1. はじめに
中国では、2006年3月、全国人民代表会議(全人代)にて第11次五ヵ年計画(十一・五計画)が採択された。従来、中国のエネルギー政策は経済発展およびエネルギー生産拡大を最優先課題としていたが、十一・五計画では資源節約型社会構築を主要目的としており、大きく方針転換している1、2)。これまでの日中間エネルギー協力は政府開発援助(ODA)によるエネルギー輸送インフラ整備や資源開発等、供給に重点がおかれたものであったが、上記方針転換を受け、省エネ・環境分野において、新たな協力関係構築への機運が急速に高まってきている。
このような背景のもと、両国政府(日本・経済産業省・財団法人日中経済協会及び中国・国家発展改革委員会、商務部、中国大使館)共催により「日中省エネルギー・環境総合フォーラム(以下「日中省エネフォーラム」)」が2006年5月29日(月)から31日(水)に東京にて開催された3)。
本レポートでは、中国の直面する環境・エネルギー問題の現状と課題を整理し、日中省エネフォーラムでの議論も踏まえて、今後の日中技術協力の可能性について取りまとめる。

2. 中国の環境・エネルギー問題の現状と政策動向
[1]中国の環境・エネルギー問題の現状3)
急速な経済発展をとげる中国では、エネルギー大量消費が深刻な問題となっており、一次エネルギー総需要は2005年には日本の約3倍に達している。今後の需要も一貫して拡大し続け、2030年には米国を抜いて世界一のエネルギー消費国になると予測されている。現在の電力需要は世界第二位であるが、九州全体の年間電力需要に相当する約140TWhもの電力需要が毎年増加し、今後20年間にわたり著しく拡大し続けると予想されている。
化石エネルギーの大量消費は、すでに深刻な環境およびエネルギー問題をまねいており、「先進国で100年間に生じた課題が、わずか20年間に集中している(国家環境保護総局李新民副司長)」と言われている。
中国が今後も引き続き経済の安定成長を維持するには、環境保護、資源節約、社会調和が不可欠であるとの強い認識から、中国政府は様々な政策的な対応を行おうとしている(図表1)。

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[2]第11次五ヵ年計画(十一・五計画)における環境・エネルギー政策1〜3、5)
従来、中国のエネルギー政策は、経済発展のためにエネルギー生産を拡大することを最優先課題としていたが、十一・五計画ではGDP成長率7.5%を維持しつつ、同時に資源節約型社会構築を重要な目的とするように大きく方針転換している。内容を図表2にまとめる。先の十・五計画には無かった点として、エネルギー消費原単位20%低下など、省エネ型社会構築に向けた具体的な数値目標化が挙げられる。
環境・エネルギーに関する重点方針は、(1)省エネルギーを優先、(2)石炭を中心とした国産エネルギー供給に立脚、(3)エネルギー源の多様化、C需給構造の最適化、D原子力・再生可能エネルギーの積極導入、となっている。

中国政府の主要なエネルギー関連研究機関である国家発展改革委員会エネルギー研究所は、具体的な数値的根拠に基づき、十一・五計画の省エネルギー目標は実現可能な範囲であると報告している3)。その中でエネルギー消費原単位を20%削減するには1.95億トン標準炭に相当するエネルギー消費を削減する必要があるが、中国全体では3.5億トン標準炭に相当する省エネルギーポテンシャルがあると推計している。ただし、省エネルギー関連設備への必要投資総額7,000億元以上と多額な上、着工から新規設備稼働までに必要な工期も考慮すると、五ヵ年計画中の短期に省エネ効果が十分発揮できるかが課題であると指摘している。
[3]科学技術政策2〜4、6)
2006年2月に中国政府が公表した「国家中長期科学技術発展計画」では、図表3に示す「三段階戦略」のエネルギー発展ビジョンが提示されている。2020年までの第一段階についてはエネルギー関連の優先研究課題や先端技術が選定されている。その内容を図表4に示す。


