[レポート2]

日本の設計組織構造を考慮したCADの研究開発

塩谷 景一
推進分野ユニット


1. はじめに

 第2期科学技術基本計画における「製造技術分野」は、2006年3月28日に閣議決定された第3期科学技術基本計画で「ものづくり技術分野」と名称が改められ、総合科学技術会議で国が取り組むことが不可欠な8分野のひとつとして推進戦略が策定された。名称が改められた意図は、資源・環境・人口制約を乗り越え、日本が国際競争力を維持し、経済を発展させていくためには、ものづくりを核とし、サービス、情報産業まで巻き込んだバリューチェーンとしての付加価値を最大化することが政策課題であり、従来の製造技術の開発にとどまることなく、“もの”の価値を押し上げるような科学技術の発展を目指す、価値創造型ものづくり力強化という視点を鮮明にするためである1)

 我が国の製造業の創出する付加価値額がGDPに占める割合は約2割であるが、輸出総額の9割を占めることから分かるように、製造業は全産業の中で最も競争力がある分野である1、2)。日本型ものづくり本来の強みは、現場の優秀な技術者、技能者が、協調的な現場環境でチームワークを発揮してパラメータの相互調整を行う、統合的組織能力と「すり合わせ」にあるといわれる1)。製造工程に着目すると、デスクトップパソコンを代表例とする「組み合わせ型」製品注1)と自動車を代表例とする「すり合わせ型」製品注2)があり、日本の製造業は「すり合わせ型」ほど国際競争力が高いとの結果が出ている3)。上場製造業企業に対するアンケートでは、主力事業については「すり合わせ型」との回答が約7割と多数を占めており3)、国際競争力が高い主力事業を持つ上場製造業企業が多い。

 第3期科学技術基本計画の分野別推進戦略「ものづくり技術分野」1)の基本的取組方針「科学に立脚した日本型ものづくり」の中で「ものづくりの国際競争力を維持し続けるためには、現場の個々人の優れた管理能力や技量のみに依存せず、日本型ものづくりに適応した科学技術、例えばものづくりプロセスに合わせた設計・製造支援システムなどによって更に日本型ものづくりを強化することが必要である」と「設計・製造システム」の重要性が指摘されている1)

 「ものづくり技術分野」で重点化する戦略重点科学技術のひとつに「日本型ものづくり技術をさらに進化させる、科学に立脚したものづくり『可視化』技術」が選択されている。すなわち、日本の強みをより強化する、科学に立脚したものづくり基盤を推進するために、ITの利活用や高度な計測分析技術をベースに、ものづくりの「可視化」を図る方針が示された1)。「設計・製造支援システム」の要は、設計結果を集積する製品データベースを作成するIT技術が担う。このIT技術として、総合科学技術会議の基本政策専門調査会ものづくり技術分野推進戦略プロジェクトチームで、CAD(Computer Aided Design:コンピュータを用いた設計支援ツール)の重要性について議論されている4)。ここでは共通基盤技術の重要な研究開発課題として「ITを駆使したものづくり基盤技術の強化」が位置づけられている1)。また、同様に重要な研究開発課題と位置づけられている「ものづくりのニーズに応える新しい計測分析技術・機器開発、精密加工技術」では、「ITを駆使したものづくり基盤の強化」と関連させることが推奨されている1)。すなわち、ものづくりに立脚して計測すべきポイントの確定、設計情報と現物計測照合による「可視化」の実現のために、計測は設計情報を処理するCADと連携して取り組む必要がある4)。このように、科学に立脚した日本のものづくりにおいて、CADは重要な位置を占める1、4)

 そこで、本稿では、日本の製造業の強みである「すり合わせ」を特長とする設計組織構造に最適化したCAD技術の方向性を明確にし、製造業の国際競争力の維持・強化のために政策的に推進すべき主要課題を挙げたい。

