宇宙開発に於けるイノベーション創出に向けて

清水 貴史
推進分野ユニット

1.はじめに

 SF作家アーサー・C・クラークは、未来の科学技術について予測1)をしており、図表1はその内の宇宙開発に関するものである。超高強度かつ軽量なカーボンナノチューブ(CNT)の出現以来、(1)の宇宙エレベーターは現実味を帯びつつあり、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の技術戦略マップ2009のナノテクノロジー分野の技術ロードマップ2)では、2050年頃の実現が予測されている。(2)の宇宙防衛隊は、その必要性が常に唱えられている。約百年前の1908年6月30日には、シベリアのツングースカに太陽系小天体が落下し、大爆発を起こした3、4)。大都市ではなく無人地帯であった為、人的被害は無かったものの、爆発現場の記録写真はその破壊の凄まじさを示している。太陽系小天体の地球落下は、破壊の規模は大きいものの、発生頻度は極めて低く、またその様な地球落下を事前に阻止する事は技術面・費用面で困難な為、地球近傍天体(NEO)から人類を守る宇宙防衛隊構想は未だ実現していない。(3)の静止通信衛星は既に実現しており、通信・放送の分野で我々の生活に不可欠なものと成っている。(4)の原子力宇宙推進は、米国航空宇宙局(NASA)が一時、木星の衛星群を周回する探査機への搭載を計画するも、現在は中断されている。

 現状の宇宙輸送手段であるロケットによる打上げ価格は、10,000ドル/kgのオーダーである。衛星はロケット打上げ環境に耐える剛性を有すると共に、高価なロケット打上げ費用の為に軽量化が求められ、更には軌道上での保全が不可能な為、高信頼性・長寿命化が求められ、高価な物と成っている。一方、従来技術の延長線上には無いものの、荒唐無稽な空理・空論ではなく、正しい物理法則に基づいた新たな概念の導入により、従来に比べて遥かに低価格での宇宙活動の実現が可能と成り、全く新たな宇宙開発の展望が開けるとの主張5)も在る。

 本稿では、先ず、地球規模の課題への対応に関し、宇宙開発が可能性を秘めている事を示す。次に、宇宙開発に於けるイノベーション(以下、「宇宙開発イノベーション」と言う)をもたらし得る可能性が有る概念・アイデアなどを紹介すると共に、主に宇宙先進国である米国を例に採って、この様な先端概念研究活動を支える研究組織について述べる。

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2.人類の直面する重要課題と宇宙技術による解決策

 全米研究評議会(NRC)が2009年に発表した報告書6)では、気候・環境監視、科学探査、先端宇宙技術開発、米国リーダシップの下での国際協力の推進などに加え、米国としての優先事項に沿った宇宙活動の推進が勧告されている。この様な宇宙活動としては、従来は対象とされなかった分野も検討対象に成るとしている。

 地球温暖化およびエネルギー問題は現在、人類が直面する最重要課題である。世界各国では、英科学誌「nature」でも紹介7)されている通り、脱化石燃料を目指して、バイオ燃料に加え、風力・地熱・太陽光・波力といった新たな再生可能エネルギーの開発・利用普及活動が推進されている。また、我が国の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」8)は、地球温暖化の原因と成る温室効果ガスの濃度分布に関するグローバルな観測を目的として世界で初めて打ち上げられた衛星である。CO2回収・貯留(CCS)9)の様に大気中への温室効果ガスの排出を直接抑制できるものではないにしても、CO2の排出源・吸収源を特定する事により、地球温暖化問題への対応に貢献できると期待されている。

 宇宙活動から人類へのより能動的な貢献は可能であろうか。例えば、静止軌道(GEO)等の地球周回軌道に於いて太陽光発電を行って、発電したエネルギーをマイクロ波またはレーザー光で地球に送電する「宇宙太陽光発電」10、11)、また地球−太陽間のラグランジュ点の一つに多数の衛星を配置する等して、地球への太陽光入射量を減少させる事により、地球を冷却化し、地球温暖化問題の解決を目指す「地球の日除け」といった「気候改造技術」(「geo-engineering」または「climate engineering」)12)が提案されているものの、例えばエネルギー問題については上記nature誌の記事7)でも示されている通り、現状では宇宙太陽光発電は技術面・費用面等から、未だ現実的な解決策とは見做されていない。

2-1 地球温暖化対策

 地球温暖化問題は我々人類が直面する喫緊の課題の一つであり、2009年7月にイタリアで開催された主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)では、同年12月のコペンハーゲンでの合意に向け、産業革命からの気温の上昇を2度以内に抑える為に、2050年迄に世界全体で温室効果ガスの排出量を半減する事が再確認13)された。地球温暖化対策の為、温室効果ガスの排出量を削減する事は勿論重要ではあるものの、気候を人為的に操作する気候改造技術は、排出量削減努力のみで温暖化を阻止できない時の緊急避難措置として議論されている14)

 英国王立学士院は2009年9月、気候改造技術に関する包括的な報告書15)を発表した。大気中のCO2を人為的に削減する方法(Carbon Dioxide Removal:CDR)および太陽からの入射光を人為的に操作する方法(Solar Radiation Management:SRM)が議論されている。SRMについては、ピナツボ火山の噴火による火山灰が長期間に亘り大気中に滞留し、入射太陽光が遮蔽された為、気温が約0.5度下がった現象から、その実効性が実証されている。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書16)によると、大気中のCO2の量が産業革命以前の値から二倍に成った場合、放射強制力は約4W/m2増加すると考えられる。なお、放射強制力とは、大気と地表との間のエネルギー平衡状態が、温室効果ガスの濃度変化など様々な要因により変化した際、その変化量を対流圏と成層圏との境界面である圏界面に於ける単位面積当りの放射量(W/m2)の変化で表す指標である16、17)。地表を加熱する効果が有る場合には正の値、また地表を冷却する効果が有る場合には負の値で示される。

 図表2は、太陽と地球との間のエネルギー収支を示しており、地球大気は約235W/m2で平衡状態に成っている事が分かる15)。近似的には入射太陽光を1%減少する事ができれば、放射強制力を約2.35W/m2減少できる事に成り、上記約4W/m2の放射強制力の増加を相殺する為には、入射光を約1.8%減少すればよい事になる。

