[レポート2]
マグネシウム合金の研究開発動向
―自動車用構造材料の軽量化の視点から―

渡井 久男
材料・製造技術ユニット


1.はじめに

 平成16年の資源エネルギー庁の資料1)によれば、我が国の運輸部門のエネルギー消費は旅客部門がその6割を占めており、さらにその中でも自家用自動車による増加が特に大きく、1990年から2001年の間に64%も増加している。今後、持続可能な社会を目指すうえで、地球温暖化抑制対策につながる省エネルギーの観点から、輸送機器、特に自家用自動車用構造材料の軽量化の必要性が再認識されている。

 鉄やアルミニウムが主体であった構造材料をさらに軽量化するために再認識されている材料としてマグネシウム合金(Mg合金)がある。Mg合金は、従来はあまり使われていなかったが、近年、耐食性の向上と成形加工技術の開発により、一部の自動車部品やノートパソコン、携帯電話など携帯電子機器筐体に用いられるようになってきた。さらに耐熱性と強度の向上によって適用範囲拡大の機運が高まっており、現在は上記消費エネルギーの抑制と新産業の興隆の両面から、特に自動車用構造材料としての応用が期待されている。

 本稿では、Mg合金とはどんな材料か、自動車部材のどのような部分への応用が期待されているか、我が国と海外での研究開発の状況等を踏まえて、今後の目指すべき方向性を示す。

2.マグネシウム合金の概要

2‐1.純金属としてのマグネシウム

(1)資源と精錬法

 マグネシウムはクラーク数(地表付近に存在する元素の割合)が8番目で、アルミニウムの1/4、鉄の2/5、ニッケルや銅の190倍である。地球全体での存在比は鉄、酸素、ケイ素に次ぐといわれる。原鉱石はドロマイト(MgCO3・CaCO3)、マグネサイト(MgCO3)であり、また海水中の金属元素としてもナトリウムに次いで多く含有されている。したがって、マグネシウム元素は世界中に分布しており、資源的にはほとんど無尽蔵と言える。

 マグネシウム地金の製造方法としては、電解法と熱還元法の二つに大別される。電解法は原料からいったん塩化マグネシウムを得て、これを電気分解して精製する方法であり、一方、熱還元法は原料から酸化マグネシウムを得て、フェロシリコン(鉄‐シリコン)などの還元剤を添加して減圧下で高温に加熱して製錬する方法である。

(2)純金属の特性

 マグネシウムの特徴は、第一に実用金属中最も軽いことで、密度(1.74g/cm3)はアルミニウムの約2/3、鉄の約1/4である。また、電磁波シールド性が良い、振動の減衰能が高い、耐くぼみ性が良い、切削性が良い、人体に無害であることなどの性質を持つ。

 図表1に、マグネシウム、鉄、アルミニウムとの物性比較を示す。

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 一方、マグネシウムには、強度、伸び、耐熱性の不足や腐食しやすいなどの欠点がある。このうち腐食については、マグネシウム地金に混入している微量の鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などに原因があることが判明し、純度を上げることで基本的に腐食の問題は解決できる。しかし、マグネシウムは電気化学的に卑なる金属であり、他の金属と接触して電位を生じる条件では腐食を免れないため、通常は表面処理を施して使用される。

2‐2.合金化によるマグネシウムの特性改善

 純金属としてのマグネシウムは基本的に優れた種々の性質を備えているが、実用化するには欠点の改善あるいはさらなる性能向上を図らねばならないため、合金化が検討されている。合金化とは、純金属をいったん溶解して第二、第三の元素を添加することで、ほとんどの金属で用いられている材料改質手段である。

