[特集3]

パワーエレクトロニクスによる
エネルギーインフラの強化に向けて

環境・エネルギーユニット 橋本 幸彦


1.はじめに

 電気エネルギーを取り巻く環境は、民生部門を中心とした電力需要の伸び、電力化率の増加、中国を中心とした開発途上国の電力需要の増大等により大きな転換期を迎えている。

 パワーエレクトロニクスは、電気エネルギーの有効利用を担うエネルギーインフラの基盤技術である。身近なところでは、エアコン、モータ等の電気機器の出力を滑らかに調整し消費電力を抑える「インバータ制御」が知られており、我が国のみならず、地球規模でのエネルギー・環境問題を解決する技術として重要である。

 現在、研究開発が行われている超低損失のパワーエレクトロニクス機器が普及した場合、2020年には我が国において、燃料電池自動車、分散型電源用インバータ、モータ制御インバータ等の各分野で、合計29.78TWh(T:1012)の電力消費を削減できるとする試算も報告されている1)。この数字は、100万kW級の原子力発電4基分の年間発電電力量に相当するものである。

 総合科学技術会議のエネルギー分野推進戦略(2001年9月)では、エネルギーインフラを高度化していくために必要な研究開発として、超低損失電力素子(パワー半導体デバイス)等、新材料のエネルギー機器・インフラへの適用、実用化を目指した基盤研究を掲げている。

 我が国では、これまで産業界が中心となってパワーエレクトロニクスを用いたエネルギーインフラの構築がなされてきた。国内経済が低迷するなか、企業単体ではコスト面の問題から新たな技術開発に積極的になれないという状況にある。また、大学においても人材教育の面で課題を有している。一方、欧米ではこの分野の重要性に着目し、産学共同の研究センターを発足させるなど研究が活発に行われている。

 このような状況を踏まえて、本稿では、我が国のパワーエレクトロニクス技術を維持・進展させるにあたって求められる方策について考察する。

2.パワーエレクトロニクスとは

 石油や石炭等の一次エネルギーを、二次エネルギーである電力として使う割合である「電力化率」は年々上昇し、近年、我が国では40%を超えるに至っている2)。社会の情報化や高齢化の進展にともない、電気エネルギーの持つ利便性や安全性の観点から、この「電力化率」は、今後とも増大することが予想されている。

 パワーエレクトロニクスは、パワー半導体デバイスを用いて、電力の形態を、交流から直流へ、直流から交流へ、あるいは周波数を変換する技術である。IEC(国際電気標準会議)では、パワーエレクトロニクスを「電力工学、電子工学および制御工学の技術を総合した電力変換及び電力開閉に関する技術分野」と定義している。電気信号の変換・情報処理を目的としたエレクトロニクスに対して、パワーエレクトロニクスは、電気エネルギーの変換・処理を目的としたものである。

 今後、直流出力の燃料電池等の分散型電源の導入拡大、直流を電源とする情報機器の増大により、図表1に示すように、電力系統とパワーエレクトロニクス機器は、これまで以上に様々な箇所で、インターフェースを形成することが予想される。パワー半導体デバイスにより電力の変換や制御を行うパワーエレクトロニクスは、電力化率の増加により今後増大する電気エネルギーの効率的利用に大きな役割を果たすと考えられている。

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 我が国では、電力システムや燃料電池自動車等に用いられるパワーエレクトロニクス機器の超低損失化・小型化・軽量化を目指して、新しいパワー半導体デバイスの要素技術開発が行われた。この超低損失電力素子技術開発プロジェクト(1998年〜2002年)の次世代パワー半導体デバイス実用化調査委員会では、シリコンカーバイト(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)等の超低損失電力素子の応用分野として、自動車、モータ制御インバータ、CPU電源(注1)、UPS(無停電電源装置)、分散型電源用インバータ、および通信基地局発信素子を想定し、新素子導入に伴う2020年時点での我が国における省エネルギー効果およびCO2排出削減量効果を試算している(図表2参照)。1年間のCO2排出削減量1,093万tは、我が国の1990年のCO2排出量1,119百万tの0.98%に相当し、省エネルギーによる地球温暖化対策として、超低損失電力素子の導入が有効であることを示している。


