環境・エネルギーユニット 大平 竜也
石炭は燃料および鉄鋼の原料として、18世紀の産業革命以降、産業の原動力として大きな役割を果たしてきた。1960年代のエネルギー革命により、石炭はその王座を石油に譲ることになったが、1970年代の2度にわたる石油危機を契機として、世界的に石炭の見直しの気運が高まった。石炭は埋蔵量が豊富で、埋蔵地域も先進国を中心に広範囲に分布していて供給安定性が高く、また経済性においても優れている。わが国においても、その脆弱なエネルギー需給構造の改善を図るために、石炭は石油代替エネルギーの重要な柱として位置付けられ、安価な海外炭の輸入増大により、その利用の拡大が図られてきた。
現在、わが国は、年間約1億5,000万トン(2000年時点)の石炭を消費しており、日本の一次エネルギー供給に占める石炭の割合は、2000年度約17.9%である1)。2004年10月の長期エネルギー見通しでは、2010年および2030年に石炭が国内の一次エネルギー供給に占める割合はそれぞれ約18.0%、17.0%となる見通しであり、今後とも主要なエネルギー源として位置づけられている2)。
しかしながら、他の化石燃料に比べて、石炭は単位発熱量当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が相対的に多い。地球温暖化、酸性雨等の地球環境問題に対する関心の高まりを背景に、硫黄酸化物、CO2等の発生を抑制する環境調和的利用や発電分野などにおける石炭利用効率向上が求められている。一方、日本では、技術移転目的以外に国内炭の商業生産を行っておらず、石炭のほとんどを海外からの輸入に依存している。アジア太平洋域での石炭需要拡大という状況の中、海外炭のわが国への安定供給確保も重要課題となっている。
このような最近の情勢に対応して、環境調和的な石炭利用技術(クリーンコールテクノロジー、CCT:Clean Coal Technology)の開発や石炭安定供給の維持・強化に向けた環境整備を積極的に推進する必要性が高まってきた。本年1月からは、資源エネルギー庁のもとでクリーン・コール・サイクル(C3)研究会が開催され、6月には中間とりまとめがなされた。科学技術動向月報7月号では、日中間のエネルギー・環境問題を解決するべく中国へ移転可能な技術のひとつとして、CCTの重要性も述べた3)。本稿では、石炭需給動向やCCTの技術概要、日米欧の開発動向ならびに日本におけるCCT推進上の課題をまとめ、今後の政策展望を述べる。石炭の現状について、第2章に、CCTの概要、技術内容に関しては第3章にまとめる。日本、米国、欧州の技術開発動向を第4章に、第5章に今後の課題と政策提言を記す。
ここでは、石炭の特徴と石炭の需給見通し、エネルギー政策における石炭の位置づけについて述べる。
2‐1.石炭の特徴
石炭は、他のエネルギー資源に比べて、独特の資源的・経済的優位性を有する。図表1は、主な資源の確認可採埋蔵量と可採年数を示す。石炭は、他のエネルギー資源に比し圧倒的に巨大な埋蔵量を有す。BP統計2003によれば、可採年数は200年を超えると推定され、長期にわたる安定供給が期待できる。これに対し、石油及び天然ガス、ウランの可採年数は、それぞれ約41年、61年、61年である。
エネルギー価格に関しては、これまで、石油価格と天然ガス価格は乱高下を繰り返しながら連動して変動し、長期的には上昇傾向にある。これに対して石炭価格は、オイルショックをはさんで僅かに高騰傾向を示したものの、この30年間ほぼ一定レベルで安定的に推移している。熱量あたりの価格は石油価格に比べて半分以下で、価格低廉性と長期安定性は、石炭の有する経済的メリットである。
図表2は、化石エネルギー資源の確認可採埋蔵量の地域別分布を示す。石油は、中東地域の埋蔵量が極めて高く、天然ガスは、中東、旧ソ連という2地域に大きく依存しており、資源供給という点で政治的、社会的不安定要因を抱えている。一方、石炭は、アジア・太平洋地域(全体の30%)をはじめ、北米、旧ソ連、欧州等に分散しており、その供給は、政治的、社会的変動に対し安定している。
