科学技術トピックス


ライフサイエンス分野

[1]ヒト胚性幹細胞研究に対するNIHの研究拠点グラント

 ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)は、体内の全ての細胞等に分化できる能力を持つため、基礎研究や治療などを目的とした臨床研究において、非常に重要なツールである。しかし、ヒトES細胞を自由自在に変化させる方法はまだ確立していない。そのため、幹細胞についての基礎生物学的な知識の増加や、ヒトES細胞を扱うことができる研究者をトレーニング等によりもっと増やすことが必要であると考えられる。

 これらの必要性に対応するために、NIHの研究機関のひとつである国立一般医科学研究所(NIGMS)は、「ヒト胚性幹細胞研究のための探索的な研究拠点グラント(Exploratory Center Grant for Human Embryonic Stem Cell Research)」の募集を行い、3研究機関にグラント支援を行うことを決定した。本グラントは、ヒトES細胞を用いたパイロット研究を実施する多様な研究者から構成されるチームに与えられる。2003年9月にも同様な趣旨の募集が実施され、ワシントン州立大学、ミシガン州立大学医学部等の3研究機関にグラントが支給されたが、目的の達成には至っていないということで、再度2004年10月に募集され、2005年8月にグラントが支給される研究機関が発表された。グラントは、全体で3年間に900万ドル支給される予定である(初年度各機関に約100万ドル支給)。各研究拠点では、ヒトES細胞研究の中核的な施設をつくり、研究リソースの維持や研究者のトレーニングなどに必要なインフラストラクチャーを整備する。また、ヒトES細胞の性質や機能の根本的な知識を深めるために、NIHのヒトES細胞研究のガイドラインの下で、パイロット的な研究プロジェクトが実施される。

 採択された研究機関と研究内容は以下の通りである。マウントサイナイ医科大学では、初年度はヒトES細胞の増殖、分化、遺伝子変化を研究する。特に幹細胞を遺伝子改変する手法の開発に焦点を置く。アルバート・アインシュタイン医科大学では、特定のタンパク質がどのように幹細胞の増殖や分化を制御するのかを研究する。Burnham研究所では、幹細胞に自己再生を可能にさせる分子シグナルの研究や、リアルタイムに細胞を研究するための新規のイメージング技術の開発などを行う。

 米国政府は、ヒトES細胞研究に公的研究費を使用させない等の制限をしていることで知られているが、NIHはES細胞研究予算として年間5億ドル以上、その内ヒトES細胞研究には年間2,000万ドル以上支出し、その額は年々増加していると見られる。今回採択されたBurnham研究所は、州レベルでヒトES細胞研究を支援しているカリフォルニア州に在る。

 これらの事は、ヒトES細胞研究に対する米国の方針転換の兆しかもしれないと考えられる。


参 考

情報通信分野

[2]「形式的手法」を利用した組込みソフトウェアの品質向上

 「組込みソフトウェア」とは製品や装置の機能仕様を実現する部品としてのソフトウェアであり、それを組み込んだシステムを「組込みシステム」という。近年、洗濯機、テレビ、デジタルカメラ、コピー機、携帯電話、自動車など、身の回りの殆どの機器に組込みシステムが搭載されていると言っても過言ではない。組込みシステムの中枢を担う組込みソフトウェアの品質問題は、携帯電話の回収や自動車のリコールなどの大きな社会問題を引き起こすため、その品質向上は急務の課題と考えられている。

 2005年6月に発行された「2005年版組込みソフトウェア産業実態調査報告書」1)には次の様な実態が述べられている。製品出荷後の不具合(バグ)の原因では、ソフトウェアに起因する比率が4割を超えると推定されている。ソフトウェア開発は、分析、設計、製造(プログラミング)などの工程を経て行なわれるが、発見されたバグの半数以上は、発見工程以前の工程で作り込まれており、手戻り(バグが後工程で検出されて、工程をさかのぼり再設計を要すること)が発生している。この手戻りに伴う開発期間や開発費用の増加は多大である。また、開発プロジェクトの完了時点での当初計画に対する達成度でも、約1/3が品質未達の状況で開発期間の延長を余儀なくしている。

