[特集1]
食物アレルギー研究の動向

ライフサイエンス・医療ユニット 島田 純子

客員研究官 矢野 裕之
農業・生物系特定産業技術研究機構 中央農業総合研究センター

客員研究官 水町 功子
農業・生物系特定産業技術研究機構 畜産草地研究所


1.はじめに

  食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、スギ花粉症などのアレルギー疾患は、先進国を中心に増加の一途をたどっており、世界的にみても大きな問題となっている。特に、食物アレルギーは乳・幼児期に発症し、成長・発育へ悪影響を及ぼすことや、成長とともに種々のアレルギーを発症するアレルギーマーチの引き金となることから、早期の予防・治療が重要であるとされている。

 食物アレルギーの発症件数は年々増加傾向にあり、厚生省(現・厚生労働省)が1997年度に行ったアンケート調査では子供(3歳児で8.6%)だけでなく、成人でも高い割合(9.3%)で食物アレルギーがあることが示されている(食物アレルギー対策検討委員会 1997年度報告書、1998年)。これまで問題となっていたのは、幼小児の食物アレルギーであったが、魚介類やフルーツなどに対するアレルギーが大人で増加しており、スギ花粉との交差性(共通の構造をもつ抗原に反応すること)も指摘されている。そのため、食物アレルギー研究は早急に対応すべき課題であり、克服のための根本的な解決策が求められている。

 一方、第2期科学技術基本計画(平成13年3月30日閣議決定)においては、3つの「我が国が目指すべき国の姿と科学技術政策の理念」の1つとして、「安心・安全で質の高い生活のできる国の実現」が掲げられている。食物アレルギーに対する食品の研究開発は、これに貢献するものであると考えられ、推進すべき課題である。

 アレルギー性疾患は遺伝的要因と食生活を含む環境要因が複雑に関係して発症すると考えられている。遺伝子には民族ごとに多様性があることがわかっており、それをふまえた研究展開が必要である。

 そこで本稿では、食物アレルギーの状況や発症機構について概説し、食品の低アレルゲン化研究と、免疫応答制御機能を有する食品の研究について、その動向を述べる。

2.食物アレルギー

2‐1.食物アレルギーとは

 食物アレルギーとは、経口的に摂取した食物を異物と認識して過剰な免疫応答をおこし、自らを傷つけてしまう過敏反応である。下痢、腹痛、じん麻疹、湿疹のほか、ひどい場合にはアナフィラキシーショック症状(1)をおこし、死に至る場合もある。人によってアレルゲンとなる食物が異なる、体調によって症状が変化する、交差反応(2)でも発症するなど、生体とアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)との複雑な相互作用の結果、さまざまな応答、症状が現れる特徴があることが、食物アレルギーの予防・治療を困難にしている。


(1)アナフィラキシーショック
 原因となるアレルゲンに接触することによって、アレルギー反応に歯止めがかからなくなり、全身に急激に様々な症状をひきおこし、痙攣や呼吸困難、血圧低下など、ときには生死に関わる重篤な症状を伴うこと。

(2)交差反応
 同一種類でなくても共通の構造をもつ抗原には反応すること。例えば、鶏卵でアレルギーを起こす人は他の鳥類の卵でもアレルギー症状を起こす場合がある。


 発症の要因としては遺伝的要因、環境要因が考えられている。免疫系に関わる遺伝子の多様性、個人の体質を決める遺伝子の多型は、日本人と欧米人でかなり異なっていることがわかっている1,2,3)。環境因子としては、幼少時の感染症罹患歴の相違、環境汚染物質への曝露の相違、抗原量の相違、食事の相違が候補としてあげられている。生活水準や衛生環境の向上による幼少期の感染の減少がアレルギー疾患の増加の原因ではないかとする衛生仮説(3)が提唱されている。


