米国景気対策法に基づくNIHの研究支援開始

 米国最大の生物医学系国立研究機関であるNIHは、2009年2月に成立した米国景気対策法による104億ドルの予算配分を受けて研究グラントを創設し、翌3月から次々と研究課題の公募を開始した。米国民の長寿と生活の質の向上のための科学に資金支援を行い、経済を刺激することが狙いである。対象には、生物医学や行動学研究に対するブレークスルーを目指す研究資金支援のほか、研究施設の建設・修繕・改良や装置の購入支援、自閉症研究支援、学生や科学教師への教育支援も含まれる。景気対策法のもとに急発進でイノベーションを創出しようとする動きとみられる。

インタフェース規格見直しによるSSDデータ転送の高速化

 2009年3月、米国Fusion-io社は、データ転送速度が一般従来品に比べ6〜8倍になるSSD(Solid State Drive / Solid State Disk)を発表した。SSDは多数のNAND型フラッシュメモリから構成され、機械的可動部を持たないことからデータアクセスまでの時間を短くでき、さらに高速データ転送・耐振性・静寂性・省エネルギーなどの点でHDD(Hard Disk Drive)より優位にあると考えられるデータストレージ機器である。今回の製品はインタフェースにPCI Express を用い、また、独自の並列処理技術を組み込むことで高速化を図り、最大データ転送速度は読み込みで1.5ギガバイト/秒、書き込みで1.4ギガバイト/秒を実現している。このようなSSD高速化技術は、現時点では対応コンピュータの種類が限られるものの、今後のストレージ機器の選択肢を大きく広げていくものと考えられる。

製鋼スラグを用いた藻場造成によるCO2吸収効果確認試験

 2009年3月17日、川崎市は、地域企業・NPO法人、県内外の大学・研究機関と連携し、製鋼スラグを用いた藻場造成による温室効果ガスの固定化技術の開発と、同技術を活用した川崎港での実証試験を行うと発表した。計画によれば、研究期間は2009年度1年間で、製鉄所から発生する製鋼スラグと港湾の浚渫土を混合して海藻類の育成に効果的な基盤材料を開発し、川崎港内4箇所に敷設して実証試験を行う。海藻類育成効果・CO2吸収量・海藻類を原料としたバイオガス生成量などを定量的に評価する。得られた成果は、国際フォーラムや国際展覧会等を通じて、国内だけでなく海外へも発信し、環境技術による低炭素社会の構築に貢献することを目指す。なお、この開発は、経済産業省「低炭素社会に向けた技術シーズ発掘・社会システム実証モデル事業」に採択されている。

下水処理水の修景利用における藻類増殖抑制技術

 下水処理水の再利用は、都市における貴重な水資源確保の方策として重要性が高まっている。(独)土木研究所水環境グループ水質チームは、下水処理水を修景用水として利用する際に問題となる藻類増殖を抑制する新たな技術を開発した。試験水路で実証試験を行い、付着藻類量を蒸発残留物量で7分の1程度に抑制できたと2009年2月2日発表した。新技術は、微生物保持担体を添加した反応槽で下水処理水を曝気し、藻類の増殖に必要な微量必須元素のひとつであるマンガンを微生物により除去し、藻類増殖を抑制する方法である。また、魚類にメス化の影響をおよぼす女性ホルモンの除去効果もある。

鉄鋼業の温暖化対策とセクトラル・アプローチ

 我が国の鉄鋼業は1970年代から省エネルギーに取り組み、鉄鋼生産単位当たりの温室効果ガス排出原単位は各国と比較して低くなっている。日本の鉄鋼業は、1996年から自主行動計画を作成して対策を実施し、鉄鋼生産工程における省エネルギーなどで着実な成果を挙げてきた。2010年に向けてさらなる排出削減に加え、京都議定書に基づくクリーン開発メカニズム(CDM:Clean Development Mechanism)も活用した目標の達成を考え、また、長期的視野から抜本的革新技術の開発にも着手している。

 一方、世界の鉄鋼生産は、2000年以降、中国など新興国の生産が急増し、温室効果ガス排出が増大している。京都議定書が想定しているCAP&TRADE方式の規制では、競争条件の違いにより規制の緩い国で鉄鋼生産が増大するため、世界全体としては排出ガス量の増大を招くことが指摘されている。

 そうした中、我が国では排出量の大きな産業セクターを中心として、利用できる最適な技術を世界全体へ広め、生産活動単位当たりの排出量を世界全体で削減し、排出総量を抑える方式(セクトラル・アプローチ)を提唱している。すでに国際協力によるCO2排出削減は進められ、アジア太平洋地域の7カ国が国際協力を進め、セクトラル・アプローチがモデルとすべきものとされている。一方、世界鉄鋼協会ではGlobal SteelSectoral Approach(GSSA)が推進されており、世界的な規模でセクトラル・アプローチが進められようとしている。

 今後は、長期的な革新的技術開発促進という意味でもセクトラル・アプローチを実証的に分析していくことが求められよう。

山地から河川、海域にわたる流砂系問題に対する実証的研究の推進

 我が国では、山地斜面の侵食などにより毎年大量の土砂が生産され、河川に流出している。高度成長時代以降、多数の大規模なダムが建設されたが、土砂流出が激しい流域では大量の土砂が貯水池に捕捉されて堆積している。また、河川や海域では大量の砂利が採取されて、海域への土砂の供給が減少し、さらに、港湾・漁港などの大型の海岸構造物が多数建設されて海岸に沿った漂砂を遮断する状況が生じている。これにより、ダムが本来有するべき機能が低下するとともに、ダム下流域では河床が低下し、河口や海岸では砂浜が侵食されるなど、流砂系のアンバランスによるさまざまな問題が顕在化している。

 流砂系問題の解決には、流送土砂の連続性を確保し土砂がバランスよく供給されるメカニズムを取り戻すことが必要である。しかしながら、土砂の移動現象は広範囲にわたり、また土砂動態の複雑さ・測定の難しさなどから、流砂に関わる実態の把握は十分とはいえない。このため、土砂を流下させた場合に懸念される河床上昇による洪水氾濫のリスクの増大や生態系への影響を評価し制御する技術、さらに河川からの土砂の供給による海岸侵食の改善効果などを予測する技術がまだ確立されていない。

 まずはモデル流砂系地域を特定し、これに対して土砂移動の実態をモニタリングによって的確に把握し、生じている問題およびその箇所、因果関係、影響範囲などを流砂系全体の視点で改めて的確に診断することから始める必要がある。その上で、各領域で必要な流砂の量と粒径についての改善目標を明らかにし、適切な土砂の供給対策を防災、利用、環境の観点から一体的に考える、問題解決型の一貫した実証的研究が必要である。また、多岐にわたる行政や学問分野が連携して調査・研究活動を行い、流砂系に関わる学問分野が学術的に発展でき、さらに総合的土砂管理の制度構築への反映をも視野に入れた研究フォーラムを形成することが望まれる。