石炭には、前述のような資源的・経済的メリットがあるが、他の化石燃料に比べて、炭素含有率が高いため、燃焼により発生するCO2排出量が多いという課題もある。単位熱量当たりCO2排出量比は、天然ガス、石油、石炭の順に1.0、1.2、1.5で、石炭の地球環境への負荷が最も大きい。発生したCO2の回収・処分が必要になる。さらに、石炭の燃焼では、大気汚染や酸性雨の原因となる硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)ならびに灰が発生するため、適切な排ガス処理技術や石炭灰の有効利用が必要になる。
また、電力、鉄鋼その他産業分野に利用される石炭は、そのほとんどが、現在、高品位炭(瀝青炭、無煙炭)4)で、図表1からわかるように、確認可採埋蔵量の約半分にすぎない。低品位炭(亜瀝青炭、褐炭)の有効利用も課題である。2‐2.石炭の需給動向
2002年における世界の石炭生産量は、約50億トンで、1980年代からほぼ一定した高い生産レベルが維持されている。地域別にみると、石炭への依存度が高いアジア・太平洋地域における石炭生産量が次第に増大し、特に、2000年からの増大傾向が顕著である5)。これは、同地域における石炭消費量の増大に対応するものである。その他の地域においても、生産量が漸減しているヨーロッパ・ユーラシア地域を除いて、横ばいあるいは増大の傾向にある。
日本を含むアジア主要国の今後の需給見通しでは、図表3に示すように、アジア諸国における石炭の需要は着実に増大する一方、アジア域内需要の大半は引き続き豪州を含めたアジア域内の産炭国により満たされると見込まれている。域内各国とも石炭の需給安定や効率的利用について重大な関心を有する。
図表4は、日本の部門別石炭消費の推移を示す6)。電力部門における一般炭需要が、1991年度以降2002年度まで平均7%の伸びで3,800万トン増加しているのに対して、鉄鋼用の原料炭需要は、1980年度以降概ね6,500万トン前後で安定的に推移している。その他セメントなどの一般産業部門では、多少の増減は見られるものの、平均すると、約2,300万トンの需要を維持している。
日本の石炭供給における海外炭比率は、1980年代80%台で推移したが、輸入炭の増加と国内炭生産減少に伴い、2002年度で99.2%となった6)。図表5に示すように、2002年度において全石炭輸入量の56.5%を豪州一国に依存し、その他の輸入元は、中国の19.1%、インドネシアの12.0%、カナダの5.8%、ロシアの4.3%と続く。上位3カ国からの石炭輸入量は、全体の85%以上を占めている。
この石炭供給の課題のひとつが、豪州、中国、インドネシアにおける石炭輸送インフラ(鉄道、輸出を含めた港湾設備など)である。豪州ニューカッスル港では、2004年3月に、鉄道輸送の問題で50隻以上の滞船が発生した5)。今後の石炭輸出量拡大を考えると、抜本的な石炭輸出インフラの整備、拡張が必要である。2‐3.石炭の位置づけ
上記のような特徴を有する石炭の資源エネルギー政策上の位置づけは、他のエネルギー源と比較した相対的な利点と課題の大きさによって決まる。地球環境問題が進行するにつれて、石炭の環境的デメリットがクローズアップされているが、2‐1節で述べたように石炭は、極めて多くの資源的・経済的メリットを有する化石エネルギーであり、現在はもちろん長期的な将来においても、人類にとって有効なエネルギー資源のひとつである。今後、CCTの技術開発を進めることにより、中長期的には環境にも優しいエネルギー源として、バランスの取れたエネルギー供給構成の中の有力な選択肢となることが期待される。
ここでは、環境と調和したCCTがどのような技術で構成されるのか、その概要と技術内容を述べる。
3‐1.概 要
国内石炭需要については、電力分野と鉄鋼分野が、約4割ずつを占め、それぞれCCTの導入可能性がある。石炭火力発電の電力分野では、2002年度末設備容量が3,377万kW(計78基)に対して、新設計画が約980万kW(平成15年度電力供給計画)、2030年度までのリプレース可能性が設備実耐用年数を40年と仮定して約1,100万kW(現設備容量の約3割に相当)であり、CCTで改良された新しい石炭火力発電プラントの導入が期待できる2)。一方、コークス炉の鉄鋼分野では、2002年度末設備容量が約3,200万トン(計44基)に対して、2030年度までのリプレース可能性が設備実耐用年数を50年と仮定して約3,100万kW(現設備容量の95%超に相当)であり、CCTでエネルギー使用量を削減した次世代コークス炉の導入の可能性がある2)。
