[レポート1]

廃棄物不法投棄による汚染の修復と技術

川本 克也 浦島 邦子
客員研究官 環境・エネルギーユニット


1. はじめに

 近年、安全・安心に対する社会的関心が高まるとともに、科学技術がこの課題に果たすべき役割についての国民の期待も大きくなっている。今後の科学技術政策には今まで以上に安全・安心に対し貢献することが求められる1)

 廃棄物の不法投棄は、このような社会の安全・安心を脅かす問題として改善しなければならないテーマのひとつである。図表1に示されるように2)、本来ならば再利用または資源として再生利用される、あるいは適正に処理・処分されるはずの廃棄物を不法に投棄する行為が後を絶たない。不法投棄は、循環型社会の構築を阻害するだけでなく、投棄される廃棄物に含まれる有害物質が周辺の環境を汚染することにより、重大な環境問題を引き起こす要因となる。不法投棄による汚染には、通常の人為活動・産業活動などに起因する環境汚染とは異なる特徴がある。また不法投棄された場所の原状回復のためには、技術的課題に加え、巨額の経済的損失の問題や周辺社会への影響などさまざまな課題がある。

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 不法投棄の背景となる要因および対策には社会的要素と技術的要素とがあり、別の観点では、事前の回避的要素と事後の対策的要素とがある。廃棄物の処理コストなど社会的な要因と不法投棄の発生との間には密接な関連性があり、不法投棄の根本的解決のためには不法投棄が生じる社会・経済的な機構を十分に解明し、不法投棄が起こらない仕組みをつくることが本質である。本稿では科学技術動向の観点から、事前から事後にわたる技術的要素に関する事項に焦点を絞る。そして、不法投棄と環境汚染の実態、とられた技術的対策などについて整理・解析することにより、不法投棄に係る事前の予防的技術と汚染修復技術に向けられるべき科学技術政策に言及する。

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2. 不法投棄の現状と環境汚染の特徴

2‐1.日本全国の実態2、3)

 産業廃棄物の不法投棄に関する過去12年間の動向を図表2に示す。不法投棄の発生件数は、平成5年度から10年度まで年を追うごとに増加し、10年度には1,000件を大きく超えた。13年度まで1,000件以上で推移し、14年度からは減少に転じている。一方で、投棄された廃棄物の量は、件数に呼応する結果にはなっていない。これは、不法投棄となった事案の量に大きな違いがあり、大規模な事案が発覚するような場合にはそれだけで全投棄量のうちのかなりの割合を占めることがあるためと思われる。たとえば、図表2で15年度の投棄量74.5万tのうち、岐阜市(椿洞地区)で起こった事案だけで56.7万tを占め、15年度内の76%に相当する量である。

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 図表3は、投棄される産業廃棄物の種類の観点から、件数と投棄量とを平成16年度について整理した結果である。件数では、がれき、木くず、建設混合廃棄物の順に多く、これら3者で約64%を占めるほか、その他の建設系の種類を含めると建設廃棄物が約71%にのぼる。量については、建設系の廃プラスチック類だけで56%を占め、建設廃棄物合計が全体の86%に達する。また過去の年度統計からは、件数では廃棄物種類の構成別にあまり変化はないが、量ではがれき、木くず、建設混合廃棄物が20%前後ずつを占める場合と、15、16年度のように大規模な事案のため、特定の廃棄物が極端に多くなった場合がある。

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 不法投棄の実行者については、件数では排出事業者が約48%でもっとも多く、投棄量からは同じく排出事業者か無許可業者が大部分を占める。不法投棄の場所(地目別)については、山林と農地で約半分を占め、人目につきにくい場所が選ばれている。都道府県別には、茨城県と千葉県が非常に多くなっており、大都市圏で排出された廃棄物がその周辺地域に運ばれるという構造が読み取れるほか、青森県、長崎県など地方で不法投棄の多い自治体も目立つ。

 また図表4は、最近の不法投棄による支障の除去状況である。件数に関しては、30〜35%が未着手となっている。一方、量に関しては、大規模な事案の影響(15年度)があると、一部着手と未着手の割合に大きな差が出る。しかし対策に時間を要するため、除去が完了する割合は10%に満たない点では共通している。

