総括ユニット 辻野 照久
中国は2003年10月に有人宇宙船「神舟5号」の打上げ及び回収に成功し、米ロに次ぎ世界で3番目の有人宇宙船打上げ国となった。その背景には中国が過去40年にわたり宇宙を目指して着実な成果を積み重ねた技術的実績だけでなく、科学技術体制の刷新など社会体制の急速な変容がある。持続的な経済発展政策の下で、今後も特に有人宇宙飛行の分野で意欲的な研究開発や運用が行われると見られる。本稿では、活況を呈する中国の宇宙開発の背景にある組織体制、過去の成果や今後の展望を分析するとともに、中国の主要な宇宙技術研究機関が発行している論文集に着目し、テーマの広がりや著者の地域的分布などから中国の宇宙技術研究動向の一断面を紹介する。
中国の宇宙開発体制は、以前は航天航空工業部(省に相当)が中心であったが、1993年6月に国務院直属機構である国家航天局(CNSA)が設立され、また宇宙活動の実施部門は政府から切り離されて、国営企業である中国航空航天総公司に移管された。その後再編成や名称変更を経て、現在は図表1に示すように、CNSAは国務院直属機構ではなくなり、国防科学技術工業委員会(COSTIND)の傘下となっている。また中国航空航天総公司は中国航天科技集団公司(CASC)と中国航天科工集団公司(CASIC)に分かれている。
CASCは有人宇宙船や静止衛星など中国の宇宙活動の中心となる宇宙機の研究開発及び製造を一手に引き受ける宇宙に特化した企業であり、傘下に中国長城工業総公司(CGWIC)などの重工業メーカーや中国空間技術研究院(CAST)及び中国ロケット技術研究院(CALT)などの研究機関を擁している。今回着目した論文集はCASTが発行したものである。
一方、打上げロケットにより衛星の打上げを担う組織は、国家中央軍事委員会直属の人民解放軍総装備部の傘下に中国衛星発射測控系統部(CLTC)があり、西昌・酒泉・太原の3箇所の打上げ基地(発射中心)と追跡管制センター(衛星測控中心)を擁している。
宇宙関係の研究機関としてはこの他に国務院直属事業部門である中国科学院(CAS)傘下の遥観(リモートセンシング)応用研究所や、科学技術部(MOST、省に相当)傘下の国家遥観中心(リモートセンシングセンター)などがある。
《略語》
CALT:China Academy of Launch Vehicle Technology
CAS:China Academy of Science
CASC:China AeroSpace Corporation
CASIC:China Aerospace Science and Industry Corporation
CAST:China Academy of Space Technology
CGWIC:China Great Wall Industry Company
CLTC:China satellite Launch and Tracking Control General
CNSA:China National Space Administration
COSTIND:Committee on Science and Technology Industry for National Defense
ESA:European Space Agency
MOST:Ministry of Science & Technology
MTCR:Missile Technology Control Regime
NSG:Nuclear Suppliers Group
SSTO:Single Stage To Orbit
3‐1.中国の衛星打上げの実績
中国の最初の打上げ(1970年)から最近(2004年4月)まで、主に長征ロケットにより打ち上げられた中国衛星の状況を図表2に示す。この間に所定の軌道への投入に成功した中国衛星は60機である。
