[レポート2]

一人一人の環境保全行動の実践に向けて
―環境教育の推進と環境モニタリング情報の活用―

福島 宏和

浦島 邦子

環境・エネルギーユニット


1.まえがき

  温室効果ガス排出削減目標に関する京都議定書が1997年に合意され、日本は2008年〜2012年における排出量の目標を、1990年排出量に対して6%削減としている。1990年から2002年までの排出部門毎のCO2排出量の変化1)は、産業部門:1.7%削減、工業プロセス部門:14.0%削減、エネルギー転換部門:0.3%削減となっているが、廃棄物部門:43.2%増、家庭部門:28.8%増、運輸部門:20.4%増、業務・その他:36.7%増となっている。割合的には依然として産業部門が多いものの、京都議定書の目標を達成するには、国民一人一人のエネルギー問題に対する関心の喚起と理解の促進も重要である。地球温暖化問題以外の大気汚染や水質汚染、廃棄物等の様々な環境問題に対しても、誰かが取り組むべき問題であるという意識から脱却し、国民一人一人が当事者意識を持って取り組むことが極めて重要であると言える。しかしながら、エネルギー問題や環境問題に対する国民の意識調査結果では、特に若年層(20代)を中心に意識が低いことを示唆しており、各個人の取組が大きな意義を持つ環境教育の普及は早急に対応すべき課題と考えられる。

 環境教育の大きな目的は、地球温暖化問題や大気汚染問題、水質汚染問題、廃棄物問題等の様々な環境問題に対する各個人の環境保全行動を推進させることであり、その過程は、[1]環境の現状把握と問題認識、[2]個人が取り組める具体的行動の理解、[3]個人の環境保全行動の実施と継続、の3つの段階から成る。ここでは、環境教育を通して環境保全行動を推進するために必要な取組について述べる。

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2.環境教育の充実の必要性

2‐1.環境に関する意識調査結果

 図表1は、環境白書(2004年版)に報告された環境意識に関する国際比較2)である。図表1によれば、我が国の国民の意識は、「個人が努力しても環境浄化のためにできることは多くない」、という意見が他国に比較して多い結果となっている。図表2〜4は、環境省が実施した、「環境にやさしいライフスタイル実態調査」(2003年度調査)の結果3)である。図表2は、我が国において個人が実施する環境保全行動がどの程度の効果を及ぼすかを、年齢別に調査した結果であり、特に20代の若年層において、「個人の環境保全行動が役に立っている」という意見が少ない。図表3は、省エネルギーに関する意識調査を年齢別に実施した結果である。「環境保全や資源節約のために良いことだと思う」という意見は、幅広い年齢層において9割以上の人々が抱いており、省エネルギーに対する必要性は高いとされている。しかし、実際の行動に関する質問では、「具体的に何をしていいかわからない」、「手間や時間がかかる・面倒だ」といった意見が、特に若年層(20代)において多くなっている。また、図表4は、環境保全行動に関する意識調査結果であるが、「環境保全のために、自分でできることはすべきである」といった意識は、幅広い年齢層において9割以上の人々が持っている。しかし、行動に関する質問に対しては、「自分に何ができるかわからない」、「行っても効果を実感できない」、「定期的に行ったり、長続きをさせたりするのがむずかしい」といった意見が、特に若年層(20代)において多くなっている。

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 図表5は、環境情報への感心と満足度に関する意識調査結果4)である。ここでは、「日常生活が環境に及ぼす影響」、「環境問題が生活に及ぼす影響」、「地域環境の情報」、「地球環境問題の情報」等の多くの項目への関心度が75%以上であるのに対して、これらの情報が得られているという満足度については低い結果となっている。

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2‐2.環境教育への取組

 人々が環境問題に対して意識を持ち、環境保全行動の実施と継続を行えるようにすることを目的とする環境教育が国際的に展開されたのは、環境問題をテーマとした最初の国際会議である「国連人間環境会議」(1972年、ストックホルムにて開催)に始まる。本会議で採択された「人間環境宣言」の中で、その重要性が明確に指摘されたのを契機として、ユネスコ(UNESCO)/国連環境計画(UNEP)を中心として、環境教育の国際的な取組が進められた。1975年にはベオグラードで「国際環境教育ワークショップ」が60カ国、96名の環境教育専門家の参加を得て開催され、その際にとりまとめられた「ベオグラード憲章」において、「環境とそれに関わる問題に気づき、関心を持つとともに、当面する問題の解決や新しい問題の発生を未然に防止するための知識、技能、態度、意欲、遂行力を身に付けた人々を育てること」の重要性とそのための環境教育の内容、在り方等のフレームワークが示された5)

