全面・環境面から総合的に再評価し更なる有効活用を図るリニューアルは、経年水力発電設備を将来にわたって有効活用し、さらに再生可能エネルギーを経済的に増加させるチャンスである。しかし、水力発電を新・増設する場合には大きな河川維持流量や厳しい設計洪水量が適用されることなどから、計画の大半は単純な部分的な設備更新となっており、近年は水利用の条件を変えて発電量を増大するような再開発は少なくなっている。

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4.水力の更なる有効活用に向けて

4-1 我が国における水力発電の課題

 化石エネルギーを利用する火力発電などに比べて発電単価が高い、立地地域の理解が得られにくい、水利使用の調整などで開発に時間がかかるなどの理由から水力発電所の新たな建設は敬遠されてきた。しかし、現在は、低炭素社会の実現に向けて、貴重な再生可能エネルギーとして見直され、むしろ、如何にして経済的に、かつ河川の自然環境や地域社会と調和させて有効活用するかが問われている。

 水力発電については、大規模な揚水式発電所を建設するための大ダム・岩盤地下空洞・大容量水車発電機などの技術は高度に進展してきた。一方、様々な未利用の遊休落差を経済的に利用するための小水力発電の技術や制度については、まだ十分に検討が行われていない状態である。このため、経済性が低いと考えられる小規模な水力発電は包蔵水力調査の主な対象にされておらず、賦存量の正確な把握ができていない。今後、様々な遊休落差を低コストで利用するためには、賦存量の把握とともに、設備の保守・運用まで考慮した現場実態に適合した小水力発電として、コストダウンや環境調和技術の開発が必要である。

 小規模な水力発電を促進するための国の制度も整備されつつあり、様々な遊休落差を利用した地域密着型の新たな水力発電の取り組みが、多様な事業主体によって始まっている。地域の関係者が自ら水力を開発利用する取り組みを推進することによって水力発電の裾野が広がり、水力利用への国民の理解が一層深まっていくことが期待される。しかし、水力発電は様々な利水者や行政機関が関係しており、許可を得るためには専門知識と長い期間を要する。小水力発電を促進するためには、規制緩和や支援のあり方についても見直しが必要である。

 既設の水力発電所については、経年設備が増大し老朽化が進行しており、多くの設備が更新の時期を迎えつつある。また、設備の形式や規模、流域の条件によっては新たな環境対策が必要になっている。一部のダムでは撤去が議論され、また、発電所の新・増設時には大きな河川維持流量が必要とされ水力開発の取り組みが進展しない。また、RPS法の適用範囲も発電出力1,000kW以下の範囲に限定されている。今後は既設水力を含めて、再生可能エネルギーとしての水力発電を推進していく必要があり、水力発電の光と影を明らかにし、影の部分を積極的に解決する取り組みが不可欠である。

4-2 水力の更なる活用のために具体的に何が必要か

4-2-1 様々な遊休落差を利用した小水力発電の開発

(1) 再生可能エネルギーとしての小水力発電の賦存量の再評価

 組織の所掌範囲や用途による制限、慣例、技術レベル、規制・基準などについては、これまでの前提条件や制約条件にとらわれず、ダムや堰・農業用水路・上下水道・既設水力発電設備などの既存のインフラ施設や中小河川などにおける様々な遊休落差の利用拡大の可能性について、今一度原点に立ち返って行政や分野の領域を超えた広範な議論を実施する。このことによって、我が国の包蔵水力を再評価する必要がある。また、再生可能エネルギーとしての水力の更なる利用の可能性と解決すべき技術・コスト・環境・制度面の課題についての関係者の共通認識を構築する。

(2) 様々な遊休落差を経済的に利用するための技術開発

 ダムや堰・水路・既設水力・中小河川などの様々な遊休落差を新たに積極的に発電利用する。これらは、既存施設の治水や利水などの機能や周辺の環境と調和のとれた水力発電とする必要がある。現在、関係者の努力により、在来技術をベースにしながら設置場所に見合った発電設備についての検討が行われつつある。今後は利用対象とする遊休落差の種類ごとに現場実態を踏まえた、技術課題の開発目標を明確にして、新たな水力利用技術の開発を組織的に推進する必要がある。

(3) 地域住民が主体となった水力開発

 身近な再生可能エネルギーである小水力の利用を広げるためには、それぞれの地域の特色を生かした開発を地域住民が主体となって推進することが重要である。太陽光や風力などとともに再生可能エネルギーとして総合的に開発を推進するための促進策についても地域住民自らが考えることが大切である。今後の地域密着型の水力開発は、自治体も水力以外の水利用、観光などの様々な用途と共存できるように考える必要があり、このためには水力利用を弾力的に行える制度への改善が必要である。また、小水力発電における河川法や自然公園法などの申請手続きの簡素化や処理の迅速化、開発にあたって全国の水文・地形データ等を容易に利用できる支援システムや完成後の保守管理などの支援システム作りも進められるべきである。

