1.はじめに
第3期科学技術基本計画における情報通信分野では10個の戦略重点科学技術を選定しており、その中に「人の能力を補い生活を支援するユビキタスネットワーク利用技術」が挙げられている。ユビキタス化の基盤として重要な役割を演じるのがワイヤレス(無線)通信である。携帯電話、近距離無線注1)のデバイスなどにおけるワイヤレス通信は高度化、多様化の一途を辿っている。そしてこれらの実現には高度な新時代のアナログ技術が必要になる。
LSIの微細化の進展はSoC(System on a Chip)の時代をもたらし、同一SoCの中でデジタル回路とアナログ回路が混在する機能が求められてきている。そしてアナログ回路の開発がLSI全体の開発期間や製品性に大きく影響する様になってきている。また、デジタルだけでは製品の付加価値が得られなくなりつつあり、付加価値の源泉の一つとしてアナログ技術の重要性が飛躍的に増加してきている。
こうした意味で重要なアナログ技術であるが、世界的に見てアナログ技術者は不足しており、各国とも新時代のアナログ技術の重要性を認識し、研究開発と共に人材育成を盛んに進めている。
以下では、ワイヤレス通信の基盤であり高度なアナログ技術が必要とされる「CMOSアナログRFのシステムLSI」注2)を中心にして、アナログ技術とは何か、今何故アナログ技術が必要か、アナログ技術の研究開発動向、アナログ技術が抱える課題を述べ、今後必要とされる向上策を提言する。

2.アナログ技術とは
2‐1.アナログとデジタル1)
アナログとは、物質やシステムなどの状態を連続的に変化する物理量によって表現することである。我々の身の回りにあるものの状態は、温度、速度、圧力、流れ、人間の音声などすべてアナログである。そしてアナログ量の情報を電気的な連続量に変換したものがアナログ信号である。
一方、デジタルとは離散的に数えられることをいう。コンピュータをはじめ様々な電子機器の内部では、電気的なパルスの有無を「0」と「1」の2進数に対応させてデジタル量を表現したデジタル信号を用いて電子的な機能を実現している。
2‐2.アナログ技術の用いられ方
身の回りにはアナログ技術が多用されている。例えば、ディスプレイ、スピーカー、マイクなどのヒューマンインターフェイス部、無線部のアナログ回路、デジタルとアナログの境界での変換部、カメラ、そしてセンサーなどである。携帯電話を例にしてアナログ回路部分を示すと、アンテナ、ディスプレイ、カメラ、充電器、通信デバイス、ヒューマンインターフェイス、バイオメトリックス認証、電話機能、データの送受信などと様々である。機能面でいうと、外界からの入力である微細な信号の入力部分では雑音が混入しやすいため低雑音化や雑音除去の技術が用いられている。また、外界への出力としてのディスプレイへの表示やスピーカの駆動ではそれらの特性に合わせて歪がなく忠実な信号を再生する技術も用いられている2)。
2‐3.アナログ処理の具体例
[1]アナログ・デジタル/デジタル・アナログ変換
外界からの情報がどのようにデジタル処理されるかを以下に説明する。図表1(a)はアナログ量とデジタル量の変換について模式化している。アナログ信号をコンピュータの世界(サイバー空間)で処理するためにはコンピュータで読める情報に翻訳すること、すなわちデジタル量への変換(Analog
to Digital conversion:ADCと呼ぶ)が必要である。一方、コンピュータ内で処理された結果を再び外界であるアナログの世界に戻すときデジタル信号からアナログ信号への変換(Digital
to Analog conversion:DACと呼ぶ)が必要になる。
図表1(b)ではADCの機能を例示している。アナログ波形はサンプリング時間(T)ごとにその値(ここでは電圧値)が計測され、数値化(デジタル化)が行われコンピュータで理解できる2進値に変換される。この2進値を表現するビット数は分解能といわれ、例えばデジタルカメラでは10〜12ビット、CDでは16ビットなどの分解能が実現されている。DACはこの逆の操作となる。

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[2]携帯電話の中のアナログ処理
携帯電話の中には数々の先端的なアナログ技術がデジタル技術と共存して用いられている。図表2に基本的な受信回路の構成を示す。電子回路の領域は扱う周波数帯域によってフロントエンド部とベースバンド部に大別される。点線の左側のRF、ADCがフロントエンド部、右側のDSP(Digital
Signal Processing:デジタル信号処理)部がベースバンド部(デジタル処理が行われる電子回路の領域)である。フロントエンド部では、受信アンテナで受けた微弱電波を増幅したり、受信信号から搬送波を取り除くためにアナログ技術が用いられる。送信回路はこの逆で、フロントエンド部では信号を高周波の搬送波に乗せて電波として送出することが必要であり、高周波電力を効率よく伝達する機能がアナログ技術で実現されている。