(3)衛生仮説
 1989年、Strachanが提唱した。Strachanはイギリスの17,414名を対象に23年間追跡調査し、アレルギー疾患の保有率、家族数、兄弟姉妹数について調査した。その結果、気管支喘息、湿疹保有率は兄弟姉妹の数が多いほど低下し、生まれ順が遅いほどアトピー性素因の抑制効果が大きいことを報告し、生活水準や衛生環境の向上による幼少時の感染の減少がアレルギー疾患の増加の原因であると解釈した。その後、この仮説を支持する疫学調査研究が次々と発表されている。この仮説が支持されている理由の1つは、Th1/Th2についての知見がある。胎児期及び新生児期の免疫応答はTh2型の応答が優位であるが、その後、幼少時期に感染性の微生物を含むさまざまな微生物の刺激を受けてTh1型の応答が発達し、Th1/Th2のバランスがとれた状態が形成される。幼少時期に微生物との遭遇機会が少ないということは、Th2優位の状態が形成されるが、この状態はアレルギー疾患を発症しやすいのである。


2‐2.原因食物

 卵、牛乳、小麦、豆類、そば、果物、魚介類、肉類など多くの食物がアレルギーの原因となりうる(図表1)4)。原因食物の種類は年齢によって異なる。幼・小児では卵、牛乳が圧倒的であり、この患児の多くが成人までに治癒する。それに対し、成人で発症する場合は魚介類や果物に対するアレルギーが多くなっている。

chart01

 そこで、特定のアレルギー体質をもつ人の健康危害を防止する目的で、アレルギー物質を含む食品に表示が義務付けられた(2002年4月から実施)。これは、「食品の表示のあり方に関する検討報告書(1998年度)」を受けて、2001年4月の食品衛生法の改正により実施されたものである。症例数・重篤度から卵、牛乳、小麦、そば及び落花生を特定原材料として表示を義務付け、その他19品目(アワビ、いくら、エビ、オレンジ、かに、キウイ、牛肉、クルミ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン)についても可能な限り表示するよう推奨している。さらに2004年7月にはバナナを奨励表示品目に加えることが適当とする検討報告書が出された。しかし、表示が義務づけられたにも関わらず、製造工程上の問題による混入や、表示がわかりにくく見逃して事故に至るケースも報告されている。制度の普及啓発、必要な人に必要な情報を提供する周知広報の充実化、混入物の検知技術に関する研究が求められている。

2‐3.食物アレルギー研究の歴史

 西暦紀元前には、ギリシャのルクレチウスが「食物は人によっては毒になる」と言っており、食物アレルギーの存在は非常に古くから知られていた。18〜19世紀にはパン職人の小麦粉喘息、枯草熱(花粉症の一種)が指摘された。20世紀初頭にピルケによりアレルギーの概念(「時間的、量的、質的に変化した、外来抗原に対する生体の反応能力」をアレルギーと定義)が提唱された。この概念は、すべての免疫応答を含んでしまうかなり広い定義であったが、現在では、アレルギーは「本来なら無害であるはずの抗原に対する免疫応答によって引き起こされる疾患」と狭い意味に定義されている。

 日本では1952年に日本アレルギー学会が設立され、食物アレルギーの診断から治療に至る研究が始まった。

2‐4.免疫応答反応のメカニズム

 食物を食べると、胃や腸を通って消化され吸収されていく。食物中には、生体にとって異物(自己ではない)である膨大な量の異種タンパク質が含まれているが、通常は、消化管免疫機構が働くことにより、過剰な免疫応答が抑制され、アレルギー反応は起こらない。しかし、これらの機構が破綻していると、アレルギー反応が引き起こされる。

(1)アレルギー発症のしくみ

 食物アレルギーは、原因となる食物を摂取してから2時間以内位に症状を呈する即時型アレルギーが多い。消化管から吸収された食物アレルゲンは、アレルゲンが直接接触する部位である消化管粘膜において即時型反応を起こし、嘔吐、腹痛、下痢などの主症状がみられる。また、消化管より吸収されたアレルゲンが血管を通って全身に運ばれ、気道での鼻炎などの呼吸器症状、皮膚においてはじん麻疹や血管性浮腫などの皮膚症状も引き起こす。さらに、呼吸困難、血圧低下など全身症状を伴うアナフィラキシーやアトピー性皮膚炎の発症にも関係しているといわれ、さまざまな臓器が傷害される。

