[特集2]

エネルギー・環境分野における日中技術協力動向と今後の展望
―地球環境問題とエネルギー安全保障の観点から―

環境・エネルギーユニット 大平 竜也


1.まえがき

 21世紀の国際社会において、エネルギー・環境・経済に関する3E(Energy Security,Environmental Preservation,Sustainable Economic Growth)問題の同時解決は、地球的規模で人類が取り組むべき最大の課題である。冷戦終結後の世界経済において、情報技術(IT)の進展などを背景にグローバル化が急速に進展し、高い経済成長を遂げたアジア諸国は、世界のエネルギー需給において大きなインパクトを持つようになってきた。今後も引き続き高い経済成長が見込まれ、エネルギー需要も急速に増大していくことから、アジア地域が将来、地球環境負荷に大きなウェートを占めることが確実視されている。中でも中国は、2020年にアジアの1次エネルギー消費の約45%、アジアのCO2排出量の約50%を占めると予測され1)、硫黄酸化物や窒素酸化物の大気汚染問題も隣国の日本への影響を含め深刻である。日本としても3E問題の解決に向けて、エネルギー安定確保とエネルギーに関わる環境問題を中国と協調しながら解決することが極めて重要である。

 中国においては、改革開放路線下の目覚しい経済発展の裏で、電力不足、資源の浪費やそれに伴う環境破壊が深刻化している。このままでは、今後の経済社会の発展にとって重大な制約要因になりかねないとの危機感があり、持続可能な発展戦略の一環として、経済発展モデルの転換を視野に入れた「循環経済」の実現に取り組みつつある。この実現は、地球環境保全の観点からも強く要請され、環境技術に力を入れてきた日本の協力も今後一層期待されている。

 日本は、中国へのエネルギー・環境分野における技術協力を、政府開発援助(ODA)で実施してきた。技術協力事業を行う法人は、国際協力事業団(JICA)の他に、日本貿易振興会(JETRO)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等があり、中国において各機関の専門分野で大きな貢献をしつつあるが、移転技術のミスマッチや現地でのメンテナンス技術者不足等の多くの課題も出てきている。

 本稿では、3E問題を中国、日本の現況から概観すると同時に、エネルギー・環境分野におけるこれまでの日中技術協力の動向と課題を、協力体制や石炭利用クリーン化技術、天然ガス利用技術、原子力利用技術、再生可能エネルギー利用技術、環境対策技術の観点からまとめ、今後、日本と中国が3E問題をいかに協力して解決すべきか、その取り組みの展望を述べる。

2.中国・日本のエネルギー・環境・経済に関する状況

2‐1.中国の現況

 中国経済は、旺盛な内需を背景に1990年代を通じて高い経済成長を維持し、2000年代にはいってもWTO(World Trade Organization:世界貿易機関)加盟後、7〜9%の成長率を維持している。長期的には、国内経済格差、国有企業改革、失業、不良債権などの問題を抱えつつも、これまでのような適切なマクロ経済運営がなされれば、年率7.2%の成長が予測されている1)

 高度経済成長とモータリゼーションの進展により、エネルギー需要は増大し、中国は、既に、世界第2位の1次エネルギー消費国である。2020年には、石油換算20.6億トン1)(IEA、World Energy Outlook2002によると17億トン)の消費が見込まれる。これによれば、世界の1次エネルギー消費に対する中国のシェアは約15%に達する見通しで、図表1に示すようにアジアでみると、1次エネルギー消費に占める中国のシェアは、2000年の38%から2020年には45%へ増加する1)

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 エネルギー種別では、現状で石炭が1次エネルギーの約70%、石油が約20%を占める。中国国内には、豊富な石炭資源が存在し、安価な石炭が安定的に供給されている。2020年へ向けて、天然ガスや原子力のシェア拡大に伴い、石炭への依存度は56%程度へ低下するが、石炭は、今後も主要エネルギー源である。発電構成シェアでも、2000年で石炭火力78%、水力16%、石油火力3.4%、原子力1.2%と石炭火力が大きなウェートを占め1,5)、2020年においても石炭火力は70%の予測である1)

