[レポート2]

排熱回収用
高効率熱電変換材料の研究開発動向

河本 洋
ナノテクノロジー・材料ユニット

1.はじめに

 化石燃料の利用効率はほぼ限界に達しており、今後さらにそのエネルギー利用効率を上げようとすれば、排熱エネルギーを利用するしかない。元々捨てていたものを利用するわけであるから、熱電変換システムの効率がそれほど高くなくても、結果的には化石燃料によるエネルギーシステムの全体的効率は改善される。たとえ熱エネルギーシステムの効率が低くとも、排熱をフレキシブルに使用可能な電気エネルギーに変換することには大きな意味がある。
 現実的に応用が可能な技術によって、熱エネルギーを電気エネルギーに高効率に変換する材料(熱電変換材料)の開発が進められている。しかし、これまでの材料技術およびシステム技術の成果は、他の発電システムに対するコスト競争力を含めて、熱電発電市場を担えるレベルには到達していない。
 ここでは、なぜ高効率熱電発電が今後益々待望されるのかを、各種エネルギーシステムと未利用排熱量、熱電発電システムの有効利用による低炭素社会の観点から述べ、熱電変換材料・製造プロセス、熱電発電システムの普及の条件などから紹介する。はじめに、発電性能の視点でこれまで研究開発されてきた熱電変換材料を概説し、今後重点的に研究開発すべき熱電変換材料について資源供給および低環境負荷の観点から言及する。続いて、ナノ構造制御による革新的熱電変換材料に関する研究開発の現状を述べ、これらの材料の今後の研究開発の進め方を提言する。

2.待望される高効率熱電発電

2-1 各種エネルギーシステムと未利用排熱の再資源化

 図表1に各種社会システムの排熱温度と年間排熱量の関係を示す1、2)。大型発電システム、鉄鋼関連炉やゴミ焼却場における排熱温度は200〜300℃以上であり、排熱回収が進みつつあるが、まだ回収レベルは充分とはいえない。一方、変電所や地下鉄駅などにおける150℃以下の年間排熱量も膨大であり、今後この低温度領域の排熱を有効なエネルギーに回収する技術も確立されれば、社会システム全体のエネルギー消費の大幅な低減に繋がる。例えば自動車の場合、年間排熱量は45.8万Tcalと見積もられるが2)、この排熱のほとんどは化石燃料エンジンから排出される。具体的には、エンジン燃焼室直後の排気マニホールドから後方のマフラーまでの間で排出される(排出ガス温度300〜750℃)。

 図表2に我が国における各種発電システムの現状の効率3)と、熱電発電システム(効率20%)の利用を仮定した発電効率の向上について示す。世界の大規模電力系統の約90%は火力発電による。熱源に化石燃料の燃焼を使い、その発電効率は40〜60%であり(ガスタービンと蒸気タービンの複合発電の場合)、化石燃料の燃焼の40〜60%の熱量(約15TW相当)が排熱になっている。これらの排熱の全てが大気中に捨てられているわけではなく、発電システムの維持管理や給湯、暖房などへの熱源として一部は利用されてはいる。しかし、捨てられている熱エネルギー量が相当多い。これらの未利用排熱エネルギーを効果的に回収できれば、これらの発電システムの総合効率の向上が望める。熱機関として代表的な化石燃料を用いるレシプロエンジン駆動による自動車の場合は、動力として消費されているエネルギーは燃料が保持するエネルギーの30%程度である。高温の排出ガスとして捨てられている排熱エネルギー量も約30%に達する。

2‐2 熱電発電システムの有効利用による低炭素社会

 排熱を有効なエネルギーに回収する技術が確立されれば、社会システム全体のエネルギー消費の低減に繋がり、将来のエネルギー問題だけでなく、地球温暖化などの環境問題の解決にも貢献できる。図表3には、自動車を例にして、排出ガスの排熱エネルギーを用いて熱電発電を行った場合のCO2低減効果について、試算を示す。

 2005年度における我が国の運輸部門CO2排出量は約2.57億トンであり、そのうち、約90%の2.3億トンは自動車が占めている4)。このCO2排出量の大部分が化石燃料エンジンを搭載した自動車の走行時のものとすると、走行時のCO2排出量は自動車ライフサイクル全体でのCO2総排出量の約85%であるため5)、我が国の自動車走行全体でのCO2排出量は約2億トンと推定される。熱電発電システムによって排出ガス排熱エネルギーを電気エネルギーに転換し、再利用することにより燃料消費が低減される。単純に熱電発電効率および燃料消費低減量割合がCO2排出量低減割合と同一になると仮定すると、効率20%の熱電発電効率のシステム導入により年間約4千万トンのCO2低減が可能になる。これにより、我が国の年間の温室効果ガス削減目標(CO2換算)の約50%を達成できる。
 現在、経済産業省は太陽光発電を本格的に普及させるために補助金制度や優遇税制を検討しているが、熱電発電の場合も、将来、本格的に普及させるには同様な制度・税制などが必要と考えられる。しかし、このような政策は以降に述べる技術的課題の克服された後のことであり、現在はまだ必要がない。

