[レポート1]

欧州におけるペタスケール
コンピューティングの動向

野村 稔

情報通信ユニット

1.はじめに

 高性能コンピューティング(HPC:High Performance Computing)とは、天候、気候などの自然現象のシミュレーション、宇宙物理学やプラズマの解析、生命科学などの非常に計算量が多い計算処理のことであり、HPCを行う手段としては、スーパーコンピュータやグリッドを用いる方法がある。スーパーコンピュータとは、大規模な科学技術計算に用いられる超高性能コンピュータを指し、適用用途に応じてさまざまなアーキテクチャがあり、その性能は高位から下位までさまざまなものが存在する。ここでは、それらのスーパーコンピュータを総称して「HPCシステム」という。一方、グリッドとは、ネットワーク上に分散した多様な計算資源や情報資源、例えばコンピュータ、記憶装置、可視化装置、大規模実験観測装置などを仮想組織のメンバーが一つの仮想コンピュータとして利用する環境を指す。

 HPCシステムの性能の500位までの順位を決めるTOP500リスト1)によると、米国の圧倒的な強さに続いて、欧州が高性能なHPCシステムの保有に向けて努力している姿が伺える。そして最近、欧州のHPCシステムへの対応にさらなる変化が見えてきた。これは、米国および日本で政府主導によって推進しているペタスケールコンピューティング(ペタFLOPS注1)レベルの性能をもつスーパーコンピュータを中心としたHPC)の研究開発を注目した動きである。欧州でも科学技術を推し進めるためにはシミュレーションの大規模化、高精度化、高速化への対応が必要で、そのためには最高位の性能をもつHPCシステムとその活用が必須のものとされるようになってきた。欧州もペタFLOPSレベルの性能をもつHPCシステムをターゲットにしており、それを以下では「欧州スーパーコンピュータシステム」と呼ぶことにする。2007年1月から開始した第7次欧州研究開発フレームワーク(FP7:Seventh Framework Programme)のe‐インフラストラクチャ計画では、FP6までに強化してきたグリッドインフラストラクチャに追加して、新規に「スーパーコンピュータシステムの配備」を採り上げている。

 この動きに関連して、2006年の6月に「欧州における高性能コンピューティングのタスクフォース(HET:HPC in Europe Taskforce)」が発足した。HETは、欧州の11カ国のHPCシステムの専門家から構成されている。HET設置の目的は、最高位の性能をもつHPCシステム、欧州各国内の既存インフラストラクチャ、ソフトウェア開発、計算科学における能力開発の必要性などを考慮した、持続可能なHPCエコシステム(HPCシステムの連携)を欧州に構築するための戦略と行動を提言することであった。そして、2007年1月、HETは検討結果を提言としてまとめた。

 本稿では、このHETによる提言を紹介する。まず第2章で現状の欧州のHPCの状況を概観し、第3章でHETによる提言内容を示す。そして第4章で注目すべき点について述べる。

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2.欧州のHPC(高性能コンピューティング)の状況

2‐1 TOP500にみる欧州のHPCシステム保有状況

 TOP500リストは、リンパックベンチマーク注2)性能に基づいたランキングである。必ずしも実際の動作環境でのシステム性能を反映しているとは言えないが、世界のHPCシステムの状況を知るものとしては意味がある。TOP500リストは毎年6月と11月に発表されている。以下では、2007年6月のリストから欧州のHPCシステムの状況を概観する。

  図表1は、1997年6月から2007年6月までの大陸別のHPCシステムの保有性能値を、リンパックベンチマークでの実性能値(Rmax)の推移として示している。ここでは、500位までにランクされている大陸毎の全システムの実性能値を合計して保有性能値として示している。図表から明らかなように、米国の圧倒的な強さに続いて欧州が高性能なHPCシステムの保有に向け努力している姿が伺える。

  図表2では、欧州内の国別の保有性能状況を、特に性能の伸びが著しい英国、ドイツ、フランス、スペインをとりあげて示す。最新のTOP500リスト内のシステム数で見ると、英国は42、ドイツは24、フランスは13、そしてスペインが6となっている。参考までに言うと、日本のシステム数は23、米国のシステム数は281である。

  HPCシステムの設置サイトとしては、英国では、Atomic Weapons Establishment(TOP500リスト中24位)、University of Reeding(36位)、ドイツでは、Leibniz Rechenzentrum(10位)、Forschungszentrum Juelich(FZJ)(18位)、フランスでは、Commissariat a I’Energie Atomique(CEA)(12位と22位)、スペインでは、Barcelona Supercomputing Center(9位)などが、リスト中の上位にランクされている。また、これ以外には、オランダ、スイス、フィンランドなどでも上位ランクのHPCシステムが拡充されている。

  注目される大規模なHPCシステムの最近の導入例としては、英国のHECToR(High-End Computing Terascale Resource)が挙げられる。これは英国の大学の研究者に向けたものであり、エジンバラ大学のAdvanced Computing Facility (ACF)に設置される。第1フェーズのシステムは、ピーク性能で約60TFLOPS(テラFLOPS)であり、2007年10月からオープンになる。第2フェーズは2009年の10月に予定されており、ピーク性能で250TFLOPS、そして性能は不明だが第3フェーズが2011年に予定されている2)

TOP500リストを基に科学技術動向研究センターにて作成注3)

