[1]植物ホルモン「オーキシン」の受容体がついに発見された
オーキシン(auxin)は植物の発芽、分枝、根の伸長、開花など多様な局面において重要な調節の役割を果たしている植物ホルモンである。オーキシンは植物ホルモンの中でも最も早く発見され、すでに発見されてから70年以上も経つにもかかわらず、オーキシンに対する受容体(レセプター)は発見されず、オーキシンのシグナルの伝達経路解明のために、レセプターの探索が続けられていた。
今回、米国インディアナ大学のMark Estelle氏らと英国ヨーク大学のOttoline Leyser氏らのそれぞれをリーダーとする2つの研究グループは、オーキシンがTIR1と呼ばれるタンパク質と結合することを見出し、これがオーキシンの受容体であると結論して、5月26日発刊のNature誌1)に発表した。
オーキシンが、遺伝子の転写を抑制する因子であるAux/IAAタンパク質の分解を誘導することで、オーキシンの作用に関連する遺伝子の発現の調節をしていることは既に知られていた。また、TIR1は、細胞内で不要となったタンパク質を分解する際のラベルとしてユビキチンを付加する役割をもつSCFと呼ばれるタンパク質複合体の構成要素であり、近年の研究により、オーキシンがTIR1とAux/IAAの相互作用を促進することが示されていた。
今回の研究により、オーキシンはTIR1に結合してTIR1に構造変化を生じ、その結果、Aux/IAAとTIR1とが複合体を形成することを促進し、これにより、オーキシンの作用発現に必要な一連の遺伝子群を抑制していたタンパク質が分解され、これらの遺伝子が発現することが示唆された。
さらにEstelle氏らは、TIR1と同様にF-box protein(植物、動物に存在し、分解する蛋白にユビキチンの目印をつける蛋白ファミリー)に属する3つのタンパク質(AFB1、2、3)とTIR1を全て欠失した場合、植物の成長は厳しくダメージをうけることを明らかにし、Developmental Cell誌に発表するとのことである2)。
これらの結果はTIR1様の蛋白ファミリーはAux/IAA蛋白と共にオーキシンに対して多様な生理学的な応答を指示することを示唆するものであろう。
今回の研究成果により、オーキシンの制御機構の解明が大きく前進するものと期待される。
参 考
1)Nature, vol.435, p441-445, p446-451(2005)
2)Science, vol. 308, p1240(2005) 味の素(株) 都河 龍一郎 氏のご投稿より
[2]効率的な研究連携体制作りのためのブログ活用
研究者人口の増加・専門分野の細分化・学際的協同研究に対する要望の増大に伴い、研究の連携相手を組織的・効率的に探す技術が必要となっている。これまで、研究の連携相手探しは、(1)研究者の個人的な知り合い関係や紹介、(2)実時間の状況や新規なカテゴリ概念を必ずしも反映しない、論文データベースや研究者の登録情報、等に依存して来た。そこで、研究者の詳細な専門分野と興味を特定し、人や組織の動態に対応した上で、共同研究者を探す事の出来る支援方法を目指して研究が進められている。
人工知能学会(JSAI)では、研究成果を活用して、大会環境内に於ける情報活用の支援システムを構築・運用する試みを続けている。本年6月15〜17日開催された全国大会では、大会支援システムの機能の一部として、人間関係と位置の情報を付加したブログが試行され、その内容が学会発表で紹介された。
ブログとは、個人によって随時掲載内容を更新できるWebサイトである。Web日誌で主流だったHTMLに加え、近年既製のソフトウェアを用いて開設や運営が容易になり、開設者や閲覧者が急増している(2005年3月時点の日本国内のブログ開設数は335万)。
JSAI大会支援システムの開発者は、「実世界における行動は、本質的には行為者の自覚によって定義される主観的なものである」と捉えている。そこで、利用者による主体的なブログ更新作業を支援するため、(1)赤外LEDタグやICカードなどID発信端末と、環境内に設置されたセンサ類を用いて、位置情報を記録し、(2)時系列データ解析を用いて、各利用者の行動履歴を作成し、(3)これに基づいてブログ掲載内容の草案を自動的に提示するシステムを開発した。利用者の作成した内容は、ブログ上に公開されると同時に、関連者(「出会った」相手、「聴講した」発表の著者・他の聴衆、等)に提示される。
JSAI大会支援システムでは、利用者と引用元が双方向に対応付けれられる事を利用して、発表に関する興味や知り合い関係に基づく人間関係ネットワークを作成し活用している。人間関係に加え、人の位置情報も活用される。ネットワークを用いて、任意の相手の間のアクセス経路や、共通するチェックリンク一覧を閲覧できる。
現時点では、人工知能学会会員、且つ発表を行う者のうち、協力する旨承諾の得られた、閉じた集団の中のみでの試行となっている。今後、非会員の聴講者を含む集団や、他学会との合同大会など、縁故や登録制度によるつながりの得難い状況で使用可能とする事により、支援システムの本領が発揮される。