(注1)CPUに電力を供給する際、パワー半導体デバイスを用いて、交流-直流変換し、さらに直流‐直流変換(DC/DCコンバータ)して、CPUが必要とする電圧に変換している。


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3.パワーエレクトロニクスの応用技術

 図表3に示すように、パワーエレクトロニクスの応用先として大規模型および分散型の電力システム、さらに交通・輸送システム、家電機器・オフィス、産業用機器等の分野がある。本章では、電力システムと交通輸送システムを中心にして、現状の主な適用箇所と今後の技術開発ニーズ、さらに将来的に導入が想定される適用箇所等について述べる。

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3‐1.電力システムにおけるパワーエレクトロニクス利用技術

(1)大規模システム

 我が国の電力の基幹系統では、交流送電系統の他に、「北海道‐本州」「本州‐四国」の直流送電、「50Hz‐60Hz」の周波数変換設備が導入されており、これらの設備ではパワー半導体デバイスであるサイリスタ素子が運転電圧に応じて、多数個、直列接続されて運用されている。このため、機器が大型化しており、高性能パワー半導体デバイスを用いた低損失・小型パワーエレクトロニクス機器の実現が求められている。また米国では、送電系統が複雑であることから特定の送電線が送電限界となる可能性を有しており、送電線利用率向上(潮流制御)、系統安定化を目的に、FACTS(Flexible AC Transmission Systems)という概念が米国電力中央研究所(EPRI)より提唱されている。これは、交流電力システムの弱点を改善するパワーエレクトロニクス機器を用いた電力制御のことであり、自励式SVC(Static Var Compensator:静止型無効電力補償装置)やUPFC(Unified Power Flow Controller)等が、米国を中心に実用化されている。

(2)分散型システム

 近年、新エネルギーやコージェネレーションシステム等の分散型電源が、需要地近傍(配電系統)に導入されるケースが増加している。太陽光発電、燃料電池等の分散型電源は、直流出力のため、パワーエレクトロニクス機器であるインバータを介して直流電力を交流電力に変換し電力系統と連系している。分散型電源用インバータの損失は、Siが6%、新パワー半導体デバイスであるSiCが2%になると試算されている。2010年に、燃料電池220万kW、太陽光発電482万kW、風力発電300万kW3)の新エネルギーの導入が想定されており、また、コージェネレーションシステムも既に650万kWが導入され4)、ESCO事業の伸展により今後も大量のシステム導入が見込まれることから、これらの分散型電源が電力系統とインターフェースを形成するパワーエレクトロニクス機器での損失低減が求められている。

 また、分散型電源が大量に導入された場合に、その出力変動にともなう電圧変動等の電力品質への影響が懸念されており、系統全体として影響を緩和するための方策が求められている。我が国では、電力中央研究所を中心に、パワー半導体デバイスから構成されたループコントローラと呼ばれる装置を用いて系統電圧の適正化や事故電流の抑制を行うための研究が行われている5)

 さらに、我が国の電力系統は交流系統を基本としているが、ルータやサーバ等の直流を電源とする機器の増大や太陽光発電、燃料電池等の原理的に直流出力の分散型電源の導入拡大に伴い、建物内(家庭、オフィス)や需要エリア内で、直流電源を中心とした給電システムを構築しようとする考え方もある。直流電圧の変換に不可欠なDC/DCコンバータもパワーエレクトロニクス機器の1つである。