2‐4.アナログ回路とデジタル回路の設計の違い
アナログ回路とデジタル回路の設計を対比してみる。
デジタル回路の設計者を教育する一例として、簡単なゲートアレイ注3)の教育コースには、ブール代数から開始して数週間のうちに、ある程度の論理回路を組めるようにできるプログラムがある。デジタル回路ではトランジスタや素子からなる回路をブラックボックス化し、設計者が考えるのは論理ゲートやそれらを組み合わせたマクロの機能とそれらの入出力の関係だけに限定できる。従って、ゲートやマクロの詳細な中身の理解は必ずしも必要ではない。また、用いるゲートやフリップフロップの種類もそれほど多くはない。
一方、アナログ回路の設計は、トランジスタや素子のレベルを扱うものであり、設計では回路全体を考慮する必要がある。そして図表3に示すように設計に必要なパラメータも多い。一箇所のエラーが全体に影響するため波及も大きい。回路の周波数特性注4)など、デジタルでは考慮しなくてよい特性までも考慮する必要がある。アナログ回路の設計では、無理やり式を解こうとすると膨大な計算が必要になるため、近似を多用する。ここでは、周波数、素子値などにより、如何に回路モデルを簡略化するかというセンスを磨くことが重要になる4)。そのため、ある程度のアナログ回路を組めるようになるには年単位の教育期間がかかってしまう。

さらに、アナログLSIの設計では、単に回路の設計だけではなく、システムレベル、ブロックレベル、レイアウト・パッケージまでを考えて性能を確保することが必要である。製造面でのデバイス・テクノロジ、プロセス変動などの考慮も必要であり、最終的にはパッケージ、ボードの上で性能を実現することが求められる。単に回路設計を行えるだけではアナログ設計者ではないとも言われる。
なお、図表3では、微細化、高速化に伴って、デジタルでも設計上で考慮すべきパラメータが多くなりつつある様子も合わせて示している。
2‐5.デジタル化の中でのアナログ技術
このように電子機器に不可欠なアナログ技術であるが、デジタル技術へ注力した近年の歴史のなかでは、その存在が軽視されてきた。その経緯と現状を端的に示す内容として、大阪大学の谷口教授は、「1980年代の後半にデジタル回路が爆発的に広がり、多くのアナログ回路技術者がデジタル回路の設計に転向させられた。しかし、デジタル回路でも最先端の性能を引き出すには、アナログ回路設計の知識が必要であることがわかってきた。若手技術者はアナログ回路を設計した経験がほとんど無い。CMOSのアナログ回路の設計教育を行っている国内の大学が極めて少なく、新人にも期待できない。」5)などと述べている。
現在、国内にもアナログ技術に強いメーカーは、少ないながら存在する。しかし、多くの大手の企業は、デジタル系の半導体を主力事業として位置づけて設計開発や生産技術の重点をシフトしたため、これが日本のアナログ半導体の弱体化につながったとの指摘もある6)。

3.いま何故アナログ技術か
3‐1.PCから通信へのパラダイムシフト:アナログ混載SoCの増大
SoCとは、主にデジタル家電、携帯電話機、車載用電子機器等に向け、必要な機能を集積した大規模な専用LSIのことであり、シリコンLSI上への電子機器システム全体の集積を目指している。例えばデジタルTVでは、半導体のコスト構成比率が約50%を占め、PC(Personal
Computer)とほぼ並ぶところまでに至っている。SoCは電子機器全体の小型化、高性能化、多機能化をはじめ、全体コストの低減に大きな効果をもたらす。またパッケージ上のチップ間接続での電磁波放射という問題に対しても、複数チップを1チップに収めるSoC化という解決法が積極的に進められている。こうした背景から、SoCの使用は拡大の一途を辿り、現在、電子機器開発はSoC開発を意味しているといっても過言ではない7)。
また、半導体開発での牽引役は、PC分野から通信分野へ変化しつつある。過去20年間、世界の半導体のほとんどはPC分野での使用に向けられてきたが、半導体世界市場売り上げ比率でみると、2000年には通信分野が初めてPC分野を上まわった。PC時代の主な半導体の構成要素はマイクロプロセッサとメモリだったが、インターネット時代になるとそれらに加えてDSP(Digital
Signal Processing)やアナログ機能の重要性が増加してきている8)。したがって、SoC開発においても当然のことながら通信機能の盛込みが必要になり、アナログ、デジタル混載SoCへの要求が増大している。2006年上期における半導体売上高は対前年比で+8%と成長した。この中で、PC用のプロセッサの落ち込みに対し、携帯電話向け半導体が伸び、通信へのシフトの動きを裏付けた形になっている9)。
3‐2.アナログ回路のSoC開発へのインパクト
アナログ回路がSoCのなかでデジタル回路と一緒に組み込まれてくると、アナログ回路領域の設計がSoC開発に大きな影響を及ぼしてくる。
まず、LSI内での面積へ影響する。アナログ回路では、デジタル回路の様にCMOSの微細化による効果が期待できない。インダクタやコンデンサなどの受動素子の特性確保のためには相応の領域を必要とすること、微弱な信号の増幅に使う差動型のアンプなどではレイアウトの対象性の確保が必要なこと、ノイズに強いレイアウトのためにも大きな面積を必要とすること、などがその理由である。
次に、アナログ設計を支援する設計自動化(EDA:Electronic Design Automation)ツールに関する影響である。アナログ設計では、直接、トランジスタや容量、抵抗等のデバイスをレイアウトし、その電気的性能を見積もって、これを回路シミュレーションしながら設計を行う。設計の各工程では、一般的にそれに特化したツールを利用して設計データを完成に近づけていくという原始的で手間のかかる設計方法がとられる10)。アナログ回路の検証は、従来SPICEなどのアナログ回路シミュレータで行われており、デジタル回路の検証に比べて多くの処理時間と検証期間を要している。また、配線の寄生容量などが回路特性に影響を及ぼすため、回路設計とレイアウト設計を何度も繰り返す必要があり、このことも設計期間を長期化させる大きな原因になっている。
このようにアナログ回路部分の開発期間や性能がLSI全体の開発や製品性に大きく影響する様になってきている。以前は、アナログは別LSIだったためにこのような問題は表面化しなかったが、SoC化の進展により、大きくクローズアップされてきた。
3‐3.今後の製品優位性の確保
デジタル回路の開発では設計自動化が進んだため、設計者は実現すべきLSIの機能を設計記述言語で記述するだけで所望の回路を実現できるまでに進化しつつある。LSIが正しく動作するかの検証には努力を要するが、極論すれば、デジタルだけでは誰でも同じものができてしまうため製品の優位性を出すことが難しくなる。今後の製品優位性の確保には、アーキテクチャを考案するなど従来とは視点を変えた工夫が要求される。アナログ技術はデジタルよりも差異化が可能であり他社は容易にまねることができにくい。例えばデジタルでは配線パターンを真似ればほぼ同じ性能が出るが、アナログの場合には必ずしもそうならない。アナログではそれ以外のノウハウが多いのである11)。現在、SoCにアナログ回路がデジタル回路と共に混載されてきており、製品の優位性の大きな要素となってきた。製品の優位性を確保するためにアナログ技術がいっそう重要な役割を担ってきている。
3‐4.活況を呈するアナログビジネス
図表4に世界半導体市場統計(WSTS)の2006年秋季半導体市場予測を示す。これによると世界の半導体市場規模は、2006年に前年比8.5%増、2,468億米ドルの見通しとなった。2006年の製品別市場予測は、IC全体で前年比8.0%増の2,082億米ドルの見込みである。

