[レポート3]
東アジアにおける大気汚染物質モニタリングについて
―アジアの環境先進国としての我が国の展開―

福島 宏和
環境・エネルギーユニット


1.まえがき

 東アジア地域の国々は、世界の3分の1強の人口を擁し、近年のめざましい経済活動に伴って、図表1に示すようにエネルギー消費は急増している。一方、エネルギー源は石炭から石油への燃料転換が進んではおらず、硫黄含有率の高い石炭に依存せざるを得ない国も少なくない。また、中国をはじめ、急速にモータリゼーションが進んでいる国も多い。そのため、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質(SPM)、オゾン(O3)濃度は増加してきており、深刻な大気汚染問題に直面している。

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 大気に放出された汚染物質は、季節風等による大気の大循環により、広域に広がり国境を越え、他国へも深刻な影響を与える可能性は極めて高い。東アジア地域における、今後の更なる経済活動の拡大等を見込むと、近い将来、広域にわたって、越境大気汚染物質による問題が大きくなることが予想され、早急に広域環境対策を進める必要がある。

 本稿では、大気汚染問題を解決する上で、環境大気モニタリングや汚染物質排出源のモニタリングが果たす重要な役割を述べるとともに、日本が今までにモニタリングを軸として、大気汚染物質を大幅に削減してきた環境対策を概説する。東アジアの越境大気汚染問題に対しても、地域全体を網羅するモニタリングネットワークの構築は非常に重要であり、環境先進国である日本が取り組むべきことを考察する。

2.アジア大陸起因の大気汚染物質が日本に及ぼす影響の可能性

2‐1.日本海側地域における酸性雨

 環境省が2002年度までに実施した過去20年間の酸性雨の全国調査結果によると、酸性雨に含まれる硫酸イオンおよび硝酸イオンの沈着量の季節変動は、地域により差がみられた。本州中北部の日本海側と山陰地方では、冬季に硫酸イオンおよび硝酸イオンの沈着量が最大となっていた。この観測結果は、アジア大陸で大気中に放出されたSOxやNOxが、冬季の季節風により、日本海側に到達していることを示唆している2)

 また、大陸からの季節風が強い期間(1999年1月15日から1ヶ月)の越境大気汚染物質の移動を、数値モデルを用いて計算した結果によると、日本で観測されたSOx沈着量のうち、中国を発生源とする割合が62%、韓国を発生源とする割合が16%と推計され、アジア大陸からの越境大気汚染物質の影響が相当大きいと見積もられている3)

2‐2.日本上空の対流圏オゾン濃度

 図表2に日本におけるNOx 濃度および非メタン炭化水素(NMHC)(1)濃度、光化学オキシダント(2)濃度、図表3に東京都における光化学オキシダント注意報発令日数の推移を示す。日本におけるNOxとNMHCの濃度は近年、横ばいあるいは減少傾向であるが、光化学オキシダント濃度は日本全国で増加傾向にあり、全国的に環境基準(3)の達成率が低く、首都圏などにおけるオキシダント注意報発令日数は改善されていない。これらの要因解明を目的として、(独)海洋研究開発機構が実施した後方流跡線解析(4)手法を用いた対流圏オゾンに関するデータ解析結果は、東アジアの大陸起源のNOxが、光化学反応が活発な春から夏にかけて風下側にあたる日本のオゾンを著しく増加させている可能性を示している4)


用語説明

(1)非メタン炭化水素
 メタン以外の炭化水素の総称であり、光化学オキシダントの原因物質である。

(2)光化学オキシダント
 光化学スモッグの原因となる大気中の酸化性物質(酸化力の強い物質)の総称。オゾンが主成分である。

(3)環境基準
 人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準であり、行政上の政策目標である。また、環境基準は、現に得られる限りの科学的知見を基礎として定められている。

(4)後方流跡線解析
 気象モデルを用いて、観測日より前の大気の通過経路を追跡する解析方法。


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2‐3.褐色雲

 近年、アジア地域の上空に褐色の雲が観測されている。褐色雲は、主に酸性雨の原因となる大気汚染物質を起因とするエアロゾル(5)や黄砂が厚さ3キロ程度に高密度に集まった雲である。この大気中の微粒子は日差しを遮るため、地表・海洋に達する太陽光は減少する。そのため、農作物に大きな影響を及ぼすとともに、アジア地域における近年のモンスーン異常等に関連していることが指摘されている。2003年から、国連環境計画(UNEP)により、「アジア褐色雲国際研究プロジェクト」として、国際的な大気汚染問題として取り組まれている。