 北陸先端科学技術大学院大学と日本電気魔ヘ共同で、組込みソフトウェアのバグを大きく減らす技術を開発した。今回の研究開発は、バグの多くが、分析・設計等の工程で作り込まれることに注目し、設計の品質を確保することで手戻りの大幅削減を目指している。ここでは、品質確保の方法として、熟練者のノウハウに頼る従来のテスト手法(いろいろなデータを入力して結果を確認する方法のため検出漏れが生じる)ではなく、科学的な品質確保の手段としてモデル検査を中心とした「形式的手法」を採用し、効率的な検証を達成した。「形式的手法」とは、数学や論理学を活用してシステムの正しさを確認する技術であり、厳密にその性質を確認・検証できる。

 具体的には、ソフトウェアの分析・設計時でのモデル表記法の世界標準であるUML(Unified Modeling Language)で設計書を記述し、この設計書作成に加えて、ソフトウェアの正しい振る舞いや、絶対に起こってはならない事などの検証事項を定義する。この両記述を入力して、論理的矛盾の有無を検証する。検出された問題箇所は、設計書上に表示して分析・解析を可能とする。「形式的手法」は、入力に特殊な記述を要求するため、従来はLSI設計等の限定領域での利用に留まっていたが、今回の研究では、組込みソフトウェア技術者が使いやすい検証環境の提供を目指している。また従来、「形式的手法」は多大な計算機パワーを必要とする問題があったが、昨今のコンピュータ性能の向上により、この問題も解消されつつある。

 本研究開発は、現在は試行的な段階であるが、今後、企業が持つソフトウェア開発手法やツール開発・適用に関する経験やノウハウも生かして、実業務への適用を進める。この結果は、2005年6月に行われたe‐Societyプロジェクトの中間成果報告会で報告された2)


参 考

1)2005年版 組込みソフトウェア産業実態調査報告書(経済産業省 商務情報政策局 2005.6)

2)高信頼性組込みソフトウエア構築技術(e‐Society 文部科学省リーディングプロジェクト 2005.6)

環境分野

[3]崩落した南極棚氷の下に生態系を発見

 2005年3月に、米国のハミルトン・カレッジのユージン・ドーマック教授(地球科学)を中心とする調査隊により、南極の海底に微生物とハマグリの大群生が偶然発見された。2002年に起きた南極のラルセン棚氷(氷床の縁部が海上に張り出して浮いている氷原)の大規模な崩落の原因調査の際、崩落したラルセン棚氷の下にあたる海底に、60〜90cmの膝ほどの高さで直径数mの小さな泥火山が点在し、泥火山の周りには広範にわたって雪のように堆積された微生物が存在していた。

 ラルセン棚氷は、南米に近いウェッデル海北西部の南極半島にあり、この崩落で米国ニューヨーク郊外のロングアイランドに匹敵する3,250km2もの面積の棚氷が海中に崩れ落ちた。ドーマック教授らの調査隊は、棚氷が崩落した海域の海底沈殿物を調査していた。ビデオカメラで海面から約850mの深さの海底を撮影したところ、海底が白いマット様物質で覆われ、周りに二枚貝の塊で覆われた泥火山を発見した。これは他の深海で見られるバクテリアマットに似ており、そこからガスの泡が放出していた。

 この海域は硫黄分の豊富な水や天然ガスが泥火山などから吹き出ている冷湧水域であり、バクテリアはこれらの硫黄分やガスによって繁殖し有機化物合を排出し、ハマグリなどの貝類の生息を可能とする環境を作り出しているのではないかと考えられている。従来、日光の届かない冷湧水域の生態系(光合成や高温の噴出物からではなく、海底から湧き出す冷水中の物質からエネルギーを得る生態系)は、カリフォルニア州モントレー近海、メキシコ湾、日本海などで見つかっているが、南極で冷湧水域が発見されたのは初めてである。この発見によって、まだ氷に覆われているさらに広い地域にも、生態系を伴う冷湧水域が多数存在する可能性や、氷山の下に他の生物が生息している可能性が出てきた。

