京都議定書の京都メカニズムにおけるクリーン開発メカニズム(CDM、Clean Development Mechanism)は、先進国から途上国(1)へ温室効果ガス削減技術の提供を促す優れた仕組みであると考えられている。しかし、2012年までの現議定書では、EU(欧州連合)などの反対で、原子力事業から生じる排出削減量をこのメカニズムによる削減目標の達成に使うことは差し控えることになった。共同実施(JI、Joint Implementation)においても同様である。
(1)途上国
京都議定書では排出削減義務を負っていない国を指すことになっている。中国、インドも含まれ、韓国、メキシコといったOECD加盟国も、ここでは、途上国の範疇に含まれる。
一方、途上国と定義されている国の中でも、中国、インドなどのアジア各国は、今後急速な経済発展と温室効果ガス排出増大が見込まれ、地球環境保全という共通の目的のため、将来的には米国などとともに温室効果ガス削減負担の新たな義務を負う必要性が出てくると考えられる。この際、途上国が持続可能な発展を維持した上で地球規模の温暖化加速を防止するには、温室効果ガス排出量が少なく基幹電源として利用できる原子力発電の早い時期での導入が有効である。この視点に立てば、中国、インド、インドネシア、韓国、ベトナムなどアジア各国においては、2013年からの第2約束期間で、CDMに原子力を加えることが適切である1)。その際、途上国で原子力利用を推進するには、安全対策や核不拡散対策、基盤整備対策面での先進国の支援が効果的である。
本稿では、現状の京都議定書京都メカニズム概要と原子力制約の状況、先進国と途上国の温室効果ガス排出動向を述べ、ポスト京都議定書の新たな目標達成の仕組み構築で多面的思考が必要であることを説く。また、途上国の原子力技術利用促進のために何らかの支援をすることが、21世紀の世界の二酸化炭素(CO2)排出量を削減し、地球温暖化防止に非常に有効であるという予測結果の一例について説明し、京都メカニズムでの原子力技術利用の重要性に焦点を当てる。さらに、アジアなどの途上国における今後の原子力利用推進に必要な安全対策や核不拡散対策、基盤整備対策などの課題についても述べる。
ここでは、まず、京都議定書、京都メカニズムがどのような意味を持ち、原子力技術利用がどのように制約されているか、その現状について述べる。
2‐1.京都議定書の概要
1997年12月、気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3、third session of the Conference Of the Parties)が京都で開催され、先進国の温室効果ガス排出削減目標に関する京都議定書が合意された。内容は、2008〜2012年の数値目標に関するもので、1990年の排出量に比して、日本は6%、米国は7%、EUは8%の水準にすることなどが決定された。その合意内容を図表1に示す。その後、温室効果ガス排出が最大の米国や豪州が同議定書から離脱したが、ロシアの批准により2005年2月に正式に京都議定書が発効した。締約国は温室効果ガスの削減目標の達成が義務となった。この最大の意義は、人類史上初めて世界が炭素利用に制約が伴う社会へ移行するきっかけをつくった点である。
2‐2.京都メカニズムにおける原子力技術利用制約
京都議定書は、国内の温暖化対策だけでなく他の国と共同実施の温暖化対策事業で生ずる温室効果ガス削減量で自国の排出ガスを削減したものとする制度や、他の国から排出削減量を買う制度を使って、議定書の削減目標を達成することを認めている。これが、「京都メカニズム(柔軟性措置)」と呼ばれる仕組みで、図表2に示すように、共同実施(JI、Joint Implementation)、クリーン開発メカニズム(CDM、Clean Development Mechanism)、排出量取引(ET、Emissions Trading)の3つがある。JIとCDMは一見同じ仕組みに見えるが、JIは排出削減義務のある先進国で実施するプロジェクト、CDMは排出削減義務のない途上国で実施するプロジェクトという違いがある。これらの運用上ルールは、2001年7月ボンで開催のCOP6再開会合において議論され、京都メカニズムに原子力技術利用を含めるかどうかが大きな争点となった。
欧州諸国は、途上国の温暖化防止策支援に原子力技術利用を認めることに安全管理への懸念から反対を表明した。一方、日本をはじめとして、欧州以外の先進諸国ならびに中国、インドなどいくつかの途上国は、特定の技術を温暖化防止交渉において否定すべきでないとの理由から、CDMでの原子力技術利用に賛成した3)。結局、議長の妥協案により、JIやCDMのもとで行われた原子力事業から生じる排出削減量を削減目標の達成に使うことは「差し控える」ことになり、実質的に原子力技術利用は除外された。ただし、本妥協案は、原子力技術が温室効果ガス削減に有効であることを否定しているわけではない。