用語説明

(5)エアロゾル
 大気中に浮遊している固体あるいは液体の微細な粒子のことをいう。エアロゾルは、太陽光を散乱・吸収したり、雲の凝結核として働くことによって雲の性質を変化させ、気候に複雑な影響を与えることが指摘されている。


2‐4.国境を越えた大気汚染問題

 前述したように、酸性雨問題、光化学オキシダント問題、浮遊粒子状物質問題は、国境を越えた大気汚染問題であることが明らかになってきている。東アジア全域にわたるSOx、NOx、オゾン、浮遊粒子状物質の汚染状況を把握することは、問題解決の第一段階として非常に重要であると考えられる。

3.大気汚染の発生とその解決に向けてのモニタリングの役割

3‐1.大気汚染の発生

 図表4に示すように、工場等(固定発生源)から、化石燃料などの燃焼によって排出される排煙や、自動車(移動発生源)の排ガス中には、SOxやNOx、粒子状物質(PM)、揮発性有機化合物(VOC)が含まれている。SOxやNOxはヒトに対して呼吸器系疾患を引き起こすとともに、大気中では化学反応を起こして硫酸や硝酸に変わり、酸性雨の原因となる。NOxとVOCの一部(非メタン炭化水素:NMHC)は太陽の強い紫外線を受けて光化学反応を起こし、光化学オキシダントとなり、ヒトの目や呼吸器系に影響を及ぼす。また、PMのうち、特に粒子径の小さな粒子は空気中に浮遊する(浮遊粒子状物質:SPM)。これも呼吸器系疾患を引き起こすことが懸念されており、さらに、気候変動にも影響を与える。

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3‐2.大気汚染物質モニタリングの役割

 大気汚染対策の第一段階は、環境大気モニタリングによる現状把握である。測定値は、環境施策としての排出基準を決定する基礎データとして使用される。その後、環境施策が決定・実施された後の段階では、環境大気モニタリングは環境施策の評価や環境施策へのフィードバック情報として重要な役割を果たす。つまり、図表5に示すように、環境対策は、現状把握(環境大気モニタリング)、環境施策の決定・施行、環境施策効果の確認(環境大気モニタリング)のサイクルを回すことによって達成される。

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(1)環境大気モニタリング

 環境大気モニタリングは大別すると、局所的な汚染状況を把握する地域的モニタリングと、大気汚染物質発生源の直接的な影響を受けないバックグランド測定としての広域的モニタリングとに分けられる。

 地域的モニタリングは、各地域の代表値が得られる観測地にて行なわれるものであり、日本では、一般環境大気測定局(環境大気の汚染状況を常時監視)と自動車排出ガス測定局(自動車排出ガスによる環境大気の汚染状況を常時監視)の2種類の測定局においてモニタリングが行なわれている。

 一方、広域的モニタリングは、大気汚染物質の中長距離(数百から数千km)の輸送状況を把握することを目的とし、地域的な汚染の影響を受けにくい観測地点が選定される。日本では、隠岐(島根県)や辺戸岬(沖縄県)等の観測地点において、広域的モニタリングが実施されている。

 大気汚染状況の現状把握には、これらの地域的モニタリングと広域的モニタリングの両方が必要であり、かつ、それらのネットワークを構築することが必要である。

(2)発生源モニタリング

 数千kmのスケールで長距離の越境大気汚染の輸送過程を解明するには、長距離輸送モデルが重要な役割を果たす。

 そのような精度の高い輸送モデルを構築するには、まず、汚染物質を排出している地点(工場・事業所等)から、何の種類の大気汚染物質がどのくらいの量、発生しているかを把握する必要がある。そのため、大気汚染物質発生源におけるモニタリングが必要となる。環境施策が実行され、各工場・事業所等において、大気汚染物質削減対策が進められる段階では、汚染源から排出基準濃度を越える高濃度の汚染物質が排出されていないことを監視する必要がある。また、汚染源からの排出状態をリアルタイムに計測して燃焼管理や脱硫・脱硝装置の運転管理を行う際にも、発生源モニタリングは必要となる。

