【1】「欧州スーパーコンピュータシステム」の配備計画の進行

 2008年6月18〜20日、ドイツのドレスデンでInternational Supercomputing Conference (ISC’08)が開催され、会期中に世界で初のペタFLOPS注1)を超えた性能のスーパーコンピュータの発表がなされた1)。こうしたペタスケールクラスのスーパーコンピュータを獲得し研究開発に活用しようとする動きは今や世界的に進められている。このISC’08で、欧州は、多くの国々が一丸となって推進している状況を報告した。

 「欧州スーパーコンピュータシステム」の配備計画は、欧州の科学者・技術者に世界最高クラスのスーパーコンピュータを国を超えて提供するものである。推進役はPRACEコンソーシアム(Partnership for Advanced Computing in Europe以下、PRACE)である2)。PRACEは、2008年1月1日に正式発足し、現在は16カ国の研究組織の代表が参画している。主に実行計画の作成に注力し、5月にはユーザ要求を満たすアーキテクチャの検討が、そしてグリッドインフラストラクチャDEISA2注2との連携強化などが着実に進められている。

 ここに至る経緯としては、2006年6月に欧州の11カ国の高性能コンピューティング(HPC)関係の専門家で構成するHPC in Europe Taskforce(HET)が発足し、HETは、ペタFLOPS クラスのコンピューティング能力をもつリソースが欧州の競争力強化のために必要であると訴えた。そして、HETは、欧州全体のHPCセンターを、システム性能の高低から下図に示す最上位層(Tier‐0)、中間層(Tier‐1)、および最下位層(Tier‐2)の3階層に分け、Tier‐0には欧州各国を超えて用いられるペタFLOPS クラスの性能を有するシステムの配備とその活用を必須のものとして位置づけた(図表)。彼らの検討結果は、2007年1月から開始された第7次欧州研究開発フレームワーク(FP7)のインフラストラクチャ計画でもスーパーコンピュータシステムの配備として採り上げられている3、4)

 PRACEの役割は、このうちのTier‐0のシステムの配備と活用の推進である。Tier‐0としては、3〜5のセンターが予定されている。現在、PRACEは、2009〜2010年のTier‐0システムの運用準備として、ペタFLOPSシステムに向けた試作機の調達、選定されたアプリケーションプログラムの移植や最適化、およびペタスケールへの拡張などの技術的な検討を行っている。また、2010年以降のマルチペタFLOPSシステムをねらったAdvanced HPC Technology Platform (AHTP)も検討している。


資 料

1) TOP500:
http://www.top500.org/

2) PRACE :
http://www.prace-project.eu/

3) 「欧州におけるぺタスケールコンピューティングの動向」、科学技術動向No.79,2007年10月号

4)HET:
http://www.hpcineuropetaskforce.eu/deliverables

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【2】音声認識・検索技術のWeb上での公開実験

 (独)産業技術総合研究所は、2008年6月12日より、インターネット上にある日本語の音声データを自動的に文字変換して、その文字情報を対象とした全文検索サービス「Pod Castle(ポッドキャッスル)」(http://podcastle.jp)をWeb上で一般公開し、音声認識・検索技術向上への実証実験を始めた。元の音声データと自動変換された文字情報を公開し、不特定多数のユーザーに誤認識を訂正してもらう。その訂正結果を自動学習させることで、音声認識性能と音声検索性能を向上させる(図表参照)。


 インターネット上では、最近ポッドキャストと呼ばれる音声配信が増加し、内容もニュース、講座や解説、ブログなど多岐にわたる。ポッドキャストは、iPodとbroadcastから連想された合成語であり、内容は一話ごとに、エピソードと呼ばれる音声ファイル(通常はMP3圧縮形式)に納められている。ポッドキャスティング用のソフトがインストールされていれば、パソコンで聞くことができ、また、個人や団体が容易に発信できるために、その数が増え続けている。しかし、音声そのものを比較・検索する技術や、音声ファイル名自体を検索する技術はあっても、音声認識の困難さから、音声内容による全文検索技術は完成していない。今回の様に、音声情報を自動でテキスト化(文字情報化)できれば、音声情報の内容についても検索が可能となる。