4-2-2 持続可能な水力発電の環境共生技術の開発

 再生可能エネルギーとしての水力の利用を将来にわたって持続可能なものにするために、研究者は、河川の自然環境や地域社会との調和に関して問題の実態と因果関係、影響範囲などを科学的にデータに基づいて明らかにし、政府や自治体はそれに基づいて合理的な対応策を確立する必要がある。設備の新・増設時の河川維持流量については、再生可能エネルギーの更なる利用と河川環境の保全を両立させるための河川の状況や設備の実態に見合ったきめ細かな基準と合意形成の方法論を確立する必要がある。ダムからの排砂対策については一事業者だけでは解決が困難である。山地から河川、海域にわたって、防災・環境・資源利用の総合的な観点から行政も含めて専門分野を超えた研究者による取り組みが必要である44)。環境への負荷が小さく自然環境と共生した持続可能な水力発電、地域社会に愛される水力はどのようなものか、これからの新たな時代の水力はいかにあるべきか、行政・地域・専門分野の研究者が連携して総合的な視点で検討を行うことが必要である。これらの問題を解決することによって、海外の既設水力発電設備の改良と今後の新規開発にも日本が大きく貢献できる。

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5.おわりに

 我が国は豊葦原の瑞穂国の言葉にあるように古来より水に恵まれ、水を中心として国土や農業、そして生態系が成り立っている。

 我が国は様々な時代背景で造られた水力発電設備を保有し、長年月にわたる運転・保守を通して、地域社会や自然環境への適合性について多くの知見が集積されている。この知見を踏まえ、水力発電をいかにして環境と調和させて経済的に有効活用するか、どのような持続可能なシステムを次世代に残せるか、現代の私たちの英知が試されている。自然環境、水利用、防災と調和した新たな時代の地域共生型の水力エネルギーの有効利用技術を確立し、水力利用を促進するための制度を進展させれば、どれほどの再生可能エネルギーを新たに生み出すことができるようになるのか、また、低炭素社会の実現に向けてこれからの水力発電はどのような役割を果たし得るのか、再生可能エネルギーとしての水力利用について新たな技術と共通認識を構築する必要がある。これにより、我が国の地球温暖化対策とエネルギー源の多様化、さらには地域社会の活性化に生かす必要がある。

 地球温暖化を防止するためには、新興国や発展途上国において増え続ける電力の需要に対して、世界が力を合わせて低炭素社会への転換に努力しなければならない。このためには、豊富な水力資源を有し、今後、水力開発が増大すると考えられるアジア地域に対して、我が国で今後構築する環境に優しい水力技術を活用して、アジアの先進国としての国際貢献を果たすことが望まれる。

謝辞

 (財)新エネルギー財団安部正則技術部長、生方利明調査部長代理、礒野淳一国際部調査役、(財)電力中央研究所宮永洋一環境科学研究所長、東京発電株式会社古矢千吉常務取締役、稲垣守人水力事業部部長、都留市総務部奈良泰史政策形成課長、全国小水力利用推進協議会中島大事務局長、未来エネルギー研究会鈴木篁代表には貴重なご意見と資料を提供していただきました。ここに深く感謝申し上げます。

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1) 「ナショナルジオグラフィックスが見た日本の100年」、日経ナショナル ジオグラフィックス社、2003年

2) 稲垣守人、「マイクロ水力発電の普及と事業推進モデルAquaμの概要」、JACEM 49、2009

3) (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構、「マイクロ水力発電導入ガイドブック」、2003年3月

4) 小林久、「エネルギー自立型から供給型へ」、水の文化、28号、2008年2月

5) World Energy Council, 2007 Survey of Energy Resources

6) 資源エネルギー庁HP、「出力別包蔵水力(一般水力)」:http://www.enecho.meti.go.jp/hydraulic/index.html

7) 小林久、「マイクロ水力発電の可能性と期待」、再生可能エネルギーで地域輝く、公人の友社、2007、p42-53

8) 中島大、「小水力発電の現状と普及への道」、資源環境対策、2007年5月号、p26-30

9) (財)新エネルギー財団、中小水力開発促進指導事業基礎調査(未利用落差発電包蔵水力調査)報告書、2009年3月:http://www.enecho.meti.go.jp/hydraulic/data/dl/houkokusho.pdf

10) (財)日本水土総合研究所、「提言 21世紀における農村振興と国土経営」:http://www.jiid.or.jp/works/jishu/pdf/04.pdf

11) (財)水土総合研究所、「流水利用型小水力発電の実証実験」:http://www.jiid.or.jp/xoops/files/pdf/tech_01.pdf