3‐3.環境大気モニタリング測定値の精度管理

 環境大気モニタリングは、各観測地点で得られたデータをもとに、その地域の汚染状況を把握するものであるため、測定値の精度を確保することが重要である。つまり、各観測地において使用される測定機器間で一定の基準を設け、正確な手順に従う測定を実施しなければならない。そのためには、標準物質を用いた校正手順も含めたモニタリング全過程の操作マニュアルを作成し、各観測地点での精度保証・精度管理を行なうことが必要である。測定値の精度保証のために必要とされている項目として、以下のものが挙げられる。

(1)高精度の標準試料を供給すること

(2)校正システムを確立すること

(3)定期的にネットワーク間のクロスチェックを行うこと

(4)データ管理システムを確立すること

(5)担当者のトレーニング体制を整備すること

(6)モニタリング地点の確立、サンプリング方法、試料の保存方法、前処理の方法、分析方法に関して標準作業マニュアル(SOPs:Standard Operating Procedures)を作成すること

(7)上記項目を確保するために、リファレンスセンターを設置すること

 上記の項目は、環境大気モニタリングのネットワークを展開していく上では必須である。

3‐4.日本の環境大気モニタリングネットワーク

 日本では、第二次世界大戦後の高度経済成長にともない、大都市域あるいは工業地域周辺において大気汚染が深刻となった。1960年頃、石油化学工業地帯の三重県四日市で、大量のSOxの排煙(当時使用重油の硫黄含有率は3%前後)が排出され、地域住民に気管支ぜんそく、肺・気道性疾患の健康障害(いわゆる、四日市公害)が発生して大問題となった(図表6)。このような背景のもと、1962年、東京や大阪などの大都市および四日市などの工業地域周辺で大気汚染の連続モニタリングが開始され、1968年には、環境施策である「大気汚染防止法」が制定された。また同じ年に、大阪府は府下の大気汚染モニタリングステーション15局において無線回線を利用し、オンラインリアルタイム処理による大気汚染モニタリングシステムを完成させた。その後、多くの自治体が同様のシステムを設置し8)、2004年時点においては、二酸化硫黄測定局が1,487局、二酸化窒素1,880局、光化学オキシダント1,193局、浮遊粒子状物質1,910局、一酸化炭素401局と、全国を網羅するモニタリングネットワークが稼動している。これらのモニタリングネットワークシステムは、大気汚染物質の濃度が環境基準に適合しているかどうかの監視を行なうとともに、大気汚染物質濃度が高濃度になった緊急時に、迅速かつ的確に対処することを目的としている。なお、大気汚染防止法では、都道府県知事に対して、大気汚染の状況を常時監視し、その結果を公表することを義務付けている。また大気汚染が著しくなって、人の健康又は生活環境に係る被害が生じるおそれがある場合は、都道府県知事が緊急時の措置を取れる体制になっている。

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 また、2001年より、各測定局でモニタリングされた大気汚染状況はインターネットを利用した「大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君)9)」により、リアルタイムに入手することが可能となっている。このシステムは、光化学オキシダント濃度等の大気汚染物質が高濃度になった場合に、迅速な対応が可能になるという面で重要であるとともに、国民の大気汚染問題に対する意識の向上にも大きく貢献するものである。図表7には、日本の大気環境基準と測定局数を示す。

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 また、図表8は、一般環境大気測定局と自動車排出ガス測定局のSO2測定濃度の平均値の推移を表している。年平均値は昭和40、50年代に比べ著しく減少し、近年では横這い、もしくは減少傾向にある。この結果からわかるように、現在我が国では、酸性雨の主な原因であるSO2の排出量は極めて低く抑えられている。排出量低減達成の大きな要因には、高度な環境大気モニタリングネットワークや発生源モニタリングを軸とした環境対策が、工場・事業所の排出ガス対策を急ピッチで推進させてきたことが挙げられる。

