[レポート2]

理工医学系電子ジャーナルの動向

―研究情報収集環境と事業の変革―

林  和弘
客員研究官

1.はじめに

 科学技術の学術研究におけるコミュニケーションには様々な形態があるが1)、研究者はその成果を何らかの媒体で発表し、研究者仲間に広く知られて評価され実績となる。理工系や医学系の研究者の場合、仲間内や学会大会で口頭発表を行い、その後に論文を書いてジャーナルに投稿することが多い。ジャーナルの編集では研究者仲間による審査・査読(peer review)によって一定以上の品質を維持し、論文をまとめて定期的に刊行する。17世紀以来、大学、学会や出版社がこの事業を担っており、今でもジャーナルは研究成果を公開する最重要媒体である。

 最近では、特に1995年頃からウェブ上での情報のサービスが本格的に展開されることによって冊子以外の情報伝達手段が生まれると、その特徴を生かした新しい試みがジャーナルでも繰り返されてきた。最初はこれまで紙で行なわれてきた業務や情報の電子化、すなわち、冊子の情報のデジタル化や審査業務を電子化することから始まった。続いて冊子あるいは紙ベースでは実現不可能なウェブの特徴を生かした電子ジャーナル固有のサービスも種々検討され、引用リンクなど様々な機能が実現した。現在電子ジャーナルはデータベースとの連携を含めた統合サービスツールの一部として検索から最終一次情報を提供するサービスと捉えることも可能となっている。その結果これまでごく一部の専門家の間でしか回らなかった科学技術情報が多くの人の目に触れる機会が増えた。

 一方、電子ジャーナルを含むジャーナル刊行事業という観点で見た場合、現在は、その刊行事業のあり方に関する議論が盛んである。特にオープンアクセス活動の出現は、これまでの図書館購読を主体とした出版事業モデルに大きな影響を与え始めている。

 ここでは、このすでに古くて新しいトピックとなった電子ジャーナルの動向とオープンアクセス活動の出現で揺れ動く出版業界の諸状況について、2007年現在での電子ジャーナルサービスとそれを取り巻く環境を軸に紹介し、日本の電子ジャーナル運営に関する改善案について考察する。

 なお、電子ジャーナルを含む研究情報収集環境は常に変革を続けている。本稿での議論を明確にするため、また、変化し続けているこの環境の定点観測的な報告も兼ねて、2007年1月現在における理工医学系電子ジャーナル(STMジャーナル)の投稿からウェブ公開後までの一般的な業務並びにサービスを紹介し、それに基づいた諸状況の解説および考察を加える。

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2.研究活動における電子ジャーナルの役割

2‐1.電子ジャーナルサービスの現在

 現在多くの国際的な理工医学系ジャーナルは電子投稿窓口をwebサイトに用意し、郵送による投稿は電子投稿の開始とともに激減した2)。オンラインで投稿された原稿は、従来から続いている研究者仲間(編集委員や審査員)による審査(peer review)を電子ファイルのまま行い、掲載の是非が判断される。掲載可の場合は出版処理へ進み、生物系のジャーナルでは審査済みの原稿をそのままウェブ公開するところもある。2000年前後までは、この電子投稿審査システムを開発すること自体が一つのトピックであったが、現在はシステムの仕様も、開発費も落ち着いており、すでにこれらの投稿審査システムが汎用プラットフォーム化され、スケールメリットを生かしたビジネスが展開されている。具体的にはエディトリアル・マネジャー(Editorial Manager)3)というサービスによって、世界最大の科学技術・学術出版社であるエルゼビア(Elsevier)ジャーナルを中心に1,800以上のジャーナルの電子審査化が進んでおり、また、スカラー・ワン(ScholarOne)社4)は1,000以上のジャーナルの電子投稿審査サービスを提供している。

 電子ジャーナルサービスのメリットの一つは、冊子のように製本することなく論文単位で校了次第即座にウェブ上に公開できることである。多くのジャーナルでは、このオンライン先行公開を行っている。電子ジャーナルの公開サービスに関しては前記の電子投稿審査システムよりも早くからスケールメリットを生かしたポータル化が進み、エルゼビアの巨大な電子ジャーナル公開プラットフォームであるサイエンスダイレクト(ScienceDirect)5)を筆頭に、いくつかの出版社が時には数百を越えるタイトルの電子ジャーナルサービスを提供している。

 また、いくつかのジャーナルでは冊子の印刷を止めて電子ジャーナルのみにする、あるいは電子ジャーナルのみの新刊ジャーナルを発行するなど、e‐only化の試みが行われている。しかし、各分野の一流誌と呼ばれている欧米のジャーナルで、冊子を完全に止めているところはまだ少ない。

 電子ジャーナルの公開に際しては適切な購読管理が必要となる。冊子体のジャーナルは購読費の対価として冊子を送ることで購読管理を行っていたが、電子ジャーナルの場合は一般的にはアクセス権のみの提供となる。図書館の購読の場合はIPアドレスによる管理、個人購読の場合はIDとパスワードによる管理が主として行われる。また、電子ジャーナルでは論文単位で課金することが可能になり、多くのジャーナルで論文一部売りサービスが用意され、その結果、そのジャーナルを購読していなくても、必要な論文だけを購入することが可能となった。このサービスは主に、データベースの検索結果から欲しい情報だけを入手する場合に有効な手段である。

 公開された論文情報を多くの研究者に早く知ってもらうために、多くのジャーナルではコンテンツアラートサービスによって事前に電子メールアドレスを登録した読者に目次内容を送付するサービスを行っている。ほとんどの場合、目次にはその論文へのリンクが張られており、興味のあるタイトルの論文を直接閲覧できるようになっている。

 さらに、最近ではRSS 1.0、2.07)といったフォーマットを利用した新着お知らせサービスも浸透し始めた。すでにコンテンツアラート登録者数の伸びが落ち着き、RSS利用が増大している報告もある8)

