[レポート2]

高効率を目指す
太陽電池セルの研究開発動向

金間 大介
河本 洋

ナノテクノロジー・材料ユニット

1.はじめに

 太陽光発電システムの最大の特徴は、その多くが未利用となっている太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換して利用することにある。しかも、他の多くの発電方式のように、光のエネルギーを発電プロセスで熱エネルギーや化学結合エネルギーに変換することなく、直接電気エネルギーに変換することができる。このような発電プロセスの簡易性のため、メンテナンスの必要性が極めて少なく、冷却水の循環など発電維持のための他のエネルギーを用いる必要もない。騒音も一切発生しない。そして何よりも、システムの製造や原材料の精製も含めて、単位発電量あたりの二酸化炭素の排出量が少ないという利点を持つ。

 図表1に太陽光発電システムの生産フローを示す。太陽光発電システムは、システム設置後の運転時には二酸化炭素を発生しないものの、システムの完成に至るまでには、材料の精錬等のために化石燃料や他のエネルギーが必要となる。一般に、発電システムとしてのトータルエネルギー効率を表す一指標として、エネルギーペイバックタイム(EPT)が用いられる。EPTは、システム製造の際に必要なエネルギーと同じ量のエネルギーを、そのシステムが産み出すまでの時間で表される。太陽光発電技術研究組合や(独)産業技術総合研究所の試算によると、現在、最も普及している多結晶シリコン太陽電池において、EPTは約1.5〜2年程度となっている1)。多結晶シリコン太陽電池の平均寿命はおおよそ20〜30年であり、太陽光発電システムはエネルギー効率の面でも非常に優れている。

 このような多くの利点のため、日本およびドイツで先行してきた太陽光発電市場は、今後、全世界へと拡大すると予想されている2)

 本稿では、図表1に示した生産工程の中で、主に太陽電池セルの研究開発に焦点を絞り、その動向を紹介する。シリコンや有機系、化合物半導体など個別の太陽電池セルの研究動向の情報は、すでに多く溢れている。本稿では、これらを現在の市場の中心である結晶型から、5年以内に次々と量産が開始されると予想される薄膜、そしてタンデム型という流れで整理し、さらに将来性を占う意味で、極めて高い変換効率を持つと期待される量子ドットを用いた太陽電池セルの研究開発動向を紹介する。最後に、これらの動向を踏まえ、この領域に関する科学技術政策へのインプリケーションを述べる。

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2.太陽電池セルの現状と多様化する研究開発

2‐1 第1世代太陽電池と呼ばれる結晶シリコン太陽電池の現状
―グローバル化する太陽光発電市場と経済合理性―

 図表2に見られるように、これまで太陽光発電システムの普及は、日本とドイツにほぼ限定されていた4、5)。しかし、最近になって米国での普及が進み、さらにここ数年で中国などへも普及が進むと見られており、今後、太陽光発電市場が世界各地へと拡大することが予想される。このように大きな期待のかかる太陽光発電だが、最も大きな課題は発電コストである。現状の太陽光発電の発電コストは40〜50円/kWhであり、これは日本では住宅用電気料金の約2倍である。現在の太陽電池セルの生産量は、先に述べた多結晶シリコンが約6割、単結晶シリコンが約3割と、バルク結晶シリコンと呼ばれるこれらの材料が全体の約9割を占める。したがって、この両結晶シリコン太陽電池の低コスト化が、短期的には太陽光発電の普及の鍵を握る。

 しかしながら、これら結晶シリコン太陽電池の価格の低下をこれ以上期待するのは難しくなってきている(図表3)。主な要因としては、第一に、次章で説明するように材料としての発電変換効率が理論値に迫りつつある。このため、市場に普及している太陽電池セルの変換効率の向上は、近年はわずかなものになっている。第二の要因として、材料の価格が高騰している。図表3で見てもわかるとおり、付属機器等の価格の低下に比べ、太陽電池セルの価格低下幅は小さくなっている。結晶シリコン太陽電池の産業構造は、製造コストが川上の工程に大きく依存しており、最終製品に占める売上の大半がシリコンウェハまでの工程で占められる、いわゆる素材付加価値型構造である3)注1)。結果的に、材料メーカー各社は、今後予想される需要増に対し、次々とシリコン結晶の増産計画を打ち出している(図表4)。シリコン結晶の製造は、最も川上の珪石の供給に強く依存しており、設備投資におけるスケールメリットも効きにくい。したがって、革新的なシリコン結晶材料製造技術を開発していかない限り、日本の材料メーカーは今後、シリコン結晶の製造では厳しいコスト競争を強いられる可能性がある。このような原料の供給不足とその対応策に関しては、本誌の2007年1月号に詳細を述べたので参照されたい6)