12) 三石真也、岡本政明、高橋博、今井久、「既設ダムを最大限活用した水力発電の振興について」、ダム日本、778、2008、p13-26

13) 資源エネルギー庁、RPS法HP:http://www.rps.go.jp/RPS/new-contents/top/main.html

14) (財)新エネルギー財団、「中小水力開発促進指導事業基礎調査の概要」、2009年4月

15) 建設工業新聞、2009年12月1日、「東北整備局 砂防施設に小水力発電導入へ」

16) 国土交通省報道発表、「平成21年度(第1回)新世代下水道支援事業の採択について」、2009年4月23日:http://www.mlit.go.jp/report/press/city13_hh_000066.html

17) 厚生労働省、[水道ビジョン]、2004年6月(2008年7月改定):http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/vision2/index.html

18) 総務省報道資料「緑の分権改革事業推進の委託に関する提案募集のお知らせ」、2010年1月14日:    http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/23580.html

19) 稲垣守人他、「マイクロ水力発電の開発と今後の展望」、電気評論、2008年12月号、p28-34

20) 浦島邦子 戸澗敏孔、「温室効果ガス削減に貢献する電力技術」、科学技術動向、90、2008:http://www.nistep.go.jp/achiev/results02.html

21) 総合資源エネルギー調査会電気事業分科会第9回コスト等小委員会資料4、2004年1月

22) 総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会報告書、2001年6月

23) 資源エネルギー庁、RPS法HP、「平成20年度実績 RPS法下における新エネルギー等電気等に係る取引価格調査結果について」、2009年8月3日:http://www.rps.go.jp/RPS/new-contents/top/ugokilink-kakaku.html

24) NEDOレポート、「オバマ政権は水力発電拡大に最大3.2億ドル投資(米国)」、1049、2009.8.05

25) 橋本信雄、磯野淳一、「海外の水力開発の現状と将来展望」、電気評論、第530号、2008年

26) (財)新エネルギー財団、「環境を自分たちの力で守るエコ意識」、水の文化、28号、2008年2月

27) (財)新エネルギー財団、「IEA水力技術と計画に係る実施協定について」、2009年4月9日:http://www.nef.or.jp/topics/20080110_1.html

28) 都留市HP、「家中川小水力市民発電所」

29) 日本経済新聞、2009年3月20日、「丸紅が小規模水力発電」

30) 川崎重工業(株)ニュースリリース「小水力発電システムの製造・販売事業開始」2009年1月20日

31) 古矢千吉、「出力増強で温暖化防止に貢献」、エネルギーレビュー、2008年5月号、p16-20

32) (財)省エネルギーセンター、「2008年度待機時消費電力調査報告書」、2009年3月:http://www.eccj.or.jp/standby/08/index.html
33) 全国小水力利用推進協議会、「小水力発電事例集2007」、2007年5月25日

34) (財)水土総合研究所、「流水利用型小水力発電の実証実験」:http://www.jiid.or.jp/xoops/files/pdf/tech_01.pdf

35) 小水力利用推進協議会偏、「小水力エネルギー読本」、オーム社、2006、p105

36) 山田明彦、「小水力発電を取り巻く環境」、エネルギーレビュー、2008年5月号、p25-28

37) 東京都水道局、「環境報告書2009」、2009年12月、p33

38) 須田隆二、「ビルの中の小水力発電」、資源環境対策、2007年5月号、p46-48

39)  礒野淳一、「小水力発電に関するHIDROENERGIA2008コンファレンス」、(財)新エネルギー財団、2008年6月30日:http://www.nef.or.jp/topics/pdf/hidroenergia_2008.pdf

40) 新エネルギー財団、「HYDROVISION2006コンファレンス」、2006年8月18日

41) 新エネルギー財団、「IEA水力実施協定:専門部会-2(小水力発電)とカナダ天然資源省CANMETエネルギー技術センターによる中小水力発電技術に関する共同ワークショップの開催」、2006:http://www.nef.or.jp/topics/pdf/01_hydrovision06_workshop.pdf

42) 建設省河川局水政課長および開発課長通達、「発電水利権の期間更新時における河川維持流量の確保について」、1988年7月14日

43) 経済産業省HP、「水力発電に関する研究会中間報告」、2008年7月25日:http://www.meti.go.jp/committee/summary/0002035/g80725aj.html

44) 井上素行、「山地から河川、海域にわたる流砂系問題に対する実証的研究の推進」、科学技術動向、98、2009:http://www.nistep.go.jp/achiev/results02.html

45) 電力土木技術協会、「水力発電所周辺河川環境の創造に関する調査と啓発、2009年5月

46) 沖田俊治他、「新帝釈川発電所建設工事の概要」、電力土木309、2004年1月

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