我が国のエネルギー供給見通し(図表1)によれば、2010年には石油(LPGを含む)および天然ガスの供給は、原油換算で各々2.77〜2.53億kl、9,100万〜8,100万klで、全エネルギーの46〜44%、15〜14%に、2030年では、2.56億kl、1.08億kl、42%、18%に達する。両者は、全一次エネルギー供給量の過半を占めると見通されている。
図表2に示す世界の原油確認可採埋蔵量(1)(2)は、新規油田発見・開発と並んで、深部探査、重質原油の組込、さらに既存の油田からの回収率向上の見込みが立つことによって毎年増加していくものの、現行消費量が続けば可採年数は50年弱と見積もられている。地域的には、カナダ等の超重質原油の組み込みにより北米の埋蔵量が大幅に増加しているが、西欧、アジア・大洋州、東欧・旧ソ連の各地域の可採年数(3)は20年以下とされている。
(1)確認埋蔵量
地震探査、油層検層等を通して確認された埋蔵量。
(2)可採埋蔵量
その時点で経済的に回収可能な埋蔵量。価格の上昇や採掘法の進歩により、確認埋蔵量は増大する。経済の変化や価格上昇により、促進回収や厳しい条件の採掘が経済性を満たすようになり、新規な油田の発見がなくても確認埋蔵量が増加する。
(3)可採年数
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一方、世界の一次エネルギー消費は、2003年において原油換算で97.4億トンに達し、その61%が石油・天然ガスで占められている。さらに注目すべきは、図表3に示す国別の石油消費量の推移で、西欧、日本が微減しているのに対して、中国を含むアジアで大幅増大、アメリカやロシアでも微増している。この統計にインドは含まれていないが、インドも急速な経済成長に伴い、世界の石油・天然ガスの大消費国になっており、2003年の石油消費量は日量242万バレル、米中日に次ぐ第4位を、独露と争っている。2030年のインドのエネルギー需要は原油換算10億トンに達し、中国の25億トンと併せて世界のエネルギー需要の25%を占めると予想されている。このように、大人口国における急速な経済成長に伴う石油・天然ガス消費の急速かつ大幅な増加から、図表2の可採年数では楽観的になれない。
エネルギー消費量を減少させていくことが我が国の方針とはいえ、再生可能なエネルギーが価格と量の両面で供給可能になるまでの間、自国の経済成長、国民生活の維持に必要な一次エネルギー供給を確保することへの機動的な総合政策は不可欠であろう。このために、再生可能なエネルギーの開発と並んで、化石資源を確保する調和のとれた政策を採用すべきであろう。原油・石油商品価格の高騰、石油・天然ガス資源の権益確保の過熱に対して、我が国としても周到かつ万全の準備が不可欠である。一次エネルギー供給の確保には一国の総合力が問われることは言うまでもないが、我が国においては技術力および産業力を中心とする戦略の有無が問われている。その中で、石油・天然ガス資源の探査(探鉱)、開発、生産における産業、技術と人材が国際的競争力を持つことにより、他の資源国と協力しながら経済性安定性の高い資源を確保していくことが、重要な戦略のひとつである。
現在の石油・天然ガスの探査・開発・生産は、国際的に分業と連携によって行われている。産油国国策会社と世界の石油大企業(5章で述べるメジャーが中心で、これらに各国の国営あるいは大企業が増加している)がプロジェクトオーナーとして上下流業務を主導している。探査・開発・生産については、二大サービス企業(ハリーバートン(4)、シュランベルジェ(5))を頂点として、各技術要素の専門企業、土木建設企業、およびローカルサービスの各企業が、プロジェクトのためにコントラクターチームを編成し、業務に当るのが通例とされている。つまり、資源の権益を獲得し、プロジェクトを主導するオーナー企業、権益の一部を期待するプロジェクト参加企業と、高度の上流技術をもってプロジェクトの推進に協力するサービス企業に分かれる。前者が資源の獲得、開発、生産の経済性を的確に判断し、サービス会社の知識を組織化する。後者は信頼性が高い上流技術の開発を受けて、多数のオーナー企業の主導のもとに種々の開発サービスを行う。この際、技術の実証・実用は、各々プロジェクトのなかで完成されていなければならない。同時に、オーナーが経済性の高い権益を獲得するには、国際的なプロジェクト経験と並んで、総合的な高度の上流技術の裏付けとサービス会社の有効的な組織化が不可欠とされている。
