【1】光インターコネクションの超高密度実装技術を開発

 2006年9月15日、日本電気(株)(以下、NEC)は、次世代スーパーコンピュータを構成するLSIのチップ間光インターコネクションの実現に向け、約1,000信号の光伝送を可能にする光モジュールの超高密度実装技術の開発に成功したと発表した。次世代スーパーコンピュータ向けの要素技術開発については、今年3月に発表した25Gbps動作の面発光レーザの開発に続く成果となる。

 次世代スーパーコンピュータ開発およびその利用は、第3期科学技術基本計画においても国が集中的に投資して推進する「国家基幹技術」のひとつに位置づけられている1)。次世代スーパーコンピュータを開発する上で、LSI自体の処理速度は高速化する反面、チップ間のデータ伝送速度が追いつかず、性能向上のボトルネックになりつつある。従来の電気伝送では高速化の限界があり、光伝送が検討されてきた2)。次世代スーパーコンピュータの実現には、20Gbps超の速度で動作するLSI性能に加え、1つのLSIに対して約1,000信号の光/電気変換を可能にする光モジュールが必要とされている。

 今回開発した技術は、ガラスセラミックの光モジュール基板の側面に、微小電極を125μm間隔で形成し、光素子をその電極に直接実装を可能にするものである。セラミック基盤の側面に、これほどの高密度かつ直接実装は世界初となる。この技術により、4.5mm角の光モジュールの基板上に12信号分の素子を搭載できる。今回、送信・受信用の光モジュール4個(48信号)をLSIチップと同一プリント基板上に搭載し、LSIチップ間において信号あたり10Gbpsの光伝送に成功した。今後さらに光モジュールをプリント基板上に搭載することで、約10cm角の基板上で約1,000信号の光/電気変換が実現する見通しである。

 NECでは、平成17年度〜19年度までの文部科学省の「超高速コンピュータ用光インターコネクションの研究開発」という研究課題において、信号あたり20Gbps以上で動作する光素子と、チップ間の高速・高密度配線技術の研究に取組んできた。今後、これらの研究成果を統合し、次世代スーパーコンピュータへの適用を目指して、信号あたり20Gbps超の速度で、合計20Tbps程度のチップ間光インターコネクション技術の研究開発を進めていく予定である。

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参 考

1) 内閣府:http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/honbun.pdf

2) 科学技術動向 No58, 2006年1月

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【2】水素親和性ナノ粒子を分散させた高効率の水素分離膜

 水素を利用する環境低負荷型エネルギーシステムの構築に向けて、高効率な水素製造技術の開発が望まれている。従来の水素製造方法は、主成分がメタンである天然ガスの水蒸気改質反応によるものが主である。この反応は吸熱反応であり、ニッケル(Ni)系触媒などを用いて高温(約800℃)・加圧条件下で行われているため、熱効率の向上が課題となっている。さらに、水素の生成工程と分離・精製工程が独立しており、これらの工程を一体化できれば、反応温度低減などによる省エネルギー化が可能となる。

 このようなニーズを受けて、平成14年度より、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「高効率高温水素分離膜の開発」プロジェクトが開始された。膜による水素分離特性は、水素の透過率と水素のみをふるい分ける選択性によって評価されるが、これらの特性は相反する関係にあり、多孔質膜の実用化のためには、これらを両立させることが課題である。