2‐2 欧州の優位性

 欧州のHPCシステムは、ハードウェアのほとんどを外国からの調達に依存しているのが実情である。しかし、ソフトウェア開発技術、そしてHPCシステムの活用技術は非常に高いレベルにある。 具体例としては、BLAS(Basic Linear Algebra Subprograms)注4)への貢献、NAGライブラリ注5)、計算流体力学(Computational Fluid Dynamics)プログラム、有限要素法プログラム、コンピュータ化学パッケージ、統計学パッケージなどの欧州発の技術が挙げられる。

  また活用面の優位性としては、欧州各国に配備されているHPCシステムをグリッドにより連携して効率よく活用することを盛んに進めている点が挙げられる3〜6)

2‐3 研究開発フレームワークの中でのHPCの位置づけ

 第7次欧州研究開発フレームワーク(FP7)におけるe‐インフラストラクチャ計画では、FP6までに強化してきたグリッドインフラストラクチャに対し、新規項目として「スーパーコンピュータシステムの配備」を追加した。 これは、米国、日本で政府主導で推進しているペタスケールコンピューティングの研究開発に対抗した動きと考えられる。 欧州でも、ペタFLOPSクラスの性能をもつスーパーコンピュータシステムの保有とその活用は必須のものとされた。 計画では、FP7では、FP6までに拡充されてきたGEANT2注6)やグリッドインフラストラクチャは今後はアップグレードのみとなっており、一方、スーパーコンピュータ、レポジトリ(データや情報、プログラムなどが保管されている場所)、データインフラストラクチャなどが新しい要素として採り上げられている7)

2‐4 ペタスケールコンピューティングへの動き

 図表 3に欧州でのペタスケールコンピューティングへの検討の経過を示す。
 2005年8月から2006年4月にかけて、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペインおよび英国の協力により設置された国際科学パネルにより、ペタスケールコンピューティングの科学的必要性が検討された。この科学的必要性の検討は、欧州の科学および経済において、最先端のHPC(「リーダーシップクラスのスーパーコンピューティング」)の戦略的な役割が認識されたことをきっかけに開始された。その中核には、個々の欧州諸国が孤立していては、各国の研究者およびエンジニアに対して、世界的に競争力のあるリソースを提供することができないという強い思いが伺える。
 HETは、欧州の計算科学界に競争力の高いリソースを提供するための連携強化を目的として、2006年6月にe‐IRG注7)主催の会議で設立された。欧州の11カ国からの代表によって構成されており、メンバーは、オーストリア2名、フィンランド2名、フランス2名、ドイツ3名、アイルランド2名、イタリア2名、オランダ2名、スペイン2名、スウェーデン1名、スイス1名、英国3名の22名から成る。2007年1月、HETは検討結果を提言としてまとめた。

2‐5 欧州研究開発インフラ戦略フォーラム(ESFRI)ロードマップの中での位置づけ8)

 「欧州研究インフラ戦略フォーラム」(ESFRI:European Strategy Forum on Research Infrastructures)は、欧州の科学に多大な影響力を持つロードマップを作成した。ロードマップでは、7分野(社会科学・人文学;環境科学;エネルギー;生物医学・生命科学;材料科学;天文学、天体物理学、核・素粒子物理学;計算・データ処理)を対象にして、当初200の提案プロジェクトをレビューを経て35プロジェクトに絞り込んでいる。HETの努力により、このプロジェクトの中の1つとして、計算・データ処理分野の「European High-Performance Computing Service」が組み込まれた。図表4にその推定費用を示す。この推定費用には、要求するHPCシステムの建屋、HPCシステムを最適に運用するための専門技術など、HPCサービスの全てが含まれている。

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3.HET(欧州におけるHPCタスクフォース)による提言内容

ここではHETが2007年1月にEC(欧州委員会)に対して提出した提言内容を示す。この章の内容は、参考文献9〜13)の内容を抜粋したものである。

3‐1 ペタスケールコンピューティングの科学的必要性

 ここでは、2‐4節で示した2005年8月から2006年4月にかけて国際科学パネルによって作成された報告書13)について述べる。

  この報告書には2010年から2020年の期間にわたる「欧州におけるペタスケールコンピューティング」に関する科学的必要性が記述されており、HETの提言の基礎部分として位置づけられる。報告書は、天候、気候学、地球科学の分野;宇宙物理学、高エネルギー物理学、プラズマ物理学の分野;物質科学、化学、ナノ科学の分野;生命科学分野;そして工学分野の5つの分野別委員会によってまとめられた。5つの分野に対し図表 5に示すアプリケーションが挙げられており、各々の科学的課題および潜在的成果は、文末参考に示すようなものである。

3‐2 HETの役割と対象範囲

 HETは、欧州に米国や日本のコンピューティング性能に匹敵する能力を持つ有力施設が存在しないことを計算科学の競争力の点で大きな問題であると述べている。HETが重視したのは、例えばペタFLOPSクラスのコンピューティング能力をもつ最上位クラスのリソース、およびこのようなシステムを効率的に活用するための方法である。図表5のような科学的問題を解決するには、ハードウェアだけあれば十分というわけではなく、ペタFLOPSクラスのシステムには、ペタFLOPSクラスに適合するソフトウェア、スケーラブルなアルゴリズム、有能な科学者が必要であると述べている。また、最高性能を必要としない大部分の処理を実行する国立のコンピューティングセンターとの統合も必要であるとしている。以上の理由により、欧州内のHPCシステム全体での持続的な連携(これをHPCエコシステムと呼んでいる)を検討の対象としている。

