[レポート3]
わが国における地震防災の最近の動向

菅沼 克敏
総括ユニット


1.はじめに

 周辺海域まで含めた面積が全世界の約1%であるにもかかわらず、20世紀中に起きたマグニチュード8.0以上の大地震のうち、およそ1割が日本とその周辺で発生しているという世界有数の地震大国である。また、日本は地震防災に対する先進国でもある。

 1995年1月に発生した阪神・淡路大震災以降、地震防災に関して様々な技術が展開されている。

 また、2005年3月の中央防災会議では、公共施設や住宅等の耐震化や津波対策などを戦略的・重点的に推進していくための具体的な減災目標を定めた「地震防災戦略」が策定された。

 その中で、いつ発生してもおかしくないといわれている東海地震と、21世紀前半にも発生が懸念されている東南海・南海地震について、今後10年間で死者数、経済被害額を半減させる減災目標が明示された。

 ここでは、わが国における地震防災の最近の動向と今後の課題について紹介する。

2.阪神・淡路大震災以降の地震でわかったこと

 1923年の関東大震災以降、1995年の阪神・淡路大震災まで、わが国においては都市を直撃した大地震が発生しておらず、建築技術の進歩などにともない、地震による壊滅的な被害は発生しないと思われていた。

しかし、阪神・淡路大震災では、高速道路高架橋の倒壊など、それまで考えられなかった被害が発生した。

2‐1.全国各地で震度6以上の地震が発生

 2004年10月には阪神・淡路大震災以来の最大震度7となる新潟県中越地震が発生した。また、2005年3月には地震活動が活発でなかった九州北部で最大震度6弱の福岡県西方沖地震が発生している。さらに東海地震、東南海・南海地震や首都直下地震の切迫性が叫ばれている。

 過去30年の地震と海溝型巨大地震等の震源域は、図表1のとおりである。

chart01

 東海地震、東南海・南海地震と首都直下地震などの想定震源域以外の全国各地で発生している。

 日本の陸域および沿岸域には約2,000ヶ所の活断層が存在しており、地震調査研究推進本部では、このうち大地震を起こした場合、社会的、経済的に大きな影響を与える98の断層帯を選定し、活断層の調査を推進している。

 活断層は約2,000ヶ所が確認されているが、その数倍の確認されていない活断層が存在するともいわれており、大地震は東海地震、東南海・南海地震や首都直下地震ばかりでなく、どこでも発生する危険性がある。

2‐2.防災意識の低下

 内閣府が行った全国の20歳以上の約3,000人を対象にした防災に関する世論調査によると、大地震に備えてとっている対策は、図表2に示すように、阪神・淡路大震災直後の調査では比率が高くなっているが、その後時間の経過とともに防災意識は低下している。

chart02

 また、大地震が起こった場合に心配なことでは、図表3に示すとおり、被災による火災の発生、建物の倒壊が上位を占め、被災後に生活する上での食料や飲料水の確保、次いで道路や橋の被害・混雑、津波、浸水、堤防の決壊などの順となっている。

chart03

 家具類の転倒・落下防止対策も、外観を気にしていたり、必要性を感じていないなどの理由により実施率が低くなっている。

2‐3.住民の避難状況

 三陸沖は太平洋プレートの沈み込む海溝があり、三陸海岸はリアス式海岸であるため、津波が大きくなる傾向があり、津波常襲地帯といわれている。

 過去においても明治三陸地震津波(1896年)、昭和三陸地震津波(1933年)とチリ地震津波(1960年)などで多くの死者・行方不明者が出ている。

 2003年5月の宮城県沖の地震では、三陸沿岸各地で震度4〜6弱が観測されたが、この時には津波は発生しなかった。

 宮城県気仙沼市内の津波の危険区域を含む行政区を調査対象に約30%、3,600票の回収による住民の避難行動状況は、図表4のとおりである。

chart04

 避難した人は約8%で、4割は避難するつもりがなかったと回答しており、津波の常襲地帯でも自主的に避難している人は少ない。

 また、2004年9月の東海道沖を震源とする地震において、最大震度5弱が観測された。地震発生から4〜6分後に気象庁から愛知、三重、和歌山の3県42市町村に津波警報が発令され、12市町村が避難勧告を行ったが、避難した人は少ない。