 電子ジャーナルサービスでは、アクセス数をカウントすることによって、どのジャーナルやどの論文が読まれたかを比較的正確に把握することが可能である。ただし、出版社が異なるジャーナルどうしでの比較のためには、アクセスカウントの一定のルール作りが必要であり、そのためにイギリスの図書館および出版社が中心となってCOUNTERというプロジェクトが生まれた9)。現在大手の出版社はこのプロジェクトで規定されたルール(Code of Practice)に従ったアクセス統計サービスを、主に図書館に対して提供している。

 電子ジャーナルの利便性を生かすためには新着情報の発行に加えて、創刊号にまで遡った電子化が必要であるが、多くの有力ジャーナルではすでに創刊号までの電子化が完了している。すなわち、すでに過去の論文を図書館に探しに行く必要は事実上なくなっており、特に電子化の進んでいる英文誌では実際に図書館相互貸借サービスの量が減っている10、11)

 以上が2007年現在の標準的な電子ジャーナルサービスとその周辺の諸状況である。

2‐2.包括的電子ジャーナルサービス:電子ジャーナル間、データベース、ポータルサイトとの連携

 以下に、電子ジャーナルを取り巻くサービスについて紹介し、より包括的な立場での電子ジャーナルサービスを紹介する。

[1]電子ジャーナル時代の論文識別子 ―OpenURL、DOIとリンクリゾルバー

 まず、電子ジャーナルを利用した連携サービスを可能にした論文識別子について紹介する。冊子体時代より各雑誌を認識し特定する識別子にはISSNなどがあり、これらは雑誌の管理用に浸透している。しかし、各論文を特定する識別子にはPII、SICIなど12)があったものの利用度が高いとは言えなかった。一方、電子ジャーナル化によって、どの論文がどのURLに存在するかが重要になり、冊子時代から二次情報を抄録していた医学系のPubMed13)や化学系のChemical Abstracs(ChemPort)14)などでは独自のルールに従った識別子を用意した。これらはそれぞれ固有のサービスのためのものであったが、この識別子の一般化や規格化が進み、固定のなるべく分かりやすいURLを持つことによって、広くその論文を認識してもらうことを目的に、OpenURLが浸透している15)。一方、出版社間の引用文献どうしにリンクを張ることを目的として、大手出版社を中心にPILA(Publishers International Linking Association, Inc.)という団体とCorossRefプロジェクトが設立され16)、この団体に加盟するジャーナルの各個別の論文には識別子DOI(Document Object Identifier)を付与し、そのDOIと論文の置かれたURL情報を管理する(リンクリゾルバーを持つ)ことで各論文へのリンクが可能になった。つまり、これらの識別子を持つジャーナルに関しては、論文単位でURLを組み立ててアクセスし、個別にリンクを張ることが可能になった。このことで以下に述べるデータベースやポータルとの連携がより効率良く行われるようになっている。

[2]各種データベースとのリンク

 現在のような電子ジャーナルサービスが実現する前から、先に述べたPubMed、Chemical Abstractsのようないわゆる二次情報サービスが提供され、ウェブの浸透以前にデータベース化されていたが、論文単位の電子化とハイパーリンクによってこれらの二次情報データベースから簡便に一次情報の論文へ到達することが可能になった。研究者の情報収集におけるこの二次情報と一次情報の連携のインパクトは大きく、厚い抄録本を調べてその後一つ一つの紙のジャーナルに当たることなく、PC上で必要なキーワードで検索し、結果表示から該当文献を簡単に閲覧できるようになった。これは研究情報収集環境の激変とも言え、このような専門分野のデータベースの検索に引っかからない論文は無視される可能性すらあるため、多くのジャーナルがその専門分野のデータベースとの連携を積極的に図っている。逆に、アマゾン社などでの書籍販売にみられるロングテール現象と同じように、これまで冊子単体だけではあまり読まれなかったジャーナルでも、電子化しデータベースと連携することで検索の結果として他の主要なジャーナルと並んで検索結果として並び、論文が閲覧されるようになったことも大きな変化である。この点では、特に日本の英文誌では海外での露出機会を高めるチャンスとなっている17)(図表1)。

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 一方、引用文献データベースに関しても同様の動きが見られる。Thomson社(旧ISI社)のWeb of Science(WOS)18)は、早くから引用文献データベースから一次情報に繋げているデータベースである。2004年からエルゼビア社も同様の引用文献データベースであるSCOPUSをリリースしている19)。SCOPUSでは、当初からエルゼビア社の持つサイエンスダイレクトなどの一次情報との連携が取られている。

[3]検索ポータルからの誘導

 さらに数年前より、より一般的な検索ポータルサイトが科学技術および学術情報の検索サービスに乗り出している。具体的には、Google Scholarは、すでに科学技術および学術情報ポータルサイトをリリースして、独自のエンジンを利用した引用情報サービスを提供している20)。また、これに対抗する形でMicrosoft社の Windows Live Academicが登場した21)。Google Scholarの検索結果からPPVサービス購入などの具体的な利用の実態が報告され始めてもいる8)。これらの検索ポータルの動向は、利用実態を含めて、その行方を注視すべきものである。特に専門性と信頼性の高い既存の二次情報データベースを持つ医薬および化学分野の研究者が、このようなより一般的なポータルサイトを今後どのように扱うかが注目される。

[4]引用および被引用のリンク

 2‐2[1]で述べた引用文献どうしのリンクを実現するCrossRefプロジェクトを介して、主な出版社間では、引用文献から他のジャーナルの論文へ効率よく移動することが可能となった。さらに、単に引用文献へのリンクを実現するだけでなく、引用された側に被引用文献へのリンクを張って、ある論文の公開後に他の論文がその論文を引用した場合にもリンクが張れるようになっている(被引用リンク、Forward Linking)。すべてのジャーナルがこの機能を持った場合、理論上、この被引用リンクの数が一般的に言われている論文の被引用数に等しいことになるので、引用データベースに頼らなくとも引用数を把握することができるという可能性がある。

[5]デジタル資源管理ツールの登場

 最後に、最近では各機関の図書館が、管轄する電子ジャーナル、データベースや今回は採り上げない電子ブック(eBook)も合わせて統合管理するシステム(デジタル資源管理ツール)を利用して、欲しい資料への適切なナビゲート機能や資料間横断検索など効率の良いエンドユーザーサービスを実現する動きも活発化している22)