 これらの症状は、アレルゲンがいくつかの免疫担当細胞と反応して引き起こした炎症反応の結果である。まず、摂取、吸収されたアレルゲンは抗原提示細胞に取り込まれ、抗原提示細胞がT細胞に認識される。次に、T細胞がB細胞に働きかけ、B細胞をIgE抗体産生細胞へと変化させる。さらに、IgE抗体産生細胞より産生されたIgE抗体が肥満細胞に結合し、アレルゲンの刺激によって脱顆粒がおこり、細胞内のロイコトリエンやヒスタミンといった化学伝達物質が放出される。この化学伝達物質により炎症反応が引き起こされ、アレルギー症状が発現する。

 通常(健常者の場合)は、この炎症反応が起こらないようなメカニズムが働いている。例えば、IgE抗体産生に向かわないように、T細胞の免疫応答バランス(Th1とTh2という2種のT細胞のバランス)が維持されている。食物アレルギーの場合は、Th2が優位になっており、IgE抗体産生を抑えられなくなっている。

chart02

(2)経口免疫寛容

 食物中には、生体にとって異物(自己ではない)である膨大な量の異種タンパク質が含まれている。タンパク質に存在する抗原性領域の大部分は、消化の過程で消化酵素により分解されるが、ごく一部は抗原性を失うことなく生体内に吸収される。しかし、口から摂取し消化吸収された食物抗原に対しては過剰な免疫応答を起こさない。これを経口免疫寛容という5,6)
 経口免疫寛容は、古くから経験的に利用されていたと考えられる。日本では漆職人が漆によるかぶれを予防するために漆を食べるという。実験的には、マウスやモルモットに抗原タンパク質を経口的に投与し、その後皮下や腹腔に同じタンパク質を注射しても、免疫グロブリンの産生が抑制されることや、アナフィラキシーが起こらないことが報告されている。

 経口免疫寛容機構は、本来異物であるはずの食物性抗原に対し、過剰な免疫応答を起こすことなく、必要な栄養素を取り入れるための優れたシステムである。しかし、この免疫寛容機構が、何らかの要因で破綻、あるいは変調をきたした場合、食物アレルギーが引き起こされると考えられる。そこで、経口免疫寛容の機構を解明し、効果的に経口免疫寛容を誘導することが課題となっている。しかし、消化管内では食物などに由来する雑多な抗原や種々の微生物が混在しており、さらに関与する免疫担当細胞も多様であることから、経口免疫寛容機構の全容を解明するには至っていないのが現状である。

(3)消化管免疫

 消化管は、“内なる外”を形成し、粘膜を介して絶えず大量の食物や微生物といった異物に曝露されており、生体防御の第一線に存在する巨大な免疫器官である。成人の腸管の粘膜面積は300〜400m2(テニスコート1.5面分)、微生物数は1014個(約1kg)以上であり、微生物の構成は人種、食性、年齢、生理的・病的状態、ストレス、薬物などによって変動する。腸内の微生物叢(腸内フローラ)は宿主の栄養、生理機能、老化、発ガン、免疫、感染などに大きく影響することが知られている。特に、アレルギー疾患児と健常児では腸内フローラの構成が異なることも報告されている。
 消化管は、食物や腸内に常在する微生物等の有用物質と、病原性微生物等の有害物質を区別し、生体に有害な抗原の侵入を阻止あるいは排除し、必要な栄養分は積極的に取り入れるように働いている。

 食物アレルギー患者の場合、有用物質と不要物質の識別がうまくいっていない。特定の食物成分や微生物が、この状態を改善するという報告もなされているが、その詳細なメカニズムやどのような食物成分や微生物が有効かについてはわかっておらず研究されているところである。

3.食物アレルギー克服のための研究開発動向

 食物アレルギーが発症しないようにするためには、アレルゲンの吸収から始まり炎症反応にいたるまでの一連のアレルギー反応を、どこかの段階で止められればよい。例えば、アレルゲンの侵入・認識を阻止する、T細胞の活性化を阻止する、アレルゲンとIgE抗体との結合を阻害する、化学伝達物質の遊離を抑制するなどの方法がある。