3‐3 HPCシステムの連携(HPCエコシステム)

 (1)ケイパビリティとキャパシティの分類

  参考文献13)では、次のように述べてスーパーコンピュータによるコンピューティングを2つに大別している。「科学計算の要件は大きく分けて、キャパシティとケイパビリティに分類できる。キャパシティコンピューティングとは、多数の小、中規模のプログラムを異なるデータ・セットに対して実行する際のスループットの高さを意味する。このスタイルのコンピューティングは、グリッドに基づくコンピューティング方式でアクセス可能な、国または地域レベルの適切なコンピューティング能力の提供により対処することが可能である。一方、ケイパビリティコンピューティングは、技術的にはるかに困難で、協調的モードで動作する多数のプロセッサ上でのシミュレーションに特徴付けられる。このようなシミュレーションは、多くの場合、大量のメモリと極めて多量のデータ・セットを処理する能力を必要としており、その性能は個々のプロセッサを連結する広帯域幅で低レイテンシー(通信で生じる遅延時間)の通信網に依存する。そのため、疎結合の分散コンピューティング・インフラストラクチャーでは実現不可能な単一の並列コンピュータが必要である。国際科学パネルは、このケイパビリティコンピューティングを必要とするクラスの問題に対しては、欧州規模でのスーパーコンピュータの能力の確立が極めて重要であると確信している。」

  また参考文献9)では、ケイパビリティコンピューティングとグリッドコンピューティングとの差異を次のような例で説明している。「図表 6は、グリッド内のさまざまなコンポーネントのレイテンシーの幅広さを示している。レイテンシーは信号が伝えられなければならない距離に決定的に依存する。これは、その定義上、空間的に(遠く)離れているシステムが含まれるグリッドコンピューティングによっては、スーパーコンピュータ(ケイパビリティコンピューティング)のパフォーマンスがなぜ達成されないかを説明している。」 

(2)パフォーマンスピラミッド

  HETは、HPCシステムの連携(HPCエコシステム)の基本要素は図表 7で示すパフォーマンスピラミッドで表されるとしている。ピラミッドの最上位層(0層)として提案されているのは、国の財源からの資金拠出に加え、欧州レベルの追加資金を得て構築する少数の最高位の性能をもつHPCシステム(これを本稿では「欧州スーパーコンピュータシステム」であるとしている)である。HETは、最上位層のリソースはケイパビリティコンピューティングを行うシステムと位置づけている。

  中間層(1層)は、国および地域レベルの複数のHPCシステムで、ペタFLOPSを下回る計算処理であればこれらでほとんど対応できる。ただし、高度なスケーラビリティ(拡張性)を持ち、ペタFLOPSシステム用のプログラム開発のプラットフォームとして機能するのに必要な性能を備えているものとする。

  最下位層(2層)に該当するのは、地域レベルの活動で、これには、複数の欧州諸国における科学人材基盤の構築、地域教育を通じた新たな能力向上・開発などが含まれる。

  異なった層には異なった能力の HPCシステムが備わっているが、ピラミッド全体には、グリッドがサポートするそれらの間の相互接続が含まれている。 この種のサービスは、関連する計算パワーのほかに、例えば、効率的な格納システム(ストレージシステム)、ネットワーク、ミドルウェア、および拡張性のあるソフトウェアなどを必要とする。

 (3)人的要素の重要性

  このようなHPCエコシステムをサポートするためには、さまざまなレベルにおいて競争力のある開発とその他の人的要素に焦点を当てることが重要で、例えば以下の分野に対する投資の増強が必要であるとしている。

  • ピラミッドのあらゆるレベルにおけるプログラム開発および最適化スキル
  • リサーチに向けたトレーニング活動 
  • 専門知識と科学的/技術的サポートへのアクセス 
  • プログラムライブラリなどの成果物へのアクセス
  •  同分野および複数科学分野内で、さまざまなリサーチグループ間の情報共有を促進するための協調ツール

3‐4 既存インフラストラクチャとの連携

  図表7のHPCシステムは、パフォーマンスピラミッドの上位・下位を問わず、他のリソース同様、欧州研究グリッド(European Research Grid)に統合される必要がある。欧州研究グリッドとは、あらゆるe‐リソースをハードウェアレベル、ソフトウェアレベル、通信レベルで統合した高度な連携インフラを指す。欧州各国に分散したリソースと人材を緊密に統合し、最適に活用することで、高効率の運用を実現しようとしている。そして、HPCシステムとグリッドとの関係については次のように述べている。

(1)関連するすべてのリサーチコンピューティングが、欧州で最も競争力の高いレベルで運用されるためには、スーパーコンピュータシステムがあらゆる欧州研究グリッドのインフラストラクチャの一部とならなければならない。

