客員研究官 大迫 政浩
客員研究官 吉川 邦夫
環境・エネルギーユニット 浦島 邦子
循環型社会の構築に向けて技術システムの転換が図られているが、その過程で重要なキーコンセプトとなったのが「ゼロエミッション」である。このコンセプトは、1994年に国連大学が提唱したもので、「持続可能な発展に向けた経済・社会システム再編」というプログラムの一環として開始された。そこでは、ゼロエミッションについて「全産業の生産工程を再編成し、廃棄物がすべて原料として活用されるような新しい産業集団をつくるなどによって、廃棄物自体がない循環型産業システムをつくる試み」と定義されている。
すなわちゼロエミッションは、異なる工程、工場・業種、地域間で廃棄物を循環利用できるシステム設計の概念であり、廃棄物の出側の静脈と既存の動脈産業を有機的につなげて産業クラスター化し、一方で廃棄物であったものを他方で原材料としてカスケード式に利用し、廃棄物の発生を極力ゼロに近づけようとする考え方である。なお、誤解のないように言えば、「ゼロエミッション」は完全に廃棄物が出ないことを表しているのではなく、概念として廃棄物を最小化しようとするものである。日本においては、ゼロエミッションシステム形成に向けての研究やビジネスモデル事業に対する予算が投資され、これを契機として地産地消型の小さな循環の輪から全国レベルの大きな循環の輪まで、様々な規模スケールの循環システムが生まれた。特に注目されるのは、鉄鋼業やセメント製造業、非鉄精錬業などの素材型産業を中心としたゼロエミッションシステムであり、世界的にも類を見ない循環システムへと成長している。
科学技術政策研究所と(株)三菱総合研究所が先に実施した、「科学技術振興による経済・社会・国民生活への寄与の定性的評価・分析」調査1)においても、廃棄物処理およびリサイクル技術は、経済および国民生活へのインパクトが大きいと見られ、官民共同で進められた廃棄物の循環資源化技術システムに関する研究開発が、少なからず現在の日本の技術システムの構築に貢献したと思われる。一方、素材型産業を中核とした循環システムや個別要素技術の中でも急速に発展したガス化溶融技術は、産業セクター主導で設計、開発が行われてきたが、そのインセンティブとなったのが新たな環境規制などの導入である。特に、ガス化溶融技術の場合、ダイオキシン類の厳しい排出規制がその開発の誘因となっており、高額なプロセスを導入する際の補助金等が、自治体の導入促進に寄与した。つまり、導入支援の補助金等が間接的にプラントメーカーの技術開発に寄与したといえる。当該技術は当初は海外から技術導入したものの、国内で技術開発が進展した技術2)と見ることができる1)。
海外における具体的なゼロエミッションのビジネスモデルには、Eco Industrial Park(EIP)などの用語が使われている。米国の大統領諮問機関(PCSD:President Council for Sustainable Development)はEIPについて、「製造業とサービス産業の企業が構成するコミュニティであり、環境及びエネルギーや水、物質といった資源のマネジメントの協働を通じ、パーク内の企業は、集積の利益を追求するとともに、その個々の利益を最大化する。EIPの目的は、環境負荷を最小化しつつ、参画する企業の経済パフォーマンスを向上することにある。」としている。米国では、PCSDの発足に伴いEIPプロジェクトの国家スケールの推進を決定し、米国内の4地域がEIP実証地として指定され、現在までに国内の十数地域において地域振興を含めた環境調和型拠点の構想が進められている3)。海外において頻繁に取り上げられるEIPの例を図表1に挙げる。またEIPの代表例としてしばしば紹介されるKalundborgのシステムイメージを図表2に示す。
一方日本においては、ゼロエミッションコンセプトの基に各地にゼロエミッション工業団地が既に設置あるいは計画され、国においても「エコタウン」に指定した地域においてゼロエミッション型施設整備への補助金による支援を行っており、平成15年4月現在で18地域が指定されている4)。図表35)に日本のエコタウン指定地域及び自治体が調整役となって進めている地域ゼロエミッション事業のマップを示す。本稿で主題とする素材型産業との関連で言えば、秋田県の非鉄精錬業や埼玉県等のセメント製造業を中核とするシステムづくりなどが注目される。