このうち、MOSメモリは同17.3%増の569億米ドル、アナログは同16.1%増の371億米ドルと大きく伸びたが、MOSロジックは同3.9%増の599億米ドルと微増で、MOSマイクロは同0.8%減の542億米ドルに落ち込むとあり、全体として、アナログの伸びが大きく伝えられている。またアナログ技術が多用されるセンサーの伸びも19.2%と大きく成長している。2005年から2008年までの成長率は、アナログ12.5%、センサー16.3%と大きい12)。
上記予測には、MOSロジックではアナ・デジ混載、ディスクリートではアナログ機能などが含まれていると考えられるため、実質のアナログ市場規模は更に大きいと想定される。今後もアナログ技術は、フラットパネル、デジタルTV、超高速ワイヤレス通信、車載システムやロボットなど、伸長するヒューマンインターフェイスに関わる様々な場面に用いられる。ユビキタス化によるセンサーネットワーク、RFID活用のサービス、コンテキスト・アウェアなどの新しいビジネス創出の基盤ともいえる。

4.アナログRFを中心とするアナログ技術の研究開発動向
4‐1.学会発表にみられるアナログ研究の伸び
図表5は、最先端の半導体技術の発表が行われるISSCC(International Solid-State Circuits
Conference:国際固体素子回路会議)でのアナログ関係(アナログRFに限らない)の活動状況を概観している。ISSCCにおける論文の採択では、提案された回路が実際に動作したかに重要性がおかれているため、この学会の論文から実際の技術の動きが捉えられる。20年前、10年前、そして昨年のアナログ関係のセッション数は図表からも明らかなように増加の一途を辿っており、その注目度の高さが伺える。そして最近の目立った動きとして無線関係のアプリケーションの躍進がある。

(図表クリックで拡大表示)
4‐2.各国の研究開発動向
[1]米国の研究開発動向
米国にはアナログ技術をベースとした優良専業メーカやベンチャー企業が多い。大学では、UCバークレイ校、UCロスアンジェルス校、スタンフォード大学、MIT、オレゴン州立大学、カリフォルニア工科大学、フロリダ大学などでアナログ関係の研究が盛んである。先端的な研究の例としてUCバークレイ校のWireless
Research Centerでの活動でみると、2002年から60GHz CMOS Radio Systemsの研究を行っている13)。大学からは多くのベンチャーが創出されており、UCロスアンジェルス校発のBroadcom
Corporationやスタンフォード大発のAtheros Communicationsなどがその例である。
既存の企業としては、IBM社が高周波関係を得意としており、シリコンゲルマニウムを扱うことができる最先端ファンドリーをもち、高周波関係の回路開発や製造を行うことができる。テキサス・インスツルメント社(TI社)はデジタル信号処理(DSP)を主力にした製品、特に携帯電話関係のLSI製品に強く、またX線CT診断装置向けのハイパーフォーマンスのアナログ製品分野にも進出している。インテル社は、マイクロプロセッサ(MPU)を主力としているが、BluetoothやWiMaxなどの無線規格提案をするなど無線関係に強い会社でもある。2004年の汎用アナログ市場規模は半導体市場全体の約6%を占めるが、その上位5社はTI社、アナログ・デバイセズ社、ナショナルセミコンダクター社などの米国勢であり、これら5社の世界シェアは6割弱にも達している6)。
このように米国のアナログ研究開発は、大学、企業とも非常に強力である。アナログには限らないが、米国では20年以上前から産業界が大学を大きく支援してきており、それが大学の活躍の原動力になっている。図表6には、産業界の半導体関係の大学支援を示している。我が国の支援との差は大きい。