 この地域は、特に東海地震、東南海・南海地震により著しい被害が生じるおそれのある地域で、防災対策を推進する必要がある地域に指定されているところである。

 近年、テレビや行政などからの地震情報・避難情報を待っている人が多く、災害情報に依存することなく、迅速に行動する防災対策は緊急の課題となっている。

2‐4.1981年の新耐震設計基準の効果

 阪神・淡路大震災では死者の数が6,400名を超え、死亡要因のほとんどは家屋・家具類等の倒壊による圧迫死であった。

 神戸市を対象に固定資産税台帳から町丁目を単位として集計したデータから、1980年以前の建築物の比率と、日本都市計画学会等の調査に基づく全壊建築物の比率の関係を比較したものは、図表5のとおりである。

chart05

 1980年以前に建てられた建築物の被害の割合が非常に多くなっており、1981年に施行された新耐震設計基準の効果が表れた結果となっている。

 全国の住宅戸数約4,700万戸のうち、1981年以前の建築戸数は約1,750万戸あり、このうち約1,150万戸は耐震性が不足すると推計されている。

 住宅・建築物の耐震化は、人命を守るのに有効であるばかりでなく、出火や火災延焼の軽減、倒壊による救命・救急活動や復旧・復興の妨げの軽減にもつながる。

 また、2003年9月十勝沖地震では、1993年釧路沖地震や1994年北海道東方沖地震による被災を契機に、落橋防止装置や地盤改良による液状化対策、木造・RC造建築物での耐震補強対策が行われた箇所では地震後における被害は見られておらず、耐震補強対策の効果が表れている。

2‐5.阪神・淡路大震災における復旧・復興

 阪神・淡路大震災の復旧・復興状況は、図表6のとおりである。

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 ライフラインなど(電気6日、電話14日、ガス84日、水道90日、下水道93日)都市機能は比較的早く復旧しているが、産業や住宅の復興には時間がかかっている。

 中越地震では、「7.13水害」「台風23号」による大量の降雨によって地盤が緩んでいた中で地震が発生し、その後も長期間にわたり大きな余震が続いた。

 地震発生直後、道路の寸断により集落が孤立した。そのため被災者の避難を困難にし、救援物資の搬入やライフラインの復旧を遅らせる要因となった。

 ライフラインを早期確保するために、優先的に生活関連道路の復旧が行われた。

 2005年7月の千葉県北西部を震源とする地震では、13年ぶりに東京23区内で震度5を観測した。地震の発生が土曜日の夕方ということもあり、人員の確保等に時間がかかり復旧や点検が遅れた。

 首都圏では約64,000台のエレベータが停止した。ほぼ全て地震時管制運転装置が作動して最寄階に停止しドアが開放されたものである。セキュリティ上立ち入ることが出来なかった建物を除き、二次災害防止のため、専門技術者が安全性を確認して翌日には復旧された。エレベータの閉じ込めが78件に上り、救出時間は通報を受けてから平均で約50分。ドアの異常を検知して緊急停止装置が作動した影響と思われている。

 電車や列車などに設置されている非常用ドアのように、エレベータの内側から手動で開けることが出来、安全に脱出できる機能が必要である。

 また、鉄道の運行再開までに長時間を要し、JR線や地下鉄などでは最大7時間止まり、100万人以上に影響が出た。運転再開までの時間の短縮や輸送障害発生時の乗客などへの情報提供等についても検討することとなった。

2‐6.地震予知

 地震予知とは、地震の発生時期、場所、大きさ(マグニチュード)を地震の発生前に予測することで、わが国の地震予知計画が国家プロジェクトとして1965年に始まり40年が経った。現在、地震調査研究推進本部により発生間隙や最新活動時期などのデータを基に「今後30年以内に起きる可能性は何%」といった確率論的長期予測が行われている。

 地震予知の基本となる地殻変動観測については、約20km間隔で覆う全国的なGPS連続観測施設の整備が進み、迅速かつ的確な情報が得られるようになった。

 地震には、その前触れとなる異常現象である地震前兆現象があるとされている。

 気象庁では、東海地震については図表7に示すとおり、(1)前兆現象を伴う可能性が高いこと、(2)前兆現象を捉えるための観測・監視体制が震源域直上に整備されていること、(3)捉えられた異常な現象が前兆現象であるか否かを判断するための、「前兆すべりモデル」に基づく基準があることから、短期直前予知できる可能性があるとしている。

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 しかし、2003年9月十勝沖地震では、地震が発生する前に前兆すべりが起こらなかった。