[6]電子ジャーナル化がもたらした多様なアクセス手段

 以上のような形で、旧来からある審査(peer review)というシステムを踏襲する形での電子ジャーナルの一次情報作成と各論文の公開までの局所的なサービスは、かなり固定化されつつある。次の段階として現在はジャーナルや個別の論文をデータベースやポータルサイトといかに連携させて管理するかを検討している段階と見ることができる。

 また、現在、研究者の情報検索環境は、図表2に示すように各タイトルもしくはパッケージ別の電子ジャーナルへの直接のアクセスというルート(A)に加えて、主に図書館が管理している専門性の高い2次情報や引用情報などのデータベース検索から入るルート(B)、同じく図書館が管理しているデジタル資産管理ツールなどのデータベースの統合検索から入るルート(C)、さらに無料ポータルサイトの検索から入るルート(D)の4つに分類することができる。このような多ルートからのアクセス提供やGoogleなど一般層まで含む広い読者からのアクセスは、冊子では不可能である。アーカイブの電子化もほぼ完了した現在、図書館に通って冊子を手に取る時代は終わりつつあると言える。一方、各ジャーナルの出版母体は、その存在を無視されないためにも、これらの多種のルートから発行ジャーナルのコンテンツが常に閲覧できるようにすることが必須となっている。

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3.事業としてみた電子ジャーナル ―世界の状況

3‐1.変わらない学術出版の商業化と寡占

 学術出版事業は電子ジャーナル化が進む以前より、依然として、いわゆる購読費モデルと呼ばれるビジネスで成り立っている。すなわち、主として図書館が払う購読費を主な収入源として事業を展開している。一部のジャーナルではこのほか、著者からの掲載料や別刷り料を徴収するところもあるが、いずれのジャーナルでも主な収入源は購読費である。

 この学術出版事業は、冊子の時代から商業化と寡占化が進み、価格高騰によって図書館の払う購読費が増えても導入タイトル数が減ってしまうシリアルクライシスが叫ばれていた23)。この寡占化の状況は、電子ジャーナル化の特徴の一つであるスケールメリットの要因が加わってさらに加速されている。例えば、エルゼビア社のサイエンスダイレクトには1,700以上のタイトルが掲載されており、雑誌はタイトル単位ではなく、この電子ジャーナルプラットフォーム全体(パッケージ)としてまとめて販売されている(ビッグディール)24)

 しかしながら、多くの国の図書の予算は年々減少し続けるか、増えてもタイトル数の維持や新規購読に不十分な程度であるため25)、図書館はこのようなビッグディールに対抗するべく連合組織(コンソーシア)を形成し、価格交渉によってできるだけ安くパッケージを買い、できるだけ所属の機関で多くのタイトルを閲覧できるように努力してきた。最近はビッグディールのおかげで、1図書館当たりの購読タイトル数が増え、利用実績も増えたという報告もあり26)、ビッグディールとコンソーシアの閉じた世界の中ではその効用が論じられている。

 一方、このスキームからはずれてしまう中小出版社は、ビジネスとして大きなハンディを背負うことになった。比較的大きな規模を持つ欧米の学会では、その分野のトップブランドジャーナルを核に数十のパッケージを形成して、商業出版社のジャーナルと同様のビジネスを展開している。また、一部の中小出版社どうしでは、共同して電子ジャーナルのパッケージ化を行うなどの試み27)が行われているが、それ以外の少ないタイトルもしくは単タイトルで電子ジャーナルビジネスを展開する決定打は生まれていない。

3‐2.障壁無きアクセスは可能か ―オープンアクセス運動

 以上のような状況の下、本来は非営利目的として広く流通されるべき科学技術および学術情報流通事業が、過度に商業化している点を懸念する声はますます高まり、商業目的のジャーナルに対する数々の対抗策も生まれている。このような対抗策は主に図書館によって主導され、電子ジャーナル化以前よりARL(Association for Research Library)によるSPARC運動28)などが展開されてきた。

 さらに最近では、オープンアクセスと呼ばれる活動が盛んになっている29)。オープンアクセス活動の定義は様々であるが、ここでは論文情報(本文を含む)へ誰でも無料でアクセスできる手段を提供する活動とする。このオープンアクセス活動の基礎にある考え方は、主として税金で行われた大多数の研究の成果は、広く一般に公開すべきであるというものである。特に医学系では、納税者が最新医療情報へアクセスすることに障壁があり(有料購読が必要)、これに対する問題意識からオープンアクセス活動が進んだ。

 また、電子ジャーナルならではの特徴が、この活動を推し進めた。すなわち、インターネットサーバー上に認証をかけずに情報を置きさえすれば、誰でも論文情報にアクセスできるようになった。冊子を流通させるよりも簡便でかつ経済的であるという電子ジャーナルの大きなメリットがこの活動を推し進めているのである。

 現在、オープンアクセスを実現する方法は様々であり、常に変革を続けている。現在行われている例を以下に紹介する。

[1]分野別プレプリントサーバーとセルフアーカイブ:研究者の立場から

 まず、オープンアクセス運動以前より、物理などの一部の分野では、投稿前の原稿をプレプリントサーバー上に公開するという文化を持っている。これは研究仲間に対して、一刻も早く自分の成果を披露したいという要望に応えた形で立ち上がった。arXiveがその代表例である30)


 また、著者自身の原稿を著者のサーバーに掲載して無償公開するセルフアーカイブ運動がHarnad氏らによって長らく提唱されているが31)、これは、著者自身がセルフアーカイブするメリットが少ないために十分に浸透しているとは言えない。

[2]財団の勧告:研究費助成団体の活動

 オープンアクセスに対する反応は、研究助成団体も動かした。2003年にアメリカのNIH(National Institute of Health)、イギリスのWelcome財団、そして前述のSPARCの主要メンバーが集まってオープンアクセス活動を促進するベセスタ宣言が提唱され、これを受けた形で、2004年にNIHは、NIHが補助した研究に関する論文をPubMedCentralへ掲載し無償公開することを著者に要求した32)。さらに、2005年からはより強く要求を行っている。イギリスのWelcome財団も同様の勧告を行い、PubMedCentralのミラーサーバーを用意した。