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2‐2.大規模事例の特徴と対策

 不法投棄に起因する環境汚染の特徴として、以下の点があげられる4)

  • 埋められている廃棄物の種類が多岐にわたり、含有汚染物質も多種類である。
  • 対策をとる場合、緊急対策、応急対策次いで恒久対策というように多段階的に適用することが必要となる。
  • 汚染された場の地形が複雑な場合が多く、正確な調査や修復対策が一般に容易でない。
  • 汚染に関する情報量が少ない。
  • 汚染原因者の特定が通常困難である。

 また、汚染物質の種類や不法投棄の規模および場所の地理的な特性などにより、環境影響の生じ方やその程度も異なる。図表5に全国で発生した不法投棄の大規模な事例と特徴を示す5〜8)

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 このように現在、豊島、青森・岩手県境においてとくに問題解決のための対策がとられているが、図表4に示すようにいずれも修復には時間を要する。

(1)香川県豊島の事案

 香川県豊島は、小豆島の西側に位置する瀬戸内海の小島である。ここで汚泥などを利用してミミズを養殖し土壌改良剤をつくるという中間処理業をはじめた業者が、1977年に事業変更の申請を行い、1983年ごろからはシュレッダーダスト、廃油、汚泥などを大量に搬入して埋め立て処分を行い、一部を野焼きするようになった。生活環境上の被害を受けた住民からの苦情や県に対する訴えなどが続き、1990年になって兵庫県警が廃棄物処理法違反の容疑でこの場所の強制捜査を行った。そしてこの業者による廃棄物の不法投棄などは終了したが、広大で重篤な環境汚染が残った。現在、豊島における廃棄物等処理事業は、環境と安全への配慮、循環の実現および情報の公開の3つを基本的な理念に掲げて行われている。豊島に投棄された60万tを越える量の廃棄物等(廃棄物や汚染土壌の混合物)は、5km離れた直島に専用船「太陽」で輸送され、中間処理される。年間6万tを処理し、10年で完了予定である9)

 図表6に、両島における廃棄物等の処理の流れを示す10)。中間処理での主たる工程は溶融処理である。豊島では、廃棄物層から浸出する有害物質を含む水が海域へ流出するのを防ぐために海岸線に沿って遮水壁を設置した。さらに、汚染の拡大防止と施設建設のため散在した廃棄物等の場所を移動し、また廃棄物等の飛散防止、雨水流入の排除を目的とした透気・遮水シートを敷設する、という暫定的な環境保全措置が施された。浸出水および地下水は、高度排水処理施設で処理される。廃棄物等は掘削されたときの性状の変動が大きい。そこで、中間処理での溶融炉の運転を安定に行い、また溶融によって得られる資源化物を安定に得るために、処理をする廃棄物の均質化が必要となる。とくに水分量、主成分の組成および可燃物量の3項目が重要とされる。含水率が高いと、処理設備での取り扱いに問題が生じやすくなるほか溶融処理での燃料使用量の増加を招くことになる。そこで、1,300℃程度での溶融処理を安定に行うため、溶流温度に大きな影響を与えるCaO/SiO2比を適切に調整する必要がある。また、溶融対象物の発熱量の変動を抑えることが重要である。このように処理対象廃棄物を均質化するために、生石灰を溶融助剤として混合し、発熱反応を利用して水分の調整を行う。こうして養生を行った後に、処理事業のために開発された専用トラックで直島へ輸送される。

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 中間処理施設では、輸送された廃棄物等とともに一般廃棄物が溶融処理される。溶融炉は、100t/日の処理能力の炉が2基設けられており、廃棄物等の全量を処理するのに10年を要すると予定されている。溶融処理においては一般に溶融スラグと溶融飛灰が生成し、通常は、溶融スラグがそのままコンクリート骨材などに有効利用される。しかし、豊島の廃棄物等にはシュレッダーダストが多く自動車部品に由来する銅線、アルミニウム部品、ステンレス鋼部品などが多く含まれるので、これらが金属の粒子となってスラグに混入する。このため、とくにこの金属分を分離・精製することでスラグの品質を高めるとともに、分離した金属の有効利用が可能となる。それは、特別な破砕と選別、さらに比重差による分離手法を用いて行われる。