 食物アレルギーの克服のための研究としては、まず免疫応答反応機構の解明を進めて、体内に入ってしまったアレルゲンが引き起こすアレルギー反応を阻止する方策を探る方向がある。一方で、アレルゲンを体内へ入れないようにするために、アレルゲンを除去・低減させた食品の研究開発がある。さらに、食品を用いて、生体に備わっている本来の免疫調節機能を改善して強化するという研究も進められている。

 本章では、食物アレルギー克服のために取り組まれている研究開発のうち、食物側からのアプローチを記述する。まず初めに、食物中の抗原構造を破壊した低アレルゲン化食品の研究開発について記す。低アレルゲン化食品は、アレルギー反応の発端となるアレルゲンを生体内へ取り入れないようにするためのものである。次に、食品による免疫調節・制御を視点としたアレルギー制御食品の研究について記す。アレルギー制御食品は、食物アレルギーを予防したり制御したりする効果を持つ食品である。

3‐1.低アレルゲン化食品の研究開発動向

 現在、主として行われている食物アレルギーの治療方法は、薬物による対症療法と原因食物の除去である。しかし、発育成長期の幼小児においてアレルゲンを含む食品を除去することは、栄養不足や発育障害を招く可能性があり、望ましいことではない。アレルゲンの分解、変性などによる低アレルゲン食品の開発は、栄養障害や成長障害を防ぎ、食生活の広がりを期待できる点で重要である。そこで、低アレルゲン化食品に求められることは、できるだけアレルゲン活性が抑えられていて、栄養学的には通常の食品と同様であることである。

(1)これまでに開発された低アレルゲン化食品

 これまでに、作物や食品の低アレルゲン化手法が開発され、製品への応用が進んでいる。

 例えば、資生堂と東京大学農学部、横浜市立大学医学部の共同研究により開発された低アレルゲン米「ファインライス」である。1991年より販売されている。ファインライスはコメをタンパク質分解酵素で処理し、アレルゲンタンパク質のひとつであるグロブリンを分解したものである。1993年6月に「特定保健用食品」第1号として、さらに1997年6月には「病者用食品」として厚生省から許可を受けている。

 また、三井東圧化学(株)(現三井化学(株))と農業環境技術研究所により、遺伝子組換えによりアレルゲンタンパク質の発現を抑制した低アレルゲン米が開発された。1995年には一般圃場での栽培が実施されているが、いまのところ商品化には至っていない。

 放射線照射によりさまざまな突然変異体を作出し、この中からアレルゲン遺伝子を欠失したものをスクリーニングすることで低アレルゲン作物を開発する試みもなされている。東北農業研究センターでは、大豆の3種の主要なアレルゲンのうち2種を欠失した低アレルゲン大豆「ゆめみのり」が開発されている。

 しかし、上記の低アレルゲン食品の研究開発方法には限界がある。なぜなら、タンパク質分解酵素は消化できるアレルゲンに限りがある。また、基質特異性の広いタンパク質分解酵素を用いた場合には有用なタンパク質の消失による栄養性の低下や、コメ粒子の損傷による商品価値の低下が懸念される。遺伝子組み換えの手法を用いた場合には、1つひとつのアレルゲンに対してそれぞれ対処する必要があり、多くのアレルゲンに対応するのは困難である。放射線照射を用いる場合にも、アレルゲン遺伝子が損傷を受ける確率の程度や、評価できるアレルゲンが既知のものに限られていることを考慮すると限界がある。

(2)プロテオーム(4)解析手法を用いたアレルゲン研究

 アレルギー性を発現する原因となる構造は、いくつかの食物に共通に存在していることがわかっている。これを破壊することによって食品を非アレルゲン化する研究が進められている。例えば、カルフォルニア大学のブキャナンらは、ジスルフィド結合を切断する還元酵素チオレドキシンで処理することにより、穀物やミルクの主要なアレルゲンのジスルフィド結合が切断され、アレルギー性を発現する原因となる部分の構造が変化しアレルゲン性が低下することを示している7)。さらに、遺伝子組み換えによりチオレドキシンを大麦の貯蔵器官(可食部)で発現させ、大麦種子のアレルゲンタンパク質のジスルフィド結合が破壊されていることが確認されている8)。チオレドキシンは広く生物に存在する酵素であるため、食品に用いた場合にも安全性の問題は極めて低いと考えられる。以上より、チオレドキシンは、食品の低アレルゲン化の重要なツールとなることが期待されている。