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中国では「国家中長期科学技術発展計画」で掲げた全体方針に従い、個別の目的ごとに戦略重点研究開発プログラムが策定および実施されている(図表5)。エネルギーおよび環境分野の開発テーマは、これまでも戦略重点研究開発プログラムに優先研究課題として織り込まれてきたが、エネルギー・環境分野の予算規模および全体に占める割合は2000年以降に高まる傾向を示している(図表6)。

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3.中国の科学技術論文シェアの推移と国際共著関係
次にエネルギー分野における中国の科学技術政策の成果状況を確認するため、科学技術論文シェアの推移を日米と比較する。その際、エネルギー分野全体でのシェアとともに、代表的な5種の個別エネルギー技術分野でのシェアについて、93年以前、94〜99年、2000年以降の各年代での変化を比較して示す(図表7)。

中国のエネルギー分野全体の論文シェアは、90年代初頭までは数%と日米に比較して小さかったが、90年代以降は急激に拡大し、日米との差も縮小してきている。世界第一位の米国には及ばないものの、日本にほぼ肩を並べている。これは先に示した戦略重点研究開発プログラムの成果が顕在化しているもので、科学技術アウトプットの面で日米を始めとする先進国に近づきつつあることを示している。個別エネルギー技術分野の中では、特にリチウム二次電池関連と石炭ガス化関連の技術分野で、論文シェアの伸張が著しく、日米とほぼ肩を並べるまでになってきている。一方、太陽電池関連、原子力関連およびバイオマス関連については、中国と日米の差は依然として大きい。ちなみに90年代中ごろまでは、エネルギー分野全般にわたり米国の論文シェアは世界第一位で、日中両国を圧倒していたが、90年代以降は日本の論文シェアが急伸し、日米の差が急速に縮小および逆転する傾向にある。
次に各年代の、各国のエネルギー分野論文に占める国際共著論文の比率を示すことで、国際共著関係の推移について見てみる(図表8)。中国の共著関係相手国としては、エネルギー分野全体および個別エネルギー技術分野ともに、従来は米国の比率が最も高かったが、90年代以降は一貫して低下傾向にあり、これに代わる形で日本との国際共著論文比率が高まっている。日本にとってもエネルギー分野の共著相手国として中国の比重が高まっており、2000年以降は日米共著関係をも上回っている。また、環境分野においても同様の傾向が確認されている9)。これらの点は、環境・エネルギー分野の基礎研究開発領域において日中両国の関係が相対的に緊密化していることを示している。中でもリチウム二次電池や太陽電池などの新エネルギー関連技術分野において、日中共著関係の比率が顕著に拡大しているが、図表7に示されるように、これらは日本の論文シェアが最も高い分野である。これに対して、原子力分野については米中共著関係が急速に高まっているが、図表7に示されるようにこの分野については米国の論文シェアが最も高い分野である。

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4.中国の科学技術発展の成果と背景
中国各地に開設された国家ハイテク産業開発区では、様々な分野の科学技術成果をもとに、多くの新興企業が次々に成長していることで知られている。売上高の約50%は電子・情報技術分野の新興企業であるが、新エネ・省エネ技術や環境保護技術に関連する新興企業もそれに次いで売上高の約20%を占める健闘を見せている(図表9)。新エネ技術の中で例を挙げると、リチウム二次電池のように従来日本の技術力が圧倒的に優位であった分野において、日本製品を駆逐する中国製品も現れてきている。先に図表7では中国のリチウム二次電池の論文シェアが近年急速に高まっていることを示したが、科学技術成果が短期間にハイテク産業開発区の新興企業の売上に結びついている点が特長である。