 このような冷湧水域の正確な調査を行なうには、リモコンで操作できる水中探査機等によって、海域の撮影やサンプル採取を行う必要がある。

 将来、地球温暖化がさらに進んだ場合、この海域の氷が大きく溶けることによって、生態系変動が拡大する恐れも指摘されている。氷が解けることによって氷の中に含まれていた微粒子が生態系の上に沈積したり、海草の死骸が新しい炭素源を供給したりすることで、冷湧水域の微生物層や貝類など、この地域特有の生態系が次第に変化することが予想される。さらに、より広い海域全体の生態系にも多様な影響を及ぼす事が懸念され、今後、このような影響に対する幅広い調査が必要である。

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棚氷

氷床の縁部が海上に張り出して浮いている氷原。氷厚200〜600m、時に1,000mに達し、表面はほぼ平坦か、あるいは緩やかに起伏している。後背部は陸につながり、先端部では卓状氷山を分離して急崖をなしている。南極大陸のロス棚氷、フィルヒナー棚氷などが知られている。


ナノテク・材料分野

[4]超音波により溶液が流動性を消失する新現象

 化合物が液体に分散した溶液(ゾル)から分子集合により流動性を失った状態(ゲル)への転移が外部からの刺激によって起る現象は、従来「熱」や「光」による外部刺激によるものが知られている。ゾル‐ゲル転移は流動性や光透過性の変化をともなうため、その応用に関心が持たれている。しかし、従来知られているゾル‐ゲル転移は、温度の高低による単純な可逆的変化や、光照射によりゲルが形成される不可逆変換であった。また、ゲル化の速度においても、例えば、マレイン酸化合物への水銀灯による30秒間の光照射によるゲル化が比較的変換速度が速いとされる報告例であった。

 大阪大学直田健教授らは、従来のゾル‐ゲル転移と異なる新しい現象として、音波による高速の転移現象を見出した。直田健教授らは、特殊な構造を有するパラジウム錯体(1)を有機溶媒に分散したゾルに、超音波を3秒間という短時間照射することによってゲル化が起こり、その状態が安定であることと、ゲル化後に熱を加えることで元の安定なゾルに戻るという現象を確認した。この現象とそのメカニズム(図表参照)は、2005年7月6日発行のJ.AM.CHEM.SOC誌に発表された。

 このパラジウム錯体は有機溶媒中のゾル状態では、図表の左側に示されているように、単分子が平面間の弱い結合作用と開裂の運動のみが行われる状態で安定している。そこへ音波が照射されると、溶媒の併進運動による単分子同士の強い押し込み効果が発生し、構造の平面化が促進される。図表の右側のゲル状態での平面構造では、分子の端末が周囲に残存している単分子と容易に会合し、連鎖的に平面構造が拡大していく。音波の刺激条件により、ゾル‐ゲル転移を自在に制御できる可能性も見出されている。

 音波によるゾル‐ゲル転移は、光による転移と異なり、電子移動を伴う副反応発生が少ないと考えられている。この新現象の応用開発としては、ゲル化による光吸収量の増大(不透明化)と加熱による復帰を利用した光量調整シャッター、弾性の変化を応用した瞬時起動ショックアブゾーバーなどが提案されている。

 本研究は(独)科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(通称:さきがけ)で実施されたものである。

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(1)パラジウム錯体

金属原子を中心として、その周囲に配位結合(結合に寄与する電子が一方からのみ供給される結合)を持つ構造の化合物


エネルギー分野

[5]欧州太陽光発電会議で過去最多の参加者

 20回目の欧州太陽光発電会議(20th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition)が、2005年6月にスペインのバルセロナで開催された。本会議は太陽光発電に関する欧州会議で、1年毎に開催される。今回は74カ国から2,151名の参加者があった。太陽光発電関連の国際会議としては、これまでで最多であり、太陽光発電に対する関心の高まりを反映している。