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2. CAD利用の現状

 図表1に製造業の業務プロセス全体における設計の位置づけと設計プロセスの詳細を示す。製造業では1980年ごろから製品競争力を高めるために、設計プロセスにCADを導入し、その情報処理能力により設計者のパフォーマンスを向上させる施策を年々強化してきた。

chart01

 CADの導入率は、ものづくり白書(2006年版)2)のCADの導入状況データで引用された(財)産業研究所による「中小製造業におけるものづくりIT技術の導入・利用に関する調査研究」7)(2006年3月)によると、中小製造業において実用化されているCADを2次元CAD注3)3次元CAD注4)CAE注5)に分類すると、2次元CADの導入率は82%、3次元CADの導入率は58%、CAEの導入率は33%である。日本機械学会の2006年の1月に論文として公表された藤田らのCAD活用状況調査8)(調査は2002年秋)では、自動車、産業設備、総合電機業界では、トータルで90%を越えているとの報告もあり、大企業も中小企業と同等以上の2次元CAD、3次元CAD、CAE導入率であると考えられる。

 図表1に示すように、2次元CAD、3次元CAD、CAEが中核業務で使われているプロセスは、詳細設計と実験・試作であり、企画あるいは構想設計では使われていない。企画あるいは構想設計では、設計者が考えをまとめる手段あるいは設計結果の記録手段としての付帯業務支援ツールとして使われるケース、または主要部品の立体形状を作成し配置スペースを概算するなど補助業務支援ツールとして使われるケース等に限られる。その理由は、企画あるいは構想設計の中核業務で扱う製品モデルの必須データの処理には、2次元CAD・3次元CAD・CAEが対応できないことによる。

 製品モデルは製品データベースの構造を決める。図表2は、製品モデルで必要なデータの種類と設計プロセスの各工程を縦軸と横軸にとり、各設計工程で必須のデータと設計での利活用の観点から考えられるCADの適用範囲を、S1〜S4で示した図である。現在展開されている2次元CAD・3次元CAD・CAEはS4に位置づけられる。S4は構想設計の最終段階から詳細設計、実験・試作の範囲であり、形状注6)データを中心に、属性注7)データの一部を扱う。一方、S1、S2に相当する実用レベルのCADは現在の技術水準では開発できていない。これが、図表1での支援ツールの空白域の理由である。CADが企画あるいは構想設計段階で使われることもあるが、その場合は補助業務あるいは付帯業務での利活用であり、中核業務での利活用ではない。

chart02

 図表3を使って、形状、属性、設計意図注8)データとCADの機能を説明する。2次元CADは形状データを主に扱い、図形作成機能を使って、三角形と四角形が合わさった形状を逐一作成する。3次元CADの場合も同様で、基本的に利用者が形状を逐一作成する。属性の例として示した寸法の関係式を扱い、寸法値を変えると図形の自動修正ができるCADも実用化されている。しかし、設計意図のデータを扱えるCADは存在せず、研究段階である9)。つまり、現状のCADは形状処理を主たる機能とし、確定した部品形状を厳密にモデル化するのに適しており、後工程に正確な形状が伝えることができるようになった段階であると言える9〜11)

chart03

 CADの設計への適用の概要を理解しやすくするため、図表4にモデル化した電機設備ユニットへのCADの適用例を示す。図表1における詳細設計段階の中核業務支援ツールの3次元CADおよびCAEの利用例である。電機設備(縦、横、奥行:15×60×40cm)のひとつのユニットをコンピュータ内にモデル化し、ディスプレイに表示した例である。各部品のレイアウト検討を行う場合、「干渉チェック」と言われる空間的な配置可能性だけでなく、「絶縁検討」や「熱検討」から、部品間に一定の距離を確保する必要があるなど、種々の設計条件を考慮する必要がある。3次元CADおよびCAEはこれらの設計条件をチェックし、レイアウト修正候補の提示などにより設計の支援を行う。

chart04

 設計者の個別設計ツールとしての利用だけでなく、十数人の検討チームによるデザインレビュー会議でCADが活用されることも多い。例えば、図表4に示す表示に合わせて、通常は目に見えない電界や熱分布を可視化して大型スクリーンに大画面表示し、チームとして設計検討が進められる。