2000年以降、ミッションの種類が大幅に増えていることがわかる。なお、中国が所有する衛星としては、この表に示した以外に長征ロケットまたは外国ロケット(米国のアトラスなど)で打ち上げられた香港企業が所有する商業通信衛星やロシアのコスモスロケットで打ち上げられた小型衛星等がある。
次に長征ロケットの打上げ数を射場別に見ると、図表3に示すように静止衛星を打ち上げる西昌(XiChang)から36機、極軌道衛星を打ち上げる太原(TaiYuan)から15機、低軌道周回衛星を打ち上げる酒泉(JiuQuan)から25機となっている。このうち打上げ失敗(部分的失敗も含む)回数は8回で、長征(ChangZheng)ロケット全体の成功率は89.5%である(失敗回数を7.5回として90%とする場合もある)。96年8月の失敗以降は、2004年4月まで34回連続で打上げに成功している。
中国の打上げロケットを他国のロケットと比較するために、図表4に主要なロケットの打上げ成功率の推移を示した。同じ条件で比較できるように、各ロケットの打上げ機数10機ごとの時点での打上げ成功率を示した。中国のロケットは、欧米のロケットと同様に、初期の数回の失敗を克服して成功率を高めてきていることが分かる。
3‐2.これまでの衛星ミッションの概要
(1)回収式衛星
中国では返回式(FanhuiShi)衛星すなわち回収式衛星を1975年以来2003年11月までに18機打ち上げており、ミッションは写真撮像(フィルムを回収)と微小重力実験(材料科学及びライフサイエンス試料を回収)である。微小重力実験は自国だけでなく、フランスやドイツの実験も行っている。軌道離脱時にレトロエンジンで減速してパラシュートで降下する方法はロシアのソユーズと同じである。有人宇宙船「神舟(ShenZhou)」の実現にはこの回収式衛星の経験が相当活用されていると思われる。
回収式衛星のミッション期間は技術的進歩により当初3日から15日に延長された。回収式衛星は太陽電池を備えていないので、1次電池の容量増大により実現したものと思われる。
18機の回収式衛星のうち、1機は回収に失敗した。1993年に打ち上げられた回収式衛星15号機「尖兵(JianBing)」は、軌道離脱時に地球に再突入するように噴射すべきレトロエンジンを、地球から遠ざかる方向に噴射したため、制御不能の軌道に入ってしまい、世界各国は大気中で燃え尽きない宇宙機がどこに落下するか予想がつかないという危機に見舞われた。最終的に南太平洋に突入して被害はなかったが、その直前に日本上空を数回飛行していた。
(2)地球観測分野
気象観測衛星は極軌道の「風雲(FengYun)1号」を4機、静止衛星の「風雲2号」を2機打ち上げている。また、ブラジルと共同で開発した「CBERS」(中国・ブラジル地球観測衛星)から発展して、「資源(ZiYuan)」、「海洋(HaiYang)」などの地球観測衛星が最近続々と打ち上げられている。これらの衛星は比較的小型であるがマルチバンドCCDカメラなど複数の観測機器を搭載している。
また、2003年12月、欧州宇宙機関(ESA)と共同開発の地球環境観測衛星「探測(TanCe)1号」を赤道軌道に打ち上げた。極軌道の2号機と合わせて「双星(ShuangXing)」とも呼ばれる1)。2004年4月には科学技術部とESAによるシンポジウムが開催され、ESAが提供する環境観測衛星ENVISATのデータを利用して水害・空気汚染、森林、海洋、水資源などの研究を行う「龍計画」が開始された2)。
(3)通信放送分野
中国独自の静止通信衛星としては、1984年から「東方紅(DongFangHong)2号」、同2号甲、同3号と打ち上げており、中国の宇宙機開発技術と衛星通信利用技術の発展に貢献したと中国国内で評価されている。「東方紅3号」は中継器(トランスポンダー)を24本搭載し、三軸姿勢制御方式の本格的な静止通信衛星である。1994年に打ち上げられた1号機は、その翌年に燃料漏れで運用を中断したものの、1997年に打ち上げられた2号機は、既に7年間運用されている。なお、設計寿命は8年である。