[2]欧州の研究開発動向
欧州も通信や産業用のアナログ技術(例えばCTスキャンなど)に強い企業が多い。通信で用いられているGSM(Global
System for Mobile Communications注5))やADSL(Asymmetric
Digital Subscriber
Line)などは、欧州企業が中心になって作られた規格である。アナログ研究を行っている大学あるいは研究拠点としては、オランダのDelft、Eindhoven、Twenteの3つの工科大学、ベルギーのIMEC(Interuniversity
Microelectronics Center注6))、KUL(Katholieke Universiteit
Leuven)、イタリアのPavia大学、フィンランドのHelsinki University
of Technology、スイスのETHZ(Swiss
Federal Institute of Technologyのチューリッヒ校)などが挙げられる。
EUの第6期フレームワークに関するプロジェクトの中に産学官プロジェクトNANOCMOSがありMINATEC注7)やIMECへ資金が投入されているが、MINATECのワイヤレス端末の研究ではCMOS
RFや再構成可能ハードウェアなどを今後のキーテクノロジーと位置づけている14)。またフランスのLETI(Laboratoire
d’Electronique de Technologie de l’Information)の研究プログラムには先端デバイスとして無線技術への取組みがあり、RFのフロントエンドのデバイス開発が採り上げられている15)。
[3]アジアの研究開発動向
(1)台湾の研究開発動向
台湾は1980〜2000年を半導体研究開発の第1次産業展開(Industrial Evolution)、2001〜2020年を第2次産業展開と位置づけ、第2次産業展開の牽引役として、2001年にSi‐Softというプロジェクトを開始して設計重視の戦略に切り替えた。Si‐Softの設定動機には、過去に台湾は労働集約型から資本集約型への移行が成功したが、今後は知識集約型に移行すべきであるという考え方がある。このプロジェクトの目標は、新しい設計法、設計環境、製造から成る強力な産業構造への転換である。
SoC開発戦略としては、高付加価値製品を生み出すための産業力強化に向けて、NSoC(National
SoC)プログラムを推進した。NSoCプログラムのフェーズ1(2003〜2005年)では、人材育成、製品開発、プラットフォーム整備、IP(Intellectual
Property)、新興産業開発の5つの計画を推進した。この結果、台湾のISSCCの論文採択数は、2002年の0件から、2003年の3件、2004年の6件、2005年の15件、そして2006年の18件へと急激に増加した。また、回路とシステムの国際学会であるISCASの論文採択数でも2003年の87件、2004年の106件、そして2005年には202件と米国に次ぐ第2位にまで上昇してきた。現在、NSoCプログラムはフェーズ2(2006〜2010年)に入っており、革新的なSoC製品技術、最先端のSoC設計技術、そして最先端のSoC設計環境の3つの計画を推進している。3つのタスクフォースが設定され、そのひとつにRF
and Mixed Signal Circuit Designがあり、アナログRF技術の研究開発が大きく取り扱われている16)。
台湾行政府は、LSI設計に関する教育や研究に必要な基盤に対し潤沢な資金を提供している。National
Applied Research Laboratories(NARL)の下部組織にNational
Chip Implementation
Center(CIC)があり、台湾の大学や研究機関を資金的に援助し、設計で使用するEDAの整備や設計されたLSIの試作活動を支援している。LSIの試作サービスについては、テストや測定まで含めたサービスも提供している17)。
(2)韓国の研究開発動向
韓国の大学にもCMOSアナログRFの研究が多く見られる。1990年代の初め頃からCDMA(Code
Division Multiple Access)の研究が盛んになり、1995年からは多くの大学でワイヤレスの研究が行われるようになり論文数が増加した。最近は、システムまでを扱った発表が出てきた。2006年9月に韓国で開催されたRF
Integrated Circuit Technology Workshop(毎年開催しており今年が6回目)から発表内容を見ると、モバイルコミュニケーション、自動車とミリ波、WPAN/WLAN、リコンフィギャラブルRFなどのセッションが設けられている。全23件の論文の発表者は、企業10件、大学9件、残りはその他の研究機関である18)。
4‐3.日本の研究開発動向
図表7は、2006年2月のISSCCにおけるワイヤレスとアナログRF関係の企業と大学からの論文発表数を示している。日本は他国に比べて、大学からの発表が非常に少ない。1992年から2001年までの推移を見ても大学単独と大学との共同による合計の発表件数は欧米に比べて非常に少ない20)。