 図表7は、溶融処理と副成物生成の流れを示している11)。スラグは品質管理を行った後に、土木用資材として香川県内の公共事業などで利用される。溶融飛灰については、亜鉛や鉛などの金属が多く含有されているので、直島で従来から操業する銅精錬工場へ輸送され、重金属原料として利用される。なお、鉄の塊や岩石などの溶融不適物を処理するためにロータリーキルン炉が別途設けられ、ここからの排ガスは溶融炉の系統と同じ処理が行われている。

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(2)青森・岩手県境の事案

 青森・岩手県境での不法投棄事案は、1990年代初期、青森県八戸市の産業廃棄物処理業者が、埼玉県の産業廃棄物処理業者から引き受けた産業廃棄物を不法投棄したことに始まり、1994年から保健所による立入調査と指導がなされ、2000年から汚染の詳しい実態調査が行われた。この場所に関与した排出事業者は首都圏を中心に、北海道から九州まで広がっていった。

 この場所では、それぞれの県ごとに修復対策が実施されている。青森県では雨水や地下水の流れにともなう有害物質の流出への対応策として遮水壁を設け、また、複合的な汚染に対処可能な高度な排水処理による水の浄化対策を実施している。有害廃棄物と定義された埋め立て廃棄物を撤去し、青森市内の産業廃棄物処理(ガス化溶融炉による高温溶融処理)施設に持ち込んで処理を行っている。

 図表8は、上記高度排水処理施設のフローである。この汚染場所からの浸出水には、ジクロロメタンやベンゼンなどの揮発性有機化合物(VOC)が含有されるため、原水はまずVOC処理設備で曝気法によって気相へ移行させた後に活性炭吸着によってこれを除去する。この後、生物処理法によって生物化学的酸素要求量(BOD)(1)成分を主体に除去し、凝集膜ろ過法によって微細な粒子状物質を除去する。そして、オゾン・紫外線方式の促進酸化法(化学的分解処理設備)によって水に溶存するダイオキシン類などの難分解性物質および色度成分を除去する。活性炭処理設備によって残存するわずかな有機成分を除去し、さらにキレート吸着設備において重金属を選択的に除去する。この複合的な処理システムにおける処理の実績は、運転開始からまだあまり時間がたっておらず汚染度の高い範囲からの浸出が少ないと考えられ、原水の汚濁度が想定されたほど高くないために、処理水質もかなり良好である。今後、汚染物質を多く含む領域を掘削する段階になると、高濃度の汚染水が浸出する可能性がある。

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 岩手県の側では、廃棄物の全量を撤去することをとるべき対策とし、掘削の後選別を行い、県内の大手セメント工場を中核的な施設としてその他産業廃棄物処理施設などに輸送し、焼却、焼成、溶融のいずれかの方法による処理対策を行っている。2005年12月10日現在の撤去済みの累積量は23,600 tであり、全体計画に対する進捗率は20.7%と報告されている。平成17年度の最終的な撤去量は、30,108tとなった。

(3)岐阜市椿洞の事案

 岐阜市椿洞では、市内の産業廃棄物処理業者が所有の処理施設に隣接する谷地に建築廃材を投棄したことから始まった。生活環境への詳細調査の結果から、廃棄物層の一部で六価クロムが土壌環境基準を超過し、鉛が土壌含有量基準を超過していたが、全体的には有害物質によるリスクは小さいと判断されている。また、応急対策の後とるべき恒久的対策案として残置、一部撤去、全量撤去の3方法についてそれぞれ具体的対策と生じ得る課題が整理された段階である。

