【1】ナノスケールで世界最高の光閉じ込め効率をもつ光共振器を実現

 極微小領域に、光を長く、かつ強く閉じ込めることを可能とするナノスケールの大きさの光共振器は、光を蓄えたり、光と物質との相互作用を増大させるといった機能をもち、光を用いた量子演算など次世代の光科学の進展にとって重要な役割を演ずることが期待されている。しかしながら、このような極微な光共振器は、その大きさが小さくなればなるほど、その大きさに反比例して、光の閉じ込め効率が悪化することが知られている。これは、共振器内での光の反射回数が、大きさが小さくなるにつれて増加し、全体として反射ロスが大きくなるためである。このため、光の閉じ込め効率が、原理的に良くなることが知られているフォトニック結晶を用いて、ナノスケールの大きさの光共振器を作製する試みが、世界的に行われてきた。フォトニック結晶とは、光の波長と同程度の周期的な屈折率分布をもつ構造を指し、その周期構造に欠陥を導入することによって、その部分に光共振器の機能をもたすことが可能である。

 2007年8月、京都大学と(独)科学技術振興機構は、2次元スラブ構造と呼ばれるフォトニック結晶に基づく光共振器の特性向上を図り、構造の最適化と構造揺らぎの低減によって、光閉じ込め効率の指標となるQ値(Quality Factor)として、200万を実現した。この値は、極微なナノスケールの大きさの共振器としては、世界最高であり、2000年頃の値400程度に比べて長足に進歩したことが分かる。また、この値は、光を共振器内部に2nsもの時間蓄えておけることに対応し、この値は、光を極微小領域に蓄えておくことが可能な光メモリーチップの実現に初めて見通しを付けるものである。

 作製したフォトニック結晶光共振器は、図表に示すように、Siスラブに周期的な孔を形成し、孔を一列だけ除いたもので、その周期を周辺から中心に向かって410nmから420nmと少しずつ変化することにより、その中心部分に光を閉じ込めたものである。このように、徐々に周期を変えることにより、大きなQ値が得られることは、京都大学で見出したもので、今回、構造揺らぎのQ値に与える影響を詳細に検討し、揺らぎに強い最適構造の採用とナノメートルスケールの加工技術の更なる改善によって、Q値の大幅な増加を達成したものである。

 今回の結果は、光を極微小領域に蓄えておくことが可能な光メモリーチップの実現や、光と物質との相互作用の増大を利用した量子演算素子の作製へ展開できると期待されている。なお、本研究は、(独)科学技術振興機構が進めている戦略的創造研究推進事業(CREST)と文部科学省プログラムとして行われたものである。


参 考

1) プレスリリース
http://www.kyoto-u.ac.jp/notice/05_news/documents/070802_1.htm

2) S. Noda et al. Nature Photonics 1, 449 - 458 (2007)

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【2】イオンビームによって大気浄化能が向上した植物育種の開発

 米自動車や工場、火力発電所などから発生する窒素酸化物(NOx)は、大気汚染物質であることから、現在は主に触媒などを利用して浄化されている。

 この度、広島大学と(独)日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)の研究チームは、イオンビーム育種(イオンビームを植物に照射して突然変異を誘発する品種改良手法)によって、二酸化窒素(NO2)の吸収能と代謝能を高めたヒメイタビの育種に成功した。ヒメイタビ(図表1)は、数あるつる性常緑樹のなかでも比較的容易に培養でき、本州以南に広く分布し壁面緑化に適した植物である。また、比較的高い大気浄化能(70種の樹木の中で4番目)をもっている。

 実験は、原子力機構のイオン照射研究施設「TIARA」にて、ヒメイタビに炭素イオンビームを1分間照射した25,000株のなかから生育のよい約500株を選び、実施した。この実験試料を都市大気中の10〜20倍の濃度に相当する1ppmのNO2中に8時間暴露し、葉に取り込まれた全窒素量と体内で代謝された有機窒素量を抽出した。NO2由来の窒素を定量的に親株と比較したところ、親ヒメイタビに比べてNO2吸収/代謝能が1.4〜1.8倍に向上した突然変異株を確認した(図表2)。これまでもイオンビーム育種が植物の形質の向上に有効な育種法であることは知られていたが、植物の大気浄化能の向上を目的にイオンビームを用いたこと、また、NO2吸収能を定量化するだけではなく、代謝能まで定量化したのも今回が初めてである。この突然変異株を挿し木で増殖した場合も同様のNO2吸収/代謝能をもつヒメイタビが得られ、形質の安定性が確認できたことから、研究チームはこのヒメイタビを「KNOX」(仮称)と名付け、品種登録を出願した。