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4.越境大気汚染に対する欧米とアジアの取り組みの比較

4‐1.欧州における取り組み

 スカンジナビア半島をはじめ、北東部ヨーロッパでは1960年代後半から湖沼の酸性化による魚類、水生生物の死滅、森林の枯損が顕在化し始めた。これは、西ヨーロッパ先進諸国で排出されたSO2を含む大気汚染物質が国境を越えて輸送されたことが原因ではないかと指摘され、国際的、大陸的規模のモニタリング体制がいち早く実施された。1972年には、経済協力開発機構(OECD)加盟国11カ国によって、「大気汚染物質長距離輸送計測共同計画」によるモニタリングネットワークが始められた。

 1973年から1975年には、OECDにより、東西ヨーロッパにおける大気中の硫黄の長距離輸送と沈着についての調査研究が行なわれた。その結果、酸性物質沈着の地域はヨーロッパ北西部の大半を包含していることが明らかとなった。また、ヨーロッパ経済委員会(ECE:Economic Commission for Europe)では、大気汚染物質の長距離輸送モデルの構築を目的として、1977年より欧州大気汚染物質モニタリング評価プログラム(EMEP:European Monitoring and Evaluation Program)を発足させ、16カ国60地点から成るEMEPのネットワークが設置された。各観測地からのデータはノルウェーの大気化学研究所に設置されたCCC(Chemical Coordination Center)に収集され、モニタリング結果がまとめられるシステムとなっている。図表9にEMEPの酸性物質モニタリングサイトを示す。

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 欧州では、モニタリングネットワークを軸とした科学的データを積み重ねることにより、各国での酸性降下物が自国内の発生源よりもたされるものだけに限らず、数百から数千kmを長距離輸送される他国に源を有する汚染物質も含まれるという現状把握が、1970年代にできていた。そして、大気汚染対策は、環境大気モニタリングによる現状把握および長距離輸送モデルの構築による原因解明の段階から、次の段階である国際的な環境施策へと進んだ。

 1979年には、ECEによる、歴史上最初の越境大気汚染に関する国際条約、「長距離越境大気汚染防止条約」(Convention on Long‐Range Tran boundary Air Pollution:ジュネーブ条約)が、旧ソ連や米国、カナダも含めた35カ国により締結された。1985年には「硫黄排出または越境移流の最低30%削減に関する議定書」(ヘルシンキ議定書:参加25カ国)が採択され、1980年を基準として、遅くとも1993年までにSO2発生量を少なくとも30%削減することが決定された。このような取り組みの結果、ヨーロッパでは、酸性雨の主原因であるSO2の削減を進めることに成功してきている。図表10にヨーロッパ(EMEP加盟国)におけるSO2排出量の推移を示す。SO2の年間排出量は1980年から1998年の間に56%削減されている。

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 EMEPにおける現在のモニタリングサイトは、約100ヶ所と充実している。また、SO2やNO2以外の浮遊粒子状物質やオゾン等の成分をもモニタリング対象としており、酸性物質以外の越境大気汚染物質に対してもネットワークが構築されている。図表11、12に、EMEPにおける浮遊粒子状物質のモニタリングサイトおよびオゾンのモニタリングサイトを示す。

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4‐2.北米における取り組み

 ヨーロッパ大陸から少し遅れて、北米地域においても、酸性雨や酸性雪により、メープルなどの樹木が大きな被害を受けるとともに、湖沼の魚類が死滅する現象が発生し、大きな社会問題となった。

 1973年、アメリカとカナダの両政府は大気汚染物質の長距離輸送に関する2国間研究協議会を発足させ、酸性降下物に関する情報を交換することとなった。1980年には、両国間で「越境大気汚染に関する合意覚え書き」を交わし、酸性雨の原因を解明するため酸性雨モニタリングネットワークなどの調査研究を開始した。そして1990年、環境施策として「大気浄化法」の大幅改訂が実施された。その結果、1990年には年間2,000万トンが排出されていた米国のSO2は、2000年には年間1,500万トンにまで削減された14)