中国では、携帯電話が毎月500万件加入契約されるなど、通信需要が急速に伸びており、衛星通信についても中国が独自に打ち上げる通信衛星だけでなく、外国衛星の新規購入、外国企業所有衛星のリースあるいは所有権を移動する軌道上承継など衛星ラインナップの充実を積極的に行っている。
(4)測位分野
全球位置決めシステム(GPS)で使われる衛星は現在米国のNAVSTARとロシアのGLONASSがある。さらに、欧州がガリレオ計画を推進しようとしている。中国は独自の航法衛星として静止衛星「北斗(BeiDou)」を3機打ち上げている。この衛星の諸元は公表されていないが、静止位置は東経80度、110度及び140度にあり、道路交通、鉄道輸送、海上作業におけるナビゲーション業務に用いられている。静止衛星の場合、周回衛星と異なり衛星位置情報を送信する必要がないので、システムはかなり異なったものとなる。またこれらの衛星だけで位置決めを行うことはできないと思われる。
(5)有人宇宙船
1999年に最初の試験機「神舟」を打ち上げ、2002年までにさらに3機の試験機を打ち上げて、有人打上げの準備を完了した。2003年10月に最初の有人宇宙船を打ち上げ、回収に成功した。中国初の宇宙飛行士となった楊利偉(38歳)は人民解放軍宇宙飛行士大隊に所属する上校(大佐)である。
なお、「神舟5号」には、軌道周回モジュール、地上帰還カプセル、推進モジュール、附加部分の4つのモジュールがある。そのうち、地上帰還カプセル切り離し後に引き続き軌道上で宇宙環境計測実験を行う軌道周回モジュールについては、約6ヶ月にわたり周回飛行を行い、本年3月までに実験を完了させた3)。
(6)技術試験衛星
2004年4月に打ち上げられた「納星(NaXing)」は清華大学が開発した25Kgの超小型衛星で、「納」とはナノを意味する。CMOSカメラで地形をスキャンし、高解像度の立体地図作成を試みるものである4)。この他、「創新(ChuangXin)」、「試験(ShiYan)」などがある。
中国空間技術研究院の徐福祥は、宇宙開発の長期的展望として、宇宙技術と宇宙応用が産業化及び市場化され、宇宙資源の開発利用により経済力向上、安全保障、科学技術の発展など幅広い要求を満たすようになるとしている5)。各種の機能と軌道を組み合わせた多様な衛星システムにより宇宙インフラストラクチャーを整備し、宇宙と地上が一体となったネットワークシステムを構築することを目標としている。このような展望の下で、当面はいくつかのミッション及び衛星技術開発が進むものと見られる。
4‐1.ミッション別の発展目標
最近の人民日報、北京週報、中国新聞などを見ると、さまざまなミッションの将来計画が盛んに報じられている。
(1)地球観測衛星
欧州宇宙機関(ESA)と共同開発の地球環境観測衛星「探測2号」を7月末に極軌道に打ち上げる予定である6)。ブラジルと共同で打ち上げる資源探査衛星「CBERS」も定常運用を目指して3号機、4号機を打ち上げる計画がある7)。今後も科学技術部傘下の国家リモートセンシングセンターを中心に、各種の地球観測衛星データを活用して安定した観測の実施を目指すものと思われる。
(2)通信放送衛星
現在、2005年打上げに向けて「東方紅4号」の開発を進めている。「東方紅3号」より中継器数が大幅に増え、Cバンド(電話用)38本とKuバンド(TV放送用)16本となる予定である。また設計寿命も15年と2倍近く長くなる見込みである8)。
(3)衛星測位システム
中国は自国の静止航法衛星「北斗」に加えて欧州のガリレオ計画への協力を開始している。2004年6月に米国と欧州が測位衛星での協力に合意したことで中国を含め、世界的に測位衛星利用が加速すると思われる。
(4)有人宇宙飛行と微小重力実験
2005年に2名の搭乗人員による数日間の宇宙飛行を計画している。2006年頃には3名で数日間の宇宙飛行を目指している。現在14名の宇宙飛行士候補者が訓練を受けているところである9)。今後は有人宇宙船において、これまで無人で行われていた宇宙材料科学、ライフサイエンスなどの科学実験が宇宙飛行士の支援を受けて行われるようになると予想される。