しかしこれを、日本の大学の問題と単純に決め付ける事はできない。先端アナログ技術を開発することは企業でも非常に容易ではなく、前記したように、欧米、台湾、韓国などでは半導体企業や政府が、この分野を研究する大学を支援してきた。その結果、UCバークレイ校の例の様な先端的な研究につながっている。
以下では、我が国で行われてきたアナログ技術の研究開発動向を述べるが、これらの成果はまだ図表7のような数字には表れていない。
[1]アナログRF研究会(学協会などの活動)
2004年2月に、2007年3月までの期間を設定し、シリコンアナログRF研究会が発足した。委員は、我が国の大学、企業を代表する専門家によって構成されており、設置目的には、「シリコンLSIにおいてRF技術がワイヤレス応用、およびデジタルLSI応用のどちらにおいても重要になってきた。化合物半導体を中心としたマイクロ波回路技術のCMOSでの実現に向けて、大学ならびに関連の企業をふくめて技術を議論出来る場としての委員会、研究会を立ち上げ、この分野の一層の活性化と関連する国際会議の開催などに貢献する」とある。研究分野はアナログRF関係での回路技術、配線技術、測定技術、モデリング技術、電磁界シミュレーション技術などの幅広い領域を対象としており、研究会はこれまで10回開催されている。
[2]STARCによるアナログRF教科書の開発(産学連携での取り組み)
国内半導体11社が出資して1996年に設立したSTARCは、2006年4月から5カ年計画の「あすかIIプログラム」を開始した。このプロジェクトの中のプログラムに「産学連携による教科書の新規開発」があり、アナログRF教科書(基礎編、応用編)の作成を2008年3月末の完成に向けて行っている。東工大(松澤教授)、東大/VDEC(VLSI
Design and Education
Center:大規模集積システム設計教育センター)(浅田教授)、東大(藤島助教授)等とSTARCの連携により、実データに基づく実用的な教科書作成を目指している。
[3]大学での教育の例
複数の大学で各種研究会や講座が開設されつつあるが21)、ここでは東京工業大学での高周波評価技術の講座を例として採り上げる。同大学では2006年8月から「高周波計測工学特論」を計測機器会社と協力して開講している。目的は、高周波関係の基本的知識を学生に習得させることである。例えば、マイクロ波特有の性質、マイクロ波伝送線路、高周波で使用される各種パラメータ、高周波回路でのデバイス種類、ノイズ、周波数スペクトラムなどの各種理解、測定器の使い方、高周波回路の試作と測定などを教育する。携帯電話の変調方式が多様化している高周波領域の研究へとりかかる場合には、こうした基本知識の理解が必須である。この講義はオープンであり他の大学からの参加も可能である。
[4]地域としての取り組みの例
地域としての取り組みとしては、群馬県、福岡県(北九州市)などの取り組みがある。ここでは群馬県の例を採り上げる。もともと群馬県は製造業が盛んで全国10位程度である。アナログ集積回路設計(半導体メーカー)、およびそれを用いたエレクトロニクス製品(エレクトロニクス・メーカー)の分野で技術力の強い企業がたくさんある。ここでは群馬大工学部を核にしてエレクトロニクス分野での連携が行われている。アナログ集積回路研究会(2003年10月に設置し技術講演会を主体に活動)、アナログ関連での産学協同での人材育成(講座の開設、インターンシップ)、産学連携での共同研究(全国レベルで推進)など、企業のOBが中心になり、アナログ技術の教育・伝承・コンサルティングを目標に中堅技術者の実践教育が進められている。また、群馬の複数エレクトロニクス・メーカーと群馬大工学部が協力し、「群馬アナログ技術立国構想」というアナログ回路技術の産業及び研究・教育を強化する活動も行われている。
[5]政府での取り組み
経済産業省の技術戦略マップ2006における、情報通信分野の技術マップ「半導体分野の技術ロードマップ」22)では、設計(SoC設計)シリコンインプリメンテーション技術として、(1)アナログのIP化、シミュレーションの高速化/高精度化、アナログ‐DFT(2005年〜2007年)、(2)アナログ回路の自動設計、パッケージとの一体設計(2008年〜2014年)という道筋が示されている。

5.新時代のアナログ技術の課題
5‐1.
技術習得の高度化
2‐4でアナログ回路設計とデジタル回路設計の違いについて示し、アナログ技術の習得の難しさを述べた。しかし、CMOSの微細化、高速化に伴って、今後はさらに高度なアナログ技術が必要になる。
[1]幅広い知識習得の必要性
図表8に無線システム構築に不可欠な技術分野を示す。この図表から明らかなように、基礎的な知識としてのシリコンデバイス物理、電磁気学、回路を設計するためのデジタル信号処理、RF/アナログ/デジタル回路技術、応用であるシステム化に向けたシリコン無線工学、ワイヤレスシステム工学など非常に幅広い知識の習得が必要になる。

それらに加え、近年の携帯電話、近距離無線などの様々な無線システムの存在と周波数帯の広範囲化へ対応できる知識が必要になる。特に、世界市場に向けた製品開発には、国による周波数帯割当、変調方式、無線プロトコルの違い、電源電圧や電源規格の違いなどを念頭に入れておかねばならない23)。
[2]システム的な思考の必要性
従来のアナログ技術者は、あるブロック(回路部分)に関する専門性があればよかったが、今後のアナログ技術者は一つ上位レベルに立って最適化できる様に複数ブロックに渡ってある程度の技術力が望まれる。更に一歩進めて、全体の特性向上を目指したアーキテクチャまでをも考えられる技術力も必要になる24)。日本と諸外国の技術力の違いについては、「日本でアナログ回路設計ができるといってもオペアンプなど要素回路(パーツ)を作れるというレベルだが、米国の大学院の学生たちはパーツはもちろん、パーツを組み合わせたシステムを作れる。またアーキテクチャから設計できる力も持っている」との意見もある。実際の応用である電子機器の実現を意識したシステム的な思考を教育することが必要と考えられる。
[3]実験、実践の場の確保
アナログ分野は総合力が必要であり、経験が生きる分野といえる。アナログ技術の習得には実践が大切であり、実践を通して理論と組み合わせていくことで技術が研鑽される25)。企業でも、座学で聞くだけでなく実験、実践中心の教育が必須である26)。そのために、こうした実践教育が行える環境の充実が極めて重要となる。
SoC開発における「ものづくり」の概略フローは、図表9に示すように設計、チップ試作、チップ評価と順を追って進む。大学ではVDECの設置により設計段階での設計自動化ツールやチップ試作環境は着実に向上してきている。しかし、試作した先端アナログLSIを測定する段階で課題が残る。