こうした短期間の発展を支える要因の一つに、過去20年間にわたり中国が独自に構築してきたイノベーションシステムが指摘されている10)。これはハイテク産業開発区などのインフラ整備にとどまらず、海外の優秀な中国人研究者を呼び戻す「海亀政策」などの人的資源拡充にも重点をおくというもので、大学の先端研究成果が速やかに新興企業の事業成長につながる成果をあげている。環境・エネルギー分野でも、新エネ・省エネ技術についてはこうしたイノベーションシステムが有効に機能している可能性が高い。
2005年にはこれまで存在しなかったエネルギーの最高政策決定機関として、温家宝総理を長とする「国家エネルギー指導グループ」が発足し行政組織も拡充された。2006年2月の「国家中長期科学技術発展計画」において、今後5年間で経済の持続発展可能なエネルギー科学技術のイノベーションプラットフォームを確立することを重点課題に掲げている12)。近年ようやく日本においても、国立大学や公的研究機関の独立法人化にみられるようなイノベーションに向けたシステムの抜本的改革を目指す動きが活発化しているが、中国の事例は非常に示唆に富んでいる。
研究開発のグローバル化が進む中、中国における新たなイノベーションプラットフォーム構築の可能性に対し、欧州の官民はいち早く注目しており、ドイツのマックスプランク研究所の「上海高等研究所」設立やマイクロソフトの「長城計画」などに代表されるように、組織的な交流が進展している10)。日中間でも長期的視野に立った知識ネットワーク構築が望まれる。

5.今後の日中技術協力の課題と可能性3)
以上のような中国の直面する環境・エネルギー問題の状況を背景に、1章で述べた日中省エネフォーラムが開催された。本フォーラムには関係閣僚をはじめとする関係者約850名(中国側約200名、日本企業約500社)が参加し、省エネ・環境に関する制度、政策、技術、経験などについて幅広く意見交換が行われ、今後の日中技術協力のあり方について活発に議論された。省エネルギー・環境問題における日中技術協力に対する両国の認識について、基調講演の内容を基に、図表10にまとめる。日中技術協力の意義として、「二度にわたるオイルショックを克服してきた日本の経験と技術をもとに、中国の直面する環境・エネルギー問題に克服に貢献し、中国の持続可能な経済発展とアジア地域の安定化に貢献する」という点が確認され、協力内容、技術分野などについておおむね両国の認識が一致した。今回の日中省エネフォーラムにおいても具体的な協力事項の合意に至った成果も上がっている(図表11)。

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環境・エネルギー問題解決を図る上で、日本政府からは「企業側の自主管理促進」、「消費者への情報開示」が成功へのポイントとしてあげられたが、中国側の現状として、「中国企業の責任感/モラル向上」、「市民の意識向上」など、市場経済への移行期に特有の問題が阻害要因になっているとの指摘がなされた。
「民間ビジネス主体の協力関係構築の重要性」の点では両国の認識は一致したが、中国側からは日本企業が技術移転する際に、「コア技術の囲い込み」になりがちで発展的な協力関係構築にいたっていないという指摘があった。これに対して日本側からは「投資者保護や知的財産権保護」の懸念が示され、両国の視点に異なる点が見られた。これらは民間の産業技術主体の協力をする際に避けて通れない問題点でもある。
3章で見てきたとおり、環境・エネルギー分野の基礎研究開発領域では、すでに日中の協力関係が進んでいるが、今後も共通の課題に対して両国で協力して取り組む余地は大きい。環境・エネルギー分野の科学技術政策における優先研究課題については、日中両国でほぼ一致している。今回の日中省エネフォーラムでは、産業技術分野での協力関係を中心に議論がなされたが、中国側から「環境・エネルギー分野のモデル研究機関設立」や「政府間政策研究」の提案が出ていることから、今後は基礎研究開発領域やイノベーションの側面からも同時並行に議論することで、今後あるべき両国の補完関係がより具体的となり、円滑な協力関係を構築可能であると考える。

謝 辞
本報告を執筆するにあたり、貴重な情報ならびにご助言を頂いた政策研究大学院大学の角南篤助教授、ならびにエナックス(株)代表取締役の小沢和典博士に深く感謝いたします。
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