 世界のCO2排出量は、2000年の炭素換算65億トンから2020年には同99億トンにまで増加し、約1.5倍に達する。この増加分の約5割をアジアが占める。中でも中国のCO2排出量は、アメリカに次いで世界第2位で、2020年には、中国のCO2全排出量は炭素換算約18億トン1)(参考文献2)によると約15億トン)と予測されている。図表2からわかるように、アジアにおける中国のCO2排出量割合は2000年で47%、2020年に向けて50%に増大する。2000年と2020年を比較すると、アジアにおけるCO2排出量増分は、炭素換算約17億トンであるが、その約53%を中国が占める。排出源は、現在、主に発電部門と産業部門であり、モータリゼーションによって輸送部門のシェアが高まっていくとみられている。中国の炭酸ガス排出増大が、今後の地球温暖化に与える影響は大きい。

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 硫黄酸化物(SOx)排出量は、1980年代から1990年代前半にかけて増加傾向にあったものの、産業構造の調整、エネルギー効率上昇、環境規制の厳格化などで、1996〜1997年をピークに減少している2)。しかしながら、1998年世界保健機構の調査で、世界の大気汚染が最も深刻な10都市のうち中国が7都市を占めるなど、大気汚染は大きな問題となっている。中国政府は改善の取り組みを推進しているが、汚染への対策は十分でない。また、前述のように、中国では現在急速にモータリゼーションが進んでおり、経済成長に伴い大気汚染問題が隣国の日本への影響も含めて、深刻化していく可能性もある17)

2‐2.日本の現況

 日本では、エネルギー安全保障が、政策の優先課題であったため、過去30年間で、石油から原子力、天然ガス、石炭への急激なシフトや産業部門を中心にした省エネルギーが進展し、エネルギーの石油依存度が77%から49%まで減少した。今後は、穏やかな経済成長(年率1.3%)と、少子高齢化による人口減少および省エネルギー化が進み、エネルギー消費量は横這いまたは減少の見込みである。図表1に示したように、アジアでの1次エネルギー消費シェアも2000年の22%から2020年12%へ低下する。

 近年、地球温暖化防止が最優先課題になっているが、現時点では、地球温暖化大綱(京都議定書)における2008〜2012年温室効果ガス削減率6%(1990年比、5年間平均値)の目標達成は困難と見られている。しかし、図表2からわかるように、中長期的には、アジアでの日本の炭酸ガス排出量割合は、2000年時点の17%から2020年には9%に低下する。一方、中国での炭酸ガス排出量割合は、2‐1節で述べたように増大することから、日本国内でも引き続き炭酸ガス排出量抑制努力を行うことはもちろんであるが、アジア域での取り組み、特に、中国との共同取り組みが不可欠である。

 日本は石炭利用・クリーン化、天然ガス利用、原子力利用、再生可能エネルギー利用、環境対策技術の先進技術を有している。これを、アジア諸国、特に、中国で有効活用してもらうことが重要である。

3.日中技術協力動向と課題

3‐1.これまでの日中技術協力の動向

 ここでは、日中技術協力の動向を経済協力、研究交流、企業の対中投資という観点から述べる。

(1)経済協力

 日本は、エネルギー・環境分野における中国への技術協力を、政府開発援助(ODA)という形で実施してきている10)。図表3に示すように、ODAには、開発途上国に対して直接支援を実施する二国間援助と、国際機関を通じた援助(多国間援助:国際機関に対する出資や拠出)があり、さらに、二国間援助には贈与の「無償資金協力」と「技術協力」、二国間貸付の「有償資金協力(円借款)」がある。図表3には、2001年実績ベースの全金額と総額に対する割合を記してあるが、無償資金協力や技術協力の贈与の割合が約半分となっている。