ポスト京都議定書における温室効果ガス排出削減負担のあり方を考える際に、世界の温室効果ガス排出が現状どのような構造となっているか、そして、今後、先進国、途上国の排出状況がどうなるのか、また、その排出指標にはどのようなものがあるのかを把握しておくことが重要である。ここでは、それらの一部を紹介する。温室効果ガスとしては、絶対量が多く効果の大きいエネルギー起源二酸化炭素(CO2)を対象にする。
3‐1.現 状
世界のCO2地域別排出量の変遷と国別排出量の現状を図表3に示す。世界のCO2排出量は着実に増加し、その中でもアジア地域の排出量の伸びが大きくなっている。国別排出量では、2001年度で、米国、中国、ロシア、日本、インドの順になっているが、上位5カ国で現在京都議定書による削減義務を負っているのは、第3位のロシアと第4位の日本だけである。ロシアは1990年比±0%の目標となっているが、現在の排出量は1990年の水準を大幅に下回っており、大量の余剰枠を抱えている。ロシアも実質的には削減目標を負っているとは言えない。すなわち、世界の排出量の上位約半分のうち、京都議定書上の排出削減義務を履行する意欲を実質的に示しているのは、第4位の日本だけという構造である。
3‐2.今後の見通し
世界のCO2排出量の今後の動向を図表4に示す。京都議定書上、削減義務が規定されている先進国の中から、離脱表明をしている米国、豪州を除いた残りの国の排出量が世界に占める割合は1990年で35%にとどまっていたが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の見通しでは自然体でも今後減少を続け、図表4の米・豪以外に示されるように2010年で32%、2020年には29%程度になるものと予想されている。一方、途上国の排出量は、図表4の非附属書I国に示されるように今後大幅に増大し、2020年には世界全体の半分を占めると予測されている。このように、現状の京都議定書は今後排出量の大幅な増加が見込まれ地球温暖化の進行に大きな影響を持つと見られる地域を含んでいない。将来の地球温暖化への対処には、米国、豪州、途上国の排出をどのように抑制するかが大きな課題である。また、これらの主要排出国が参加できる新たな協調のあり方を様々な排出指標を用いて構築する必要がある。
3‐3.様々な排出指標
そこで、先進国、途上国の排出状況が排出指標を変えるとどうなるかを見てみた。図表3は、第12位までの国別排出総量(2001年)を示すが、上位30ヶ国のデータでは、第2位の中国、第5位のインドを初めとして途上国が15ヶ国を占める。日本は第4位である。排出指標として主に米国などが主張しているのは、図表5に示すGDP(国内総生産)当たり排出量(2000年)である。上位30ヶ国中、途上国が21ヶ国にもなる。中国は第10位、インドが第15位、米国、日本は43位、65位となっている。一方、中国、インドなど途上国が排出指標として推すのは、図表6で表される一人当たり排出量(2000年)である。これを見ると、第1位から第3位までをカタール、クェート、UAEと途上国が占め、上位30ヶ国中、途上国は10ヶ国である。米国、日本は4位、21位、中国、インドは、59位、65位となっている7)。
途上国は、COP8(2002年11月、ニューデリー)以降、「共通だが差異のある責任」(気候変動枠組条約第3条第1項)の原則の下、「まずは先進国が率先して取り組むべき」と主張し、将来の枠組みに関する議論を開始すること自体に強い抵抗を示してきた。しかしながら、地球規模の課題である温暖化問題に取り組むにあたって、この途上国の主張は図表5、6で示されるように必ずしもすべての指標で根拠を有するとは限らない。
途上国は、主に一人当たり排出量の指標を重視する主張を行っているが、排出総量で見ると、上位の中国、インド、韓国、メキシコ、南アフリカ、ブラジルなどの国々にも地球環境のために率先して果たすべき責務があるという議論がある4)。ポスト京都議定書における排出削減の新しい負担のあり方を構築するにあたっては、米国、豪州、途上国も参加できるよう、既存の先進国、途上国という分類のみに固執することなく、様々な指標を用いて世界共通の排出基準をつくるなど複眼的に考えることが重要である。