(4)Halliburton
1919年、米テキサスで設立。従業員85,000人、100カ国以上で活動。現在2社制。ESG:石油・天然ガス、上流のサービス、工業、建設。KBP:石油・天然ガス、中下流のサービス、工業、建設。高度MWD(Measurement While Drilling)、LWD(Logging While Drilling)技術/地下実写、生産、災害防止。第一次湾岸戦争(1991年)クェイトにおける320の油田火災の消火が著名(ホームページより抜粋)。
(5)Schlumberger
1912年、仏パリ設立。電気検層専門企業。1940年、米テキサスへ移転。従業員58,000人、80カ国で活動。LWDを最初に導入、Wireline measurementで著名。ドリリング、物理探査、検層を武器とする企業。
最近の国際情勢から、我が国の商社および石油開発・精製・エンジニアリング等の企業の海外プロジェクトへの入札や参加は拡大しているものの、主導性、規模、経済性の追求の点では、メジャーあるいは新興国の活動と比較すれば決して強力なものとは言えない。我が国はその優れた工業力を活かして高い上流技術を開発し、実用化するという戦略も必要であろう。新興産業国・大需要国が、国営の巨大オーナー会社を活躍させると同時に上流技術を獲得し、新しい開発に実際に適用していくという例が増加していることに留意しなければならない。
こうした背景から、本レポートでは資源技術において上流部門と言われる探査・開発・生産の技術と開発状況を概観し、日本の位置付けを明確にし、近い将来への準備を提言したい。現時点で、これらの技術・技術開発をみる時、石油メジャーを抱える欧米先進国、技術的に成長が著しい資源新興国、大資源国あるいは大消費国を、各々念頭におくことが必要である。
石油・天然ガス事業の開始から生産・廃坑に至るまでの概略を、フローとして図表4に示した。探鉱、試掘、開発、生産、廃坑の各工程が、長い歳月に亘って進められる。各段階で各種の技術が平行的に進められ、その各々の評価を踏まえて逐次、次の投資額の大きなステップに進むという息の長い業務である。
工程ごとに図表4にあるような多様な要素技術が開発、実証、採用および実施されている。いずれの技術も開発地域の地質状況、石油やガスの埋蔵状況、マーケットとの距離に適合させて操作され、かつ実際に有効性が試され、改良を重ねて、最終的に油田ごとに最適な技術として完成される。従って、技術的な優位性を保つには、油田開発に対する長い経験と実績の裏付けが必要である。同時に、先端技術を常に導入していくことも、優位性確保に不可欠である。現時点での実証・実用技術の多くは、前記の2社によって運用されているので、我が国で開発された技術もそこで採用されて商用となる場合が多い。長期的にはこの国際システムの変革に挑戦し、自立していくことも視野に入れる必要があろう。現に新興産油国では、その方向への努力が読みとれる。
2‐1.探 鉱
図表5に探鉱の代表的技術をまとめた。各々の技術の特長を生かした探鉱方法で、試掘する場所を特定する。特に場所決定の最終段階の技術に位置する人工地震を使った地震探査という手法は重要であり、ハードおよびソフトの技術の改良・進歩が図られている。
2‐2.掘 削
現在、ロータリー式掘削機が試掘や生産坑の掘削に使用されている。図表6にその機構をまとめた。掘削機の先端にはカラー図1に示すようにビットが設置されており、ビットの掘削方向や速度を地層に合わせる最適化制御が大切であると同時に、ビットの材料ならびに構造も、掘削の精度、効率、寿命にとって重要である。ビットは複雑な構造をしており、材料開発技術と精密な機械工作が必要となる。