(2)グリッド開発は、あらゆるeリソースの統合をサポートするものである。科学の研究活動は、スーパーコンピューティングを含む単独のITコンポーネントにだけに依存することはほとんどなく、データの前処理、リアルタイムコンポーネント(例えばセンサーグリッドを含む)、インタラクティブあるいは後処理としての視覚化などが必要となる。これは、スーパーコンピューティングを欧州研究グリッドインフラストラクチャ全体の一部とすることによってのみ達成される。またコンピューティングリソースピラミッドの異なった層へのリンクも、グリッドミドルウェアを通じて達成されるべきである。

(3)スーパーコンピューティングレベルでも、すべてのアプリケーションに対して万能なものはなく、最適なリソースを選択できる柔軟な環境が必要となる。このような環境は、グリッド環境内であれば最適に実現することができる。

  HPCシステム間のグリッドによる連携は、現在、DEISA注8)プロジェクトによって具体化されている。グリッド環境は、ピラミッド内のすべてのリソースを透過して見えるような(トランスペアレントな)1つの環境とし、ピラミッド内のすべてのリソースが目的に応じて最適に使用されることを保証する手段である。このように、グリッドコンピューティングは、スーパーコンピューティングと補完関係にあるものである。

3‐5 ソフトウェアへの注力について

 HETは、ペタFLOPSクラスのコンピューティング能力をもつリソースのポテンシャルを最大限に発揮させるためには、ソフトウェア開発分野における重要課題に取り組むべきとし、以下のような見解を述べている。

  • いかなる科学問題にも耐えうるペタスケール性能を実現するためには、最上位層のハードウェアのみでは不十分である。
  • 大規模な(場合によっては異種の)マシン群を運用するための、スケジューリング、アドレス空間管理、通信、耐故障性、拡張性、再構成といった問題に対応するための新しいOS(オペレーティングシステム)が必要である。
  • 100万を超える並列タスクを処理するために、新しいプログラミングモデル、コンパイラ技術、ランタイムシステムが必要である。
  • ペタFLOPSマシンが提供するスケールまでの拡張性を実現するために、科学問題に関する数式モデルの変更が必要である。 
  • これらすべての方策はペタスケールのハードウェアを使用するために不可欠であり、欧州はこれらのソフトウェア関連の開発で優位性を持っている。

3-6 大量のデータ保存に向けた高効率、高信頼性インフラストラクチャ

 HPCエコシステムの一部として、以下のような理由から永続的なデータレポジトリ(データ保存場所)の構築をさらに重視すべきとしている。

  • 保存される科学的データの量は、この数十年間毎年2倍のペースで増加しており、この指数関数的な増加傾向が終わる兆しは今のところない。
  • 取り扱うデータ量が膨大(ペタバイトレベルからエクサバイトレベルに迫りつつある)であるため、大規模複製は不可能である。一方、このようなデータのほとんどは、消失すると再生成が不可能なため、体系的な障害対策(災害対策を含む)が必要である。
  • 知的財産権、所有権、プライバシーなどに関する問題に対応するため、徹底的なセキュリティ対策を実施する必要がある。   

3-7 計算科学の能力開発について

 HETは、計算科学は基本的にすべての分野において科学への取り組み方を大きく変えうるため、この新たなパラダイムを活用するには大規模な教育活動を開始する必要があるとしている。そして、長期的に最上位層の施設の効率的な利用と質の向上に重点をおいた教育・研修活動を充実させるべきであると提言している。

  具体的には、コンピュータ支援モデリング、スケーラブルなプログラム開発、既存の国有インフラとの統合活動、計算科学全般にわたる能力開発を目指した研修活動などが挙げられている。

3-8 資金調達・利用モデル

  国際競争力のある欧州のHPCインフラおよびそれに伴ういくつかの最上位層のHPCセンターを構築するためには、ハードウェア調達とサポート体制のための継続的な資金調達が必要である。HETは、図表7の最上位層にあたる欧州HPCセンターインフラの資金調達および利用へ向けた設計目標を述べ、これを構築するために次のような資金調達・利用モデルを提案している。 

(1)全体目標・設計目標 

@利用に対して、リソースを最大限に活用するための必要条件を次のようにしている。

  • 計算時間、ストレージ、サポートなどのリソースは、真の意味でのケイパビリティコンピューティング・リソースを必要としているプロジェクトのみに割り当てるべきであり、より小規模な国家レベルのシステムで満たされるようなニーズに対しては割り当てるべきではない。
  • リソースの割り当ては、厳格に科学的基準に基づいて行われなければならない。
  • リソースをあまり細かく分割することは、ケイパビリティコンピューティングの性能低下につながるため避けなければならない。 
  • 効率的なリソース利用のためには、ケイパビリティコンピューティングのための世界トップレベルのサポート体制と効率的ソフトウェアを構築することが絶対条件である。

A資金調達に対しては、資金拠出機関および将来の資金拠出が見込まれる機関の利益を考慮したものであるべきとして、次の内容を提言している。

  • 資金拠出するEU加盟国および関係国の科学者に対する利用割り当ては、各国の合計拠出額とEC(欧州委員会)の合計拠出額に基づいて行われる。 
  • 資金拠出を行わないEU加盟国および関係国の科学者に対する利用割り当ては、ECの資金拠出額に基づいて行われる。
  • 最上位層(0層)拠点を、DEISAプロジェクトモデルに従って既存の国際レベルまたは国レベルの中位層(1層)拠点に緊密に統合するための資金調達が必要である。
  • ECからの調達可能な資金の大部分は最上位層(0層)のリソース自体に必要であるが、この拠点および各国の中位層(1層)拠点におけるケイパビリティコンピューティング向けのソフトウェア開発およびコミュニティ指向のサポート体制の構築にも、ECからの資金の相当部分を確保する。 
  • 汎欧州科学コミュニティの設立を支援する。
  • ECおよび協力EU加盟国・関係国を中心とした資金拠出に加え、計算時間やサービスを産業界・科学界向けに販売することで得られる償還も考慮に入れる。