CCTは、大きくは以下の4分野に分けられる(図表6参照)。(1)効率向上に資する技術
(2)脱硫・脱硝など環境改善に資する技術(CO2分離回収・固定化技術も含む)
(3)石炭の液化、ガス化、スラリー(液体と固体の懸濁液)化など石炭改質に資する技術
(4)石炭灰の有効利用技術
これらは、CO2や硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)の削減による環境負荷低減、新たな石炭活用の可能性(ハンドリングの向上)、石炭灰の処理などの課題に対応する。CCTには、この他に低品位炭の有効利用技術も含まれる。
3‐2.技術内容
(1)熱効率向上に資する技術
電力分野における熱効率向上に資する技術に関しては、主蒸気温度約540℃、圧力238気圧の(i)超臨界圧微粉炭火力発電技術が既存実用技術で、(ii)主蒸気温度約600℃、圧力241気圧の超々臨界圧(USC)微粉炭火力発電技術や(iii)加圧流動床燃焼複合発電技術PFBC(Pressurized Fluidized Bed Combustion combined cycle)が、ほぼ実用化された技術である。PFBCでは、約10気圧に加圧された流動床内で、粗粉砕された石炭を燃焼させる。
図表7に示される(iv)石炭ガス化複合発電IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)は2010年頃商用化される予定の開発技術で、石炭をガス化して得られるガス化燃料(主に一酸化炭素と水素)とガス化炉で得られる蒸気により、ガスタービン発電と蒸気タービン発電を同時に行い、高い発電効率が得られる。PFBC技術をベースに石炭の部分ガス化などを組み合わせてさらなる効率向上を目指した高度加圧流動床燃焼複合発電(A‐PFBC)技術もある。さらに、IGCCに石炭ガス化燃料を直接利用できる燃料電池を組み合わせた(v)石炭ガス化燃料電池複合発電IGFC(Integrated coal Gasification Fuel Cell combined cycle)は2020年頃と予想されている7)。
1997年の石炭火力発電送電端効率が日本平均で38%であるのに対して、上記(i)〜(v)の効率は、それぞれ、(i)40%、(ii)41%、(iii)42%、(iv)46%、(v)54%となり、(i)から(v)にいくに従って発電効率が向上することがわかる。一方、IGCCの単位発電量あたりCO2発生量を、従来の石炭火力発電、石油火力、LNG火力と比較した結果を図表8に示す8)。CCT導入により、石炭火力発電によるCO2発生量を約24%削減でき、石油火力以下に抑えられることがわかる。
産業分野における熱効率向上に資する技術としては、鉄鋼分野の石炭高度転換コークス製造技術(SCOPE21)などがある。事前処理の導入によりコークス製造工程における一層の省エネルギーを実現し、既存のコークス炉と比べて約2割エネルギーを削減する。(2)環境改善に資する技術
環境改善に資する技術には、石炭燃焼排ガスに含まれるSOxおよびNOxを処理する技術9)や、図表9に示されるように、発電所等の大規模発生源から排出されるCO2を効率的に分離回収し、地中や海中に固定化する技術9,10)などがある。地球温暖化問題の解決に向け中長期的に重要な技術である。分離回収したCO2の応用先としては、油田への注入で原油の生産を増やす石油回収増進法(EOR)への適用が有望視されている11)。
CO2を地中の石炭層内に安定的に吸着・固定化させるとともに、石炭層中のメタンガスをクリーンエネルギーとして回収する技術開発についても基礎的な研究が実施されている。(3)石炭改質に資する技術
石炭改質に資する技術は、石炭をガス化した合成ガスから付加価値の高い化成品原料(メタノール・アンモニア・活性炭等)、自動車液体燃料、家庭用燃料(軽油、灯油、液化石油ガス(LPG)代替燃料としてのジメチルエーテル(DME)等)、水素などを製造する技術である。石炭ガス化技術を核として異業種間の融合的な取り組みから新たなエネルギー・物質生産システムが構築される(図表10参照)。石炭ハンドリング技術に関しては石炭・水混合燃料(CWM:Coal Water Mixture)、コールカートリッジシステム(CCS、Coal Cartridge System)技術の開発が進められている。CWMは微粉砕した石炭と水を7対3の割合で混合、流体化する技術、CCSは石炭を一括粉砕して微粉炭にし、密閉状態で安全輸送し、燃焼灰は一括処理するトータルシステム技術であり、両者とも実証段階の技術である。