 プロジェクトの集中研究所である(財)ファインセラミックスセンター(JFCC)の岩本らは、東京大学との共同研究により、膜厚を数十から数百nmに制御するとともに、膜の細孔径を水素分子径より若干大きい約0.3nmで制御して得られる分子ふるい機能による多孔質セラミックス膜の開発をして、多孔質基材、中間層および分離活性層の多層構造を、数百nmからサブnmのスケールで制御したセラミックス膜の開発を進めてきた。この度、水素の透過率および選択性の開発目標値を達成したシリカ高効率水素分離膜の合成に成功し、従来の水素製造方法に比べて70%増の世界最高の水素分離膜特性を得た(下図参照)。ここでは、新規な分離膜として、水素のみをふるい分ける分子ふるい機能を有する非晶質多孔質シリカと高温で水素親和性を有するNiなどとの複合効果についても検討し、直径が数〜十数nmのNi粒子を分離活性層内に析出させたナノ複合シリカ膜を作製した。Ni単体は高い水素吸着性を示すが、その高温での水素脱着性は存在しないのに対して、Niナノ粒子分散非晶質シリカは水素の可逆的な吸脱着特性を有することが見出された。このような水素の吸脱着特性が、Niナノ粒子分散非晶質シリカ膜の高温での水素透過率と選択性の向上に寄与しているものと言える。現在さらに、ナノ粒子複合シリカ膜のさらなる水素分離特性の向上とともに、分離活性層および中間層の耐熱および耐水蒸気性の向上を目的とした材料開発が進められている。膜反応モジュールの開発も精力的に行われおり、NEDOのロードマップによれば、高効率水素製造プロセスは2010年頃に実用化が予定されている。

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参 考

岩本雄二ほか、「触媒年鑑・触媒技術の動向と展望」、「ニッケルナノ粒子分散シリカ系高温水素分離膜の開発」、触媒学会編、p.74〜p.81(2006)

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【3】量子ドット超格子を用いた太陽電池研究の進展

 筑波大学岡田至崇助教授らは、InAs/InGaAlAs系材料を用いた量子ドット超格子構造の太陽電池セルを作製し、2006年6月に成果を報告した。

 現在、実用化している太陽電池用半導体材料は、厚さ200〜350μmの単結晶または多結晶シリコンが主流であるが、いずれも一組のpn接合構造をとることから、シングル接合太陽電池と呼ばれている。シングル接合太陽電池では、透過損失や電子‐電子散乱等による熱エネルギー損失が原理的に大きく、理論限界効率は26〜28%の範囲にとどまる(図表1)。この理論限界を克服する新たな方式として、半導体量子ドット超格子を太陽電池に用いる研究が進展している。

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 量子ドットとは寸法が電子のド・ブロイ波長程度(約10ナノメートル)の半導体ナノ結晶のことであり、基板結晶上にエピタキシャル成長する方法で作製される。量子ドットを三次元的に高密度で均一性良く周期配列した量子ドット超格子構造とし、p層とn層の中間層(i層)に挟み込んだ構造の太陽電池は、理論限界効率が63%にまで達すると見積もられている。シングル接合太陽電池と比較してエネルギー変換効率が大きく向上する理由としては、
(1)量子サイズ効果とマルチバンド形成により、吸収可能な太陽光スペクトル帯域が増加する(透過損失の低減)(2)量子ドット間の電子的結合によるトンネル効果により、高速でキャリアを引き抜くことで、熱エネルギー損失を抑制する(短波長損失の低減)と説明されている。また、従来と比較して薄膜化できることから、コスト面、資源量節約の面でも期待されている。

 しかし、これまでの作製法では、量子ドット層周辺の残留ひずみが積層数とともに増大し、十分な膜厚の量子ドット超格子の作製が困難であった。岡田助教授らは、基板の格子定数より大きい量子ドット層と小さい中間層を交互に積層することで、量子ドットが自己組織化する際の残留ひずみの蓄積を抑制する効果を応用した。作製した試料では、量子ドット層が30層積層した状態においても、ドット群の成長方向への整列性が保持されており、全量子ドットが1012個に達する高品質な三次元量子ドット超格子構造を実現した(図表2)。また、太陽電池セル構造に適用して、長波長領域の量子効率が増大していることも確認した。まだシングル接合太陽電池をしのぐ効率は検証できていないが、今後、層構造の最適化、量子ドットサイズ均一性改善および高密度化により、シングル接合太陽電池に対する優位性や実用性について検討される予定である。

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出 典

岡田、「自己組織化量子ドット超格子と高効率太陽電池への応用」、日本結晶成長学会誌、Vol 33、No. 2(2006)

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【4】長期シミュレーションにより水不足の影響を受ける世界人口を予測