  またECは、欧州がペタFLOPSクラスのプロトタイプシステムの構築を可能にするため、商用前調達段階(pre-commercial procurement phase)を設けることに非常に強い関心を抱いており、資金調達目標には特にこれを反映すべきであるとしている。約2年間の商用前調達段階には、非欧州系のHPC供給企業に対して欧州のニーズを反映してもらうこと、研究開発活動や生産拠点の一部を欧州に移転させることなどを促すべきであるとしている。

(2)相互利用モデル 

 相互利用モデル(MUM:Mutual Utilisation Model)の導入を提言している。相互利用モデルの基本原則は、2〜3カ国のEU加盟国・関係国からなる協調的な調達であり、それを約1〜2年ごとに次のグループへ引き継いでいくことである。この資金に加え、最上位層のシステムへの国レベルの資金拠出を補完するため、ECも大幅な資金拠出を行うべきである。欧州が世界をリードする持続的なHPCインフラを確保するには、このような「スパイラル式」を採用する以外ないだろう。

  ECが負担するインフラ費用に相当する大部分のリソースは、すべてのEU加盟国・関係国が自由に参加できるプロジェクトに割り当てられることになる。残りのリソースは上記のスパイラル式の調達への参加を約束したEU加盟国・関係国のプロジェクトに分配される。すなわち、このように構築されるシステム1つ1つにおいて、後者のEU加盟国・関係国は、その拠出額に応じた割合でリソースの利用が許されるべきである。

3-9 ピアレビュープロセス

 前記のようにピラミッドの最上位層のリソースの要件は、既存の国別、分野別リソースに関する補完性の原則を考慮し、科学への貢献が最適な形で行えるように定義されている。ピラミッド最上位層のリソースを利用する科学者は、数値シミュレーションを通じて科学の進歩に貢献することが期待される科学者でなければならない。科学者へのリソースの割り当てには、ピアレビューに基づく評価プロセスが必要である。しかしペタFLOPSコンピュータのように高度に並列化されたシステムを最大限に利用することは難しいため、科学的卓越性とアプリケーションプログラムの効率性の両方を評価する2層構造のレビューシステムが必要である。

  HETは、組織、定期的なプロセス、そして応募資格を提示している。応募資格としては以下が挙げられている。

  • 科学的卓越性
  • 最上位層のリソースの必要性の実証
  • 計算処理、データ収集、結果分析の実現可能性の証明。各プログラムは、国、分野、または地域レベルで利用可能な適切な施設で提案者が検証済みであること。
  • 産業界が利用する場合には、結果の所有権、機密性などの点において、成果のさらに詳細な審査が求められる。

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4.特に注目すべき点

(1)ケイパビリティコンピューティングの必要性について

  HETの作成した報告書には随所にケイパビリティコンピューティングの必要性が述べられている。国際科学パネルの作成した科学的必要性には、欧州には世界最高水準の計算研究グループが複数存在し、これらのグループにとってペタFLOPSレベルの性能が大きく役立つこと、競争力ある科学と研究において重要なことは、問題を解くまでの時間(Time to Solution)が短縮できることであり、実施すべきと認められた研究には十分なリソースをすぐに利用できるようにすることが大切であると述べられている。

  また国際科学パネルは、欧州の科学界が複数領域において世界における主導的地位を維持するためには、リーダーシップクラスのスーパーコンピュータの調達が不可欠であるとし、十分な能力を持ったコンピュータが利用できない場合には、欧州の科学および産業の競争力が損なわれると述べている。このようなリスクにさらされる分野としては、国際交渉において活用される気候データ、ITERの構築およびプロジェクトの結果の十分な活用、完全な細胞の理解のための生物物理学およびシステム生物学の発展などが例として挙げられている。 

(2)「欧州スーパーコンピュータシステム」の利用方法について 

 HETは「欧州スーパーコンピュータシステム」は、ケイパビリティコンピューティングを行うシステムとして位置づけられるものであり、キャパシティコンピューティングの概念とは異なるということを、具体的なレイテンシー(通信で生じる遅延時間)の数値を挙げて詳細に説明している。そして、ケイパビリティコンピューティングは、今までのアプローチでは実現できないものであることを強調している。

  しかし、配備すべきコンピュータシステムとしては、全ての学問領域においてケイパビリティコンピューティングの要件を最高度に満たすことができる単一の設計または設計思想(アーキテクチャ)が登場する可能性はきわめて低いため、アーキテクチャの異なる複数システムの必要性を強調している。

  利用方法については、「欧州スーパーコンピュータシステム」上でのプログラムは、科学的価値の高い、最も要求度の高い研究目的のために使用すべきであるとし、ピアレビューを通して利用プログラムの選定をすることが提言されている。