  また、日本の太陽光発電システムの累積導入量は2004〜2005年にドイツに追い抜かれている注2)(図表2)。これは、ドイツのエネルギー政策において太陽光発電の電力買取に強いインセンティブを働かせてきたことによる7〜9)。ただし、太陽光発電システムの実績を日独のみの発電市場で検討するのは、あまりにも規模が小さい。今後は、全世界の発電市場を視野に入れながら、コスト対策を行い、生産量を着実に伸ばしていくべきであろう(図表5)。

2‐2 薄膜による高付加価値化―第2世代太陽電池の開発競争―

 前述したような、材料の供給や精錬に大きく依存する産業構造からの脱却策として、結晶シリコン太陽電池から薄膜シリコン太陽電池への移行が急速に進められようとしている。

 薄膜シリコン太陽電池には、主にアモルファスシリコン注3)微結晶シリコン注4)を採用したものがある。これらの薄膜は、200μm程度の厚さを持つ結晶シリコンに比べ数μmと非常に薄く、シリコン原料の大幅な節約が可能である。また、低温での形成が可能なため、製造に必要なエネルギーを節約できることなどから、低コストでの量産化の期待が高い。現状ではまだ発電効率は10%強程度と、多結晶シリコンの13〜17%には及ばないものの、アモルファスと微結晶シリコンを積層型(タンデム型)にするなど効率の向上に工夫の余地がある。また、柔軟性のある基板を選択することによって、フレキシブルな太陽電池セルを作製することも可能となる。

 薄膜太陽電池セルには、様々なバックグラウンドを持ったメーカーが参入しようとしている(図表6)。このように多様のプレーヤーが参入してくれば、各メーカーにとって製品あるいは製造プロセスにおける技術的な差別化は必須となる。勝負はタンデム型による高効率化と安価で安定な製造プロセスの構築にある。タンデム型の研究開発動向は次章で触れる。

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3.太陽電池セルの基本特性と積層型(タンデム型)太陽電池

 ここまで結晶シリコン太陽電池および薄膜シリコン太陽電池の様々な製造の現状および研究開発の動向を紹介してきたが、本章では、太陽電池セルの変換効率に関する基本特性を概観するとともに、タンデム型に関する技術の詳細を述べる。

3‐1 太陽光の特性と太陽電池セル材料の理論限界効率

 太陽光発電のエネルギー源となる太陽光は、おおよそ6000℃の黒体が放つ輻射に近似できる。太陽光は可視光領域にピークを持つ、幅広い波長の光である。ただし地球の表面付近には大気が存在するため、大気圏によって反射、散乱、吸収されたあとの太陽光が地表に降り注いでいる10、11)(図表7)。地表のある地点に降り注がれる太陽光の輻射量は、その場所の緯度によっても変化する。この輻射量の違いを大気圏エアマス(Air Mass:AM)という指標で表す。天頂から垂直に入射する通過空気量をAM-1と表す。大気圏外ではAM-0、春や秋の正午頃の東京ではAM-1.5程度である。太陽電池セルを設計するときは、当然この太陽光の波長分布と強度を考慮しなければならない。セルの設計では、いかに最も強度の高い波長帯の光を吸収する材料を選択するかが鍵になる。

 図表8に主要な太陽電池セル材料のバンドギャップエネルギー(Eg)と現在までに達成している変換効率、および理論限界効率の計算結果を示す12、13)。図表7で示したように、太陽光の放射強度は500〜700nm付近で最も強くなる。次節および図表9で示すように、Egよりも小さなエネルギーの太陽光は、太陽電池セルには吸収されず透過してしまう。したがって、太陽光の輻射が強い500〜700nm(2.5〜1.8eV)よりもわずかにエネルギー幅の小さい1.6〜1.2eV程度のEgを持つ材料が、最も効率よく太陽光を吸収し電流に変換できる。そのため、理論限界効率もこの近傍で最大となる。