 1975年2月に中国・遼寧省でマグニチュード7.3の海城地震が発生した時には、地震の前兆現象である動物の異常行動や地下からの湧水などが観測されて、地震発生の直前に避難命令が出され、被害を最小限にとどめることが出来たといわれている。

 しかし、異常な現象があっても、それが地震の前兆現象かどうかの見極めが難しく、この他に直前予知に成功した例はほとんどない。

3.阪神・淡路大震災以降の取り組み状況

 阪神・淡路大震災の発生を教訓として、地震災害の軽減にむけた新たな取り組みや強化、改良が行われている。

3‐1.地震観測網の整備

 阪神・淡路大震災により、1995年7月、全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため、地震防災対策特別措置法が議員立法によって制定された。

 地震調査研究推進本部では、1997年8月に「地震に関する基盤的調査観測計画」が策定された。

 地震観測については、データの気象庁への一元化や処理するためのシステムの整備が行われ、図表8に示すとおり、全国を高密度で覆う高感度および広帯域地震観測網整備が図られた。

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 陸域の高感度地震計(人間に感じないような非常に小さな揺れを検知するための地震計)は1,228ヶ所整備がなされ、約20km間隔での整備がほぼ達成されている。

 陸域の広帯域地震計(地面の速い振動から、非常にゆっくりとした振動まで、広い周波数範囲まで、広い周波数範囲にわたって揺れを記録できる地震計)は112ヶ所整備がなされ、約100km間隔での整備がほぼ達成されている。

 強震計(高感度の地震計では振り切れてしまうような強い揺れを観測するための地震計)は、地中に975ヶ所整備され、概ね高感度地震計と同地点に整備されている。なお、地表は、3,564ヶ所(別途、自治体が2,800ヶ所)整備されている。

 GPS連続観測施設(人工衛星を用いて、プレート運動や地殻変動を観測するシステム)は、1,456ヶ所整備がなされ、約20km間隔での整備がほぼ達成されている。

 ケーブル式海底地震計による地震観測については、既存の施設を活用するとともに、主要海域の中から順次選択し、整備に努めることとされている。
 東海地震を観測する御前崎沖海底地震計の更新とともに、東南海・南海地震域などの緊急性の高いところから、ケーブル式海底地震計の設置を行う必要がある。

3‐2.地震観測結果の迅速な情報伝達

 現在、全都道府県の震度計のデータが気象庁と接続されていて、気象庁は各種地震情報を発表している。都道府県は地震発生から4分後までに震度情報の送信を開始し、9分以内に全観測点の送信を終了することとなっている。

 大規模な被害が予想される場合には、首相官邸に対策室が設置され、緊急参集チームが招集されることとなっている。

 2005年7月の千葉県北西部を震源とする地震において、東京都では気象庁への送信サーバーのデータ処理が遅かったため、気象庁への送信に時間を要し初動対応の遅れにつながった。また、新潟県中越地震の際にも、震度情報ネットワークに障害が発生し、気象庁へ送信が出来なかったところがあった。

3‐3.緊急地震速報

 緊急地震速報とは、図表9に示すとおり、大きな揺れを引き起こすS波(主要動)が到達する前に、震源に近い観測点で得られた伝播速度が速いP波(初期微動)を検知することにより、震源や地震の規模、S波の到達時刻や震度を推定し、地震や津波による被害の防止・軽減を図るものである。

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 気象庁では、2004年2月から緊急地震速報の試験運用を開始し、現在、国の防災機関、自治体、大学、学校、民間等、約140機関に試験的な提供が行われている。

 地震の主要動が来る前に防災対策を講じることにより

などを実施することにより、被害の減少が期待される。

 阪神・淡路大震災のような直下型地震では、P波とS波の時間差が短く効果は発揮できない。

 2005年8月に宮城県沖で発生した地震では、緊急地震速報の第1報発信からS波が到達するまでの時間が、震度6弱を観測した宮城県川崎町では約22秒、震度5強を観測した仙台市、石巻市で、それぞれ16秒、10秒と見込まれるという情報が提供された。

3‐4.建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)

 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、耐震基準に満たない建築物の早急な耐震改修を図るため、建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)が1995年12月に制定された。

 特定建築物(学校、病院、劇場、百貨店、事務所等、多数の者が利用する建築物で3階以上かつ1,000m2以上のもの)の所有者は、耐震診断を行い、必要に応じ耐震改修を行う努力義務となっている。一般住宅は含まれていない。