3‐2.交通・輸送システムにおけるパワーエレクトロニクス利用技術

 近年、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車をはじめとして、低燃費化、低騒音化、排出ガスの低減を目的に、自動車の電動モータ駆動が脚光を浴びている。ガソリンエンジンと電気モータを組み合わせたハイブリッド自動車(HEV)が既に開発販売されており、また、燃料電池自動車(FCEV)の開発競争も盛んに行われ、リース販売も開始されている。さらに、1990年以降、地球環境問題の高まりや米国カリフォルニア州のZEV(Zero Emission Vehicle:無排出ガス車)規制の施行等により、ほとんどの自動車会社が中断していた電気自動車(EV)の開発を再スタートした6)。このように、ガソリンを動力源としてきた自動車が、将来的には、パワーエレクトロニクス機器であるインバータを介してバッテリに蓄えられた電気エネルギーでモータを駆動し動力を得る傾向が大きくなる可能性もある(図表4参照)。

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 さらに、近年の自動車は、車両の安全性や快適性、利便性の追求により、車載電気システムが増加・複雑化している。このため、現状の14V電源システムの電源容量の限界を背景に、電源電圧の42V化も検討されている。パワーエレクトロニクスは、自動車電源の42V化に対応した次世代自動車電源システムの要となるものである(注2)


(注2)14V(42V)は、車両電気システム動作中の回路電圧公称値であり、使用バッテリは12V(36V)。


 また、電車では、ブレーキ時のエネルギーを架線側に返還する電力回生ブレーキが広く用いられている。電力回生ブレーキとは、ブレーキをかけた時、モータを発電機として使用し電車の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、発生した電力を架線に戻し、他の電車の走行等に利用するシステムのことである。この回生時に、パワーエレクトロニクス機器である電車用インバータを介して電力が架線側に返還されている。

 ハイブリッド自動車や燃料電池自動車の本格的普及、電車の一層の省エネを図るために、インバータに用いるパワー半導体デバイスの小型化、軽量化、低コスト化が求められている。

 以上述べたように、パワーエレクトロニクスは、我が国の産業・民生・運輸の各分野で、エネルギーインフラを支える基盤技術となっているとともに、ループコントローラを用いた分散型電力供給システムや直流給電システム等の将来的に導入が想定される電力システムにおいても欠かすことのできない技術となっている。

4.パワー半導体デバイスの開発動向

4‐1.デバイス開発の変遷

 パワー半導体デバイスは、フィルタや冷却装置等から構成されるパワーエレクトロニクス機器において、最も重要な構成要素であり、「オン」と「オフ」の2つの状態を切り替えて使われる。導通損失が少ないほど、また、オン・オフ時の損失が少ない(スイッチング速度が速い)ほど、高効率な電力変換が可能である。

 現在の主要なパワー半導体デバイス材料はシリコン(Si)である。パワーエレクトロニクスの発展のきっかけとなったサイリスタが米国のGeneral Electric社により開発・実用化されたのは1956年である7)。我が国では、1970年頃の電気自動車に関するプロジェクトの成果として、大容量のパワー半導体デバイスの開発に成功し、これにより、欧米に遅れをとっていた我が国のパワー半導体デバイス開発は、世界のトップレベルに躍り出た8)。その後、1980年代後半にかけて、GTO(Gate Turn-Off Thyristor)、光トリガサイリスタ、MOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等が急速に進歩し、小容量から大容量にいたる様々な電力変換ニーズへの対応が可能になった9)(図表5参照)。さらに、1990年代から現在までは、LSIの微細加工技術の導入等により高性能化を目指した研究開発が行われてきた。

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 しかしながら、従来の高性能化手法では、Siの材料限界に近づきつつある。将来的に導入の進展が予測される燃料電池自動車では、インバータの小型・軽量化や冷却系の簡素化による燃費向上が求められている。また、モータ制御においても耐熱性の向上により、モータと一体化したインバータの開発が望まれている。このような技術開発ニーズを背景とした「超低損失電力素子技術開発」プロジェクトでは、SiC、GaN等の新材料を対象にしている。プロジェクトの事後評価報告書1)によると、基盤技術開発として、結晶の大口径および高品質化等の開発が行なわれ、また素子化技術としては、SiC基本素子においてSi素子の1/10以下のオン抵抗、10倍以上の電力密度が実証されたとしている。実用化に向けては、基板の低コスト化、実装技術、周辺技術の開発等の様々な課題を有している。