 太陽電池セル材料として代表的な単結晶シリコン(Eg=1.1eV)の場合、26〜28%が理論限界効率の最大値である14)。GaAsやInPなどの化合物半導体は、理論限界効率が最大値となる約1.4〜1.5eV付近にEgを持つことから、単結晶シリコンを上回る効率を達成することが期待される。一方、アモルファスシリコンは、内部の格子欠陥における電流ロスが大きいため、理論限界効率に近い変換効率はまだ出せていない。

3‐2 太陽電池セルのエネルギー損失要因

 これまで述べてきた太陽電池セルは全て、pn接合された半導体一層から形成されているという意味で、シングル接合型太陽電池注5)と呼ばれる。図表9にシングル接合型太陽電池のエネルギーバンド構造と、主なエネルギーの損失要因を示す。図表7で示したように、太陽からは様々な波長を持つ光が届く。入射光の中で、ちょうどEg付近のエネルギーを持つ光は、価電子帯の最上部にある電子を伝導帯へと励起する。これより大きな波長を持つ入射光は、半導体中に吸収されずに透過するか、あるいはフォノン注6)エネルギーとなって熱に変換される。一方、Egより充分大きなエネルギーを持つ入射光は、高いエネルギーを持つ電子を伝導帯へ送り込む。その後、非常に短い間にそのエネルギーを失い、伝導帯のバンド下端へ緩和する。こうした非常に高速のエネルギー緩和過程は、電子濃度が高い半導体の場合、電子―電子散乱により電子系の中で一旦平衡に達し、その後フォノンの放出により熱エネルギーとして放出することで、全体のエネルギーの緩和が進む。このような短波長側のエネルギー損失は、全太陽光エネルギーの約30%程度にもなり、シングル接合型太陽電池の変換効率の最大の損失要因になっている11)

3‐3 積層による高変換効率への挑戦

 シングル接合型太陽電池の理論限界効率を大きく突破する新しい材料として、積層型(タンデム型)太陽電池が注目を集めている。薄膜太陽電池セルは、低温における化学気相成長法(CVD)で作製されるため、タンデム型が可能になる。例えば、GaInP/GaAs/InGaAsの化合物半導体からなる3接合タンデム型太陽電池において、約33%という高い変換効率を達成している例がある15)。このようなタンデム型太陽電池では、光入射側から順に、ワイドバンドギャップを持つ半導体からナローバンドギャップを持つ半導体へと積層させ、全体として太陽光スペクトルとの整合性を高めることにより、長波長側の透過損失および短波長側の熱エネルギー損失を低減させる。

 当然このように高い変換効率を可能とするタンデム型太陽電池にも、多くの課題が存在する。図表10のように、基本的にタンデム型は縦に直列につながった構造をしている。全体の電圧は、各層の電圧の和となるが、電流は回路内で一定となる。したがって、各層のどれか一層でも発電効果が落ち、電流量が低下すると、それがボトルネックとなり全体の電流量を低下させる要因となる。例えば、AM-1.5の理想的な太陽光を基に最適化されたタンデム型を設計したとしても、くもりの日は一般に赤色側が弱くなることから、赤色付近の波長帯をターゲットにした層は極端に発電効率が低下する。結果的に、タンデム型のメリットを発揮するのは、晴天の日のみとなり、有利な地理的条件を満たす地域でしか効果を発揮できない。今後、タンデム型の開発は、世界各地の天候を視野に入れた上で、より最適な設計を目指さなければならない。一方、このような課題に対し、デラウェア大学の研究者らは、直列構造をとらず各層毎に電流を取り出すという斬新な設計アイディアを提案し、2007年7月時点で世界最高の変換効率42.8%を達成している16)。ただし、この構造は単純な直列積層に比べ複雑であるため、どこまで製造コストを抑えられるかが大きな課題となる。

