1.はじめに
沿岸から遠く離れた海域の水深数千mの海底は、資源の宝庫となる可能性があるといわれている。しかし、海底から石油・天然ガス・金属鉱物・生物及び微生物などの資源を経済的に採取することは、現時点では技術的に困難である。一方、将来的に陸上における資源枯渇等の事態を考えて、企業化が可能なレベルの資源採取を行えるような技術開発を行うことが求められている。そのような経済性のある資源採取を実現させるためには、海底の地形・地質の調査を行い、海底の資源賦存の実状を詳しく知っておくことが必要である。
現在、我が国の領土面積は約38万平方kmで、世界第60位である。しかし、領海及び排他的経済水域(EEZ)を加えた管轄海域の面積は447万平方kmと世界第6位に位置する1)。これより上位の国は、大陸国で沿岸が長いアメリカ合衆国、オーストラリア、カナダの3カ国と、島国でありながら領土が広い海域に及んでいるインドネシア及びニュージーランドの2カ国だけである。
探査の対象となる海底の区分としては、内水下の海底、領海下の海底、大陸棚(EEZ下の海底も含む)、深海底があり、国連海洋法条約においては公海の海底の中でも一定の条件を満たせば沿岸国の大陸棚としてEEZに準じた主権的権利が認められている。我が国のどの海域がその条件を満たすのかを調査するため、各種の海底探査技術を組み合わせて、大陸棚画定に係わる調査活動が行われている。対象海域海底の地形や地質構造の調査は2007年度までに完了させることになっており、調査結果に基づいて、我が国周辺の海域で200海里以遠まで大陸棚が連続していると考えられる海域の情報を2009年5月までに国連海洋法条約に基づき設置されている「大陸棚の限界に関する委員会」(CLCS)に提出する予定である。時間的な制約があるため、我が国として提出情報作成に必要な調査等に現在特に注力しているところである。CLCSの勧告に基づいて設定された大陸棚の限界は、国連海洋法条約に基づき最終的かつ拘束力を有するものとされており、海底の大陸棚における沿岸国の主権的権利が及ぶ範囲を画定するという重大な意義を有している。我が国と同様に大陸棚画定に係わる海底調査を行ってきた国の中には、既にCLCSに情報を提出した国もあり、これに対してCLCSがどのような勧告を行うか注目されているところである。
海底探査を行う技術としては、測深技術(海底地形測量)、地震探査技術(海底地質調査)、基盤岩採取技術(海底ボーリング)、地球物理学的観測技術(重力・地磁気計測)などがある。また、第3期科学技術基本計画のフロンティア分野の推進戦略2)において、「地球内部構造解明」及び「海洋利用技術」などの海洋関連の重点課題では、各種の探査技術を用いた研究開発目標が示されている。
本稿では、大陸棚画定調査に用いられている海底探査技術に焦点を当て、それらの技術を用いた調査の目的や実施状況について述べる。また大陸棚画定の法的枠組みや我が国の調査体制についても概説する。さらに、現在行われている大陸棚画定調査とも関連する課題として、今後の海底探査技術、海底の資源利用、持続的な海域探査継続などの課題についての提言を行う。

2.活用が期待される海底資源
2‐1.海底鉱物資源
海底を覆う堆積物表層や海山にはマンガンや銅などの鉱物資源が高い密度で存在する。(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、これまでにハワイ南方の公海にある我が国のマンガン団塊鉱区(国際海底機構(ISBA)より取得)の調査を行った3)他、深海底鉱物資源探査専用船「第2白嶺丸」によりEEZの外側である200海里以遠の日本南方海域においてコバルトリッチクラストの海底調査を行っている。コバルトリッチクラストはマンガンや鉄が主成分であるが、コバルト、ニッケルなどの含有量が多く、白金も含まれるため、経済的価値が高いとされている。なお、200海里までの近海はマンガンクラストや熱水鉱床が多く存在するが、それらの成分としてコバルトや白金などは少ない。このような海底資源の賦存域は、図表1に示すように、我が国のEEZ内だけでなく、その周辺まで広がっている。