排出基準として、下記のような一人当たり均等な排出許容量8)を考える。世界共通の参加基準として、2100年時点大気中CO2濃度を温暖化防止上許容範囲と予想される550ppm(産業革命前の約2倍)に安定化させる許容排出量を、世界全体の人口予測値で割って算出される一人当たり均等排出許容量を採用する。各国の将来のある時点での排出許容量はその時点での各国人口予測値×参加基準値となる。ただし、米国など先進国の排出量は過去、現在、将来にわたってもこの許容量を大きく超える可能性が高い。この場合、汚染者負担原理と世界全体削減目標の効率的達成という視点から、排出許容値を超える国はポスト京都議定書における柔軟性措置を活用する。この排出許容量に基づくと、中国などは2020年前後に排出量が許容値を超えるため、先進国と類似の約束を負う必要性が出てくるが、それまでは排出量が許容値を超えないためポスト京都議定書の新しい枠組みに参加しやすくなる。また、単位エネルギー消費量当たりのCO2排出量、単位GDP当たりのエネルギー消費量、一人当たりGDPなどが小さくなるほど、一人当たりCO2排出量は小さくなるので、途上国のCO2排出抑制効果以外に省エネルギーや生産効率向上など経済の効率化にも効果的である。
途上国は、前章で述べたように中長期的には温室効果ガス排出が増大する見通しのため、何らかの形で排出削減の責務を負わざるを得ないと考えられる。原子力技術は温室効果ガス削減に非常に有効で、かつ、環境に優しい再生可能エネルギー技術よりも供給可能量と発電コストの点で優れている。途上国にとっても、その利用は大きな意味をもつ。ここでは、途上国の原子力技術利用促進のために何らかの支援をすることが、21世紀の世界のCO2排出量を削減し、地球温暖化防止に非常に有効であるという氏田らの予測結果9)の一部を紹介する。
4‐1.予測手法
この予測では、世界のCO2排出量やエネルギー供給構造が予測できる超長期エネルギー供給シミュレーション技術が用いられた。本技術は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3次報告書」10)でもその試算結果が取り上げられた統合評価モデルGRAPE(Global Relationship Assessment to Protect the Environment)11)のエネルギーモジュール構造を使っている。CO2排出量制約などの環境下におけるエネルギー需要を仮定し、10地域に分割した世界を対象として2100年までのエネルギーシステムコストを最適化、各地域のエネルギー供給構成を予測する。向こう30年間の最適化結果を基に10年毎にエネルギー構成を見直していく。
最終エネルギー需要は、IPCC排出シナリオに関する特別報告書B2ケース(環境重視/地域共存型)12)をベースに省エネ促進を考慮した条件9)を採用した。先進国のCO2排出制約条件は京都議定書制約と2013年以降10年毎に5%削減継続の制約という厳しい条件と仮定し、途上国については大気中濃度が550ppmに飽和するように制約する緩い条件(2100年までの安定化シナリオWRE‐550(2))を採用した。1次エネルギーとしては、石油、石炭、天然ガス、CO2回収のある石炭、太陽光、風力、バイオマス、風力、水力・地熱、軽水炉原子力(LWR、Light Water Reactor)、高速増殖炉原子力(FBR、Fast Breeder Reactor)を想定し、高速増殖炉原子力は2030年に導入されるとした。その他条件の詳細は文献9に記載されている。以下では、予測結果の一部を紹介する。ケース1は途上国の原子力発電コストを優遇しない場合、すなわち、何らかの導入促進制度がない場合、ケース2は途上国原子力発電コストを優遇する場合(3)、何らかの導入促進制度がある場合を示す。
(2)WRE-550
「気候変動に関する政府間パネル」では、温暖化防止のため、現在370ppmである大気中CO2濃度を2100年において450〜1,000ppmで飽和、安定化させるシナリオを検討している。Wigley, Richles, & Edmonsは、550ppmで安定化させるシナリオを提案した。
(3)発電コスト優遇
本エネルギー予測シミュレーションでは、優遇制度がない場合、軽水炉原子力の発電コストは4セント/kWh、高速増殖炉原子力は導入当初の2030年に4.6セント/kWh、2060年以降4セント/kWhと仮定し、優遇制度がある場合、原子力発電コストが2010年から50年間2セント/kWh下がると仮定している。
4‐2.結 果
図表7(ケース1)と図表8(ケース2)は、途上国原子力の導入促進制度がない場合(ケース1)とある場合(ケース2)で、21世紀における先進国と途上国の軽水炉原子力(LWR、Light Water Reactor)、高速増殖炉原子力(FBR、Fast Breeder Reactor)の原子力発電設備量がどうなるかを予測した結果を示す。