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3.熱電発電システム

3‐1 熱電発電メカニズム

 熱電発電モジュールはp型半導体とn型半導体の2種類の素子から構成される。熱電発電のメカニズムを図表4に示す1)。加熱されたn型半導体素子(電子の数が正孔より多い材料)では高温領域の電子が活性化され(運動エネルギーが増え)、低温度領域へ電子が伝導して熱起電力が発生して高温側が高電位になる。一方、p型半導体素子(正孔の数が電子よりも多い材料)では加熱されると高温領域の正孔が活性化され、低温領域に正孔が移動して熱起電力を発生して低温側が高電位となる。両半導体素子を図表4に示すように組み合わせると、n型とp型半導体素子間に電流が流れる(ゼーベック効果と呼ばれる)。熱電変換材料の発電性能は次式の指数Zで表される6〜8)
ZT = S2σT/κ
S:ゼーベック係数(温度差1K当たりの熱起電力、V/K)、σ:電気伝導率(1/(Ω・cm))、κ:熱伝導率(W/(cm・K))、T:絶対温度(K)
 無次元発電性能指数ZTは、Zに絶対温度を乗じた値で、発電性能の指標として用いられている。性能指数の高い、すなわち、高効率の熱電変換材料とは、σおよびSが大きく、κが小さい材料である。

 得られる電力は、高温熱源からの熱流と熱電発電の際の温度差、および素子の熱電特性から決まる効率に依存する。熱電発電系の最大効率は、理想的な熱機関に対する指標であるカルノー効率と、材料効率と呼ばれる素子の物理的性質で決まる効率で与えられる。カルノー効率を50%とした場合、熱電発電モジュールの性能指数と理論発電効率の関係を図表5に示す6)。この図表は、無次元発電性能指数が大きくなればなるほどカルノー効率に近づいていくことを表している。現状のZT≒1の熱電変換材料では理論発電効率は約9%である。

3‐2 熱電発電システムの製造プロセスとシステムの効率

 熱電発電システムは高温熱源、熱エネルギー変換部、低温熱源から構成され、多数の熱電発電ユニットにより構成されている。ユニットは多数の発電モジュールを直列接続された構造となっており、発電モジュールは、図表4に示したように、p型半導体素子と電極、n型半導体素子と電極を基本構成とした一対より成る。
 図表6に熱電発電システムの製造プロセスと発電効率および製造コストに関する模式図を示す。システムの発電効率を高めるためには、半導体材料・素子の熱電発電効率の向上が最も有効である。熱電発電素子の特性の一つであるゼーベック係数Sが数100μV/K程度と小さいので、発電システムの出力、熱源の種類(温度、温度差、熱流量)などによりその数が決まってくる。抵抗率は10-5〜10-4Ωmと通常の半導体より小さいため、熱電発電システムは大電流低電圧型電源となる(数100 V 以下の電圧)。発電システムでは、出力は低電圧かつ直流であるためDC-DC変換器またはDC-AC変換器が必要であり、負荷に必要な電圧およびAC負荷への対応を行う必要がある。通常、高温熱源と低温熱源には、熱流を通過させるためのファンやブロアなどの補助動力が付随する。発電システムの出力としては、総出力からこれらの補機動力を差し引いたものが正味出力となる6)。後述するように、材料・素子の熱電発電効率が低い場合には、それ以外の製造プロセスでシステムの全体の効率を高める必要がある。

 現状の熱電発電の普及を妨げている最大のポイントはシステムの導入および運用における経済性と、機能性の確保にあると考えられる。さらに低コストで使い勝手の良い、高信頼性があるシステムを開発する必要がある。その方法の一つとして、排熱エネルギー回収素子としての使用のみではなく、熱エネルギーの効率的利用のための高速熱流制御素子などの熱機能素子としても熱電発電システムを使用することが考えられる。さらに、様々な熱エネルギーシステムに、排熱エネルギー回収素子を高効率エクセルギー回収機器として利用するシステム化により、全体システムの高付加価値化がある。以上の課題については、民間企業の研究開発機関が競争と協調をスムースに行える仕組みを、国の資金支援も含めて、作る必要がある。