 図表3は、期待される放射強制力削減量の最大値、単位放射強制力削減当りの年間費用およびリスクの観点から、様々なSRM手法を比較したものである15)。@居住地域の建物・道路等のアルベド(注:太陽からの入射光に対する反射光の強度の比)を増加させる手法、A草原・穀物をアルベドの高い品種に変更する手法、B砂漠をアルベドが高い物質で覆う手法、C海水を上空に噴出して、海洋上空の雲形成核(CCN)の数密度を増加させる事により、雲のアルベドを上昇させる手法、Dピナツボ火山の噴火で実証された様に、成層圏のエアロゾルを増加する事により、入射太陽光を反射する手法、およびE例えば、太陽と地球との重力が均衡するラグランジュ点の一つ(図表4のL1)に反射鏡等を設置する事により、地球への入射太陽光の量を削減する手法、ならびに参考として、F通常の温室効果ガス排出削減対策が比較されている。

 潜在的リスクは除き、費用面だけ見ると、通常の削減対策に比べ、雲のアルベドの上昇または成層圏のエアロゾルの増加による地球の冷却方法は魅力的である。必要な技術の完成時期を除けば、第一印象では高額に成るかと思われる宇宙反射鏡も、この比較ではかなり安価に見積もられている。

 図表5は、IPCCの六つの温暖化シナリオの内、「A2シナリオ」をベースに、気候モデルを使用して、気候改造技術による冷却効果および「中止による影響」をシミュレーションにより評価した結果を示している18)。図表5の左側は、二酸化炭素の増加による放射強制力の増加を2000年(GEO:青)、2025年(ON_2025:緑)、2050年(ON_2050:橙)および2075年(ON_2075:紫)に各々、気候改造技術で相殺し始めた場合の表層大気温度などのシミュレーション結果である。同じく右側は、2000年から気候改造技術により二酸化炭素の増加による気温の上昇を相殺し始めた場合(GEO:青)をベースに、気候改造技術を2025年(OFF_2025:緑)、2050年(OFF_2050:橙)および2075年(OFF_2075:紫)に各々、中止した場合の表層大気温度などの変化を示している。

 SRMが実施される場合、長期間を要するCDRと比べ、気温は数年程度で低下する事ができる。しかし、大気中に在る二酸化炭素その他の温室効果ガスを削減するものでは無い為、一旦実施されたSRM対策を中止した場合、急激な温暖化が起こり、それによる環境変化に見舞われる事15、18)になるので、SRM対策を継続する事が必須になる。大気中の二酸化炭素の溶融による海水の酸性化19)の問題も残る。二酸化炭素の極めて長期的な大気中滞留期間を考慮すると、二酸化炭素排出量の削減およびCDRによる大気中の二酸化炭素の除去もまた必須という事に成る。

 英国王立学士院の報告書15)は、気候改造技術が単一の国家・組織などによる単独行動で実施される場合、他の国・地域に悪影響を及ぼす可能性も有る為、国際協力による研究開発・評価、国連などの国際機関による多国間枠組みでの管理なども併せて勧告している。

2-2 宇宙太陽光発電

 太陽は自然の核融合炉であり、実現に向け研究されている地上の核融合炉とは異なり、約46億年前から既に存在している。宇宙太陽光発電は、一日24時間、一年365日、昼夜・天候・季節に関係無く発電でき、間歇的な地上の太陽光発電および風力発電と異なり、ベース電力を供給可能である10、11)。太陽光の強度(図表6)は、地球近傍の宇宙空間では約1,366W/m2であり、一方、地上では大気による散乱・吸収および季節・気象・昼夜の変化による影響を受ける為、平均約250W/m2である11)

 太陽光の単位面積当りエネルギー強度は軌道上の方が大きい為、GW級発電の為の大規模宇宙構造物が検討された事もある20)。宇宙太陽光発電衛星は、発電した電力をマイクロ波またはレーザー光で送電する事が想定されており、送電ビームによる環境・生物への影響が懸念される一方で、安全対策として、地上受信アンテナ周辺に於けるビーム強度を、例えば米国労働安全基準(OSHA)の上限値10mW/cm2以下21)とすれば、生物への影響は殆ど無いとの主張22)および調査結果23)も有る。発電所からの送電網などのインフラが整備されていない地域への電力供給5)といった利用も考えられる。

 米国防総省の宇宙国家安全保障室は、原油価格が高騰していた2007年10月10日、宇宙太陽光発電に関する報告書11)を公表し、この報告書の公表は我が国でも新聞などで報道された。宇宙太陽光発電は、後述する宇宙エレベーターと同様に古くて新しいアイデアである。米国アーサー・D・リトル社のピーター・グレイザー博士が1968年、マイクロ波送電による宇宙太陽光発電を提唱した後、オイルショックに遭遇した1970年代から80年代初めには、米エネルギー省(DOE)および米国航空宇宙局(NASA)が共同研究を行い、「1979年参照システム」を発表した20、24、25)

 この共同研究によると、平板状の太陽光発電衛星(SPS)は、本体の寸法約5km×10km×0.5kmおよび送電用アンテナの直径約1kmで、一基当り約5〜10GWの電力を連続的に発電する20)。約60基のSPSを静止軌道上に配備する構想で、低高度軌道への物資の運搬に要する費用の削減の為、例えば、二段式完全再使用型宇宙輸送機が必要とされた20)。事業費見積もり20)は、一基のSPSを含む先行研究開発費、一基のSPSの調達費および一基のSPS当りの年間保全費用が1977年ドルで各々、約1,024億ドル、約113億ドルおよび約203.4百万ドルとされた。最終的に、全米研究評議会(NRC)および米国議会技術評価局(OTA:当時)は、技術的には実現可能であるものの、事業としては経済的に成立し得ないとの評価を下した24)。しかし、1990年代および2000年代にも、研究が行われていた25)

 30年間の科学技術の進展に伴い(図表7)、宇宙太陽光発電衛星のコンフィギュレーションも進化しており、宇宙国家安全保障室の報告書11)の例では、太陽光を主鏡および副鏡で集光して太陽電池に照射し、単位重量当りの発電量の増加が図れる設計になっている(図表8)。太陽電池の直ぐ裏側にマイクロ波送電部が設置されており、配線の引き回しの問題も解消されている。

 民間による構想としては、例えば、米PowerSat社の事例26)が有る。静止軌道上に約300機の衛星を配備し、発電した電力は、これら衛星で仮想的な送信アンテナを構成する事により、地上の受信アンテナにマイクロ波で無線送電する構想であり、衛星の低高度軌道(LEO)から静止軌道(GEO)への移動には電気推進系を採用する(これら2件のアイデアについて、特許を申請)。総発電量は約2.5GWであり、薄膜太陽電池セルの採用などにより衛星を軽量化して、打上げ費用を低減する事により、事業費約30〜40億ドルおよび開発期間約10〜12年程度を見込んでいる。