(5)宇宙環境計測
2004年6月、中国科学院は2011年までに高度700km、50,000km、150,000kmの異なった軌道に1回の打上げで同時に3個の太陽風観測衛星を投入する計画を発表した。これまで米・ロ・欧・日が共同で行っていた太陽地球系物理学国際共同観測計画(ILWS)に加わり太陽風などの宇宙環境計測を行おうとしている。
(6)深宇宙探査
2004年2月、国防科学技術工業委員会は月面探査機「嫦娥(ChangE)1号」について、2006年12月の打上げを目指すと発表した10)。1号機は外国との協力は行わない方針で、すべて国産品により、観測機器の製造及び試験まで既に完了したという。2号機以降は外国との共同開発も考慮している。2010年頃までに月面ローバを着陸させ、2020年までには帰還段階を実施し、将来的にはヘリウム3などの有用資源を採取してエネルギー源とすることまで考えている。2号機以降の中国の月探査計画に対し、米国や欧州も関心を寄せている。
月より遠い深宇宙探査ミッションはまだこれからであるが、既に火星探査機を2020年までに打ち上げることを表明している。長期的には世界の宇宙科学の領域で相対的に重要な地位を占めるようになり、特色のある研究を展開することを目標としている。
4‐2.衛星開発の技術的目標
中国が考えている、衛星ミッションに共通する技術的な開発目標を以下に列挙する5)。
- 衛星搭載のミッション機器の技術を優先的に発展させること。
- 衛星の共通プラットフォームを発展させること。静止衛星、極軌道衛星、回収式衛星など衛星シリーズに応じて数種類のプラットフォームから選択することにより、衛星の開発期間を短縮し、コストを下げ、信頼性を向上させるなど。
- 衛星全体の最適化設計、高精度の姿勢制御、新しい太陽電池技術、宇宙マイクロエレクトロニクス技術、宇宙データ安全技術、衛星自律航行、宇宙軽量構造及び機構、大型展開式およびマルチバンドアンテナ、先端的な宇宙用冷凍機など。
- GPSや通信放送など衛星応用技術の研究開発を強化すること。
4‐3.アジア太平洋諸国に対する衛星取得データの提供
2004年4月、中国国家航天局長の栾恩杰は第60回アジア太平洋経済社会会議(ESCAP)において、中国が有する小型地球観測衛星群(コンステレーション)の観測データを災害時の被害低減などの目的でアジア太平洋の発展途上国に提供する意向であることを表明した。中国は2003年だけで、自然災害により年間2億人が被災し、損害額は1,800億元以上に達するという11)。そのような被害を減少させるため、宇宙技術による取得データを積極的に活用しようとしている。ここ数年間で急速に発展した中国の宇宙開発活動により、中国は既に「持てる国」となっており、自国の減災対策だけでなく、周辺のアジア太平洋にも恩恵を及ぼそうとしている。
以上に述べてきた中国の実績や今後の展望の裏に、どのような技術研究の裏付けがあるのかを知る必要がある。以下にその一断面を分析した結果を示す。
5‐1.技術分野別の概況
「中国空間科学技術」誌(中国空間技術研究院発行)は内容的に中国でも最先端の宇宙関係論文の発表媒体であると思われる。1981年から刊行されており、昨年は隔月刊で6回発行されている。これを見ると、中国の各地においてどのような研究が行われているかの一端を知ることができる。
2003年に刊行された6冊の同誌には71報が掲載されており、その分野の分布状況を図表5に示す。
以下に個別の論文から興味深い研究内容をいくつか紹介する。
(1)単段式宇宙輸送システム(SSTO=单级入轨)用エンジンのパラメータ最適化