 これを受けて、1977年にトリビシにて政府間会議が開催され環境教育の目標として、図表6に示す内容が示され、その後の環境教育の基本となった。

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 このなかで、環境教育が他の学習と異なる点は、環境教育は単なる知識ではなく活動に参加することと行動することが求められている点である。つまり、環境教育の成果は、実際に社会生活を営むなかで行動として現れ、何らかの効果として現れなければならないということである7)

 我が国で、環境教育の取組が急速に広まったのは、昭和60年代(1985年から)に入ってからである。1988年3月、環境庁の環境教育懇談会が、環境教育の基本的考え方を明らかにして以降、国において積極的な環境教育・環境学習の取組が進められた。当時、環境教育・環境学習への関心が高まり始めた背景には、特定の発生源に対する厳しい環境規制が効果を発揮して産業公害が一応沈静化しつつある一方で、日常生活や通常の事業活動が大きな原因となっている都市・生活型公害については改善が見られず、むしろ悪化していたことが挙げられる。

 1993年に成立した環境基本法では、「環境の保全に関する教育及び学習の振興」を環境保全のための主要な施策の一つとして規定し、我が国においても、環境教育・環境学習の重要性が法制上位置付けられた。

 また、地球温暖化問題と深く関係するエネルギーの利用に関して、国民の理解を深めることが重要な課題となっており、1997年4月に開催された「第26回総合エネルギー対策推進閣僚会議」においては、ライフスタイルの見直しを含めた、一人一人のエネルギー問題への一層の取組や、資源・エネルギーに関する教育の充実等の重要性が取り挙げられた5)。また、2005年9月には、エネルギー環境に関連した教育を底上げし、国民のエネルギー問題への関心喚起と理解促進を目的として、日本エネルギー環境教育学会8)が設立され、その活動が展開され始めている。

 環境教育は、各年齢層の各個人が学校、家庭、地域、職場等、様々なフィールドにおいて、ただ単に知識を身に付けるだけではなく、今までは気付かなかったか、自分とは関係がないと思っていた環境問題を自分に大きく関連する問題として捉え、それに向けて具体的な行動を継続する実践力が極めて重要である。環境教育を通した環境問題に対する取組は、これからもますます大きな意義を持つ。

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3.日本の環境教育と環境先進国の環境教育事例

3‐1.日本の環境教育の現状

 持続可能な社会の実現に向けて、環境教育は子供から大人まで幅広い年齢層を対象に、様々な場面において積極的に進められなければならない。また、環境教育は、環境保全に向けた具体的な行動につなげることが重要であるため、実践や体験を重視した方法が望ましい。図表7に、日本の環境教育の推進施策の概念図9)を示す。実践や体験を重視した環境教育を展開するには、[1]人材の育成、[2]プログラムの整備、[3]情報提供、[4]場や機会の拡大、が重要である。これらは、後述する、初等中等教育における環境教育、高等教育における環境教育、社会教育における環境教育、の全てにおいて重要である。また、各省庁間の連携強化、国と地方公共団体の役割分担及び連携強化、民間事業者等を活用した環境教育等の推進、等が推進面で重要であるとともに、国際的な協力体制も有効である。現在、環境教育に関する国際協力としては、アジア・太平洋地域諸国における環境教育の充実および普及を図るため、ユネスコ・アジア太平洋地域教育開発計画(APEID)への協力の一環として、専門家を我が国に招致してセミナーを開催するとともに、財団法人ユネスコ・アジア文化センターにおける環境等に関する教材の開発および普及の支援が行われている10)