 マグネシウムは合金化することにより、強度、耐熱性、耐クリープ性(クリープ:高温で一定の荷重を掛けておくと変形する性質)が改善される。よく知られたMg合金の例としては、AZ系Mg合金はアルミニウム(Al)と亜鉛(Zn)を添加した合金であり、その添加の量により、強度、鋳造性、加工性、耐食性、溶接性などがバランスよく改善される。AZ91系は機械的性質と鋳造性が優れ、特にAZ91D合金は高純度耐食性合金として、自動車部品、ノートパソコン、携帯電話などに使用されている。またAZ31Cは成形性と溶接性に優れ、板、管、棒などの展伸材として最も多く使われている材料である。また、亜鉛とジルコニウム(Zr)を添加したZK60Aでは熱間加工性が向上する。セリウム(Ce)やネオジウム(Nd)などの希土類元素を添加した場合には200〜250℃での強度が高く、耐クリープ特性に優れた耐熱用合金が得られる2)。このほかの最近の研究開発による著しい性能向上については4章で後述する。

2‐3.加工法

 最近、ノートパソコンや携帯電子機器の筐体への応用が増えてきた背景には、加工法に関しての大きな進展があった。鉄鋼、アルミニウム、銅合金などの構造材料とは異なる結晶構造を持つMg合金は、常温での圧延加工が難しいため、温度を上げて加工することが必要である。押出し加工の場合は、アルミニウム合金と熱間変形抵抗が近いため、アルミニウム合金に準じて加工することができる。また、液圧プレスによる鍛造法も、自動車、ヘリコプター、航空機等の部品製造に使用されている。ダイカスト法(溶融した後に型成形する方法)は、ニア・ネットシェイプ(最終形状に近い形状に成形すること)や薄肉成形に適しているという生産性および量産性の有利さから、自動車向け部品成形法の主流となっている。また、最近のMg合金の携帯電子機器筐体への適用拡大要因は、射出成形法の採用にあると考えられる。半溶融加工法の一つであるチクソモールディング法という製造方法(射出成形加工法とダイカスト法の融合技術で、プラスチック成形加工に多く用いられる)が実用化されている。

 耐食性付与のための表面処理加工技術については、すでに、炭素鋼板やアルミニウム合金ダイカスト製品と同等レベルまでに進歩してきている。化学反応を利用した化成処理が施されるが、特に耐摩耗性や電食などの過酷な環境下で使用される場合には陽極酸化処理が施される。接合加工については、溶融溶接など他の金属と同様の技術がほぼ適用可能であるが、低融点金属に適用可能な摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は種々の利点があり、特に注目されている。

 ただし、Mg合金製品の実用化において、マグネシウム元素の酸素に対する活性の大きさは、依然として大きな課題である。溶解による合金組成物(合金地金)の製造時や鋳造時には高温での溶融成形が必要であり、このときに大気中酸素との反応を抑制する必要がある。この工程で、現在は主として地球温暖化への悪影響が懸念されている六弗化硫黄ガス(SF6)を使用しているため、その代替品やSF6を使わない技術が検討されている。このような難燃性向上の最近の研究例を4章で改めて述べる。

2‐4.価 格

 地金レベルのマグネシウムの輸入価格をアルミニウムと比べると、依然として高価ではあるものの、ここ数年は低下傾向にあり、すでにアルミニウムの2倍を割っている。現在は、地金で180〜190円/kg、合金地金で280円/kg程度である。加工品はビレット、板など種類により大きく異なり、自動車のボディに使われる加工材は、現在は1,000〜3,000円/kgのレベルである。より広く使われるために、鋳造部品なら500〜1,000円/kg以下、圧延薄板なら1,000〜2,000円/kg以下まで価格が低下することが必要と言われている。アルミニウムと比べて加工成形品の生産量に約100倍の差があること、まだ高効率な加工法が開発途上であることなどが、このような価格差の要因である3)

2‐5.用途・応用例

 マグシウム合金の民需品開拓の歴史は古く1945年頃からはじめられており、事務用品、農機具関係、電気通信機器関係、運動用具などを対象に種々の試作研究が進められ、一部は商品化されたものもあったが、長く定着して使われたものは少なかった。最近になってようやく、ノートパソコン、携帯電子機器の筐体に使用されるようになってきている。今後は、自動車、オートバイ、航空機など輸送機器に用いようという動きが活発になってきている。2002年の国内需要を見ると、最も多いのが携帯電話筐体であり、次いでノートパソコン、自動車・二輪車部品、デジタルビデオカメラという順である。ごく最近は大型プラズマディスプレイなどの筐体にも一部採用されている。