 ヒメイタビは、その形状から壁や屋上への設置も容易である。今回の実験で得られたヒメイタビの突然変異株(KNOX株)を、高速道路の壁面に設置することによってファイトレメディエーション(Phytoremediation:植物による環境浄化)効果が得られるだけではなく、環境緑化や大都市部のヒートアイランド現象などの緩和対策としても使用できることから、普及が望まれる。


参 考

1) 広島大学、(独)日本原子力研究開発機構プレスリース
http://www.jaea.go.jp/02/press2007/p07080201/index.html

2) 特集:イオンビーム育種研究の最前線 イオンビーム育種技術の開発と特徴,田中淳,放射線と産業,No.99,4-10p,2003

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【3】ナノ結晶化を応用した多孔質シリコン分離膜の特性向上

 現在使用されている液体分離膜は、その孔径が広い範囲で分布しており、ろ過される分子の寸法に比較して1000倍以上も厚いため分離性能が低い。これらの欠点を補うためには、10nm以下の膜厚を有する分離膜が作製できれば飛躍的に高分子の分離性能の向上が期待できるが、いまだ、数μmの膜厚のものしか開発されていない。さらに、ナノスケールの膜厚を有する分離膜は脆くなり、作製プロセスも複雑になる問題があった。

 米国ロチェスター大学の研究者らは、従来のシリコン半導体プロセス技術を応用して、安価で製造可能な、ナノ多結晶から構成される液体分離膜を開発した。この膜は孔径分布が3〜25nmの範囲に制御された多孔質シリコンの薄膜(膜厚約15nm)である。作製プロセスは、最初に、シリコン・ウエハの両面に厚さが500nmのシリカ層を熱処理により堆積させた後に下面シリカ層を部分的に除去し、さらに、上面のシリカ層に非晶質シリコン層とシリカ層をスパッタリングにより堆積させた。続いて、急速加熱処理、化学エッチングによるシリカ層やシリコン・ウエハの部分除去などの処理を順次行い、最終的にナノ多孔質を有するシリコンの薄膜を作製した(図表1)。このナノ多孔質シリコン薄膜作製プロセスの大きな特徴は、急激な加熱処理をして厚さ15nmの非晶質シリコン層にナノサイズの結晶を成長させる過程において結晶間に空隙を自発的に発生させてナノ気孔に成長させ、薄膜全体にこれらの気孔を分布させるところにある。これらのナノ気孔の大きさは加熱温度によって制御可能である。

 自由な蛍光色素注1)と、この蛍光色素で標識された牛血清中のタンパク質(BSA)注2)を混合した水溶液を、3〜15nmの孔径分布を有するナノ多孔質シリコン薄膜でろ過したところ、BSAをほぼ完全に分離できた。また、この薄膜の蛍光色素の透過量は、従来のセルロースを用いた分離膜と比較して約10倍多かった(図表2)。

 今回開発した薄膜は一辺が数100μm程度の矩形状のものであるが、膜強度は各種液体分離の際の圧力(〜1atm)に充分に耐えることができ、原理的に比較的広い面積の薄膜作製も可能である。透析などの医療への応用や、海水淡水化膜などの幅広い工業的応用が期待されている。


参 考

(C. C. Striemer, et al., nature, Vol.445/15, p.749 (2007)

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【4】宇宙線ミューオンによる火山体内部の透視イメージング

 火山の地下構造を把握することは、火山活動に伴う様々な現象の解明と噴火予知に大きく貢献する。地下構造探査には、主に人工地震や比抵抗を用いた構造探査などが実施されているが、経費や実施体制などで探査が困難な状況の場合もある。 東京大学地震研究所の田中宏幸特別研究員らのグループは、火山体内部の宇宙線ミューオンラジオグラフィーの研究を目的として、エマルションクラウドチェンバー注1)を用いた持ち運び可能な粒子線測定装置を開発した。これは名古屋大学大学院理学研究科の中野敏行助教らが開発した原子核写真乾板の自動読み取り技術を使用している。この測定装置により浅間山を透過したミューオンを捉え、釜山内部の密度分布を求め、この密度分布より火山体内部の岩層分布を推定した。本研究成果はNature誌2007年5月24日号のハイライト研究コーナーで紹介された。