 これらの勧告に関するNIHの一連の動きは、学会、商業出版社、および図書館に大きな影響を与え、様々な議論を呼ぶ一方で、後に述べるそれぞれの立場から行うオープンアクセス活動の一つの原動力ともなっている。

[3]機関レポジトリ:図書館の新たな活動

 一方、先のジャーナルの商業出版化と価格高騰に対抗するべく、図書館は研究者に対してセルフアーカイブを積極的に推奨するようになった。さらに所属機関に情報公開サーバー(機関レポジトリ33))を用意して、紀要や博士論文など大学などが持つ情報とともに、所属機関の著者の書いた論文を著者の代わりに掲載するようになった。掲載される原稿は、著者最終版と呼ばれている審査が終了した原稿か、出版社版と呼ばれている最終公開本文ファイル(主にPDF)であり、機関レポジトリへの掲載を含めて出版元の許諾条件に応じて、いずれかのファイルを掲載している。

 このようなセルフアーカイブの延長とみることもできる機関レポジトリには、まだそれほど多くの論文情報が掲載されているとは言えないが、掲載されたデータはGoogleによって検索が可能になっているところが多い。すなわち、すべての研究機関にこのレポジトリが浸透すれば、大多数の科学技術および学術論文情報が、無料で検索および閲覧できることになる。この無償流通経路が本格的に実現すると、科学技術および学術情報流通に大きな影響を与える。図書館もそれを目指して活動を続けているが、出版社側にとっては死活問題となるため、大きな議論を呼んでいる34)(図表3)。

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[4]オープンアクセスジャーナル:出版社の対応


 出版社側もオープンアクセスの持つ理念自体には異論が無い。しかしながら出版にはコストがかかり35)、商業出版社のように出版事業によって利益を得ているところはその対応に消極的だった。さらに欧米の非営利の学会も出版事業によって収入を得ており、その収入を教育事業など他の学会活動に充てていることもあって36)、早急なオープンアクセス化には大反対はせずとも慎重な態度を示しているところが多い。

 しかしながら、政府機関や図書館の活動に対応する意味も含めて、これまでの購読費モデルの代替モデルを模索しているところもある。2007年1月現在行われている取り組みは、著者支払いモデルによる完全オープンアクセス化と、著者支払いオプションおよび公開時期の調整による部分的オープンアクセス化である。

 まず、著者支払いモデルであるが、先駆的な例としては、生物系のBioMedCentral37)や英国物理学会出版局がドイツ物理学会と協力して発行したNew Journal of Physics38)があり、現在最も代表的な例としては、PLoS(Public Library of Science)の科学ジャーナル39)が積極的にこのモデルを採用している。例えばPLoS Biology誌では、現在著者が$2,500の掲載料を支払うことで発行の運用経費を賄っており、電子ジャーナルは完全に無料化されている。しかし、2003年の刊行時当初は1,500 US$で始めた掲載料が、運用3年目になって値上げされ、著者支払いモデルが本当に成り立つかどうかが議論されている。

 続いて、著者支払いオプションであるが、これは論文単位でオプションとしての料金を支払い、その論文だけが即時に無料公開になるというものである。例えばSpringer社のOpen Choice40)では著者が3,000 US$を支払うことでその論文への無料アクセスが可能になっており、Springer社では研究助成団体にも積極的にこのオプションを利用するよう働きかけている。このように、最近では、著者の代わりに研究費助成財団がこれらの料金を支払うという考え方も出始めている。この方式の場合、著者全員がこのオプションを選択した際、購読費を0円まで値下げできるようなオプション料金に設定すれば、先の完全オープンアクセスジャーナル化に移行することも理論上は可能である。そこで、既存のジャーナルは取り急ぎこのオプションを用意して様子を見はじめている。

 最後に、公開時期の調整によるオープンアクセス化であるが、これは公開後一定の期間が経ったものは無料公開にするというものである。この方式は、オープンアクセス運動以前より出版社によっては行われていたこと、購読費モデルはそのまま維持されること、さらに論文単位で見た場合に有料の時期と無料の時期があるなどといった特徴がある。したがって、オープンアクセスを実現する手段としては、前述の二つが中心であると紹介されることが多い。

3‐3.オープンアクセス活動がもたらしたもの ―電子ジャーナル時代の科学技術および学術情報流通のありかた

 以上いくつかのオープンアクセスへの取り組みを紹介したが、この議論の中で常に中心を占める命題は「誰が科学技術および学術情報流通のコストを負担するべきなのか」ということである。結果的に、研究助成団体、図書館、学会を含む出版社がそれぞれの立場からこの命題に対する現実的解釈の試みを現在繰り返している。この繰り返しの中で注目すべきは、図書館が情報発信機能を持ち始めたことと、研究助成団体が研究の公表と流通方針に関与し始めたことである。つまり、単にコスト負担の問題だけでなく、「誰が科学技術および学術情報流通を担うべきなのか」といった命題も内包することになり、関係者自身が変革せざるをえないという可能性が出てきた41、42)

 また、このような状況下では、本来一番の利害関係にあるはずの研究者がオープンアクセスに対してどう考え、どう動くかが注目される。ところが英国のRoyal Societyのような例43)を除けば、一般的に研究者の関心は薄い。なぜなら研究者の欲求はあくまで自分の研究に対する仲間内での良い評価を得ることとそれに伴う処遇の向上にあるため、いわゆるトップブランドジャーナルへの掲載を第1のプライオリティにし、そのジャーナルの事業が非営利であるか、オープンアクセスかどうかについてはあまり関心がない。しかしながら、研究費の多くが税金で賄われているということと、税金の利用に対する社会への説明責任が年々強く求められる中で、今後は今までのように無関心なままで居られない可能性もある。

 以上のように、基本的なサービスとしては落ち着きを見せ始めた電子ジャーナルも、事業としてみた場合はむしろ混沌とした状況にあると言える。特に、電子ジャーナル化によって事業形態が変わるだけでなく、情報流通活動の担い手が変わる可能性も出てきたため、今後は、再編成の方向を十分見極める必要がある。