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3.宇宙開発イノベーション

3-1 宇宙開発イノベーションの必要性

 図表9に宇宙太陽光発電システムの費用見積もりの一例を示す27、28)。この見積もりは、宇宙空間では常時発電できる事を利用したベース電力供給に供する場合のもので、2020年〜2030年頃の実現を想定している。打上げ費用は、実際の値ではなく、宇宙太陽光発電システムが地上システムと競合できるように成る為に要求される値である。宇宙太陽光発電システムが地上システムと競合できるように成る為には、現状の打上げ費用から最大二桁程度の改善を要する事が分かる。欧州では、サハラ砂漠に広大な太陽熱発電システムを構築する事により、再生可能エネルギーの利用拡大を目指す動き29)が有り、これが実現する場合、少なくとも欧州にとって、宇宙太陽光発電の実現を目指す意義が薄れる。

 上記の通り、宇宙太陽光発電、地球の日除けなど宇宙開発は可能性として地球規模の問題を解決する事ができるものの、現状の技術レベルでは、例えば打上げ費の問題が有り、経済的実現性が乏しいと考えられる。新たな可能性の開拓の為には、既存の技術の延長ではなく、斬新な概念で宇宙システムを実現できるイノベーションが必要に成る。米国有人宇宙飛行計画再検討委員会は、2009年9月8日に暫定報告書30)を公表した後、同年10月22日に最終報告書31)を公表し、NASA有人月・惑星探査計画は、予算が当初の見込み通りに伸びなかった結果、現状のままでは意義の有る計画の実現は不可能であるとして、予算の増額と共に、探査目的・手段の見直しを提言した。NASAの大規模宇宙開発プロジェクトでも度々、コストが問題となる。

 この様な現状に対し、米国の研究者5)は、図表10に示す原則を掲げつつ、宇宙開発イノベーションの実現の為に発想の転換を提唱している。イオンエンジンといった次世代宇宙推進系である電気推進系の採用ならびに主衛星およびテザーと呼ばれるケーブルで構成されるテザー衛星の活用に加え、打上げ環境に耐える為の高剛性の構造物を開発するのではなく、形状の変更が可能な薄膜の宇宙空間での展開または極めて多数の衛星の協働により、大口径アンテナを実現する事を提唱している。図表11は、図表10に示す原則の内、「構造は情報で代替」するとの原則を具体化する方法を述べたものである。打上げ時には必要であるものの、宇宙空間では実質的に不必要なトラス構造に代わって編隊飛行を採用する事、また剛構造ではなく表面形状の変更が可能な薄膜により軽量な大型鏡面を軌道上展開する事などが提案されている。

3-2 宇宙開発イノベーションの構想例

(1)宇宙エレベーター

 宇宙エレベーターは実現すれば、宇宙活動に画期的変化をもたらす可能性が有る。露科学者コンスタンチン・ツィオルコフスキーが1895年にアイデアを発表した宇宙エレベーター32〜34)は現在、重心が静止軌道を周回しつつ、テザー全体が重心の周りを一周回当り一回自転するテザー衛星の一種として研究されている。地球の自転エネルギーの利用に加え、リニアモーターカーによる宇宙エレベーター上の移動が実現する場合、下降するペイロード(貨物等の意味)が放出するエネルギーを他のペイロードの上昇に利用できる為、化学推進ロケットと比べ大幅な打上げ費用の低減が期待できるとされている34)

 1960年、露技術者ユーリ・アルツタノフは宇宙エレベーターに関する理論的考察を発表した32、33、36)。彼の論文36)では、ロケットに代わる未来の宇宙輸送系として、一端が赤道上に固定され、重心が静止軌道(GEO)を周回する構造物が考察されている。重心より地球側では地球の中心からの距離の二乗に反比例する重力が優位、一方、反対側では距離に比例する遠心力が優位と成り、地球の中心からの距離約42,166kmの重心では重力と遠心力とが釣り合う引張構造物である(図表12の上)。移動手段としては、最高秒速数kmで移動するリニアモーターカーの様な乗物が想定されており、高度5,000kmに在る最初の停車駅の太陽光発電施設から電力供給を受けるとされている。第二停車駅は静止軌道高度に在り、これから先は遠心力により移動できる為、電力の供給は不要であるとされている。終着駅は高度約60,000kmに在り、食物栽培用温室・観測所・太陽光発電所・作業場・燃料貯蔵庫といった施設に加え、惑星間航行宇宙船の発着場が在り、終着駅の位置では惑星間航行に必要な速度が既に得られている為、地上から発射されるロケットとは異なり、大規模な推進系を使用する事無く、宇宙船の出航が可能であるとされている。

 アルツタノフが論文を発表した東西冷戦時は、当時の東側から西側に情報が伝達する事は無く、米国でも研究者らにより独自に構想が練られていた32、33)。その様な研究者の一人であるジェロウム・ピアーソンは1975年、専門誌に論文34)を発表し、宇宙エレベーターの建設に係る技術的問題は、@自重による挫屈、A材料強度およびB動的安定性であるとして、解析結果を示した。上記@は、圧縮構造ではなく引張構造の採用により解決する事ができ、地球と反対側の端に錘を設けない場合の全長は、約144,000kmと成り(参考:地球─月間の距離は約384,000km)、さらに上記Aは、重力および遠心力のポテンシャルの和を変数として、テザーの幅を指数関数的に変化させる事により解決できるとした34)

 米国のウィリス・タワー(シカゴ)およびエンパイアステートビルディング(ニューヨーク)、マレーシアのペトロナスツインタワー(クアラルンプール)、台湾の台北101(台北)といった現存する超高層ビルは、圧縮構造である為、高さは約400〜500mである。一方、引張構造を採用する事により、理論的には超巨大な宇宙エレベーターの建設が可能に成る。

 上記Bについては、月の潮汐力による縦振動、および、共振を起こす速度での移動時間は数時間程度に制限する事を条件として、ペイロードの昇降運動による横振動を解析した結果、宇宙エレベーターは動的に安定であるとした34)

 図表13は、代表的な高強度材料の物理特性と共に、上記の通り指数関数的にテザーの幅を変化させた時の静止軌道上での幅と地上での幅との比(テーパー比)を示したものである(特性速度については後述する「MMOSTT」を参照)。現実的なテーパー比を実現する為には超高強度かつ低密度の材料が必要と成り、メガメートル(Mm:メガは106)規模のCNTケーブルの実現が必須と成る。月では重力が地球の約6分の1と小さく成る為、月面での宇宙エレベーターは現状の高強度材料を使用する事で建設可能である37)とされている。なお、CNTケーブルについては、微視的スケールでの材料強度は、欠陥などの為に巨視的スケールでは実現できず、巨視的スケールでの強度はかなり低下するとの説38)も在る。

