[レポート2]

月・惑星探査における我が国の宇宙開発能力

清水 貴史
推進分野ユニット

1.はじめに

 米国航空宇宙局(NASA)は、ブッシュ米大統領が2004年1月14日に発表した宇宙探査に関するビジョンを受け、アポロ計画以来となる有人月・火星探査計画に着手した。2010年に退役するシャトルに代わる新たな宇宙輸送系・有人探査機を開発するとともに、有人月探査の実施に先立ち、着陸地点の選定のための地形、有人活動の持続的展開に必要な水氷と言った資源、人体に影響を及ぼす放射線環境などに関する情報収集のため、無人探査機を打ち上げる計画である。また、全米研究評議会(NRC)が2002年7月に公表した太陽系探査に関する報告書1)の提言を受け、無人科学ミッションを推進している。
 欧州宇宙機関(ESA)も、独自にまたはNASAなどとの協力の下、無人科学ミッションを推進するとともに、将来的には有人活動も視野に入れ、オーロラ計画の下、無人探査車による火星ミッションを計画している。さらに、中国およびインドも新たな宇宙開発能力の獲得のため各々、嫦娥(じょうが)およびチャンドラヤーンと言う無人月探査計画に着手した。
 我が国においても、小惑星探査機「はやぶさ」がイトカワの詳細な科学観測および表面試料採取に挑戦して多大な科学成果を挙げ、米科学専門誌サイエンスでは2006年6月2日、「はやぶさ」特集号が組まれた。月周回衛星「かぐや」は、月の誕生と進化の謎の解明に向け、アポロ計画以来の本格的な月の科学探査を行っており、次々に発表され始めている科学成果は、内外の関心を集めている。「はやぶさ」および「かぐや」は、X線天文衛星「すざく」、赤外線天文衛星「あかり」および太陽観測衛星「ひので」と共に、先駆的な科学的発見を行い、人類の知的フロンティアを拡大したなどとして、2008年2月12日、米国以外の機関では初めて(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)に対しジャック・スワイガート賞が授与されることになった2)。この賞は、奇跡の生還を果たしたアポロ13号の宇宙飛行士で後に米国下院議員に当選したジャック・スワイガート氏を記念するため2004年に創設されたものであり、過去の受賞者は、NASA火星探査チーム、ブッシュ米大統領、ジェット推進研究所(JPL)およびカリフォルニア工科大学の天体観測部門である。
 本稿では、「はやぶさ」および「かぐや」ミッションと海外の同様なミッションとを比較することにより、我が国の宇宙開発能力について分析する。

2.変貌しつつある太陽系像

2‐1 惑星の定義

 冥王星の直径は約2,390kmであり、月の約3,476kmより小さいこと、冥王星の軌道離心率および軌道傾斜角が他の惑星に比べて大きいこと、冥王星の近傍に直径約2,400kmのエリスが発見されたことなど、冥王星は惑星であるのかとの疑問が天文学者の間にあった。

 国際天文学連合(IAU)は2006年8月、太陽系の惑星の定義(図表1)を決定し3)、冥王星は惑星から除外された。惑星の数は水金地火木土天海冥と言われた9つから8つに減少したものの、地上の天体望遠鏡の技術進歩に加え、吸収・散乱・揺らぎと言った大気による影響を受けない宇宙空間から天体を様々な波長で観測するハッブル宇宙望遠鏡などの活躍により、我々の太陽系像はより豊かなものへと変貌しつつある。

 日本学術会議物理学委員会のIAU分科会および天文・宇宙物理学分科会は、上記国際天文学連合の決定を踏まえ、図表2の通り、これら惑星以外の太陽系天体を「太陽系外縁天体」、「準惑星」、「太陽系小天体」および「冥王星型天体」と分類することを推奨している3)

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 冥王星は、太陽系外縁天体の一員となったものの、その大きさのため準惑星とも分類され、さらに冥王星型天体が定義されたことにより、その存在意義を留めることになった。一方、神戸大学のパトリック・S・リカフィ研究員および向井正教授は2008年2月28日、太陽系外縁天体の外側に未知の惑星の存在が示唆される数値シミュレーション結果を発表した4)。なお、太陽系外縁天体が存在する領域は短周期彗星の故郷でもある。
 太陽系小天体に属する小惑星は、主に火星と木星との間の小惑星帯に存在し、「はやぶさ」が探査したイトカワもその一員である。オランダのヤン・オールトが1950年、長周期彗星の軌道を基に、その存在を予言したことからオールト雲と呼ばれる領域は、1万〜10万AUまで広がり、無数の氷・岩の塊が存在すると考えられている。

2‐2 太陽系形成理論

 現代物理学に基礎を置く太陽系形成理論は、1970年代に入り我が国京都大学の林忠四郎博士を中心とするグループおよび米国ハーバード大学のアル・キャメロン博士を中心とするグループが提案した。共に原始太陽を取り巻くガスおよびダストとも呼ばれる塵から成る原始太陽系円盤から太陽系が形成されること(円盤仮説)および塵から微惑星と呼ばれる小天体が形成されること(微惑星仮説)を基本概念とするも、原始太陽系円盤の質量について、京都大学グループが太陽の100分の1程度としたのに対し、ハーバード大学グループは太陽程度と仮定した。現在の太陽系形成標準モデルは、図表3の通りである5)

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 太陽系の惑星は(1)岩石および鉄でできている「地球型惑星」(水星、金星、地球、火星)、(2)水素・ヘリウムなどの原子および分子のガスでできている「木星型惑星」(木星、土星)および(3)水・メタン・アンモニアなどの氷でできている「天王星型惑星」(天王星、海王星)に分類される5)。太陽系形成標準モデルは、未だ多くの問題を抱えているものの、大枠で現在の太陽系の基本的特徴を説明することができている。このモデルをより完全なものとし、我々の太陽系に関する理解を深めるためには、地上望遠鏡による観測に加え、探査機によるリモートセンシング観測、着陸機・探査車などによるその場観測、探査機により採取された試料の地上での詳細な解析などにより、さらに研究を進める必要がある。