(3)欧州の競争力について

 HETは、米国および日本とのギャップを縮めるためには、HPCエコシステム全体、すなわちパフォーマンスピラミッドのすべてのレベルに焦点を当てた活動を行うことが必要であるとしている。そして、このことによって欧州が競争力をもつ多くの要素を見つけられるとしている。具体的には、科学的ソフトウェア開発とプログラム最適化への投資、ミドルウェアの開発、データのレポジトリおよび効率的なネットワーキングなどを挙げ、これまで欧州が競争力をもつそれら要素を今後もさらに活用すべきであるとしている。

  また3‐5節で、ペタFLOPSクラスのコンピューティングに必要なソフトウェア開発分野において取り組むべき重要課題を示したが、そこで挙げられたペタスケールコンピューティングに不可欠な方策に対して、欧州は優位性を保持していると述べている。

 (4)人材育成の必要性について

  3‐7節に教育・研修活動の充実化を通じた計算科学の能力開発の必要性を示した。また、設備の獲得に比べて、それを扱う人材の獲得がさらに困難であるとし、それへの投資の必要性も強く訴えている。必要なスキルセットを持った人材のトレーニングには数年を要する可能性があり、それらの人材を惹きつけ、維持する環境の構築にも投資を行わねばならないと言及している。

 (5)非欧州のHPC供給企業への対応について 

 欧州にはHPCハードウェアを供給できる企業あるいはプロセッサの企業が多くはない。そのため、非欧州企業へ欧州のHPCニーズを正しく伝えることが課題とし、彼らのR&D活動の欧州へのシフトの促進、商用前調達段階による欧州の要望の盛込み促進などについての方策を考えている。

 (6)科学的必要性で採り上げた科学技術分野について

  米国政府の高性能コンピューティング政策でも、高性能コンピューティングが科学、工学にもたらす便益が述べられている14,15)。この米国の提言と欧州の国際科学パネルの検討した科学的必要性とを比較すると、欧州では、「国の安全」についての言及が少ないが、ライフサイエンスで多くのアプリケーションを詳細にとりあげている点、また、工学分野でヘリコプターのシミュレーション、森林火災、グリーン航空機、仮想発電所など米国には挙げられていない項目が盛り込まれている点が興味深い。

  全体的に、欧州のペタFLOPSコンピューティングの科学的必要性では、定量的な成果より、研究基盤として必要な理由が力説されている。

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5.おわりに

 欧州におけるペタスケールコンピューティングの動向について、主にHET(HPC in Europe Taskforce)の提言から内容を抜粋し、注目点を示した。

  科学技術を発展させるためには、シミュレーションの大規模化、高精度化、高速化への対応が必要であることは日米欧で共通である。ケイパビリティコンピューティングシステムの研究開発は、現在、米国では4プロジェクト(エネルギー省のASC計画、NLCF計画、国防総省のHPCS計画、米国科学財団のCyber Infrastructure計画)、日本では1プロジェクト(次世代スーパーコンピュータ開発利用プロジェクト)が推進されている。欧州にケイパビリティコンピューティングシステムとしての「欧州スーパーコンピュータシステム」施設を構築するという課題は、日米の動きに対抗し、欧州の競争力の強化を狙ったものである。HETの活動によって、欧州の科学に多大な影響力を持つESFRI(欧州研究インフラ戦略フォーラム)ロードマップに全35プロジェクトの1つとして「European High-Performance Computing Service」が組み込まれた。そして、HETの提言の具体化に向けて、2007年4月には欧州15ヵ国のスーパーコンピューティングセンターによる「Partnership for Advanced Computing in Europe」(当初、PACEと呼ばれていたがPRACEに変更された)16)というイニシアティブが結成されている。PRACEは、その目標の一つとして、2009/2010年までに汎ヨーロッパHPCサービスの実現を掲げている。欧州がペタスケールコンピューティングの配備と活用に向けて大きく動き出したわけである。活用技術、ソフトウェア開発技術などの面で優れた欧州の今後の動きに注目したい。

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謝 辞

  本稿の執筆にあたって、(財)高度情報科学技術研究機構 中村壽氏から貴重なご意見を頂きました。ここに厚く御礼申し上げます。

【用語集】

FP7 : Seventh Framework Programme 

DEISA : Distributed European Infrastructure for Supercomputing Applications 

EGEE : Enabling Grid for E-sciencE 

ESFRI : European Strategy Forum on Research Infrastructures 

GEANT : Seventh generation of pan-European research and education network 

HET : HPC in Europe Taskforce 

HPC : High Performance Computing

  

 