3‐1.鉄鋼業
鉄鋼業においては、鉄スクラップの需要家(電炉メーカー)の立場でリサイクルに貢献してきたが、容器包装リサイクル法の制定を契機にしたプラスチックリサイクルへの参入の動きには目を見張るものがある。図表46)に2003年度までの容器包装プラスチック(法律に基づいて自治体が集めたPETボトル以外のプラスチック)の再商品化量の実績を示す。2003年度には容リプラ25万5千トンの再商品化量のうち、7割程度を鉄鋼業で受け入れており、製鉄所のコークス炉や高炉における原燃料として大量に有効利用されている。鉄鋼業の受け入れポテンシャルは、現在リサイクルされていない廃プラスチック約500万トン(全発生量は約1,000万トン)の全量の受け入れに匹敵し7)、今後の動向が注目される。
法制定過程の議論の中では、マテリアルリサイクル(材料リサイクル)や油化技術が技術的に優先順位が高いとされていたが、鉄鋼業への受け入れも結局フィードストックリサイクル(原料としてのリサイクル)の位置づけになり、そのポテンシャルの大きさ、技術的信頼性等から瞬く間に大きなシェアを占めるに至った。しかし、一方で当初注目を集めた油化技術等の適用は、現在ではごく限られた事例にとどまっている。
なお、ドイツにおいても指令に基づく容器包装プラスチックの回収が行われ、その一部は高炉還元によりリサイクルされている。しかし、その他の国においての事例は見あたらない。
3‐2.セメント製造業
一方セメント製造業では、セメントの原燃料として多様な廃棄物・副産物(石炭灰、廃油、再生油、廃タイヤ、各種のスラグ、副産石膏等)を大量に受け入れてきた。セメント1トン製造当たりの廃棄物・副産物の使用原単位は1998年度の295kgから2002年度で361kgまでになっており8)、5年間で大幅に増加した。2010年度には400kgまでに引き上げることを目標としている。図表59)にセメント産業で受け入れている廃棄物・副産物の出所と種類等を示し、図表6には最近の9)廃棄物・副産物の使用実績の内訳を示す。このように、大規模なセメント工場は、地域における廃棄物の循環利用のフローを一気に転換させるポテンシャルをもっている。最近では一般廃棄物の焼却灰を原料としてセメントキルンに受け入れ、「エコセメント」として新たな素材を製造している。パチンコ台や一般ごみ、各種有害廃棄物(汚染土壌、特定フロン等)の受け入れにも積極的であり、最近発覚した青森・岩手県境の大量の不法投棄廃棄物の受け入れ計画も進んでいる。海外においてもセメントキルンへの廃棄物の受け入れは注目されているが、その量的規模やセメント製造量あたりの割合は日本が群をぬいている。
3‐3.非鉄精錬業
非鉄精錬業も今後の大きな廃棄物等の受け皿である。従来から自動車バッテリーの処理が行われてきたが、最近では自動車リサイクル過程で発生する自動車破砕くず(カー・シュレッダーダスト)、家電リサイクルに伴う基盤類、一般廃棄物の溶融飛灰など、金属資源を含むあらゆる廃棄物の受け入れが進みつつある。図表710)は、廃棄物処理・リサイクル事業の主要10社の実績を基に作成した種類別の受入状況である。リサイクル材料として有償で受け入れる場合と廃棄物として逆有償で受け入れる場合に分けて集計した。これをみて分かるように、金属資源を含む多様な廃棄物等を受け入れており、銅や鉛、亜鉛などの他、金、銀、白金等の貴金属を回収している。
統計の存在する平成11年度と比較すると、リサイクル材料(有償物)としての受け入れはほとんど変わらないが、廃棄物中間処理としての受入量は3割強も増加している10)。平成8年の廃自動車等のシュレッダーダストの埋立規制の強化に伴うシュレッダーダスト受け入れや、家電リサイクル法施行を契機とした廃家電(プリント基板やブラウン管鉛ガラス等)の受け入れが増大しているほか、汚泥や汚染土壌の受け入れが特に増えている。廃家電については、秋田県エコタウン事業内の非鉄精錬プロセスは、家電リサイクル法における再商品化工場の指定も受けており、東北ブロックの廃家電の受け入れ先となっている。