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3.太陽系小天体探査における内外の動向

3‐1 太陽系小天体探査の意義

 太陽系小天体には、小惑星、彗星などがある(図表2)。太陽系形成標準モデルでは、衝突合体によって微惑星から原始惑星、さらに原始惑星から現在の惑星が形成されたと考えられている(図表3)。一方、火星と木星との間には、微惑星の様な小惑星が帯状に存在している(図表4)。この小惑星帯にある天体は、質量が地球の約318倍もある巨大な木星の重力の影響により軌道離心率および軌道傾斜角が大きくなった結果、お互いの相対速度が大きくなり、激しく衝突して粉砕され惑星まで成長できなかったとの説のほか、現在小惑星帯にある全ての天体を合計しても、地球の衛星である月にも満たないため、小惑星帯には元々、塵が少なかったとの説もある。有機物を含んだ彗星の核が地球に降り注ぎ、地球での生命誕生の起源になったとの説もある。始原天体とも呼ばれる小惑星・彗星は、太陽系の形成およびその後の初期進化の情報を保持していると考えられており、この様な天体の探査も重要である6)

3‐2 内外の動向

 1980年代から行われてきた主な太陽系小天体探査ミッションを図表5に示す7)。なお、本項では太陽系小天体以外に準惑星ケレス、冥王星およびその衛星などを探査するミッションも含め、太陽系小天体探査ミッションとして議論する。

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 1980年代のハレー彗星探査では、旧ソ連のベガ1号および2号、我が国の「さきがけ」および「すいせい」、欧州のジオットならびにジャコビニ・ツィナー彗星探査後の米国のICEが共同で観測を行った。1990年代に入って、ガリレオ探査機が木星に向かう途中、小惑星ガスプラおよびイダとの近傍通過(以下、「フライバイ」と言う)を行ったほか、ハレー彗星を観測したジオットがグリグ・シェレルプ彗星とのフライバイを行った。
 ガリレオ後の探査機の主要諸元を図表6に示す。ニア・シューメイカーは、計画費に上限を設け、研究者からの提案を公募・選定して小規模太陽系探査ミッションを推進するディスカバリ計画8)の初号機であり、世界で初めて小惑星との遭遇(以下、「ランデブー」と言う)を行って詳細なリモートセンシング観測を行うことを主要目的としていた9)。小惑星への軟着陸を行いつつ詳細な画像を取得し、ミッションを終了した。

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 ディープスペース1は、新規技術の宇宙実証を主要目的とするニューミレニアム計画の初号機であり10)、世界初の惑星間航行用イオンエンジンなどを宇宙実証した。
 スターダストは、ディスカバリ計画の第4号機であり、世界初の試みである彗星の核から放出される塵および星間空間に漂う塵の採取・持帰り(以下、「サンプルリターン」と言う)を主要目的としていた11)。推進剤搭載量の最適化による打上げ費低減のため、太陽をほぼ3周回する飛行経路を採用し、公転周期は第1周回が約2年、第2および第3周回が約2.5年であり、ミッション期間は約7年となった。
 「はやぶさ」は、太陽系小天体探査に必須かつ鍵となる技術の宇宙実証を主要目的としている12)。宇宙実証する技術は、(1) イオンエンジンを主推進機関とする惑星間航行、(2)光学情報を用いた自律的な誘導・航法による天体への接近・着陸、(3)微小重力下の天体表面からの試料の採取、(4)カプセルを惑星間航行軌道から大気圏に再突入する試料回収および(5)地球重力による軌道変換(以下、「スイングバイ」と言う)とイオンエンジンとの併用である。なお、地球帰還は化学推進剤漏洩事故のため2007年6月から2010年6月に延期された。

 欧州宇宙機関(ESA)の大規模科学プロジェクトであるロゼッタは、周回機および着陸機フィラエで構成され、彗星の観測を行うことを主要目的としている13)。着陸機は彗星の核に降下して詳細な観測を行うとともに、周回機は彗星と共に近日点を通過して、約1年間に亘り観測を継続し、汚れた雪だるまとも形容される彗星を調査する。

 ディープインパクトは、ディスカバリ計画の第8号機であり、衝突体を彗星に衝突させることにより噴出する物質を観測し、彗星内部の元素組成を調査することを主要目的としていた14)。全備重量約372kgの衝突体は2005年7月3日、彗星との距離約88万kmで探査機から放出され、約1日後、相対速度約10.3km/sで彗星に衝突しており、衝突により放出された力学エネルギーは約19GJ、TNT換算で約4.5tと見積もられている。
 ニューホライゾンは、計画費に上限を設け、研究者からの提案を公募・選定して中規模太陽系探査ミッションを推進するニューフロンティア計画の初号機であり、冥王星およびその衛星カロンなどの観測を主要目的としている15)。大型ロケットでの打上げにより、これまでの探査機では最速の約16km/sで地球の重力圏を脱出し、打上げ後約9時間で月の地球公転軌道(半径約384,000km)に到達した。放射性同位元素による熱電発電機(RTG)が搭載されており、発電のため太陽指向する必要が無いので、運用費の低減および搭載電子機器の損耗回避のために木星とのスイングバイ後は冬眠モードに入り、約1年毎の軌道制御・定期点検期間を除き、冗長系の片系などの電源を切り、アンテナを地球指向した約5rpmのスピン安定状態で飛行する。冥王星到着後、推進系による姿勢制御で観測対象に指向する。
 ドーンは、ディスカバリ計画の第9号機であり、ディープスペース1と同型のイオンエンジンを主推進系とし、小惑星ベスタおよび準惑星ケレスとのランデブーを行うことを主要目的としている16)。イオンエンジンは、毎週数時間アンテナが地球指向する交信時を除き、惑星間航行中、常時稼動するとともに、周回軌道投入にも使用される。