 さらに、タンデム型の開発においては、表面にマイクロからナノメートルサイズの凹凸形状をもった表面構造(テクスチャ構造)を形成させ、表面における光の反射率を下げたり、あるいは結晶内への光閉じ込め効果によって光吸収効率を向上させるといった技術も確立されつつある。また、結晶粒の粒界には原子同士の結合が不完全となる場合が多く、この構造欠陥が太陽電池セルの変換効率に悪影響を及ぼすことになるため、水素等の不純物を利用したパッシベーション処理の開発も進められている。このように、主にタンデム型の開発には、シングル接合型太陽電池の場合よりもさらに高度な表面処理技術が求められる。

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4.シリコン以外の太陽電池セル
―化合物半導体、有機系材料の研究開発の現状―

 本稿では、主にシリコン太陽電池に焦点を当てているが、シリコンの他にも様々な太陽電池セルの研究開発が進められている(図表11)。以下では、シリコンよりも高い変換効率が狙える化合物半導体や、より低コストな製造プロセスの実現が可能となる有機系材料の研究開発動向を簡単に紹介する。主な焦点となっているのが、単位発電量あたりの原材料の節約、より高い発電効率を持つ材料の開発、そしてそれらを安価で安定的に供給できる製造プロセスの確立である。

(画像クリックで拡大表示)

4‐1 化合物半導体

 化合物半導体は、バルク型では単結晶シリコン並み、あるいはそれ以上の発電効率を得られる可能性がある(図表11)。先に述べたように、太陽電池セルの理論変換効率は、半導体のバンドギャップエネルギー(Eg)に依存する。太陽スペクトルとの整合の点から、1.4〜1.5eV程度のバンドギャップを持つ半導体が、高効率太陽電池セルとして適している18)。約1.1eVのシリコンに比べて、1.42eVのGaAsや1.35eVのInPは、高効率が期待できる。

 また、シリコンは間接遷移型のため光吸収係数が小さく、充分に太陽光を吸収するには100μm以上の厚さが必要であるが、薄膜のCIGS系(CuInGaSe2)に代表されるような化合物半導体の多くは直接遷移型であるため、光吸収係数が高く、厚さも数μmで充分高い効率が期待できる。ただし、資源として希少性の高いインジウムや、毒性の高いカドミウムなどを使用しなければならないため、価格もシリコンに比べて高く、これらの原料のリサイクル技術や代替材料技術の確立が、量産化の鍵となる。

 シャープ(株)はこのような課題に対し、レンズを使って小さな太陽電池セルに太陽光を集めて照射する、集光型太陽光発電システムを開発している19)。同社は、フレネルレンズを用いて約700倍に太陽光を集光し、化合物半導体をベースにした3層太陽電池セルに照射することで、約37%の変換効率を達成している。集光により太陽電池セルは高温になるが、GaAsを用いた太陽電池セルは200℃以上でもほとんど変換効率は低下しない注7)。このため、現時点において集光技術は、主に化合物半導体の太陽電池セルの効率向上技術として期待されている。

 4‐2 有機系材料

  有機半導体は、原材料が安く、安価かつ容易に作れる太陽電池セルとして研究が進められている。プラスチック基盤上に作成が可能で、フレキシブルでデザイン性に優れるというメリットも大きい。発電効率は数%とまだ低いが、フラーレンをn型半導体に使用するなど、有機半導体材料の候補には非常に多くの種類があるため、最適な材料が見つかれば大きな飛躍も不可能ではない。同領域の多くの研究者の参入が期待されるところである。

 色素増感型も発電効率は低いものの、低価格化とデザイン性に対する期待は高い。有機色素の種類を選ぶことで、カラフルな太陽電池も可能となる。現状では、イオンの伝達に蒸発しやすい液体の電解液を使用するため、システムの耐久性が課題となっている。このため、電解液の固体化の研究が求められている。

 以上のように、有機半導体、色素増感型太陽電池ともに発電効率はまだ低いため、高効率を目指す太陽電池セルとはやや異なった方向性の開発となっている。

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5.太陽電池セル開発の新たな潮流
―第3世代太陽電池と呼ばれる量子ドット太陽電池の可能性―

 近年、図表8のような変換効率の理論限界を大きく越える可能性のある太陽電池セルとして、量子ドット太陽電池が注目されている。以下では、量子ドットの基本的な物性を踏まえた上で、太陽電池セルへの応用可能性について述べる。