4‐2.SiCパワー半導体デバイスの適用効果

 SiC半導体は、バンドギャップがSi半導体の約3倍、絶縁破壊電界が約10倍、熱伝導率が約3倍と、パワー半導体デバイスとしての性能指数が優れている。素子が開発されれば、高耐圧化、高速動作化、電力変換損失の低減、高温動作化への対応が可能である。例えば、高温動作化を例にとると、高バンドギャップにより1,500℃以上の高い温度まで半導体の性質を維持でき、400℃以上の高温動作が期待できる10)。SiC半導体を用いることによるパワーエレクトロニクス機器の小型化等の性能向上の可能性を以下に示す。

(1)高耐圧化

 現在のパワーエレクトロニクス機器は、デバイスの耐圧が、高いところで6〜8kV程度であり、定格直流電圧が250kVの紀伊水道HVDC(High Voltage DC)のようにこれ以上の耐圧を必要とする場合は、デバイスを直列接続して等価的に高耐圧デバイスを実現している。SiC半導体の絶縁破壊電界がSi半導体の約10倍であることから、10倍程度の高耐圧化が期待されている。デバイスが高耐圧化されれば、直列デバイス数を削減することができ、機器の小型化につながるとともに、導通損失やスイッチング損失の低減が可能となることから、低損失化にもつながる。

(2)高速動作化

 スイッチングデバイスの高速動作化とは、高周波数化を意味する。絶縁破壊電界が高くなると層の厚さを薄くできることから、デバイスの長さ(キャリア走行長)を短くでき高速動作化が可能となる。また、トランス等の磁気部品を有する場合は、スイッチング周波数に逆比例してパワーエレクトロニクス機器の小型化が可能となる。さらに、高速動作化により制御能力が向上し、入出力電圧・電流波形の改善、高調波の抑制につながり、フィルタ装置の省略や小型化が可能となる。

(3)電力変換損失の低減

 デバイスが低損失ということは、パワーエレクトロニクス機器の低損失化に大きな影響を与える。SiC半導体は、電力変換損失が、理論的にSi半導体の100〜300分の1になるといわれている。絶縁破壊電界が高くなると層の厚さを薄くできることなどから、電気抵抗が大幅に低減され、低損失化が期待できる。

(4)高温動作化

 デバイスが高温領域でも動作可能ということは、パワーエレクトロニクス機器の冷却設計の自由度が増すことを意味する。従来デバイスでは、熱的な制約からある程度のデバイス面積を必要としていた。また、デバイス冷却を水冷式から空冷式へ簡略化することにより、機器の小型化を図ることが可能となる。例えば、ハイブリッド自動車では、冷却系が放熱器等からなる非常に多くの部品から構成されており、小型化が実現すれば、燃費上昇も期待できる。

5.我が国の現状

5‐1.産業界の構造変化

 これまでの我が国のパワーエレクトロニクス技術の進展は、重電メーカを中心とした産業界の貢献によるところが大きいが、現在、我が国の重電産業は、日本経済が停滞する中、厳しい経営環境に置かれている。

 パワーエレクトロニクスは、自動車、家電機器のような個々の消費者の購買意欲を誘うアメニティ指向の分野においても利用されているものの、主に電力システムのようなエネルギーインフラに利用されており、社会インフラ型の技術としての意味合いが強い。我が国では近年、電力会社を中心とする国内の投資抑制に伴う受注の減少等を背景にして、電力系統事業に関して、重電メーカの2極化が進行している((株)東芝+三菱電機(株)→TMT&D(株)、(株)日立製作所+富士電機(株)+(株)明電舎→(株)日本AEパワーシステムズ)。