 輸送系としての宇宙エレベーターの最大の特長は、地球の自転エネルギーを再生可能エネルギーとして打上げに利用できる点である34)。化学推進ロケットによる打上げでは、ペイロードは、推進剤の燃焼から得られる熱エネルギーによって、地球周回などに必要な位置エネルギーおよび運動エネルギーを獲得する。一方、宇宙エレベーターによる打上げでは、ペイロードは、上昇する際に宇宙エレベーターを介し、地球の自転エネルギーを分け与えられる為、静止軌道高度に達した時には、静止軌道周回に必要なエネルギーを既に獲得している。宇宙エレベーターの最先端は、重心と同じ角速度で回転している為、進行方向の速度は約10.93km/sに成り、ここから放出されるペイロードは、太陽系内に於いて、地球より内側では0.39天文単位(AU:1AUは太陽─地球間の平均距離で、約1.5億km)に在る水星および地球より外側では9.6AUに在る土星まで飛行可能に成る。更には、重心の在る静止軌道高度から最先端まで宇宙エレベーター上で遠心力により加速すると、ペイロードは、上記進行方向の速度に加えて動径方向にも約10.1km/sの速度を得る事ができ、土星以遠の太陽系天体への飛行も可能に成る。地球の自転と同期して赤道面内を回転する宇宙エレベーターによるハンマー投げの威力は凄まじい。かつてのローマ帝国により敷設されたローマ街道が、当時の陸上交通インフラと成った様に、宇宙エレベーターは未来の宇宙交通インフラに成り得るかもしれない。

 宇宙エレベーター建設に於ける最大の問題点は、大量の材料を必要とする事である。テーパー比10の超高強度材料、ケーブルの最小断面積50cm2および米国スペース・シャトルの使用を仮定した場合でも、宇宙エレベーター建設に必要な打上げ回数は、非現実的な約24,000回に成ると算出されている34)。その為、蜘蛛の糸手法による宇宙エレベーター建設39、40)も検討されている。最初は、静止軌道に衛星を配備し、そこから細いケーブルを展開し、以後は、地上から送信されるマイクロ波またはレーザー光によってエネルギー供給を受ける登坂機でケーブルを追加し、徐々に構造を強化する構想である。

 風・雷・放射線・原子状酸素・宇宙デブリ(塵)・小型隕石等による劣化・損耗に加え、赤道面内で運動する為、常に赤道面を通過する低高度軌道(LEO)周回衛星と衝突する可能性も有り(図表12の下)、国際協力による宇宙交通管理(STM)の確立41)が必要となる。万が一倒壊した場合、一部は地球を周回、一部は大気中で炎上、一部は地表に落下する事に成る。

 宇宙エレベーターのミニチュア版としては、例えば、センサーなどを備えたテザーの一端が低高度軌道に在る静止衛星が考えられ5)、これが実現すれば、赤道上空の定位置からの高分解能画像の取得が可能となる。

(2)MMOSTT

 MMOSTT(Moon & Mars Orbiting Spinning Tether Transport)という構想も、宇宙エレベーターと同様、テザー衛星の応用例である42、43)。片側に質量的に錘にも成る制御部を備えた全長約100kmおよび総重量約20tのテザー衛星が、赤道面内の低高度軌道を周回しつつ、重心の周りを自転する。高度約300kmを飛行する極超音速機などから受け取ったペイロードに自身のエネルギーを分け与える事により、ペイロードを静止遷移軌道(GTO)、月遷移軌道(LTO)その他の高エネルギー軌道へ投入する(図表14)。通常は軌道に廃棄され宇宙デブリ(塵)に成るのみの打上げロケット上段部も、錘としての重量を稼ぐ為に、制御部に接続される。制御部と反対側の端には、ペイロードを捕捉する為のペイロード把持部が有る。ペイロードから見た場合、MMOSTTのペイロード把持部は非常に急速に上空から降下し、直ちに上昇する為、非常に短時間でのペイロードの捕捉が要求される。MMOSTTは、謂わば、軌道上に於いて空中ブランコおよびハンマー投げを行う。

 ペイロード捕捉および放出に伴うエネルギー損失は、太陽電池パネルで発生した電流をテザーの通電部に流して、地磁気との間で相互作用(ファラディ効果)を行う事により、進行方向に推力を発生して回復可能であり、原理的には推進剤が不要である42、43)。軌道配備には、現状の技術を使用する場合、化学推進ロケットが必要であるものの、以降は太陽光エネルギーという再生可能エネルギーを利用した宇宙輸送系を構成し得る。

 MMOSTTも宇宙エレベーターと同様、テザーに使用する材料の強度が問題である42、43)。重量最適化の為、テザーの幅を指数関数的に変化させる必要が有り、テザー重量とペイロード重量との比(MT/Mp)は、ペイロードに分け与える速度増分(ΔV)と材料の強度および密度に依存する特性速度(VC:図表13を参照)との比(ΔV/VC)の二乗を冪とする指数関数に比例する42)。GTOおよびLTOへの軌道投入には、約3km/s程度の速度増分が必要である為、二回に分けて速度増分を与える事により、スペクトラ2000など現状利用できる高強度材料を使用して、MMOSTTは実現可能であるとされている43)

(3)帆推進

 電気推進系の一種であるイオンエンジンは、推進剤排出速度が化学推進系の約10倍であり、約10分の1の推進剤消費量で化学推進系と同等の速度変換を得る事ができる為、我が国の小惑星探査機「はやぶさ」といった大きな速度変換を必要とする太陽系探査ミッション、長寿命化が求められる静止通信衛星などに使用されている44)。イオンエンジンは@太陽光エネルギーを電力に変換し、Aその電力で推進剤をイオン化して電場で加速・排出する事によって推力を発生させており、二段階で太陽光エネルギーから推力を得ている事になる。

 一方、太陽エネルギーを直接推力に変換し、推進剤を全く必要としない帆推進という技術も古くから研究されている45)。その一つは、光の粒子性による太陽光輻射圧を利用し、宇宙機搭載の鏡で太陽光を反射する事により推力を得る太陽帆(ソーラーセイル)である。もう一つは太陽風プラズマと宇宙機搭載の超伝導磁石が発生する磁場との間の相互作用を利用し、太陽風プラズマを逸らす事により推力を得る磁気セイルである。

 ソーラーセイルの場合、反射鏡と成る軽量な薄膜の実現が鍵となる45)。太陽光輻射圧(prad)から得られる最大加速度は、帆の面積をS、膜の面積密度をρとすると以下の様に成る。