5‐1 量子ドットの基礎物性―なぜ量子ドットは高効率が達成できるのか―

 量子ドットとは、寸法が数nm〜数10nm程度のナノ結晶構造のことであり、主に基板結晶上にエピタキシャル成長させる方法で作製される。量子ドットの周囲は、高いポテンシャル障壁によって三次元的に取り囲まれており、量子ドット中の電子や正孔は、狭い空間に閉じ込められることによって離散的なエネルギー状態となる。結果的に、量子ドット中の電子や正孔の基底エネルギー状態は、量子ドットのサイズに依存する20、21)

 量子ドットの物理的特性として、特に以下の3点が太陽電池セルへの応用という観点から有用視されている20、21)。これらを達成することにより60%を越える理論効率を達成することが期待されている22、23)。(1)と(2)はそれぞれ、図表9で示した2つの損失要因(光の透過損失とフォノン放出による熱エネルギーの損失)を克服する鍵として期待される。

(1)量子サイズ効果:量子ドットのサイズを調整することで、光吸収波長を選択することができるため、太陽光スペクトルとの整合を高めることができる20、24)

(2)エネルギー緩和時間の増大:量子ドット中では、電子のエネルギー緩和時間が遅くなることが知られている。したがって、フォノン放出によるエネルギー緩和が起こる前に高いエネルギー状態にある電子を取り出せる可能性がある。

(3)ミニバンドの形成:超格子構造にして量子ドット間の結合が起こるようになると、伝導帯および価電子帯にミニバンドが形成される25)。例えば、図表12のようなpn接合の間に複数の量子ドット層を積層させた構造を持つ量子ドット太陽電池を考えた場合、量子ドット層の間に入る中間層が充分厚いと、エネルギーバンド構造は図表13(a)のようになる。この場合、太陽光により励起された電子は、更なる光励起あるいは熱励起によって量子ドットの井戸から抜け出し、電流として取り出すことができる。一方、中間層の厚さを数nm程度まで薄くすると、量子ドット間にミニバンドが形成され、電子や正孔は少ないエネルギー損失で移動することが可能となる(図表13(b))20、21)

 もちろん、まだまだ克服すべき研究課題は多い。特に、量子ドットを規則的かつ安定的に配列することは難しく、しかも汎用的な材料でこれを達成しなければならない。次節において、主に量子ドットの作製プロセス技術を中心に、量子ドットの太陽電池セルへの応用可能性を述べる。

5‐2 太陽電池セルへの応用を目指した量子ドット作製プロセス技術

 これまでの量子ドット太陽電池の研究では、化合物半導体が先行している。作製方法としては、格子定数の違いや高指数面基板を用いた自己組織化により量子ドットを作製する方法が有力視されている。例えば、基板結晶の格子定数より大きい格子定数をもつ材料をエピタキシャル成長させる場合、成長が進むと歪エネルギーを低減させるために、島状の量子ドットが規則的に成長する。代表的な例としては、InAsの格子定数がGaAs より7.2%大きいInAs/GaAsなどが挙げられる。筑波大学の岡田准教授らはこの系を利用して、変換効率8.54%を達成している26)。現状では、大面積化が困難なため、4-1節で紹介した集光型太陽光発電システムへの導入が注目されている。

 ただし、これらは主に化合物半導体で可能となる現象で、原料のコストや量産化等を考慮すると、最終的にはシリコンで実現されるのが望ましい。現状においてシリコン材料では、量子ドットを規則的に、しかも安定的に配列することはできていない。特に、サイズ揺らぎの許容範囲とされる10%以下を達成することは、困難を極める。

 しかしながら、ごく最近になって、シリコン量子ドット太陽電池の研究も徐々に進展を見せている。注目されている方法の一つに、シリコン過剰組成を有するシリコンカーバイドを熱処理する手法がある。図表14に、プラズマCVD法を用いて、化学量論およびシリコン過剰組成を有するアモルファスシリコンカーバイドからなるアモルファス超格子を作製し、それを熱処理することによりシリコン量子ドット超格子を自己組織化的に作製する方法を示す27)。これは、量子ドットとして用いる材料とエネルギー障壁層となる材料との間には格子定数に差があるため格子歪みが生じることを利用し、結晶成長中に自発的に量子ドットを形成させる方法である。