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(1)初等・中等教育における環境教育

[1]制度

 我が国の初等・中等教育における環境教育としては1965年前後の公害問題等を契機として、社会科、理科、保健体育科等で環境に関する内容が取り扱われはじめ、その後、内容の充実が進められてきた。1989年の小・中・高等学校学習指導要領の改訂では、環境教育は環境に関わる内容の理解だけにとどまらず、環境問題の解決に必要な能力を育成することの重要性、すなわち社会の変化に主体的に対応できる能力や態度の育成、体験的な学習や問題解決的能力の育成が強調された。1998年(高等学校は1999年)に改訂された学習指導要領においては、社会科や理科などの各教科における環境に関わる内容の一層の充実が図られた。ここでは、新設された「総合的な学習の時間」において、環境問題について、体験的・問題解決的な学習を通して、教科横断的・総合的に学習を深めることができるよう改善充実が図られた11)。図表8に、1998年に改訂された学習指導要領における環境教育に関わる主な内容を示す。なお、2004年度には小学校の75.3%、中学校の52.8%が「総合的な学習の時間」において、環境を課題とした学習に取組んでいる12)

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[2]小中学生の意識

 図表9は、環境省が実施した、小中学生版「環境にやさしいライフスタイル実態調査(2003年度調査)」結果の中の環境問題に対する考え方を示す13)。この結果より、「ものの無駄づかいをしたり、大量のごみを出したりする今の生活は改めた方がよい」、「環境問題は自分にも影響がある問題だと思う」といった考え方は広く浸透していることがわかる。しかし、「環境保全のために積極的に行動したい」といった行動意欲に関しては更なる意識喚起が望まれる。

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 先に記述した図表2〜4の意識調査結果では、20代の若年層において、環境問題に取り組む意識が低いという結果となっていたが、1998年の学習指導要領に基づいて開始された、各教科や「総合的な学習の時間」を通した環境教育の更なる充実が進められれば、今後は若年層の環境問題に対する取り組む意識の向上が期待される。

[3]教職員の意識

 図表10と図表11は、(独)国立環境研究所により小中学校の教職員を対象に実施された、「環境教育・環境学習の推進に関するアンケート調査」の結果である。図表10は、環境教育・環境学習に取り組むときの問題点を示しており、小中学校ともに、「予算が少ない」についで、「時間の確保が困難である」の意見が多くなっている。また、「取り組み方法がわからない」、「指導者研修の機会が少ない」等の意見も20%前後であり、教職員の環境教育に関する指導力の向上が必要である。ここでは、図表7に示した[1]人材育成、[2]プログラムの整備、[3]情報提供、等における課題が伺える。また、図表11は、「取組頻度」に関する結果を示す。小中学校ともに、取組頻度の高い学校と低い学校が混在しており、[4]場や機会の拡大という面でも課題があることがわかる。これらの結果より、環境学習を行うための支援の充実、全ての学校における環境学習の一層の推進が求められていると言えよう。

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(2)高等教育における環境教育

 大学等における環境に関する教育研究は、様々な学部・学科において実施されており、環境に関わる人材の養成も、大学等の自主的・自律的な取組として推進されている。現在、国立大学においては52大学に、公私立大学においては133大学に「環境」と名の付く学部・学科が設置されており、また、国公私立合わせて576大学において環境に関する授業科目が開設されている10)。また、環境マネジメントシステム規格であるISO14001の認証を取得した大学では、環境マネジメントシステム(EMS:Environmental Management System)構築に学生を参加させることを通して、実践的な環境教育の取組が展開され始めている。このように、環境に関する教育は多くの大学で展開され、より望ましい状況になりつつある。今後は、環境問題に対して意識の低い学生をも含めて、更に多くの学生が環境に関する科目を受講して、環境保全行動の実践力を習得できることが望まれる。

 また、前述した初等・中等教育において環境教育がより確実に実践されるためには、より多くの教師が環境教育の基本を身につける必要がある。しかし、図表10に示された結果のように、「取り組み方法がわからない」指導者が20%前後いることから、指導者への環境教育の徹底は急務である。現在の大学の教員養成課程の中では、環境教育は必修科目としては位置付けられていない。よって、これからの初等・中等教育における環境教育の徹底に向けて、環境教育の人材育成といった観点から、教員養成課程での環境教育科目の必修化が強く望まれる。