3‐3 熱電発電システムの普及の条件

 システム効率として10%を超えることができれば、熱電発電の普及が促進されるだろうといわれている。そのためには、無次元発電性能指数ZT>2を満たす材料が必要であり、素子効率で15%以上、出力密度で1W/cm2 以上が条件とされる6)

 熱電発電技術を適用すべき分野は、利用する熱源の温度レベルやその形態によって、省エネルギーと環境保全を目的とした大掛かりなシステム、小規模の電源を指向した民生機器への応用など、様々に存在する。それらのシステムと機器の実用化には、経済性、すなわち熱電発電システムのコストとパフォーマンスの確保が重要になる。図表7に各種発電システムにおける単位出力当たりのシステム(プラント)コストを示す。熱電発電のモジュールの価格が現在の太陽光発電システム並みになれば、応用分野は大幅に拡大すると考えられる。現在の太陽光発電システムコストは800円/1W程度にまで低減している9〜12)。したがって、現状の熱電発電システムコストは太陽光発電システムの1.3〜2.5倍程度である。 

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4.熱電変換材料と発電性能

4‐1 これまでの熱電変換材料

 3-3節に述べたように、理想的な熱電変換材料とは、無次元発電性能指数ZTが2以上の材料である。図表8にZTからみた主な熱電変換材料開発の経緯を示す6)。これまでは、ビスマス・テルル(Bi2Te3)、鉛・テルル(PbTe)、亜鉛アンチモナイド(ZnSb)、SiGe、鉄シリサイド(FeSi2)などの金属問化合物が主力材料であった。それらの中で特に、Bi2Te3系化合物は、室温から約450Kまでの比較的低い温度領域でZTが大きい、現在最も多く用いられている熱電変換材料である。

 図表9に熱電変換材料のZTの温度依存性を示す6、13)。それぞれの材料のZTは温度が高くなると増加し、ピーク値に達して低下する傾向にある。Bi2Te3とZn4Sb3は300〜700Kの低・中温度域でZT=1.0〜1.25、AgSbTe2/GeTe (組成比1:1)の化合物は700KでZT≒1.2、Si0.2Ge0.8は約1100KでZT≒0.7の発電性能を有する。500K以下の低温領域ではBiTe系、700〜900Kの中温領域ではAgSbTe2/GeTeおよびCeFe4CoSb12、900K以上の高温領域ではSi0.2Ge0.8、Bi2Sr2Co2Oy、Ca3Co4O9の熱電変換材料のZTが高い。

 実用化できる材料系では、過去50年にわたって、ZT>1へと向上させることは非常に難しかった。その原因は、ZTのパラメータである電気抵抗率と熱伝導率が相互依存的特性を有するためである。しかし最近では、ZT>2の性能をもつ材料もいくつか論文発表されている。同じ材料系でもナノ構造化した熱電変換材料ではZT>1が得られる研究例があるが、しかし、それらの材料(Bi、Te、Pb、Sb、Ag系材料など)では、実際に使用可能なモジュールのサイズにまで大きくする製造プロセスが開発されていない。

4‐2 資源供給に不安がない低環境負荷の熱電変換材料

図表8、9に示したように、現在まで使用されてきた熱電変換材料は、重金属であるBi、Sb、Pb などによる金属間化合物であり、地球上における埋蔵量が少ない元素から構成されている。しかも、これらは、環境負荷の面などから、本格的な実用化は今後ともむずかしいと考えられる。最近、身近に存在する、ありふれた材料で低環境負荷であり、かつ耐熱性が高い金属酸化物が注目されている。しかし、これらは重金属系材料に比べそれらの熱電発電効率が低い6、14、15)

 図表10にこれまで研究されてきた主な熱電変換材料と、今後重点的に研究開発すべきと考えられる材料系を模式的に示す。今後は、原料資源の埋蔵量が豊富で、低コストでシステムを構成でき、しかも低環境負荷となるシリサイド系と金属酸化物系材料の研究開発に重点をおくべきであると考えられる。マグネシウム・シリサイド(Mg2Si)は、発電効率が低いという問題はあるが、電気回路などを工夫すれば、モジュール全休の効率を上げることができると考えられている。