 携帯電子機器への応用が多いのは、金属としては軽量であること、プラスチックより熱伝導性・放熱性が良く、金属的質感を保てること、非磁性で電磁波シールド性が良く、ノイズの影響を少なくできること、などが有利な点になるためである。航空機の分野では、まだ軽量性を利点とした構造部材として採用されてはいないが、他の特徴のひとつである高い制振性を利用して、ヘリコプターや航空機のギアボックスハウジングとして用いられている。また、このような制振性を利用した応用として、自動車のステアリングホイール芯金の例もある。

2‐6.リサイクル性

 一般に、金属はプラスチックと比べて、溶解して再利用できる点でリサイクル性に優れている。特に、マグネシウムという金属は、他の多くの金属よりも比熱が小さく融点が低いので、再溶解してリサイクルする際に必要なエネルギーが新材製造時の4%程度と非常に小さくて済むことが利点となる。しかし、現在、リサイクル技術はまだ開発段階にあり、比較的クリーンな工場内の廃材をリサイクルする技術が開発されているところである10)。将来的には、全Mg合金量の数十%をリサイクル材でまかなうためのマテリアルフローの検討が必要であろう。

3.Mg合金の自動車への適用拡大の期待と課題

 自動車は安全装置や電子機器などの付加機能により重量増となる傾向にあるが、車体パフォーマンス向上目標達成による重量増を相殺したうえで、いかに軽量化するかが今後の課題となる。これまでの軽量化技術は、構造設計自体の工夫や鉄鋼材料の高強度化による薄肉化などによって対処してきた。しかし、今後は構造材料の大幅な変更も視野に入れる必要があると考えられている。

 乗用自動車の生産から廃車までにおけるトータルのエネルギー使用量において、約86%が使用段階の走行によるものと言われている。ガソリン乗用車の走行中エネルギー使用量については、図表2に示すように、車両重量が10%軽減すると5〜10%の燃費向上が期待できる。例えば、車両重量が1,000Kgの当たりでは、1kgの車両の軽量化により、約0.016km/lの燃費向上が見込める。つまり、自動車において省エネ効果を得るためには、構造材料の軽量化は必要不可欠な技術であり、高い比強度(強度(kg重/cm2)を比重で割った値)を有する材料を大量に使用することが必要となる。

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 欧州では自動車のCO2排出量の規制が打ち出されており、走行距離当たりのCO2排出量規制は、2012年には140g/km以下、2014年には120g/km以下という基準が示されている。2014年の基準を達成するためには、20km/lという高い水準の燃費を達成することが必要になる。図表3は、現在の国産小型乗用車を、欧州における2010年度の燃費目標基準をクリアするものにする場合には、どの機能においてどれくらいの改善が必要か、ということを分析した例である。この分析によれば、車両質量は10%程度(100〜150kgに相当)の軽量化が必要である。このような大きな質量減のためには、鉄鋼からMg合金への構造材料の変換といった大きな変更が必要と考えられる。このような観点から、自動車用構造材料あるいは部品材料としてのMg合金が注目されている。

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 図表4は、すでにMg合金の適用実績があり、現在も継続的に検討されている自動車の部位を示す。

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 ドイツでは、Mg合金をダイカスト部品に積極的に採用しはじめ、すでに1971年にはフォルクスワーゲン社1社で年間4.2万トンを使用していた。米国では、1973年にジェネラルモーター社が、1978年にはフォード社がステアリングコラムにMg合金を採用し、米国での自動車へのMg合金部品の採用が始まった。我が国においても、最近は、新車開発のタイミングに合わせてMg合金の採用が徐々に増えてきている。各種のカバー、ケース類には一般的なMg合金AZ91Dを、ハンドル芯金には延性、耐衝撃性を向上させたAM50やAM60合金を、またトランスミッションケースやオイルパンは希土類元素やカルシウム(Ca)を添加した耐熱Mg合金が使われており、すでに各社が延べ十数種の部品に採用した実績がある。この他の使用部位としては、ステアリングホイール芯金、エンジンヘッドカバー、エアバックプレート、電子制御部品ケース、シートフレーム、トランスミッションケース、などがある。特に、ステアリング系部品については、Mg合金の高い制振効果により、ハンドル振動低減などの機能も付加されるため、多くの車種で採用されている。