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 エネルギー・環境分野におけるODAを用いた日中技術協力の一例を図表4に示す。エネルギー分野では、主に、NEDOが中心となって石炭利用、天然ガス利用、水力利用、エネルギー有効利用に関して、中国への協力を進めており、特に、中国の主要エネルギーである石炭の有効利用に関する協力事業、すなわち、循環流動床ボイラ導入支援事業や脱硫型CWM(Coal Water Mixture)設備共同実証事業等が実施されてきた。一方、環境分野では、環境省、JICAがリードして、大気汚染、酸性雨、水、一般廃棄物、化学物質、環境管理政策等、様々な分野での環境対策協力を実施しつつある。しかしながら、これらの技術協力は、例えば、脱硫技術移転でみると、パイロットプラント的な意味合いが強く、本格的な導入にまでは至っておらず、技術協力の成果を定量的に把握することは難しいのが現状である2)

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(2)研究交流

 大学や試験研究機関の日中研究交流がどのような状況かを把握するため、日本の大学と世界の大学との大学間交流協定締結件数状況(平成14年10月1日現在、技術分野はエネルギー・環境分野を含む全分野)を定量的に調査した19)。日本の大学は、主に、アジア、ヨーロッパ、北米の大学と研究交流協定を結んでいる。特に、アジアの中で中国の大学は約44%と大きなウェートを占めている。

 日本と中国は、1980年5月に科学技術協力協定を締結、定期的に科学技術協力合同委員会を開催してきており、直近では2003年2月に環境・エネルギー分野を含む重点4分野で意見交換し、「環境保全及び環境低負荷型社会の構築のための科学技術」で研究協力を進めていくことを決定した。

 次に、大学や試験研究機関等における実際の国際研究交流の状況を、研究者の派遣・受入実績数で国別に調べた。研究交流実績上位5カ国の推移を図表5に示す。図表5からわかるように日本への受入については、中国は第一位である。逆に、日本からの派遣については、中国は、アメリカ合衆国に次いで第二位で、その派遣数はアメリカ合衆国の約4割である。

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(3)企業の対中投資

 企業の総投資活動を把握するため、日系企業が、中国への投資をどれぐらい行ってきているかをEU系、米国系、アジア諸国系企業と比較して調べた。図表6にエネルギー・環境技術を含む全技術分野における対中投資金額(実行ベース)推移を示す。日系企業の投資は、香港系、EU系企業に比べて小さい。中国でのヒアリング調査結果をまとめた富士通総研金堅敏氏によると、この原因として、日系企業の中国での現地情報収集能力、営業力、販売力が、EU系企業に比べて低下していることが挙げられている11)

3‐2.日中協力における課題と対策

 日中技術協力動向を経済協力、研究交流、企業の対中投資から調査してみると、エネルギー・環境分野ならびにそれ以外の分野も含めて、日中技術交流が進みつつあることがわかったが、政府ベースおよび民間ベース両方で日中協力における課題も図表7のように出てきている2,3)。1つは、適合技術移転、もう1つは、メンテナンス技術者育成である。1点目は、日本の協力内容と中国の実態がうまく整合していないという課題で、(1)中国側の資金面、制度面の問題からインフラ整備が追いついていない、一方、(2)技術や製品を提供する日本企業側は、現地情報の収集能力や営業力、販売力が低下しており、移転技術のミスマッチが起きている。2点目は、中国の現場技術者、研究者に移転技術やノウハウが届いていないという課題で、(1)日本の企業や大学からの専門家派遣数や派遣回数が少ない(2)技術やノウハウを教える研修設備拠点が少ないという問題点がある。