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4.電子ジャーナルが日本の学協会に与えた影響

4‐1.日本の電子ジャーナル化の状況

[1]日本の電子ジャーナルを支える環境

 図表4は日本の科学技術および学術情報流通に関わる関係者を集めて図式化したものである。文部科学省の枠組みの中で、まず、(独)科学技術振興機構(JST)ならびにC日本学術振興会(学振)があり、研究助成を行っている。この両者はそれぞれJ‐STAGEや科学研究費補助金の研究公開促進費などで日本の学会出版の支援も行っている。ジャーナル発行元としての学協会と購読側の図書館には、どちらにも研究者が属している。また、国立情報学研究所(NII)は図書館活動を支援しつつSPARC/JAPAN44)の活動で学会を支援している。さらに、科学技術および学術情報の恒久保存の観点からは国会図書館が関係しており、さらにその周りには欧米の学会系出版社や、商業系出版社がその強力なブランド力と共に存在し、多くの日本の研究者が海外のジャーナルに投稿している。この状況下で、いくつかの分類で日本独自の電子ジャーナル事業の取り組みとその支援体制を以下に紹介する。

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[2]完全自力型:物理系の事例

 物理系学術誌刊行協会(IPAP)は、(社)日本物理学会と(社)応用物理学会の出版組織が統合して発足させた組織である。主力ジャーナルとして、Journal of Physical Society of JapanとJapanese Journal of Applied Physicsを刊行している。この組織では電子投稿審査システムや、電子ジャーナル公開プラットフォームを自力で開発した。さらに電子ジャーナルの有料購読も行い、CrossRefあるいはGoogleを含めた各種リンクも実現している。

[3]国内提携型:独法研究機関の事例

 現在、日本の130誌程度の英文誌は、(独)科学技術振興機構(JST)のJ‐STAGE45)を利用して電子ジャーナル公開を行い、一部の学会では電子投稿審査も利用している。J‐STAGEでは、PubMed、ChemPort、CrossRefの連携に加えて、COUNTER基準相当のアクセス統計サービスを提供している。(社)日本化学会のChemistry Letters誌はJ‐STAGEを効果的に利用し、標準的な電子ジャーナルサービスを実現しつつ、受け付けてからウェブ公開の平均期間が一般化学誌としては世界最速クラスとなった42)

 また、国立情報学研究所(NII)のNII‐ELSには、発行された冊子をスキャンしたファイルが書誌情報とともに掲載されており、学協会の方針に応じて無料/有料公開されている46)

[4]国外提携型:電子情報通信系の事例

 (社)電子情報通信学会では独自の電子投稿審査システムを用いて審査をした後に、国外向けにはOxford University Pressを通じてHighwire47)と呼ばれる電子ジャーナルプラットフォームを用いて電子ジャーナルを公開し、国内向けには独自サーバーによる公開を行っている。国外の読者に対しては、海外の非営利大規模プラットフォームを利用することで標準的なサービスと海外でのPRを図っている。

[5]SPARC/JAPANその他の活動

 国立情報学研究所(NII)では、先に紹介したSPARC/JAPAN事業を通して、日本発の情報流通基盤整備事業を開始し、2期4年目に入っている。この事業の選定誌の一つであるUniBio Pressは生物系学協会誌7誌の電子ジャーナルパッケージであり、2007年よりBioOneプラットフォームでの公開を開始した。また、個別の学会やジャーナルへの支援に加えて研修活動を活発化させ、ジャーナル担当の人材育成に努めている。

 また、日本機械学会では、既存の英文誌の発行を止めて発展的に部門別の電子ジャーナルを創刊した。このジャーナルは電子ジャーナルのみの発行であり、電子ジャーナルの発行を学会の使命と位置づけ、会費と投稿料(掲載料)で発行費を賄う方針である。

4‐2.厳しい日本の電子ジャーナル事業

 先に述べたように、日本の理工医学系ジャーナルも電子化が進み、一定の成果が出ているが、事業としてみた場合は脆弱な状態が続いている。以下にその理由について考察する。

[1]科学研究費補助金が与えた影響

 科学研究費補助金の研究成果公開促進費によって冊子体の印刷出版に対する補助は、その前身を含めると1955年から行われており、日本のこの分野の出版事業を下支えしている48)。この支援は、元々日本語圏で英文出版活動を行うことに代表される構造的なハンディを負っている英文誌発行には大きな支援となっているが、一方で、毎年定期的に補助されることと、補助額は赤字分のみが対象であって利益を上げることが制度上許されないため、品質改善の動機付けを失いやすいという懸念を内包する。さらに、冊子体発行を前提とした補助基準になってきたために、最近は改善が進んでいるものの、電子ジャーナル発行のための補助として全面的には使いにくいという側面もある。

[2]学協会の統合問題

 かねてより日本の学協会はその数が多く、統合や改革の必然性が論じられているが49、50)依然として日本の学協会数は減っていない。例えば(社)日本学術協力財団発行の学会名鑑をみると、2001〜2003年版では1,620だった学会数が、2004〜2006年版で1,730とむしろ増えている。このような学協会乱立は電子ジャーナル事業を含めた学会事務効率の低下を招き、欧米との格差を広げる結果となっている。

[3]ジャーナルの質(Quality Control)の問題  出版社(Publisher)としての機能

 学協会の乱立は出版組織の規模も小さいまま分散していることを意味するが、さらに欧米のような出版のプロフェッショナルな人材が担当することもなく、多くの場合、他の業務と兼任であるため、電子ジャーナルサービスや掲載する情報の質を向上させることが極めて難しい。また、ジャーナルの認知度を向上させ、著者から良い原稿を投稿してもらうためには、PR活動が必須であり51)、さらには、電子ジャーナルのライセンス問題や著作権を含めた法務の業務も重要である。ところが、これらに関して明るい人材が学会にはほとんどいない。これも非常に大きな問題である。

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5.日本発の電子ジャーナルおよび情報流通を改善するための提案

 以上のように日本の電子ジャーナルの活動は、学協会自身の持つ問題を抱えて、経済的、人材的にも貧弱であり、結果的に個別の学会の努力など細々とした改善に留まっているのが現状である。世界と日本の状況を踏まえて、また、科学技術・学術審議会下ワーキンググループの報告52、53)も考慮しながら、日本発の電子ジャーナルをより強化するための改善策について考察する。