掘削は、泥水を掘管に沿って循環させる。泥水は水、ベントナイト、粘性調節剤、濾過性調節剤、潤滑剤、イオン調節剤、PH調節剤、および密度調節剤(バライト)で構成された水スラリーである。その機能は掘屑を地表に運び上げ、地下の情報を伝達する。これによって物理探層が可能になる。この際、汚水は地層の崩壊を防ぎ、地層内の流体の噴出を防ぎ、ビットを冷却し、ドリルステムを潤滑する等の役割を果たす。従って、泥水の発達によって高深度掘削が可能になったと言える程重要な役割を果たしている。陸上掘削、海上プラットフォームに加えて、ビットと地上を結ぶ管も、その作動、情報伝達、強度等を含めた材料・構造が高度技術の結実である。要素技術としては掘削坑壁の安定化等、土木技術も含まれている。
カラー図2に主な海洋石油掘削リグの構造を示した。図はセミサブマージブル(半潜水型)リグである。浮体面積を相対的に小さくして波による上下部を少なくして、高波時でも安定して掘削ができる。錨と係留索で位置を保持している。
カラー図3に示すような海上掘削装置も実用化されている。設置場所の地形、海洋の状況、気象や環境に合わせて、コストパフォーマンスの高い装置が選ばれている。大型海上海中海底構造物として、海洋土木の華と言える。
2‐3.検層技術
試掘によって坑内の種々の検層が可能になり、油層・ガス層の存在が直接あるいは予知できる。検層技術を図表7にまとめた。図表8に各検層技術の内容を要約した。泥水、コア、ワイヤーライン検層が実施されており、各々の検層技術を得意とする専門企業がある。貯留層に当れば、試油あるいは試ガスも実施され、流体の種類・濃度に加えて、流体圧力、浸透率、流速から生産能力も推定可能になる。
2‐4.生 産
地下から回収した石油や天然ガスを油とガスに分離し、さらに水分・塩分を除去して製品になる。貯留層まで掘削した生産井へ原油あるいはガスを流入させ、油井鋼管を通して地上の通称クリスマスツリーと呼ばれる坑口制御装置を経て、分離装置および貯油タンクに送り込まれる。坑口制御はバルブと流量制御のための温度計および圧力計チョークで構成されている。
生産井には自噴井、ポンプ採油井、ガスリフト採油井がある。自噴井は貯油層のガスや水圧によって油が自然に押し出される井である。生産とともにこの圧力が低下するので、原油をポンプで汲み上げるか、ガスの装入により油の比重を軽くして自噴を助けるなど、汲み上げやすくする工夫をして採油する。
2章で探鉱・開発・生産の技術の概略をみたが、今後展開する技術進歩の方向を考えれば、そのニーズとシーズを結ぶ工学とその基盤科学を俯瞰することが有意義である。図表9は藤田教授(芝浦工業大学)による技術鳥瞰図である。ここに示される科学と技術の総合性と同時に、先端性および将来の方向性を的確に把握した発想、実証、実用、商用改善の検証のサイクルを回し続けることが必要である。
3‐1.探鉱技術の最新技術
図表10は探鉱技術の進展を示す。地質学等の科学に立脚する探鉱技術は20世紀初頭に始まり、1930年頃から地球物理学を利用する地下構造推定が実施されるようになっている。最近の電子計算機の能力向上、膨大なデータの蓄積、解析システムおよび数値モデルシミュレーションを利用すれば、地質ならびに油層が精密に描かれ、資源生産の将来予測も可能になりつつある。
2‐1で注目した地震探査については、震源と受信機の配置を密にして、位相の異なる多重反射波の計測から、地層を3次元表示する方法が採用されている。精密測定により、地層に挟まれた密度差の大きなガス層の存在も推定できるようになっている。
3‐2.掘削の先端技術
地底深部の資源回収を実現する高深度掘削については、1985年、旧ソ連が北極圏で12,000m深度を記録し、現在は、15,000mを目標に高深度掘削技術が進められている。
地上障害を避けるため、あるいは垂直坑から横方向に拡がった油層から資源を回収するため、傾斜坑あるいは長偏距水平坑が開発・実施されている。一本の垂直坑に対して複数水平坑をもつマルチラテラル坑法もすでに実用され、資源回収の経済性を高めている。
こうした掘削には、地底位置を高精度に決定した正確な掘削制御が要求される。このため、掘削先端の坑底情報を採取し、地上の制御システムにフィードバックするMWDが実用化され、衛星情報を用いた位置決定、掘削端での迅速な情報収集、制御プログラム、対比すべきデータベース自動制御等、開発は止まることなく進化している。