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 この課題への対策として、エネルギー・環境技術センターの設置・推進が必要である。日中両政府合意のもとに、上記センターを設置、中国での現場拠点にする。中国の全地域をカバーできるような拠点数とする。日本の企業、大学等が得意技術・製品を展示、説明するとともに、省エネルギーを含むエネルギー管理や環境管理の研修も幅広く行う。研修センターがあれば、現場の中堅技術者にノウハウを提供でき、研修生は現場にそれを広く伝達できる。企業は、実際の現場を視察して周辺環境や必要条件を把握し、それに適合した工夫も可能である。また、今後、日本から中国へ移転する実用化技術の知的財産権保護や、中国への技術移転に伴う投資環境整備も重要であり、日本が本センターを通して中国政府へこれらを働きかけることができるようにする。

 地球環境問題やエネルギー安全保障問題において、日中両国の高所大所からの共同取り組みが必要になりつつある現在、上記センターを通して、日本の有する石炭利用・クリーン化、天然ガス利用、原子力利用、再生可能エネルギー利用、環境対策に関する先進技術を、中国に普及してもらうことが非常に大切である。

4.日本が提供できる先進的クリーンエネルギー・環境技術

 中国のエネルギー・環境問題解決のため、日本が提供できるクリーンエネルギー・環境先進技術を以下に紹介する。

4‐1.石炭利用・クリーン化技術

 中国では、今後も長期的に石炭に依存せざるを得ず7)、石炭のクリーン利用技術(クリーンコールテクノロジー)が重要である。クリーンコールテクノロジーは、(1)熱効率向上に資する技術、(2)脱硫・脱硝技術、(3)石炭液化、ガス化、スラリー化に関する石炭ハンドリング技術、(4)石炭灰有効利用技術からなる。(1)、(2)に関して、日本では〔1〕超臨界圧微粉炭火力発電方式が既存実用技術で、〔2〕超々臨界圧微粉炭火力や〔3〕加圧流動床ボイラー複合発電PFBC(Pressurized Fluidized Bed Combustion Combined Cycle)は、ほぼ実用化した技術である。〔4〕石炭ガス化複合発電は2010年頃商用化される予定の技術で、〔5〕石炭ガス化燃料電池の商用化は2020年頃と予想されている2)

 (3)は、石炭から付加価値の高い化成品原料(メタノール、アンモニア、活性炭等)、自動車用液体燃料や家庭用燃料(軽油、灯油、ジメチルエーテル(液化石油ガス(LPG)代替燃料)等)を製造する技術で、(1)と併せて図表8に示すような石炭活用エネルギー・化成品チェーンにまとめることができる。日本では、80〜120万トンクラスの石炭ガス化液化メタノール製造プラントが実用化されており、中国で当面必要となる40〜60万トンメタノール製造プラント技術の輸出が可能である。

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 中国では、豊富な石炭をそのまま燃料として使用するだけでなく、上記のように石炭を活用した、付加価値の高い産業を新たに育成する計画が推進されていることから、今後、クリーンコールテクノロジーが重要になると考えられる。

4‐2.天然ガス利用技術

 中国では、天然ガス需要は1次エネルギー需要の約2.7%(2002年)に過ぎないが、石油代替の観点から、エネルギー安定供給政策として天然ガス利用促進政策を挙げている4)。天然ガス利用が、中国政府の予測通り大幅に増えるとは限らないが、沿海地域の電力価格安定化と環境保護強化に伴い、天然ガス火力発電の比率は高くなると予想される5)

 中国は、国産の天然ガス火力発電技術を有しておらず、その導入にあたっては海外の技術に依存すると予想され、ガスタービン複合発電方式をはじめとするガスタービン技術を有する日本は、天然ガス火力の新設に関して技術的に大いに貢献できる。ガスタービン複合発電の特徴である高い発電効率は、ガスタービン入口の燃焼ガス温度の高温化によって実現されてきている。現在、入口温度1,450〜1,500℃の第三世代は、発電効率50%を超え、1,700℃級ガスタービンに向けた研究開発も開始されている。図表9に、天然ガス火力発電効率状況を石炭火力発電システムと比較して示す。