 20世紀後半から始まった急激な人口の増加と人間活動の拡大が世界各地で水不足、水環境の悪化、洪水被害の増大などを発生させ、今世紀中頃には開発途上国においてその問題がより深刻化すると予想されている。また、地球温暖化などを含む気候変動が水循環、水資源に及ぼす影響も懸念されている。そのような状況の中、1992年のリオ環境サミットを契機として、2002年のヨハネスブルグ・地球サミットや2003年のエビアンG8サミットにおいて、水資源不足に関する問題が議論され、世界的な問題として関心が高まっている。

 これまでの世界的な水危機に関する情報は、ほとんどが欧米の研究者や機関からの発信であったが、今回、日本の研究者グループによる成果がScience誌2006年8月25日号に発表された。この発表は、国際的な水問題に対する日本からの初の情報発信として意義が大きい。

 これは、(独)科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「水の循環系モデリングと利用システム」研究領域(研究総括:虫明功臣福島大学教授)の研究テーマ「人間活動を考慮した世界水循環水資源モデル」の研究代表者である沖大幹東京大学生産技術研究所助教授と、総合地球環境学研究所プロジェクト「地球規模の水循環変動ならびに世界の水問題の実態と将来展望」の研究代表者である鼎信次郎総合地球環境学研究所助教授の共同研究成果である。

 この研究では、地球規模の水循環と水収支や世界の水需給バランスを推定し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のSRES社会シナリオに沿った水需要予測及びAR4注1)用の気候変動予測情報の最新マルチモデルアンサンブルにより、水不足で困窮すると目される世界人口を推計した。現在、高い水ストレス注2)にある地域は中国北部、インドとパキスタンの国境付近、中東、米国中西部で、この地域に住んでいる人口は世界人口の65億人中約24億人であるとされている。今回、シナリオにより異なるが2075年には、世界人口80億人中40億人以上が、人口増加と経済発展に伴う生活用水・工業用水・農業用水などの使用増加により、水不足の影響を受けるようになると予測された。

 このシミュレーションでは、CRESTの研究によるグローバルな地表面の水及びエネルギー収支に関する最新の算定結果等を用い、ダム流量操作や灌漑などの人間活動を考慮した独自の世界水循環水資源モデルを開発・導入し、地球シミュレータ等による気候予測と将来社会シナリオに沿った人口や経済発展推計値に基づいて、各国の生活用水・工業用水・農業用水の取水量変化を21世紀後半まで推計した。これまでの研究は2025年までの推計であったが、今回は、2075年までの長期シミュレーションで推計した。高い水ストレス下にある人口は、2000年の第2回世界水フォーラムでは、2025年の予測は40億人であったが、今回の推計は35億人となった。

 予測結果から、水ストレス下に置かれる人口をこの予測値より少しでも減少させるよう、水資源対策を各国協力して展開する必要性を示している。

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【5】地震・津波を観測監視する海底ネットワークシステムの構築

 本州南岸の伊豆半島から西方には南海トラフという海溝が伸びている。この海溝に沿っておよそ100〜150年の間隔でマグニチュード8級の巨大地震が発生してきた。しかも過去に東南海地震と南海地震は同時ないしわずかの期間に続いて発生した。安政の大地震(1854年)では、東南海側の震源域で最初に破壊が発生し、約32時間後に南海側が破壊したと伝えられている。1944年に発生した東南海地震の2年後の1946年に南海地震が発生している。それからすでに60年が経過しており、次の巨大地震に備えて、この地震発生のメカニズムを理解するためにさまざまな観測が行われている。さらに地震・津波を観測監視するシステムを構築する技術開発が始まっている。

 文部科学省は平成18年度から4ヵ年の計画により「地震・津波観測監視システムの構築」を開始した。このプロジェクトでは、最初の震源となる可能性が高い紀伊半島沖に稠密な海底ネットワークシステムを構築する。これは、地殻の活動を監視するため、海底にケーブルネットワークを敷設して要所に地震計や津波計などの観測装置を配置し、陸上基地においてリアルタイムの連続観測を行うものである。海底ネットワークシステムの開発と整備、及び高精度地震予測モデルの構築を(独)海洋研究開発機構が実施する。合わせて同機構は海底音響GPSシステムの開発を東北大学及び名古屋大学と、移設可能な次世代インライン型システムの開発を東京大学地震研究所と、さらに海溝型巨大地震の発生機構の解明を(独)防災科学技術研究所と連携して行う。