5‐1.日本発の情報発信の必然性の確認

[1]海外に評価を任せることのリスク

 まず、日本発の情報発信の必然性を改めて再確認する必要がある。科学に国境は無いが、科学者には祖国があるといった理念的な話だけに限らず、海外誌における審査遅延、あるいは不当な扱いなどについては、その性質上、明確な統計データとしては現れないものの、兼ねてより指摘されていることである54)。また、国際誌と呼ばれているジャーナルでもその編集委員のかなりの割合が自国の教授であることも多い。すなわち、研究者自身の最新の知見およびデータが世に公開される前に海外の評価母体に渡ることのリスクが大きいことを再認識する必要がある。ただし、これらは、日本に限った問題とは言えない。

[2]海外からの情報発信に頼ることによるビジネスの機会の損失

 英文誌の出版活動を国際的に行うことは必然的に出版業界が外貨を獲得することになり、実際に欧米の学会および商業出版社は世界から高い収益を得ている。また、商業出版社はその利益を株主に還元してもいる。世界の科学技術および学術情報流通市場は約5兆円とも言われており54)、日本発の情報発信産業が国際的な経済活動の一翼を担う産業にもなりうることを認識する必要がある。

[3]情報流通産業育成の観点

 理工医学系電子ジャーナルの世界は、文学、経済など他の分野のジャーナルと比較してその浸透が早く、結果的にインターネット上での学術コミュニケーションを先導している。すなわち、この世界でイニシアティブを取れるような活動を行うことは情報流通産業全体の発展にとって望ましい。

[4]一次情報発信事業が持つ意義の再確認

 2‐2で展開された包括的な電子ジャーナルサービスは、最終的には一次情報である論文にたどりつくためのガイドのようなものであり、すべては一次情報の存在の上に成り立つ42)。日本が質の高い一次情報を生産し、発信する意義についても再認識が必要である。

5‐2.研究評価のあり方の再検討

 研究者にとっては、その分野のトップブランドジャーナルに掲載され、その科学コミュニティから評価を受けることが最大の関心事である。しかし、現実的には、ほとんどの分野でトップブランドジャーナルは欧米から発行されている。

 このような研究者の欲求は率直に受け止める必要があり、研究成果の海外流出を相対的に食い止めるために研究者の意識変化を単純に待つことは非現実的である。これらを踏まえた上で、この問題にはなんらかの施策が必要であると考えられる。例えば、大学等の非営利機関の研究者に限った話として、研究者の研究から生まれる成果はその研究者にとっての大切な財産である一方、主として税金で行われた活動から生まれた利益と見ることも可能である。この利益に課税して還元するという考え方のもと、研究成果の一定の割合を日本から発信することにし、その割合や量を適切な評価と研究費配分に結びつけることが得策ではないかと考えられる。例えばこれはあくまで一例ではあるが、税金分以外の残りはどのように使ってもよいとし、海外の有力誌で名を売ることも可能とし、多くの税金を払う論文、すなわち影響力のある論文を多数日本から発信する研究者にはそれなりの発言力を与えるようにする。このような極端な施策を突発的に講じることは研究者の猛反発を招く可能性もあるものの、今後、日本発の科学技術および学術情報発信の意義を、なんらかの形で研究者自身に再認識させる必要があるだろう。今回議論している問題はこの研究者自身の再認識が前提でないと実効的な手段を模索できないのではないかと考えられる。

5‐3.研究助成団体や出版支援団体のポリシー

 先に述べたように、NIHやWelcome財団など研究助成団体の活動が科学技術および学術情報流通に与えた影響は非常に大きい。同じように、(独)日本学術振興会や(独)科学技術振興機構など日本の研究助成団体がその補助対象の研究情報の流通に関してどのようなポリシーを持つかは日本の情報流通のあり方と関連の事業活動に大きな影響を与える。今後、そのポリシーへの議論が待たれる。

5‐4.出版助成のあり方の再検討

 これまでの科学研究費補助金の出版補助の意義と成果は最大限に評価しつつも、特に電子ジャーナルを前提とし補助する仕組みに改革もしくは再編することが早急に必要とされる。これには日本学術会議の特別シンポジウムで行われた議論などが参考になる55)

 なお、中国では、National Natural Science Foundation of China(NSFC)によって中国国内30のジャーナルに対して2年間の期限付き補助を行い、国内外から招聘された評価委員会を設けて、補助対象の選定と活動後の評価を行っている。このような例も参考に値する56)

5‐5.審査の質の向上(学協会の質の向上)

 日本発の情報発信を推進するためには、ジャーナルに掲載される内容の品質の維持は不可欠である。そのためには、審査の質の向上が不可欠である。学協会はこの審査(peer review)を維持する重要な役割を持っており、国際的にみても水準の高い編集組織と国際的な審査員を常に確保する学協会の努力が不可欠である。

5‐6.出版に関する人材育成と出版組織の国際化

 トップブランドジャーナルの構築のために、欧米の学協会や出版社では、経済的あるいは人材の投資を行っている。また、Association for Learned and Professional Society Publishers(ALPSP)、STM57、58)などの出版同業者団体によって、各種の研修事業や情報交流の場がもたれ、出版に関する人材の育成を行ない、業界におけるリーダーシップを発揮している。日本でも科学技術および学術出版のプロフェッショナルとしての人材を学協会もしくは出版社で早急に育成し、出版人が国際的にも発言力を持てる体制にする必要がある。

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6.電子ジャーナル出版組織の統合と日本型非営利出版活動の模索