 また米国では、1992年に、ビッグ3と呼ばれる自動車メーカー3社(GM、フォード、ダイムラークライスラー)の参加によるUSCAR(United States Council for Automotive Research)が設立され、競争力強化と併せて環境対策に取り組む計画が打ち出され、その流れは継続的に現在も続いている。その中で、米国自動車用材料パートナーシップ(USAMP)の組織的な指導のもとに、2001年に「マグネシウム製駆動系鋳造部材プロジェクト」が発足している。このプロジェクトでは、2020年に、自動車へのMg合金の使用量を約100kgとすることが目標にされている6)

 しかしながら、自動車へMg合金を大量に適用するためには、地金の安定供給とともに、さらなる耐熱性の向上、大型部材高速成形技術、接合技術、表面改質技術等の改善、およびそれらの加工プロセスの低コスト化が必要である。ユーザーである自動車メーカーからの要望として挙がっている未解決の技術課題を図表5にまとめる。

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4.我が国のマグネシウム合金の研究開発動向

4‐1.高性能合金の開発

(1)長周期積層構造による世界最強マグネシウム合金の開発

 近年の我が国のMg合金開発の火付け役になったと言われているのが1999年9月から始まった文部科学省科学研究費特定研究「高性能マグネシウムの新展開」である。この研究開発の中で、Mg‐Zn系、Mg‐Al‐Ca系、Mg‐Y‐Zn系などの合金系において、高強度、耐クリープ特性、耐熱性などに優れたマグネシウム新合金が見出された。

 熊本大学の河村能人教授らは高強度急速凝固Mg97Zn1Y2粉末冶金合金の開発に成功し7)、その後、長周期積層構造という特殊な原子配列を持つこの合金が一般的な合金製造法である鋳造でも得られることをはじめ、イットリウム(Y)以外の希土類元素の中でジスプロシウム(Dy)、ホロミウム(Ho)、エルビウム(Er)の添加によっても同様な効果があることを見出した。さらに、この長周期積層構造型鋳造合金の加工強化および加工延性化が図られ、強度と高延性を併せ持つ合金が得られている。

 図表6、7に得られた合金の特性を示す。この合金の比強度は、商用の高強度Mg合金の約3倍であり、商用チタン合金や超々ジュラルミンと比べても強い。また、高温でも高強度の優れた合金であり、高温で高速超塑性(超塑性:10-2ないし10-1/秒以上のひずみ速度で約200%以上の引張伸びを示すこと)を示す。

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 この合金開発がシーズとなって、2003年には経済産業省の「次世代航空機用構造部材創製・加工技術開発」プロジェクトの中で「次世代マグネシウム粉末合金部材の開発」が開始されている。

(2)耐熱性の改良

 長岡技術科学大学の鎌土重晴教授らは、CNEDO技術開発機構のプロジェクトで自動車の駆動系部品に用いるためのダイカスト性が良く、耐熱性に優れたMg合金の開発を進めている7)。アルミニウムと希土類元素を添加した合金で、優れた耐クリープ特性(高温で使用する場合にはこの現象を抑制する必要がある)が得られている。また、Mg‐Zn‐Al‐Ca‐RE(RE:希土類元素)系の合金についても検討を行ない、目標とする耐熱アルミニウム合金ADC12に匹敵する特性が得られており、実用化に向けたトランスミッションケースの試作も行なっている。

(3)結晶粒の微細化による機械的性能向上

 金属の機械的強度は結晶粒の大きさに依存し、図表8に示されるようなホール・ペッチと呼ばれる関係がある。Mg合金の結晶粒の微細化による強度向上の度合いは、アルミニウム合金の場合より大きいことが知られている。