3‐3 太陽系小天体探査に必要な技術

 小惑星探査では、元素組成、鉱物組成、地形、形状・大きさなどの調査にリモートセンシング観測機器が使用されるほか、質量・密度の調査のため、探査機追跡データの解析による重力場の計測が行われている。彗星探査では、小惑星探査と同様なリモートセンシング観測機器などに加え、核の調査のためのサウンダー、彗星のコマの観測のための塵の流束・組成の分析器、太陽風との相互作用の調査のためのプラズマ計測器などが搭載されている。
 一方、スターダストの塵捕獲装置、「はやぶさ」の表面試料採取技術、ロゼッタの着陸機によるその場観測およびディープインパクトの衝突体は、他の探査機と比べ独特なものであり、この様な新たな手法による研究が今後は、重要性を増すものと考える。本項では、太陽系天体の試料を地上で解析することを可能にするサンプルリターンに必要になると考えられるイオンエンジン技術、試料採取技術および再突入カプセル技術について述べる。
(1)イオンエンジン技術
 ニューホライゾンの様に大型ロケットでの打上げにより大きな初速を得て地球重力圏を脱出し、スイングバイを併用した慣性飛行により目標天体に到達する方法がある。一方、計画費の低減の為には、より小型のロケットによる打上げが好ましく、スターダストの様に飛行経路を選んで推進剤搭載量を最適化する方法のほか、ディープスペース1、「はやぶさ」およびドーンの様にイオンエンジンを主推進系とする方法がある。
 米国のデルタIIおよびアトラスV17)、欧州のアリアンV18)ならびに我が国のM-Vおよび、参考として、H-IIA19)のおよその打上げ能力を図表7に示す。M-Vは他のロケットに比べ打上げ能力がかなり劣るものの、関係者の創意工夫により、他国に勝るとも劣らない「はやぶさ」ミッションを実現している。

 化学推進系は、化学推進剤の燃焼または触媒反応により発生する高温ガスを排出することにより、一方、イオンエンジンは、推進剤であるキセノンをイオン化して電場で加速し、その後電子と結合して中和した推進剤を排出することにより推力を得る。
 宇宙空間で推進剤が無補給な場合のロケット方程式を図表8に示す20)。イオンエンジンは、化学推進系と比べ推力(馬力)が小さいため地球重力圏からの脱出には適さないものの、比推力が化学推進系の約10倍と高く、約10分の1の推進剤消費量で化学推進系と同等の軌道変換量を得ることができる(低燃費)ため、推進剤搭載量の軽減化によって打上げ時重量を低減化し、より小型のロケットによる打上げを可能とするほか、地球重力圏離脱後は、「はやぶさ」が示す様に、打上げロケット以上の軌道変換量を実現して遠方の天体まで飛翔することを可能にする21)。また、低推力での長時間飛行と言う短所は、逆に軌道制御計画の柔軟性にも繋がり、ロケット打上げ時間帯の設定期間を長くすることもできる。
 米商用静止通信衛星では1980年代から、その高比推力(低燃費)という特性を利用して、ほぼ推進剤搭載量で決まる軌道上寿命を伸ばすため、軌道制御用にイオンエンジンを搭載するものもあり、毎日0.5〜5時間程度のイオンエンジン稼動で軌道制御を行っている。なお、我が国の「きく8号」も、軌道制御用イオンエンジンを搭載している。
 探査機搭載例は、米国ディープスペース1のNSTARが最初で、その後、我が国「はやぶさ」のμ10、後述する欧州月探査機SMART-1のPPS1350と続く。これらエンジンの主要諸元および飛行実績を図表9に示す22)。米国ドーンにもNSTARが3基搭載されており、イオンエンジンシステム全体の空虚重量は約129kgである。延べ稼働時間では最長を記録した「はやぶさ」搭載のμ10は、4基のうち最大3基を稼働して消費電力約1.1kWで推力約24mNを発生し、電力状況に応じて稼働数および推力を変更する。なお、化学推進剤漏洩事故後の2007年10月18日の時点で、延べ稼働時間を約31,400時間(約1,308日)に更新して軌道変換量約1,700m/sを達成し、地球帰還に必要な残る軌道変換量を約400m/sとするとともに、エンジン単基の最長稼働時間約13,400時間(約558日)を記録している23)

 SMART-1搭載のPPS1350は、仏SNECMA社がロシア製イオンエンジンをベースに開発したもので、消費電力約462〜1,190Wで推力約9.1〜65.7mNを発生した。ドーンでは3基のNSTARのうち1基が稼働し(冗長構成)、消費電力約500〜2,300Wで推力約19〜91mNを発生し、延べ稼働時間は約2,000日ならびにベスタおよびケレス到着に必要なキセノン消費量は各々、約288kgおよび約89kgと見積もられている。
 惑星間航行用イオンエンジンは、非常に長時間稼働する必要がある。NSTARは、イオン生成電極に劣化を起こす可能性が有り、一方、マイクロ波放電式イオンエンジンであるμ10では、この様な電極ではなくマイクロ波発生器によりイオンを生成しているため、劣化要素が少ないと言われている24)
 NASAは、惑星間航行用推進系の高性能化を目指して、NSTARに続く次世代イオンエンジンNEXTおよび先端材料を使用した軽量・高温燃焼型2液式化学推進系AMBRを開発しており25)、ニューフロンティア計画の第3回ミッション提案での使用検討を奨励している26)。我が国でも、μ10後継エンジンとして、始原天体探査機マルコ・ポーロおよび木星探査機ソーラー電力セイルの主推進系を目指して各々、推力向上型のμ20(推力約30mN、比推力約2,500秒@消費電力約1kW)および比推力向上型のμ10HIsp(推力約30mN、比推力約10,000秒@消費電力約2.5kW)の研究開発が行われている27、28)
(2)試料採取および再突入カプセル技術
 スターダスト(図表10)は、2004年1月2日の彗星最接近の前後に飛来する彗星の塵を採取したほか、第1周回の2000年2〜5月および第2周回の2002年8〜12月の間の計約195日かけて、飛来する星間空間の塵を採取した。テニスラケットの様な形状をした塵捕獲装置は、エアロジェルと呼ばれる極低密度・不活性・高空隙率のゼリー状の固形シリコンが使用されており、塵採取面積が各約1,000cm2である表面および裏面が各々、彗星および星間空間の塵の受動的採取に使用された。塵捕獲装置を収納した試料回収カプセルは、2006年1月15日、大気圏に再突入し、落下傘による減速の後、米国ユタ州に落下、回収された。