(3)社会教育における環境教育

 環境教育は、子供から大人まで幅広い年齢層を対象に、学校以外にも社会の様々な場面において積極的に進められなければならない。

 社会教育施設における環境教育は、公民館、図書館、博物館などの社会教育施設が中核となっている。環境問題を含む地域における種々の課題を総合的に把握した上で、事業の企画、実施、評価を一体的に行うモデル事業が実施されている。また、その成果の全国的な普及啓発を行うことを通じ、社会教育の一環としての環境教育が推進されている。特に、環境に関する子どもの体験活動としては、地域の身近な環境問題をテーマに、子どもたちが自ら企画し、継続的な体験学習を行う体験型環境学習が推進されている10)

 現在、社会教育における環境教育の「場や機会の拡大」への取組は、多くの省庁によって、図表12に示したような施策が展開されている。図表13はその一例であり、小中学生が誰でも参加できる環境についての活動「こどもエコクラブ」の認知度に関する調査結果(環境省実施)であるが、認知度はまだ23.9%という結果であった。現在展開されている活動に関する情報提供を、より積極的に行うことが必要である。

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3‐2.環境先進国の環境教育事例

(1)環境指標の世界ランキング

 環境パフォーマンス指数(Environmental Performance Index:EPI)とは、環境パフォーマンスの目標を設定し、各国の環境持続可能性についての達成状況を評価するものである14、15)。EPIはエール大学の環境スクールとコロンビア大学地球研究所の環境専門家らにより作成された指標で、結果は毎年発表されている。EPIは環境汚染防止と天然資源管理の成果を量的に評価する手法の一つであり、環境に関する政策決定の参考にされている。2006年EPIの国別環境パフォーマンスランキング(Pilot 2006 EPI)では、ニュージーランドが1位、以下、スウェーデン、フィンランド、チェコ、イギリスの順となっており、日本は14位であった。ちなみに、米国は28位であり、環境衛生の項目では最高の評価を受けたものの、再生可能エネルギー、温室効果ガス排出および水資源などの重要項目で高得点を得ることができなかった。

(2)スウェーデンの環境教育事例

 ここでは、EPIで2位と評価されている環境先進国スウェーデンにおける環境教育を紹介する。大きな特徴は、以下に示すように就学前の教育や社会教育の充実等が挙げられる17、18)

  • 保育園において、あらゆる学習の基礎を築く重要な段階である就学前の幼児を、地域の自然(水辺、里山、森林)に出向かせ、さまざまな遊びや楽しい活動(自然体験)を通して、環境に対する興味を持たせ、自然の循環を学ばせる活動(ムッレ活動(1))が広く取り込まれている。
  • 環境教育の主体は、自治体、公立や私立の保育園・幼稚園、小学校、中学校、高校、大学の教育機関、企業、財団などのNPO等、多様にわたっている。しかも、それぞれの施設や機関は、共通の政策や目標を共有しているため、単独に活動するのではなく、他の施設や機関と協働して活動を展開している。
  • 自治体の議会や行政方針が実際の学校教育に強く結びついており、各自治体はローカルアジェンダ21(2)に積極的に取組んでいる。また、その活動は市民レベルで認識され、浸透している。
  • 環境教育を進めていくうえで、社会教育施設(博物館等)が有効的に活用されている。

 スウェーデンにおいて、幼児期から五感を通した自然体験型環境教育が重要視されているのは、自然に接する年齢が幼ければ幼いほど、その子供は将来、自然に対する興味が大きくなるという考えに基づいている。実際に自然の中で自然の循環(水の循環、空気の循環、生物の循環(食物連鎖)等)を学ばせることにより、ヒトも自然の大きな循環の一部であることを理解させ、環境問題を引き起こさないための基本となる考えを定着させている。また、教わった内容を子供たちが家庭で話すという行為により、家族ぐるみで環境について考えるようになり、親たちへの教育効果も期待されている。

 兵庫県・市島町では、スウェーデンの環境教育の一つである「森の妖精ムッレ活動」を1990年から導入している。図表14はその教育効果を調べるアンケート結果(2000年)の一部(中学生2年生に対する環境問題に関する意識)である18)。「環境問題に関心がある」、「環境問題は世界の重要な問題であると思う」といった質問に対して、ムッレ活動の経験者と非経験者とに大きな差がでており、日本においてもムッレ活動の有効性が検証されている。