 その他の量子ドット構造の作製に応用可能と考えられる技術として、層状シリカ塩を前駆体としたナノポーラスシリカ(SiO2)の合成プロセスがある28)。現在のところ、これは量子ドット超格子の作製を目的としたものではないが、図表15の高分解能透過電子顕微鏡像に示すように、ナノスケールで制御されたシリカの多孔構造を有するものが得られており、一つ一つのナノ孔にシリコンなどの半導体ナノ粒子を封入する技術が開発されれば、シリカ自体を中間層として用いることが可能と予想され、半導体ナノ粒子が規則正しく配置されて薄膜を積層した3次元の量子ドット構造が可能となるかもしれない。

 以上の量子ドット構造作製方法はいずれも研究途上にあり、これらはまだ小面積規模のサンプルを作製するにとどまっている。中間層を薄化しつつ、均一な大きさの量子ドットを3次元的に規則正しく、高密度で並べるためにはまだ多くの課題が存在する。特に鍵となるのは、量子ドットサイズの揺らぎの制御である。また、将来の応用を目指すには、超高真空の装置を必要としない方法の開発も重要であろう。

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6.長期的な視野に立った基礎研究の強化と人材育成の必要性

 これまで概観してきたように、太陽電池セルは、結晶から薄膜、化合物系、有機材料系、タンデム型、さらに量子ドットと、より高い変換効率と低コスト化を求めて研究が進められている。図表11に様々な種類の太陽電池セル開発の現状を紹介したが、裏を返せば、これだけの種類が乱立するのは決定的な太陽電池セルを見出せていない結果とも言える。

 現在、最も普及している結晶シリコンの太陽光発電システムは、川上の工程、すなわちシリコン材料の精錬やシリコンウェハの作製などに、より多くの利益が生まれる産業構造となっていることはすでに述べた。そのため技術集約型企業における研究開発の中心は、より川下の工程において付加価値が生まれる薄膜あるいはタンデム型へとシフトしている。太陽電池セルの開発は、変換効率の向上とそれを実現する大面積製造プロセスが勝負になる。製造プロセスの技術開発は、かつては日本の産業界がリードしてきた。現在、薄膜あるいはタンデム型が量産化のフェーズに入ったことにより、企業は多くの研究者・技術者を量産化プロセスの開発・立ち上げに従事させる必要がある。事業の早期化や製品の差別化などで国際競争も激化しており、研究者・技術者たちは多忙を極める。さらに、もともとこの技術領域ではアカデミアでの研究はあまり活発ではなかったという経緯もあり、これらの状況から、今後、日本におけるこの領域の先端的研究開発の発展に、懸念の声が挙がっている。

 図表16に、欧州太陽光発電会議(European Photovoltaic SolarEnergy Conference and Exhibition)において、第20回(2005年)から第22回(2007年)までに発表された論文件数の合計を国別に示す。この大会は、太陽光発電に関する世界大会の中でも最も参加者数および論文発表件数が多く、年々その規模を拡大している29、30)。欧州は、太陽電池の開発・導入に非常に熱心であり、今後も注目される大会である。第22回大会では83カ国から約3000名が参加し、約1100件の論文発表が行われた。欧州主催の大会であるため、地元である欧州各国の論文発表が多くなっているが、ここで注目したいのは日本のシェアで、わずか約6%に留まっている。図表5に示したように、現在、日本は世界トップの太陽電池セルの生産国であるにも関わらず、それと比較してもこの論文発表件数の割合は非常に小さい。もちろん論文発表件数だけで研究水準を比較することはできないが、今後の太陽電池セルの開発は高度化かつ複雑化することが予想されるだけに、日本の太陽電池研究の層の薄さが懸念されるところである。

 このような状況を考えると、日本は大学や公的研究機関を中心にもっと基礎研究を強化していくべきであろう。これまで(独)NEDO技術開発機構等をはじめとする公的な研究開発事業が、様々な形で産業界を支援し成果を挙げてきたように、短期的には高い技術力を持つ産業界を中心とした応用・開発研究の支援が効果を発揮するだろう。しかし今、産業界はそのような公的な事業に対しても、むしろ長期的な視野を求めており、基礎研究の強化とそれに伴う研究人材育成の要望が強くなってきている注8)。10〜20年後を見据えたとき、産学連携を前提とした基礎研究を強化し、その中で基礎研究をしっかり遂行することのできる人材を育成することが、日本の競争力に大きな意味を持つだろう。