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 天然ガス利用のその他分野としては、空調利用や交通、さらには燃料電池などの分散型電源などがあり、この分野でも日本の技術で寄与できると考えられる。

4‐3.原子力利用技術

 中国の国家発展・改革委員会能源局(2003年3月設置)は、電力事業の発展原則の1つとして原子力発電を積極的に開発し、2020年までに総発電容量の4%、36百万kW(約31基)を原子力発電で賄う計画である6,12)。純国産で原子炉を造る技術は、まだ、確立されておらず、当面、外国から原子炉を輸入することになる。一方、日本の原子力(軽水炉;LWR)は1970年から順次投入され、現在では1次エネルギーの約15%、総発電量の約1/3を基幹電源として供給しており、軽水炉技術で日本は中国へ貢献できる。

 中国は、2004年、原子力設備の輸出入を制限する国際的な核不拡散の枠組みであるロンドンガイドライン★★1に加盟することを決定したため、今後、日本からも中国へ原子力技術、製品を輸出することが可能になる。ただ、EU、米国も自前の原子力技術、製品を、国を挙げて売り込む動きを見せており、日本も政府の後押しが必要である。


★★1 ロンドンガイドライン(London guideline)
 インドの核実験を契機として、核物質の核兵器への転用を防ぐために1975年、日、米、旧ソ連、等7ヵ国がロンドンに集まって対策を協議し、その後、計15ヵ国が参加して非核兵器国への原子力関連輸出に適用されるガイドラインに合意した。これをロンドンガイドラインといい、1978年IAEAから公表された(現在は27ヶ国)。その内容は核物質について、(1)これを核爆発に使用しない旨の確約を取り付ける、(2)IAEAの保障措置を適用する、(3)適切な核物質防護措置を実施する、(4)濃縮、再処理等の技術移転を規制する、(5)再移転を規制する等である。その後イラクの核兵器開発計画の発覚から輸出規制の範囲を広げた。パート2が1992年ワルシャワで合意され発効した。

4‐4.再生可能エネルギー利用技術

 再生可能エネルギーは、エネルギー密度は低いものの、環境への負荷が極端に小さいことから、その導入の重要性が広く認識されており、中国でも、2000年から太陽光、風力、バイオマス等の再生可能エネルギー発電技術開発に重点的に取り組み始めた9)。しかしながら、実用化技術では依然、日本は先行しており14)、環境協力という意味でも中国へ貢献できる部分が大きい。

 再生可能エネルギーは、小・中規模容量の技術が中心で、設置台数を調整すると、一般家庭から中規模発電所まで幅広い分野での導入が可能である。これは、協力内容の多様性を意味し、協力対象選定の自由度が広がる。特に、日本のエネルギー関連企業や商社が、エネルギー需要の伸びに限界のある国内市場から、エネルギー・環境市場として有望な中国に目を向け始めており、進出の足がかりとして事業リスクが小さく自由度の高い小規模再生可能エネルギープロジェクトに取り組むことも十分考えられる2)

4‐5.環境対策技術

 環境対策技術として、中国で問題となっている大気汚染原因物質SOxおよび窒素酸化物(NOx)を除去する脱硫、脱硝技術、ならびにCO2放出削減を狙った火力発電プラントでのCO2分離回収技術について述べる。日本では、欧米先進国に先んじて、20年以上も前から技術開発を進めてきており、現在では、世界トップレベルにある。

 脱硫技術13)は大きく、(1)事前脱硫法、(2)炉内脱硫法、(3)排煙脱硫法の3つに分類され、さらに、排煙脱硫法には湿式法と乾式法がある。湿式法の中で、石灰スラリー法と呼ばれる方法が、脱硫率が最も高く、日本では広く用いられている。脱硝技術には大きく、(1)低NOx燃焼法、(2)炉内脱硝法、(3)排煙脱硝法の3つがあり、排煙脱硝法は、燃焼後の排ガスからNOxを除去する方法で、脱硫プロセスと同様、湿式法と乾式法があるが、現状では、NOxと触媒を組み合わせた選択触媒法が主流である。日本の脱硫、脱硝技術を中国へ移転する場合には、複数の脱硫、脱硝技術の中から中国の現場ニーズに適した技術を選択していく必要がある。