 回収された塵試料は、NASAジョンソン宇宙センターで処理が施された後、9カ国100機関以上の研究者約187名が参加する初期分析チームに分配され、約半年間に亘り化学組成分析、赤外分光分析、鉱物・岩石学分析、同位体分析、有機物分析および衝突クレータ解析が行われた29)。地球以外の太陽系天体から試料が回収されたのは、母天体の識別が困難な隕石は除き、アポロおよびルナ計画以来である。アポロ計画で採取された月面試料により月の研究が進展したとされており、太陽系の原材料を保存すると考えられる彗星の構成物質を地球に持ち帰り、あらゆる分析機器を駆使して直接解析することの科学的意義は大きいと言われている。なお、我が国研究者が担当した分析では、高エネルギー加速器研究機構およびSpring-8の施設を使用した放射光による非破壊分析も行われた。
 「はやぶさ」(図表11)は、能動的な手法を用いており、重さ数グラムの金属球を約300m/sで発射して小惑星の表面を破砕することにより、重力が非常に小さい小惑星の表面から飛散するかけらをサンプラーホーン経由で探査機内の容器に採取する12)。長時間稼働可能なイオンエンジンと組み合わせる我が国のサンプルリターン技術は現在、様々なミッション要求に対応するため、表面試料採取技術の多様化30)および回収カプセルの高加熱耐性化・軽量化31)が検討されている。

 「はやぶさ」が探査したS型小惑星以外にも、太陽光反射率の違いなどでC型、P型、D型などと分類されるものがあるほか、小惑星帯に捕獲された彗星の残滓(ざんし)と考えられる枯渇彗星が存在しており、研究者が地上での詳細な分析のためにサンプルリターンを望んでいる太陽系小天体は未だ多数存在する。

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4.月探査における内外の動向

4‐1 月探査の意義

 月は、地球と同時期の約45億年前に誕生したものの、地球型惑星と異なりプレートテクトニクス、火山活動、風化などによる変化を受けていないため、初期進化の歴史を克明に記録しており、地球との距離的近さもあり、惑星科学の格好の研究対象である32)。米アポロ有人月探査計画では、計6回の有人月面着陸を成功させるなどして、様々な科学観測を行い、合計約400kgの月面試料を採取した。月の研究は確実に進展したものの、例えば、月の誕生の謎については(1)地球の高速自転のため、その一部が放出されてできたとする分裂説、(2)地球周辺の岩石およびガスの円盤から形成されたとする双子集積説、(3)地球とは別の場所で形成された天体が地球により捕獲されたとする捕獲説および、(4)アポロ計画以降、火星またはそれ以上の大きさの原始惑星が原始地球に衝突して生成された材料物質から形成されたとする巨大衝突説が提唱されており、未だ決着していない。

4‐2 内外の動向

 クレメンタイン探査機は、米国航空宇宙局(NASA)および米国防総省(DOD)の共同プロジェクトで、センサーおよびコンポーネントの長期間に亘る耐宇宙環境性能の評価を主要目的としていた33)。1994年1月25日に打ち上げられ、同年2月21日の月周回軌道投入後、約2ヵ月に亘って月のリモートセンシング観測を行った。月の地形を研究するため、紫外・可視・赤外の波長域で月面の画像を取得したほか、レーザ高度計で月面の高度を計測した。月極域の永久影領域における水その他の揮発物の氷の存在を調査するため、レーダが搭載されていた。探査機から発射された電波の月面による反射波を地上で観測することにより、月の表層を調査するものである。特定の周回軌道において、月の南極域で水氷の存在を示唆する観測データが得られるも、他の軌道ではその様なデータが得られなかった。
 我が国がアポロ以来の本格的月科学探査を目的として、月周回衛星「かぐや」を打ち上げたのに続き、月探査技術と言う新たな宇宙開発能力の獲得に向け、中国は嫦蛾1号を打ち上げており、さらにインドはチャンドラヤーン1号を打ち上げる。21世紀初頭、月探査が再び活況を呈してきた。クレメンタインに続く主な月探査機の主要諸元を図表12に示す。