 現在の音声認識技術では、インターネット上の様々な音声データ、特にくだけた会話などを認識する際の誤認識が多く、次々と出現する新しい言葉にも対応できていない。今回の実証実験は、多数のユーザーの協力を得て、音声認識・検索技術の向上に役立てる。公開された「Pod Castle」に、ユーザーがポッドキャストを登録すれば、その音声情報が直ちに自動認識され、元の音声情報と同時に認識された文字情報が公開される。この公開情報をもとに、さらに多くのユーザーが誤認識を訂正し、編集できる仕組みになっている。7月22日時点で登録されているポッドキャスト数は406、含まれるエピソードは23,940個でそのうち訂正済みのエピソードは831個となっている。ユーザーの訂正結果を学習し、さらに、インターネット上の記事から、新語、時事用語、芸能人名などの新しい言葉の自動学習も併用して、音声認識辞書の登録語彙を増やす。現在のPod Castleの音声認識辞書には、約16万5千語が登録されており、自動学習により日々増え続けている。


 この研究で開発した音声認識・検索技術を、産業界と連携して実用化し、Webサービス、コールセンター、議事録作成などの様々な応用に展開する予定である。また、テレビ放送の字幕付与にも応用が期待される。


資 料

1)(独)産業技術総合研究所プレス・リリース:
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080612/pr20080612.html

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【3】カーボンナノチューブの長さと健康障害との関係

 カーボンナノチューブ(CNT)はグラファイトの層(グラフェン)が管状に形成された物質であり、単層のSWCNTや多層の同心円状のMWCNTがある。その軽量性、機械強度、電気特性、温度特性などを生かしたさまざまな用途が、エレクトロニクスをはじめとする多くの分野で期待されている。その一方で、CNTはじめナノマテリアルの環境や生体への影響を懸念する声もあり、その有害性を定量的に評価する手法の確立が急務となっている1)

 そのような状況下、2008年2月に国立医薬品食品衛生研究所と東京都健康安全研究センターの研究グループは、MWCNTがクロシドライト(青石綿)と同様な健康障害を起こすとの報告を行なった2)。この報告によると、MWCNT投与群ではクロシドライト投与群よりも死亡率が高く、肉芽腫の形成による腹膜癒着などの病変もより重度であった。

 その後2008年5月、エジンバラ大学を中心とする研究グループは、マウスを用いた実験で、MWCNTがアモサイト(茶石綿)と同じような健康障害を及ぼす可能性があると報告した3)。マウスの腹腔の中皮に、長短各2種のMWCNT、長短2種のアモサイト、そしてカーボンブラックを各々50μg投与し、24時間後に炎症反応、7日後に病変を解剖して確認した。炎症反応は、腹腔内のタンパク質と多核白血球数により評価し、病変については、異物巨細胞数と組織観察による病変領域の大きさで評価した。その結果、長いMWCNTと長いアモサイトの投与群に慢性的炎症が引き起こされ、また肉芽腫の形成が見られた。他方、短いMWCNTと短いアモサイト、そしてカーボンブラックでは、そのような障害は見られなかった。つまり、カーボンナノチューブが引き起こす障害には、その長さが関係する可能性が高いことが判明した(図表)。研究グループは、マクロファージの取り込み可能な長さと投与された試料の長さが関係しているのではないかと考えている。

(専門家ネットワーク 都河 龍一郎氏の投稿による)




参 考

1) 科学技術動向No.84 2008年3月号「ナノテクノロジーの社会受容に関する取り組み」

2) Takagi A., et al., “Induction of mesothelioma in p53+/- mouse by intraperitoneal application of multi-wall carbon nanotube”,J. Toxicol. Sci. Vol.33(1), 105-116(2008)

3) Poland C.A., et al., “Carbon nanotubes introduced into the abdominal cavity of mice show asbestos-like pathogenicity in a pilot study”, Nature Nanotechnology. Online 20 May 2008. doi:10.1038/nnano.2008.111

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【4】国際エネルギー機関による2050年までのエネルギー技術展望

 2008年6月、国際エネルギー機関(International Energy Agency, IEA)は、「エネルギー技術展望2008 (Energy Technology Perspectives 2008、ETP2008)」を発表した。