 これまで急速に増大してきた我が国の電力需要に対応するため発展してきた重電産業は、日本国内の電力需要の飽和に伴う新規事業の減少、中国を中心とする開発途上国の電力需要の増大等を背景に、新たな転換期を迎えている。

 すなわち、国内においては、事業をいかにして維持するのかが課題となっており、追加的コストの発生する新しいパワー半導体デバイス開発には積極的に投資できない状況となっている。また、海外展開についても、世界の価格競争が激化している中で、どのようにして事業拡大を図るかが課題となっている。

5‐2.大学における人材教育と電気学会の取り組み

 ハード指向のパワー半導体産業(パワーエレクトロニクス)に興味を抱く学生は、半導体産業(エレクトロニクス)に対して興味を抱く学生よりも少ない。1973年に米国のNewellが発表した「パワー(電力・電気機器)とエレクトロニクス(デバイス、回路)とコントロール(制御)の3つの技術分野が完全に融合したもの」との定義が示すとおり、パワーエレクトロニクスはこれらの技術分野の発展に支えられ進化し、そのカバーする領域は多様化、複雑化している11)

 「何をパワーエレクトロニクスの基礎と捉えるか?」「学生に対して動機付けを行える魅力ある講義とは?」「パワーエレクトロニクスの領域の広さ、重要性をいかにして伝えるか?」等について、教育現場において、議論がなされている。

 一方、電気学会では、パワーエレクトロニクス教育方法について実例調査を含めた調査研究を行い、その改善指針を得ることを目的として、「パワーエレクトロニクス教育調査協同研究委員会」(2000.4〜2002.3)、「IT時代のパワーエレクトロニクス教育調査協同研究委員会」(2002.10〜2004.9)を設置している12)。パワーエレクトロニクス教育を今後一層魅力あるものにするためにどの様な観点が必要かという問題意識のもと、(1)カリキュラムとシラバスの内容の取捨選択と整理、(2)学生の興味を喚起するマルチメディアの効果的な活用法、(3)ハードとソフトの適切なバランス、(4)シミュレーションの効果的な利用法、(5)国際舞台での活躍を視野に入れての徹底的な訓練、等について議論が行われている。

6.研究動向

 パワーエレクトロニクスに関する国内外の研究動向を把握するために、パワーエレクトロニクスに関する国(地域)別の論文数比較を行った(図表6参照)。Thomson ISI社の論文データベースから、論文のタイトル・概要・キーワードのいずれかに、パワーエレクトロニクスに関するキーワードである「power electronics」「power electronic」「power semiconductor」のいずれかを含んでいるものを抽出した。検索対象期間は、1999年から2003年までの5年間とした。また、論文が2カ国以上の国による共著の場合は、それぞれ1件としてカウントした。

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 5年間の論文数は、EUが268件とトップで、次いで米国が246件、日本が62件、中国が47件、図表には示していないが、カナダが30件、台湾が22件、オーストラリアが20件、と続いている。論文数から推測すると、パワーエレクトロニクス研究に関して、米国と欧州の2極化が進行しており、それに続いて、我が国と中国がほぼ同レベルで推移している(1999年の中国は香港を含む)。また、日本、中国を含めたアジア諸国を累計すると点線に示すようになり、米、欧に次ぐ勢力となり得る可能性を示している。

 我が国の状況を見ると、重電メーカ、電力会社等の産業界の参画する論文が37件、大学が参画する論文が35件あり、産業界と大学の参画数は、ほぼ同じレベルにある。論文執筆が産業界よりも重視される大学と比較して、産業界の論文数が同レベルにあるということを見ても、パワーエレクトロニクスに対する産業界の貢献が大きいと言える。