2‐2.海底生物・微生物資源
水圧が600気圧にもなる水深6,000mの海底に生存する生物や微生物(バクテリアなど)は、地上では存在しない種類が多く見られ、新たな海底資源として関心が高まっている。このような海底特有の生物や微生物は、有用物質の開発や創薬に役立つ可能性がある。このように、海底生物・微生物は石油や金属鉱物に次ぐ海底資源として注目されている。また、将来エネルギー資源として実利用される可能性があるメタンハイドレートの形成過程における海底微生物の役割についての研究なども行われている。日本学術会議・海洋科学研究連絡委員会の提言4)では、海洋の環境と生態系にストレスをかけることなく、このような資源を持続的に利用する技術開発について検討する必要性が高まっている、としている。また文部科学省は、海洋生物資源利用技術の開発課題として、極限環境生物フロンティア研究や地殻内微生物研究などを実施している5)。

3.海底の利用に係わる法的枠組み
3‐1.1982年の国連海洋法条約における大陸棚の定義
1982年に国連海洋法条約で定義された「大陸棚」は図表2のような地形的、地質的条件にあてはまる部分である。ここでいう「大陸棚」は、しばしば水深200m程度までとされる地形的な「大陸棚」とは全く異なる法的な概念である。

国連海洋法条約第76条6)第8項には、「沿岸国は、領海の幅を測定するための基線から200海里を超える大陸棚の限界に関する情報を、衡平な地理的代表の原則に基づき附属書Uに定めるところにより設置される大陸棚の限界に関する委員会に提出する。この委員会は、当該大陸棚の外側の限界の設定に関する事項について当該沿岸国に対し勧告を行う。沿岸国がその勧告に基づいて設定した大陸棚の限界は、最終的なものとし、かつ、拘束力を有する。」と定められている。以下では、「大陸棚の限界に関する委員会」を「大陸棚限界委員会」(CLCS)と略称で表記する。
国連海洋法条約第76条では以下のような基準条件と制限条件が定められている。
(1)2つの基準条件(場所によってどちらか1つを採用)
a.海底の堆積岩の厚さが大陸斜面脚部からの距離の1%になる点まで
b.大陸斜面脚部から60海里まで
ここで、大陸斜面脚部とは、「反証のない限り、当該大陸斜面の基部における勾配が最も変化する点とする」ものと定められている。
(2)2つの制限条件(場所によってどちらか1つを採用)
c.水深2,500mの等深線から100海里まで
d.領海基線から350海里まで
また1999年には、大陸棚限界委員会における審査の指針として「CLCSの科学的・技術的ガイドライン」7)が制定されている。
3‐2.海域の区分と大陸棚画定の位置付け
地球の表面の約7割を占める海洋は、沿岸国の領海基線からの距離などによって、内水、領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、公海に区分される。それぞれの区分における沿岸国の権利及び義務並びに沿岸国以外の権利を図表3に示す。領海基線から200海里以遠の海底(図表3で網掛けを施した部分)は、現在は公海の海底であり、各国が国際海底機構(ISBA)から鉱業権を得て天然資源の開発を行うことができる。しかし、1982年の国連海洋法条約に基づき、その海底が領土の自然な延長であることを沿岸国が大陸棚限界委員会(CLCS)に情報提出し、CLCSの勧告に基づいて大陸棚延伸部を設定できることになった。大陸棚延伸部の海底は、EEZの大陸棚と同じ主権的権利を有する大陸棚となる。ただし、その海域の海中についてはEEZと同じ主権的権利は得られないので、漁業等の経済活動に対する変化はない。

(画像クリックで拡大表示)
接続水域
沿岸から12海里の領海外(EEZ内)から24海里までは、沿岸国が領土・領海内の通関上、財政上、出入国管理上、衛生上の法令違反の防止及び違反の処罰を行うことができる海域であり、「接続水域」と呼ばれる。 |
3‐3.大陸棚画定の手続き
沿岸国は、国連海洋法条約の発効後10年以内(国連海洋法条約締結国会合における決定により、1999年5月までに発効した国は、その10年後の2009年5月まで)に200海里を超える大陸棚の限界に関する情報をCLCSに提出し、CLCSは沿岸国に対し勧告を行う。我が国は1996年に条約発効していたので、他の多くの国と同様に2009年5月までの提出を目指している。米国はまだ国連海洋法条約を批准していないが、実際の調査は既に開始されている。