 特に、ここでは以下の3点の研究課題において基礎研究の強化を強調したい。

1) タンデム型の積層構造に関する表面・界面の基礎物性の解明および材料探索(3-3節)

2) 量子ドットを3次元的に規則正しく、かつ高密度な配列を可能とする量子ドット作製プロセスの研究(5-2節)

3) 全く新しいアイディアによる高効率太陽電池の可能性の追求

 1)は今後数年の間に直面することが予想される研究課題で、すでに産業界から多くの要望がある。2)は、より革新的な研究課題であり、プロセス技術の基礎的な研究を行うことによって、他の技術開発への波及効果も見込まれる。3)はさらにチャレンジングな研究だが、その一例として、米国の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が2007年7月に発表した、多重励起子生成(MEG:Multiple Exciton Generation)に関する興味深い研究がある31)。これは、太陽光の光子1個に対し、1個以上の電子の生成を可能にするというもので、図表9に示した太陽光発電のエネルギー損失要因の一つ:熱エネルギーによる損失を大幅に低減し、変換効率を向上させることが期待できるという点で、注目に値する研究であろう。

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7.おわりに

 日本の太陽光発電の促進政策は、1973年の資源エネルギー庁発足以来、サンシャイン計画や電源開発促進対策特別会計、石油およびエネルギー需給構造高度化対策特別会計制度等の導入により、成功事例の一つとして海外から評価されてきた32、33)。今後は、市場導入の観点から、より高効率な太陽電池セルの開発に対して強いインセンティブを与えることを考えてはどうだろうか。例えば、どうしても結晶シリコンに比べコスト高となってしまうタンデム型等の太陽電池セルに対し、結晶シリコンと同額程度となるよう補助金を配賦することで市場への導入を促してはどうか。特に、日本の住宅環境では、日のあたる面積が海外に比べ小さい分、高効率な太陽電池セル開発のメリットが大きい。こうした太陽光発電導入のインセンティブは、CO2削減や化石燃料の代替など、主に環境・エネルギーの観点から議論されてきたが、より技術的付加価値の高い研究開発を制度面から促進することによって、研究開発における国際競争力の強化という面で新たな成功事例を作っていくことができるのではないだろうか。

 なお、本稿では、太陽電池セルの動向を俯瞰的に紹介してきたが、太陽光発電モジュールやシステム、フィールドテスト、資源リサイクル等の課題については触れていない。太陽光発電を含む再生可能エネルギーの普及促進については、過去の科学技術動向誌9)や国際機関のレポート34)でも取り上げられているので参照されたい。

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謝 辞

 本稿をまとめるにあたり、東京工業大学教授 小長井誠氏、同大学助教 宮島晋介氏、(独)産業技術総合研究所太陽光発電研究センターチームリーダー 藤原裕之氏、筑波大学准教授 岡田至崇氏、みずほ証券(株)シニアアナリスト 張谷幸一氏、(独)NEDO技術開発機構主任研究員 猪股雅雄氏、同松原浩司氏、同主査田中滋氏、(独)科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー 中山智弘氏、豊田工業大学教授 山口真史氏(科学技術動向研究センター専門化ネットワーク調査員)から、貴重なご意見および資料を頂きました。ここに深く感謝致します。

1) 「太陽光発電評価の調査研究」太陽光発電技術研究組合、NEDO委託業務成果報告書(2001) 

2) “Photovoltaic Energy Barometer: GWp Installed in European Union”, EurObserv’ER 2007

3) 張谷幸一「太陽電池産業は売りか買いか〜アナリストの視点から〜」太陽電池セミナー2007、NIKKEI MICRODEVICES/日経エレクトロニクス(2007) 

4) 「PV News 2007年3月号」(2006)

5)「総合資源エネルギー調査会第15回新エネルギー部会」資料(2006)

6)河本洋、奥和田久美「高純度シリコン原料技術の開発動向―太陽電池用シリコンの革新的製造プロセスへの期待―」(科学技術動向2007年1月号)科学技術政策研究所(2007)

7) 「太陽光発電産業自立に向けたビジョン(2006年度改訂版)」太陽光発電協会(2006)