4‐1.経済的優位性
素材型産業を中核としたゼロエミッションシステムがこれほどまでに拡大した最大の要因は、高炉やセメントキルン炉、非鉄精錬炉など既存プロセスを活用することによって初期投資が大幅に削減できた点である。また、廃棄物処理業の許可を取得することで、廃棄物処理費の徴収が可能になった点も大きい。これまでは、「廃棄物」として受け入れると廃棄物処理法上の廃棄物処理業の許可が必要になり種々の制約を受けることから、場合によっては素材型産業は原材料費を払って「原材料」として廃棄物を購入し受け入れてきた。しかし、処理業の許可を取得し、「廃棄物」として受け入れることによって逆に処理費を受け取ることが可能になり、大きな利益が生まれることになった。このような経営転換は、素材そのものの生産・需要量が減少するなかにあって、生産型の動脈産業から廃棄物処理型の静脈産業へのウェイトの拡大であると理解される。
国の補助金による支援策も少なからず効果を発揮していると考えられる。特に、ダイオキシン問題や最終処分の適正化問題が生じた1990年代には、対象廃棄物拡大や高品質スラグ生成、発電の高効率化等の目的で厚生労働省、経済産業省、文部科学省、環境省により、メーカーに対し研究開発資金が提供された1)。また、エコタウンの指定によって、地域内に建設される循環型の施設に対して、一定の助成を受けることが可能になった。これは新規に施設を建設しなければならない場合、大きな支援効果を生んでいる。
4‐2.個別リサイクル法の効果(環境政策的要因)
拡大製造者責任(EPR)の概念の下に制定されてきた容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、建設リサイクル法、食品リサイクル法及び自動車リサイクル法などの存在も、現在のシステム構築には不可欠であった。素材型産業との関連で言えば、先にも述べたように容器包装リサイクル法の下に自治体で回収された容器包装プラスチックのうち、ペットボトルを除いた「その他プラスチック」の大部分は、鉄鋼業において高炉還元剤やコークス原料としてリサイクルされている。家電リサイクル法においても、法律に基づく再商品化工場に非鉄精錬業のプロセスが指定されている場合や、法律の下で明確に指定されていない場合でも、家電リサイクル法ルートで流れてきた廃基盤等の非鉄精錬業への受け入れが活発である。今後自動車リサイクル法の影響で廃自動車のシュレッダーダストの受け入れも本格化するものと思われる。さらに建設リサイクル法の下では、建設廃木材のチップ化による紙・パルプ製造業への受け入れも増えている。また、個別のリサイクル法だけに基づいたものではないが、セメント製造業も先に述べたように廃タイヤや廃木材等の受け入れを行ってきている。
このように、個別リサイクル法によって強制的にマテリアルが回収され、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法などのように、製造者あるいは排出者によってリサイクル費用が支払われることで、十分な収益性が確保される仕掛けができている。
4‐3.技術の信頼性と受入ポテンシャルの優位性(技術的要因)
ゼロエミッションコンセプトの基に、素材型産業を中核としたシステムに廃棄物処理が一面的に進んだのは、共に1,000度を超える高温の熱プロセスを有している点も見逃せない。多様な性状をもち、一部有害物質を含む廃棄物に対して高温処理及び高度な排ガス処理により安全面を確保できることから、技術的な信頼性が高かったことが大きな優位性になった。
また、多量の受け入れポテンシャルを有することも、大きな理由である。全国の素材型産業プロセスを活用すれば、あらゆる廃棄物を大量に飲み込めるポテンシャルを持っている。
素材型産業を中心としたゼロエミッションシステムを世界的に見た場合、同様の試みはあるものの、廃棄物処理に大きな貢献をしている実績はほとんどなく、フローの量と種類において日本は突出している。日本において素材型産業を中核としてゼロエミッションシステムが実際に機能している点は、世界的に注目に値することから、世界に通じる日本型ビジネスモデルになる可能性がある。