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 スウェーデンの保育園で展開されている、幼児期からの自然体験型学習は、今後の日本の環境教育を充実させる上での大きな示唆となる。また、スウェーデンにおける、環境教育の主体間の強い協働体制の確立、ローカルアジェンダ21の市民の取組、等も学ぶべき点として挙げられる。

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4.環境保全行動の推進に向けての手段

4‐1.環境保全行動への過程

 以上のように日本においては、環境教育を一層進めるとともに、環境教育が各個人の環境保全行動に結びつくような施策が必要と考えられる。環境教育が目指す「環境保全行動への過程」は、大きく分けて、次の3段階、[1]環境の現状把握と問題認識、[2]個人が取り組める具体的行動の理解、[3]個人の環境保全行動の実施と継続、からなる(図表15参照)。段階[1]と段階[2]には、環境に関する情報を分かり易く効果的に提供することが重要であり、段階Bは各個人が取り組める行動の支援システム・機器の普及が効果的である。

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 以下に、各段階で有効と考えられる手段を提案する。

4‐2.環境に関する問題意識の喚起と環境保全に向けた具体的行動の理解の促進(段階[1]と[2])

(1)環境に関する問題意識の喚起(段階[1])

 一般的に、環境問題は認識しにくく実感として捉えにくい面があるが、この主な要因は、環境の現状や変化を視覚的に捉えにくいためと考えられる。例えば、地球温暖化の主原因物質であるCO2が大量に排出されたとしても、このガスは無色無臭であるため、その排出量の変化を直接認識することは難しい。つまり、多くの人が環境問題(大気汚染度、水質汚染度、エネルギー消費量、等)をより身近な問題として捉えられるようにするには、身近な指標・分かりやすい単位を使って表示することが有効であると考えられる。例えば、エネルギー使用量をCO2排出質量に換算して、具体的な単位にて表示することにより、問題意識の喚起を促すことができる。

 また、単に測定値を表示するだけではなく、環境基準(目標とする基準値)等との比較情報(環境汚染の深刻度)や警告情報(現状が継続すると発生しうる問題の例示)も、問題意識の喚起に有効となる。

(2)環境保全に向けた具体的行動の理解の促進(段階[2])

 次の段階は、各環境問題に対して個人が取り組める具体的行動を理解をさせることである。ここで、具体的行動に関する情報を提供する際に、「環境保全行動の結果、得られる効果の表示」が効果的と思われる。具体的な数値(例えば、自動車の走行を削減した距離と削減された排出CO2量の関係、食用油を排水口から流した場合の油の量と水質浄化に必要な水量の関係、電化製品の待機電力と排出CO2量の関係、等)を表示することは、行動意欲の向上といった側面で有効である。

(3)メディアによる環境情報の伝達(段階[1]と[2])

 環境モニタリングにより、環境の現状や変化の数値化・可視化を行い、環境保全に向けた具体的行動を理解させる際には、様々なメディアを通して情報を発信することが必要である。情報発信は、特に環境問題に対する意識の低い人を対象にする必要がある。

 インターネットを利用した情報の提供は、環境問題に対して意識の高い人に対しては、極めて有効である。例えば、多くの日本国内の大気測定局でモニタリングされた大気汚染情報はインターネットを利用した「大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君)」によりリアルタイムに情報を入手することができる19)。しかし、意識の低い人は情報を発信しているサイトにアクセスする可能性が低い。意識の低い人向けには、環境モニタリングにより得られた情報に視覚的効果を加え、多くの人々が問題意識として捉えられる情報に加工した上で、一方的に情報を発信する手法を採ることが有効と考えられる。例えば、人通りの多い場所に設置された電光掲示板(液晶掲示板)、電車内に設置された液晶表示器を媒体とした情報の発信、また、現在盛んになりつつあるテレビやラジオを利用した情報発信も有効と考えられる。なお、環境問題に対する意識が比較的低い若年層に対しては、若者向けのテレビ番組や若者の集まる地域での情報発信が特に有効と考えられる。