ケース1では、21世紀前半、原子力はCO2排出規制の強い先進国で主に利用され、経済成長の大きな途上国での原子力利用があまり進まない。これは、途上国にCO2排出規制がなくコストの低い石炭火力の導入が進むためである9)。一方、途上国の原子力導入促進制度があるケース2では、先進国の原子力利用を維持したまま、途上国でも原子力エネルギー利用が進み、2100年の途上国原子力発電設備量(FBR)もケース1の約2倍に増える。
上記ケース2の場合、世界全体のCO2排出量がケース1に比べてどれぐらい削減されるかをみるために、2010年から50年間の累積CO2排出量を図表9に示した。参考までに、先進国にも途上国にも環境規制が全くない場合の排出量もケース3として示す。ケース1の現状の先進国環境規制でもケース3の環境規制がない場合に比べて、CO2排出削減効果は得られるが、途上国の原子力導入促進制度があるケース2では、ケース1よりさらに世界全体で約30GtC(ギガトンカーボン)の削減効果が期待できる。
このように途上国の原子力技術利用促進のために何らかの支援をすることが原子力技術利用の地域格差を是正すると同時に、21世紀の世界のCO2排出量を削減し、地球温暖化抑制に非常に有効である。ポスト京都議定書で、京都メカニズムにおける原子力技術利用を認めることは、締約国の選択のオプションを拡げることとなり、原子力技術利用が選択されれば、結果として途上国の環境面、経済面の支援と言えるとともに、世界のCO2排出量削減に関する国際的枠組みの賢明な第一歩と考えられる。
前章で述べたように、途上国の持続可能な発展及び温暖化加速抑制には、温室効果ガス排出量が少なく基幹電源として利用できる原子力技術を早い時期に導入することが効果的であると考えられる。しかし、アジアなどの途上国において原子力利用を推進するには、安全対策や核不拡散対策、基盤整備対策が非常に重要である。ここでは、途上国における原子力技術導入状況を整理し、利用促進における課題について述べる。
5‐1.導入状況
2004年末現在、世界で運転中の原子力発電所は434基、合計出力は約379.2GW(3億7920万kW)で過去最高となっている12)。図表10に示すように、このうち途上国の合計は38.36GWで世界全体の約1割を占めるに過ぎない。しかしながら、今後、電力需要の大幅な増加が予測されている中国、インドでは、現状の計画で2020年までに原子力発電設備容量をそれぞれ36GW、20GWに拡大する方針が打ち出されている12)。韓国でも同様に約27GWまで増やす予定である。中国で近々建設される4基の原子力発電所については、国際入札が2005年2月に締め切られ、フランス、米国・日本連合、ロシアの3グループ企業が応札、2005年内にも受注企業が決まる予定である。一方、現在運転中の原子力発電所を持たないインドネシア、カザフスタン、エジプトなども、1GW(100万kW)級の原子力発電所を2020年ぐらいまでに、それぞれ、約4、3、2基新規に建設する計画を持つ。さらにベトナムも既に事業化可能性調査を終え、2020年までに同国南部に1.2〜4GW程度の原子力発電所を新設する計画である12)。
これらの計画も含めた世界の原子力発電設備容量の変化に伴う世界のウラン需要量は、2002年の66815tU(トンウラン)/年から2020年時点には高ケースで86070tU(+29%)に、低ケースで73495tU(+10%)に増加すると予測される。他方、ウラン生産能力は2003年の約47000tU/年から2020年には約62000tUになるとの予測で、この供給不足分は一時的な混乱が懸念されるものの米国・ロシア政府の余剰軍事用核物質の売却等により満たされる見通しである。なお、中国、インド、パキスタンはウラン自給策をとっている3)。
途上国がこれらの計画、更には温室効果ガス排出抑制に向けさらなる原子力発電導入を実施していく上で、今後どのような課題があるかを次節以降にまとめた。以下では、新規に原子力発電を導入しようとしている途上国や原子力発電導入の拡大期にある途上国を対象とする。
5‐2.技術移転
途上国の原子力技術利用推進にあたっては、先進国が技術のライセンスや各種国際約束等を考慮しながら、原子力発電技術だけでなく、原子力施設の安全確保や原子力プラントの安全性を高める原子炉保全技術などの安全管理技術、また核不拡散体制を保証する核物質管理技術13)などを移転していくことが大きな課題である。原子炉保全技術では、高経年化対策としての配管検査技術や予防保全技術、補修技術など14)が重要である。
原子力安全分野におけるアジア諸国との多国間及び二国間協力は、既に、アジア原子力協力フォーラムや国際原子力機関(IAEA)アジア原子力地域協定の枠組みなどにより始まっている15)が、今後、日本はこのような枠組みやその他研究交流、研修事業制度15)を通して相手国の原子力安全技術基盤の形成とその向上に寄与していく必要がある。なお、協力の際には、相手国の政治的安定性、関連条約・枠組みへの加入・遵守状況等に留意することも必要である。