さらに、掘削先端におけるビット荷重、トルク等の掘削パラメーター取得に加えて、センサーを設置して比抵抗やγ線吸収等の地質情報を取得して、地上に送信するシステムも開発され、掘削と検層を同時に実行するLWDと呼ばれる方法も実用化されている。
多量の情報の伝送速度を向上する方法も開発課題であるが、泥水を媒体とするマッドパルス、マッドサイレンおよび管伝送の方式やシステムの開発が進められている。
3‐3.油層評価技術の進展
坑井から得られる岩石、油、ガス、地層水は、これらの流体の圧力や移動のデータを取得、分析、解析し、これに他の地質探査、作井、検層、油層の情報を併せて、油田の姿・状況を再現する数値モデルの構築、さらに予測シミュレーションがなされ、これらは先端油層評価法として発展している。油層内での液体の流動も再現し、外力(例えば水や炭酸ガスを地上から送入した時の流動の変化)もシミュレーションされて、回収率の向上を予測している。
油層から採取された試料について、地底の状況下での物性を推定する地底油層条件下での物性計測も実施されている。こうした解析を鉱区の複数の坑井について集積すれば、地層・油層の地域的広がりを示すグラフィック表示ができる。
生産作業の経過中、3次元地震探査や油層評価を繰り返し、時間変化も合わせて捉えれば、いわゆる4次元モニタリングやシミュレーションが可能になる。その延長上で、油層の生産性や埋蔵量についての将来予測の精度が飛躍的に向上すると考えられる。
3‐4.開発極限の追求
資源開発の極限はマントルにも達する超高深度へ、また、海洋開発の極限は2,000mを超える大水深へ、さらに鉱区は北極圏にまで拡大している。厳しい自然条件での探査や開発に始まって、生産・輸送も厳しい条件下で継続しなければならない。その際には環境の保全も大切な課題となっている。自然環境に適合した探査・開発・生産技術およびそこでの材料・システム等のすべてを技術開発することが今後必要になる。
3‐5.高次回収(Enhanced Oil Recovery:EOR)技術
自然の圧力あるいはポンプで回収できる石油の量(一次回収量)は、通常油層内の資源の20〜30%である。さらに回収を継続するためには、人為的に水(水蒸気)やガス(ガス圧入)を圧入し、油層の圧力をあげるが、こうした二次回収で回収率は30〜40%に増加する。さらに、水蒸気や界面活性剤を送入して油の粘度を低下させたり、炭酸ガスを送入して岩石から油をはがしたり、薬剤や溶剤で希釈したりすることで、回収率を40〜60%に向上させている。さらに、油層で微生物を繁殖させて石油成分を分解したり、あるいは地下でガス化反応を進めて、回収率を向上させる試みもある。
現在こうした回収法の向上が、可採埋蔵量が増加する大きな要因となっている。
生産の経時に伴う油成分の変化に加えて、地層障害による生産の低下や停止もありうるが、この場合、地層障害を水圧や爆発で取り除く技術も開発されている。断層を含む複雑地層においては、油層が分断されていることから、このような技術も回収率向上の重要な手段である。
3‐6.注目される国産技術
(独)石油天然ガス金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、次のような技術を開発し、国内外の開発に適用して実証を目指している。油層解析については、ハリーバートン社、シュランベルジュ社と共同して商業化を目指している。
(1)地下構造イメージング
断層、亀裂、岩塩ドーム等を伴う急傾斜で複雑な地下地質構造を正確に描写することは、地層探査の通常の解析では困難とされてきた。しかし、地震探査の解析プログラムを複数組み合わせることで、複雑な地下地質構造を描写するプログラムを開示している。この技術は、小規模ワークステーションでの並列計算により地下構造を解析する技術であり、数多くのサイトにリンクされ、その効用が確認されつつある。
(2)検層技術
検層技術では、採取したコア岩石の分析技術の向上が期待されている。X線CTスキャナーを用いて岩石コア内の油水の流動状況を観察し、岩石内部における流体の動的挙動が解析される。この技術によって、中東油田での水攻法回収向上における水滞留の状況が解明された。こうしたIn‐situ解析は、油層の現状況を精度よく測定できる重要な手法である。今後は、岩石の化学的・物理的構造の対比と、鉱区全体のモデル化が進んでいくと想像される。