4‐3.環境保全行動の継続(段階[3])

 最後に必要な段階は、環境保全行動の実施と継続である。環境保全行動を持続させるには、各個人の行動が環境保全へ及ぼす効果を具体的な指標によって、フィードバックさせる仕組みを取り入れることが非常に重要である。また、経済的インセンティブを働かせるために、金銭という指標を用いてフィードバックさせることも有効である。現在、展開されつつある例を以下に示す。

(1)CO2排出量を指標とした環境家計簿

 日々の生活において環境に負荷を与える行動や環境保全行動を「環境家計簿」に記録する提案がなされている。この「環境家計簿」により、各家庭から排出されるCO2量を各家庭で把握することが可能となる。CO2量の削減活動の効果はフィードバックされて次の行動につながるため、環境保全行動の継続が容易となる。消費者は具体的な数値で自分の家庭がどれだけ環境負荷をかけているかを知ることができ、無駄なエネルギー消費やごみの量などの削減に結びつけることが容易となる。また同時に、家計負担を減らすという経済的インセンティブが働く効果も期待できる20)。図表16に環境家計簿の例21)を示す。また、環境家計簿のシステムを職場単位、地域単位といったグループで普及させることができれば、より大きな効果が期待できる。

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(2)燃費情報を指標とした自動車用車載モニター

 家庭から排出されるCO2のうち自家用車から排出される割合が約3割を占めている。したがって、各個人が取り組むことができる環境保全行動の一つであるエコドライブ(燃料消費を抑制し、CO2削減に貢献する運転方法)の普及は、地球温暖化対策の観点からも重要である。エコドライブを継続させるツールとして、燃費情報をリアルタイムで表示する車載モニターが有効である。運転者は運転状態によって変わる燃費情報がリアルタイムで得られるため、省エネ意識を常時持ち続けてエコドライブを継続することが容易となる22)

 このような、フィードバック機能を持つ機器を低価格で普及させることにより、エコドライブの普及は加速される。

(3)CO2排出量と使用料金を指標とした消費電力モニター

 電力消費量を、リアルタイムで具体的指標であるCO2排出量や使用料金に換算して、モニター表示することにより、各個人の省エネ行動を継続させることが容易となる。

 学校や職場、家庭にこのようなモニター機器を低価格で供給あるいは各機器にモニター機能を装備することにより、大きな効果が期待できる。

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5.まとめ

  環境問題やエネルギー問題を解決するには、一人一人のライフスタイルの変革が必要である。そのために、各個人の環境保全行動につながる環境教育の普及や環境モニタリング情報の活用が有効である。

 環境教育は、学校や社会の様々な場面で、広範囲の年齢層の国民に対して展開されなければならないが、その普及に向けては様々な方法が考えられる。学校教育においては、環境教育のための支援の充実、環境教育の一層の推進が望まれる。環境保全行動の実施に向けては、環境に関する問題意識の喚起や環境保全への具体的な行動に関する情報を提供することが重要である。また、環境保全行動の継続に向けては、行動の効果をフィードバックできるシステムや機器の普及が重要である。以下に注目すべき3点を示す。

[1]初等・中等教育における環境教育の支援の充実と高等教育における環境教育の一層の推進

 現在、初等・中等教育においては、「総合的な学習の時間」や各教科において環境教育が実施されているが、学校間に取組頻度に差が見られ、教職員の指導力の向上など環境学習を行うための支援の充実が望まれる。

 高等教育においては、環境問題に対する意識の低い学生を対象に環境教育科目の履修の推進が望まれる。また、将来、児童・生徒に対して環境教育を行うという意味で、大学での教員養成課程における環境教育科目の履修の必修化も望まれる。

[2]環境に関する問題意識の喚起と環境保全に向けた具体的行動の理解の促進

 環境保全行動に向けての第一段階として、問題意識を喚起するには、環境の現状や変化をモニタリングして数値化・可視化することが重要である。またその際、具体性のある単位による表示、環境基準等との比較情報や警告情報の表示が有効である。

 環境保全行動に向けての第二段階では、環境保全につながる具体的行動に関する情報を提供することが有効である。その際、環境保全行動による効果を表示することがより望ましい。