 帆への輻射圧/帆の質量=(prad×S)/(ρ×S)=prad

 地球近傍の宇宙空間に於ける太陽光輻射圧は約5×10−6Paであり、面積密度約0.01kg/m2の超軽量な薄膜が実現できると仮定すれば、5×10−4m/s2とイオンエンジンと同等の加速度が実現できる45)。1N(〜0.1kg重)程度の推力を得るには、面積=0.2×106m2(=推力/太陽光輻射圧=1N/(5×10−6Pa))から、大きさ約450m×450mの帆が必要であり、帆の質量は約2,000kgである45)

 ソーラーセイルの帆の面積が極めて大きいにも拘らず、得られる推力が小さい事から、(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、イオンエンジンとソーラーセイルとを併用するハイブリッド型のソーラー電力セイル(図表15)が研究されている46)。直径50mにも及ぶ膜面の一部を薄膜太陽電池とする事により、イオンエンジンを始めとする搭載機器に電力を供給する構想で、木星探査などが想定されている。

 JAXAは、ソーラー電力セイルの技術実証の為、2010年度に金星探査機「あかつき(PLANET-C)」との相乗りで小型実証機「IKAROS」を打ち上げる。このミッションにより、@大型膜面の展開・展張、A薄膜太陽電池による発電、Bソーラーセイルによる加速およびCソーラーセイルによる航行技術を実証する計画47)である(図表16)。IKAROSは、イオンエンジンは搭載せず、ソーラーセイルのみで金星方向へ飛行する。

 地球近傍に於ける太陽風プラズマの動圧は約7×10−10Paであり45)、太陽光輻射圧より遥かに小さい為、当然、巨大な帆が必要に成ると考えられる。

 米国の研究者は、太陽風の動圧に屈する事無く帆を拡げて、太陽系を航行する事ができる磁気セイルについて研究した48)。磁気セイルが、地球の磁気圏の様に、太陽風プラズマと磁気流体力学(MHD)的に相互作用する時、磁気セイルは以下に示す加速度(F/M)で運動するとした。但し、ρおよびVは各々、太陽風の密度および速度、またRm、ρm、Iおよびjは各々、磁気セイルの半径、密度、超伝導コイルを流れる電流および電流密度である。μは真空の透磁率(=4π×10−7)である。

 F/M=0.59(μρ2V4Rm/I)1/3(j/ρm

 太陽風の代表的な値としてV=5×105m/sおよびρ=(8.35×10−21kg/m3)/Rs2[Rsは、磁気セイルの太陽からの距離を天文単位(AU)で表した値]、また超伝導コイルについては、Rm=31.6km、ρm=5000kg/m3(酸化銅並み)、j=1010A/m2および直径(φ)=2.52mmを夫々仮定すると、重量約5tの磁気セイル[Iは約50kA、磁束密度(Bm)は約10−6T]は、地球近傍で約0.017m/s2の加速度を受ける48)。超巨大な帆船ではあるけれども、加速性能だけで観れば、磁気セイルはソーラーセイルに勝るとも劣らない。

 この様に巨大な超伝導コイルを宇宙空間で展開するのは、非現実的と考えられていたところ、半径10cm程度のコイルで半径10km程度の小規模な磁気圏を形成して、その磁気圏に荷電粒子を注入すると、磁気圏が拡大されて、太陽風と効率的に相互作用できる為、現実的な推進系が実現できるとの研究成果49、50)が発表された(図表17)。これは磁気プラズマセイルと呼ばれ、推力を得る為に荷電量子の注入が必要であり、推進剤を必要とする事に成るものの、大規模な推力を発生する事ができるとされた為、一時は有望視された。

 その後、この研究発表に対しては、放出される荷電粒子が磁気流体力学的に振舞うとの誤った仮説の下に行われたシミュレーション結果に基づくものであり、この程度の磁場の強度では、太陽風の動圧に耐える事ができず、太陽風はこの様な帆をすり抜けてしまうとの指摘51)がなされた。シミュレーションの前提が妥当でなかった為、映画「マトリックス」の様に電脳空間でのみ成立する仮想的な物理現象であったと云えるかもしれない。

 太陽風に抗して大きな帆を展開する為には、やはり強大な磁場が必要なようである。

3-3 宇宙開発イノベーションが拓く可能性

 米国有人宇宙飛行計画再検討委員会は、軌道上推進剤補給施設の開発を提案している31)。無人の宇宙空間を推進剤の補給を受ける事なく、地表から目的地まで只管突き進む場合と比べ、宇宙輸送系に対する制約が緩和され、宇宙輸送系の開発費・運用費を低減する事が期待できる。航空機並みの運用が可能な二段式完全再使用型宇宙輸送機が実現すれば、シャトルの外部タンクの様に廃棄される部分が無い為、運用費の低減が期待できる。更には、化学推進ロケットと異なり、例えば、ソーラー電力セイル、MMOSTT、宇宙エレベーターといった太陽光エネルギー、地球の自転エネルギーその他の再生可能エネルギーを利用する事ができる宇宙輸送系が実現する時、推進剤が不要または消費量が大幅に減少する為、打上げ費の大幅な低減が実現する可能性が有る。

 打上げ費が低減する時、宇宙へのアクセスがより容易に成り、宇宙機の寿命・信頼性に対する要求が緩和され、宇宙機開発費の低減に繋がる可能性が有る。薄膜・編隊飛行の採用による宇宙機の軽量化・小型化が実現し、より安価な打上げ費で等価な機能の宇宙機を展開する事ができる可能性も有る。打上げ費が大幅に低減すれば、現状は最終的に宇宙デブリ(塵)になる運命の宇宙機も、地球に持ち帰っての再利用化、更には軌道上での保全・修理・改良が実現する可能性も有る。

 軽量かつ強靭なカーボンナノチューブを適切な価格で利用する事ができれば、打上げ機の能力向上および宇宙機の重量削減に繋がる可能性も有る。

 なお、宇宙エレベーター、MMOSTTといった大規模構造物は衝突断面積が大きい為、他の宇宙機、宇宙デブリ(塵)などとの衝突が大きな問題と成る。本稿では述べないけれども、宇宙活動が活発化する時、本格的な宇宙デブリ(塵)対策、国際協力による宇宙交通管理(STM)体制構築が必要になってくると思われる41)。将来に向けた布石として、米連邦航空局(FAA)では、次世代航空管制システム「NextGen」の検討において、航空機のみならず、米空軍が構想している「宇宙即応体制(ORS)」による打上げへの対応も検討しており52)、更に、米国防高等研究機関(DARPA)は2009年9月、宇宙デブリ(塵)問題の根本的解決の為に、情報提供を要請している53)