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(1)ECAP法による結晶粒の微細化

 強い加工応力(せん断歪)と再結晶を組み合わせることにより、結晶粒を微細化するECAPまたはECAE(Equal-Channel-Angular-PressingまたはExtrusion)と呼ばれる方法が、1981年ロシアのSegalらによって発表されている。この操作を数回繰り返すことにより、約2〜3μmまで結晶粒が微細化する。このような操作を施したMg合金は強度と伸びが大きくなり、破壊靭性値(破壊靭性値:材料の中の亀裂が力を掛けたときに進展し始める応力で決まる値)も向上した優れた材料となる。図表9は、ECAP加工を繰り返すことにより、結晶粒が微細化し、破壊靱性値が大きくなった例である。

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(2)析出による結晶粒の微細化

 従来のMg合金は200℃以上の高温で成形を行うことが望ましいとされてきたが、適用範囲の拡大のためにはプロセスの低コスト化が必要であり14)、低温かつ高速で結晶粒の微細化ができる方法が有利である。

 Mg合金を175℃程度で加工することにより、50〜100nm程度の大きさの微細な析出物を大量に合金内に析出させ、その析出物を中心に再結晶させることにより、0.5μmクラスのサイズの結晶を得ることができ、高強度と延伸性が同時に得られることが見出されている。4‐1(2)で紹介した合金に、東京大学先端科学技術研究センターの近藤勝義特任助教授が開発した「反復式塑性加工法」を適用することで、さらに高強度で高靭性のMg合金が得られた14)

4‐2.成形加工技術、接合技術の開発

(1)成型加工技術

 2‐3で述べたように、Mg合金の加工方法では、ダイカスト法、チクソモールドディング法(射出成形法)、プレスフォージング法が注目されている8)。これらの技術は、適用物によって選択され、引き続き改良が図られている。

 ダイカスト法とは可動型が、固定型に組み合わされて締めつけられ、次に、溶融金属が金型に圧入される成形方法である。大量生産に向いている製造方法で、寸法精度が高く、薄肉、複雑形状への対応が可能である。チクソモールディング法は、チクソトロピー(Thixotropy:半溶融状態にある合金にせん断力を附加し、固相を粒状化することにより、粘性が低下し、流動性が増大する現象)とインジェクションモールディング(射出成形:プラスチック成形で従来から使われてきた成形法で、加熱溶融させた材料を金型内に射出注入し、冷却・固化させる事によって成形品を得る方法)を組合せた成形方法である。この方法は、ほぼ密閉状態で行えるので、環境に悪い影響のあるSF6の代わりに、無害なArガスを用いることが出来るのが大きな利点である。この方法により携帯電子機器の筺体などが製造され、その生産量は急激に拡大しつつある。プレスフォージング法は、肉薄のMg合金板に、300℃で鍛造、曲げ、紋りの加工を行い外観面まで仕上げる方法であり、高品質の薄肉品を得ることのできる製法である。この方法はMDプレーヤーやデジタルカメラなどの電子機器筐体の量産に適用されている。従来のMg合金鋳造品と比較して、表面品質が優れ、磨きなどの工程が不要であり、また、剛性が向上するなどの優れた点を持つ成形方法である。

(2)接合技術

 従来、Mg合金は接合が難しいとされてきたが、今後注目されるのが摩擦攪拌接合法(FSW:Friction Stir Welding)という接合技術の採用である。この接合法は、軟化温度が比較的低い軽金属に向いている。

 摩擦攪拌接合法は、今から約15年前に英国で開発された。摩擦攪拌接合は、図表10に示すように、先端に突起のある円筒状の工具を回転させながら強い力で押し付ける事で突起部を接合させる部材(母材)の接合部に貫入させ、これによって摩擦熱を発生させて母材を軟化させると伴に、工具の回転力によって接合部周辺を塑性流動させて練り混ぜる事で複数の部材を一体化させる接合法である。この接合法は、変形・気孔・割れが発生しにくい、シールドガスが不要、接合中に赤外線などの有害光線を発生しない、などの利点を持ち、現在はアルミニウム車体を採用している700系新幹線に全面的に採用されている。今後、Mg合金の大型部品を製造する上で、極めて重要と考えられる技術である。