 CO2分離回収技術についても、アルカノールアミンというCO2を吸収しやすい液体を使った技術16)で、日本は世界トップクラスである。図表10に示すように、「冷却塔」で火力発電所やボイラーの排出ガスを45℃まで冷やし、「吸収塔」でアミンにCO2を吸収させる。CO2を含んだアミンは、「再生塔」で約130℃に加熱され、CO2を吐き出す仕組みになっている。分離回収したCO2の応用先としては、油田への注入で原油の生産を増やす石油回収増進法(EOR)への適用が有望視されている。本技術は、中国でのCO2削減に寄与できることから、日中両国にとって有益である。

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5.政策提案

 エネルギー・環境・経済に関する3E問題は、21世紀国際社会の最大の課題であり、今後、エネルギー需要、環境負荷が増大するアジア域での取り組み、特に、中国との大局的な共同取り組みが不可欠である。本稿では、中国、日本の現況から3E問題を概観し、エネルギー・環境分野におけるこれまでの日中技術協力動向と課題を、協力体制や石炭利用・クリーン化技術、天然ガス利用技術、原子力利用技術、再生可能エネルギー利用技術、環境対策技術の観点からまとめた。

 日中技術協力の動向と課題を踏まえ、今後、日本及び中国の3E問題を解決する取り組みとして、(1)日本の実用化技術移転、(2)温室効果ガス削減に関する日中間制度構築、(3)戦略的共同研究開発プロジェクト、(4)中長期的人材育成の4点を提言する。これは、従来の「協力」の意味合いを、与えるばかりの「アシスタンス」から相互利益的な「コラボレーション」へと変えていく取り組みである。

(1)日本の実用化技術移転

 中国の3E問題解決のために、石炭高効率利用発電技術、石炭ガス化・液化技術などの石炭利用クリーン化技術、天然ガス利用技術、原子力利用技術、再生可能エネルギー利用技術、環境対策技術に関する日本の実用化技術を日本から中国へ移転する。技術投資資金としては、原則、民間資金を主体としたファンドとするが、投資リスクが高い場合、政策投資銀行や国際協力銀行等政府出資の利用も考える。技術移転やメンテナンス人材育成をスムーズに行うため、日本の専門家を長期派遣して技術研修や現場の情報交換が行えるエネルギー・環境技術センターを日中両政府合意のもとに設置、推進する。本センターを中国での現場拠点にし、中国の全地域をカバーできるような拠点数とする。本センターでは、移転する日本の実用化技術の知的財産権保護や、中国への技術移転に伴う投資環境整備を中国政府へ働きかける機関とする。

(2)温室効果ガス削減に関する日中間制度構築

 (1)において日本から中国へ移転した環境対策技術やエネルギー高効率化技術による中国でのCO2排出低減効果を日本の排出低減量に加算できるクリーン開発メカニズム(CDM)制度★★2を日中間で構築、運用する。この制度運用では、技術移転事業によるCO2削減実績の評価・認証といった枠組みが必要であり、両政府が、政策的な協調や合意により環境を整備する。


★★2 クリーン開発メカニズム(CDM) 制度
 京都議定書参加国と非参加国との間で、温室効果ガス削減プロジェクトなどの共同の事業を実施し、削減分を参加国が譲り受けることを認める制度。非参加国にとっては、参加国の投資を通じて、自国の環境対策推進や技術移転といったメリットがあると考えられている。

