[連載]
日本の科学技術の現状と今後の予測
科学技術振興による経済・社会・国民生活への寄与の定性的評価・分析

国公立大学及び公的研究機関の代表的成果調査


1.科学技術振興による経済・社会・国民生活への寄与の定性的評価・分析

1‐1.本調査の目的

 本調査の目的は、科学技術振興に向けた種々の取り組みが、経済・社会・国民生活にもたらしたインパクトを計測するとともに、各インパクト実現の過程において有効であった公的研究開発・支援の寄与を分析することによって、今後の科学技術振興における公的研究開発・支援のあり方を検討する際に役立つ資料を提供することである。

 科学技術振興には、長期間にわたる研究開発投資や市場開拓への条件整備など多様な施策が関連している。本調査では個別の技術に着目して、その技術がもたらしたインパクトの内容を把握し、さらには、そのインパクトを実現するまでの過程において、公的研究開発・支援が果たした役割を検証することを目指した。

1‐2.事例の抽出

 本調査では、まず、第2期科学技術基本計画で定められた重点及び準重点の8分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料、エネルギー、製造技術、社会基盤、フロンティア)に関連する310技術を過去の技術予測調査の結果などを基に抽出し、アンケート調査を通じて、技術のもたらすインパクトの俯瞰的な分析を試みた(注1)。次に、アンケート結果を踏まえてインパクトの大きな技術を選定し、それらを起点とした事例分析を実施した。8分野のそれぞれについて、過去10年程度の間に実現し、インパクトを既にもたらしている技術を各2事例、今後10年程度の間に実現し、今後インパクトをもたらすと考えられる技術を各2事例抽出し、計32技術を事例分析の対象とした(図表1)。

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(注1)アンケート結果:NISTEP REPORT No.80「科学技術振興による経済・社会・国民生活への寄与の定性的評価・分析」平成15年度調査報告書


1‐3.事例分析例

 事例分析に際しては、関係者へのインタビューにより、技術のもたらした(もしくは、今後もたらすと考えられる)インパクト及びインパクトの実現過程を包括的に把握し、各過程における公的研究開発・支援の位置づけを明らかにするという手法をとった。以下に、32事例のうちのひとつである「光触媒材料」の事例分析の概要を例示する。

●事例:光触媒材料

 光触媒技術は、当初は水素製造技術として期待されて研究が行われたが、その研究成果は普及には至らなかった。その後、有機物分解性の発見、薄膜化技術の進展により、セルフクリーニングタイルや空気浄化等に応用されるようになり、経済・社会・国民生活への大きなインパクトを実現した。初期の技術発展の過程では大学や公的研究機関における学術研究が中心であり、1960年代末に水の光分解、1980年に有機物分解性の発見がなされ、これらが技術シーズとなった。大学による基礎研究は、単に技術シーズとなっただけではなく、1992年の民間企業による酸化チタン薄膜開発への技術指導や超親水性の産学連携による原理解明等の形で、技術の発展過程に対して継続的な寄与があった。この間、技術の発展により基礎研究がさらなる発展を見せるという連鎖モデルが実現した。一方、公的研究機関は、民間企業が開発したNOx除去システムの試験、光触媒ハイブリッド材料の開発の面での貢献が見られた。NOx除去装置は技術的には進展したが、まだ普及には至っていない。一方、光触媒ハイブリッド材料は人工観葉植物等として製品化された。光触媒技術のインパクトと公的研究開発・支援の位置付けを図表2にまとめる。

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 この技術による経済的インパクトについては、すでに約400億円の市場が実現したと推計されている(図表3参照)。社会的インパクトとしては、道路やビルの清掃コストの削減、農業のハウス栽培における廃液の浄化問題の解決への寄与が挙げられる。さらに今後、道路周辺におけるNOx除去等への期待がかけられている。また、国民生活へのインパクトについては、住宅の外装・内装の清掃にかかる手間の削減、都市や道路における美観の向上という点で貢献している。最近では、光触媒の性能試験の標準化をめぐり、国際的に競争がはじまっている。我が国でも主に経済産業省が関与する形で、標準化への取り組みを推進している。

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1‐4.技術のもたらすインパクトの具体的内容

 図表1に示した32技術の事例分析を通じて、経済・社会・国民生活への多種多様なインパクトの具体的な内容を把握した。これらをまとめると、図表4〜6のようになる。経済的インパクトとしては、「市場(雇用)創出・拡大」、「コスト削減」、「経済リスク低減」、「国際競争力強化」の4種類が主な具体的内容であった(図表4)。社会的インパクトとしては、「環境問題への貢献」、「エネルギー・資源問題への貢献」、「高齢化等への対応」、「社会インフラ・防災性向上」の4種類が主な具体的内容であった(図表5)。また、国民生活へのインパクトとしては、「国民の生命・生活確保」、「国民の健康維持・回復」、「国民の利便性・快適性の向上」、「国民意識・ライフスタイルの変革」の4種類が主な具体的内容であった(図表6)。

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1‐5.インパクト実現に対する公的研究開発・支援の寄与

 32事例に対するインパクト実現過程の詳細な分析の結果、科学技術の進展とインパクト実現に対する公的研究開発・支援の寄与を、図表7に示したような(1)〜(4)に分類することが可能であった。技術のインパクト実現までの過程においては、研究開発への投資のような直接的な寄与((1)、(2))のみでなく、調達や研究基盤整備といった間接的な寄与((3)、(4))も公的部門の役割としては重要であることが明らかになった。

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 技術がインパクトを実現する過程には、リニアモデル、連鎖モデルなど多様な道筋があるが、技術の特徴に応じて公的研究開発・支援が様々な形で寄与することで、技術のインパクトは実現されている。ここで重要なことは、(1)〜(4)が単発的に実施されるのではなく、「出口」(経済、社会、国民生活へのインパクト)までの「道筋」を想定した上で、公的研究開発・支援を効率よく実施する必要があるという点である。