4.海底探査の技術
4‐1.測深技術(海底地形測量)
海底地形を精密に測量するため、音波による測深技術が用いられている。水中で音波を発射すると、他の物体や海底で反射して戻ってくることにより、その場所までの距離を計測することができる。このような装置をソナー(SONAR)という。ソナーの役割は船舶の安全航行(座礁防止など)や漁業における魚群探知などである。海底の精密な地形測量に用いられるソナーとしては、高指向性音波ビームを多数用いた「マルチビーム音響測深機」や「サイドスキャンソナー」などがある。例えば、海上保安庁の調査船に装備されているマルチビーム音響測深機は「フェイズド・アレイ」方式で、多数の音波ビームを船底から発射し、各ビームの音波の位相をずらすことによって左右75度の範囲で海底の任意の方向に音波ビームの波面を向けることができる。図表4に示すように船の航跡に沿って一定幅の海底地形を一挙に測定する能力を持つ。

4‐2.(地震探査技術海底地質調査)
衝撃や爆発などの人工的な力により水中に地震波を伝播させると、海底下の地質状況に応じた反射波を海底または海面で観測できる。
[1]屈折法地震探査
「屈折法地震探査」とは、海底地震計などの受信器を測線に沿って適当な間隔で設置し、海上の調査船が曳航するエアガンなどの人工地震発生源により海底地殻に地震波を与え、その地震波が各受信器に到達する時間から海底下の地殻構造を推測する探査方法である。大陸棚調査では、測線が500km以上に及ぶ場合があり、海底地震計を一度に100個以上用いた調査が行われている。その概念を図表5に示す。この方式は地殻が厚い海域での下部構造を探査する場合に有効である。海底地震計は、測定終了後に調査船からの音波信号によって自己浮上するなど、効率よく回収を行うための機能を有している。

[2]反射法地震探査
「反射法地震探査」とは、エアガン及びストリーマーケーブル(長さは数百m〜数km)を曳航する調査船を用いて、ストリーマーケーブルに一定間隔で取り付けられた受振機の各チャネルで受信する地震波により比較的浅い海底の堆積層や基盤岩などの地質的な状況を推定する方法である。
水中における音波の速度
水中での音波の速度は約1,500m/sで、空気中より4倍以上速い。直下に向けて発射した音波の反射波を6秒後に受信したとすると、水深は約4,500mである。 |
4‐3.基盤岩採取技術(海底ボーリング)
海底の構造が沿岸から連続した地質であるかどうかを知る上で、海底の基盤岩を実際に採取して分析することは有効な手段である。大陸棚画定調査では、海底から岩石試料を採取するため、深海底掘削用の船舶により調査対象海域の基盤岩のボーリングを行って、海底の岩石を円柱状に切り取る調査が行われている。得られる岩石試料は図表6のようなもので、他の方法で得られた地質データと合わせて総合的に解析することで、測定や推定の精度が高まる。

4‐4.地球物理学的観測技術(重力・地磁気計測)
地球物理学的観測とは、重力・地磁気などの物理量を計測することによって、対象とする海底の内部構造及び成分を推測する技術である。海底には大陸性地殻の場所と海洋性地殻の場所があり、また明確に区分できない遷移域と呼ばれる場所がある。1つの対象区域に対して種々の物理量を計測することで、推定の精度を向上させることができる。
[1]重力探査
船舶による重力探査では図表7に示すような船上重力計が使用され、船の航跡に沿って計測が行われる。一般に、海底の地殻が厚い大陸性地殻の場所ではブーゲー重力異常が小さく、地殻が薄い海洋性地殻の場所ではブーゲー重力異常が大きくなることなどから、海底下の構造に関する情報を得るための手段の一つとして重力探査の結果が用いられる。