(4)プロテオーム
 プロテオーム(proteome)とは、細胞や組織において発現しているタンパク質の全体像を指す。プロテオーム解析は、タンパク質を分離し、同定するという2つの作業からなる。現在、主に行われているのは二次元電気泳動によってタンパク質を分離し、質量分析で目的のタンパク質を同定する方法である。

 したがって、アレルギー性を発現する原因となる共通の構造を破壊することにより、多くのアレルゲンを1度の処理で低減化できる可能性がある。これをさらに多くのアレルゲンに応用するためには、その他のアレルゲンの共通構造の同定やその安全な破壊手法の開発等の研究が必要である。そこで、包括的にアレルゲンを検出するために、プロテオーム解析手法を用いる研究が進められている。

 この方法は、アレルギー患者の血清中に存在する抗体に反応するタンパク質を包括的に解析し、アレルゲンを検出するものである。具体的手法を、図表3に示す。

chart03

 この方法は、食品、ハウスダストをはじめとするアレルゲンのスクリーニングに活用できる可能性があり、今後の研究進展が期待される。検出されたアレルゲンの構造解析を進め、共通する分子構造を解明することで食品の低アレルゲン化への貢献が考えられる。効率的に共通構造を見出すためには、数多くのアレルゲンの構造解析とともに、検索可能なデータベースの構築が必要であろう。

3‐2.アレルギー制御食品の研究開発動向

 低アレルゲン化に加えて、食品による免疫調節・制御を視点とした研究が進められている。アレルギー制御食品とは、経口免疫寛容を誘導したり、消化管免疫機能や食品中の抗アレルギー成分を活用したりして、食物アレルギーを予防したり制御したりする効果を持つ食品のことである。

(1)経口免疫寛容誘導を利用するアレルギー制御食品

 経口免疫寛容とは、食物中には膨大な量の異種タンパク質を含む抗原物質が含まれているにも関わらず、経口摂取した食物中のタンパク質に対しては免疫応答が起こらない現象のことである。しかし、食物アレルギーでは、ある特定のアレルゲンが口から消化管を通して体内に吸収された時にもアレルギーが引き起こされる。漆職人は、漆を食べて漆によるかぶれを予防するが、食物アレルギーでは対象となる食品を摂取することが問題となる。そのため、食物アレルギーに対して経口免疫寛容を利用するには、食品をそのまま摂取するのではなく、食品を一工夫することが必要となる。

 経口免疫寛容は、抗原であるタンパク質によっても、そのタンパク質のペプチドによっても元のタンパク質に対する寛容が誘導されることが報告されている。つまり、タンパク質中で、アレルギー反応に関与するIgE抗体とは結合せず、T細胞と反応するペプチドを用いて経口免疫寛容を誘導すれば、食物アレルギー反応を制御することが期待できる。

 マウスにおける実験動物レベルであるが、この方法で、牛乳アレルゲンや鶏卵アレルゲンで、経口免疫寛容を誘導できることが報告されている6,10)

 課題としては、適切なペプチドを検討することや、最適な投与量について検討することなどがあげられる。実際にヒトへ応用するにはまだかなりのステップがあるが、抗原特異的な免疫療法を兼ね備えたアレルギー制御食品として期待される。

(2)消化管免疫機能を活用するアレルギー制御食品

 プロバイオティクスとは、消化管内の微生物菌叢(腸内フローラ)を改善し、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物またはそれらを含む食品と定義されている。チーズ、ヨーグルトなどの発酵乳製品に用いられる乳酸菌等の微生物には、乳の貯蔵性、嗜好性を向上し、タンパク質分解、乳糖分解、ビタミン合成などにより栄養価値をあげるほか、消化管内の微生物菌叢を改善し、整腸作用、血圧降下作用、免疫賦活作用などさまざまな保健効果がある。またオリゴ糖などはプロバイオティクスを増殖させる物質として知られている。