1‐6.本調査より得られた政策的インプリケーション

 本調査を通じて、科学技術は経済、社会、国民生活へ幅広いインパクトを与えていること、そして、インパクト実現においては公的研究開発・支援がさまざまな形態で寄与していることが確認された。以下に、技術がインパクト実現に到るシステムを効率よく機能させる上での留意点をまとめて示す。

●公的部門の役割の重要性

 技術の性格に応じて公的研究開発・支援の関与の仕方は異なる。最終的なインパクト実現までの過程で、公的部門は多様な役割を果たしている。科学技術振興による経済・社会・国民生活へのインパクトをより一層拡大させるには、今後さらなる公的研究開発・支援の充実を要する。

●基礎研究の重要性

 技術がインパクトを実現する過程には多様な道筋があるが、その基盤として厚みのある基礎研究が不可欠である。具体的には基礎研究の多様性の確保及び継続的な実施が求められる。基礎研究は、発明・発見を通じた技術シーズの提供、原理の解明による民間における技術開発の進展、基礎研究を通じた人材の厚みの形成などを通じて、インパクトの実現に寄与する。

●「出口」までの「道筋」の考慮

 「出口」(経済、社会、国民生活へのインパクト)までの「道筋」を想定し、研究開発と並行してインパクト実現に必要な環境を整備することが重要である。インパクトを実現する上で律速要因が何であるかのシステム分析を随時行っていくことも必要である。また、技術の進展及び社会環境等の変化がともに激しいことを踏まえて、柔軟性のある公的研究開発・支援が求められる。

●調達や研究基盤整備などの重要性

 技術のインパクト実現までの過程においては、研究開発への直接的な寄与のみでなく、調達や研究基盤整備といった間接的な寄与も公的部門の役割として重要である。特に、調達に関しては技術を政府が積極的に導入することで一定量の市場を確保し、民間における継続的な技術開発を可能とするという点で、技術のインパクト実現において大きな寄与がある。今後は、産業に軸足のある研究開発の推進の手段として、特に「調達」を明確に位置づける必要があるだろう。

2.国公立大学及び公的研究機関の代表的成果調査


2‐1.本調査の目的

 第1期及び第2期の科学技術基本計画実施中の政府研究開発投資は増額されてきた。第3期にも政府科学技術投資の維持あるいは拡大を検討する場合には、その前提として、これまでの研究投資成果を国民の目に見える形で積極的に情報発信することが求められる。本調査は、第1期及び第2期の科学技術基本計画実施中に政府研究開発予算の主な投資先であった国公立大学及び公的研究機関における代表的成果(あるいは大きな進展)をアンケートの形で収集し、それらの成果が多様な意義をもつことを勘案しつつ取りまとめ、基本計画の達成効果を示す一資料となることを目的とした。

2‐2.調査方法

(1)調査の基本方針

 本アンケート調査における成果の収集方法の方針は以下の4点である。

[1]成果を所属機関別に問う

  本調査では、機関としてのミッション型の成果も研究者個人に由来する研究開発成果もすべて当該機関に所属するうえで成されたものと仮定し、機関別に各機関の代表者から回答を得る形をとった。

[2]成果の意義を問う

  本調査では、代表的な成果名を問うのみならず、それらの成果の結果もたらされた意義についても回答を求めた。研究開発成果は多様な意義をもたらすものと仮定し、また、ひとつの成果に対して複数の意義が生じうるとした。さらに、各意義には、基本計画実施中に実現したものと今後に期待されるものがあるとした。

[3]科学技術基本計画の期間中における成果を問う

  本調査では、第1期及び第2期の科学技術基本計画期間中(1996以降)に達成された成果及び同期間中の大きな進展に注目した。

[4]回答は任意である

  本調査では、回答の有無、回答件数、詳細データ付属等はすべて任意であるとした。

(2)調査の具体的方法

 本調査では郵送によりアンケート調査票を送付し、郵送あるいはメールにより回答を回収した。調査対象は、国公立大学(含む大学共同利用機関)及び公的研究機関のうち、科学技術の研究開発を行なっているとみなされる機関である。私立大学等については、主たる研究開発費用が公的投資とは限らないため、本調査の対象外とした。また、アンケートの発送先は、各機関の機関長(学長、理事長等)であるが、大学等に関しては回答者として研究(学術)担当理事(相当)を指名した。

 回答の有無及び回答件数は任意であり、自己申告により機関ごとに代表的成果(あるいは大きな進展)を回答することとした。また、それぞれの成果について、自己評価による成果の意義・分野分類等を依頼した。特に、成果(あるいは進展)の意義については図表8のような多様な範囲を設定し、選択式とした。

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2‐3.調査結果と公表

 結果的に、108機関から848件の代表的成果が収集された。それらを図表8の意義の分類で見渡すと、国公立大学及び公的研究機関における代表的成果(あるいは大きな進展)は、非常に多様な意義をもつことが判明した。これら全件を「成果集」の形で公開するとともに、その一部を事例として抽出して(図表9)、より内容の分かりやすい「要約版」の形にまとめて公開し、合わせてパンフレットの形でも広く配布した。図表10は48事例のうちの2例である。

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2‐4.本調査より得られた政策的インプリケーション

 本調査により、非常に多様な意義をもつ国公立大学及び公的研究機関の成果が数多く抽出された。また同時に、個々の成果の多面的な複数の意義も検出された。このような多様な成果が社会のイノベーションになっていくまでには、個々の意義が最大限に生きるような支援が必要であると考えられる。