5‐3.基盤整備
途上国の原子力技術利用推進にあたってのもう1つの課題は、各国に応じたきめ細かい原子力導入基盤整備である。今後、新規に原子力発電を導入しようとしている途上国に対しては、先進国が相手国の体制整備状況に合わせて核不拡散体制、安全規制体系、原子力損害賠償制度、国民への広報活動等のソフト面でのインフラ基盤整備で側面支援を行うことが重要である。また、これらの体制を途上国で維持・強化していく人材の育成支援も大切である。特に、日本は、図表11に示されるように上記原子力研究交流、研修事業制度やアジア原子力協力フォーラム等の枠組みを通して、アジア諸国の人材育成等インフラ基盤整備に協力してきているが、さらに協力支援を推進していくべきである。なお、原子力発電の場合、相手国の基盤整備、法整備、人材育成等支援に長い時間が必要で、2国間原子力協定あるいは協力合意の枠組み等を早期に結ぶことが望まれる15)。一方、原子力発電導入の拡大期にある途上国に対しては、先進国が核不拡散対策のもとで安全面・人材面で協力することはもちろん、原子力技術の平和利用展開という視点で先進国原子力事業者による途上国への国際展開を積極的に支援すべきである。
途上国の原子力技術導入に関しては、先進国による資金支援も必要である。現在、世界銀行は京都メカニズムに対応するため各種炭素基金を運営している7)。また、ポスト京都議定書では、気候変動による影響への対応で途上国支援のための資金(議定書適応基金)運用が議論されることになる予定である16)。なお、CDM等京都メカニズムに原子力技術利用が採用された場合、日本がCDMを活用し削減量を得るためには、途上国が火力発電所を建設する予定のところを、一義的には日本が資金と技術を出し、当該途上国と共同事業で原子力発電所を建設することになると考えられる。
本稿では、現状の京都議定書京都メカニズムの概要と原子力制約の状況、ならびに先進国と途上国の温室効果ガス排出動向を述べ、ポスト京都議定書の新たな目標達成の仕組み構築で多面的な思考が大切であることを述べた。一方、途上国の原子力技術利用促進のために何らかの支援をすることが、21世紀の世界のCO2排出量を削減し、地球温暖化防止に非常に有効であるという予測結果の一例を示し、京都メカニズムでの原子力技術利用の重要性に言及した。しかし、アジアなどの途上国において原子力利用を推進するには、安全対策や核不拡散対策、インフラ整備対策が極めて大切である。そこで本稿では、途上国の原子力技術導入現状を整理し、今後の利用促進に必要な移転技術とインフラ整備の課題についてもまとめた。これらを前提として、今後のポスト京都議定書に向けた取り組みと、途上国における原子力技術導入支援に関して下記に注目することを提言する。
(1)新たな負担の仕組み構築における複眼的思考の必要性
我々は、地球環境保全という共通の目的のため、大局的見地から、米国や途上国なども参加できる排出削減の負担のあり方を構築する必要がある。削減義務を履行する意欲を実質的に示している日本は、米国、中国、インド等と共に、既存の先進国、途上国という分類のみにとらわれず、1人当たりの排出量、GDP当たり排出量など様々な指標を用いて排出削減分担方法を複眼的に考え、例えば世界共通の排出基準をつくるなど新たな枠組みの議論に積極的に参画すべき立場にあると考える。
(2)京都メカニズム(CDM/JI)における原子力技術利用の追加
ポスト京都議定書の枠組みで京都メカニズムを維持する場合、CDMやJIに原子力を加えられるように、日本がリーダーシップをとって、中国、インドなどとともに欧州各国に主張するのが妥当である。この際、日本が欧州の環境政策担当者に原子力の安全性を十分に説明するアプローチ、努力が重要と思われる。
(3)途上国での原子力技術利用促進支援
アジアなど途上国の今後の持続可能な発展や温暖化加速抑止には、原子力発電のさらなる導入が効果的であるが、途上国での原子力技術利用促進には、核不拡散対策下での下記のような支援が必要である。
(i) 原子力発電安全管理技術等の途上国への技術移転、支援体制確立が必要である。日本が、その体制づくりに協力することが求められる。その際、途上国の関連条約・枠組みへの加入等の働きかけも重要である。
(ii)途上国各国に応じたきめ細かい原子力導入インフラ整備が必要である。特に、人材養成、ファイナンスが大切である。途上国の原子力人材育成、核不拡散体制、安全規制体制、原子力損害賠償制度、国民への原子力広報活動などの基盤整備を日本が積極的に支援する。
本稿をまとめるにあたり、原子力委員会の町末男委員、東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻の道正久春客員教授(科学技術政策研究所客員研究官)、エネルギー総合工学研究所プロジェクト試験研究部氏田博士主管研究員のご意見もご参考にさせていただきました。ここに深甚な感謝の意を表します。