 最近、プロバイオティクスには、消化管の免疫調節機能を改善し、アレルギーの発症を抑制する、または症状を改善する効果があることが報告され注目されている。アレルギー患者の腸内フローラが健常者と異なり、乳酸菌の1つであるラクトバチルス菌が少ないという報告が、乳酸菌などのプロバイオティクスに抗アレルギー効果を期待した製品開発の研究のきっかけとなったといえる。ラクトバチラスGGという乳酸菌を妊婦及びその乳幼児に摂取させると、2歳児におけるアトピー性皮膚炎の発症が半分に減ったという報告も出されている12)。その他、種々の乳酸菌やビフィズス菌について、マウスやヒトでIgE抗体の減少などの抗アレルギー効果が確認された。プロバイオティクスの抗アレルギー作用が科学的根拠を得て、製品の開発がますます期待されるようになっている。

 微生物を利用することにより、積極的に生体に働きかけてアレルギーの発症を抑制する可能性がある。しかし、その効果は菌株特異的であり、また、そのメカニズムに関してもほとんど解明されていない。安全性も含めて今後の研究が課題となっている。

(3)抗アレルギー成分の利用

 食物アレルギーを発症しないようにする対処の1つとして、一連のアレルギー反応のうち、炎症を引き起こすヒスタミンやロイコトリエンといった化学伝達物質の産生や、炎症を引き起こす作用を抑制する方法がある。これらの化学伝達物質の産生抑制、作用抑制を、抗アレルギー作用という。低アレルゲン化は抗原特異的な制御であるのに対し、抗アレルギー作用はアレルゲンの種類に関係ない非特異的な作用である。

 食品中には、抗アレルギー作用を持つ成分が多く知られている。例えば、魚類に多く含まれる高度不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸は、ロイコトリエン産生抑制活性がある。茶ポリフェノールには、ヒスタミンやロイコトリエン放出抑制活性が知られる。また、茶葉中のカテキン類やカフェインにも抗アレルギー作用があることが報告されている。この他、フラボノイド、セサミン、シソ葉エキスなど種々の食物から抗アレルギー作用効果のある成分が同定されている。

 以上のような食品中に含まれる抗アレルギー成分の活性には強弱があり、品種や収穫時期などによっても活性が異なることが知られている。例えば、茶の抗アレルギー成分として強く作用するメチル化カテキンは、茶の品種(烏龍茶、紅茶、緑茶)によって含有量が異なる。緑茶用の品種として知られる「やぶきた」にはほとんど含まれないが、凍頂烏龍茶や紅茶用品種として開発された「べにふうき」などには多く含まれる。茶を摘む時期や加工処理過程でカテキン含有量が変化することも知られている。また、青ジソと赤シソのシソ葉エキスのように、種の違いにより抗アレルギー活性にほとんど差がないものもある。

 また、複数の食品成分による抗アレルギー作用の相乗効果も知られている。例えば、ゴマに含まれているセサミンと、植物性食品の油脂に含まれるビタミンEの一種であるα‐トコフェロールの組み合わせでは強い効果が発現される。

 したがって、日常的に摂取する食品の抗アレルギー作用を有効に利用するためには、品種や収穫時期による抗アレルギー活性が異なることや、加工処理による有効成分の含有量が変化することをふまえて、適切な摂取量の調節や、複数の食品成分の相乗効果など、さらなる検討を進める必要がある。

4.おわりに

 本稿では、食物側からのアプローチとして、食品の低アレルゲン化研究と、食品を用いてアレルギーを予防・制御する食品の研究について述べてきた。

 低アレルゲン化食品は、すでに食物アレルギーを発症している人にとって、アレルギー反応の発現を防ぎ、さらに食生活を豊かにするためにも重要な位置づけにある。幼小児期の長期の食物除去による栄養障害の危険性を回避する方策にもなる。低アレルゲン化食品の研究開発の課題としては、様々なアレルゲンに対処すること、食物の味や栄養の低下がおこらないようにすることである。