坑井壁近傍の地層とその中の流体の性状を計測する検層の手段として、中性子照射により水素原子がγ線を放出することを利用して、水素原子を検知する方法があり、この技術によって、水の存在が検知できる。パルス中性子源としては放射性物質が使われてきたが、電気的に中性子を発生するパルス中性子源が開発されて、LWDツールのひとつに仕上げられた。現在シェランベルジュ社と商業化に向けて実証試験を進めている。
(3)掘削と掘削ツール
5,000mより深く存在する浸透性の低い岩相において多段水圧破砕によりガス層を解放し、この結果天然ガス生産性を6倍に向上でき、地下における正確・精密な作業実施として注目されている。マルチラテラル水平坑への再アクセスや水平掘削においては、あらゆる方向を高精度に制御できる駆動システムを持つ掘削装置(マルチラテラルタイバックおよび遠隔動的方向制御システム)を開発し、スペリーサン社およびハリバートン社と各々共同して実証し、商業化される見込みである。
また、硫化水素や炭酸ガス濃度の高い腐蝕性ガスが多く産出されるようになっているが、これに対し、耐久性の高い材料を選定し、さらに低価格化することが求められている。これには、長時間の実証的な試験が必要とされているが、含水率、温度、圧力等を再現した実証条件下での選定試験を実施し、コスト削減を追求している。
従来、経済的あるいは技術的に採掘が難しいと思われてきた地域での石油や天然ガスも、現在の強い需要や将来の供給懸念から注目され、一部は既に採取に向けた開発が実現され、また、将来に向けての準備がなされている。
4‐1.超重質原油の利用技術
現時点では、留出油成分量が小さい超重質原油も国際マーケットに上市されることが現実味を帯びてきている。アラビアンヘビー、クウェイトヘビー、マリム原油、オリノコタール、タールサンドビチュメン等が、そうした超重質原油である。産油国における価値の増加を目指して、これらの安定した生産と適切な軽質化も技術開発対象となっている。このうちタールサンドビチュメンは、シリカと一緒に露天掘りで採取され、油分を抽出および回収し、蒸留残油からコーカー熱分解によって留出油を得て、これに軽度の水素化処理を施して、合成原油として上市されている。今後、埋蔵深度の増加によって露天堀が難しくなれば、地下での水蒸気圧入、部分燃焼、地下ガス化等の新しい回収法も取り入れる必要が出てくる。一方、現在の先進国マーケット上市には高品質精製技術の開発も必要である。こうしたことから、上下流一体になった回収と精製を一元的に開発することが必要であり、このような一元的開発は今後の日本の取り組み課題のひとつである。国際的参加の増加がすでに始まっているが、現在は産油国との将来を見通した共同開発を指向できる最後のチャンスであろう。
4‐2.中小ガス田の開発にともなう技術開発
天然ガスの長距離輸送は、パイプラインやLNG輸送に拠っている。いずれにしても、インフラの整備に巨額の先行投資が必要である。生産量の限定的な中小ガス田は産地消費以外の利用が難しいため、開発が見送られているが、経済的な長距離輸送の手段が開発されれば、商業化できる。これらを可能にする技術としては、
(1)高密度の吸着材に吸蔵させた輸送、あるいはメタンハイドレートスラリーにして輸送
(2)天然ガスからのジメチルエーテル(DME)、炭化水素など低圧下で液化する化合物へ転換して輸送
などが挙げられる。
4‐3.メタンハイドレートへの注目について
メタンガスが一定の割合で水と混合してシャーベット状になっているものがメタンハイドレートであり、大水深海底の地層に大量に埋蔵されていることが確認されている。日本近海を含む世界各地の深海に大量に賦存することが認められているため、将来の天然ガス資源として認識されている。図表11は、世界の深海底でメタンハイドレートの存在が認められる海域を示した。