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4‐3.難燃性の向上

 Mg合金の欠点のひとつとされる酸素に対する高活性への対策については、2‐3で延べたように、特に溶融状態で大気に触れることを防ぐためにSF6が用いられている。しかし、SF6は大気寿命が長く、且つ地球温暖化係数がCO2の24,000倍もあるため、極力排出を抑制することが必要であり、製造法を根本的に改めることが急務である。このSF6対策について、CNEDO技術開発機構では平成16年度より3年間の計画で、助成事業「SF6フリー高機能発現マグネシウム合金組成制御技術開発プロジェクト」を開始している。

 すでに、(独)産業技術総合研究所では、図表11に示すように、Mg合金中にカルシウム(Ca)を添加することによって、発火温度を200〜300℃上昇させることに成功している。

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4‐4.データベースの強化

 以上のような最近の研究例を見ても、基盤的要素技術における我が国の近年の進展には注目すべきものがあり、これらは世界的に見てもトップクラスにある。このような研究成果や既に確立されている技術、特性評価の結果を製品設計に活かし、いち早く応用例を広げていくことが必要であり、そのためには、共有データベースの構築、整備、充実が有効であると考えられる。国内におけるMg合金に関するデータベースには、日本マグネシウム協会が作成しているものがあるが9)、今後、このようなデータベースのさらなる強化が必要である。

5.海外および日本の研究開発推進体制の動向4、6)

5‐1. 欧 州

 欧米のMg合金の開発は、CO2排出量の削減を第一の目的とした自動車軽量化を目指した応用開発の一環として行なわれている。

 欧州のEUCARプロジェクトは、フィアット、ボルボ、ダイムラークライスラー、フォード、VW(フォルクスワーゲン)、BMWなどの自動車メーカーの共同研究機構を主体とし、これに大学、研究所、部品メーカーが参画したプロジェクトである。研究開発の項目として、(1)材料設計指針、(2)新接合技術、(3)押出し材の開発、(4)耐熱Mg合金の開発、が共通テーマとされている。

 特にドイツにおいては、連邦教育研究省が、マグネシウム押出材において、破壊のシミュレーションモデル検討を行なって新しい材料設計を生み出そうとする「InMaK-Project(Innovative Magnesium Compound Structures for Automobile Frames)」というプログラムを支援している。この中では材料設計法および接合法の研究が行なわれている。また、ドイツ政府は5大学、5自動車会社を含む43企業が参加した「MADICAプロジェクト(Mg Alloy Die-casting Project)」に対しても、1996年〜1999年に約20億円の研究投資を行なった。ここでは、ダイカスト技術に加え、機械加工技術、接合技術、チクソ成形技術の開発が行なわれた。現在行なわれている活動としては、政府機関の科学研究促進協会による「SFB390プロジェクト」が実施されており、1996年〜2005年の期間で約50億円の研究投資がなされている。このなかでは、金属工学と微細構造、製造技術、複合材料に分けられて研究が行なわれている。

5‐2.米 国

 3章でも紹介したUSCARプロジェクトは、1992年に6人乗り3リッター車開発プログラムとして発足し、1995年に「UNITED STATES AUTOMOTIVE MATERIALS PARTNERSHIP(USAMP)」を開始して、各種材料の研究開発に着手した。この中では、1993年〜2004年を目処に、米国政府と研究機関ならびに自動車メーカーのビッグ3が参加した「環境に優しいスーパーカー」の開発プログラムが行なわれた。フォード社は、「P2000 Mondeo/Contour」という開発計画を進め、仮りに29km/lの燃費効率の自動車開発を想定した場合、103kgのMg合金を使用するとしている。

 さらに、米国政府、研究機関、及び自動車メーカービッグ3が参加した「FreedomCARプロジェクト」は、「FreedomCar and Vehiecle Technology Program」と総称される巨大な自動車プロジェクトとして統合されている。エネルギー省が2002年から2010年を目処に、このプロジェクトの推進管理を行なっている。このプロジェクトは、以前はアルミ合金が主体であったが、さらなる軽量化を図るために、マグネシウムパワートレイン部品の開発も行なわれることになり、マグネシウム・エンジン部品を対象に、合金の耐クリープ・耐食性向上、鋳造技術、コスト削減、リサイクル性が検討されている。研究開発は、主としてアルゴンヌ国立研究所が担当している。このプロジェクトの成果としては、2003年に、鋳造Mg合金をフロントエンジンのCradle(架台)として検討し、鋳造アルミニウム製品の場合に比べて15.8kgから10.3kgへと35%の重量削減を実現している。このプロジェクトの取り組み姿勢はオープンであり、諸外国の成果も積極的に導入しようとしている。