 既に陸域には2,000点ほどの地震観測点による基盤観測網ができあがり、GPSによる精密な地殻の変動がリアルタイムに計測されている。しかし、巨大地震が発生する海底では、地震を直接に、かつリアルタイムに観測できる場所は限られており、観測点数は十分とはいい難い状態にある。

 (独)海洋研究開発機構はこれまで、相模湾初島沖と高知県室戸沖および北海道釧路沖において、海底ケーブルを利用する海底地震総合観測システムを開発・設置し、観測や保守などの技術開発を行ってきた実績を有する。今回の新たな計画では、さらにシステムの拡張性や冗長性、あるいは保守性を考慮してネットワークを構築する。万が一、ケーブルがどこか一ヶ所で切断してもデータ伝送を確実に継続できるようにすること、観測機器の長期信頼性、故障したときの欠測リスクの低減、保守と故障時の交換作業が安全かつ低コストに実行できるようにすることなどが実用化にむけた技術課題である。

 本システムの構築および運用により、我が国周辺海域における地震観測網が実現していくことになる。また、本システムができあがれば、この地域の微弱な地震の観測や地殻の変動を計測することにより、海溝型巨大地震の調査研究がより一層進展し、地震・津波の早期検知も可能となると考えられる。

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【6】科学技術予測と社会的需要の相互作用を巡る欧州の動き

 英国政府の科学政策担当省(DTI注1)OSI注2)は、2006年6月、科学技術予測と市民の需要の相互作用を促進する事業Science Horizonsを開始した。9月から市民との“対話”行事が繰り広げられ、来年9月には市民の意見を報告書にまとめる。

 これは、「近代社会のこれまでの発展は、技術の進歩如何に左右され、社会が何を望み必要とするかということを考慮しなかった」という反省から、今後国内に広く影響するような案件に関しては、技術が将来の市民生活にどのように影響するかというシミュレーションを行い、一般市民の意見を集めることにより、市民も政策の方向付けに関与出来るようにしようという方針に基づいている。2004〜2014年に渡る「科学とイノベーションへの投資フレームワーク注3)」の一環で、OSI内に予測専門組織 Horizon Scanning Centre(HSC注4))が開設されている。Science Horizons 事業は、HSCの行なった予測の内容に基づいて行なわれる。

 事業の基金を獲得した、民間コンソーシアムは、Graphic Science(the West of England大学応用科学学部に拠点を置く科学交流支援会社)、BBC Worldwide Interactive Learning(使用者と相互作用可能な情報機器開発・供給会社)、Dialogue by Design(市民参加の支援会社)、DEMOS(シンクタンク)、Shared Practice(非営利団体)などによって構成される。いずれも情報科学技術を駆使した社会技術を活用する組織であり、印刷媒体や相互作用可能なWEB媒体、コンピュータ・グラフィクスのほか、短編映画のCD‐rom、Podcasts注5)などを活用することを計画している。

 予測と需要及びイノベーションの相互作用に関しては、2006年8月23〜26日にローザンヌ(スイス)で開催されたEuropean Association for the Study of Science and Technology年次大会でも、議論が繰り広げられた。予測には社会的な期待を明確なものへと誘導する作用があり、期待はイノベーションの方向性を収斂させ、実施を容易にする。即ち、政策の実現を促進する可能性がある。「予測(foresight)が、新種の組織だった政策“手段”と見なされるにつれ、新興技術を羅列し一方的に情報を提供するという旧来の予想(forecast)型の取り組みは少なくなり、イノベーションの関与者が学び討論する基盤を提供するという、予測“過程の効用”が重視されるようになっている」という意見が、同学会では賛同を得ていた。


参 考

http://www.sciencehorizons.org.uk/

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