しかし、氷を融解せずにメタンハイドレートからメタンのみを低エネルギー消費高効率回収できる技術はまだ開発されていない。また、深海や極地に多量存在するメタンハイドレートの採取は事実上難しい。さらに、メタンの大気放出は、環境への影響が極めて大きいので、回収にあたっては環境負荷を増加させない細心の注意が必要である。科学的・経済的に、冷徹な視点で、メタンハイドレートの回収の基礎基盤研究にあたるべきで、夢の資源といったようないたずらな幻想は排除しなければならない。
世界の資源開発は、依然、エクソンモービル(米)、シェル(和蘭)、BP(英)、トタル(仏)、コノコ・フィリブス(米)、シェブロン(米)のメジャーおよび準メジャーと呼ばれる各企業が主導的である。最近は、投資額が伸び悩んでいると言われるが、それでも40〜100億ドル(2004年)に達する各社の探鉱開発費は圧倒的である。
米国は、エネルギー独立計画のもと、エネルギー省(DOE)も上流技術開発にも力を入れており、1500m以上の水深度開発を進める方針を打出し、同時に開発の基礎基盤となる研究にも多額の資金支援を決定している。技術開発項目としては、砂岩、石炭層からの天然ガス回収、5,000m以深の大深度ガス回収、環境負荷の小さいボーリング等が例示されている。
一方、中国石油天然気株式会社は80億ドルに達する巨額の投資をもって国内外で開発を進めており、前記メジャーの一角を占める勢いである。日本海域、ベトナムの海底開発、カザフスタン、アルジェリア、ナイジェリア、ブラジル等の海外開発にも積極的で、技術習得から自主技術開発への移行期にある。さらに、これに中国石油化学株式会社、中国海洋石油開発株式会社の2社が追随している。2004年、中国科学技術部の資源環境分野重要課題20のなかには、深海での石油ガス探査およびそのキー技術、ガス・液体・石炭資源地質の各探査理論とそれらの技術、海洋での石油ガス資源開発の安全保障技術が挙げられ、国家としてこうした研究に注力する方針が伺える。
インドも急速な経済成長に伴い、石油・天然ガスの需要が急速拡大しており、国営インド石油天然ガス会社、国営インド石油およびリライアンス・インダストリの国営および市営企業が、自国周辺の天然ガス開発および世界各地で権益を取得し、油田開発も積極的に進めている。現時点では提携合弁の事業が中心と見られるが、鉄鋼産業の急速な成長の例をみると、上流の技術習得や自主技術開発およびその実用化もそう遅くない時期に開始するであろう。中国との厳しい競争が、すでに予見されている。
タイ国営石油ガス公社、シンガポールのゲッペルコーポレーション、インドネシアのブミ・リソーシス・メデュ・エナジー、マレーシアのペトロナス等の国営石油企業や石油開発技術企業の成長も目覚しい。これらの企業規模は日本の新日本石油(株)や国際石油開発(株)に匹敵する迄になっており、海外展開を加速している。
ブラジルは、南米第2の産油国として、年5億バレルの原油生産を突破している。国営会社ペトロブラスは同国の上流部門を独占して、リオデジャネイロ沖の水深1,400mに達する大水深海底開発を行っている。生産コストは平均$10〜14/バレルと安くはないが、すでに自主技術による開発・生産体制を構築していると言われている。2005年には自給率100%を越え、輸出国になる見込みで、上下流の技術開発も加速されよう。
我が国も国の指導のもと、技術力と大きな市場を武器に、上流部門での存在価値を高め、図表12のように世界各地で原油獲得を目指してきた。地下深部の生産技術や先端技術の応用など技術的な強みもあるが、世界で大油田開発オペレーターとしての実績は少なく、産油国政府との結びつきも強くないことから、メジャーの巨大さと新興国の勢いを前に、劣勢感が拭えない。このような状況下で力を発揮できるような人材の不足も懸念されている。こうした情勢のなか、JOGMECが委託した(財)石油開発情報センター:石油開発技術戦略検討委員会(委員長、藤田和男 東京大学名誉教授)は、図表13のような石油ガス開発技術の開発目標を揚げている。残念ながら、これまでのところ、この目標に向かって強力な推進が施策されたとは聞いていない。今後、この分野の科学・技術と、その実用・商用を実行する産業のあり方について議論が深まることを期待したい。