5‐3.中 国

 世界のマグネシウム地金の生産拠点は、現在、急速に中国に集約されつつある。特に、1995年からは中国のシェアが大きくなってきている。中国では豊富な石炭の熱源が使用できることもあり、Pidgeon法と呼ばれる方法の工場がたくさん設立されている。Pidgeon法とは熱還元法でMgO・CaOをケイ素により還元する方法で、規模の大小に係わらず容易に製錬できるため、比較的小規模な設備の工場でも経営が可能である。これが、中国が容易に製錬事業に参入できた要因になっている。

 素材製造技術の改良と母材マーケットの拡大が図られる一方で、付加価値を高めるべく、鋳造技術、成形技術開発の注力も行なわれている。中国の第10期5ヶ年計画により、2001年から5〜10年間で約4,000万ドルが投入されて、中国に進出している他国の自動車メーカーや中国国内の大学の参加のもと、マグネシウムの精錬や加工技術の研究開発がはじめられている。精華大学、上海交通大学、重慶大学などでも、Mg合金ダイカストの事業化研究が開始されている。

5‐4.韓 国

 韓国は1990年代の後半から国としてMg合金の大型部材の実用化技術開発に向けて、大学、企業に資金を投入しはじめ、プロジェクトが進められている。研究開発の成果を企業に移転するところまで国が関与しようとしており、課題としては耐熱性の向上と板材のコスト低減に焦点が当てられている。圧延材として2m幅のものを製造できる装置を製作するなど、大型部材の実用化開発に注力していると言われている。

5‐5.日 本

 日本における最近の産学官のプロジェクトの例としては、「茨城マグネシウムプロジェクト」が2005年7月から本格始動した。茨城県が2005年度予算で1,700万円を計上しており、県内企業が連携体を作り、県工業技術センターや茨城大学と共同研究開発を行なうほか、(独)産業技術総合研究所等への研究委託も行なう。このプロジェクトでは、機械加工、塑性加工、リサイクル技術の3分野に力点が置かれる。また、新潟県では都市エリア産学官連携促進事業として(財)にいがた産業創造機構が中心となり、長岡技術科学大学、新潟工科大学、長岡工業高等専門学校などに研究委託する形で、マグネシウム合金の次世代型製品開発プロジェクト事業が始まろうとしている。ただし、これらは、本稿で述べたような自動車用材料を強く志向したプロジェクトではない。

6.まとめと提言

 今後の研究開発において、持続可能な社会を構築するため、CO2排出抑制に寄与する省エネルギー技術の開発は必須である。その中で取り分け増加傾向にある輸送機器の走行で消費するエネルギーの抑制は重要であり、輸送機器の軽量化は重要な技術課題の1つである。そのような構造材料の軽量化に寄与するMg合金の研究開発と実用化への加速が期待されている。

 Mg合金は軽量であることをはじめ、種々の有用な物性を持ちながら、強度、耐熱性、耐食性などの性能が不足していたため用途が限られていたが、近年の基盤研究の進展により適用の可能性が広がった。我が国は現在この基盤技術では世界のトップレベルにあるが、最もインパクトが大きいと期待される乗用自動車への応用開発という視点においては、欧米に大きく遅れている。中国、韓国においても、最近は、Mg合金の開発に国が力を入れはじめている。我が国も培った基盤技術がインパクトの大きい分野で実用化されるように、支援の方向性を定める必要性がある。すなわち、

(1)Mg合金に関する基盤研究において、分散して行なわれている基盤技術の開発成果を統合し、国家的なプロジェクトを立ち上げて、特にインパクトが大きいと期待される分野に効率よく応用展開するための実用化策を強力に推進する必要がある。そのために、まず、必要なのは以下の2点である。