4‐3.アジアにおける取り組み

 アジアにおいては、越境大気汚染対策は、1990年代になってから開始された。

 酸性雨に対する取り組みとしては、1991年に、東アジア地域での酸性雨の影響を未然に防止することを目的として「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」(EANET)の構想が、日本の環境庁により提唱された。その後、1993年から、日本の主導により、「東アジア酸性雨モニタリングネットワークに関する専門家会合」が開催されてきた。酸性雨には降下物(雨・雪・ガス・エアロゾル等)の酸性度以外に化学成分や土壌の耐性なども影響するため、酸性雨の観測は降水のpHのみならず、含まれるイオン濃度の測定や乾性沈着としての大気モニタリングが必要である。国境を越えて、これらの測定データを比較検討するには、3‐3で述べたように、各国におけるモニタリング方法や精度を統一することが必要である。1997年に、専門家会合により、各国が酸性雨モニタリングを統一的な手法によって実施する地域的なモニタリングネットワーク構築の必要性が提言された。これを受けて、東アジア諸国において、1998年4月から約2年間、「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」(EANET)が試行稼動された。この実績等を踏まえ、政府間会合の決定を経て、2001年1月よりネットワークが本格稼動に入った。なお、EANETの事務局は国連環境計画アジア太平洋地域資源センター(UNEP、タイ・バンコク)に設けられ、新潟の酸性雨研究センターがネットワークセンターとしての機能を果たしている。現在、このネットワークには、中国、インドネシア、日本、マレーシア、モンゴル、フィリピン、韓国、ロシア、タイ、ベトナム、カンボジア、ラオスの計12ヶ国が参加している。図表13にEANETのモニタリングサイトを示す。

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 モニタリングネットワークの大きな目的の1つは、大気汚染による環境への悪影響を防ぐため、国や地域レベルでの政策決定に有益な情報を提供することである。そのためには、3‐2(1)で述べたように、バックグランド汚染状況の把握のための広域的モニタリングと局所的汚染状況の把握のための地域的モニタリングの両方を充実させることが必要である。しかし、現時点のEANETのモニタリングサイトは、比較的バックグランド測定(広域的モニタリング)を目的とした観測地点に配置されており、今後は、局所的汚染状況の把握のための地域的モニタリングをも含めたモニタリングサイトの拡充が必要である。また、モニタリングサイトの拡充に伴って、新たなサイトでの測定データの信頼性を確保するためには技術研修の充実が必要となる。

 なお、現在のEANETにおける大気モニタリングは、あくまで酸性雨に関連するNO2やSO2を中心とした成分が測定対象となっており、欧州のEMEPのように、越境大気汚染物質である浮遊粒子状物質やオゾンをモニタリング対象としたネットワークは、アジアでは未だ構築されていない。

5.まとめ ―今後、日本が行なっていくべきこと―

 越境大気汚染のひとつである酸性雨問題が世界で最も早く顕在化した欧州では、欧州地域全体を網羅するモニタリングネットワークであるEMEPを構築して越境汚染物質の現状把握を行なってきた。そして国際的な環境施策を推し進め、酸性雨の原因であるSO2排出量を大きく削減することに成功している。また、このEMEPは、酸性物質以外にも浮遊粒子状物質やオゾンもモニタリング対象としてネットワークを構築している。

 近年、深刻になりつつある東アジアの酸性雨、浮遊粒子状物質、オゾン等の越境大気汚染問題を解決する第一段階として、東アジア全域を網羅する大気汚染物質モニタリングネットワークの拡充は早急に展開すべき重要課題である。東アジアでは、酸性雨を対象としたモニタリングネットワークEANETが、2001年より、東アジアの政府間の合意のもと国際機関として本格的に稼動して参加国も増え始めている(2005年時点:12カ国)。しかし、欧州のEMEPと比較すれば、モニタリングサイト数は充分とは言えない。また、現在のEANETのモニタリング対象成分は酸性物質を中心としたものにとどまっている。

 アジアの中では環境先進国である日本は、既に構築されているEANETの拡充・機能の拡大に率先して取り組むべきであり、具体的には以下のような課題解決が望まれる。

(1)モニタリングネットワークの拡充

 EANETにより構築されてきた酸性雨モニタリングサイトは、比較的バックグランド測定(広域的モニタリング)を目的とした地域に配置されており、今後は地域的モニタリングをも含めたモニタリングサイトの拡充が必要である。モニタリングサイトの拡充に伴う課題としては、以下の二点が挙げられる。