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4.宇宙開発イノベーションの創出に向けた米国の取り組み

 第3-2項で紹介した宇宙開発イノベーションの構想の例は、ソーラー電力セイルを除き全てNASA先端概念研究所(NIAC)の資金提供を受けて研究されたものである。これ以外にも、系外惑星の観測を目的として、表面形状の変形が可能な薄膜でできた超軽量な直径20〜30mの大口径望遠鏡およびこれらの編隊飛行による仮想的な口径約数百mの超大型望遠鏡に関する研究54)、高解像度な地球観測を目的として、静止軌道に配備された極めて多数の超小型衛星の編隊飛行による仮想的な直径30〜40km程度の大型アンテナに関する研究55)なども行われた。

 NIACは、長期的視点から航空宇宙に係る先端的概念をNASAの将来ミッションに役立てる為に、NASAが1998年2月に米国大学宇宙研究協会(USRA)に委託して設立した外部機関である56)。現在進行中のプロジェクトへの技術支援は目的とはせず、10年〜40年先の将来ミッションを対象とし、新たなイノベーションの創出を目的としていた(図表18)。技術成熟度(TRL)57)としてはTRL1〜2の基礎研究が対象であった。また、米国民、特に青少年の科学技術への関心を高める為の普及・啓発活動も実施していた56)

 ブッシュ前米大統領は有人宇宙活動に関し2004年1月、低高度軌道(LEO)という呪縛を逃れて、1960〜70年代のアポロ計画の様に、月その他の太陽系天体へと有人宇宙活動を再度展開する為の構想58)を発表し、NASAはこの構想の実現に着手した。しかし、皮肉にもその後の予算が伸び悩んだため資金難に陥り、その煽りを受けてNIAC運営委託契約は打ち切られる事となり、NIACは2007年4月31日をもって活動を停止した59)

 NIACは約9年間の運営期間中、総計約36.2百万ドルの資金提供を受け、その内約70%を研究資金として外部に提供し、残る約30%を組織運営費として使用した56)。NIACが行った研究助成には、@期間約6ヵ月、研究資金約50,000〜75,000ドルで初期の概念検討を行う「フェーズ1」およびA期間24ヵ月以内、研究資金約400,000ドル以内で更に検討を進める「フェーズ2」があった。受領した研究提案は総数1,309件に昇り、126件のフェーズ1研究および42件のフェーズ2研究に対し、総計27.3百万ドルを提供した。研究テーマの中には、将来的な有望性から、米国防総省その他の機関から追加の研究資金を獲得したものもある。なお、NIAC存続期間に於けるNASA年間予算31)は約130億〜170億ドルであった。

 全米研究評議会(NRC)は、NASAでは従前、先端的な概念を生み出す為、NIACという仮想的な機関の運営が委託されていたけれども、予算難の為、NIAC委託契約が中止され、その結果、NASAが外部組織による宇宙開発イノベーション創出の機会を失った状況を踏まえ、2009年に報告書60)を発表した。

 この報告書では、NASAが現状、プロジェクト開発にのみ専念し、先端的な研究開発に先行投資しない事は、米国の将来の宇宙開発にとってマイナスであるとして、NIACの復活が提言されている60)。但し、NASAの将来プロジェクトに貢献できる可能性を高める為、改善案も出しており、10年後の実現を視野に入れた研究も対象に含める事、フェーズ1および2の期間・研究資金枠を拡大する事、概念のより本格的な実証を行う為、期間約4年以内および研究資金約5百万ドル以内の「フェーズ3」を新設する事などを勧告している。また、提案要請周知先の拡大、専門分野・年齢・性別なども含め、提案審査員の拡充も必要と勧告している。宇宙開発イノベーションを構想する為には、極めて先進的な提案を行い得る研究者・技術者の育成と共に、その様な提案を審査・採択し得る機能も重要である。

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5.おわりに

 「人が想像できる事は必ず人が実現できる」とは、SF作家ジュール・ベルヌの言葉であり、かつてTVコマーシャルでも使われていた。人のアイデアが、全て実現できる訳ではないにしても、実現した場合に多大な影響を及ぼした事例は確かに存在する。例えば、実現前には夢物語であったかもしれない蒸気機関の発明による産業革命、更には自動車・航空機といった交通手段の大衆化は、我々の社会・生活様式を一変した。

 宇宙開発に於いて、ロケット・人工衛星といった既存技術の改良が重要である事は、論を待たない。一方、地球規模の課題への対応に関し、宇宙開発は様々な可能性を秘めており、新たな可能性の開拓の為には、10 年以上先の未来を目指し、イノベーション創出に向けた努力も重要である。

 宇宙開発イノベーションが進展する時、どの様な世界が拓けるのか。かなり楽観的な予測ではあるけれども、図表19は宇宙開発イノベーションの進展がもたらす効果の一例5)である。宇宙システムの重量・コストが数パーセントではなく、何桁ものオーダーで削減される時、その効果がもたらす影響は現状の我々では全く予測できないであろう。正に良い意味でナシーム・ニコラス・タレブが言う所61)の「ブラック・スワン(黒い白鳥)」の出現に我々は驚く事になるかもしれない。

 1960年代頃のアポロ計画は東西冷戦下、米国の威信を賭けた人類初の有人月探査計画で、燃料電池62)、計算機63)など数多の技術進歩がもたらされたと言われている。本稿で述べた様な宇宙開発イノベーションが実現する場合、人類にもたらされる社会的影響は如何程のものか。主要先進国の一員である我が国においても、既存概念に囚われる事無く、全く新たな概念で宇宙開発を推進できるように成る為に、先端的な研究活動に本格的に取り組み、宇宙開発にイノベーションをもたらし、宇宙開発による社会・経済への貢献を一層強化したいと考える。NIACと同様56)、この様な先端的な研究活動の普及・啓発により次世代を担う青少年の科学技術に対する関心を高める事も期待できる。

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1) “Arthur C Clark:Predictions,” BBC NEWS online, March 19, 2008:http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/7304852.stm

2) 「技術戦略マップ2009 ナノテクノロジー分野」、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、2009年4月30日HP掲載:http://www.nedo.go.jp/roadmap/2009/nano1.pdf

3) “Tunguska at 100,” Nature, Vol.453, Issue no.7199, June 26, 2008, pp.1157-1159

4) 「ツングースカ大火球 100年の謎」、L.ガスペリニ、E.ボナッティおよびG.ロンゴ、日経サイエンス2008年8月号、pp.36-42

5) “Advanced Space System Concepts and Technologies:2010-2030+,” Ivan Bekey, The Aerospace Corporation, ISBN 1-884989-12-8, 2003