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3.日本のものづくりの強みを生かすCAD

 日本型ものづくり技術をさらに進化させる、これからのITシステム開発における具体的な課題を以下に述べる。

3‐1.製品の差別化に重要な企画あるいは構想設計へのCAD投入

 多くの設計者は、設計プロセスの企画設計あるいは構想設計段階にも有効なCADを投入できれば、その効果が大きいと考えている。なぜなら、製品の特徴的な機能の造り込み(差別化)はこの工程で決まる場合が多いからである。設計プロセスの上流の段階で徹底して問題点をクリアすることは、フロントローディング2、7、12)と呼ばれ、企業によっては、経営戦略の中で重要な位置づけとなっている。特に日本の設計組織では、企画あるいは構想設計段階で、生産性を向上させる組み立てが容易な製品構造、製品設置の容易さ、メンテナンス簡略化の設計、品質の造り込み、など、横断的活動が行われる場合が多い4、7)

 現在主に展開されているCADの適用範囲(図表2のS4部分)は、個々の企業が戦略的に決めた結果ではない。CADが扱える製品の数学モデルが形状と属性の一部しか表現できないため、S4の範囲に限定せざるを得ないのである。その結果、現在は、設計上の検討内容が、形状および空間の幾何学の問題に帰着できるものに限られる。図表4の例はその典型例である。つまり、図面の作成、3次元形状を3次元CGとしてディスプレイに表示することによる構造確認、シミュレーションによる強度評価等に限られる。一方、図表2のS3の範囲は、現在展開されているS4の範囲をベースに、S4を開発したCADメーカで主に開発が進められており、S1およびS2の範囲が開発されるまでの橋渡し的なCADとして今後使われていくと考えられる。

 企画設計あるいは構想設計に有効なS1およびS2のCADでは、数学モデルが製品の「機能‐挙動‐状態」注9)まで表現できる必要がある。S1およびS2が実用化されると、設計者はS1の範囲のCADを使い、企画設計に着手することができる。S1の範囲のCADを使って作成された「機能‐挙動‐状態」のデータはS2のプロセスに渡される。設計者はS2のCADを使い構想設計を行う。この段階で主要な「属性」データまで作成される。S2からS4へ「属性」データは渡される。設計者はS4の範囲のCADを使い詳細設計を行い、「属性」データと「形状」データを作成する。最後に、S4のCADを使い実験・試作を行い、設計プロセスを完了させることができる。

 このような流れを実現する上で、今後戦略的に研究開発を推し進める必要があるのはS1およびS2に適用するCADであると言える。

3‐2.CADシステムのデータとエンジンの完全分離と専用ミニCAD部品

 製品の特徴的な機能を決めるのに重要なステップである企画あるいは構想設計を支援する、図表2の適用範囲S1およびS2のCADが開発され、そのシステムが世界に流通すると、日本の産業が後発国に短期間で追いつかれるのではないかという懸念が呈されている。過去には、標準的な金型製作において戦略的に金型CADを導入した国が力を付けて、我が国が劣勢に追い込まれたという事例もある。このように、CADの普及によって、海外で日本の設計技術が真似をされたという幾つかの例が報告されている10)

 このように企画あるいは構想設計を支援するCADが普及すると、個々の企業の強みが維持できなくなるのではないかという懸念があるが、そのひとつの対策としては、CADシステムの「データ」と「エンジン」を完全分離する方法が考えられる。日本型ものづくりに対するITツールの可能性として、ITシステム構造を(1)既存CAD等のツール、(2)日本型ものづくりの基盤機能を持つ共通ミドルウェア、(3)カスタマイズによる各社固有のノウハウ、と分離する必要があるとの意見もある7)

 図表3の例で言うと、寸法の関係式や平行とか垂直とかの幾何拘束条件を「データ」として入力すると、それに基づいて形状候補を作成するソフトウェアが「エンジン」である。「エンジン」には寸法の関係式など重要な設計結果は存在しない。CADのシステムアーキテクチュアをエンジン部分とデータ部分に明確に分離し、エンジン部分はユーザ間で共有モジュールとして汎用のCAD製品に組み込むようにすれば、広く流通させたとしても、データ部分は組織内に留めることができる。