8)“Environmental Policy, Renewable energy sources in figures - national and international development, Status: May 2006”,Federal Ministry for the Environment, Nature Conservation and Nuclear Safety(BMU)Public Relation Division -D-11055 Berlin 

9)大平達也「再生可能エネルギーの普及促進策と技術課題」(科学技術動向2005年8月号)科学技術政策研究所(2005 

10) ”Solar Spectra: Air Mass Zero” National Renewable Energy Laboratory, website: 
http://rredc.nrel.gov/solar/spectra/am0/

11)浜川圭弘、桑野幸徳「太陽エネルギー工学:太陽電池」培風館(1994)

12)Green, M. A., Emery, K., Hisikawa, Y. and Warta, W. “Short communication; Solar cell efficiency tables (virsion30)” Progress in Photovoltaics: Research and Applications, Vol.15, Issue 5, pp.425

13)「太陽電池の本」(独)産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター(2007)

14)Shockley, W. and Queisser, H. J. “Detailed Balance Limit of Efficiency of p-n Junction Solar Cells” J. Appl. Phys., Vol.32, Issue 3, pp. 510-519 (1961)

15)Yamaguchi, M. “Multi- junction solar cells and novel structures for solar cell applications” Physica E, Vol. 14, Issues 1-2, pp. 84-90 (2002)

16)米国デラウェア大学HP:
http://www.udel.edu/PR/UDaily/2008/jul/solar072307.html

17)(独)産業技術総合研究所太陽光発電研究センターホームページ: 
http://unit.aist.go.jp/rcpv/index.html

18)濱川圭弘「フォトニクスシリーズ3 太陽電池」コロナ社(2004)

19)高木達也、兼岩実「集光型化合物太陽電池」シャープ技報第93号(2005)

20)岡田至崇「自己組織化量子ドット超格子と高効率太陽電池への応用」日本結晶成長学会誌Vol. 33、No. 2(2006)

21)岡田至崇、大島隆治「量子ナノ構造を導入した次世代太陽電池」応用物理第76巻第1号(2007)

22)Luque, A. and Marti, A. “Increasing the Efficiency of Ideal Solar Cells by Photon Induced Transitions at Intermediate Levels”, PRL. Vol.78, pp.5014-5017 (1997)

23)Green, M. A.“Third Generation Photovoltaics: Advanced Solar Energy Conversion”, Springer (2003)

24)Barnham, K. W. J. and Duggan, G. “A new approach to high-efficiency multi-band-gap solar cells”, J. Appl. Phys. Vol. 67, pp.3490-3493 (1990)

25)江崎玲於奈、榊裕之「超格子ヘテロ構造デバイス」工業調査会(1988)

26) Oshima, R., Nakamura, Y., Takata, A. and Okada, Y. ”Multi-stacked InAs/GaNAs Strain-compensated Quantum Dot Solar Cells” 22nd EU-PVSEC, Milan (2007)

27)東京工業大学大学院 宮島晋介氏ホームページ「太陽電池への応用を目指したシリコン量子ドットアレイの作製に関する研究」: http://www.eng.titech.ac.jp/jyosei/h17/s_miyajima.html

28)佐々木優吉「Na2SiO5ポリタイプを前駆体としたメソポーラスシリカの配向制御」、ゼオライト学会予稿集(2007)

29)欧州太陽光発電会議(22nd European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition)ホームページ:
http://www.photovoltaic-conference.com/conference.0.html

30)「欧州太陽光発電会議で過去最多の参加者」(科学技術動向2005年9月号トピックス)科学技術政策研究所(2005)

31)Beard, M. C., Knutsen, K. P., Yu, P., Luther, J. M., Song, Q., Metzger, W. K., Ellingson, R. J. and Nozik, A. J. “Multiple Exciton Generation in Colloidal Silicon Nanocrystals” Nano Lett., Vol.7, No.8, pp. 2506-2512 (2007)

32)“Creating Markets for Energy Technologies”, OECD/IEA (2003)

33)鈴木達治郎、城山英明、松本三和夫「エネルギー技術の社会意思決定」日本評論社(2007)

34)“Trends in Photovoltaic Applications: Survey report of selected IEA countries between 1992 and 2006” IEA (2007)

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