 食品によりアレルギーを予防・制御する食品の研究については、経口免疫寛容誘導機構の解明、消化管での腸内フローラや他の食物抗原との相互作用解析の解明などが未解明の課題であるが、生体に直接働きかけてアレルギー反応の発現を抑制する可能性があるという点で期待が大きい。

 アレルギー性疾患は遺伝的な要因と食生活を含む環境要因が複雑に関係して発症すると考えられる。免疫系に関わる遺伝子には多様性があり、個人の体質を決める遺伝子の多型(SNP=一塩基変異多型)も、日本人と外国人とではかなり異なることがわかっている。したがって、日本人に適したアレルギー予防効果あるいは治療効果を有した抗アレルギー食品開発には、日本人の遺伝型、食生活を考慮した研究展開が必要である。

 食物アレルギー研究において今後取り組まなければならない課題としては、食物アレルゲンの特徴の解明、アレルゲン性の評価系の確立、食物アレルギー発症機構の解明、食物アレルギーと環境との関連の解明などがある。研究を推進することによって、これらの課題を解決していくことは重要なことであるが、食物アレルギーに対する有効な食品が開発された際に、どのように有効性と安全性を審査していくか、そして、どのように食物アレルギー患者に対して適用していくかというところにさらに大きな課題がある。

 医薬品に関しては、安全性と有効性を評価し、医薬品として認定する仕組みが確立している。一方、食物アレルギーに対する食品は医薬品ではなく、医薬品に対するものと同等の仕組みは確立されていない。また、健常者にとっては何ら問題のない、むしろ有用な食物が、特定の人にとっては有害であり時には死に至ることもあるということが、評価を困難にしており、評価系も現在は確立されていない。実験動物モデルがいくつか提案されているが、症状がはっきりしないものもあり不十分である。マウスなどの実験動物で評価しても、ヒトでの結果と同一とは言えないことから、ヒトでの評価をどうするかは大きな問題である。

 今後、研究開発を展開させていくためには、個々の研究課題の解決とともに、有効性と安全性の審査や疾患への適用をどのように進めていくか検討していくことが重要であり、そのためには、食品の研究開発と医学領域が連携していくことが必要である。


参考文献

1) Shirakawa T et al.“Atopy and asthma:genetic variants of IL‐4 and IL‐13 signalling”Immunol. Today,21:60‐64.(2000)

2) Eerdewegh PV et al.“Association of the ADAM33 gene with asthma and bronchial hyperresponsiveness”.Nature, 418:426‐430.(2002)

3) Vercelli D,“Genetic polymorphism in allergy and asthma”Curr. Opin. Immunol., 15:609‐613.(2003)

4) 今井孝成、「本邦における食物アレルギー即時型反応の実態」、食物アレルギー研究会会誌、Vol.2(1), pp.2‐6,2002年

5) Strobel S and Mowat AM, Oral tolerance. Immunol. Today 19:173‐181(1998)

6) 水町功子・栗棟ヨ黶A「経口免疫寛容誘導のしくみと利用」、研究ジャーナル、24(5)、pp.25‐30、2001年

7) Buchanan BB et al.“Thioredoxin-linked mitigation of allergic responses to wheat”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 5372-5377. (1997)

8) Wong JH et al.“Transgenic barley grain overexpressing thioredoxin shows evidence that the starchy endosperm communicates with the embryo and the aleurone”Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:16325‐16330. (2002))

9) 「アレルゲノミクス(アレルゲン候補蛋白の迅速・網羅的な解析)」:http://dmd.nihs.go.jp/latex/allergenomics-J.gif

10) Mizumachi K. et al. “Oral tolerance induced in mice by T cell epitope peptides of beta-lactoglobulin”Immunol. Cell Biol. 75(supplement 1)A24.(1997)

11) Kalliomaki M. et al.“Probiotics in primary prevention of atopic disease:a randomised placebo‐ controlled trial”Lancet 357:1076‐1079(2001)

その他の参考文献等