 上記の情報は、環境問題に対する意識が低い人々を対象に伝達することが特に重要である。そのため、問題意識が低い人々でも、容易に問題意識が持てるように視覚効果などを使った情報加工が必要になる。情報のメディアとしては、人通りの多い場所に設置された電光掲示板(液晶掲示板)や、テレビ等の利用が効果的である。

[3]環境保全行動の継続を容易にするフィードバック機能を備えたシステム・機器の普及と開発

 各個人の環境保全行動の継続は重要である。行動を持続させるには、各行動が環境保全に対してどのように効果を及ぼすかを、具体的な指標を用いてフィードバックすることが有効である。例えば、CO2排出量を指標とした環境家計簿、燃費情報を指標とした自動車用車載モニター、CO2排出量や使用料金を表示する消費電力モニターなどは有効である。そして、これらのシステムや機器を低価格化し、普及促進させることが重要である。そのためには、システムや機器の更なる開発に取り組む必要がある。

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謝 辞

 本稿をまとめるにあたり、日本エネルギー環境教育学会会長、筑波大学大学院の長洲南海男教授、日本野外生活推進協会会長の高見豊様、社団法人日本環境技術協会の三笠元様のご意見を参考にさせていただきました。ここに深く感謝の意を表します。

1) 環境省、2002年度(平成14年度)の温室効果ガス排出量について:http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/2002ghg.pdf

2) 環境省、2004年(平成16年)版環境白書(総説 広がれ環境のわざと心、第2章):http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/hakusyo.php3?kid=219

3) 環境省、環境にやさしいライフスタイル実態調査(2003年度(平成15年度)調査):http://www.env.go.jp/policy/kihon_keikaku/lifestyle/h1610_01/03_5.pdf

4)環境省、環境にやさしいライフスタイル実態調査、調査結果の要約:http://www.env.go.jp/policy/kihon_keikaku/lifestyle/h1610_01/01.pdf

5) 環境省、1997年(平成9年)版環境白書:http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/honbun.php3?kid=209&bflg=1&serial=10336

6) 環境省総合環境政策局環境教育推進室:http://www.ceis.or.jp/kankyogakushu/kankyo/about/01/

7) 持続可能な社会のための環境学習:木俣美樹男・藤村コノヱ著

8) 日本エネルギー環境学会ホームページ:http://www.jaee.jp/

9) 環境省、1997年(平成9年)版環境白書:http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h15/html/10.html

10) 文部科学省における環境問題への取組:http://www.mext.go.jp/a_menu/kankyo/05091601.htm

11) 文部科学省国際教育協力懇談会事務局資料集:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kokusai/002/toushin/020801c.htm

12) (独)国立環境研究所、環境教育・環境学習の推進に関するアンケート調査」結果報告:http://www.eic.or.jp/enquate/kekka2/

13) 環境省、小中学生版 環境にやさしいライフスタイル実態調査(2003年度(平成15年度)調査):http://www.env.go.jp/policy/kihon_keikaku/lifestyle/h1610_02/03.pdf

14) Environmental Performance Index:http://www.yale.edu/epi/

15) 日本の環境持続可能性は世界30位、科学技術動向No.49、2005年4月:http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt049j/index.html

16) 環境省、2005年度(平成17年度)環境白書:http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h17/html/kh0503070200.html

17) 槇村久子、「スウェーデンの環境教育に見る多様な主体と協働」:http://www.cs.kyoto-wu.ac.jp/bulletin/6/makimura.pdf

18) 清水麻記、高見 豊、足立邦明、荻野尚子、田中春彦、「地域における就学前段階からの自然体験型学習の重要性―妖精ムッレ活動の事例を中心として―」日本環境教育学会誌、VOL.13、NO.2、MAR.2004

19) 大気汚染物質広域監視システム、環境省:http://.w-soramame.nies.go.jp/

20) 環境家計簿詳細解説:http://eco.goo.ne.jp/word/life/S00139_kaisetsu.html

21) 社団法人 環境情報科学センター:http://www.ceis.or.jp/kankyokakeibo/tokucho.html

22) 省エネルギー設備等導入促進情報公開対策等事業:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構:http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/pamphlets/shouene_taisaku/jidousya.pdf

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