2‐3.不法投棄に関する法制度

 不法投棄による環境破壊の回復については、平成9(1997)年の廃棄物処理法改正で排出事業者の責任強化、不適正処理の厳罰化などの施策が施行された。しかしすでにこの施行前から残存する事案は、長期間にわたって支障を生じ、産業廃棄物に関する不信感の象徴として取り扱われ、循環型社会形成を阻害する大きな要因となっていた。そこで、上記法改正前に実施された不法投棄に関しては、平成15から24年度までという期限を区切った上で、生活環境保全上の支障の除去または発生の防止(以下「支障の除去等」という)を計画的かつ着実に行うため、都道府県等が自ら支障の除去等の事業を行う場合に必要な経費に関する「特定産業廃棄物に起因する支障の除去等に関する特別措置法」が平成15年6月に制定・施行された。この法によると環境大臣は、支障の除去等を計画的かつ着実に推進するための基本的方針を策定し、都道府県または保健所設置市は、この基本方針に即して具体的な実施計画を策定しなければならない。これを実施するために、特定支障除去等の事業に要する費用については国庫補助を行うこと、都道府県等の負担分については地方債の起債特例を可能にすること、とされている。支障除去に関する全体像を図表9に示す。

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3. 汚染修復技術とその特徴

 

3‐1.修復の一般的方法

 不法投棄による汚染の修復では、まず汚染すなわち環境の破壊が見出された時点で、何を優先的に実施すべきかに判断を要する。それは対策に関する緊急性の度合いに対応し、以下のように分類される4)

(1)緊急対策:ヒトの健康リスクなどがかなり高いと判断される場合に、迅速な試験・調査などに基づいて、すぐに実施できる対策。住民の避難、地下水飲用の禁止、汚染源の撤去など。

(2)応急対策:汚染場所の詳細な調査に基づき、場所周辺の環境に汚染が拡散することを防ぐことにより、被害を最小化することを目的とした汚染範囲の覆がい、遮水壁設置などの対策。

(3)恒久対策:ボーリング調査や修復技術の適用性試験などに基づき、恒久的な安全性の確保可能な適正技術の適用による対策。

 不法投棄の場所およびその周辺において浄化対象となる汚染物は、廃棄物そのものと土壌および水である。これらを浄化する恒久対策としての技術的手段には大別して浄化と封じ込め(隔離・管理)がある。浄化としては、汚染場所その場で汚染物質を除去する原位置浄化と、掘削除去を行って場所を移した後に汚染物質の処理を行う方法がある。ここでいう除去とは、分離または分解の機構を利用した場所の移動または物質の消滅を指す。

3‐2.固形物を主対象とする技術

「不法投棄による汚染に対する修復技術」という定まった技術的体系は、明確に存在しない。基本的には、土壌および地下水汚染の修復に使用される技術が、具体的な対象物の特性に適合するように修正されて適用される。土壌・地下水汚染物質として事例が多いVOC、重金属およびダイオキシン類やPCBなどの難揮発性有機汚染物質に対する修復技術を図表 10に示す。

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(1)物理化学・熱化学的処理

 図表11は、処理対象物を設備外部から加熱する間接加熱方式による分離技術の例である。加熱により追い出された水分と汚染物質および粒子状物質は、排ガスの冷却・凝縮によって排水となるので、これら排ガスおよび排水の処理が必要となる。一般に分離技術は、分離後の汚染物質処理について別設備を設けて行う必要がある。

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 難揮発性の有機汚染物質は難分解性でもあり、これらに対しては焼却法、溶融固化法あるいは水熱酸化法などの高温または高温・高圧併用処理技術が適用される。多くは掘削を行った上で処理を行うことになる。焼却法は800〜900℃程度での燃焼、溶融固化法は溶融炉内での1,300〜1,400℃程度での高温燃焼と固形物の溶融スラグ化を行う技術である。溶融固化法は、灯油などの燃料または電気を用いることで多くの投入エネルギーを必要とするが、高温操作であるため難分解性有機物を完全に分解させることができる。主な方式には表面溶融式、コークスベッド式、ロータリーキルン式、電気式がある。二酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの無機成分が溶融して生成するスラグは、その網目状構造内に重金属類を封じ込めるため、溶出の可能性がほとんどなく、建築物の骨材などに有効利用される。溶融固化法に分類される技術で、電気抵抗式溶融技術の一種であり装入した電極ジュール熱によって溶融を行う方式(ジオメルト工法)が、産業廃棄物焼却施設に起因するダイオキシン類高濃度汚染物および汚染土壌に対し、実際に適用されている12)