[2]地磁気探査
海底火山の噴火などにより、地下から海底に噴出したマグマが固まるまでの間に、成分として含まれる磁性体がその時の地球磁場の状況を記録する。海底の地磁気を測定することで、その海底が生じた年代に関する情報が得られることなどから、地質の連続性あるいは同一性を検討するための手段の1つとして地磁気探査の結果が用いられる。船舶による地磁気探査では、プロトン磁力計などにより、重力計測と同様に調査船の航跡に沿って地磁気の計測が行われている。
ブーゲー重力異常
一般に重力は測定点の高度や地形の影響を受ける。高度や地形の条件が同一になるように重力値を補正した値と、その地点における標準的な重力値との差をブーゲー重力異常という。 |
4‐5.第3期科学技術基本計画における海底探査関係の課題
第3期科学技術基本計画では、フロンティア分野の推進戦略2)において、「地球内部構造解明」の重点課題として(1)地球深部探査船「ちきゅう」などによる地球内部の動的挙動の研究、(2)大陸棚画定に資する高精度な地殻構造調査、が挙げられ、「海洋利用技術」の重点課題として(1)大陸棚画定に資する基盤岩採取、(2)石油・天然ガス資源の調査・開発、(3)深海底鉱物資源の調査・開発、(4)メタンハイドレートの利用研究、(5)洋上プラットフォームの要素技術開発、などが挙げられている。
このうち、大陸棚画定に資する地殻構造調査と基盤岩採取は、2007年度中に調査を終了させるという目標があり、期限が限られている。

5.各国の大陸棚画定に係る調査動向
5‐1.各国の調査状況
ロシアは2001年に調査結果に基づきCLCSへの情報提出を行ったが、翌年のCLCSの勧告ではロシアの大陸棚延伸は認められず、再提出を勧告されたとされる。ロシアはまだ再提出に至っていない。
続いて2004年にブラジル、オーストラリアから、2005年にアイルランドから、また2006年にニュージーランド及び欧州4カ国(フランス・スペイン・イギリス・アイルランド)共同、ノルウェーから情報提出が行われ、年に2〜3回開催されるCLCSで審査が行われている。ブラジル、オーストラリア及びアイルランドが提出した情報については、概ね審査が終わり、2007年3月に予定されている第19回大陸棚限界委員会で勧告を行う見込みとなっている8)。
5‐2.ニュージーランドの情報公開戦略
ニュージーランドは我が国と同様に島国であり、周辺の海域が陸塊から連続した大陸棚であることを立証するため、約10年間かけて調査を行い、2006年4月にCLCSに大陸棚画定に関する情報を提出した。この間、国連海洋法の条文や知識などを習得した地球科学の研究者が調査データ解析を行って、論文を作成し、世界的に著名なジャーナルに掲載されたものもある。また、ウエブサイト等を利用した情報発信量の多さから、積極的な情報公開戦略を採用していることが窺える。図表8は2006年4月にニュージーランドがCLCSに提出した延長海域を示すものである。ニュージーランド周辺には、我が国周辺海域と類似するような複雑多岐の海底地形・地質を有する海域が存在しており、この海域についてCLCSが下す判断は注目に値する。