参考 ペタスケールシステムの配備により取り組むべき
科学および工学上の課題と成果

分野 アプリケーション

科学的課題および潜在的成果

天候、
気候学、
地球科学
気候変動 かつてない現実性と詳細さで将来の気候シナリオを表現する「Whole Earth System(全地球システム)」モデルの能力および複雑性の増大により、温暖化の程度に対する不確定性と想定される影響の定量化を行う。
海洋学および
海上気象予報
海洋の性質と変動をあらゆるスケールにおいて研究、理解、予測するための効率的なモデリングおよび予測システムの構築、政策決定のための情報提供を行う経済的に適切なアプリケーションの開発、政府や産業に対するサービスの構築を行う。
気象学、水文学 および大気質 社会経済面および環境面において大きく影響する、天候および洪水関連の事象を数日内に予測する。地球表面の大気の質の理解と予測、汚染危機の際の十分に早期な警報と実際的な軽減措置を可能とする高度なリアルタイム予測システムの開発。
地球科学 課題は、広範な学問領域に及び、地震災害の危険性の軽減、核兵器関連の条約の検証、経済的に回収可能な石油リソースの発見増加、廃棄物の監視など、重要な科学的、社会的影響を持つ。コンピューティング能力の増大により、精度、複雑さ、分析期間、信頼性および確実性等の課題に対応でき、以前はパラメータ化していた現象を明確に解ける能力が高まり、欧州の他のセンター、各国のセンター、そして産業界において使用可能なアプリケーションがもたらされる。
宇宙物理学、
HEP注)
プラズマ物理学
宇宙物理学 時空スケールが大きく異なるシステムや構造の取り扱い;常微分方程式や偏微分方程式の非線形結合系は、ほとんどの場合、複素数の試行関数の空間積分や時間積分が必要である。グランドチャレンジは、恒星および惑星の形成から宇宙全体の起源や進化に関わる問題にまでわたる。欧州プランク調査衛星のような将来の宇宙実験から期待される膨大なデータの評価も行う。
素粒子物理学 QCD(量子色力学)などのような量子場の理論は、CERNやDESYのような国際的な(専門)コミュニティにおいて、理論と実験の両面から主要なトピックスである。この研究は、核力のごとくに、素粒子および(基本的)相互作用の標準模型のより深い理解をもたらすのみならず、標準模型を超える未知の物理学を発見するヒントを与えるであろう。
プラズマ物理学 磁気閉じ込め熱核融合炉ITERの建設によって提起される科学および技術上の課題により、重要な理論やモデリングへの取り組みが要求されている。実験の成功およびその安全性は、このようなシミュレータに依存している。高温プラズマの磁気閉じ込めによる熱核融合の実現、非線形物理学における計算上最も困難ないくつかの解決が必要である。
物質科学、
化学、
ナノ化学
複雑な物質の
理解
電子産業における多くのデバイスにとって中心的課題となる電子的特性と輸送特性の解明、およびそれによる技術的に関連した物質の理解の進展。 ゴム、塗料、燃料、洗剤、機能的有機素材、化粧品、食品などの多様な素材の設計および性能にとって中心的課題となる、核形成、成長、自己組織化、および重合のシミュレーション。 例えば、核エネルギー生成におけるプロセス、使用条件と素材組成の関係を決定するための、材料の機械的特性のマルチスケールな記述。このようなシミュレーションは、高効率ガスタービンなどのエネルギー技術における、高性能素材の耐用年限の予測に極めて重要である。
複雑な化学系の 理解 触媒作用は、複雑な物質の化学における大きな課題であり、工業化学において多くの用途を持つ。大気化学の知識は、環境予測および保全(大気浄化)にとって不可欠である。化学プロセスの知識の進展(ポリマーを含むソフト化学から燃焼の原子論的記述まで)により、化学プロセスの耐久性が改善される。また、超分子集合体により、使用済み核燃料からの重元素の分離に新たな可能性が開かれている。生物化学においては、(例えば)人体内で起こっている膨大な数の反応の詳細は全く分かっていない。将来のクリーン燃料の開発における主要なステップにおいては、担持ナノ粒子触媒での処理が必要とされている。
ナノ科学 高速な情報処理の進歩あるいは新世代のプロセッサの開発にはデバイスの小型化が必要であり、それは必然的にナノエレクトロニクスに帰結する。さらに、ナノモーターなどの多くの新しいデバイスが想定されるが、これらにはナノレベルでの機械的特性のシミュレーションが必要となる。すなわち接着やコーティングなどの分野における高性能複合材料には、ナノレオロジー、ナノ流体工学、ナノトライボロジー(摩擦学)による原子論的な記述が必要となる。例えば、ナノデバイス・コンポーネントの複雑な磁気的およびメカノオプティカルな特性の記述は、ペタFLOPS領域のシステムでのみ可能となる。
生命科学 システム生物学 細胞、組織、器官などの全体の挙動を表現したり、また任意の薬品の任意の器官における最終的な排出物を予測する分解経路の評価を行うための、より高度なモデルの使用。今後4年間で、欧州が最初の「in silico(コンピュータ内での)」細胞の提供を行える態勢を整える。
クロマチン
ダイナミクス
ヌクレオソーム内のDNAの構成は、転写因子の認識部位のアクセス可能性を大きく変更し、遺伝子の機能の制御に主要な役割を果たす。ヌクレオソームのダイナミクス、ポジショニング、位相、形成、化学的変化または環境の変化により引き起こされる破壊または変異の理解は、クロマチン・モデリングを介した遺伝子制御メカニズムの理解に極めて重要である。
大規模なタンパク質ダイナミクス タンパク質の大きい構造変化の研究。主要な課題は、タンパク質の誤った折りたたみ、変性(アンフォールディング)、再折りたたみ(これらはプリオン発症の病理に対する理解の主要な要素である)にある。
タンパク質の会合および凝集 最大の課題の1つは、過密な「細胞内にはない」タンパク質環境のシミュレーションである。シグナル伝達経路と関連したさまざまなタンパク質複合体の形成を「in silico」で再現可能にすることは、細胞機能の理解の進展、およびタンパク質−タンパク質の相互作用を阻害し得る新たな世代の薬品に道を開くものである。
超分子システム 既存のシミュレーションのプロトコルおよびコンピュータを使用している欧州のグループにとっては、タンパク質装置(protein machine)を正確に表現することは依然として不可能である。課題は、これらの装置のいくつか(リボソーム、トポイソメラーゼ、ポリメラーゼなど)がいかに機能するかを体系的に分析することである。
医薬 ゲノム配列解読、大規模遺伝子型決定の研究は、多遺伝子病の発症の引き金となる決定要因のシミュレーションや、特定の集団における薬品の代謝不良、あるいは薬品の当初のターゲット以外の高分子と薬品の相互作用に関連した二次的効果の予見といった膨大な情報を提供する。