 同法が制定されて10年近くが経つが、同法を活用した特定建築物の耐震改修の実績は約10,000棟で、耐震改修は十分に行われていない。

 このことから、2004年に建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保を図るため、建築基準法等および都市計画法等の一部が改正された。

建築基準法等の一部改正(建築物の安全性の確保)

都市計画法等の一部改正

 耐震性が不十分な住宅・建築物への対応策の強化として、特定建築物については期間を定めて耐震診断・改修を義務化する。耐震性が不十分な建築物については、指導・助言だけでなく、指示・報告聴取・立入検査や、指示に従わない建築物の公表等を行えるようにする。一般住宅についても努力義務を課すなど、耐震改修促進法の見直しが検討されている。

3‐5.耐震、免震、制振構造

 建物の耐震性を高めるには「耐震構造」、「免震構造」、「制振構造」の3つの構造がある。耐震・免震・制振構造の分類は、図表10のとおりである。

chart10

 耐震構造は、柱、壁などの構造物を、弾性的または弾塑性的に地震力に耐えるようにする構造である。

 免震構造は、建物の基礎下部や階と階の間に設けた支承などの免震装置により地震エネルギーを吸収し、建物が揺れないようにする構造である。

 制振構造は、壁等に設置したダンパーなどの制振装置により地震エネルギーを吸収し、建物全体の揺れを制御する構造である。

 建物の地震対策は、耐震構造が関東大震災において効果を発揮したといわれ、高度成長期には建築物の高層化に伴う、主に強風時の居住性改善を目的とした振動制御構造が1980年代に増え、阪神・淡路大震災以降は免震構造が増加している。

3‐6.住宅・建築物の耐震化

 戸建住宅耐震改修にかかる費用は、住宅や工事の規模によって異なるが、平均的には1戸当たり200万円程度かかる。

 費用負担の軽減を図るために耐震診断・改修に関する助成制度として

が、阪神・淡路大震災以降に拡充されてきた。

 住宅の耐震診断・改修の実績は、2003年度末までの累計では、耐震診断が約17万戸(うち補助16万戸)に対し、耐震改修は約3,500戸(うち補助40戸)と制度が十分に活用されているとは言えない。

 上記の補助制度が十分に活用されなかったことから、耐震診断および耐震改修に係る補助制度を一元化した「住宅・建築物耐震改修等事業」が2005年度に創設された。

 今後、全国的な普及を図っていく必要がある。

3‐7.地震保険

 地震はきわめて大きな損害をもたらす可能性があり、そのリスクを民間の損害保険会社だけで分担することは困難である。

 そこで、1964年の新潟地震を契機として、1966年に「地震保険に関する法律」が制定され、政府と民間損害保険会社の共同運営による保険制度が設けられた。

 1回の地震で一定規模以上の支払い保険金が生じた場合、保険金の一部を政府が負担することとされていて、2005年4月から1回の地震による総支払限度額は5兆円(関東大震災クラスの大地震が発生しても対応可能な額)となっている。

 地震保険は火災保険に付帯する方式での契約で、建物5,000万円、家財1,000万円を限度に、火災保険の30〜50%の範囲内とされている。

 保険料は、建築時期と木造・非木造、都道府県別の危険度(4区分)により決まる。

 2003年度末時点での火災保険に対する地震保険の付帯率は約35%となっている。

 地震保険の世帯加入率は約17%で、JA建物更生共済の加入率を合わせても約3割であり、地震保険の普及促進を図ることが課題となっている。

3‐8.ハザードマップ

 ハザードマップは、災害における被害を最小限にくい止めることを目的として、予想される被害の区域や程度などを地図上に明示するとともに、避難場所や危険箇所などの避難情報を分かりやすく表示したものである。

 地震ハザードマップは東京都、横浜市、名古屋市などの1都6市で作成されており、津波ハザードマップは、海岸線を有する991市町村のうち約12%にあたる122市町村での作成にとどまっている。中央防災会議では、今後5年間で津波防災対策が必要なすべての市町村において、津波ハザードマップを作成することが掲げられた。

 既に作成・公表されているハザードマップには、学校・公民館等の避難場所を表示してあるものは多いが、避難経路や指定避難路についてはほとんど表示されていない。

3‐9.災害復旧・復興

 防災基本計画(2005年7月、中央防災会議)では、「被災地の復旧・復興は、被災者の生活再建を支援し、再度災害の防止に配慮した施設の復旧等を図り、より安全性に配慮した地域振興のための基礎的な条件づくりを目指すものとする。また、災害により地域の社会経済活動が低下する状況にかんがみ、可能な限り迅速かつ円滑な復旧・復興を図るものとする」こととなっている。

 阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、次のような取組みがなされている。

(1)法律・計画の見直し

[1]災害対策基本法の改正

 内閣総理大臣が本部長となる緊急災害対策本部の設置要件の緩和や現地災害対策本部の法定化などの政府の災害対策本部の充実・強化、市町村長による都道府県知事に対する自衛隊の災害派遣要請の法定化などの地方公共団体の防災対策の強化、などの改正がなされた。

[2]防災基本計画、地域防災計画の見直し

 防災分野の最上位計画である防災基本計画について、自然災害に関して震災対策編の編構成とし、全面修正された。

 また、地域における防災の総合計画である地域防災計画についても、全都道府県において防災基本計画の全面修正を踏まえた修正が行われ、市町村では2004年4月現在で2,390団体(76.5%)が見直しを完了している。

[3]被災者生活再建支援法

 自然災害により生活基盤に著しい被害を受け、経済的理由等により自立して生活を再建することが困難な被災者に対し、都道府県が相互扶助の観点から拠出した基金を活用して、自立した生活の開始を支援する。1998年に制定・施行されたものが、2004年に一部改正され、採択用件の緩和と支給限度額の引き上げが行われた。

(2)ライフラインの確保

 ライフラインは復旧・復興だけでなく、避難生活の解消にも直結する。

 復旧・復興にあたる人員の確保は重要であるが、施設の耐震性の向上や被災時の速やかな機能確保にむけて、既存施設の耐震診断技術、耐震補強手法の確立、被災した時に迅速に被災箇所を把握するための技術の研究開発が必要である。

また、復旧・復興を点検する上では配線や管路のブロック化、あるいは複数化やネットワークによる分散化が必要である。

[1]電気

 阪神・淡路大震災では、通電火災が44件発生したとされており、避難時にはブレーカーをオフにするようにPRが行われているが、停電が回復しても確認ボタンを押さなければブレーカーがオンにならないようにする必要がある。

[2]ガス

 都市ガスについては、阪神・淡路大震災後に感震遮断機能付きマイコンメーターの設置が義務化され、中越地震では有効に機能し、二次災害が防止された。LPガスについては、緊急地震速報などと連動した自動遮断システムが必要である。

[3]上水道

 水道管は、材質の弱い石綿セメント管や布設後20年以上経過した管が多く、配管の接合部分の継目は地震に弱く、阪神・淡路大震災では神戸市を中心に約90万戸で上水道が断水している。現在、耐震継手付きダクタイル鋳鉄管、鋼管、ポリエチレン管などの耐震化が進められている。

[4]下水道

 阪神・淡路大震災以降に造られた処理場・ポンプ場・管路などの下水道施設については、概ね耐震化が図られている。継手は伸縮性に富み止水性が保持できる伸縮可撓継手とし、管渠の被害状況はTVカメラの遠隔操作による調査が進められている。下水道は、上水道の復旧作業に合わせ供用を再開することとなる。

3‐10.防災関係の科学技術に関する研究開発予算の推移

 わが国の自然災害対策を含めた防災対策は、1959年の伊勢湾台風を契機として、1961年に制定された「災害対策基本法」が基本とされている。

 近年の防災関係の科学技術に関する研究開発は、1993年に決定された「防災に関する研究開発基本計画(1993年12月、内閣総理大臣決定)」に沿って進められている。

 阪神・淡路大震災を契機として、1995年7月に地震調査研究推進本部が政府の特別機関として設置され、地震に関する観測、測量、調査及び研究が進められている。

 自然災害対策技術の研究を含めた防災関係の科学技術研究予算の推移は、図表11のとおりである。

chart11

 1970年代以降増加傾向にある。2001年度以降、独立行政法人化によって減った。

4.今後の課題

 地震被害の軽減を図るためには、次のような課題がある。

4‐1.海底地震計のネットワークの整備

 地震計観測網の整備は、1997年に策定された「地震に関する基盤的調査観測計画」に基づく整備がほぼ達成されている。

 しかし、地殻の変動は目に見えず、観測機器から離れた地中や海底などで起こることから、地震が起こった直後に海底で地震を観測することにより、波形や規模などのデータを解析することが、地震災害を軽減する上で極めて重要である。

 震源を取り囲むように地震計を設置しておけば、地震活動を精度よく観測することができる。海域における地震活動を陸側から観測することは観測精度が落ちてしまうため、海域におけるリアルタイムの常時監視が欠かせない。