 ETP2008はG8(主要国首脳会議)からの要請に応えた報告書であり、将来のエネルギー社会の変革の方向性を各国の政策決定者に提供することを目的としている。この報告書では、2050年までに世界全体の総量として実現すべきエネルギー技術の展望を、CO2削減ポテンシャルと必要なコストの関係から、2段階のシナリオを用いて提示している。

 まず必達すべきシナリオとして提示されているのが「ACT MAP シナリオ」である。これは、既存あるいは実現性の目途が得られた技術を用いて、世界の2050年のCO2排出量を2005年レベルに戻すことを目標にしたシナリオである。CO2排出量を1トン削減するための追加的費用が50米ドル以下の廉価な技術を普及させることが、このシナリオの鍵であるとされている。エネルギー消費効率向上技術では、建築物や電気機器などの効率を年率1.4%で改善していく必要があるが、エネルギー使用量削減に伴うコスト低減が見込める魅力的な技術領域である。また発電技術では、実用化が加速している太陽光発電や、実証試験フェーズに入ったCO2回収隔離技術を一体化した石炭火力発電などに取り組むことが効果的とされている。このシナリオ全体で必要となる追加投資額は、現在から2050年までに17兆米ドル(年平均で約4000億米ドル)と見積もられており、これは全世界のGDPの0.4%に相当する額である。

 「ACT MAP シナリオ」を踏まえてさらに目標を高く設定したもう一つのシナリオとして、「BLUE MAP シナリオ」が提示されている。これは、世界の2050年のCO2排出量を2005年に比べて半減させるシナリオであり、2007年のハイリンゲンダム・サミットで今後の継続論議が合意された内容に相応する。このシナリオは、実現性の目途がまだ得られていない新技術を含め、多くの将来技術を導入しなければ達成できない。これらの新技術では、CO2排出量を1トン削減するための追加的費用は、商業化を想定しても200〜500米ドルと、「ACT MAP シナリオ」の技術に比べて4倍以上のコストがかかる。新技術の具体例には、第二世代バイオ燃料、洋上および地上風力発電、電気自動車・燃料電池自動車やさらなるCO2回収隔離技術の拡大普及などが挙げられている。このシナリオ全体で必要となる追加投資額は、現在から2050年までに45兆米ドル(年平均で1兆1000億米ドル)に達すると見積もられ、これは全世界のGDPの1.1%に相当する額である。

 また、シナリオを推進するために不可欠な政策オプションとして、エネルギー消費効率向上技術を普及させるための効果的な規制、研究開発・実証にコストがかかる新技術を進展させるための長期にわたる経済的インセンティブ、さらに世論やグローバルな連携を牽引するための強力なリーダーシップなどの必要性についても強調している。

 本報告書は、まだ不確実な多くの将来技術を迅速かつ効率的に見極める重要性を述べており、それは国の枠組みを超えた連携と政策誘導なしでは実現できない。


参 考

1) IEAプレスリリース、2008年6月6日:
http://www.iea.org/Textbase/techno/etp/index.asp

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【5】治水安全度の評価に航空レーザー測量を活用

 2008年4月、国土交通省河川局は一級水系における治水安全度評価情報の公表を開始した。2004年の水害により全国各地で堤防決壊など甚大な被害が発生したことから、同省では、全国の一級水系において航空レーザー測量1)(図表1)を活用し、治水安全度を評価し公表する「LPプロジェクト」 2)を2005年にスタートさせた。現在までに、109ある一級水系のうち40水系の評価結果を公表しており(2008年7月現在)、他の水系についても順次公表する。

 一級河川の管理は国と都道府県が行っているが、中小河川と呼ばれる都道府県の管理区間においては、国管理区間では行われている、洪水に対する安全性評価のための基本的な情報である現況測量が十分には実施されていない。国土交通省河川局では、測量空白区の解消を図るために、短期間で広範囲・高密度に地形データを得られる航空レーザー測量を採用した。

 航空レーザー測量は、航空機に搭載したレーザー測距装置から地上に向けてレーザーパルスを発射して戻ってくる時間差で距離を求め、GPS受信機で航空機の位置を測定し、IMU(慣性計測装置)によりレーザー光の方向補正を行うという3つの技術を取り入れている。今回行った計測密度は2mピッチであり、計測精度は水平方向に±30cm、鉛直方向に±15cmである。