工学

完全な
ヘリコプターの
シミュレーション
欧州のヘリコプター産業は技術およびデザインにおける革新において強固な伝統を有している。計算流体力学(CFD)に基づく、回転翼機の動力学を組み合わせた、空気動力学、航空音響学のシミュレーションは、すでに中心的な役割を果たしており、一連の設計における各段階でさらなる改善が必要である。
バイオメディカル・フロー 人工心臓または心臓代用弁、鼻流および上気道と下気道による呼吸器系、そして人体の均衡システムなど、人体の循環系の分野においては極めて多くの研究が行われており、バイオメディカル流体力学により、多くの分野において医療を改善することが可能である。この分野では、実験により大幅に理解が深まっているが、未だ、流れ場、周囲の組織、あるいはそれらの間の相互作用に対して高精度を要する問題が多く残っており、それらは生物医学的問題の詳細な数値分析を必要としている。
ガスタービン
および内燃機関
ガスタービンやピストンエンジンにおいては、科学的な課題が多数存在する。第1に、検討の必要がある物理的なスケールの範囲は広範であり、高速化学反応の性質(反応帯厚さ約数10ミリメートル、10-6秒)や圧力波の伝播(音速)から、バーナーのスケール(数10センチメートル、滞留時間10-2秒)あるいはシステムのスケール(ガスタービンの場合はメートル単位)にわたっている。
森林火災 火災の進行をモデリングし、予測できる、信頼性の高い数値的ツールの開発は、安全、保全、消防の面から重要であり(「数値的火災シミュレーター」)、リアルタイムでの災害管理においても役立つ可能性がある。社会的な影響は極めて大きく、土地、建物、人命や動物の命、農業、旅行業界、そして経済に関わる問題である。
グリーン航空機 ACARE 2020では、航空旅客の着実な増加を可能としつつ、航空輸送が人間および環境に与える最大限の容認可能な影響に対して、政治的に合意された目標が示されている。この目標では、排出ガスおよび騒音の大幅な削減を目指している。また、航空輸送は3倍増、事故は80%の減少が期待されており、旅客の費用は低下(50%)、そして飛行は概ね天候には影響を受けなくなるとされている。「グリーン航空機」が、機体およびエンジンの製造産業の解決策である。しかし、こういった困難の多い開発は、より創造的で高品質な数値シミュレーションおよび最適化の能力によってのみ可能となる。関連するすべての複合的な相互作用も含めて、運行中の現実の航空機を計算できる能力が必要不可欠である。

仮想発電所

公益事業の主要な関心の1つが、高品質でコスト効率の高いエネルギーの生産である。発電所の耐用年数の60年への延長、最適な燃料使用の保証、廃棄物の管理の改善などを含む、いくつかの課題への直面が不可避である。これらの課題により、新世代のコードおよびシミュレーション・プラットフォームとともに、高度なシミュレーションを実行するためペタスケールの計算機へのアクセスが必要とされている。

参考文献13)から

1) http://www.top500.org/

2) http://www.hector.ac.uk/

3) http://www.deisa.org/

4) http://www.eu-egee.org/

5) J.Plasma Fusion Res.Vol80,No.9(2004)グリッドコンピューティングの動向について(三浦謙一)

6) http://www.geant2.net/server/show/conWebDoc.994

7) Introduction to e-Infrastructure activity under FP7(Mario Campolargo 26th Feb. 2007)

8) ESFRI European Roadmap for Research Infrastructures Report 2006(p65)

9) A sustainable High Performance Computing Ecosystem for Europe
  http://www.hpcineuropetaskforce.eu/deliverables

10)Towards a Sustainable High-Performance Computing Ecosystem through Enabling Petaflops Computing in Europe   http://www.hpcineuropetaskforce.eu/deliverables

11)HET Funding and Utilization Model 
  http://www.hpcineuropetaskforce.eu/deliverables

12)HET Peer Review Process Proposal for Tier 0 applications
  http://www.hpcineuropetaskforce.eu/deliverables

13)The Scientific Case for a European Super Computing Infrastructure Petascale Computing in Europe 
  http://www.hpcineuropetaskforce.eu/deliverables

14)Federal Plan for High-End Computing Report of the High-End Computing Revitalization Task Force(HECRTF) May10,2004 http://www.nitrd.gov/pubs/2004_hecrtf/20040702_hecrtf.pdf

15)米国政府の高性能コンピューティングへの取り組み(科学技術動向2005.2月)

16) Pan-European supercomputer comes a step closer to reality(CORDIS News 2007.04.18)

 

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