このような日本型モデルをさらに進化させていくためには、既存プロセスにそのまま廃棄物を投入するだけでなく、さらに何らかの質転換プロセスを加えることによって、製品化する技術の開発が必要である。その好例として廃棄物溶融プロセスと、廃プラスチックのガス化/化学原料化プロセスの例を紹介する。
5‐1.廃棄物溶融プロセスと非鉄精錬プロセスの連結
近年、非鉄精錬業では、急激に増加しつつある一般廃棄物の溶融施設から発生する溶融飛灰を山元還元として受け入れ始めている。溶融飛灰は銅、鉛、亜鉛などを高濃度で含み、品位の高い原料となりうる。このような素材型産業と廃棄物溶融プロセスとの連結は海外では例が無く、日本型モデルとして世界に通じるシステムになる可能性がある。
このようなシステムが形成された最大の理由である廃棄物溶融施設の増加は、ダイオキシン類の問題や廃棄物埋立地の不足を背景としており、ダイオキシン類対策特別措置法の制定や国の補助金による誘導施策が強く影響している。図表811)に溶融施設の累積竣工数の推移を示す。法律に基づく、平成14年12月からのダイオキシン類対策の本格施行に合わせて、溶融施設数は前年度に比較して倍増している。
このような状況は、世界的に見ても日本特有のものである。図表912)には世界のいくつかの国における一般廃棄物の処理状況を示す。データは多少古いが、国土が狭い国々では焼却処理や再生利用の割合が高く、可能な限り埋立量を減らす政策をとっている。特に日本は焼却の割合が高く、4千万トンもの焼却量は世界トップである。そのような中にあって、さらに溶融化が日本では進んでいる。初期の技術は欧州から導入されたものが多いが、運転管理技術も含めて溶融技術の成熟度は世界で群を抜いている。溶融技術には、焼却後の焼却灰を電気や燃料を用いて溶融する技術(灰溶融技術)と、廃棄物を直接ガス化させて溶融する技術(ガス化溶融技術)がある。特に後者のガス化溶融技術は世界的な開発競争が行われたものの、実際に稼働している施設数については日本が圧倒的に多い13)。日本のプラント製造企業の研究開発投資は過剰と思われるほど大きなもので、世界的にも極めて高い技術レベルに達している。
図表10に現在形成されたシステムのフローを示す。本来はごみ処理としての機能を担う廃棄物の溶融プロセスが、金属分離・濃縮プロセスとしての機能を果たしており、非鉄精錬プロセスへの受け入れを可能にする質転換技術として位置づけられている。この図表10で興味深いのは、すでに埋め立てられた一般廃棄物を埋立地延命化を意図して掘り起こし、溶融施設に投入してスラグ利用や溶融飛灰の山元還元によって金属資源をリサイクルしようとする動きである。環境省の施設整備の補助対象となっており、ある意味で「過去の負の遺産」の解消も意図して世代をまたがる金属資源サイクルを形成する試みであるとも言える。非鉄精錬業の側からみれば、廃棄物埋立地が「都市鉱山(urban mine)」となる可能性もある。
また、大規模な不法投棄問題として大きく取り上げられた豊島の不法投棄物は、近隣の直島に建設された溶融施設に投入され、その溶融飛灰は同じ直島に立地する非鉄精錬プロセスで受け入れられている。これもまた、「負の遺産」を金属資源サイクルに組み込む試みとして注目される。
経済的側面からも、一般廃棄物処理の場合は公共のサービス事業として運営されていることから、当然のこととして経営的基盤が強固であり、公共(市町村)から見ればこれまで埋立処分されていた溶融飛灰を逆有償であっても費用を払って非鉄精錬業に引き取ってもらうほうが経済的に有利である。また非鉄精錬業からみても処理費用を受け取ることができ、相互にメリットがある。
一方、複雑な組成をもつ混合系の生活系ごみは、ほとんどの国で自治体(municipality)の公共サービスとして処理がなされ、これまでは埋立が主であったが、国土の狭い欧州では欧州指令によって焼却等により無機化したものしか埋め立てることができないことになった。リサイクルの方向は揺ぎないが、今後欧州の国々は、日本のように焼却化の割合を高めざるを得ない状況になっている。図表10のような日本型ゼロエミッションシステムは、今後欧州の廃棄物管理政策の下でも通用する技術システムになる可能性が高い。