6) “America’s Future in Space:Aligning the Civil Space Program with National Needs,” Committee on the Rationale and Goals of the U.S. Civil Space Program, National Research Council, ISBN 0-309-14037-4, 2009: http://www.nap.edu/catalog/12701.html

7) “Electricity without Carbon,” Nature, Vol.454, August 14, 2008, pp.816-823

8) JAXAのHP「人工衛星プロジェクト いぶき(GOSAT)」:http://www.satnavi.jaxa.jp/project/gosat/index.html

9) “Carbon capture plant backed by EU,” BBC NEWS online, October 16, 2009:
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/south_yorkshire/8311286.stm

10) JAXA HP「宇宙エネルギー利用(太陽光の利用)」:http://www.ard.jaxa.jp/research/hmission/hmi-ssps.html

11) “Space-Based Solar Power as an Opportunity for Strategic Security:Phase 0 Architecture Feasibility Study:Report to the Director, National Security Space Office:Interim Assessment,” October 10, 2007:
http://www.nss.org/settlement/ssp/library/final-sbsp-interim-assessment-release-01.pdf

12) 「温暖化の究極の解決策!?地球に日よけ」、ロバート・クンジグ、日経サイエンス2009年6月号、pp.60-70

13) 外務省HP「G8首脳宣言(Responsible Leadership for a Sustainable Future)」:
http://www.mofa.go.jp/policy/economy/summit/2009/declaration.pdf

14) “The Geoengineering Option-A Last Resort Against Global Warming,” David G. Victor, M. Granger Morgan, Jay Apt, John Steinbruner, and Katherine Ricke, Foreign Affairs, March/April 2009

15) “Geoengineering the climate:Science, governance and uncertainty,” the Royal Society, September 2009:
http://royalsociety.org/displaypagedoc.asp?id=35217

16) “Climate Change 2007:The Physical Science Basis. Contribution of Working Group I to the Fourth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change,” Susan Solomon, Dahe Qin, Martin Manning, Melinda Marquis, Kristen Averyt, Melinda M.B. Tignor, Henry LeRoy Miller, Jr. and Zhenlin Chen(eds), Cambridge University Press:
http://www.ipcc.ch/publications_and_data/publications_ipcc_fourth_assessment_report_wg1_report_the_physical_science_basis.htm

17) EICネット環境用語集「放射強制力」:http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=2419

18) “Transient Climate-Carbon Simulations of Planetary Geoengineering,” H. Damon Matthews and Ken Calderia, PNAS, June 12, 2007, vol.104, no.24, pp.9949-9954:http://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.0700419104

19) “Climate targets‘will kill coral’,” BBC NEWS online, September 2, 2009:
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8233632.stm

20) “Technical Assessment:Satellite Power System Concept Development and Evaluation Program, Volume 1, Technical Assessment Summary Report,” NASA Technical Memorandum 58232, November 1980:
http://www.nss.org/settlement/ssp/library/NASATechnical%20Memorandum58232-SPSTechnical%20Assessment.pdf

21) 米労働省HPの「Radiofrequency and Microwave Radiation Standards」:
http://www.osha.gov/SLTC/radiofrequencyradiation/standards.html

22) “How Safe Are Microwaves and Solar Power from Space?,” John M. Osepchuk, IEEE Micowave Magazine, December 2002, pp.58-64:http://electricalandelectronics.org/wp-content/uploads/2008/10/01145676.pdf

23) “Project Summary:Responses of Airborne Biota to Microwave Transmission from Satellite Power System(SPS),” the United States Environment Protection Agency, EPA-600/S1-84-001, September 1984:以下のEPAサイトで検索。http://nepis.epa.gov/Exe/ZyNET.EXE?ZyActionL=Register&User=anonymous&Password=anonymous&Client=EPA&Init=1

24) “A Fresh Look at Space Solar Power:New Architectures, Concepts and Technologies,” John C. Mankins, International Astronautical Federation IAF-97-R.2.03, 1997: http://www.nss.org/settlement/ssp/library/1997-Mankins-FreshLookAtSpaceSolarPower.pdf

25) “Appendix C:US Activities(NASA Report) of the International Union of Radio Science(URSI) White Paper on Solar Power Satellite(SPS) Systems,” 2007:http://www.ursi.org/WP/Appendices070529.pdf

26) PowerSat社HP:http://www.powersat.com/

27) “Earth & Space-Based Power Generation Systems-A Comparison Study:A Study for ESA Advanced Concepts Team,” Blandow, V., Schmidt, P., Weindorf, W., Zerta, M., Zittel, W, Bernasconi, M., Collins, P., Nordmann, Th., Vontobel, Th., and Guillet, J., European Space Agency Contract No.17682/03/NL/EC, January 2005:
http://www.esa.int/gsp/ACT/doc/POW/GSP-RPT-SPS-0503%20LBST%20Final%20Report%20Space%20Earth%20Solar%20Comparison%20Study%20050318%20s.pdf

28) “Peter Glaser Lecture:Space and a Sustainable 21st Century Energy System,” Ongaro, F. and Summerer, L., 57th International Astronautical Congress, Paper IAC-06-C3.1.01, 2006:
http://www.esa.int/gsp/ACT/doc/POW/ACT-RPR-NRG-2006-IAC-SPS-Peter_Glaser_Paper.pdf

29) DESERTECH FoundationのHP:http://www.desertec.org/index.html

30) “Summary Report of the Review of U.S. Human Space Flight Plans Committee,” September 8, 2009:
http://www.nasa.gov/pdf/384767main_SUMMARY%20REPORT%20-%20FINAL.pdf

31) “Seeking a Human Spaceflight Program Worthy of a Great Nation,”Review of U.S. Human Spaceflight Plans Committee, October 22, 2009:http://www.nasa.gov/pdf/397898main_HSF_Cmte_FinalReport_High.pdf

32) “The Space Elevator:‘Thought Experiment’, or Key to the Universe,”Arthur C. Clark(First Published in Advances in Earth Oriented Applied Space Technologies, Vol.1, pp.39-48, Pergamon Press Ltd., 1981. Printed in Great Britain):
http://wiki.spaceelevator.com/Open_Wiki/Documents/Articles/The_Space_Elevator%3a_'Thought_Experiment'%2c_of_Key_to_the_Universe%3f

33) “Audacious & Outrageous:Space Elevators,”Science@NASA Headline News, September 7, 2000:
http://science.nasa.gov/headlines/y2000/ast07sep_1.htm