 Mg2Si、β-FeSi2、MnSi1.73などのシリサイド系化合物は、今後低環境負荷の有望な候補材料であり、これまで材料の微視的構造やプロセスの面から性能改善が検討されてきたが、ZT≒0.2(素子効率で2〜5%)と低い。しかし、ミクロ構造制御したMnSi1.73(p型半導体)とMg2Si (n型半導体)の組み合わせのモジュールで素子効率6.4%を達成したとの報告がある6、15)
 金属酸化物であるセラミックスを常温・常圧の水溶液から合成するプロセスは低コストで量産に向く製造方法であり、材料そのものの環境負荷が低い。高温動作の高効率熱電変換材料には、今後、それらの物質としての高温での安定性などから金属酸化物が中心となっていくと思われる6、15)
 化合物のもつ特異なバンド構造と電子構造によって、正孔移動度が室温で2000〜8000 cm2/Vsと異常に大きい値をもっているスクッテルダイト化合物とよばれているp型半導体であるCeFe3CoSb12は、熱伝導率をCoSb3の約1/5にまで低減して、ZT≒1.3 (800 K)を実現している6、15)
 非晶質並みの低熱伝導率と、結晶並みの大きい電子移動度を有する半導体材料として、クラスレート化合物Ba8Si46がある。ここで、クラスレート化合物とは、結晶格子によって作られた空間の中に小さな分子が取り込まれ、共有結合によらずして安定な物質として存在しているものをいう。この材料は複雑な篭状構造をもっており、篭内の原子のフォノン散乱によって格子熱伝導率が非晶質α-Geや石英ガラス(α-SiO2)程度に小さい。発電性能は、現状でZT≒0.6(900 K)であるが、元素置換やキャリア(電子、正孔)濃度の最適化で、ZT≒1.5が実現できると見込まれている6、15)
 その他に、亜鉛アンチモン系であるZn4Sb3、強相関電子系化合物、超格子化合物、NaCo2O4系などの金属酸化物の熱電変換材料がある。CaCoO3の針状単結晶では、ZT=1を超えることが報告されている。

4‐3 海外における熱電変換材料の研究開発動向

 米国では、エネルギー省(DOE:U.S.Department of Energy)によるエネルギー効率および再生可能エネルギー(Energy Efficiency and Renewable Energy)プロジェクトの一環であるFCVT(Freedom CAR & Vehicle Technologies)プログラムなどにおいて、車両の排出ガスの排熱エネルギーに重点を絞って熱電発電技術に関する研究開発が推進されており、超格子材料やその応用技術に代表されるナノ構造材料技術領域までの研究開発などが精力的に展開されている16〜18)
 一方、欧州における熱電発電技術に関わる研究開発はこれまでわずかしか行われていなかったが、最近、ドイツを中心にこの分野の研究開発が活発になりつつある。フラウンホーファー研究機構(FHG:Fraunhofer Gesellschaft)は国内外の産業界向けに応用技術を中心とする研究開発を行っている機関であるが、ドイツ国内の56箇所のFHG研究所の内、製造技術・応用材料研究所(IFAM:Institute for Manufacturing Technology and Applied Materials Research)は、物理計測技術研究所(IPM:Institute for Physical Measurement Techniques)および集積回路研究所(IIS:Institute for Integrated Circuits)間で連携して、ナノスケールの熱電変換材料プロセスとエネルギー供給用モジュール・システムの実用性に関する研究開発を実施している19)。一方、ドイツ航空宇宙センター(DLR:Deutsches Zentrum fur Luft- und Raumfahrt)では、宇宙用熱電発電センサーの利用計画や熱電発電性能評価技術の国際的な基準作りに関する研究開発活動を行っている20)。 

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5.ナノ構造制御による革新的熱電変換材料

 ナノ構造制御技術などを利用すれば飛躍的な高効率を有する熱電変換材料開発が可能とみられ、それらの材料技術がコスト・パフォーマンスでの競争力を有するモジュールやシステムへ適用できるレベルに達すれば、熱機能素子や熱エネルギー回収デバイスなどを対象とする省エネルギー・低負荷環境技術産業の大きな広がりが期待される。
 図表10に示した材料系のうち、今後研究開発が進むと考えられる、ナノ構造制御による革新的な熱電変換材料の例を図表11に挙げる。また、図表12は、主な熱電変換材料系を、性能支配要因となる熱電変換材料のエネルギーギャップ、熱伝導率(格子成分)、キャリア(電子、正孔)移動度の観点から配置して、発電効率向上のためのナノ構造制御に関する主な方策を模式的に示した図である。以下に、それぞれの研究例を概説する。