単段式宇宙輸送システムとは、1段式のロケット自体で衛星を軌道に投入し、機体を完全に元のままで地上に回収する打上げ手段をいう。西北工業大学(陝西省西安市)の谭松林(37歳)らの研究で、打上げ・回収方式として垂直離陸・水平着陸(VTHL)を考えている。水平着陸のためには主翼などが必要で、重量は1,007t、推進力は石油系・液体水素(液氢)の2種類の推進剤と液体酸素(液氧)を用いる推力200tのトリプロペラント・エンジン(三组元发动机)を7台装備するものとしている。トリプロペラント・エンジンは米国の企業で考案され、空気密度の濃い地上付近は石油系燃料を用い、高空では水素を燃料にすることで効率よく総合推力を得ようとするものである。機体、タンクなど各部の質量や、推力、燃焼時間、燃料切り替え時期などを変数として最適化設計を行い、低軌道(LEO)に15tの衛星投入が可能となるパラメータを見出したとしている12)。
(2)有人機の宇宙ランデブー
2機以上の宇宙機が宇宙空間で接近する宇宙ランデブーは、中国ではまだ実際に行ったことはないが、将来的には独自の宇宙ステーションに有人宇宙船や物資補給船などをランデブー・ドッキングさせる可能性がある。北京航空航天大学(北京市)の朱人璋(62歳)らは、有人宇宙機の宇宙ランデブー(空间交会)における接近時の加速・減速に関する研究を行った。チェイサー衛星(追踪卫星)から見てターゲット衛星(目标卫星)に近づいた時に、宇宙飛行士の視界角(航空機の着陸時の迎角に相当)を小さくするようにエンジンの噴射法を検討しているところがユニークである13)。
(3)有人宇宙船におけるヒューマンエラーの分析
上海交通大学(上海市)の周前祥(34歳)らは、中国の有人宇宙活動が今後長時間化することを前提に、米国のアポロ宇宙船や旧ソ連のソユーズ宇宙船などで発生したヒューマンエラーを分析し、今後の宇宙機設計で対策を講じるように提言している14)。
まず宇宙活動におけるヒューマンエラーの実例や発生時期の統計などを紹介し、次に人間の認識過程や注意力について評価し、ヒューマンエラー防止対策としてマンマシンの役割分担、ディスプレイの応答時間などの検討を行っている。宇宙飛行士が作業をすることはどうしても必要であるが、ロボットや人工知能などの「助手」との分担を最適化して、宇宙飛行士にはできるだけ高度な判断業務をさせるべきだとしている。
注目される点としては、宇宙飛行士の隣に「陌生(見知らぬ人)」が乗る場合の空間隔離などの検討を行っている点である。これは今後行われる3名での宇宙飛行において、軍の同僚である宇宙飛行士だけが搭乗するのではなく、何らかの目的で一般人を搭乗させる可能性があることを示唆している。
本論文自体に技術的に目新しい点はないが、中国は有人宇宙飛行でミニマム必要なこと以上に信頼性向上につながる研究をしているように思われる。
(4)ウエーブレット変換
近年、時間情報と周波数情報の両方を同時に解析できるウエーブレット変換(小波变換)がいろいろな用途で用いられている。国防科技大学(湖南省長沙市)の钟平(24歳)らは、雑音の多い画像データから意味のある輪郭を見出すために、ウエーブレット変換を適用する研究を行い、ソーベルフィルタなど従来の解析手法に比べてより詳細な輪郭図が得られることを示した15)。
大学院生の論文とはいえ、軍関係の研究機関から偵察に直結する画像解析技術に関する研究内容を公表することは珍しいと思われる。
5‐2.著者所属機関の分布
著者の所属機関について、掲載数の多いトップ5機関を図表6に示す。
トップ5で全体の約6割を占めている。最も掲載数が多い機関は人民解放軍傘下の国防科技大学である。本論文集の発行機関である中国空間技術研究院(CAST)は2位である。第3位から第5位の3大学はいずれも国防科学技術工業委員会直属大学であることは注目に値する。第6位以下に含まれる北京大学など多くの大学は教育部(省に相当)に属する。
CASTは軍の組織とは一線を画しているが、実務的な研究の現場においては、軍民両用(デュアルユース)以上に密接な産学軍連携を行っていることが窺える。
軍関係の大学の研究内容を見ると、ロケット打上げなどに関係する誘導制御や情報処理のみならず、早期警戒衛星に関連した地球観測技術や衛星機構部の研究まで非常に幅広く行われていることが分かる。