 しかし、現実には、エンジン部分とデータ部分で完全に分離できない場合が多いと想定されるため、汎用CADにソフトウェア部品として組み込まれる設計対象別の「専用ミニCAD部品」の開発も必要になる。この「専用ミニCAD部品」は各社固有の設計技術を扱うソフトウェア部品となるが、「ミニ」が表すように、ソフトウェアとしては、汎用CADに比べてはるかに小規模である。当然のことながら、この「専用ミニCAD部品」は組織外には出さない。一方、この「専用ミニCAD部品」の開発には、CADの骨格をなす製品モデルを数学的に定義するために、応用数学を駆使できる技術者が必要となる。なぜなら、CADメーカがCADを開発するために用意したツールを用いる開発が想定されるからである。つまり、部分とはいえシステムを開発できる技術力が必要となる。応用数学を駆使しCADを開発できる技術者が年々少なくなってきている。製品モデルの表現に関する応用数学を駆使できる技術者数を増やす必要がある。

3‐3.組織をこえた頻繁なコミュニケーションを伴う設計過程を支援するCAD

 本来、欧米のCADは日本の組織に合わないのではないかと言われている。その理由として、欧米のCADメーカが、欧米の設計組織を適用対象の標準としていることが挙げられる。欧米組織は、徹底した分業体制をとり、責任範囲を狭義に捉える傾向があり、組織をまたがるコミュニケーションが職務責任上求められていないなど、日本の設計組織とは異なっている。このような違いは、総合科学技術会議の基本政策専門調査会ものづくり技術分野推進戦略プロジェクトチームでも、ものづくりITを考える際の課題として議論された4)。また、複数の企業のCAD推進者の意見から、欧米のCADが日本の組織に「合わない」ことをまとめた調査報告書も、本年(2006年)発行された7、9)

 ここで、日本の組織に「合わない」4、7、9、10)と指摘されている欧米のCADは、図表2の適用範囲S4で現在使われているCADではある。適用範囲S4に限らず、適用範囲S1〜S3に対しても「合わない」かもしれない。

 日本の設計組織あるいは活動の場合、設計者は全体を見て下流工程まで考える。あるいは、下流工程の設計者は上流工程に品質向上などの重要事項のフィードバックを行う。また、組織をこえた頻繁なコミュニケーションにより一貫した設計活動が行われている。これらの結果が、製品の高品質化など価値を生み出し、日本の製造業の強みとして表れている1、3)

 設計では、製品の形一つをとっても、複数の選択肢が考えられる。そのため下流工程への、「なぜその形状が設計で選択されたか」の情報の伝達は必須である。また上流工程での設計変更が行われたときには、その変更の事実と変更理由を下流工程へ確実に伝達しなければならない。この情報は「設計意図」であり、「機能‐挙動‐状態、属性、形状」とは違う種類である(図表3)。図表2中に示した矢印は、設計者間のコミュニケーションで行われる「設計意図」の継承を示しており、その仕組みがCAD自体に必要である。この設計者間のコミュニケーションは、日本では活発に行われ、日本のものづくりの強みになっていると言われてきた部分であり、これをCADにとり入れなくてはならない。

 例えば、人の移動を支援するためのチェーン駆動系をもつ装置の設計の例を考える。設計段階での合理性だけを考え、安全上問題のない最も細いチェーンを採用したとする。ところが、メンテナンス段階では、チェーンがギリギリの設計のためチェーンの張り調整範囲が相当狭くなり、調整に時間を要する。その結果、トータル的にコスト増となる。このような場合、日本の設計者は、メンテナンス部門とコミュニケーションし、トータル的にコストが小さくなるように、少し余裕のある太さのチェーンを選択してきたのである。

 欧米のCADメーカも、組織をまたがったチーム設計支援のためのCAD周辺アプリケーションを開発している。PDM(Product Data Management system)やネットワークを使ったデザインレビューシステムなどがその代表例である7)。このシステムは、バラバラな複数の組織が設計データのバージョンを同期させながら作業を支援すること、あるいは10年後にも利活用できる電子データベース構築を狙いとしており、有用な「設計データ管理」システムと言える。これらは、日本でも有効なシステムではあるが、「設計データ管理」と「組織を越えたコミュニケーション」は異なる機能である。

 つまり、「組織を越えたコミュニケーション」を支援するCADとは、本来、設計プロセス段階で、生産プロセスやメンテナンス他下流工程の検討事項を扱える統合化されたCADでなければならない。さらに、図表2の矢印で示す「設計意図」の継承は重要なコミュニケーションの一つであり、CADに統合化される必要がある。