5‐1 ナノ薄膜構造熱電変換材料

 希少元素を使用せず、ナノレベルの構造制御により、ありふれた元素のみを用いて高効率熱電変換材料を実現することを目的とした研究例として、以下の例が挙げられる。
 絶縁体であるSrTiO3が少量のNbを添加することによって高温領域(約750℃)の熱電変換材料になることが注目されている。発電効率は重金属系材料の1/3以下と低いため、熱起電力を高める方法として数nmの極薄膜シートに電子を溜める方法が提案されている。電気を通しやすい重金属の中では逆に電子が溜まりにくいため、この方法で発電効率を高めることは困難であるが、絶縁体を用いれば、電子を溜めることが可能になる。Nb添加により電子を生成させた厚さ0.4nmのSrTiO3薄膜シートを、Nbを添加していない絶縁体のSrTiO3で上下に挟んだサンドイッチ構造(SrTiO3/SrTiO3:Nb/SrTiO3)にすることで、この複合薄膜の熱電発電効率を従来の重金属系材料に対して約2倍まで向上させることに成功した21、22)
 このようなナノ薄膜構造熱電変換材料を、小面積の薄膜レベルにとどまることなく、広い面積の膜やナノ構造から構成されるバルク材料に展開する製造プロセスを開発できれば実用システムへの応用が開ける。

5‐2 超格子化合物熱電変換材料

 電子伝導と熱伝導を異なるナノブロックで独立に制御することにより、高い熱電発電効率を達成しようとする考え方がある。層状構造酸化物、特に対称性の異なる2種類以上の副格子を規則的に周期配列したハイブリッド結晶により、高い熱電発電効率を発現させる試みが発表されている。これは、熱電機能を持つナノブロックを複数種組み合わせて低次元・異方構造を構築し、高効率熱電変換材料を創製しようとする試みである。また、低次元の結晶構造に関する理論計算により、量子井戸、量子線、量子ドットなどの超格子構造で熱電発電効率が飛躍的に増大する可能性が指摘されている。Bi2Te3/Sb2Te3の超格子薄膜素子でZT≒2.4 (室温)が得られたという報告もある6、15)

5‐3 ナノワイヤー・アレイ熱電変換材料

 直径が20〜300nmの粗いSiナノワイヤーが多数配列したウエハーからなる大面積アレイを電気化学的に合成すると、直径が約50nmのSiナノワイヤーの熱伝導率がバルクSiに比べて1/100に低減し、室温で無次元発電性能指数ZT=0.6が得られたという研究例がある。ナノワイヤーでは、熱伝導率はSiの非晶質限界のものに近くなるはずであり、この報告のナノワイヤーの性質は現行の理論では説明できていない。バルクSiは熱電発電特性が従来の熱電変換材料より劣る材料である。仮に、ゼーベック係数と電気伝導率にあまリ影響を及ぼさずに熱伝導率を大幅に低減できるのならば、Siナノワイヤー・アレイは高性能な熱電変換材料として有望である23〜25)
 Siは大規模な加工が可能だが、電気伝導度と熱伝導率が高いため、熱電発電特性は低い。しかし、ナノワイヤー寸法と不純物ドーピング量により、幅広い温度範囲にわたってSiナノワイヤーのZT値をバルクSiより約100倍改善されたとすれば、資源供給や低環境負荷の視点から、産業応用可能性を高めたこの成果の意義は大きい。Siをナノワイヤー・アレイに構造化して、ナノワイヤーの形状と不純物ドーピング量を綿密に制御する方法が確立されれば、Siナノワイヤーは高効率の熱電変換材料として大きな可能性をもつことになる。資源の安定供給や低環境負荷物質を使用する視点や、コスト・パフォーマンスの観点でも、この研究は注目される。

5‐4 強相関電子系熱電変換材料

 強相関電子系とは、物質の中でも電子どうしの間に働く有効的なクーロン相互作用が強いものを指し、遷移金属や希土類を含む系で電子相関の強いものが多い。希土類のもつf-電子に着目した強相関化合物として (Ce1-xLax) Ni2、(Ce1-xLax) ln3、CePd3、CelnCu2などが、室温より低い温度域においては熱電発電性能が高い材料として注目されている6、15)
 層状酸化物であるNaCo2O4が室温で100μV/Kの大きな熱起電力と5x103/(Ω・cm)の大きい電気伝導率をもつことが見出されている。この層状酸化物系は、キャリヤー濃度が1021〜1022cm-3の高い値であるにもかかわらず100μV/Kという大きな熱起電力をもつが、その要因は結晶中での強い電子相関が重要な役割をしているためと説明されている6、15)
 一方、従来、電気伝導率が高い金属は熱電発電効率が低いと考えられてきたが、2000年に我が国において、コバルト酸化物(CaCoO3)が大きな熱電発電効果を示すことが発見された。現在では、この物質の大きな熱電発電効果発現のメカニズムの解明を通して、さらに高効率の熱電変換材料を探索する指針が得られると考えられている6、15)