(2)生物学的処理

 微生物はさまざまな有機化合物を分解する能力をもっており、不法投棄によって汚染された開放環境を対象とした、生物機能応用型の修復技術であるバイオレメディエーションが研究開発されている。これには、メタンなどの微生物の増殖に必要な有機物、窒素やリンなどの栄養塩および空気などを汚染土壌に導入し、現場の土着微生物の活性を高めて浄化を進めるバイオスティミュレーション法と、対象とする汚染物質に浄化活性の高い培養微生物を導入して浄化を進めるバイオオーグメンテーション法とがある。また、受動的な方法ではあるが、ナチュラルアテニュエーションがあり、これは、物理化学的な方法などで高濃度の汚染をできる限り浄化した後、土着微生物を利用することによって自然に濃度が減衰するのを待つという方法である。バイオレメディエーションとして適用例が多いのは、低沸点有機塩素系溶剤(トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなど)やベンゼンを主とする石油成分による土壌・地下水汚染を浄化する事例である。バイオレメディエーションは、一般的には他の物理化学的処理技術より低コストで実施できるが、処理に要する期間が比較的長い、高濃度汚染には適用がむずかしい、温度や共存物質による影響があり得る、といった留意点がある。また、微生物の利用が周辺の環境に与える影響も十分に評価する必要があり、外部から新たな微生物を導入する場合の環境安全性に関する考慮などが求められる。

3‐3.水を対象とする技術

 不法投棄場所で水を対象とする浄化の多くは、投棄廃棄物および投棄範囲からの浸出水の処理である。この浸出水は、不法投棄の大きな特徴である多様な汚染物質が共存するという特徴がある。したがって、このような汚染水に適用すべき処理技術は、複合的な機能をもつ単位操作かまたは複数の単位操作の組み合わせとなり、これは排水の高度処理技術となる。

 近年、難分解性物質の高度処理技術として適用されるようになった技術に促進酸化法がある。これは、オゾン、過酸化水素、紫外線などの酸化力の強い物質または物理的手段を用いて、水中の難分解性物質を酸化分解する方法である。図表12は、オゾンと紫外線照射を併用した高度処理設備の例である13)

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 高度処理技術としては、上記のほかに、疎水性の有機化合物除去に効果の高い活性炭吸着法が従来から適用されている。またμm〜nmの大きさまで、すなわち分子の大きさまで篩い分けが可能な膜分離法が、高分子などの新素材の開発を背景に発展している。また、重金属類の除去には、特異的な結合能をもつキレート樹脂によるキレート吸着法が多く適用される。

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4. 修復の安全・安心と資源循環へ向けた動向

4‐1.修復による環境リスクの低減

 不法投棄による汚染に対する技術的修復の目標は、汚染を排除し、汚染に起因する環境リスクを低減し、汚染地の原状を回復することである。

課題として、以下の点があげられる。

  • 修復技術の選択を合理的に進める方法を確立すること
  • 修復による環境リスクの低減を適切に表現すること

 このうち、修復技術選択の最適な手順は、図表13に例示するように、各技術が汚染物質および媒体にどのように適用されるかという情報を蓄積・整備し、その上に立って選定を進めるための手順に必要な基準を明確にすることによって確立することができる14)。従来は、図表中に記された定性的な適用性の判断基準や経験などに基づいて行われてきたが、今後はこれをできるだけ定量的な方法で行うことが重要である。これに関する研究開発は、例えば北海道大学の研究グループと民間企業との共同研究などによって行われている4)