認知科学的観点からは、協同研究を支援する技術が発展しても、人と人が直に会って議論する事の重要性が指摘されている。今回開発された方法は、このような人的繋がりを重視した連携作りを、組織的・効率的に支援するシステムとなっている。
参 考
JSAI2005 大会支援システム:http://jsai-support-wg.org/polysuke2005/
第19回人工知能学会全国大会、沼et al.:http://www-kasm.nii.ac.jp/jsai2005/schedule/pdf/000193.pdf
総務省「ブログ・SNSの現状分析および将来予測」:http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050517_3.html
イベント空間情報支援システム:http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2005/pr20050610/pr20050610.html
[3]3次元チップ積層での無線を用いたチップ間接続の研究開発
LSI(大規模集積回路、以降チップという)の集積度向上は携帯電話の小型化、多機能化や超高性能コンピュータ等の性能向上を達成してきており、今後も更なる高集積化の向上が望まれている。いままで集積規模は主に微細化技術によって順調に増加してきたが、その増加傾向も製造コストと消費電力の急激な上昇で飽和しつつある。そのため1チップではなく、複数チップを積層して高集積化に対応する方法も開発されている。チップ間の接続(インターコネクション)に金属線(Bonding wire)を用いるシステムインパッケージ(SiP)という実装技術や積層チップ間を貫通ビアホール(Via hole)で接続する集積技術などである。いずれもこれまでチップ間接続は金属配線によって実現されてきた。
広島大学ナノデバイス・システム研究センターの岩田穆教授と吉川公麿教授のグループは、無線インターコネクション技術を導入して、積層チップ間のデータ通信を行う3次元集積技術を開発しており、2005年2月の国際固体回路会議ISSCCで報告した1)。この3次元集積技術では、磁力線を発生するコイルによる無線通信(インダクタ結合)とマイクロアンテナによる電波通信の2種類の無線インターコネクションを用いてチップ間の無線接続を行っている。右図は、両インターコネクションを組合わせた3次元集積システムである。
インダクタ結合では、多数のインダクタ対をチップ上の任意の位置に形成し、隣接チップ間を磁力線で無線通信する。トランスの原理を用い、100μm程度の距離で誘導結合できるため、チップ内に分散して存在するデータを並列に転送できる。転送距離は一旦チップ周辺に配線を引出して接続する方式に比べ、垂直分の距離だけで済むため伝搬時間が短く、インダクタ結合当り1mW以下の従来より1桁小さい微小電力で1Gビット/秒のデータ転送を実現している。チップ間の位置ずれの許容度が大きく、またインダクタのサイズは、従来の外部端子(パッド)より小さく出来るため、製造の点でも有利である。これらの最新の研究成果を2005年6月のVLSIシンポジウムで報告している2)。
一方、電波通信では、チップを透過して高周波(約30GHz)の電波を伝搬させ、各チップに形成したマイクロアンテナ(約4mm)で送受信する。複数のチップを亘ってデータを転送できるため、システム全体のクロック供給やデータの同時伝送に用いることができる。10チップ以上の積層も可能とし、10GHzの高速クロック分配の可能性を持つ。
このような3次元積層方法では、機能や材料の違うチップの集積もでき、また例えば、チップ間に熱伝導の良い膜をはさむことで発熱対策も可能になる。今後の課題は、インダクタ対の高密度配置時のクロストーク問題、電波干渉問題への対応等であり、更なる研究開発が推進されている。
参考文献
1)A 3D Integration Scheme utilizing Wireless Interconnections fro Implementing Hyper Brains (ISSCC 2005.2)
2)A 0.95mW/1.0Gbps Spiral-Inductor Based Wireless Chip-Interconnect with Asynchronous Communication Scheme (Symposia on VLSI Technology and Circuits 2005.6)
[4]地中熱冷暖房システムの改良が進む
地中熱冷暖房システムの開発が進んできた。本システムは、未利用の地中熱を活用する新しい冷暖房システムで、都市の快適な環境維持に貢献すると期待されている。戸建て住宅用には旭化成ホームズ(株)が、オフィスビルや公共施設向けにはミサワ環境技術(株)と柳町空気調和エネルギー研究所が共同で、それぞれ地中熱冷暖房システムを開発した。