我が国においては、石油・天然ガスの上流部門における産業と技術において、米欧メジャーに比肩することは不可能であるとの悲観論が依然として支配的である。新興国の目覚しい成長、技術の内製化を見るにつけても、手をこまねく以外に方法がないとの自嘲もある。しかし、我が国が今後も科学技術立国を国是として、21世紀前半を生き抜くためには、石油・天然ガスの確保と技術維持は不可欠である。石油・天然ガス資源の上下流において、世界に発信できる技術と、それを支える科学を力強く展開していくべきであるし、同時に、それらを駆使できる産業の強力化も必須である。ここでは、日本人の叡知と胆力が問われている。エネルギー総合戦略の対象として石油・天然ガスを捉えるうえで、下記の3点を提言したい。
(1)産業力の強化
現在、石油精製・生産の分野の企業の再編を通して、上下流一帯化した一定規模の産業が形成される気運が生まれている。日本の社会において、その重要性が認知され、世界規模の影響をもつ資本、技術、交渉力の蓄積を目指す必要がある。この際、探査、開発、生産技術の実証および実用化を通して、競争力のある上流技術を世界に発信できる強力な石油産業構造の構築を、国とともにその投資家としての国民が真剣に考えていただきたい。
(2)上流技術の継続的進歩の必要性
日本の幅広い先端科学と技術を背景に、総合科学として上流技術開発を展開する必要があり、特に、高深度水深部開発の技術に取り組むべきである。また、超重質原油も開発の重点的対象になろう。
ロボット、通信、制御、センシング情報処理、高精度高耐久性の機械・材料に関する技術開発を積極的に進める必要があり、これらが、石油資源の遠隔探知技術に発展していくだろう。
さらに、上流技術と関連した地球物理、地球化学、界面化学、化学工学の強化と、それらの実用技術への積極的貢献を進め、探鉱・開発・生産の技術にこれらの新しい科学を導入していく必要がある。最近建造された深海掘削船ちきゅうには世界に誇る最新の探査船であり、人類未踏のマントル掘削する研究と融合して、日本近海大水深や大深度地下の地質構造の徹底した調査を資源探査に結びつける努力を期待する。
(3)人材の養成・確保
石油・天然ガスの資源の存在する世界の場所で活躍できる人材の養成は、日本にとって緊急の課題である。国内外の企業・大学研究機関でも、科学技術の知識と開発力およびビジネスマインドを持って世界中の多種な民族と付き合える日本の人材が必要である。
このために、国内の大学・企業が連携し、理工学の幅広い素養と創造性を持った活力のある大学卒業者を100人/年程度の規模で、国際的に評価される人材へ養成するプログラムが必要である。経験と実績によって裏打ちされた最先端技術だけでなく、民族の対立や国際的な権益競争を乗り越えて開発業務を行い、世界に挑戦していく気概を持つようなタフな人材の養成を発想するべきである。その際には、世界的にすでに評価を確立している諸外国の大学、研究機関や企業の助けを必要とする現状を認識しなければならない。この分野においては、急速発展国さらに発展途上国に恩恵を与えるかの思い上がりは捨て、我が国が世界に学ぶ姿勢も必要である。そうした人材の受皿が国内企業にあることが望ましいが、世界で活躍できる広い視野をもった人材の養成を目指すべきである。日本が世界の必要とする人材の輩出とその養成の場としての大学院や研究機関を整備することは、国と教育機関に加えて産業の任務である。
本小論をまとめるにあたって、下記の方々にご教示戴きました。紙面を借りてお礼申し上げます。
芝浦工業大学 藤田 和男 教授、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 織山 純 氏、和佐田 演愼 氏、石油・天然ガス開発R&D推進グループ 大野 健二 氏、石油資源開発株式会社 加藤 進 氏、帝国石油株式会社 山本 一雄 氏、海外・大陸棚本部業務部 千石 雄三 氏、技術企画部 杉山 広巳 氏。
1) 今日の石油産業2005、石油連盟、経済産業省
2) 新編 石油開発の技術、猪間明俊 著、石油文化社
3) 石油開発技術のしおり、石油鉱業連盟
4) 文部科学省科学技術政策研究所講演会、2005年10月17日、石油・ガス資源開発における先端技術、芝浦工業大学 教授 藤田 和男 氏
5) 技術センター幕張における技術開発の概要、石油天然ガス・金属鉱物資源機構