ニュージーランドが政策的に行った、世界に向けて情報をオープンにしつつ自国の主張に対する国際社会の理解を得るというプロセスは、大陸棚延伸に限らず地球規模のさまざまな課題に対しても有効な手段であると考えられる。
なお、我が国においても、2006年3月にCLCS委員多数を含む国内外の専門家を招き、大陸棚限界延長の科学的・技術的側面についての議論の場が設けられた。このような積極的な活動を引き続き行うことが望まれる。
5‐3.我が国の大陸棚画定に係る調査動向
[1]我が国の大陸棚画定調査体制
我が国の大陸棚画定調査は、海上保安庁が海底地形測量、海上保安庁と文部科学省(実施機関:(独)海洋研究開発機構)が海底地殻構造探査、経済産業省(実施機関:(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構)及び(独)産業技術総合研究所)が海底岩石採集(ボーリング)を担っており、それらの作業スケジュールの調整や提出書類の総合調整を内閣官房大陸棚調査対策室が行っている。CLCSへの情報提出を行う上で、測深による海底地形データだけでは十分でなく、地震探査・地球物理学的観測による海底地質構造の推定データや基盤岩の掘削によって採取された海底岩石試料のデータとの突合せを行うなど、関係機関がそれぞれの海底探査技術や人員・資材を動員して総合的に調査・解析を行っている。
[2]調査実施機関の海底調査の概要
大陸棚画定調査を分担している機関はそれぞれ調査船を用いて測深による海底地形測量、地震探査やボーリングによる地質調査などを行っている。
(1)海上保安庁
海上保安庁(JCG)は、調査船「拓洋」「昭洋」により、水路の安全確保などの定常業務の一環として海底地形や地質構造の調査を行っている10)。海底地形測量は「拓洋」「昭洋」に搭載されたマルチビーム音響測深機により、1983年の測量開始以来、2006年度までに約100万kmに及ぶ測線の調査を行い、九州・パラオ海嶺、小笠原海台など、大陸棚延伸にとって重要と考えられる海域の詳細な地形を明らかにした。同時に、重力・地磁気の測定も行った。また、この間に200を超える海山が発見された。例えば図表9に示すような小笠原東方海域の多数の海山に対し、「春の七草海山群」と命名された。

また2004年からは、民間の物理探査船「大陸棚」により海底地質探査を開始した。チューンド・エアガンアレイを用いたマルチチャンネル反射法や海底地震計(OBS)を用いた屈折法地震探査を行っている。チューンド・エアガンアレイは地震波のパターンを任意に変化させることができ、より精密な地殻調査を行うのに役立っている。
(2)海洋研究開発機構
(独)海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、海洋調査船「かいよう」と深海調査研究船「かいれい」により地球科学研究の一環として海底の地殻構造を探査している11)。実際の測定例として、海洋研究開発機構は2005年2月に110台の海底地震計と大容量エアガンを用いて、南部伊豆小笠原島弧の構造探査を行った。「かいよう」は主に屈折法地震探査を行い、「かいれい」は全長5kmのストリーマーケーブルを用いて主に反射法地震探査を行っている。いずれの探査においても、海底地形を確認しながら海底に地震計を投下するため、投下位置を把握するためのGPS測位装置やマルチビーム音響測深システムなどが重要な役割を果たしている。図表10に「かいれい」の外観を示す。

(3)石油天然ガス・金属鉱物資源機構及び産業技術総合研究所
(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)及びC産業技術総合研究所(AIST)は深海底鉱物資源探査専用船「第2白嶺丸」に搭載されたボーリングマシンシステム(BMS)を用いて大陸棚延伸の可能性のある海域の海底岩石を採集するため海底ボーリングを行っている。石油天然ガス・金属鉱物資源機構は年に6回程度、産業技術総合研究所は年に1回程度の航海を行っている。「第2白嶺丸」の稼働日数は年間290日にも及ぶ。
図表11に「第2白嶺丸」に搭載された各種の機器の概要を示す。

[3]CLCS提出書類の作成
海域の調査は2006年までに半分以上を終え、2004年12月に発足した「国連提出情報案作成委員会」が2009年1月を目途にCLCSへの提出に向けた情報作成作業を行っている。CLCSに対しては、これまで各機関が行った調査で得られた我が国の海底地形や地質構造のデータを総合的に解析し、200海里以遠に我が国の大陸棚が続いていることを示す情報が提出される。
当面、大陸棚延伸調査のためにデータ処理やシナリオ作成などに多大な努力が払われている。
2009年5月が期限となる大陸棚延伸に係わるCLCSへの情報提出は、世界のトップレベルの地質学、地球物理学又は水路学などの分野の専門家で構成されるCLCSの理解を得ることができるかどうか、またCLCS委員の疑問に答えられるかどうか、我が国が国全体として初めて受ける学術的な試練である。情報提出に先立って、我が国の大陸棚画定の調査結果に対する国際的な評価を事前に醸成することが望ましい。ニュージーランドの情報公開戦略は我が国にとって参考になるものと考える。