デジタル回路の場合には、設計段階の検証結果が製造後のLSIの良否に反映される。そのため設計での検証に力点を置くことで正常なLSIを得ることができ、デジタルLSIの技術は大きく進んできた。しかしアナログ回路は製造後のLSIの正当性の判断に波形を観測する必要がある。無線関係の回路では更に高度な測定が要求される。しかし、今まではアナログ回路に関する測定環境の整備は極めて限られていた。ISSCCなどの論文採択基準では、回路の実動作結果を重要視している。VDECによって多くの試作ができるようにはなったが、ISSCCでの論文採択数が伸びない理由としては測定環境にボトルネックがありそうである。先端の測定機器は高価であるため一大学では所有が難しく、測定技術が高度化しており測定の習得も難しい。また、大学では測定という人的支援を継続して面倒を見れる教官も確保できていない現実もある。
[4]再教育の難しさ
今後必要とされるアナログ技術は、従来までのアナログ技術とは違うものである。例えば、旧アナログ技術が、アナログ製品のためのアナログ技術、TVやVTR向けの主としてバイポーラで実現されたことに対し、新アナログ技術は、主としてデジタル製品のためのアナログ技術、デジタル記録、通信、ネットワーク向けのCMOSで実現されるなどである。
1997年のISSCCのパネル討論のテーマに次のものがある。
「RF Designers are from Mars, Analog Designers are from Venus」
すなわち、1977年時点ですでに、従来のRF/マイクロ波設計者とアナログ設計者の間には大きな違いがあることが認識されていた。従来のRF/マイクロ波回路設計者は化合物半導体をベースにした設計者であり、新時代のアナログ回路設計者はシリコン半導体をベースにしたアナログ設計者である。それぞれの所属する学会、話す言葉も見方も異なっている27)。現在は、この2つの世界がCMOSという同じ土俵の上で融合しつつあり、相互の内容を熟知した設計が必要になっている。
バイポーラテクノロジーでのアナログ技術者をCMOSアナログ技術へ再教育しようとしても、現実的にはなかなか険しいものがある。双方のテクノロジーの違いによる回路の構成法が大きく異なるからである。バイポーラ回路をCMOS回路に置き換えるだけでは、ばらつきやノイズで問題を起こす。CMOS回路特有の回路構成の理解が必要になるため、古いアナログ技術で育った技術者は、新しいアナログのセンスについて来られない場合が多い28)。
5‐2.半導体微細化による新課題への対応
図表2の例(受信回路)で説明すると、ベースバンド側からフロントエンド側に向かってシリコン半導体化が、そしてCMOS化の波が押し寄せてきている。かつては、アナログLSIは化合物半導体やバイポーラ技術を用い、デジタルLSIとは別々に製造され、プリント基板上に実装することで、所望の回路機能を実現していた。シリコン半導体に関して言うと、性能の観点からアナログ回路はバイポーラで実現するものでありMOS(Metal
Oxide Semiconductor(CMOSもその一つ))は性能が劣るから使えない、と認識されていた時期があった。しかし、シリコン半導体の微細化により、RF回路部をCMOS技術で構成しても、受信感度を旧世代のバイポーラ並みまでに高められるようになり、携帯電話で必要とする特性が得られるようになった。それとともにCMOSの製造コスト低下への努力によって、アナ・デジ混載のSoCが盛んに設計・製造されるようになってきた。すでに、携帯電話の変調方式によっては、全てがCMOSで構成されているものもある。
シリコン半導体の微細化は、既にテクノロジーノード(ノード:最小配線ピッチの1/2)で65nmの時代を迎えようとしている。微細化に伴う問題として消費電力の増加があるが、その対策として電源電圧を下げる工夫も進められている。そして今や電源電圧は1V(ボルト)以下になろうとしている。しかし、アナ・デジ混載のSoCにおいてアナログ回路部分はデジタル回路部分に比べ電源電圧を下げることが難しい。そのため、これ以上のSoC化が難しくなりつつあり、再度、アナログ部分を別チップ化する方法も含めて解決策が検討されている。CMOSプロセスの微細化に伴って、アナログ回路設計の難易度が飛躍的に高まってきており、さらなる研究開発が必要になっている。
5‐3.デジタル回路の高速化に必要なアナログ的思考
現在、電波の搬送波の周波数は数GHz帯域を扱い、そしてLSI内の信号伝搬速度も数GHzが実現され、更に高速の動作を目指した開発も進められている。回路図に描かれている素子間の接続は低周波領域では抵抗値が無い配線と見なせるが、高周波領域では大きな抵抗として作用する。また高周波領域では、二本の平行な導体で、回路図に描かれていない寄生素子(個々の導体の抵抗や、導体間に発生する浮遊容量、寄生インダクタンス、相互インダクタンスなど)の影響が無視できなくなる。ここでは、「分布定数回路」注8)という考え方が必要になる。高周波化に伴って見えてくる事象例を示すと次の通りである29)。
(1)信号ひずみや遅延の発生により、タイミングエラーや誤動作が引き起こされる
(2)デジタル信号もアナログ信号と同様に信号波形の品質が問われ、アナログ的な解析が必要になる
(3)電磁波が発生しやすくなる
(4)周波数が高くなればなるほど、線間距離が狭いほど、また並行配線の長さが長いほどクロストーク(信号の漏れ)が大きくなる
(5)導体の表面にしか電流が流れない表皮効果が現れ、高周波抵抗は何桁も高くなる
すなわち、これまでチップ間信号伝送で起こっていた問題が、チップ内でも発生することになり、これらの事象を考慮に入れた設計が必要になっている。したがって、デジタルといえどもアナログ的思考がないと設計が不可能な事態が現れてきている。
現在、デジタルLSIの設計では、DFM(Design for
Manufacturability)が大きな課題となっている。高周波動作時の電気的な振る舞いに起因する諸問題の発生であり、その解決にアナログ技術の理解が必要になっている。
5‐4.未整備な設計自動化ツール
アナログRFの設計での典型的なEDAツールの内容を米国のベンダーが提供している機能として示すと、システム・回路図入力、線形シミュレータ、ハーモニックバランス、HSPICEシミュレータ、EMシミュレータ、対話型レイアウト、配置配線、対話型DRC(Design
Rule
Check)、寄生素子抽出などである。アナログ回路設計の設計自動化ツールは検証や対話設計が中心であり、自動化が進んだデジタル回路の設計とは大いに異なっている。
検証における今後の課題として、まず回路のモデル化が挙げられる。微細化に伴い、回路のモデルは、従来の手法では実際の特性を正確に表すことができない状況になっている。また従来はパッケージの開発段階で必要だった高周波環境のシミュレーションをLSIの設計の中で行うことが必要になってきている。新しい変化に応じて、新しいツールの整備拡充が必要になる。