地中熱冷暖房システムは、年間を通してほぼ15℃と一定の地中熱を熱源として利用する。地中温度は、夏には外気温よりも温度が低く、冬には外気温よりも温度が高い。このことを利用して、冷暖房の省エネ効果を高め、結果としてCO2削減を図ることが期待できる。旭化成ホームズの室内機、室外機 の新システムの構成図を右図に示す。これまでにも実用化したシステムはあったが、熱交換器を地下約100mに埋めなければならず、最大の課題は、掘削費を含めた初期費用(600万〜800万円)が高いことにあった。旭化成ホームズは、軟弱地盤に住宅などを建築する際に強固な地盤まで打ち込む基礎杭(くい)用鋼管を地中熱冷房システムに転用し、戸建て住宅用の新型鋼管を開発した。複数の軟弱地盤改良用鋼管を用いることで掘削する深さを10m程度に抑え、掘削工費の大幅削減を実現し、床下設置タイプで約270万円(延べ床面積40坪の住宅を想定)まで価格を抑えた。また、本システムは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)補助制度対象にもなっており、設置費の3分の1が補助される。省エネ効果で従来型設備に比べて光熱費を約4割削減できるため、補助制度を利用すれば、ユーザーの初期投資は約180万円であり、従来型設備との差額は約5年で回収可能である。
一方、ミサワ環境技術グループは、オフィスビルなど向けに、地中冷熱を利用して電力使用量を約7割減らせる冷暖房システムを開発した。ミサワ環境の既存地中熱冷房システムに柳町空気調和エネルギー研究所の考案した新しい温度・湿度個別制御型空調技術を導入した。従来の空調は除湿と冷却とを同時に1つの熱交換器で処理していたため、除湿には必要であるが冷却には不必要な5〜7℃の低温冷水を冷却、除湿の区別なく使用してきた。本空調技術は、従来1つだった冷熱源を温度制御用と湿度制御用に分け、別々の熱交換器とした。近代ビルで空調負荷の95%を占める温度制御用の冷熱源温度を従来の5℃から20℃まで引き上げ、その他の設備改善も加えて大幅な省エネ効果を達成した。建設コスト増分も数年で回収できる。
これらのシステムは、冷房の排熱を外気に放出せずに地中に逃すため、ヒートアイランド現象の緩和にも貢献するのではないかと期待されている。
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[5]インドが立体地図作成衛星の打上げに成功
インド宇宙研究機関(ISRO)は2005年5月5日、サティシュダワン射場からPSLVロケットにより極軌道地球観測衛星「カートサット1号(CARTOSAT‐1)」(1,560kg)及びアマチュア無線衛星「ハムサット」(43kg)の同時打上げに成功した。
カートサットの名称はcartography(地図作成学)に由来し、立体地図作成のための画像データ取得を主な目的とする地球観測衛星である。別名IRS‐P5とも呼ばれ、インドの地球観測衛星IRSシリーズとしては11番目の打上げとなる。衛星の軌道は22日間で回帰する太陽同期軌道で、高度は618kmである。カートサット1号に搭載された2台のカメラで地球の立体画像を撮影できる。2台のカメラの視方向は前方視で+26°、後方視で−5°になるように傾斜させて取り付けられており、解像度は2.5mで1度に観測できる幅は30kmである。得られた画像データは圧縮・暗号化を行って地上局に送信される。5月13日には、5月8日に撮影した最初の取得画像を公開した。
これまでにインドが打ち上げたIRS衛星シリーズのうち初期の2機は、PSLVロケットによる軌道投入に失敗したが、1994年に初めて同ロケットによるIRS衛星の打上げに成功した。最近では、オーシャンサット(海洋観測衛星、IRS‐P4)、リソースサット(陸域観測衛星、IRS‐P6)など目的別に各種の地球観測衛星が次々と打ち上げられている。
IRSの画像は、我が国でも(財)リモート・センシング技術センター(RESTEC)に依頼すると、米国のスペースイメージング社を通じて入手できる。ただし、一般の利用者にとっては、必要とする画像情報を入手するのに、どの衛星のどのセンサがいつ取得したものが最適なのかわからない場合が多い。RESTECでは、問合せに応じて、多種類の衛星の中から適切な画像データを検索し、取り寄せるサービスも行っている。
スペースイメージング社は、商業地球観測衛星イコノスを所有し、解像度1mの画像を販売していることで知られるが、IRS衛星の画像データに関してはISRO傘下のアントリクス社から独占販売権を得ている。
インドは米国だけでなく、ロシア・中国・欧州などとも幅広く宇宙開発における国際協力を推進している。インドはさらにイコノスと同じ解像度1mの「カートサット2号」の開発も行おうとしていることから、センサ技術が急速に発展しつつあると考えられる。インドの地球観測衛星が今後米国に匹敵する優位性を獲得する可能性もある。
ISRO:Indian Space Research Organization
IRS:Indian Remote Sensing Satellite
PSLV:Polar Satellite Launch Vehicle