[1]用途別ロードマップを作成し、認識の共有化を行うこと

[2]効率的な部品設計を行なえるようにするため、我が国のMg合金に関するデータベース整備を強化すること

(2)近い将来、以下の3点が必要になると思われる。

[1]研究開発による性能向上と並行して、現有技術の適用を拡大し、使用量の増大によるコスト低減を推進することが必要である。

[2]品質の安定のために、欧米諸国と日本が協力して素材品質の標準仕様を決め、地金生産国に要求していくことが必要である。その前提として、これまでの知見を活かしたマグネシウム素材標準の作成活動を、産学官が連携して行っていくことが求められる。

[3]Mg合金の携帯電子機器筐体等への使用量が増え、また自動車への応用が拡大した場合、一般市場から還元されるリサイクル材の量が増大することが予想される。これに対応するため、リサイクルシステムの構築やリサイクル技術の開発が必要である。

謝 辞

 本稿の執筆にあたって、河村能人教授(熊本大学)、鳥山素弘氏((独)産業技術総合研究所・サステナブルマテリアル研究部門長)、向井敏司氏((独)物質・材料研究機構・エコマテリアル研究センター・軽量環境材料グループ)、松崎邦男氏((独)産業技術総合研究所・先進製造プロセス研究部門・難加工成形研究グループリーダー)、近藤勝義特任助教授(東京大学)、鎌土重晴教授(長岡技術科学大学)、都築隆之氏(三菱重工・名古屋航空宇宙システム製作所・研究部・材料研究課長)、小原久氏(日本マグネシウム協会・専務理事)、笹嶋幹雄氏((財)次世代金属・複合材料研究開発協会:RIMCOF)他の皆様から、ご意見、資料のご提供などの協力を頂きました。ここに厚く御礼申し上げます。


参考文献

1) (財)省エネルギーセンターホームページ、運輸部門のエネルギー消費動向について;2‐2‐1.自家用乗用車のエネルギー消費に掛かる寄与分析:http://www.eccj.or.jp/transportation/2-1-1-1.html

2) 根本 茂、「初歩から学ぶマグネシウム―一番軽い金属構造材―」、工業調査会、2002年7月

3) 藤井恒彌著、設計・製造技術者のための「マグネシウム合金ダイカスト技術」、日刊工業新聞社

4) 平成16年度「特許出願技術動向調査報告書」自動車軽量化技術;平成17年3月、特許庁

5) 国土交通省ホームページ:http://www.mlit.go.jp/jidosha/nenpi/nenpilist/05-1.pdf

6) 日本マグネシウム協会「マグネシウムに関する主な自動車開発プロジェクト」、小原 久氏、「マグネシウム合金の自動車への適用の現状」、平成16年度「自動車用マグネシウムの実用化に関する調査」報告書、日本マグネシウム協会、平成17年2月

7) 週刊「ナノテク」、FOCUS 2“飛び出せ!! マグネシウム―100年の時を経た今、構造材としての可能性が見えてきた”、2004年8月16日、1173号、産業タイムズ社

8) 「工業材料」、特集「―新材料・加工技術で需要を伸ばす―マグネシウム合金」、2002年8月号、Vol.50,No.8、日刊工業新聞社

9) 日本マグネシウム協会データベース:http://www.kt.rim.or.jp/~ho01-mag/

10) 「まてりあ」、第43巻 第4号(2004)、小特集「軽負荷構造材料を目指して―マグネシウム合金の環境調和型表面処理と固相リサイクル技術」

11) 「軽金属」マグネシウム特集号(2)、2001年11月、Vol.51,No.11、(社)日本軽金属学会

12) 「プレス技術」、特集「チタン・マグネシウムのプレス加工」、2004年2月号、2004 Vol.42 No.2、日刊工業新聞社

13) 平成14年度素材産業技術対策調査(循環型基礎素材産業構築対策調査)「自動車・IT機器・家電製品用マグネシウム製品の動向とリサイクルに関する調査報告」、経済産業省製造技術製造産業局非鉄金属課(委託先:神鋼リサーチ株式会社)

14) 「軽金属」マグネシウム塑性加工特集号、2004年11月、Vol.54,No.11、(社)日本軽金属学会

15) 「まてりあ」、第43巻、第10号(2004)、小特集「自動車用材料技術」