20世紀後半から始まった急激な人口の増加と人間活動の拡大が世界各地で水不足、水環境の悪化、洪水被害の増大などを発生させ、今世紀中頃には開発途上国においてその問題がより深刻化すると予想されている。また、地球温暖化などを含む気候変動が水循環、水資源に及ぼす影響も懸念されている。そのような状況の中、1992年のリオ環境サミットを契機として、2002年のヨハネスブルグ・地球サミットや2003年のエビアンG8サミットにおいて、水資源不足に関する問題が議論され、世界的な問題として関心が高まっている。
これまでの世界的な水危機に関する情報は、ほとんどが欧米の研究者や機関からの発信であったが、今回、日本の研究者グループによる成果がScience誌2006年8月25日号に発表された。この発表は、国際的な水問題に対する日本からの初の情報発信として意義が大きい。
これは、(独)科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「水の循環系モデリングと利用システム」研究領域(研究総括:虫明功臣福島大学教授)の研究テーマ「人間活動を考慮した世界水循環水資源モデル」の研究代表者である沖大幹東京大学生産技術研究所助教授と、総合地球環境学研究所プロジェクト「地球規模の水循環変動ならびに世界の水問題の実態と将来展望」の研究代表者である鼎信次郎総合地球環境学研究所助教授の共同研究成果である。
この研究では、地球規模の水循環と水収支や世界の水需給バランスを推定し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のSRES社会シナリオに沿った水需要予測及びAR4注1)用の気候変動予測情報の最新マルチモデルアンサンブルにより、水不足で困窮すると目される世界人口を推計した。現在、高い水ストレス注2)にある地域は中国北部、インドとパキスタンの国境付近、中東、米国中西部で、この地域に住んでいる人口は世界人口の65億人中約24億人であるとされている。今回、シナリオにより異なるが2075年には、世界人口80億人中40億人以上が、人口増加と経済発展に伴う生活用水・工業用水・農業用水などの使用増加により、水不足の影響を受けるようになると予測された。
このシミュレーションでは、CRESTの研究によるグローバルな地表面の水及びエネルギー収支に関する最新の算定結果等を用い、ダム流量操作や灌漑などの人間活動を考慮した独自の世界水循環水資源モデルを開発・導入し、地球シミュレータ等による気候予測と将来社会シナリオに沿った人口や経済発展推計値に基づいて、各国の生活用水・工業用水・農業用水の取水量変化を21世紀後半まで推計した。これまでの研究は2025年までの推計であったが、今回は、2075年までの長期シミュレーションで推計した。高い水ストレス下にある人口は、2000年の第2回世界水フォーラムでは、2025年の予測は40億人であったが、今回の推計は35億人となった。
予測結果から、水ストレス下に置かれる人口をこの予測値より少しでも減少させるよう、水資源対策を各国協力して展開する必要性を示している。