5‐3.引用文献の分析
71報のそれぞれに引用されている参考文献を分類した結果を図表7に示す。
中国国内の文献引用は約200件で、国内雑誌掲載論文と書籍等の出版物からの引用がほぼ同数である。
外国論文からの引用の中で特に多いものとして、IEEE(米国電気電子技術者協会)52件、AIAA(米国航空宇宙学会)30件などがあり、NASAレポートも7件含まれる。著者が日本人である引用文献は見あたらなかった。
過去には中国の宇宙技術は旧ソ連から入手したものが多かったと見られるが、最近は米国などへの留学生が多数帰国して研究に従事するようになり、技術革新が著しい欧米の最新情報に注目しているものと思われる。
中国は科学技術体制の刷新に着手し、国営企業の旧弊を改め、持続的な経済的発展を目指す政策を掲げている。さらに貿易管理制度の整備も積極的に進めている。中国の宇宙開発が急速に発展している背景に、中国の社会体制の急速な変容があることは見逃せない。以下にいくつかの動きを紹介する。
(1)科学技術体制の刷新
2003年8月、中国科学院科技政策局の沈华は東京において中国の科学技術体制を刷新する旨の講演を行った16)。その中で、2010年までに国家の研究機構の最適化に向けて全面的に改革を推進し、80箇所程度の研究基地を整備するとの目標を掲げた。それに伴って、優秀な人材を吸引する施策を実施するとともに、人事制度面で業績に見合った待遇や競争的な選択を行うなど、人材の積極性を引き出すような評価システムを導入するとしている。
(2)国営企業の弊害除去
国営企業において国家経済発展上の弊害となっている既得権益のことを「三鉄」という。三鉄とは、「鉄飯碗」(倒産することがない)「鉄工資」(賃金保証)「鉄交椅」(終身雇用)のことで、宇宙分野の国営企業もかつてはこのような弊害を有していたと思われるが、昨今では既得権益を失っていく人々の悲鳴が我が国でも人づてに聞かれることから、現実に改革が進んでいることが察せられる。
(3)持続的な経済発展
急速に発展する国内経済に対して、国内からも他の国からも、エネルギー、水、食糧などの資源の制約で成長の限界という壁にぶつかることが懸念されている。農村部人口が大幅に都市部へ移動することで、エネルギーなどの主要問題はいっそう深刻な課題になると思われる。これに対し中国政府は、持続可能な経済成長を図ることを国家戦略として、機会あるごとにさまざまな政策誘導を行っている。地球観測・測位などの宇宙技術の利用がいっそう必要になると思われる。
(4)新しい貿易管理体制
2004年1月1日より外国貿易法などに基づき、商務部と海関総署の連名で「機微品目及び技術輸出許可証管理目録」を施行した。これにより原子力供給国グループ(NSG)やミサイル関連技術輸出規制(MTCR)に加盟するために必要となる国内法の整備が行われたことになる。続いて、5月にスウェーデンで行われたNSG会議において、中国のNSG加盟が実現した。さらに、中国は6月にMTCR加盟の意思を公式に表明した。加盟が実現すれば、ミサイルや再突入機の製造に直結する技術であっても、許可を受けて日本から中国へ輸出したり、逆に中国から日本へ輸出することもできるようになる。
約40年にわたる中国の宇宙開発活動の実績、現在の組織体制、今後の目標、背景にある社会の変化などを概観した。特に近年において、有人宇宙飛行の実現に象徴されるように、急速に発展する国家経済の中で宇宙開発や宇宙利用が目に見える形で効果を発揮し始めていると感じられる。
衛星ミッションの種類が急増しており、月探査や宇宙環境計測など、これまで実績のない分野でも新しいプロジェクトがハイペースで進んでいる。宇宙輸送については長征ロケットが連続成功していることから、打上げ成功率が90%台に達するものと思われる。