 ミューオンは物質を構成する素粒子の一つで、宇宙から地球に飛来する原子核(一次宇宙線)と大気中の原子核との反応により生成される。ミューオンは、絶え間なく地上に降り注いでいる。エネルギーは数GeVから数TeV程度の範囲で、エネルギーの大きさ毎にどれくらい存在するかがこれまでの研究からわかっている。

 1TeVのミューオンは厚さ約1,200mの岩盤を透過することができる。ミューオンの透過数は、マグマや岩盤が厚いほど減り、薄い岩盤や空洞ではあまり減らない。そこでミューオン吸収量を飛来方向毎に調べることによって、透過経路に沿った火山内部の密度を求めることができ、山体の内部構造、マグマの状態などを透視イメージにすることができる。

 ここでは、4000p2の原子核写真乾板という宇宙線に感光する特殊な写真フィルムを使用している。このフィルムはミューオンの飛来方向を精度良く測ることができ、安価で軽量のうえ、測定動力を必要としない。

 田中研究員らは、2006年8月から10月まで浅間山の中腹に、この測定装置を設置し、浅間山を透過して水平方向から飛来するミューオンを観測した。回収したフィルムを現像して、ミューオンの飛跡を解析した結果、2004年9月の噴火によって火口底に残った高密度なかさぶた状の溶岩のフタや、その下の空洞状のマグマの通り道などがイメージできた(図表2)。昭和新山においても同様のイメージングを進めた。

 また、リアルタイム測定に向けて、宇宙線ミューオンデジタル透過像撮影技術注2)の開発も進められており、成功すれば噴火予知の研究に役立つことが期待される。さらに、この技術は、鉄筋コンクリート構造物の内部状況を透過確認する装置など、一般産業機器への応用も期待される。

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【5】ボスポラス海峡横断トンネルの世界最深度での函体水圧接合

 2007年7月、大成建設鰍iV(共同企業体)は、トルコ共和国イスタンブール市内のボスポラス海峡横断鉄道トンネル建設工事において、沈埋工法注1)としては世界最深度の44.5mの海底において函体水圧接合注2)を成功させた。これまでの世界最深度記録は、米国サンフランシスコ湾にあるBARTトンネル工事で施工した40.5mであった。

 イスタンブール市はボスポラス海峡を挟んでアジアとヨーロッパを結ぶ交通の要衝に位置し、商業・貿易の中心であるとともに、人口約1,200万人を擁す都市(図表1)である。市内の旅客輸送手段は道路、鉄道、フェリーであり、輸送量の90%以上は道路輸送が占め、都市中心部では慢性的な交通渋滞の発生と、それに伴う排気ガスによる大気汚染などが深刻な問題となっている。トルコ共和国政府は、このような状況を改善し、さらなる人口増加による都市交通機能等の低下にも対応するため、ヨーロッパとアジアの2大陸を分断しているボスポラス海峡の海底トンネルを計画した。市中心部を東西に結ぶ全長13.6kmのボスポラス海峡横断地下鉄整備事業が事業化され、大成建設鰍iVは2004年8月から工事を開始している。

 今回の工事は(図表2)、陸上でトンネルとなる鉄筋コンクリート製の函体(最大長135m、幅15.3m、高さ8.6m)を製作して、海峡区間1.4km部分のアジア側に曳航し、海底にあらかじめ掘っておいた溝に沈めて函体を繋いだ。

 ボスポラス海峡は、世界有数の流速の早い海峡であり(最大約5ノット)、潮止まりがなく、しかも塩分濃度の違いにより黒海側(表層流)とマルマラ海側(底層流)の逆向きの二層流が流れている、という複雑な流況を示す海峡である。函体を沈設する方法では、設定流速3ノット以上の流れが発生した場合、係留システムの障害や施工精度の悪化が懸念される。大成建設鰍ヘ1年間にわたる流況モニタリングを行い、気圧や風速、水位などによって流況がどのように変化をするかを48時間先まで短時間に潮流変化を予測できる「流況予報システム」を新たに開発し、安全かつ確実な施工を可能とした。また、海中での函体位置や海底地形確認のために、GPSやマルチファンビーム注3)などの最新技術を活用して函体を沈めている。また、既設函体との隣接には、超音波端面探査装置で正確な位置測定を行いながら工事を進めている。最深部では水深約60mでの施工が予定されており、さらに世界最深度の記録更新を図ることになる。

 

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