 各国の太陽光発電ロードマップ、産業界の招待講演やワークショップが企画され、1,048件の論文発表があった。国別、技術分野別の発表件数動向をそれぞれ図表(a)、(b)に示す。国別発表件数ではドイツ、スペイン(開催国)が上位を占め、技術分野別では、これまでの欧州光発電会議と同様の傾向であるが、実用化が進む結晶シリコン系、モジュール、システム、国家プログラム関係の発表が多かった。

 本会議で議論された内容をもとに、太陽光発電の動向を市場と技術開発の2点から下記にまとめる。

(1)太陽光発電市場(総発電出力):2004年の太陽電池生産量は、対前年比61%の伸びで急激に成長した。特に、ドイツは伸びが大きく、2004年の世界の太陽光発電設置実績366MWのうち39%のシェアを占めている。太陽電池を含む再生可能エネルギー導入者がメリットを得やすい促進制度が普及を後押ししているためである1)。日本、米国の太陽光発電設置実績シェアは各々30%、9%であった。世界市場全体が拡大するにつれて、太陽光発電は各国の経済成長や雇用拡大にも寄与し始めた。スペイン、ギリシャ、米国カリフォルニア州、中国などが新たな太陽電池モジュール消費市場として注目されている。

(2)技術開発:現在、結晶シリコン系の太陽電池モジュールが全生産量の9割を占めている。しかし結晶シリコンは、今後、高純度多結晶シリコン原料の供給量に不安がある。このため、下記の技術開発が進んでいる。

(i)結晶シリコンを用いるモジュールでは、光電変換効率20%以上の高効率化、原料使用量10g/W以下への低減(現状12〜14g/W)、歩留まり向上、薄型化などの技術開発が進められている。

(ii)集光式太陽光発電技術も急激に進展している。商用化に加え、集光式における新たな高効率化技術が提案され、この技術分野での標準化も進みつつある。

(iii)結晶シリコンを用いない薄膜太陽電池の技術開発も進められている。例えば、Wuerth Solar社は、CIS(銅・インジウム・セレン)太陽電池モジュールを年産15MW(2007年)を目指して生産すると発表した。また、カネカ社等は、アモルファスシリコン太陽電池を商用化し、パイロット生産する予定である。

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参考文献

1)科学技術動向8月号

豊田工業大学山口真史教授のネットワーク投稿を基にセンターで作成

 

[6]エネルギー研究開発拠点化推進組織が福井県に設置された

 福井県では、原子力と産業が共生する全国的なモデルケースとするための具体的な計画を策定することを目的として、2004年春に「エネルギー研究拠点化計画策定委員会」を設置し、議論を進めてきた。この委員会は地元産業界や事業者、大学・研究機関、国、県など産学官のメンバーで構成された。このほど2005年7月にその計画を推進するため、県内の(財)若狭湾エネルギー研究センターに「エネルギー研究開発拠点化推進組織」を設置した。具体的施策として、県内の原子力発電所、新型転換炉「ふげん」や高速増殖炉「もんじゅ」を利活用して、地元産業の創出・育成、研究開発機能の強化や人材の育成・交流などの実施を計画している。この推進組織は外部からも幅広く人材を取り込み、「産学官連携」「技術支援・相談」「人材育成・交流」の3チーム、所長・所長代理ほか総員13名で構成され、計画推進に向けた総合的なコーディネート役を担う。具体的には、(1)安全・安心の確保(a.高経年化対策の強化と研究体制などの推進、b.地域の安全医療システムの整備、c.陽子線がん治療を中心とした研究治療施設の整備)、(2)研究開発機能の強化(a.高速増殖炉の研究開発、b.原子炉廃止措置の実用化に向けた研究開発、c.若狭湾エネルギー研究センターの新たな役割、d.県内外の大学や研究機関との連携促進)、(3)人材の育成・交流(a.県内企業の技術者の技能向上に向けた技術研修の実施、b.原子力・エネルギー教育の充実、c.国際原子力情報研修センター、d.海外研修生の受け入れ促進、e.国際会議の誘致)、(4)産業の創出・育成(a.産学官連携による技術移転体制の構築、b.原子力発電所の資源を活用した新産業の創出、c.企業誘致の推進)などの活動が予定されている。