国際協力は既にブラジルとの間で地球観測衛星の共同製作・打上げを行った実績があるが、今後は欧州連合(EU)との協力が目立ってくると思われる。国際貢献の面では、自国の宇宙技術の成果をアジア太平洋諸国にどのような形で利用させるかが「持てる国」中国の課題となると思われる。既にアジア・太平洋諸国に対して中国の小型地球観測衛星群により減災のための情報を提供することを表明するまでになっている。
また、宇宙開発に関する研究論文を通じて、中国では米・ロ・欧・日に伍して独自の宇宙開発・宇宙利用研究が幅広く行われており、特に有人宇宙飛行の分野で他国にも増して意欲的な研究が行われているという感触が得られた。SSTOのような革新的な輸送システムが実現に向けて動き出せば、世界の宇宙開発に大きなインパクトを与える可能性がある。
中国の宇宙開発分野における発展は技術力の向上だけでは説明しきれない。その裏には、科学技術研究体制における人事制度の改革、国家全体の持続的経済成長路線の維持、貿易管理制度の整備など、20世紀末に比べて社会体制が顕著に変化しているという背景がある。
我が国は中国の宇宙開発における最近数年間の急速な発展を横目で見ているだけではなく、中国の研究開発動向や社会体制の変化から何か学び取るべきものがあるという眼で見る必要がある。
本稿をまとめるにあたり、政策研究大学院大学の角南篤助教授及び宇宙航空研究開発機構国際部、総合技術研究本部その他複数の関係者に助言や討議をいただきました。ここに厚く感謝の意を表します。
1) 「双星計画」初の衛星、年内にも打上げ:北京週報2003年49号:http://www.pekinshuho.com/JP/2003.49/200349-week6.htm
2) 中国・ESA遠隔探査分野の最大規模協力プロジェクト「龍計画」始動:東方ネット2004年4月28:http://jp.eastday.com/node2/node3/node15/userobject1ai8918.html
3) 「神舟5号」:軌道モジュール実験で、研究に成果/中国情報局(サーチナ)2004年3月16日:
http://news.searchina.ne.jp/2004/0316/national_0316_007.shtml
4) 小型衛星打ち上げ成功 理工系2大学が科学実験用で/中国:日本工業新聞、2004年4月20日
5) 徐福祥「中国航天器工程的成就与展望」中国空間科学技術2003年第1期pp1〜6
6) 中国「探測2号」、7月末に打ち上げへ/日中グローバル経済通信、2004年6月30日:http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/jp/mech/316170
7) 中国・ブラジル、3、4基目の資源探測衛星を開発へ/人民網日本語版:http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/biztech/mech/310152
8) 通信衛星「東方紅4号」技術問題をすべてクリア/人民網日本語版、2003年7月3日
9) 「神舟6号」飛行士チームを選抜、春節後に訓練開始/人民網日本語版、2003年12月19日
10) 月面探査、2007年までに衛星打上げへ/中国情報局(サーチナ)、2004年2月26日
11) 中国承认利用其空间技术资源幇助亚太国家減灾 中华人民共和国科学技标部>动态与要闻:http://www.most.gov.cn/dtyyw/t20040429_13327.htm
12) 谭松林他「用于单级入轨的三组元发动机参数优化」中国空間科学技術2003年第3期pp19〜26
13) 朱人璋他「空间交会V-bar接近冲量机动运动分析」中国空間科学技術2003年第3期pp1〜6
14) 周前祥他「载人航天中人的失误分析及研究对策」中国空間科学技術2003年第6期pp52〜57
15)钟平他「基于小波变换的含噪图片的自适应边缘提取」中国空間科学技術2003年第5期pp45〜50
16) 講演資料「中国国家创新体系建设与中国科学院」、2003年8月、中国科学院科技政策局