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 不法投棄が発覚した後には、現地および周辺の環境がどのような状況におかれているかを把握することが求められる。人の健康へのリスクや生態系へのリスクにおいて起こり得る影響を知ることは非常に重要である。一方、平面的にも立体的にも広がりのある空間にわたって汚染の状況を迅速に把握する必要もある。現状では、土壌汚染や地下水汚染、大気汚染などに関する既存の調査・測定方法を用いてこのようなモニタリングが行われている。しかし、経費を要し、施工上の制約もあるボーリングなどに頼らねばならないこと、高密度電気探査法といった外部からの診断手法が開発されているものに精度の課題があること、簡易で迅速に多種類の汚染物質を検出・同定・定量する信頼性のある分析手段が未だ確立されていないこと、さらにこれらの限られた範囲の汚染状況データをもとに、汚染の全体像や周辺を含めて状況を把握する手段と手順も未確立である。

4‐2.技術の安全性

 産業分野ごとの安全に関連するデータによると、従来から廃棄物処理分野は事故の起きる確率が大きい。また、技術的に比較的新しい方式の施設で事故事例が多い。例えばガス化溶融炉の導入初期においてこのような事例がみられた。

 豊島の中間処理施設内の溶融炉施設において、運転を開始して約4か月を経過した時点で小爆発事故が発生した15)。この原因は、対象処理物から発生した水素ガスを主とする可燃性ガスが輸送コンベヤ上部の空間にたまり、何らかのきっかけ(静電気と推測されている)で発火・爆発したと結論づけられた。水素ガスは、豊島の場所において、掘削した廃棄物等の含有水分の除去と溶融性を良好にするために生石灰を混合する際に金属などとの反応の結果生成する。そのため水素ガスの一定の放散期間が設けられている。しかし、かなりの時間経過後も溶融炉関連設備内で高温になると水素発生量が増す現象がみられた。さらに、設備内は負圧に保たれているが、質量の軽い水素は徐々にコンベヤ頂部付近にたまったと推測されている。再発を防止するために、中間処理施設での処理前の十分なガス放散と処理設備内での十分な換気、温度調整などが徹底されることとなった。

 このような事故に起因するリスクを含めて、安全を確保するための基本的な方策、すなわちプロセスの異常を発生させない予防措置をとっておくこと、異常が発生しても事故にまで至らせない予防措置、そして万一事故が発生しても影響を最小限に抑える措置を含めた多重的な構造をとることが重要と考えられる。

 前述の豊島では、現在施設の運転上の環境保全データをはじめ環境のモニタリング結果などについて、インターネットをはじめとしたさまざまな手段によって一般に公開している9)。このような情報の公開は、最近の環境保全施設においては積極的に行われるようになった。

4‐3.不法投棄の防止

 不法投棄の根本的な問題点は、排出事業者が適正な料金を払わない場合があり、処理事業者の収益が十分確保されていないことにある。まずは、適正な事業性の確保が重要であり、そのためには処理事業者が優良事業者としての信頼性を高め、排出事業者が安心して委託できるように処理事業者の差別化を図っていくことが政策として必要と思われる。不法投棄を直接に監視する立場にある地方自治体を中心に、不法投棄の事前防止に向けた新しい行政施策または試験的取り組みが実施されている。図表14にそのいくつかの例を示す。また環境省および(独)国立環境研究所などによって、早期発見と影響の大規模化阻止のため人工衛星を利用した監視システムが開発され、実際的な適用性が検討されている16、17)

chart14

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4‐4.資源循環

 豊島における溶融スラグと飛灰の有効利用(図表6および7)にみられるように、単に汚染を修復し、環境浄化を図るだけでなく、修復処理対策を通じて資源の循環利用を実現することも重要である。

 原状の回復という大きな命題のもとで資源の循環利用をどう位置づけ、どのように具体的にするのかが課題である。その際、現地の地域特性に注目すべきである。豊島の場合には、既存の銅製錬工場の敷地内に中間処理施設を整備することで、溶融飛灰の有効利用の条件を高めている。

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5. 日本の環境保全技術の水準と共通基盤として進めるべき課題

 環境保全に適用されるわが国の科学技術は、全般的には世界でも先端を行く技術を有している。例えば、科学技術政策研究所を中心に2004年度に実施されたデルファイ調査18)によると、環境分野の技術課題において、日本が優位である技術のトップに「レアメタルの国内供給源としての溶融飛灰からの効率的な金属回収技術」が挙げられている。また、「逆浸透膜などによる経済的・実用的な海水淡水化、汚染水浄化技術」や「再生材(プラスチック、金属)のトレーサビリティー・ID手法」も優位にあるとされている。