 海域での地震活動を直接観測することは、地震情報や津波情報に寄与するばかりでなく、緊急地震速報による被害軽減にもつながり、海底地震計のネットワークの整備が必要である。

4‐2.地震計の更新と受信体制の強化

 地震計の機器の更新は10年置きにされていて、阪神・淡路大震災を契機に設置された機器は、間もなく10年をむかえることとなる。

 自治体が設置した震度計は全国に約2,800地点に上り、中越地震の際の震度7は川口町の震度計によって観測されている。しかし、市町村合併による震度計の統廃合や経費節減による保守点検の削減など観測精度の低下が危惧される。

 自治体の震度計は、地震情報だけでなく、官邸対策室の設置を始めとした関係機関の迅速な初動対応に利用されている。

 また、市町村や都道府県は震度速報に対応できるようにネットワーク回線数の増加、多重化・常時接続化や送信・受信サーバーの処理能力の向上等、システムの改善を早急に行う必要がある。

4‐3.耐震化の促進にむけた優遇措置の創設

 中央防災会議の地震防災戦略では、住宅耐震化率を現在の75%から今後10年で90%に向上させる具体的目標が掲げられている。

 しかし、耐震診断や耐震改修にかかる費用、悪徳施工業者の横行などが障害となっており、自分のところは大丈夫だという過信も見受けられる。

 耐震診断および耐震改修に係る補助制度の一元化が図られ、耐震化の促進が期待されるが、耐震改修により住宅の資産価値が上がり固定資産税の増額につながってしまう。

 耐震化による固定資産税の軽減や地震保険の掛け金の割引など、減災に向けた取り組みを支援する優遇措置を導入すべきである。

 耐震化にあたっては、ハザードマップの危険度、地震保険の都道府県別の危険度などから優先順位をつけて促進する必要がある。

4‐4.ハザードマップの作成・普及

 防災対策の主体は市町村であり、消防機関への出動命令や警察官等への出動要請、住民に対して避難勧告・命令、警戒区域の設定など、大きな役割を有している。

 地震による津波、土砂災害などの被害に加え、交通網の寸断箇所や建物の倒壊・延焼等を予測し、安全な場所へ迅速に避難誘導するためのハザードマップの作成・普及を図る必要がある。

 市町村によっては、合併による地域防災計画の見直し等、ハザードマップの作成に着手できないところもあった。

 ハザードマップは災害の危険度、避難場所・避難経路等の情報を提供するばかりでなく、災害に対する予防対策、応急対策等の施設整備を検討する上でも役立つ。

 また、道路の都市計画決定にあたっては、延焼防止対策として幅員の広い道路整備を推進する必要がある。

4‐5.共同溝化の促進

 阪神・淡路大震災におけるライフラインの復旧・復興では、道路を掘り起こしてガス管を修理したあと、水道管修理で再び道路を掘るなど効率の悪さが目立った。

 各ライフライン間における被害状況や復旧に関する情報の共有化と復旧作業における連携の手法を確立する必要がある。

 電気、ガス、水道などのライフラインを道路の地下空間にまとめて収める共同溝化が進められている。共同溝には、ライフラインのメンテナンスに必要な空間も確保することにより、地震時のライフラインの安全性の向上が図れるとともに、別々に埋められているライフラインの補修による道路の掘り返し工事が少なくなり、交通渋滞の緩和にもつながる。

 阪神・淡路大震災ではライフラインが多大な被害を受けたが、神戸市内の一部で整備されていた共同溝は軽微な損傷にとどまった。地震に強いまちづくりを進める必要がある。

5.おわりに

 阪神・淡路大震災以降、被害を軽減させる減災がうたわれている。

 減災にむけて上記のような課題があり、これらについて実効ある行動を推進していく必要がある。


参考文献

1) 平成17年版防災白書、内閣府

2) 防災に関する世論調査、2002年9月、内閣府

3) 住民の避難行動にみる津波防災の現状と課題―2003年宮城県沖の地震・気仙沼市民意識調査から―

4) 兵庫県南部地震による建築物被害とその後の対応、建築研究所

5) 大都市大震災軽減化特別プロジェクト、平成14年度成果報告書、文部科学省

6) 東海地震に関する情報、気象庁

7) 地震観測施設一覧、地震調査研究推進本部

8) 緊急地震速報について、気象庁

9) 官庁施設の耐震改修計画手法に関する研究、国土交通省