 福井県には、1970年以来、わが国の原子力発電所5タイプのうち、沸騰水型・加圧水型の各軽水炉、高速増殖原型炉「もんじゅ」、新型転換炉「ふげん」の4タイプの原子力発電施設が15基立地している。発電された電気は主に関西方面に送られ、関西圏で使用される電気の約6割を占める。2003年度の発電実績は約879億kWhで、これは全国の約37%にあたり、全国一の原子力発電所の立地県である。「もんじゅ」は、1982年に高速増殖炉の性能を技術的に確認するための原型炉として建設が決定され、現在の原子力長期計画では「我が国における高速増殖炉サイクル技術の研究開発の場の中核」として位置づけられている。しかし、1995年のナトリウム漏洩事故以来運転が中止されていたが、このほど改造工事が開始されることになった。そこで、この推進組織の実質的な計画のひとつとして、「もんじゅ」を中核とした「高速増殖炉(FBR)研究開発センター(仮称)」を設置して、アジアにおける中心的存在を目指す。また、「ふげん」を利用して原子炉の廃止措置事業の創出を目指し、地元企業も参加できる基盤を作ることを目指すことも活動の一つとなる。

 今回の推進組織は、海外では、原子炉を用いた産学連携事業の事例はあるが、わが国では今回の取り組みは初である。原子炉を単に電力の「生産工場」としての活用のみならず、地域と原子力の自立的な連携を目指して多方面に活用する動きとして、今後の活動が注目される。


参考文献

原子力eye、2005 Vol.51, No.5

製造技術分野

[7]医薬品開発に用いられはじめたX線分析装置

 近年、X線分析装置は高性能化だけでなく、測定の自動化、高速化などにおいて格段の改良が図られ、従来はトレードオフになっていた高性能化と分析時間短縮の両立が可能になっており、適用範囲が拡大している。例えば、X線分析装置は、従来、医薬品の研究開発では一般的ではなかったが、以下のような状況がきっかけとなって、この分野でも新しい分析ツールとして注目されはじめた。

 新薬の研究には臨床試験等を含む研究開発費と長い年月が必要であるが、一方、患者への経費負担を軽減するために、実績のある医薬品を安価で製造販売できる「ジェネリック医薬品」(1)が注目されている。同一成分・同一効果の医薬品を製造するためには、医薬品の構造を完全に把握することが必要不可欠であるが、特にジェネリック医薬品の場合は製造技術として新薬以上にコスト低減と開発期間短縮が求められる。このような課題に先進的な考えをもつ諸外国では、分析によって製品がオリジナルと同じであると証明できれば、高額の費用がかかる臨床試験を免除することを認める方向も検討されている。

 新薬の研究開発では、極めて高い分解能での測定が可能なシンクロトロン(大型放射光施設)で構造解析を行なうことが望ましいとされているが、一方で大型施設は、申請から測定まで半年程度を要する、実質的な測定時間が十分とれない、費用が高額になるなどの点から、ジェネリック医薬品の開発製造のような場合には必ずしも向いていない。そこで研究室での予備実験などにおいて、シンクロトロンに比較的近いレベルの構造解析データを得ることができる高分解能のX線分析装置が注目され、米国、インドなどのジェネリック医薬品製造の先進国で導入が盛んになっている1)。従来は、実験室用装置のX線光源は多色放射で強度が低かったためシンクロトロン放射光の能力とは大きな開きが生じていたが、X線光学部品および検出技術の進化により、最近の高精度のX線分析装置ではこの問題が大幅に改善されている。

 X線を利用した分析技術は、無機物や有機物の構造解析の研究に用いられるほか、有害物質検出などの環境分野や天文観測の分野でも広く活用されている。測定物質にX線をあてることで派生するX線はその物質の元素あるいは構造によって波長が決まっており、波長や強さを測定すれば、測定物質にどのような物質がどの程度含まれているかを測定することができる。例えば、最近になって被害が顕著化している建材に含有される石綿(アスベスト)にも、X線回折による定性および定量分析を用いることが改めて周知徹底されている2)。2005年8月31日〜9月2日に開催された2005分析展では、国内外の関連企業から種々のX線分析装置が紹介された。今後、さらなる適用範囲拡大にともない、装置メーカー間の国内外シェアも大きく変わっていく可能性がある。