 今後は、生活環境への科学技術のよりいっそうの貢献が望まれるようになる。環境保全を安全・安心な社会につなげるために、共通基盤として取り組むべき重点課題としては、次の項目が挙げられる。

(1)被害予測・影響評価・脆弱性発見のための解析手法・シミュレーション技術の研究開発

(2)異常を迅速に検知するための計測・センシング技術の研究開発

(3)耐災害性、信頼性の高い情報提供システムおよび情報ネットワークの構築

(4)リスクの総合的マネジメント

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6.今後の不法投棄の予防・進行阻止と事後対策

 不法投棄は決して短時日に起こるのでなく、むしろ従来の例から見ると、さまざまな兆候があり、かなり長い期間を経た後に顕在化する。不法投棄によって引き起こされる環境の破壊は、定常的な人為活動による場合とは異なる形態で発生し、通常とは異なる範囲と強度で影響を及ぼす。そして関連する既存の分野の方法論で対応可能な対象および内容もあるが、反面、特殊な条件を考慮した対応をとらなければならない場合もある。本課題については、予防・進行阻止と事後対策を分けて考えていくべきである。

6‐1.不法投棄の予防 または進行阻止の観点から

 これまでの経緯から見て、不法投棄に至りやすい社会的・経済的構造があり、また、不法投棄の場にされやすい地域や地形が存在する。これに対し、不法投棄の抑止や監視がより効果的に行われるよう支援するツールの提供が必要である。例えば、関連運搬車両へのGPSの適用、衛星監視およびGISなどを応用した不法投棄の早期監視システムは、すでに実証試験段階に至っている。

 衛星監視システムには、不法投棄が起こっても早期に発見し環境汚染への影響を含めたその拡大を防止する役割がある。現状で可能なシステムは比較的規模の大きい不法投棄に対しては十分な能力を備えているが、小規模の地域まで監視するためにはさらに分解能の向上が必要であり、雲量に影響されやすいという大きな課題も残されている。さらに、現在利用可能な商用衛星周期では高頻度での監視がむずかしく、技術的課題以上にコストの問題がある。自治体が利用するためには、衛星画像情報の多目的利用により情報当たりのコスト性能をあげることが有効で、森林管理や防災などとの共通利用を図っていくことも一案である。このように、技術面の進展を図るとともに、多領域での連携・協力を重視する必要がある。

6‐2.事後対策の観点から

(1)環境への影響の迅速かつ体系的な調査ツールの開発

 不幸にも起こってしまった不法投棄の場合、採るべき対策の優先度を判断するうえで、環境に対してどれだけの影響があるのかという汚染状況の把握を迅速にかつ俯瞰的に行うことが非常に重要である。例えば、土壌と混合して堆積している廃棄物の種類・性状および含まれる有害な物質を、正確かつ迅速に知るためのツールの開発が必要で、しかも、それらは自治体など調査の主体が利用しやすいものであることが望まれる。今後、汚染地域で用いることのできる非破壊方式による分析装置の開発では、物質の検出精度の向上とともに測定時間の短縮が期待される。これらの開発では、研究機関と機器開発メーカーとの連携が必須であり、従来以上に技術交流促進の場を設ける必要がある。

(2)環境リスクの特性に応じた最適な汚染修復技術および適用方法の開発

 不法投棄による環境リスクの態様は、汚染地域に存在する汚染物質と環境媒体の特性に依存する。修復技術の開発とともに、短期から長期にわたるさまざまな時間範囲で起こる可能性のあるリスクを予測し、それに対し最適な修復技術あるいは各技術の組み合わせを選定するための適切な手順をシミュレーションできることが望ましい。コストの削減を図るために、汚染状況に応じて適用する単位技術や組み合わせを随時最適化する方法論の形成も必要である。