 以上の諸状況の考察から、より具体的に電子ジャーナル時代の日本型非営利出版活動案を提示したい。

6‐1.出版組織の統合案

 まず電子ジャーナル事業のスケールメリットを生かすべく、各学協会の出版組織を統合し、数十を越えるジャーナルを発行する母体を組織することを以下に提案したい。ただし、編集組織と審査方針についてはまずは基本的に各学協会に任せ、ジャーナルの性格の多様性およびオリジナリティを確保しつつ、一方で、編集委員長が長い任期でリーダーシップを発揮しながら運営できるような支援を行うことが望ましい。先に述べた学協会の統合が進まない状況でも、このような形での比較的ゆるい連合は現実的と考えられる。最近になって、日本学術会議で公益法人化後の学会のあり方を本格的に考える動きも出ているため59)、それらに歩調を合わせることも重要と考えられる。ちなみに、先の科学研究費補助金の成果公開促進費(定期刊行物)で補助を受けている理工医学系ジャーナルをまとめた場合の統合出版規模を推測するために60)、平成18年度に補助を受けた理工医学系ジャーナルの数を調べたところ82誌であった。これらのジャーナルは海外への有償冊子頒布数なども評価された一定の質のジャーナルであり、年間総ページ数は約11万ページ、補助総額は約7.7億円であった。この補助額は出版の印刷に関する部分的な補助であるため、少なくともこの額以上の出版規模が見込まれる。松尾学術振興財団の研究会レポートによると50)、学協会英文誌19誌を対象とした調査として事業総額に対する1ページあたりのコストを計算すると平均3.3万円であることがわかるので、先の年間ページ数から約36億円の事業と見積もられる。この出版組織では、電子投稿審査サービスの提供、審査終了後の電子ジャーナル公開サービス、各種データベースとの連携、購読管理と広報活動を行う。また、これまで学協会単独では難しかったジャーナルの評価や新規マーケット開拓のための調査機能と著作権を含む法務管理機能を持つ。さらに日本のプレゼンスを示すべく、世界の投稿者および読者候補に対して国際的なPR活動を行い、欧米の出版業界との連絡連携を密接に行う。このような新しい機能から、編集、製作、広報の次のあり方を模索し、さらに積極的に改善を行う。これらの編集および出版活動をポスドクのキャリアパスの一つとして位置づけることも有効と考えられる。

6‐2.統合組織の運営

 3章で述べた世界的な電子ジャーナル事業の状況から、このような出版組織の事業運営方法には以下の二通りが考えられる。

[1]商業的運営

 まず、そのひとつとして、欧米の大規模学会の例に倣った自立志向型の運営が考えられる。すなわち、例えば、初期は国の支援を得ながら5年後の自立を目指して活動し、日本の科学技術および学術情報サービス産業の中核としての発展を目指す。この運営は基本的に欧米の出版活動との競争関係の中に飛び込む形になるために大きなリスクを背負うが、活動と成果が密接に連動することで特に出版組織スタッフの意識は高くなり、これを長く育てることで日本発の国際的な商業出版社となりうる可能性もある。

[2]公共的な運営

 もう一つの運営方法は国の施策としての非営利情報発信母体となることである。すなわち、オープンアクセスの理念に法り、電子ジャーナル公開は無料とし、各種データベースとのリンクや審査を含めた運用経費は国の負担とする。国費で賄われる研究の一定の割合はこの母体から発信することにすることも一考に価する。現時点ではJ‐STAGEがこの運営に基づく組織に一番近い存在であるが、編集およびプロダクション、さらには購読管理と広報を含めたより包括的な事業母体に発展させることを考慮する必要があるだろう。しかし、この方式の場合、経費が国費から賄われる状況において、常に良いコンテンツを掲載するための研究者へのインセンティブならびに、より良いサービスを提供し積極的な広報活動を続けるためのスタッフのインセンティブをどのように与えるかが課題となる。

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7.最後に

 本稿では研究者仲間による審査(peer review)による研究評価の重要性に関しては、短期あるいは中期的にその絶対性が揺るがないことを前提に議論した。しかしながら、web2.061)時代の突入によって、特に電子ジャーナルで公開した後に行われる多数の読者による双方向の評価が、もし研究評価のあり方自体を変えるような状態になった場合には62)、これまでの審査の体制に少なからぬ影響を与える可能性がある点を付記したい。実際、前述のPLoSでは、質の高さではなく、科学的に間違いが無いか程度の最低限の審査と公開後のウェブ上での読者からの広い評価を組み合わせる機能を持つPLoSOneという電子ジャーナルが2006年12月に稼動し始めた。運営者自身が大きな実験と認めているこの電子ジャーナルの行方は注目に値する63)。いずれにせよ、電子ジャーナルによる一次情報提供とそれらを取り巻く環境は、研究者の情報収集あるいは流通活動を支援する手段としてこれからも変わり続けることが予想される。したがってこの分野には引き続き定期的な動向調査が求められる。

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謝 辞

 本稿の執筆にあたり、(独)科学技術振興機構、国立情報学研究所、(独)日本学術振興会、図書館、印刷会社、学協会などの多くの方のご協力とご助言を頂きました。ここに謝意を示します。

1) 名嘉 節、清貞智会、山田 肇:科学コミュニケーションの動向―科学ジャーナルを取り巻く状況―、科学技術動向、No.8, 2001, p20-27.:http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt008j/feature2.html

2) 西山 真、加藤久典、吉田 稔、山口五十磨、宮川都吉、小梅枝正和、日岡康恵:電子投稿審査システムの導入とその影響、日本農芸化学会の経験、第3回情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集、2006、p33‐37.

3) Editorial Manager:http://www.editorialmanager.com/

4) ScholarOne:http://www.scholarone.com/

5) Elsevier ScienceDirect:http://www.sciencedirect.com/

6) 中野 明彦:学会誌の電子ジャーナル化から冊子体の廃止まで―日本細胞生物学会 Cell Structure and Function誌の場合、情報管理、Vol.48、No.1、2005、p1‐6.

7) RSS:http://www.rssboard.org/rss-specificution

8) 林 和弘、太田暉人、小川桂一郎:電子ジャーナルの事業化と購読者管理―日本化学会の取り組み―、第3回情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集、2006、 p21‐25.

9) COUNTER:http://www.projectcounter.org/

10) Mercedes Echeverria; Pilar Barredo. Online journals: their impact on document delivery. Interlending & Document Supply. Vol.33, No.3, 2005, p145‐149.

11) 米田奈穂、武内八重子、加藤 晃一、竹内比呂也、土屋 俊:ビック・ディール後のILL―千葉大学附属図書館亥鼻分館における調査―、 大学図書館研究 LXXVI (2006. 3)、p74‐81.

