カーボンナノチューブ(CNT)はグラファイトの層(グラフェン)が管状に形成された物質であり、単層のSWCNTや多層の同心円状のMWCNTがある。その軽量性、機械強度、電気特性、温度特性などを生かしたさまざまな用途が、エレクトロニクスをはじめとする多くの分野で期待されている。その一方で、CNTはじめナノマテリアルの環境や生体への影響を懸念する声もあり、その有害性を定量的に評価する手法の確立が急務となっている1)。
そのような状況下、2008年2月に国立医薬品食品衛生研究所と東京都健康安全研究センターの研究グループは、MWCNTがクロシドライト(青石綿)と同様な健康障害を起こすとの報告を行なった2)。この報告によると、MWCNT投与群ではクロシドライト投与群よりも死亡率が高く、肉芽腫の形成による腹膜癒着などの病変もより重度であった。
その後2008年5月、エジンバラ大学を中心とする研究グループは、マウスを用いた実験で、MWCNTがアモサイト(茶石綿)と同じような健康障害を及ぼす可能性があると報告した3)。マウスの腹腔の中皮に、長短各2種のMWCNT、長短2種のアモサイト、そしてカーボンブラックを各々50μg投与し、24時間後に炎症反応、7日後に病変を解剖して確認した。炎症反応は、腹腔内のタンパク質と多核白血球数により評価し、病変については、異物巨細胞数と組織観察による病変領域の大きさで評価した。その結果、長いMWCNTと長いアモサイトの投与群に慢性的炎症が引き起こされ、また肉芽腫の形成が見られた。他方、短いMWCNTと短いアモサイト、そしてカーボンブラックでは、そのような障害は見られなかった。つまり、カーボンナノチューブが引き起こす障害には、その長さが関係する可能性が高いことが判明した(図表)。研究グループは、マクロファージの取り込み可能な長さと投与された試料の長さが関係しているのではないかと考えている。
参 考
1) 科学技術動向No.84 2008年3月号「ナノテクノロジーの社会受容に関する取り組み」
2) Takagi A., et al., “Induction of mesothelioma in p53+/- mouse by intraperitoneal application of multi-wall carbon nanotube”,J. Toxicol. Sci. Vol.33(1), 105-116(2008)
3) Poland C.A., et al., “Carbon nanotubes introduced into the abdominal
cavity of mice show asbestos-like pathogenicity in a pilot study”, Nature
Nanotechnology. Online 20 May 2008. doi:10.1038/nnano.2008.111