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 「かぐや」は、月の誕生と進化の謎の解明のため、月周回軌道上観測ミッションとして、月表面の元素分布、鉱物組成・分布、地形・表層構造、全球重力場、磁気異常、プラズマ環境などを観測する34)。我が国初の月探査機でもあり、技術開発ミッションとして、月周回軌道への投入技術、月周回軌道上での三軸姿勢制御・軌道制御・熱制御技術の確立を目的としている。嫦娥1号は、中国が計画する月探査機シリーズの初号機であり、技術目的としては、月探査機開発・打上げ能力の獲得、月探査に必要な技術の実証・技術基盤の確立、後継ミッションのための経験蓄積などが挙げられている35)。科学目的としては、月表面の立体画像の取得、表面元素の分布および表面土壌の厚さの測定に加え、核融合の燃料となるヘリウム3などの資源の調査が挙げられている。チャンドラヤーン1号は、インド宇宙研究機関(ISRO)が開発するインド初の月探査機であり、インドの宇宙開発技術の向上・実証および月表面に関する科学データの取得を目的としている36)
 SMART-1は、イオンエンジンなど将来ミッションに必要な技術の宇宙実証を目的とした欧州宇宙機関(ESA)の探査機である37)。地球周回軌道から月周回軌道へイオンエンジンにより遷移した。月周回軌道到着後は、地質、地形、鉱物・元素組成、月周辺環境などに関する科学データを取得し、最終的には月面に硬着陸した。イオンエンジンを搭載するため、探査機本体の大きさに比べ発生電力が大きい。
 ルナプロスペクタは、NASAディスカバリ計画の第3号機であり、月の表面元素組成、極域の永久影領域における水氷の存在、磁気異常、重力場などに関するデータ取得を目的としていた38)。中性子分光計により、水氷の存在を示唆する観測データが取得され、検証のため月面に衝突するも、地上望遠鏡による噴煙観測からは、その存在が確認できなかった。
 NASAのLROは、有人月探査活動の再開に先立つ、無人月探査計画の初号機である39)。将来の着陸地点、月面基地設置場所などを決定するため、月の表面の地形構造、水氷と言った利用可能資源、放射線環境などの詳細な情報を取得することが目的である。LROとの相乗りで打ち上げられるLCROSSは、ロケット上段部および観測機を月面に衝突させることによる噴煙などを観測することにより、月極域の永久影領域における水氷などの存在を調査することが目的である40)。相対速度約2.5km/sで月面に衝突するロケット上段部が放出する力学エネルギーは約6.25GJ、TNT換算で約1.5tと見積もられる。「かぐや」では、子衛星を介した4ウェイドップラ計測および相対VLBI観測により、月の裏側を含む全球の重力場観測を行うのに対し、GRAILでは、2機の月周回衛星間の相対距離の変化率を測定することにより、月全球の重力場を計測する計画である41)

4‐3 月探査に必要な技術

 「かぐや」では、(1)月の科学として元素分布、鉱物分布、地形・表層構造および全球重力場、(2)月での科学として磁気異常、放射線環境、プラズマ環境および電離層ならびに(3)月からの科学として地球プラズマ環境の観測などを行う。地上試験時の「かぐや」および「かぐや」搭載観測機器の概要を各々、図表13および図表14に示す。

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 各国の月探査機に搭載された観測機器の一覧を図表15に示す。LRO、LCROSSおよびGRAILは、有人活動に先立つ情報収集が目的であるため、図表16に概要を示した。

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 図表15を見ると、「かぐや」は、正に月の本格的科学探査を目指していることが分かる。元素分布、鉱物分布および地形については、他国の探査機も同様な観測機器を搭載しているものの、発信電波の地表および地下数kmからの微弱な反射波を計測するレーダサウンダーおよび磁気異常を精度0.1nT以下で観測する月磁場観測装置を搭載するほか、世界で初めてとなる子衛星「おきな」(RSAT)を介した地上局との4ウェイドップラ計測による月裏側の重力場の計測、子衛星「おうな」(VRAD)および「おきな」(RSAT)の相対VLBI観測による月重力場の精密計測、ならびに「おうな」(VRAD)の発信電波の位相変化を検出することによる月の希薄な電離層の観測を行い、他国には見られない月の総合的な科学探査を行う。
 レーザ高度計については、(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2008年4月9日、国立天文台および国土地理院と共同で製作した月全球の地形図を発表した42)。世界初となる極域も含め、従来の観測を大幅に上回る約600万点の高度データが取得されており(2008年4月9日現在)、2008年1月7〜20日の2週間分の観測データを使用して作成された月の地形図が公開された。ハイビジョンカメラについては同年4月11日、月周回軌道から観測される現象で太陽、月、周回衛星の軌道および地球が一直線上に並ぶときに見られる満地球の出が撮影され、全面が青く輝いて見える地球の映像が公開された43)
 チャンドラヤーン1号については、欧米との国際協力を推進していることが特徴として挙げられる。自国観測機器5基に加え、NASA提供の2基(M3、MiniSAR)、ESA提供の3基(C1XS 、SIR-2および SARA)およびブルガリア提供の1基(RADOM)と計11基の観測機器を搭載しており、科学成果をより豊かなものにする国際協力の好例と言える。なお、ESA提供機器のうち2基(C1XSおよびSIR-2)はSMART-1搭載機器の改良版である。
 NASAは、月の水氷の存在を継続的に調査している。有人活動には水が不可欠であるほか、太陽光発電を利用した電気分解により宇宙輸送機の推進剤となる水素および酸素を生成することができる。水を地球から輸送するには多額のコストを要するため、月に水氷が存在し、これを採掘・処理することができれば、計画費の大幅な削減につながる。

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5.「はやぶさ」および「かぐや」ミッションが示す我が国の宇宙開発能力