5‐2.廃プラスチック等のガス化/化学原料化プロセスと化学コンビナートの連結
もうひとつの質転換プロセスの例は、廃プラスチック等のガス化/化学原料化プロセスと化学コンビナートの連結である。図表 11に、システムの概要を示す。容器包装プラスチックをガス化し、水素を取り出して化学コンビナートに連結し、アンモニア等の製造を行うシステムの例である。コンビナート内では各種製品の原料となる酸素と窒素を空気から製造しており、その酸素の一部をガス化反応に使う。窒素の一部はガス化プロセスから生じる水素と反応させてアンモニアを製造するために使われる。アンモニアは合成樹脂素材や肥料等の原料となる。ガス化プロセスから生じる副生成物としてのスラグや金属・ガラス、塩、硫黄などもリサイクルされている。ガス化プロセスが、まさに化学コンビナートに連結するための質転換プロセスとして機能している。
容器包装リサイクル法の下で、十分な供給量とリサイクルのための費用を確保できることから、先の図表4からもわかるように急速に再商品化量は拡大し、すでに10%のシェア(図表4の合成ガス)を占めるに至っている。また、新たに建設が必要であったガス化施設建設への助成がエコタウン指定によってなされた点も大きな支援策になった。
以上の二例は複雑な性状をもつ混合系廃棄物を熱分解ガス化/溶融技術を用いた質転換プロセスを通して、既存の拠点型の素材型産業プロセスに連結していく試みであり、今後のゼロエミッションシステム形成の大きな流れになると考えられる。図表11のプロセスは、廃プラスチックだけでなく、バイオマス等のその他のガス化が可能な廃棄物の混合系廃棄物にも応用可能であり、千葉県で既に稼働しており、水島地域でも建設計画が進んでいる。世界的にも熱分解ガス化による化学原料化技術の開発は注目されているが、商業ベースでの運転実績は日本が多い13)。
また、両者に共通の成立要件として、法的強制等による物の供給体制の確立、廃棄物処理業としての処理費用徴収や公共の関与、新たに施設整備する場合の建設費助成等による経営基盤の確立なども、システム形成に大きな役割を果たしており、技術システムだけでなく、その形成を支えた社会経済システムも含めて、日本型モデルとして世界に提案できるものとなろう。特に今後廃棄物問題がクローズアップされるのは、中国を中心とする東アジア諸国であり、これらの国々ではインフラ整備が急速に進行しており素材型産業も大きな伸びを示している。今後、環境規制の条件が整うことを前提にして、本稿で提案する日本型モデルの適用のターゲットとして、大きなポテンシャルを持っていると言える。
ゼロエミッションシステムの本来のコンセプトは、異なる多産業間の連鎖システムの形成であるが、日本で形成された素材型産業を中核とするシステムは、結果的に素材型産業対産業の繋がりが集合された拠点型システムである。生態システムと同様に、システムが多様性を失うと脆弱になると考えられ、何らかの要因で拠点となる素材型産業が廃棄物の受け入れをストップすると、たちまちシステムは破綻する可能性もある。しかしながら、前述したように、現段階では法的な後ろ盾もあり経済的条件で圧倒的な優位性をもっていることは否定できないし、短中期的には安定性をもったシステムであると思われる。
しかし、ある意味で「リサイクル至上主義」で進んできた結果、見落とされている落とし穴はないだろうか。その一つを「安全・安心」の側面から見ることができる。ゼロエミッションプロセスから生産される製品の安全性の問題である。すなわち、廃棄物をセメントキルンに受け入れて製造したセメントや非鉄精錬プロセスから副産物として生産される非鉄精錬スラグの安全基準が、環境JISにおける品質基準やグリーン購入法における特定物品の判断基準などの中で議論され始めた途端に、ボトルネックになる可能性がある。廃棄物の受け入れに伴って、重金属のような保存性物質は製品中に残存し蓄積している場合も多いからである。非鉄精錬プロセスでは、生産する金属素材の純度を高めるために、逆に不純物としての有害金属は非鉄スラグに移行することに注意が必要である。しかし、これまで非鉄スラグは有償取引されていたことから、廃棄物処理法の適用を受けずに一般製品の扱いで市場に流れていたため、安全性に関する品質要件は存在しなかった。再生製品に関する安全性の問題が注目されてきた状況の中で、廃棄物に対する安全基準と同等の規制を受けると、これまでの「製品」が「廃棄物」化してしまう可能性や、生産プロセスへ廃棄物の受け入れを拒否せざるを得ない状況が生まれてくる可能性も否定できない。