1) 原子力広報対策検討会、文部科学省委託事業「広報活動のあり方に関する検討会」―持続可能な発展と原子力のための広報―第3回議事概要、2003年1月:http://www.pinenet.jp/e-kokusaikoho/e-3-3.html
2) 青柳雅、「京都議定書とは何か」、2005年3月、OHM、pp.18〜23
3) 原子力百科事典 ATOMICA、国連気候変動枠組条約第5回、第6回および第7回締約国会議:http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/01080412_1.html、世界のウラン資源量と需給予測:http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/04020107_1.html
4) 経済産業省産業構造審議会環境部会第25回地球環境小委員会参考資料1、2004年:http://www.meti.go.jp/committee/downloadfiles/g41104a91j.pdf、第16回地球環境小委員会配布資料5、2003年:http://www.meti.go.jp/committee/summary/0001635/0001.html、地球科学技術総合推進機構、「地球温暖化問題ガイドブック、2005〜2006」、p.36
5) 財団法人 エネルギー総合工学研究所 ホームページ、世界の二酸化炭素排出量:http://www.iae.or.jp/energyinfo/energydata/data5010.html
6) 気候変動とエネルギープログラム、FoE Japan ホームページ、http://www.foejapan.org/climate/doc/tokyoconf/08B_METI.PDF
7) 経済産業省産業構造審議会環境部会第16回地球環境小委員会配布資料5、2003年:http://www.meti.go.jp/committee/summary/0001635/0001.html、地球環境小委員会市場メカニズム専門委員会第9回参考資料:http://www.meti.go.jp/policy/global_environment/sankoushin/9thshijomecha/9-10.pdf
8) 周a生、「議定書と将来戦略」、日本経済新聞 経済教室、2004年10月29日、33面
9) 氏田博士、松井一秋、関本 博、第21回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集2005.1.26〜27、pp.41‐44;池田一三、青木和夫、波田野守、同左、pp.45‐48
10) Special Report on Emission Scenarios(SRES),Intergovernmental Panel on Climate Change(IPCC),Cambridge University Press, 2000
11) Kurosawa A., et al., Analysis of Carbon Emission Stabilization Targets and Adaptation by Integrated Assessment Model, The energy Journal, Kyoto Special Issue, pp.157‐175, 1999
12) 日本原子力産業会議ホームページ、原子力の窓、原子力委員会サマリー:http://www.jaif.or.jp/asia/window/39.html
世界の原子力発電開発の動向:http://www.jaif.or.jp/ja/news/2005/0408doukou.html
13) 原子力白書、平成16年版:http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/hakusho2004/26.pdf
14) 前川治、「原子力プラントの最新技術動向」、2005年7月、OHM、pp.2‐3
15) 原子力委員会新計画策定会議(第25回)、資料第1号:http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/tyoki/sakutei2004/sakutei25/sakutei_si25.htm
16) 外務省ホームページ、気候変動枠組条約締約国会議第10回会合(COP10)概要:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kiko/cop10/cop10_gh.html