(1)他国の追随を許さない我が国独自の宇宙技術の確立
 米国は、ディープスペース1およびスターダストで各々、イオンエンジンによる惑星間片道航行ならびに彗星・星間空間の塵の受動的捕獲およびカプセル回収によるサンプルリターンに成功するも、我が国の「はやぶさ」は、トータルパッケージとして、今後の太陽系小天体探査の一つの技術体系とも言えるイオンエンジンを使用する惑星間往復航行、能動型表面試料採取およびカプセル回収(2010年6月実証予定)によるサンプルリターン技術の実証にほぼ成功した。他国の追随を許さない我が国独自の宇宙技術を確立したと言える。
(2)大学共同利用システムによる我が国の英知の結集
 (独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部(ISAS)は、大学共同利用システムとして機能し、我が国大学・研究所などの研究者の参画を広く求め、これら研究者の総意の下、宇宙科学プロジェクトを進めるとともに、各大学からの要請に応じ、連携大学院制度により宇宙航空分野における大学院教育に協力している。
 小惑星イトカワなどの太陽系小天体からのサンプルリターンは、重力の影響が大きい天体からのものより容易とも考えられるものの、小惑星などの始原天体は、太陽系形成初期の情報を保持していると考えられるため、地上での試料分析を含む、始原天体の調査・研究は大きな理学的価値を有するとともに、光学情報による探査機の自律的な降下・着陸および離陸(タッチ&ゴー)は工学的に高度な技術である。ISASは我が国研究者・技術者の英知を結集して、「はやぶさ」の様に理学的にも工学的にも意義のあるミッションを企画立案・推進している。
 また、人類初めての試みである小惑星への「はやぶさ」のタッチダウン成功、さらにはその後の推進剤漏洩事故による満身創痍からの復活は、想定外の困難な事態に対し、諦めることなく臨む不屈の精神および適時・適切に対応し得る能力を有する優秀な研究者・技術者がISASに存在したことの証左であろう。資源が乏しく食料自給率も低い輸出立国である我が国にとっては、人材が国力の源泉であり、この様な研究者・技術者による後継人材の育成も重要な機能である。なお、「はやぶさ」および「かぐや」の運用ならびにこれらの後継ミッションの企画立案・推進は現在、新たに設置された月・惑星探査プログラムグループが担当している。
(3)月の総合的科学研究の推進
 「かぐや」は元素・鉱物分布および地形・表層構造の観測のために高性能機器を搭載するほか、レーザ高度計により、世界初となる極域を含む月全球の詳細な地形図の作成、我が国独特の親子衛星システムの採用により、世界初となる月の裏側を含む全球重力場の測定を行うなど、正にアポロ計画以来の世界最先端の本格的な月科学探査ミッションである。他国のミッションと比較すると、月を純粋な科学研究の対象とし、その誕生と進化の謎を総合的に解明したいとの我が国研究者の真摯な姿がうかがえる。月表層構造を観測するため微弱な反射波を検知するレーダサウンダーおよび微弱な月の磁気異常を計測する磁場観測装置を実現するためには、設計・製作・試験の各段階において高い技術力を必要とするとされ44)、我が国の宇宙開発技術の高さを示すものと言える。なお、満地球の出などのハイビジョン画像に対する一般の関心も高い。

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6.提言と今後の方向性

(1)他国の追随を許さない我が国独自の宇宙技術の継続的開発と国際協力の推進
 欧州および我が国の研究者らは、ESAのコズミック・ビジョン計画に対し、枯渇彗星などの始原天体からのサンプルリターンミッションであるマルコ・ポーロを共同提案し、第1次審査に合格した45)。我が国は「はやぶさ」の開発経験を生かして我が国独自の技術であるサンプルリターンを行う探査機を開発するとともに、欧州側はロゼッタの開発経験を生かした着陸機の開発および打上げを担当する構想である。

 太陽観測衛星「ひので」は、他国には例の無い高性能・最先端観測装置3基(SOT、XIT、EIS)を搭載しており、海外の研究者もこれら観測機器に対する関心が高いためか、JAXA相模原キャンパスで開催される観測計画立案会合には、我が国に加え米英の研究者なども参加するほか、海外研究者が同キャンパスに長期滞在して、衛星運用・研究活動を実施している46)

 これら事例は、我が国独自の高度な技術により、対等にまたは我が国のリーダシップの下で国際協力を推進できることを示している。太陽系小天体を含む太陽系探査において、イオンエンジンなどによるサンプルリターンの様な他国の追随を許さない我が国独自の技術を継続的に開発して友好国との国際協力を推進し、信頼関係の維持・強化を図りたい。

 米国航空宇宙局(NASA)は2008年3月12日、国際月ネットワーク(ILN)構想を提唱し、我が国などに参加を呼びかけた。「かぐや」後継ミッションとして無人月面軟着陸機・表面探査車・越夜技術などが検討されており47)、我が国独自の技術が開発され、様々な国際協力が展開されるものと期待する。我が国では、リモートセンシング観測ではなく、槍のような形状で月表面を貫通する2本のペネトレータにより、月震計・熱流量計の観測ネットワークを月面に構築し、月の内部構造を探るLUNAR-Aが開発されていたものの、ペネトレータの開発が難航したため中止された48)。英ムーンライト構想49)、米ニューフロンティア計画50)でもペネトレータによる太陽系探査が検討対象となっており、この技術の可能性は高い。

 月・惑星探査は、ミッションの企画立案から運用終了までに約10〜20年を要すると言われており、ミッション終了後の成果を踏まえて次期ミッションを計画するのでは、引退などのため研究者および技術者の基盤が失われてしまう。計画的にミッションを企画立案し、推進する必要がある。
(2)青少年に対する理数系教育活動の推進
 「かぐや」が取得した月面、地球の出などの画像・映像の公開以降、国内の科学館・高等学校・大学などの教育関係機関、さらには海外の教育関係機関および研究機関から画像・映像などの提供依頼があり、JAXAは、これら要求に応えるとともに、内外の関心が高いことから、映像などを収録し、音声による解説を加えた教育用DVDを製作し、2008年5月末から国内外教育関係機関への無償配布を開始した44)。月・惑星探査の成果が、青少年の科学技術に対する関心を喚起する好例と言える。将来の理工系人材の確保のためにも、今後とも月・惑星探査から得られる科学成果に基づく普及啓発活動を継続・強化したい。
 なお、NASAでは、ディスカバリ計画、ニューフロンティア計画などのミッション毎に優れた教材を作成するなどして、青少年向け理数系教育活動を積極的に展開している。我が国の「かぐや」が取得したハイビジョン映像に対する世界的反響が高かったためか、GRAILミッションでは、搭載カメラによる画像取得を利用した教育活動が計画されている41)
 「はやぶさ」、「かぐや」などの活躍にも触発されたためか、東京工業大学、日本大学などでは学生が超小型衛星の企画・設計・製作・打上げ・運用を2年程度のサイクルで実施しており、ものづくりの全工程を経験した卒業生は宇宙分野のみならず自動車製造業などに就職している51)。宇宙開発では、様々なサブシステム、コンポーネントなどを組み合わせて、ミッション要求を達成するシステムを構築する。学生の手造り衛星とは言え、苛酷な高真空・放射線・熱環境である宇宙空間で機能しなければならない。システムエンジニアリング手法も習得した卒業生が今後とも我が国の製造業の現場で活躍することを期待したい。
 JAXAは、この様な活動も支援するため、H-IIAロケットの余剰打上げ能力による小型衛星相乗り機会を提供しており、金星探査機PLANET-Cでの相乗り機会を提供する候補として、早稲田大学、鹿児島大学などの4機の小型衛星を選定した52)。今後とも、この様な支援活動を継続・強化したい。なお、NASAは、教育活動の一環として次世代の米航空宇宙技術者の育成のため、米国大学生月周回衛星(ASMO)構想を検討しており、米大学生が行う小型月周回衛星の設計・製作・打上げ・運用に対し、NASAエンジニアによる技術支援、施設利用提供などを行う計画である53)。欧州宇宙機関(ESA)も教育活動の一環として、欧州大学生月周回衛星(ESMO)および欧州大学生地球周回衛星(ESEO)を立ち上げ、次世代の欧州航空宇宙技術者の育成に努めている54)