5‐5 平面構造の熱電発電素子

 これまでの熱電発電素子は、図表4に示したように、素子の厚さ方向の温度勾配を利用する厚肉型のpn接合となっており、そのためにはp型とn型の両方の電気伝導特性を持つ材料が必要である。しかし、種類が豊富な金属酸化物半導体ではn型がほとんどであり、p型とn型の両方の電気伝導特性を持つ金属酸化物は見当たらないため、金属酸化物のみで従来型のpn接合の熱電発電素子構造はむずかしいとされてきた。
 平面構造の熱電発電素子は、n型半導体素子のみを用いて素子面の両サイドに温度勾配を作り出して、平面内において電子の流れを得て発電するものである。この構造と原理を利用すると、従来の半導体薄膜デバイスと同様に、平面構造の熱電発電素子の薄膜化、小型化、高密度化した熱電発電素子が可能になると期待されている26、27)

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6.我が国における熱電発電技術に関する研究開発プロジェクトの現状

 この領域は、第3期科学技術基本計画・分野別推進戦略におけるナノテクノロジー・材料分野の材料領域において、重要な研究開発課題である「未普及なエネルギー利用を具現化する材料技術」の目標の一部に掲げられた28)。また、その後、「Cool Earth-エネルギー革新技術計画(2008年3月策定)」のもとに見直しも行われた、経済産業省の2008年度の「技術戦略マップ」におけるエネルギー分野では、熱電発電技術は「未利用微少エネルギー電力変換」技術としてとらえられている。しかし、政策目標である「総合エネルギー効率の向上」への寄与度が大きいと想定される個別技術にはなっていない(図表13)29)。2-1節で述べたように、各種エネルギーシステムから廃棄される未利用の熱エネルギーは微少なものではない。

 同マップのナノテクノロジー分野では、ナノテクノロジーの重要な出口分野として環境・エネルギー、電子・情報などの分野を設定し、これらの分野の各技術領域に求められる機能を実現するためにどのようなナノテクノロジーが貢献できるかという視点により、技術を俯瞰するマップが策定された。図表14に、この技術ロードマップにおける排熱発電技術領域に関する技術課題を要約して示す。熱電発電技術は、電子・情報・半導体領域の排熱利用技術の重要技術として選定され、その年次展開課題とともに、技術ロードマップに示されている29、30)

 これまで公表された、熱電発電技術に関する(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)成果報告書は115件あるが31)、それらの多くの研究開発は単年度予算の産業技術研究助成事業によるものである。未利用排熱エネルギーの効果的回収に熱電発電技術を普及させていくには、図表14で示された、材料・モジュールの高効率化および低コスト化、環境負荷の低い熱電変換材料の開発、モジュール発電効率15〜20%の達成時期を早めるべきである(2020年以前に)。そのためには、7章に述べる、研究開発推進体制の強化や、対象とする熱電変換材料の絞込みを行って、研究開発資金の重点投資を実施していく必要がある。
 文部科学省は、「第3期科学技術基本計画」の重点推進4分野の一つである「ナノテク・材料分野」に列挙される「戦略重点科学技術」のうち、「資源問題解決の決定打となる希少資源・不足資源代替材料革新技術」の研究開発の位置付けで、平成19年度より「元素戦略プロジェクト」を実施している。平成20年度のプロジェクト公募で、想定される研究課題の一つに熱電変換材料が取り上げられており、材料を構成する元素の役割とその機能発現のメカニズムを科学的に解明することが掲げられている(図表15)32、33)