(4)石炭灰の有効利用技術
石炭火力発電所から排出される石炭灰の有効利用を高めていくのも非常に重要で、セメント原料、路盤材、土地改良材としての利用は既に行われている。将来的には人工超軽量骨材製造技術、流動床ボイラ燃焼灰利用技術、活性化フライアッシュ製造技術等の実用化が期待されている13)。
ここでは、日本、米国、欧州のCCTの研究開発動向について簡単に述べる。
4‐1.日本の状況
これまでに実施された石炭利用に関する国家プロジェクト成果抜粋14)を技術分野ごとに、テーマ、開発期間、概要、評価及び商業化の有無について図表11にまとめて示す。概算で約3,600億円が投入されている。
熱効率向上分野では、加圧流動床燃焼複合発電技術(PFBC)や超々臨界圧微粉炭火力発電技術が数多く実用化され、特に、発電プラントの大容量化については欧米を凌駕している。石炭部分燃焼炉は、パイロット試験で基礎技術は確立したが、ニーズの低下により、石炭ガス化複合サイクル発電(IGCC)が組める加圧型石炭部分燃焼炉の開発が進められた。
製鉄では、米国からの技術導入を基に、日本独自の高炉羽口部からの微粉炭多量吹き込み技術が実用化され、すべての高炉に適用されている。現在、銑鉄1トン当り130〜140kg使われており、世界のトップレベルにある。
環境改善に資する排煙処理技術、すなわち、(1)石炭ボイラ用脱硫、脱硝技術、(2)活性コークスを使った同時乾式脱硫脱硝技術、(3)高性能脱じん技術などは、すべて実用化され、実機への普及も世界で最も進んでいる。日本のSOx、NOx、煤じん排出量は、1991年には、欧米の排出基準値の1/10以下を達成した。現在の最も厳しい環境保全協定値は、SOx:25ppm、NOx:15ppm、煤じん5mg/Nm3(中部電力・碧南火力)となっている。
石炭改質、特に石炭ガス化に関しては、低カロリーガスを生産し、ガス化複合サイクル発電に利用する技術について、当初、流動床ガス化プロセスの開発が実施されていたが、その後多炭種に対応できる噴流床ガス化プロセスの開発に移行し、200トン/日のパイロットプラントの運転試験が実施された。本試験は1995年に終了したが、現在、250MWのIGCC実証プラントの建設及び運転プロジェクトが進行中である。わが国は、石炭ガス化発電分野において長年の技術の積み上げがなく、欧米に遅れをとっているが、石炭ガス化ガスによる燃料電池、ガスタービン及び蒸気タービンのトリプルサイクル発電の実用化に向けて150トン/日の二段式噴流床ガス化パイロットプラントの運転試験を実施している。高カロリーガスを生産するためのハイブリッドガス化や水素添加ガス化は、経済性が出ずに実用化まで至っていない。石炭液化については、サンシャイン計画の中で瀝青炭液化及び褐炭液化プロジェクトとしてパイロットプラントまで開発が進められ、技術的に世界水準を達成しているが、実用化に至っていない。
石灰灰の有効利用技術については、土木、建築、農業分野等各方面への有効利用技術の開発が実施され、硬化体、土工材、ポゾテック、人工軽量骨材、人工骨材等が実用化された。
今後の日本のCCT開発では、IGCC実証プロジェクト(2008年実証試験開始予定、中国電力三隅発電所で2014年度以降に導入可能性有り)や石炭ガス化燃料電池複合サイクル発電システム技術開発が期待され、さらに、将来技術としてCO2回収を前提とした石炭からの水素製造技術や無灰石炭利用高効率発電システム技術が注目されている。4‐2.米国の状況
米国のCCT実証プログラムは、1985年に米国とカナダとの間で問題となった酸性雨の越境対応として開始された。2005年までに実証プラントの運転試験を実施してCCTの早期実用化を図ることを目的として、次のような分野での開発が進められている。2001年度までに38の実証プロジェクトのうち、29が終了しており、1998年度までに約57億ドルが投入された。
- 先進的発電技術:PFBC、IGCC、A‐PFBC等
- 環境抑制技術:SOx、NOx抑制技術等