6.アナログ技術力の向上策
過去、デジタル製品が大きく伸びる中で産業界はデジタル回路設計者を大量に要求し、ASIC(Application Specific
Integrated Circuits)に代表されるようなデジタルLSI設計技術者を養成してきた。大学でもVDEC(VLSI
Design and Education Center)が設立され、デジタル回路の設計者支援が充実した。しかし今、デジタル回路だけでは製品の優位性、付加価値の確保が難しい時代になってきた。また高速なデジタル回路の実現のためにも、新しい意味でアナログ技術は重要な役割を演じはじめている。今後の我が国の半導体の付加価値の向上、すなわち質の向上に対して、アナログ技術が大きく貢献することは間違いない。以下では、半導体の質の向上を視点としたアナログ技術力の向上策について述べていきたい。
6‐1.教育と研究の強化(産学に向けた提言)
[1]新アナログ技術の認識
半導体設計において、付加価値が、アーキテクチャや知財などの上流か、もしくは物理レベルで高度な課題を解決する下流に分かれてきている。時間と工数だけを問題とする中間的な仕事は次第に付加価値を失ってきている。グローバルな競争に勝つためには、付加価値の高い(または、高くする)仕事ができる人材が必要である。付加価値の源泉の一つはアナログ技術にあるが、この強化の第一歩は、現在必要とされているアナログ技術は今までのアナログ技術とは違うことを認識することである。産業界でもこのことに気づいている経営幹部はまだまだ少なく、再教育の必要性があまり認識されていない。次に、この認識が成された上で新たな人材開発とともに技術者の再教育のためのプログラムを確立することである。このためには産学が一体となって教育プログラムや教材作成の増強に取り組むことが必要である。これに関する動きとして、前記したSTARCのアナログRF教科書作りがある。
[2]教育対象者に応じた教育の実施
人材育成では、裾野の拡大とトップクラスの育成を分けて推進すべきである。
裾野を広げるための人材教育では、まずはより多くの研究者、技術者候補に対して、基礎的な知識の取得だけでなく実験・実習を通じて、理解を深める機会を与えることである。基礎から応用までの幅広い教育が必要になるが、大学ではまず基礎教育の徹底が必要である。そのうえで大学においても開発ターゲットを設定し、それに向けた要素技術、システム化の研究・開発が必要である。こうした教育を進めていく上で、大学と産業界との積極的な連携は重要である。産業界とともに最新SoC開発の現場での課題をいかに解決するかを研究する中で先端的なアイデアと実現法が磨かれるからである。
より大きな問題はトップクラス人材の育成である。一つの専門分野だけでなく幾つかの技術分野や経営に必要な知識や経験を積ませる必要があるため、一般的な教育プログラムを作成することは困難である。しかしながらこれを怠ると、将来的に日本全体の優位性を喪失することになる。今後、産学で連携して論議を深めていく必要があろう。
[3]デジタル技術者へのアナログ技術の教育
5‐3で述べたようにデジタル回路の高速化にもアナログ的思考が益々重要になろう。今までの設計自動化ツールに依存しているだけでは既に開発が難しい段階に入っている。発生する設計課題を完全自動で解決するほどツールは完璧ではなく、電気的な特性の理解に精通した設計者の入る部分が多分にある。デジタル技術者にアナログの基礎技術を身につけさせることで、アナログとデジタル技術を共に理解した人材を育成し、我が国の半導体の付加価値、質の向上を図るべきである。
[4]大学の研究への期待
アナログ技術領域は、設備の優劣ではなく、研究者や技術者の能力で勝負する世界である。世界トップクラスのアナログ集積回路国際学会では、欧米の大学から多くの傑出した発表がでている30)。また諸外国では大学発のベンチャーも成功している。理論と実践の組合せにより、技術の習得はもちろん、それを発展させる研究スタイルや問題への取り組み方をつかむことが必要であり、大学が大いに活躍できる領域である。そして今、日本でも、企業での高度な専門知識を有する技術者が大学に移籍してきており、実際の開発経験に基づいた先端技術研究への下地も整いつつある。
6‐2.ノウハウの設計自動化ツール化(大学に向けた提言)
ノウハウの設計自動化ツール化は、研究成果の具体的な資産化である。これらのツールは、大学での研究開発の現場や産業界での具体的な開発現場での使用を通して向上させ、このプロセスを人材育成にもつなげるべきである。設計自動化ツールの開発は高価な製造設備は不要であり、アイデアで勝負できる領域である。先端的な設計自動化ツールの開発は、まず理論から入らなければならない。この意味からも大学でのアクティビティに向く研究開発領域であり、大学での積極的な取り組みを期待したい。SPICEシミュレータも米国の大学から生まれたツールである。以下では、特に期待する具体的アウトプットを示す。
[1]高周波環境のシミュレータの研究開発
LSIは高速動作の追求により、従来のパッケージ、ボードレベルの実装設計に近い設計レベルを要求してきている。アナログ回路の設計技術力を強化するために、高精度で高速なシミュレータの開発を期待したい。
[2]最先端モデリング手法の研究開発
LSI設計における回路シミュレーションではトランジスタモデルが如何に高精度に現実の電気的特性を表現できるかが鍵になる。従来モデルでは回路のモデルが実際のLSIの測定結果と一致しなくなりつつあり、90nm以降の微細化プロセスへの対応で限界が見えてきている。広島大学ではHiSIMという次世代MOSFETモデルを研究開発し、CMC(Compact
Model Council)における次世代標準MOSFETモデル選定において最終選考候補に残り、その優秀さが世界的に認知された31)。こうしたモデルの研究開発は、今後、大学での一層の研究開発を期待したい。
[3]デジタル技術者へのアナログ的設計支援の研究開発
デジタル回路の設計自動化ツールは高度化しているが、アナログ的思考が必要な回路設計の整備は未だ不十分な状態である。解析ツールを始めとした支援ツールの研究開発をいち早く進めることでLSI製品の優位性が確保できるであろう。そしてアナログとデジタルの融合領域で活躍できる技術者層を厚くできる。この領域の研究も大学に期待したい。
6‐3.測定環境の充実(産官学に向けた提言)
測定環境の向上への対応策として、大学、企業の技術者が共用できる測定環境と支援(これを測定サービスと呼ぶ)を提供するセンターの設置を提言したい。このことで測定がボトルネックになっている問題を解消し、図表9で示した実践の効果を生かすフィードバックを効果的に回すべきである。継続した運用のためには、新しい測定器の充当とともに、それら設備のサポート、保守、講習などの人的支援が伴われるべきである。この測定サービスは大学、企業を問わず開かれた形態で提供されることが必要である。ここでは、評価技術講座のような基礎教育も合わせて拡充すべきである。すでに政府や地方自治体の資金によりアナ・デジ混載SoCに向けた測定器が配備されている大学では、オープン化と人的支援の拡充が必要である。測定センター機能をもつ拠点を複数地域の大学(または研究拠点)に設け、日本全体としての底上げを図るべきである。ここではアナログ技術者をはじめ先端的なLSI開発技術者が集い、互いのコミュニケーションにより人材育成ができる場が期待できる。