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7.熱電変換材料に関する研究開発の今後の進め方

 熱電変換材料に関する研究開発の今後の進め方としては、以下の事項を考えていくべきであろう。
@資源に乏しい我が国では革新的なエネルギー技術の開発、導入・普及によって、次世代型のエネルギー利用社会の構築に取り組んでいくことが不可欠である。長期にわたる将来技術は方向性を政府が示しつつ、特に、リスクとハードルが高い材料系については政府が重点投資して研究開発を推進すべきであろう。熱電変換材料に関する研究開発はこれに該当する。
A熱電変換材料を用いてコスト・パフォーマンスを有するモジュールやシステムを開発できれば、熱機能素子や熱回収デバイスなどを対象とする省エネルギー・低負荷環境技術産業の大きな広がりが期待される。今後、我が国が当該技術分野で世界のリーダーシップを取り、技術的な優位性を諸外国にたいして確保すべきである。
B今後の研究開発プロジェクトの進め方としては、基礎・基盤技術の研究開発から実用化までの道筋と重点的に取り組むべき課題をさらに明確にし、短期的課題と長期的課題に分けたうえで、材料技術・デバイス化技術・応用技術に関する研究開発を並行して推進する具体的方策を採るべきである。
C長期的課題として、画期的発電効率を有する新たな材料開発とこれらを用いた熱電発電デバイスの研究開発を進めるべきであろう。材料技術として、ナノ構造制御とその製造プロセスによる超格子や量子構造(井戸、細線、ドット)による新規ナノ材料システム、環境負荷の低い金属酸化物などを検討し、それと並行して発電モジュール技術としての高効率化・小型化、広い温度範囲での動作化などを進めていくことが望ましい。
D政府として推進するプロジェクトでは、基礎・基盤技術開発から実用化または普及拡大までの全体シナリオに基づいたうえで、新規熱電変換材料の研究開発をどこに重点をおいて実施していくかを明確にすることが求められる。

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8.おわりに

 低炭素社会の実現には各種エネルギーシステムと未利用排熱量の低減が必要であり、そのためには熱電発電システムの普及が不可欠である。しかし、現在、限られた分野で実用されている熱電発電システムで用いられている材料は、資源の供給に不安があり、高環境負荷が懸念される重金属を主成分とした材料である。また、現状では、素子の発電効率が低いために経済性が劣る。これらの理由により、技術開発の歴史はすでに半世紀に及ぶが、熱電発電システムの本格的普及は進んでいない。
 これらの熱電発電技術に関わる課題を解決するために今後最も重視すべきは、高効率かつ使用環境において安定な、低コストとなる熱電変換材料の研究開発と考えられる。資源供給に不安がなく、低環境負荷となる材料系を用いることが不可欠であり、今後は、金属酸化物やシリコン化合物に研究開発をシフトすべきであろう。また、それらのナノ薄膜構造、超格子、ナノワイヤー・アレイおよび強相関電子系化合物などが研究開発の対象として注目される。
 低炭素社会の実現への波及効果などの重要性から、熱電発電技術に関する研究開発の今後の進め方としては、基礎・基盤技術の研究開発から実用化までの道筋と重点的に取り組むべき課題をさらに明確にした全体シナリオに基づく研究開発プロジェクトを、短期的課題と長期的課題に分けて、材料技術・デバイス化技術・応用技術を並行して推進するべきである。特に、長期的課題としては材料のナノ構造制御とその製造プロセスに関わる金属酸化物などの研究開発があるが、その技術的ハードルが高いことから、政府が主導で推進するプロジェクトが求められる。革新的な材料系を用いて発電効率が20%以上の画期的熱電発電素子が見出され、コスト・パフォーマンスを有するモジュール・システムが開発できれば、省エネルギー・低負荷環境技術産業の波及効果は計り知れないほど大きい。

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謝辞

 本稿を執筆するにあたり、名古屋大学大学院工学研究科化学・生物工学専攻の河本邦仁教授には、熱電変換材料の研究開発の経緯や今後の方向に関する貴重な情報・ご意見をいただいた。株式会社東芝・電力システム社の伊藤義康首席技監、新藤尊彦主査、佐々木恵一主務、中谷裕二郎主務、若松健吾主務には、先端的な熱電変換材料および熱電発電システムなどに関わる研究開発情報をいただいた。皆様に深く感謝の意を表する。

1) 新藤尊彦ほか、「未利用エネルギーを有効に活用する熱電発電システム」、東芝レビュー、Vol.63、No.2、p.7-10 (2008)

2) 寺崎一郎、「熱電材料として注目されるコバルト酸化物」:
http://www.f.waseda.jp/terra/pdf/parity.pdf

3) 河本洋、「固体酸化物形燃料電池材料の研究開発動向―鍵となる電解質の研究開発の視点から―」、科学技術動向2007年7月号、No.82、p.10-22

4) 「平成19年度環境・循環型社会白書―第3章 地球温暖化対策を進める技術 第4節 身近にある対策技術―」、環境省編:
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h19/html/hj07010304.html

5) 河本洋、「自動車樹脂材料の研究開発動向」、自動車樹脂材料の高機能化技術集、技術情報協会、p.14-23 (2008)