- 石炭プロセシング:石炭改質、液体燃料製造プロセス等
- 産業用技術:製鉄等
1980年代のプログラム初期において、SOx、NOxの低減技術実証を重点的に実施、その後IGCCに代表されるような発電の高効率化に取り組んでいる。CCT実証プログラムでは、同様の技術をいくつも取り上げて実証させ、競争力を高めているのが特徴で、さらに、開発したCCT技術を発展途上国に積極的に技術移転しようとしている。2002年には、ブッシュ大統領が、「クリーンコールイニシアチブ」として10年間で20億ドル拠出することも発表した。
一方、2000年には、新たな戦略として、2015年をターゲットに高効率化を目指した「ビジョン21」が策定され、以下のような将来の発電プラントに関する27テーマ(内CO2隔離12)の要素研究を開始した。
- 電力と燃料あるいはケミカルを併産するゼロエミッション設備
- SOx、NOxの超低排出
- CO2排出削減あるいは隔離
- 水素、クリーンな輸送燃料、化成品燃料等のコプロダクションを可能とするモジュール設計
米国DOEの石炭エネルギーに関する政策では、エネルギーのニーズと挑戦に応えるため、“Coal and Power Program”を策定しており、その第一はパワーシステム、第二は炭素の隔離固定、第三は先進的クリーン燃料という3つの大きな柱を掲げている。この政策を実施していくためのプログラムとして、上記「クリーンコールイニシアチブ」や「ビジョン21」を含む6つが実施されている。
4‐3.欧州の状況
欧州では、EU委員会が加盟国共通の利益に基づいてEC全体の研究開発活動を戦略的に推進するためフレームワークプログラムを策定し、その中で技術開発を推進している。1984年から実施されており、1994〜1998年に第4次プログラム、1999〜2002年に第5次プログラムが終了し、現在は第6次プログラムが、2003〜2006年の4年間の計画で実施されている。
CCT関連技術の開発は、第4次フレームワークプログラムのJOULE及びTHERMIEプログラムというエネルギー関連プログラムの中や、第5次フレームワークプログラムのEnergieプログラムの中で進められている。第5次には下記のようなものがある。
- ELCOGASのIGCCプラント実証(継続案件、335MW、プエルトリヤーノ、スペイン):噴流層ガス化炉で、石炭と石油コークスをガス化。灰の融点を下げるため石灰石を投入。
- 先進的微粉炭火力プラント実証(継続案件、40の企業参加):メーカー、電力、金属など40の企業により微粉炭燃焼ボイラの蒸気条件を700℃以上にできる金属材料を開発予定。
- 褐炭燃焼加圧流動床複合発電(PFBC)による熱電併給複合プラント実証(コットバス、ドイツ、71MW):圧力12barの褐炭燃焼PFBCボイラによる熱と電力の供給。
- バイオマス/石炭共燃焼(オーストリア):石炭とバイオマスや廃棄物を一緒に微粉炭燃焼ボイラで燃焼しCO2低減を図る。石炭の3〜5%が置き換えられる。
第6次プログラムの主なターゲットは、(1)エミッションフリーの高効率発電プロジェクト、(2)CO2隔離等の環境対策、(3)エコシステムの開発である。ここでは、CO2対策及びエネルギー安全保障や再生可能エネルギー利用促進に重点が置かれ、欧州は、バイオマスを含む廃棄物利用技術、バイオマスと石炭の混焼技術開発などを実施し、開発技術の発展途上国への技術移転にも目を向けている。2001年9月の米国同時多発テロ事件以来、EU委員会は、エネルギーセキュリティ確保を再度重要視し、エネルギー源として自国の再生可能エネルギー利用を促進すると共に、自国に賦存する褐炭を始めとする石炭を利用した上記@発電技術開発を重視し始めている。
4‐4.中国の状況
中国政府は、第10次5ヵ年計画(2001〜2005年)期間にエネルギー技術を重要な発展領域として着実に推進するために、「973計画」、「863計画」及び「2010年目標計画」というエネルギーの科学技術研究プロジェクトを実施している15)。 CCTに関しては、石炭液化、石炭ガス化、石炭ガス化複合発電、環境低負荷型石炭利用システムなどを中心に研究開発をすすめているが、国外からの技術導入をベースにした開発である。
4‐5.日米欧の競争力比較
上記のCCT動向や文献11をもとに、CCT競争力を日米欧で比較した結果を図表12に示す。