7.おわりに
本稿では、今後のユビキタス化に重要な役割を演じるワイヤレス通信の基盤であり、また新時代のアナログ技術が必要とされる、CMOSアナログRFのSoCを中心にして、アナログ技術の動向と人材育成の重要性について述べた。今後の改善のために、教育の強化、ノウハウの設計自動化ツール化、そして実践の場作りとしての測定環境の充実が求められる。
デジタル回路でも、スーパーコンピュータ、デジタル家電、自動車用LSI等での最先端の高速LSI開発は限界への挑戦が余儀なくされており、アナログ技術が果たす役割は益々重要になっていくであろう。本稿では触れなかったが、電源回路も技術的および産業的に重要なアナログ技術領域であり、今後も研究開発が必要とされる。アナログ技術領域は、我が国の半導体製品の「質の向上」を期待できる領域であり、今後、一層の強化が必要であると考えられる。

謝 辞
本稿の執筆にあたって、東京工業大学 大学院理工学研究科 松澤昭教授には、全般にわたって貴重なご意見ならびに資料の提供を頂きました。群馬大学
工学部電気電子工学科 小林春夫教授、(株)半導体理工学研究センター研究推進部 加沼 安喜良教育推進室長、益子耕一郎上級研究員、(株)ジーダット 中村弘氏、アジレント・テクノロジー(株)電子計測本部 多田和照氏、NECエレクトロニクス(株)経営企画部 平田雅規氏からは貴重な資料とご助言を頂きました。(株)半導体理工学研究センター
下東勝博社長、会津大学 束原恒夫教授、武蔵工業大学 工学部電子通信工学科 堀田正生教授、(株)東芝 研究開発センター 板倉哲朗研究主幹にも貴重な資料の提供を頂きました。関係の皆様に厚く御礼申し上げます。
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