6) 「熱電変換材料」、(社)日本セラミックス協会・日本熱電学会編、日刊工業新聞社(2005

7) G.Chen,et al., lnt. Mater. Rev.,48,1-22(2003)

8) (独)産業技術総合研究所、プレスリリース「棄てる熱から発電」:
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2005/pr20050531/pr20050531.html#b

9) 「パーソナル分散型エネルギーシステム」、伊藤義康・編書、養賢堂、p122-138 (2005)

10) 勝田忠広ほか、「原子力発電の経済性に関する考察」、公益事業学会・第55 回全国大会予稿集、p1 (2005) :
http://cnic.jp/files/cost20060612abst.pdf

11) 立松研二、「米国における原子力発電の経済性と燃料サイクルの位置づけ」:
http://www.jaea.go.jp/03/senryaku/seminar/06-6.pdf#search='立松研二、「米国における原子力発電の経済性と燃料サイクルの位置づけ」:'

12) 「太陽光発電」:
http://www.taiyokohatuden.jp/index.html

13) 「環境・エネルギー材料アウトルック」、NIMS(2008)

14) 「熱電変換」、坂田亮編、裳華房(2005)

15) 平成18年度成果報告書「革新的熱電変換材料に関する調査」、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構

16) J.Yang,“Develop Thermoelectric Technology for Automotive Heat Recovery”:
http://www1.eere.energy.gov/vehiclesandfuels/pdfs/deer_2006/session6/2006_deer_yang.pdf

17) J.W.Fairbanks,“THERMOELECTRIC DEVELOPMENTS FOR VEHICULAR APPLICATIONS”:
http://www1.eere.energy.gov/vehiclesandfuels/pdfs/deer_2006/session6/2006_deer_fairbanks.pdf

18) J.W.Fairbanks,“Vehicular Thermoelectrics Applications Overview”:
http://www1.eere.energy.gov/vehiclesandfuels/pdfs/deer_2007/session6/deer07_fairbanks.pdf

19) “Fraunhofer Institute for Manufacturing Technology and Applied Materials Research Annual Report 2005”:
http://www.ifam-dd.fraunhofer.de/fhg/Images/jb2005_en_tcm280-110994.pdf

20) 「高効率熱電変換システムの開発事業・海外技術調査報告」、GECニュース:
http://www.enaa.or.jp/GEC/active/gecnews/168.htm#top

21) 太田裕道、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成17年度 産業技術研究助成事業研究成果報告書「局在化した二次元電子ガスを有する誘電体人工超格子の作製と熱電変換材料への応用」

22) Y.Ota,et al.,“Giant thermoelectric Seebeck coefficient of two-dimensional electron gas in a SrTiO3”, Nature Materials (電子版)、Jan. 2007:
http://www.jst.go.jp/pr/info/info373/index.html

23) A. I. Hochbaum, et al., “Enhanced thermoelectric performance of rough silicon nanowires”, nature, Vol.451/10, p.163 (2008)

24) C.B.Vining,“Desperately seeking silicon” , nature, Vol.451/10, p.132 (2008)

25) A.I.Boukai,et al.,“Silicon nanowires as efficient thermoelectric materials”, nature, Vol.451/10, p.168 (2008)

26) T. Chikyow,et al.,Research Report of the International Joint Research Grant Program (NEDO Grant) for FY 2004, “International collaboration on development of planer oxide thermoelectric device based on electron entropy control”

27) T. Chikyow, et al., Research Report of the International Joint Research Grant Program (NEDO Grant) for FY 2005, “International collaboration on development of planer oxide thermoelectric device based on electron entropy control”

28) 「第3期科学技術基本計画・分野別推進戦略−ナノテクノロジー・材料分野−」、総合科学技術会議:
http://www.Mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/06032816/001/001.pdf

29) 「技術戦略マップ2008−エネルギー分野、ナノテクノロジー分野−」、経済産業省:http://www.meti.go.jp/policy/economy/gijutsu_kakushin/kenkyu_kaihatu/str2008.html

30) 「技術戦略マップ2007」、経済産業省:
http://www.meti.go.jp/policy/kenkyu_kaihatu/trm/TRM2007/TRM2007df.pdf

31) 「NEDO技術情報データベース」:
http://www.nedo.go.jp/database/index.html

32) 「平成20年度・元素戦略プロジェクトの公募について」、文部科学省:
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/04/08041402.htm

33) 文部科学省・平成20年度概算要求関係資料「ナノテクノロジー・材料分野の研究開発の推進」:
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/shiryo/017/08032419/001.pdf

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