 LPプロジェクトは、航空レーザー測量から得たデータを基に、国土技術政策総合研究所の開発した「中小河川治水安全度評価システム」により河川の安全性を評価・公表するものである。このシステムでは、航空レーザー測量で得られた三次元データを基に不整三角形網モデル(Triangulated Irregular Network:TIN)を用いて河川の断面図を100mピッチで自動作成する(図表2)。さらに、(独)土木研究所が開発した「アメダス確率降雨計算プログラム」から求めた降雨データを利用して洪水時の流出量を計算し、河川の流下能力(治水安全度)を評価するものである。

 航空レーザー測量から作成した河川断面図は、レーザーが水面で反射するため水面下が計測できないことなどから、河川流下部分の断面が多少小さくなる傾向にある。しかし、早急に治水安全度を評価・公表することの防災対策への寄与を優先させることから航空レーザー測量を採用した。

 中小河川の治水安全度に関して、より客観的で正確な認識が醸成され、中小河川が流れる地域における水害リスクの着実な低減や実効的な危機管理の実施につながっていくことが期待されている。




参 考

1) 航空レーザー測量:国土地理院:
http://www1.gsi.go.jp/geowww/Laser_HP/senmon.html

2) 国土交通省:LPプロジェクト:
http://www.nilim.go.jp/lab/rcg/newhp/seika.files/lp/index.html

3) 土木技術資料、(財)土木研究センター、48-8、p36-p41、河川の整備状況評価の中小河川を含む水系全体への展開(2006)

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【6】国際ガンマ線天文衛星の打上げ

 米航空宇宙局(NASA)のガンマ線大口径宇宙望遠鏡衛星GLAST (Gamma-ray Large Area Space Telescope)が2008年6月11日16時 (UT)、米国フロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地からデルタIIロケットにより高度約560kmの地球周回軌道に打ち上げられた。

 太陽は、可視光で見ると、温度約6000度の表面に顕著な活動は見られず、黒点が識別できる位であるのに対し、X線で見ると、温度が百万度を超える太陽コロナでフレアなどの活発な現象が現れる。ガンマ線は、最も高いエネルギー領域の電磁波であり、高エネルギーの物理現象で生成されるため、ガンマ線望遠鏡で見た宇宙は、可視光で見るのとは全く異なる姿になる。ガンマ線望遠鏡で見た太陽は、フレア発生時を除き、暗い。

 太陽の数百万から数十億倍の質量を持つブラックホールによって異常に明るく輝く銀河中心部の活動銀河核、数秒から数分間のガンマ線発光現象で、寿命約100億年の太陽が一生かけて生成するのと同量のエネルギーを放出するガンマ線バースト、質量が太陽の約8倍以上の恒星が超新星爆発を起こした後に残る超高密度の中性子星の重力場・電磁場が引き起こす物理現象、起源が未だ特定されていない宇宙線などがGLASTにより研究できる。

 ガンマ線はX線より波長が短く集光鏡を応用するのが困難なため、従来は精度の良い観測ができなかった。主要観測機器であるガンマ線大口径望遠鏡LAT (Large Area Telescope:図表参照)は、高エネルギーのガンマ線から電子およびその反物質である陽電子の対が生成されること(対生成)を利用して、電子・陽電子の飛跡を検出器で測定してガンマ線源の位置を特定できるとともに、これら粒子のエネルギーをカロリメータで測定することにより入射ガンマ線のエネルギーを計測できる。飛跡検出器には、広島大学が設計し、浜松ホトニクス株式会社が製作した高性能半導体センサー約1万枚が使用されており、従来の約30倍の観測精度が実現している。

 GLASTは、NASAと米エネルギー省(DOE)との共同プロジェクトであり、日本、イタリア、フランス、スウェーデンおよびドイツの研究機関が開発に参加した。日本からの参加機関は、広島大学、東京工業大学および(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部(ISAS)であり、文部科学省(科学研究費)、高エネルギー加速器研究機構(日米科学技術協力事業)および理化学研究所から支援を受けた。



参 考

1) ISASトピックス「グラスト(GLAST)国際ガンマ線天文衛星打ち上げ」:http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2008/0612.shtml

2) 広島大学お知らせ「高性能センサーを搭載したガンマ線天文衛星がNASAから打上げられました」:
http://www.hiroshima-u.ac.jp/top/news_info/index.html?id=4056

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