[1]モニタリング測定値の精度管理のための技術研修の実施

 各国・各地の観測サイトのデータを相互に比較・評価できるようにするには、各モニタリングサイトにおいて、標準作業マニュアルに基いた測定が実施されなければならない。特に、新たなモニタリングサイトにおいて測定精度を確保するには、机上の研修のみではなく、モニタリングサイトにて実際に使用されている測定装置を用いた徹底した技術研修が必要である。また、技術研修を継続的に実施するには、現地の技術者・スタッフが研修を運営するシステムも重要となる。計測技術に関して豊富な経験・知識をもつ日本が行なう国際協力としては、現地の技術研修システムが軌道にのるまでの間のサポートを継続的に実施することが望ましい。

[2]低価格分析装置の開発

 モニタリングネットワーク拡充のためには予算の拡大も必要であるが、低価格分析装置の開発により、普及台数を増やすことも必要である。そのため、装置に関する高い開発技術力をもつ日本が、大気モニタリング装置(連続測定)の低価格化に向けた技術開発を推し進めることが重要である。また、簡易測定方法(バッチ測定)による測定も積極的に導入して、モニタリングサイトを拡充する方策も有効である。

(2)浮遊粒子状物質、オゾンのモニタリングネットワークの構築

 近年、経済活動の活発な東アジア地域の工場や自動車から排出されるPMや黄砂からなる浮遊粒子状物質、光化学スモッグを引き起こす主原因であるオゾンを対象とした東アジア地域を網羅するモニタリングネットワークの必要性も増大している。これを早期に実現するためには、既に構築されてきたEANETのモニタリングサイトの機能を拡大することが得策であろう。つまり、モニタリング対象を酸性物質であるSO2、NO2のみならず、浮遊粒子状物質、オゾンまで拡大してモニタリングネットワークを構築することが望ましい。なお、浮遊粒子状物質、オゾンのモニタリングネットワークの構築においても、(1)で述べた各課題に取り組むことは必要である。ただし、[1]のモニタリング測定値の精度管理のための技術研修に際しては、東アジアの実態に即した標準作業マニュアルを新規に作成する必要がある。

謝 辞

 本稿をまとめるに当たり、独立行政法人国立環境研究所・大気圏環境研究領域・大気反応研究室長の畠山史郎博士、地球環境フロンティア研究センター・大気組成変動予測研究プログラムディレクターの秋元 肇博士、社団法人日本環境技術協会の三笠 元 大気部会長、株式会社堀場製作所の李 虎マネジャーの意見を参考にさせていただきました。ここに深く感謝いたします。


参考文献

1) 財団法人日本エネルギー経済研究所、「アジア/世界エネルギーアウトルック―急成長するアジア経済と変化するエネルギー需要構造―」、2004年3月

2) 平成16年6月―酸性雨対策調査総合とりまとめ報告書―環境省:http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=5052

3) 環境省地球環境研究総合推進費終了研究報告書「東アジア地域の大気汚染物質発生・沈着マトリックス作成と国際共同観測に関する研究」研究代表者:村野健太郎(C国立環境研究所)(平成11年度〜13年度)

4) 地球環境フロンティア研究センター「過去約30年間に我が国上空の対流圏オゾンが広域で著しく増加」:http://www.jamstec.go.jp/frcgc/jp/press/041206/index.html

5) 平成15年度大気汚染状況について―環境省:http://www.env.go.jp/air/osen/jokyo_h15/04_5figs.html#4_1

6) 東京都の光化学スモッグ注意報等の発令状況:http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/ox/bunpu/smog.htm

7) エネルギー白書2004年:http://www.enecho.meti.go.jp/hokoku/html/16011221.html

8) 地球環境工学ハンドブック、オーム社、1991年、P.661

9) 大気汚染物質広域監視システム―環境省:http://w-soramame.nies.go.jp/

10) 日本の大気汚染の歴史:http://www.erca.go.jp/taiki/history/

11) 大気汚染に係る環境基準―環境省:http://www.env.go.jp/kijun/taiki.html

12) EMEP Measurement Network:http://www.nilu.no/projects/ccc/network/index.html

13) Global Environmental Outlook 3:http://geo.unep-wcmc.org/geo3/pdfs/Chapter2Atmosphere.pdf

14) Global Environmental Outlook 2000:http://www.unep.org/geo2000/english/0048.htm

15) 東アジア酸性雨モニタリングネットワーク:http://www.eanet.cc/jpn/eanet_f.html