 なお、統合化されたCADは大規模開発(結果として大規模なシステム)になることへの留意は必要である。

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4.日本におけるCADの研究状況

 1990年まではほとんどCADに関する論文は、図表5で言えばS4の範囲に関するものであった。S4に関する論文が課題として扱っていたのは、立体形状を数学的に完全に記述する表現式と、航空機や自動車などの外形形状のように多項式一つで表現できない曲面の表現式に関するものであった。それぞれ、ソリッドモデリング理論と自由曲面式理論と呼ばれる。これらの理論をコンピュータで扱える形の式に展開する数値解析も活発に研究された。ソリッドモデリング理論と自由曲面式理論に関しては、1970年前後で基礎式はほぼ固まったが、実際の製品の持つ複雑さに対応するには、その後の研究の進展を待つ必要があり、1990年ごろまで基礎式を進展させる形で多くの論文が出された。これらの論文が目指したのは、実際の製品形状の数学的な定義であった。基礎式の理論上の課題は、1982年ごろに出された文献13〜15)で整理され、その後の多くの論文がこれら文献を引用している。1990年以降は、CAD開発企業で、システム性能改善のための高速処理を目指した基礎式の改良などの研究が進められた。2000年まではS1〜S4に分散するように論文が出ていた。

chart05

 一方、S1およびS2の範囲の論文は文献11)が典型的な論文である。「機能‐挙動‐状態」や「意図」にかかわるデータを用いて、製品モデルをコンピュータ上に表現する理論開発を目指している。機能‐挙動‐状態や意図は非形状データであるため、S4の範囲の研究の中心であった3次元空間における形状データの数学表現とは別のアプローチが必要である。S1およびS2の論文のタイトルには、「設計者の思考過程」「意図を伴う設計プロセス」「知識ベース」が含まれることが多い。

 この例のような、日本における設計プロセスを対象とした最近の論文を図表5にマッピングして示した。関係する論文は多くあるが、下記の基準で、大阪大学大学院工学研究科の荒井教授および研究室メンバー、大阪府立大学大学院工学研究科の杉村教授らと著者が討議のうえ、各論文内容を分析した。論文を分析するに当たっては、「CAD」でなく「設計工学」をキーワードにした。

(1)対象とする論文は2003年以降とした。

(2)造船、建築など特定設計の論文は除外する。よって、日本機械学会、精密工学会、人工知能学会を主たる調査対象とした。

(3)継続的に設計システムの研究を行っている著者の論文に絞った。

 以上の基準に該当する論文は11件しかなかった。これらを見れば、最近の論文は、S4の範囲にはなく、S1〜S3の範囲にあることが明らかである。

 企画あるいは構想設計に対応する製品モデル理論構築の研究の取り組みは、日本で進められているということがわかる。しかし、継続的に研究を行っている研究者は、大学は教授クラスで十数人である。企業その他は、スポット的研究者が多く計数しにくいが、理論研究に限定すれば、十人未満であろう。我が国の産業規模から考えて、この数は少ないといわざるを得ない。論文を作成した一部の教授、およびこの分野をリードする教授らは、特定の設計ケースに適用できるだけでなく、実際に設計に適用できる汎用の理論は、これからの理論研究に負うところが大きいと考えている。

 CADにかかわる研究者数に関する統計データはないが、欧米に比べて日本の研究者はかなり少なく、また、近年、韓国、中国、台湾等の研究人口が急増しているようだと言われている。その証拠として、CAD関連のJournalの投稿論文の70%から80%がこれらのアジア諸国からのものになってきている。

 CADシステムのような研究開発に、何らかの資金が投入される場合、従来、ソフトウェア開発の部分にほとんどの費用が使われてきた。しかし、今後は、製品モデル理論確立ための研究者にも資金を投入する必要があると考えられる。現在日本には、製品モデルの基盤としての応用を前提にした応用数学を教える講義を持つ大学は数えるほどしかない。3‐2で述べたように応用数学を駆使できる技術者数を増やす必要性と合わせて、この部分に関する戦略的な支援が必要であると考えられる。

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5.まとめ

 本稿では、第3期科学技術基本計画の「ものづくり技術分野」で注力する戦略重点科学技術課題のひとつ「日本型ものづくり技術をさらに進化させる、科学に立脚したものづくり『可視化』技術」における取り組み課題のCAD(Computer Aided Design)に関し、以下の課題を提示した。