(1)ジェネリック医薬品

特許期間の切れた医薬品を、他のメーカーでも同一成分・同一効果の薬として新薬の8割以下の価格で製造販売できるものを言う。


 


参 考

1)高分解能粉末X線回折によるジェネリック医薬品開発の最適化:http://www.panalytical.jp/contents/tech/archive/XRD/alpha050728.htm

2)建材中の石綿含有率の分析方法について(基安化発第0622001号):http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/sekimen/hourei/050622-1.html

フロンティア分野

[8]「すざく」打上げ成功でX線天文観測の国際協力体制が整った

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2005年7月10日、内之浦宇宙空間観測所からM‐V(ミューファイブ)ロケット6号機によるX線天文観測衛星「ASTRO‐E II」の打上げに成功した。同衛星は、軌道投入後「すざく」と命名された。機能確認終了後、国際的な観測運用に供されることになる。

 X線天文観測衛星とは、宇宙で起こる高エネルギー現象によって発せられたX線を、地球周回軌道上で観測するための衛星である。X線は紫外線よりさらに波長が短く高エネルギーでの透過力が強いが、地球の大気でほとんど吸収されるため、地上では天体からのX線を観測できないので、宇宙での観測が必須である。

 「すざく」には、5台のX線望遠鏡で集めたX線を検出する1台の微少熱量計(マイクロカロリーメータ:日米共同製作)や4台のX線CCDカメラ並びに1台の硬X線検出器など3種類の観測装置が搭載されている。これらの観測機器の開発に当たっては、JAXA宇宙科学研究本部を中心にして国内外の20以上の大学や研究機関が参加した。

 1999年に米国航空宇宙局(NASA)が「チャンドラ」を打ち上げ、また欧州宇宙機関(ESA)が同年「XMM‐ニュートン」を打ち上げた。2000年に打上げ予定であった我が国の「ASTRO‐E」と合わせて国際的な三大X線天文観測衛星が構築され、相互に補い合って国際的なX線天文観測体制が完成するはずであった。しかし、2000年の「ASTRO‐E」は打上げに失敗し、それまで「はくちょう」から「あすか」まで4機の衛星で継続されていた我が国独自のX線天文観測が中断してしまった。今回、打上げ再挑戦に成功したことで、5年遅れでようやく観測の空白期間を脱することができた。

 X線天文衛星の性能は、(1)解像度、(2)分光能力、(3)エネルギー帯域、(4)集光面積の4つの指標で比較することができる。「チャンドラ」は解像度が最も高く、「XMM‐ニュートン」は集光面積が最も大きい。今回打ち上げられた「すざく」は分光能力とエネルギー帯域で米欧の衛星を上回る性能を有するよう設計されており、「すざく」の高い分光能力により、銀河団全体を満たす高温ガスの運動などを測定することができると期待されていた。ところが、軌道上試験の段階で、マイクロカロリーメータの冷却系が、絶対温度で60ミリケルビンという極低温を実現したにもかかわらず、冷却用のヘリウムが気化して漏洩したために使用不能になり、非常に高い分光能力を用いた観測を行うことはできなくなった。

 しかしながら、残る2種類の観測装置は軟X線からガンマ線までの幅広いエネルギー帯域を観測する上で予定通りの性能が確認された。8月中旬には地球から約20万光年離れた小マゼラン星雲の超新星の残骸の観測に成功し、エネルギー帯域の広さで世界最高性能が実証された。

 このようにX線天文観測は、宇宙科学の最先端にある日米欧の3極がそれぞれ特徴のある衛星を打ち上げ、観測運用も国際的にオープンにして相互に利用することで、X線でしか探ることができない宇宙の謎を究めようとするところに意義があり、国際協力体制による今後の成果が期待される。

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