熱効率向上に資する技術に関しては、日本は、燃焼基礎技術や加圧流動床複合発電技術、鉄鋼などの産業用石炭利用技術において、欧米よりも優位にあるが、石炭ガス化複合発電技術分野においては、実証化技術の積み上げが少なく、欧米に遅れをとっている。
一方、環境改善技術では、脱硫、脱硝分野で、世界トップレベルにあり、欧米を凌駕している。CO2分離・回収・固定化技術分野では、実用技術で欧米が強い。石炭ガス化、流体化、合成燃料技術も欧米が優位であるが、DME(ジメチルエーテル)製造では、日本がすすんでいる。石炭間接液化燃料製造では、石油輸入が困難であった歴史的背景から南アフリカ共和国のSASOL社が優位である。石炭直接液化技術は、日米欧ともパイロットプラント試験で基礎技術は確立したが、経済的に見合わず、現状、どこも実用化に至っていない。
米国及び欧州のCCT開発においては、石炭ガス化複合発電高効率化とCO2分離・回収・固定化という競争力を持つ分野が重視されている。日本でも、石炭火力の効率を飛躍的に向上させるには、石炭ガス化技術の実用化及びトータルシステムとしての石炭ガス化複合発電システムの実用化を目指す必要がある。また、CO2回収型の発電プロセス、CO2回収・隔離に関する技術開発も進めていくことが重要である。
5‐1.課 題
石炭は、世界においても、また、日本においても、これまで同様一次エネルギーの大切な柱のひとつとして位置づけられている。第3、4章でも一部述べたが、今後環境にやさしい石炭利用を推進するには、以下のような課題がある16)。
(1)エネルギー利用高効率化、CO2削減による地球温暖化対策
- 石炭利用発電システムのさらなる高効率化、低コスト化によるCO2削減
- 産業融合化による大幅な高効率化(石炭からのエネルギー・化学原料併産をコア技術)
- 石炭からの高効率水素製造およびCO2回収・隔離ならびに低コスト化
- バイオマス・廃棄物との混合利用によるCO2低減
(2)環境負荷低減対策
- 石炭燃焼で発生する石炭灰の処理・利用
- NOx、SOx、煤じん等の排煙処理技術のさらなる向上と低コスト化
(3)国際協力の必要性
- アジアの環境保全に貢献する、アジア地域への技術移転
- 京都メカニズム(注1)、特に、クリーン開発メカニズム(CDM)(注2)の活用
(注1)京都議定書で、排出削減目標達成に向けた自国での排出削減努力を補足するものとして導入された柔軟性措置。国際的協調による取り組みが可能で、(1)共同実施、(2)クリーン開発メカニズム、B排出量取引の3つがある。
(注2)Clean Development Mechanism。京都議定書に掲げられた排出削減の数値目標をもつ先進国と数値目標をもたない中進国・途上国との間で、温室効果ガス削減プロジェクトなどの共同の事業を実施し、削減分を参加国が譲り受けることを認める制度。中進国・途上国にとっては、先進国の投資を通じて、自国の環境対策推進や技術移転といったメリットがあると考えられている。
(4)石炭安定供給のための環境整備
- 産炭国における炭鉱開発、石炭輸送インフラ整備5)
- 需給見通しに関する産炭国、消費国との情報共有
- 低品位炭の改質有効利用
5‐2.政策提言
上記のような課題を踏まえ、環境調和的な石炭利用に関する技術開発を積極的に推進する取り組みとして、まず、下記を提言する。
[1]石炭ガス化を軸とするCCTの積極開発と実用化、低コスト化
環境にやさしいCCTによって、石炭の最大の課題である環境負荷問題は克服可能であり、政府のイニシアチブのもとに下記を重点予算化、推し進める。
(1)2010年までに、石炭をガス化して低コストで効率的に発電する技術開発を重点加速化し、信頼性向上、発電効率向上を目指す。また、石炭灰の有効利用技術開発を推進する。
(2)2015年までに、石炭ガス化発電と燃料電池との複合発電技術開発を通してさらなる発電効率向上を目指す。
(3)2020年までに、二酸化炭素(CO2)分離回収・固定化による温暖化ガス排出低減を目指す。
(1)、(2)は、産学官連携の国家プロジェクトで実施する。特に、(2)では石炭ガス化先端技術開発と実用化技術開発のギャップを埋めるべく、商業化へのロードマップに即した技術開発中間評価を厳格化したプロジェクトを導入し、達成時期と目標性能、目標コストを明確化した評価プログラムを採用する。