今後、一般製品から再生製品、廃棄物までをカバーする安全基準の体系的な考え方を早急に構築しなければならない。そうしなければ、社会(消費者等)に対して受容されない状況にもなりかねない。また、日本型モデルを世界に提案していくためにも、安全基準の体系化の議論自体も、国際的な標準化に関するハーモナイゼーションの文脈の中でなされるべきであろう。以上が日本型ゼロエミッションシステムの確立に向けて残された最大の問題点である。
その他、発生抑制(Reduce)、再使用(Reuse)、再生利用(Recycle)の優先順位、あるいはリサイクルの中でもマテリアルリサイクルを重視すべきなのかなど、ライフサイクル全体での考慮の基に、合理的な議論をくみ上げていくことが今後の課題であろう。
いずれにしても、このような課題を克服することにより、廃棄物の質転換プロセスを通して既存の拠点型の素材型産業プロセスに連結された日本型ゼロエミッションシステムは、システム形成を支援する社会経済的条件やシステムを構成する熱分解/ガス化技術などの新規の質転換技術を含めて、世界をリードする産業システムモデルとなる可能性がある。したがって、国としても世界市場を睨んだ一層の研究開発や海外への技術移転等を積極的に支援することが望まれる。
本原稿を執筆するに際し、取材にご協力いただいた(株)タクマ計画本部環境技術部高橋賢次部長、(株)クボタリサイクルエンジニアリング事業部阿部清一理事、日本鉱業協会門前兼廣氏に感謝申し上げます。
1) NISTEP REPORT No.80,p165‐176(2004)
2) 杉島和三郎、ごみ処理・焼却技術をめぐって、資源環境対策、Vol.40,No.1,pp.105‐111(2004)
3) 藤田 壮、盛岡 通、大石晃子:循環型の産業集積開発事業の計画と評価についての調査研究、環境システム研究論文集、Vol.28、pp.285‐294(2000)
4) 経済産業省「ゼロ・エミッション構想推進のための『エコタウン事業』について」:http://www.meti.go.jp/topic/data/e10209aj.html、2001
5) 山田正人、石垣智基、大迫政浩、川畑隆常:H‐2 環境負荷低減のための産業転換促進手法に関する研究(3)リサイクルに係わる法制度的措置に伴う産業転換に関する研究、地球環境研究総合推進費、平成14年度報告書(2003)
6) (財)日本容器包装リサイクル協会ホームページ、数値データ集:(http://www.jcpra.or.jp/data/index.html)を基に作成
7) 日本政策投資銀行:素材型産業を核とした資源循環クラスターの展開―リサイクルビジネスの高度化に向けて―、調査、No.55(2003)
8) セメント協会ホームページ:http://www.jcassoc.or.jp/Jca/Japanese/Uj.html
9) 今井敏夫、栗林延年:セメント産業での廃棄物・副産物の利用、CEM’S、pp.4‐9(2004)
10) 專本鉱業協会機関誌「鉱山」及び提供資料(私信)を基に作成
11) 国立環境研究所:平成14年度環境省受託業務調査結果報告書「スラグ等再生利用促進調査」(2003)
12) OECD Environmental Data Compendium 2002
13) Thomas Malkow: Novel and innovative pyrolysis and gasifcation technologies for energy efficient and environmentally sound MSW disposal, Waste Management 24,pp.53‐79(2004)