34) “The orbital tower:a spacecraft launcher using the Earth’s rotational energy,”Jerome Pearson, Acta Astronautica, Vol.2, pp.785-799, Pergamon Press Ltd., 1975:http://www.star-tech-inc.com/papers/tower/tower.pdf

35) “The Space Elevator,”Bradley C. Edwards, presented at the June 2001 NIAC Annual Meeting:
http://www.niac.usra.edu/files/library/meetings/annual/jun01/521Edwards.pdf

36) “To the Cosmos by Electric Train,”Yuri Artsutanov, July 31, 1960(Russian to English translation. First published in the Young Person’s PRAVDA):http://wiki.spaceelevator.com/@api/deki/files/13/=Artsutanov_Pravda_SE.pdf

37) “NIAC Phase I Study:Lunar Space Elevators for Cislunar Space Development,”Jerome Pearson, Star Technology and Research, Inc.:http://www.niac.usra.edu/studies/1032Pearson.html

38) “On the Strength of the Carbon Nanotube-based Space Elevator Cable:From Nano- to Mega-Mechanics,”Nicola M. Pugno, arXiv:cond-mat/0601668v1, January 30, 2006:http://arxiv.org/ftp/cond-mat/papers/0601/0601668.pdf

39) “NIAC Phase I Study:The Space Elevator,”Bradley C. Edwards, Eureka Scientific, Inc.:
http://www.niac.usra.edu/studies/472Edwards.html

40) “NIAC Phase II Study:The Space Elevator,”Bradley C. Edwards, Eureka Scientific, Inc.:

http://www.niac.usra.edu/studies/521Edwards.html

41) “Cosmic Study on Space Traffic Management,”International Academy of Astronautics(IAA), ISBN 2-9516787-5-4, 2006:http://iaaweb.org/iaa/Studies/spacetraffic.pdf

42) “NIAC Phase I Study:Tether Transport System for LEO-MEO-GEO-Lunar Traffic,”Robert P. Hoyt, Tethers Unlimited, Inc.:http://www.niac.usra.edu/studies/7Hoyt.html

43) “NIAC Phase II Study:Moon & Mars Orbiting Spinning Tether Transport Architecture Study,”Robert P. Hoyt, Tethers Unlimited, Inc.:http://www.niac.usra.edu/studies/373Hoyt.html

44) 「月・惑星探査における我が国の宇宙開発能力」、清水貴史、科学技術動向2008年8月号(No.89)、pp.20-36:
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt089j/index.html

45) 「磁気プラズマセイルの研究と深宇宙探査への挑戦」、舟木一幸および山川宏、プラズマ・核融合学会誌、Vol.83、No.3、2007年、pp.281-284:http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2007_03/jspf2007_03-281.pdf

46) 「ソーラー電力セイル実証計画について」、ISASニュース、2005年3月号(No.288):
http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/No.288/mission-05.html

47) 「小型ソーラー電力セイル実証機(IKAROS)の計画概要」、森治、2009年9月9日:
http://www.jaxa.jp/press/2009/09/20090909_sac_ikaros.pdf

48) “The Magnetic Sail:Final Report to the NASA Institute of Advanced Concepts,”Robert Zubrin and Andrew Martin, Pioneer Astronautics, January 7, 2000:http://www.niac.usra.edu/files/studies/final_report/320Zubrin.pdf

49) “NIAC Phase I Study:Mini-Magnetspheric Plasma Propulsion(M2P2), NIAC Award No.07600-010, Final Report,”Robert M. Winglee, May 1999:http://www.niac.usra.edu/files/studies/final_report/3Winglee.pdf

50) “NIAC Phase II Study:Mini-Magnetspheric Plasma Propulsion(M2P2), NIAC Award No.07600-032, Final Report,”Robert M. Winglee, November 2001:http://www.niac.usra.edu/files/studies/final_report/372Winglee.pdf

51) “Fundamentals of the Plasma Sail Concepts:Magnetohydrodynamic and Kinetic Studies,”G. Khazanov, P. Delamere, K. Kabin and T. J. Linde, Journal of Propulsion and Power, Vol.21, No.5, September-October 2005, pp.853-861:
http://hsd.gsfc.nasa.gov/staff/bios/cs/KhazanovGV/AIAA-3737-130.pdf

52) “Space Transportation Concept of Operations Annex For NextGen Version 1.0,”the Federal Aviation Administration:http://www.faa.gov/about/office_org/headquarters_offices/ast/media/NextGen_ConOps_Space_Annex_final_v1.0.doc

53) “DARPA Orbital Debris Removal,”Solicitation No.DARPA-SN-09-68

54) “NIAC Phase I Study:An Extremely Large Yet Ultralightweight Space Telescope and Array -Feasibility Assessment of a New Concept, NIAC Grant # 07600-006,”Ivan Bekey, Bekey Designs, Inc., May 29, 1999:
http://www.niac.usra.edu/files/studies/final_report/58Bekey.pdf

55) “NIAC Phase I Study:Extremely Large Swarm Array of Picosats for Microwave / RF Earth Sensing, Radiometry, and Mapping, NIAC Research Sub-Award No.07605-003-029,”Ivan Bekey, Bekey Designs, Inc., April 29, 2005:
http://www.niac.usra.edu/files/studies/final_report/942Bekey.pdf

56) “NASA Institute for Advanced Concepts 9th & Final Report 2006-2007,”NASA Institute for Advanced Concepts:http://www.niac.usra.edu/files/library/annual_report/2006annualreport.pdf

57) 「航空科学技術に係る日米欧の研究開発動向」、清水貴史、科学技術動向2009年4月号(No.97)、pp.19-34:
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt097j/index.html

58) “The Vision for Space Exploration,”the National Aeronautics and Space Administration, February 2004:
http://www.nasa.gov/pdf/55583main_vision_space_exploration2.pdf

59) NIAC HP:http://www.niac.usra.edu/

60) “Fostering Visions for the Future:A Review of the NASA Institute for Advanced Concepts,”Committee to Review the NASA Institute for Advanced Concepts, National Research Council, ISBN 0-309-14052-8, 2009:
http://www.nap.edu/catalog/12702.html

61) “The Black Swan:The Impact of the Highly Improbable,”Nassim Nicholas Taleb, Penguin Books, 2008(First published in the United States of America by The Random House Publishing Group 2007 and in Great Britain by Allen Lane 2007)

62) “Apollo’s Fuel-Cell Power Legacy,”BBC NEWS online, July 16, 2009:http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8154721.stm

63) “Weaving the Way to the Moon,”BBC NEWS online, July 15, 2009:http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/8148730.stm

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