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7.おわりに−様々な地球型惑星の姿

 「かぐや」が捉えた満地球の出の画像は、漆黒の闇の宇宙の中、荒涼たる月面の上に青く浮かび上がる水の惑星地球を映し出している(図表 17)。人為起源の環境汚染による地球温暖化の危機が叫ばれる中、我々が住むかけがえのない地球の重要性を再認識させられる。
 本稿では太陽系の誕生と進化の謎の解明に挑戦する探査ミッションに焦点を当てた。一方、太陽系惑星の特異性と普遍性を研究することも、これらミッションに劣らず重要であることを指摘したい。我々人類を育む地球は青い水の惑星であるのに対し、他の地球型惑星である水星、金星および火星の環境は、我々人類の生存を許さない過酷なものである。水星は地球と同様、固有磁場を有するものの、大気は非常に希薄であり、太陽に照らされる昼側は地表温度が約430℃に達する灼熱の世界、夜側は氷点下約180℃の極寒の世界である。大きさおよび太陽との距離が地球とほぼ同じであり、双子星とも呼ばれる金星では、厚い大気の約96%は二酸化炭素であり、その温室効果のため地表温度は460℃に達し、地表面での大気圧は約90気圧になると考えられている。赤い惑星とも呼ばれる火星は現在、地球の約100分の1と希薄で、主に二酸化炭素から成る大気に覆われた冷たい惑星であるものの、かつては水が豊富に存在したことを示唆する観測データがある。
 地球型惑星は、岩石・鉄などの同じ元素でできた天体であるにもかかわらず、各々全く異なる進化過程を経てきた。これら惑星の個々の特異性と共通する普遍性を研究することは、地球の現在を理解し、未来を予測するうえでも大いに意義があると考える。なお、NASAのフェニックス火星着陸機が地表下の水氷の存在などを調査するほか、我が国も現在、日欧共同水星探査計画ベピ・コロンボおよび金星探査機PLANET-Cを開発している。

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謝辞

  本稿を執筆するに当り、(独)宇宙航空研究開発機構の樋口清司技術参与、國中均宇宙科学研究本部教授、滝澤悦貞SELENEプロジェクトマネージャおよび株式会社ニュートンプレスの水谷仁編集長から貴重なご意見・情報を頂きました。ここに厚く御礼申し上げます。

 太陽系全般の動向については、Newton別冊「さらに知りたい太陽系 惑星の科学 最新成果が次々に」(2007年7月20日発行、株式会社ニュートンプレス)を参考にした。

1) “New Frontiers in the Solar System: An Integrated Exploration Strategy,” Solar System Exploration Survey, National Research Council:
http://www.nap.edu/catalog/10432.html

2) 米国宇宙財団HPの「Japan Aerospace Exploration Agency Wins 2008 Jack Swigert Award for Space Exploration, Colorado Springs, Colo. (February 12, 2008)」:
http://www.spacefoundation.org/news/story.php?id=459Bbsp

3) 対外報告「第二報告:新しい太陽系像について−明らかになってきた太陽系の姿−」、日本学術会議物理学委員会IAU分科会及び天文・宇宙物理学分科会、2007年6月21日:
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t39-3.pdf

4) 神戸大学HPの「お知らせ 太陽系外縁部に未知の惑星?」:
http://www.kobe-u.ac.jp/info/topics/t2008_02_28_01.htm

5) 理科年表オフィシャルサイト「冥王星特集〜2006 年夏、太陽系に何があったのか? : すいきん…かいめいの完成といま」:
http://www.rikanenpyo.jp/top/tokusyuu/index.html

6) 「プログラム探査としての小天体探査」、吉川真、(独)宇宙航空研究開発機構、平成19年度第29回太陽系科学シンポジウム、pp.58-61、2007年12月19、20日

7) 「JAXAブリーフィング:JAXAの太陽系始原天体探査計画」、吉川真、(独)宇宙航空研究開発機構、日本惑星科学会誌、第17巻第1号、pp.50-53、2008年

8) NASAディスカバリ計画HP:
http://discovery.nasa.gov/index.html

9) ニア・シューメイカーHP:
http://near.jhuapl.edu/

10) ディープスペース1 HP:
http://nmp.jpl.nasa.gov/ds1/

11) スターダストHP:
http://stardust.jpl.nasa.gov/home/index.html

12) JAXA宇宙科学研究本部HPの「小惑星探査機 はやぶさ」:
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/index.shtml

13) ESA HPの「Rosetta」:
http://www.esa.int/SPECIALS/Rosetta/index.html

14) ディープインパクトHP:
http://solarsystem.nasa.gov/deepimpact/index.cfm

15) ニューホライゾンHP:
http://pluto.jhuapl.edu/science/scienceOver.php

16) ドーンHP:
http://dawn.jpl.nasa.gov/

17) ULA社HPの「PRODUCTS & SERVICES」:
http://www.ulalaunch.com/index_products_services.html