 また、組成が複雑な廃棄物と土壌などとの混合物について、処理効率に優れ、環境への二次的な負荷を極力低減できる技術、あるいは最大限の資源化を可能とする技術開発を目指すべきである。発生した状況に応じて効率よく技術的対応を進めるためには、先行する汚染修復の事例、例えば本稿で紹介した香川県豊島などの事例情報を、共有化することが有効である。不法投棄への技術の適用は事案ごとに内容が異なるが、類似の土壌・地下水汚染地域が潜在的に多数存在することを考慮すると、修復技術のデータベース化を図り、問題が生じたときに対策をとるべき原因者や行政などが的確に利用できるようにしておく準備が必要である。これらの情報をもとに、行政・研究機関・民間企業が連携し、過去の経験のうえに新たな修復や事故を研究・解析し、技術的な基盤を確立していくことが望ましい。

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謝 辞

 本稿を執筆するに当たり、種々ご協力いただいた(株)クボタ 環境リサイクル事業部 寺尾 康氏、田村 明彦氏、香川県環境森林部廃棄物対策課 滝本課長、香川県資源化・処理事業推進室 合田室長、香川県直島環境センター 森所長、三菱マテリアル(株)環境リサイクル課 辰亥課長、(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター 大迫 政浩室長、川畑 隆常氏に謝意を表する。

1) 文部科学省:「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」報告書:http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/anzen/houkoku/04042302/
all.pdf
(2004)

2) 環境省編:循環型社会白書(平成16年版)、pp.3〜41、(株)ぎょうせい(2004)

3) 環境省:産業廃棄物の不法投棄の状況について:http://www.env.go.jp/recycle/ill_dum/santouki/index.html(2005)

4) 古市徹監修/CDR研究会編著, 有害廃棄物による土壌・地下水汚染の診断、pp.119〜177,、環境産業新聞社(2002)

5) 花嶋正孝、高月紘、中杉修身:廃棄物の不法投棄による環境汚染―豊島の事例―、廃棄物学会誌、Vol.7、208〜219(1996)

6) 佐藤雄也、端二三彦:豊島産業廃棄物事件の公害調停成立―その経過と合意内容―、同上、 Vol.12、106〜116(2001)

7) 青森・岩手県境不法投棄事案に係る合同検討委員会:技術部会報告書、平成15年6月28日(2003)

8) 岐阜市産業廃棄物不法投棄対策検討委員会技術部会報告書(2005)

9) 香川県:豊島問題ホームページ:http://www.pref.kagawa.jp/haitai/teshima/

10) 阿部清一、佐藤淳、岡田正治、後藤謙治、加納弘也、松浦幹郎:豊島廃棄物等の溶融処理〜副成物の再資源化〜、第15回廃棄物学会研究発表会講演論文集、1522〜1524(2004)

11) 佐藤淳、岡田正治、後藤謙治、坂中一敦:豊島廃棄物の溶融処理と副成物の有効利用、クボタ技報、No.39、75〜82(2005)

12) 安福敏明、寺田隆彦、木川田一弥:ジオメルト工法によるダイオキシン類汚染土壌の無害化、日本機械学会誌、Vol.107、84〜88(2004)

13) 堀井安雄、塩山昌彦、吉崎耕大:紫外線技術の水中難分解性物質処理への適用、水環境学会誌、Vol.28、242〜245(2005)

14) 峠和男、佐々木哲男、古市徹、石井一英:土壌・地下水汚染の修復技術選択方法のシステム化、第14回廃棄物学会研究発表会講演論文集、1207〜1209(2003)

15) 佐藤淳、後藤謙治、釜田陽介、榊原孝志、西原幸一:豊島廃棄物等の溶融処理〜小爆発事故の原因と再発防止対策〜、第15回廃棄物学会研究発表会講演論文集、1519〜1521(2004)

16) 大迫政浩、田崎智宏、川畑隆常:不法投棄等衛星監視システムの開発 不法投棄の早期発見のために、かんきょう、2004年8月号、42〜43(2004)

17) (独)国立環境研究所:平成13、14、15年度環境省受託業務報告書、不法投棄等衛星監視システム開発調査(2002、2003、2004)

18) 文部科学省:科学技術の中長期発展に係る俯瞰的予測調査デルファイ調査報告書:http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/rep097j/idx097j.html(2005)

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