さらに、日本が石炭を安定して利用していくには石炭供給に関する産炭国との環境整備が重要であり、その取り組みとして下記を提言する。[2]石炭の安定供給確保
石炭の最大の利点である価格の低位安定性を中長期的に確保するため、産炭国における炭鉱開発、石炭輸送インフラ整備調査の強化や政策金融の機動的な運用等を通じ、炭鉱開発・インフラ整備を促進する。また、産炭国との政策対話を通じて、資金供給を円滑化する貿易・投資環境整備を2国間で行う。
日本では、わが国需要の大部分を占める高品位炭の需給を緩和するため、アジアの低品位石炭を高品質化する技術開発を国として重点推進する。
さらに、APEC(アジア太平洋経済協力)やASEAN(東南アジア諸国連合)+3(日・中・韓)などのもとに、日本が主導して、国際ネットワークとしてのアジア石炭フォーラム(仮称)を設営・運用し、アジア域内の石炭需給見通しやCCT普及策に関する情報を交換・共有する。
今後、20〜30年にわたり、1次エネルギーの約2割を環境にやさしい石炭利用で賄っていくには、CCT関連人材の供給も必要不可欠であり、その取り組みとして下記を提言する。[3]中長期的人材育成
9地方に1つずつぐらいの割合の大学・大学院で、複数の専攻にまたがったCCT関連の教育プログラムを設け、中長期的に人材育成を行う。大学院のプログラムでは、将来の受け皿となる企業などでの実務インターンシップ研修を必修とし、技術成果の社会への還元を学ばせる。CCT先進技術や石炭科学のベースをもち、知識の構造化、体系化、新しい技術の提示、実用技術との対応性が理解できる人材を、大学・大学院から輩出する一方、企業におけるCCT関連実務現場教育プログラムも充実させ、CCT分野における日本の国際競争力強化につなげる。
今後、世界のエネルギー需要増大、特に、アジア諸国の需要増大が予測される中で、エネルギー市場は、価格競争力、安定供給、環境対策の3つのバランスで、燃料を選択していく。
石炭利用の利点は、歴史が示すように価格競争力と埋蔵地域分散性にある。しかし、地球温暖化問題を背景に、高い環境負荷をいかに抑えるかが大きな課題としてクローズアップされ、近年、環境に調和する石炭利用技術(クリーンコールテクノロジー、CCT)の開発や、石炭安定供給の維持・強化に向けた環境整備を積極的に推進する必要性が高まってきた。本稿では、石炭需給動向やCCTの技術概要、日米欧の開発動向ならびに日本における石炭利用の課題をまとめ、今後の政策展望を述べた。
本稿をまとめるに当たり、日本エネルギー学会長の持田勲九大特任教授、財団法人電力中央研究所エネルギー技術研究所の牧野尚夫上席研究員、電源開発株式会社技術開発センターの新井康夫センター長代理、新日本製鐵株式会社技術開発本部環境・プロセス研究開発センターの汐田晴是部長、原料第一部の末松正彦グループリーダー、株式会社クリーンコールパワー研究所の長井輝雄取締役のご意見もご参考にさせていただきました。ここに深く感謝致します。
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10)http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g40317b40j.pdf
11)本命技術、「二酸化炭素の分離・固定」、日経エコロジー、p.138‐141、2004年7月号
12)http://www.enecho.meti.go.jp/hokoku/html/16013253.html
13)http://sta-atm.jst.go.jp/atomica/01040204_1.html
14)財団法人石炭利用総合センター報告書、「21世紀石炭技術開発戦略の展開」、2003年3月
15)Yusheng XIE, Shufeng YE, Kuniyuki KITAGAWA, and Kali WANG, 「The Developing Strategy and Research for Chinese Energy Resources」, ,J. Jpn. Inst. Energy, Vol.83, 207‐211(2004)
16)原田道昭、「石炭利用技術開発の課題と今後の戦略」、J. Jpn. Inst. Energy、Vol.82、No.11、 2003.