18) ESA HPの「Launchers」:
http://www.esa.int/SPECIALS/Launchers_Home/index.html

19) JAXA HPの「ロケット・輸送システム」:
http://www.jaxa.jp/projects/rockets/index_j.html

20) 「講座 宇宙探査機『はやぶさ』とプラズマ工学:2.『はやぶさ』小惑星探査機に搭載されたマイクロ波放電式イオンエンジン」、國中均、(独)宇宙航空研究開発機構、プラズマ・核融合学会誌第82巻第5号、pp.300-305、2006年5月

21) 宇宙科学の最前線「宇宙大航海時代への予感〜小惑星探査機『はやぶさ』とイオンエンジン技術」、國中均:
http://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2004/kuninaka/02.shtml

22) JAXA宇宙科学研究本部の國中均教授より2008年5月16日付け情報

23) 「はやぶさ探査機のイオンエンジンによる深宇宙動力航行」、國中均、宇宙航空研究開発機構特別資料「低推力・連続加速を用いた宇宙ミッションに関する研究会論文集」(JAXA-SP-07-020)、(独)宇宙航空研究開発機構、ISS1349-113X、pp.1-6、2008年2月

24) JAXAプレスリリース「第20号科学衛星(MUSES-C)『はやぶさ』の現状について」:
http://www.jaxa.jp/press/2005/03/20050316_sac_hayabusa_j.html

25) NASAのIn-Space Propulsion HP:
http://www.grc.nasa.gov/WWW/InSpace/
(2008年8月19日アクセス)

26) ”Discovery & New Frontiers News-NewFrontiers ProgramAnnouncement,”NASA,May14,2008.:
http://discoverynewfrontiers.nasa.gov/news/news_archive/2008/news_051408.html

27) JAXA宇宙科学研究本部の國中均教授より2008年5月19日付け情報

28) 「ソーラー電力セイル実証計画について」、ISASニュース第288号、2005年3月:
http://www.isas.ac.jp/ISASnews/No.288/mission-05.html

29) 「スターダスト探査が解き明かす原始太陽系の姿」、三河内岳、日本惑星科学会誌、第16巻第4号、pp.270-273、2007年

30) 「はやぶさ後継に向けた試料採取技術の改良および新規開発」、松永三郎他、平成19年度第29回太陽系科学シンポジウム、pp.64-67、2007年12月19、20日

31) 「Marco PoloカプセルとDASH-II計画」、山田哲哉他、平成19年度第29回太陽系科学シンポジウム、pp.72-74、2007年12月19、20日

32) “The Scientific Context for Exploration of the Moon: Final Report,” Committee on the Scientific Context for Exploration of the Moon, National Research Council, 2007.:
http://www.nap.edu/catalog/11954.html

33) NASA宇宙科学データセンターHPの「Clementine Project Information」:
http://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/clementine.html

34) JAXA宇宙科学研究本部HPの「月周回衛星 かぐや」:
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/kaguya/index.shtml

35) NASA宇宙科学データセンターHPの「Chang'e 1」:
http://nssdc.gsfc.nasa.gov/nmc/spacecraftDisplay.do?id=2007-051A

36) ISRO HPの「Chandrayaan」:
http://www.isro.org/chandrayaan/htmls/home.htm#

37) ESA HPの「SMART-1」:
http://www.esa.int/SPECIALS/SMART-1/index.html

38) ルナプロスペクタHP:
http://lunar.arc.nasa.gov/

39) LRO HP:
http://lro.gsfc.nasa.gov/

40) LCROSS HP:
http://lcross.arc.nasa.gov/

41) GRAIL HP:
http://moon.mit.edu/

42) JAXAプレスリリース「月周回衛星『かぐや(SELENE)』のレーザ高度計による月全球観測データを用いた地形図の公開について−従来データの10倍、約600万点の月の高さを計測−」、2008年4月9日:
http://www.jaxa.jp/press/2008/04/20080409_kaguya_j.html

43) JAXAプレスリリース「月周回衛星『かぐや(SELENE)』のハイビジョンカメラ(HDTV)による『満地球の出』撮影の成功について」、2008年4月11日:
http://www.jaxa.jp/press/2008/04/20080411_kaguya_j.html

44) JAXAの滝澤悦貞SELENEプロジェクトマネージャとの2008年5月9日付け取材

45) ”First Selection of Candidate Missions for CV2015 Assessment Studies,” ESA, October 18, 2007.:
http://sci.esa.int/science-e/www/object/index.cfm?fobjectid=41438

46) ISASニュース「太陽観測衛星『ひので』特集号」、JAXA宇宙科学研究本部、第323号、2008年2月:
http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/No.323/ISASnews323.pdf

47) JAXA月・惑星探査プログラムグループHP:
http://www.jspec.jaxa.jp

48) JAXA宇宙科学研究本部HPの「月探査機 LUNAR-A」:
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/lunar-a/index.shtml

49) “Lunar exploration - Potential UK and US collaboration,” British National Space Centre, February 15, 2008. :
http://www.bnsc.gov.uk/content.aspx?nid=7208&hl=MoonLite

50) “Opening New Frontiers in Space: Choices for the Next New Frontiers Announcement of Opportunity,” Committee on New Opportunities in Solar system Exploration: An Evaluation of the New Frontiers Announcement of Opportunity, pp.28-32, National Research Council. :
http://www.nap.edu/catalog/12175.html

51) 第18回宇宙開発委員会資料「委18-1大学による超小型衛星の開発動向とSEEDS2およびCute-1.7+APDIIの開発・打上・運用報告」、松永三郎、宮崎康行、2008年5月21日

52) JAXAプレスリリース「PLANET-Cに相乗りする小型副衛星の選定結果について」:
http://www.jaxa.jp/press/2008/07/20080709_sac_sat_j.html

53) ASMO HP:
http://asmo.arc.nasa.gov/

54) ESA Education HP:
http://www.esa.int/esaED/index.htm

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