(3)戦略的共同研究開発プロジェクト

 日中共同でエネルギー・環境分野の産学官連携研究開発戦略プロジェクトを推進する。例えば、東アジア地域大気汚染物質(SOx、NOx等)の航空機観測による発生源、発生分布実態解明などの広域大気汚染に関する研究18)や、高効率石炭ガス化複合発電技術や石炭灰有効利用技術を含むクリーンコールテクノロジーなど出口を明確にした先進技術育成を日中共同で実施する。開発した成果は、両国政府合意のもとで知的財産権として保護する。

(4)中長期的人材育成

 3E問題の意識を持つ人材を日中間で中長期的に育成するため、日本、中国両方の大学あるいは大学院において、3E問題に関連した科学技術系人材交換留学プログラムを推進する。日中両政府が、相手国の留学生に対して独立したスカラーシップをつくる。

 上記提言では、日本の実用化保有技術や日中共同開発技術による中国石炭資源の中国国内高度利用、中国での環境汚染対策・炭酸ガス削減で日中両国の3E同時実現を図る。中国にとっては、(1)電力供給分散化、(2)産炭地等の内部発展、(3)高度技術の利用/普及のメリットがあり、日本の利点は、(1)実効ある炭酸ガス削減、(2)産業競争力の維持/強化である。また、両国にとって、(1)環境保全、(2)持続的な経済発展の利益がある。

謝 辞

 本稿をまとめるに当たり、東京大学生産技術研究所の山本良一教授、政策研究大学院大学の角南助教授、三菱重工技術本部技術企画部の大木主幹、古屋主席、藤村主任のご意見もご参考にさせていただきました。ここに深く感謝致します。


参考文献

1) 財団法人日本エネルギー経済研究所、「アジア/世界エネルギーアウトルック ―急成長するアジア経済と変化するエネルギー需給構造―」、2004年3月

2) NIRA北東アジア環境配慮型エネルギー利用研究会編、「北東アジアの環境戦略」、日本経済評論社、2004年

3) 小川芳樹、財団法人日本エネルギー経済研究所、「東アジアのエネルギーと環境問題」:http://www.esri.go.jp/jp/tie/ea/ea4.pdf.

4) Keii CHO、「Demand and Supply Trends in China’s Natural Gas Market」, J. Jpn. Inst. Energy, Vol.83,109‐117(2004)

5) 張 継偉、「中国の電力産業の動向」、エネルギー経済、第30巻第2号(2004年春季)

6) 諸岡秀行、船越節彦、「中国の電力・原子力発電の動向」、海外事務所報告1、4‐20、2004年

7) 曲暁光、「全人代後の中国エネルギー政策、需給の安定化策を探る」、NEDO海外レポート、No.928、2004年

8) 柘植綾夫、「21世紀のエネルギー環境社会の構築に向けて」、第42回原子力総合シンポジウム予稿集、59‐68、2004年

9) Yusheng XIE, Shufeng YE,Kuniyuki KITAGAWA,and Kali WANG, 「The Developing Strategy and Research for Chinese Energy Resources」,,J. Jpn. Inst. Energy,Vol.83,207‐211(2004)

10)外務省ホームページ:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/

11)金賢敏、「日米欧企業の対中投資戦略・マネジメントの比較」、2001年:http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/010620_03.pdf.

12) 中国新聞社、2004年5月25日付:http://news.searchina.ne.jp/2004/0526/business_0526_001.shtml

13) 地球環境工学ハンドブック、オーム社、1991年

14) 駒橋徐、「新エネルギー・創造から普及へ」、日刊工業新聞社、2004年

15) 三菱重工技報、;vol.38 No.1、2001;Vol.40 No.1、2003;vol.40 No.4、2003

16) 本命技術、「二酸化炭素の分離・固定」、日経エコロジー、p.138‐141、2004年7月号

17) 市川陽一、速水 洋、Markus Amann、杉山大志、「わが国における酸性沈着量の将来予測」、電力中央研究所報告 報告書番号T00022、2001年

18) 環境儀、国立環境研究所、No.12 April 2004

19) 文部科学省科学技術・学術審議会 第2期国際化推進委員会(H16年第3回)議事次第配布資料