(1)設計プロセスは上流から、企画→構想設計→詳細設計→実験・試作の工程があり、この中で、製品の差別化機能が決まる企画あるいは構想設計に適用できるCADを戦略的に技術開発する必要がある。

(2)日本の製造業の強みとなってきたと言われる、組織をこえた頻繁なコミュニケーションによる一貫した設計活動が、今後も製品の高品質化などの価値を生み出していると考えられる。設計段階で生産プロセスやメンテナンスも含めて下流工程の検討事項を取り扱え、設計者が製品構造等を決めた考え方を下流工程で活用できるデータが扱える、統合化されたCADの研究開発が必要である。

(3)企画あるいは構想設計を支援するCADが普及した場合、個々の企業の強みが維持できなくなるのではないかという懸念がある。そのひとつの対策として、CADシステムのデータとエンジンと完全に分離し、製品の基盤をなすデータが、組織の外部に出ないようなCADシステムアーキテクチャの研究開発が必要であろう。

(4)我が国は、製品モデル理論確立のための応用数学の研究者およびこの応用数学を駆使できる技術者が少なく、また、製品モデルの基盤としての応用を前提にした応用数学を教える講義を持つ大学は数えるほどしかない。今後、この部分には、戦略的な支援が必要である。

 これらの個々の課題に対しては、専門家によるさらに詳細な検討が必要である。

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謝 辞

 本稿を執筆するに当たり、大阪大学大学院工学研究科 荒井栄司教授、妻屋彰助手、若松栄史助手、大阪府立大学大学院工学研究科 杉村延広教授、東京大学 先端科学技術研究センターの鈴木宏正教授から貴重なコメントをいただきました。関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

1) 第3期科学技術基本計画 分野別推進戦略VI ものづくり技術分野:http://www8.cao.go.jp/cstp/kihon3/bunyabetu8.pdf

2) 平成17年度ものづくり基盤技術の振興施策(ものづくり白書2006年版)

3) 平成16年度ものづくり基盤技術の振興施策(ものづくり白書2005年版)

4) 総合科学技術会議 基本政策専門調査会ものづくり技術分野推進戦略プロジェクトチーム議事要旨:
http://www8.cao.go.jp/cstp/project/bunyabetu/mono/index.html

5) 文部科学省 科学技術政策研究所:NISTEP No. 97 科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査 デルファイ調査報告書 10.「製造」分野の調査結果、2005年5月、pp787‐863.

6) JEITA(社)電子情報技術産業協会 標準技術部・標準センター:「設計プロセス評価指標」に関する標準化の取り組み、 JEITA Review 2006年3月、pp34‐35.

7) (財)産業研究所:中小製造業におけるものづくりIT技術の導入・利用に関する調査研究(2006)

8) 藤田喜久雄、松尾崇宏:製品開発における手法やツールの活用状況の調査と分析、日本機械学会論文集(C編)72巻 713号、(2006)、pp290‐297.

9)(財)日本情報処理開発協会電子商取引推進センター:平成17年度コラボレーティブエンジニアリングに関する調査研究「次世代デジタルエンジニアリングに期待されるもの」(2006)

10) 文部科学省 科学技術政策研究所:NISTEP No. 96 科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査 注目科学領域の発展シナリオ調査III 発展シナリオ35.容易に真似の出来ない設計・製造技術、2005年5月、pp635‐650.

11) 梅田靖、冨山哲男、吉川弘之:機能設計のためのFBSモデリングの提案、精密工学会誌63巻6号(1997)、pp795‐800.

12)(社)日本機械工業連合会、(社)製造科学技術センター:平成17年度 新製造技術に関する調査研究報告書(2006)

13) A.A.G.Requicha and H.B.Voelker: Solid Modeling, A Historical Summary and Contemporary Assessment, IEEE Computer Graphics and Applications, Vol. 2 No.2,(1982)pp9‐24.

14) 沖野教朗: 自動設計の方法論、養賢堂(1982)

15) 山口富士夫:コンピュータディスプレイによる形状処理工学I、日刊工業新聞社(1982)

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