12) 長谷川 豊祐:DOI(デジタルオブジェクト識別子)システムの概要、情報の科学と技術、Vol.49、No.1、1999、p28‐33.

13) PubMed:http://www.pubmed.gov/

14) ChemPort:http://chemport.cas.org/

15) 増田 豊:学術リンキング―S・F・XとOpenURL―、情報管理、Vol.45、No.9、2002、p613‐620.

16) CrossRef:http://www.crossref.org/

17) 林 和弘、門條 司:日本化学会での学術情報発信と流通、情報の科学と技術、Vol.53、No.9、2003、 p441‐447.

18) WOS:http://www.thomsonscientific.jp/products/wos/

19) SCOPUS:http://www.scopus.com/scopus/

20) Google Scholar:http://scholar.google.com/

21) MS Windows Live Acadenic:http://academic.live.com/

22) 尾城 孝一:電子情報資源管理システム―DLF/ERMIの取り組みを中心として―、情報管理、Vol.47、No.8、2004、p519‐527.

23) 佐々木 光子:電子ジャーナルの周辺―学術情報流通の動向:
http://hdl.handle.net/2115/336、Monograph and Serial Expenditures in ARL Libraries, 1986‐2004:http://www.arl.org/stats/arlstat/graphs/2004/monser04.pdf

24) 岩崎 治郎:電子ジャーナルの価格体系・契約形態の変還と現在、情報管理、Vol.47、No.11、2004、 p733‐738.

25) LISU Annual Library Statistics 2006:http://www.lboro.ac.uk/departments/ls/lisu/pages/publications/als06.htm

山本和雄:大学図書館から求めるCOUNTERその他利用統計、平成18年度第4回SPARC/JAPANセミナー、日本の図書館、統計と名簿 2005、p. 270.

26) Loretta Ebert. What's the Big Deal? “Take2”or, How to make it work for you... The Haworth Information Press, 2005, p61‐68.

27) ALPSP Learned Journals Collection:http://aljc.swets.com/

28) バックホルツ アリソン(高木 和子 訳)SPARC:学術出版および学術情報資源共同に関するイニシアチブ、情報管理、Vol.45、No.5、2002、p336‐347.

29) 尾身朝子、時実象一、山崎 匠:研究助成機関とオープンアクセス―NIHパブリックアクセスポリシーに関して、情報管理、 Vol.48、No.3、2005、p133‐143.

30) arXive:http://arxiv.org/

31) http://www.ecs.soton.ac.uk/~harnad/

32) 時実象一:オープンアクセスの動向、情報管理、Vol.47、No.9、2004、p616‐624.

33) 高木和子、世界に広がる機関レポジトリ:現状と諸問題、情報管理、Vol.47、No.12、2004、p806‐817.

34) http://www.iwr.co.uk/information-world-review/news/2141680/alpsp-academics-fight-rcuk-ir

35) Sally Morris. The true costs of scholarly journal publishing. Learned Publishing. Vol.18, No.2, 2005, p115‐126.

36) http://www.rsc.org/chemistryworld/Issues/2004/September/freeforall.asp

37) BioMed Central:http://www.biomedcentral.com/

38) New Journal of Physics: http://www.iop.org/EJ/journal/NJP

39) PLoS:http://www.plos.org/

40) Open Choice:http://www.springer.com/dal/home/open+choice?SGWID=1-40359-0-0-0

41) 加藤信哉:“第5章 大学図書館”、名和小太郎・山本順一編、図書館・図書館と著作権、東京、日本図書館協会、2005、p51‐62.

42) 林 和弘、太田暉人、小川桂一郎:日本の電子ジャーナル事業の課題と展望、日本化学会での取り組み、情報管理、Vol.48、No.2、2005、p87‐94.

43) http://www.royalsoc.ac.uk/page.asp?id=3882&printer=1

44) 国立情報学研究所 国際学術情報流通基盤整備事業推進室:SPARC/JAPANにみる学術コミュニケーションの現状と課題、情報管理、Vol.48、2005、No.2、p95‐101.

45) 和田光俊、久保田壮一、尾身朝子;J‐STAGEの現状と利用動向、情報管理、Vol.49、No.2、2006、p63‐68.

46) NII-ELS:http://www.nii.ac.jp/els/

47) HigWire:http://highwire.stanford.edu/

48) 学振成果公開促進費:http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/13_seika/

49) 飯田 益雄:科学技術政策断想、SCIENTIA、日本学会事務センター

50) 転換期の学協会:松尾研究会会報、Vol.7、1998:http://www.matsuo-acad.or.jp/cyousa.html

51) 林 和弘、太田暉人、小川桂一郎:電子ジャーナル事業の確立と課題、日本化学会の取り組み、情報の科学と技術、Vol.56、No.4、2006、p188‐192.

52) 科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会、学術情報基盤作業部会、学術情報基盤の今後の在り方について(報告)、2006、p69‐85

53) 倉田敬子;学術情報発信WGの報告について、三田図書館・情報学会第128回月例会、2006年7月22日

54) 野依良治:わが国の科学研究が正当に評価されるために、情報管理、Vol.47、No.10、2005、p664‐671.

55) 村橋俊一:わが国の欧文誌の現状と問題点、情報管理、Vol.47、No.3、2004、p149‐154.

56) National Natural Science Foundation of China:http://www.nsfc.gov.cn/および、Publication Department Deputiy office chiefのLiuYing氏との懇談より

57) ALPSP:http://www.alpsp.org/

58) STM:http://www.stm-assoc.org/

59) 科学新聞、2006年11月17日発行、第312号、1面「学協会の機能強化方策検討」

60) 文部科学省科学研究費補助金採択課題・公募審査要覧、平成18年度、ぎょうせい

61) Web2.0:http://www.oreillynet.com/pub/a/oreilly/tim/news/2005/09/30/what-is-web-20.html

62) Systems:Online frontiers of the peer-reviewed literature. Nature, doi:10.1038/nature05030.

63) PLoSOne:http://www.plosone.org/およびPLoSスタッフとの懇談より

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