6.今後の海底探査・利用への提言
我が国が今後海底の探査・利用を行っていく上で、2009年の提出期限に向けて急がれている南方海域の大陸棚画定調査は一つの中間目標であり、世界第6位の管轄海域を有する海洋国家として長期的な視点で海底探査及び利用技術を発展させ、科学調査、資源探査、水路の安全確保など多面的な目的に応じて探査技術を適用していく必要がある。
6‐1.海底探査技術開発の課題
海底探査の領域では、他の様々な分野に対して適用されてきたものづくり技術や情報通信技術などの進歩や理学的な研究の進展ともあいまって、測深・地震探査・基盤岩採取及び地球物理学的観測といった個々の技術においてそれぞれ高性能化・高機能化が図られてきた。
今後の海底探査では、現在の技術に付加する形で、新たな成果が期待できるような技術開発や技術導入を行っていく必要がある。既に外国で実用化されていて我が国では所有していない先端技術を導入することも含まれる。例えば、地震探査技術においては、将来的に3次元反射法地震探査が実施されるようになると、海底の石油資源探査などにも適用可能である。海底掘削技術では、科学研究の目的で世界最先端の装備を持つ地球深部調査船「ちきゅう」が完成している。「ちきゅう」で用いられるライザー掘削は、元々海底石油掘削のために開発された技術であり、洋上プラットフォームと組み合わせて経済性の優れた資源開発技術を確立することも一つの方向性として考えられる。3次元反射法地震探査、ライザー掘削、洋上プラットフォームなど、従来我が国で一般的に用いられていない装備が今後使われるようになる段階に備えて、人材育成をはじめ諸施策を展開することが必要である。
6‐2.海底の資源利用の課題
現時点では高コストの海底資源採取は、直ちに事業化を急ぐ状況ではないが、BRICsの急速な経済発展などにより、国際的に各種の金属資源逼迫の危惧が出始めており、国家の安全保障のためのリスク・ヘッジ政策の一つとして、海底からの金属資源採取に備えた技術開発を戦略的に進めるべきである。
我が国は2006年12月から国会提出を目指して海洋基本法案の条文化作業が行われている。その内容は基本理念として海洋環境の保全、開発利用、安全の確保、持続可能な開発・利用、国際的協調などを掲げ、海洋の国際秩序形成の先導的役割を果たすことが期待されている。国として海底利用に関する将来の変化を先取りするような政策誘導を行うことが必要である。
6‐3.持続的な海域探査継続の課題
今後我が国が海底探査の対象とする海域は、大陸棚延伸という国家的目標の下で調査が行われている南方海域だけでなく、大陸棚延伸に関係しないために調査が遅れている日本海にも目を向ける必要がある。海底探査の人材育成、人材活用の面からも、長期的に持続可能な探査活動を着実に進めることが望ましい。海底探査は科学者だけで実施できるものではなく、船舶の運航、装置の開発・製造、掘削工具など消耗品の供給、海底探査を担う人材の育成施設の整備・運営など、多岐にわたる側面的支援を必要としており、総合的な海域探査政策を確立して個々の施策を発展させるべきである。

謝 辞
本稿を執筆するに当たり、内閣官房大陸棚調査対策室谷伸内閣参事官・冨山新一
参事官補佐、海上保安庁海洋情報部大陸棚調査室岩淵洋 室長、(独)海洋研究開発機構地球内部変動研究センター 高橋成実 サブリーダー、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構金属資源技術グループ
菱田 元 チームリーダー、(独)産業技術総合研究所地質情報研究部門 西村 昭 副研究部門長・同地圏資源環境研究部門 棚橋 学
副研究部門長、東京大学 笠原順三 名誉教授、京都大学大学院工学研究科 芦田 譲 教授・三ケ田 均 助教授、深海資源開発(株)資源調査部
松本 勝時 部長らに資料提供及び討議を頂いた。ここに関係の皆様に深く感謝の意を表します。
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