 次に、パワーエレクトロニクス機器の重要な構成要素であるパワー半導体デバイスの国内外の研究動向を把握するために、上記論文のうち、デバイス材料であるSi(“Si”または“Silicon”)、SiC(“SiC”または“Silicon Carbide”)、GaN(“GaN”または“Gallium Nitride”)をタイトル・概要・キーワードのいずれかに含む論文の件数を図表7に示す。件数は、Si、SiC、GaNのいずれも、米国、EU、日本、中国の順となっており、特に米国では、SiCやGaN等の新パワー半導体デバイスに関する研究が他の国(地域)よりも活発であることが分かる。

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 また、欧米では、パワーエレクトロニクス分野での大学と産業界との連携が促進されている。

 米国では、全米科学財団(NSF)のエンジニアリング研究センターの1つとして、1998年8月にCPES(Center for Power Electronics Systems)が設立された13)。5大学からなるコンソーシアムが形成され、各大学は専門的技術領域を有し、統合システムプログラムにおいて強力な学際的アプローチを形成し、80以上の企業と産業協力プログラムにより連携を図っている。また、欧州でも、パワーエレクトロニクスに関する研究、教育、技術移転等を促進することを目的に、ECPE(Engineering Center for Power Electronics)が設立されている14)

7.おわりに

 パワーエレクトロニクスは、エネルギーインフラの基盤技術であるとともに、電力システムや自動車等に用いられる様々な機器の超低損失化・小型・軽量化等のニーズへの対応が可能な技術であり、エネルギー・環境問題を解決する技術として重要である。

 我が国では、過去にSiを用いた大容量パワー半導体デバイス開発に成功し、パワーエレクトロニクス技術で世界のトップレベルに躍り出た。現在は、Siの性能を上回ることを目的とした「超低損失電力素子技術開発プロジェクト」が終了し、今後の展開を考慮すべき段階にきている。今後は、材料開発に重点が置かれていたこれまでのプロジェクトに続く実用化を見据えたプロジェクトの企画・検討が必要である。これまでに得られた新材料に関する研究開発成果を実用化に結びつけていくという観点のもと、デバイス開発からシステム応用にいたる一連の研究開発を継続して行う必要がある。

 パワーエレクトロニクスのカバーする領域は、電力システム、交通・輸送システム、家電機器等、多様化している。このため、各分野に必要とされる技術開発ニーズを踏まえてロードマップを検討し研究開発を推進すべきである。我が国の電力システムでは、近年の分散型電源の導入拡大にともなう電力品質への影響が懸念されていることから、特に、分散型電源大量導入時の電力系統の安定化に資するパワーエレクトロニクス機器の実用化に向けた取り組みを急ぐべきである。

 パワーエレクトロニクスはこれまで、重電メーカを中心とした産業界が中心となって技術開発が進められてきたが、企業単体では、新しいパワー半導体デバイス開発に積極的に投資できない状況にある。また、その企業に人材を供給する大学においても人材教育の面で課題を有している。さらに、論文数から推測すると、欧米では、我が国よりもパワーエレクトロニクスに関する研究が活発であり、産学連携も着々と進行している。また、今後電力需要の増大が予想され、本技術の波及効果が大きいと考えられる中国もパワーエレクトロニクスに関する論文数比較で我が国と既に同じレベルにある。実用化を見据えたプロジェクトは、パワーエレクトロニクス技術の次世代を担う研究者・技術者の養成を産学官が一体となって行うという視点のもとで推進されるべきである。

謝 辞

 本稿は、科学技術政策研究所において、2003年11月6日に行われた、電気学会会長・武蔵工業大学教授・深尾正氏による講演会「パワーエレクトロニクスとエネルギーマネジメント」をもとに、我々の調査を加えてまとめたものである。東京工業大学原子炉工学研究所・嶋田隆一教授、東京工業大学大学院理工学研究科・大橋弘通教授、産業技術総合研究所パワーエレクトロニクス研究センター・荒井和雄センター長、産業技術総合研究所電力エネルギー研究部門・ 石井格総括研究員にも各種資料のご提供あるいは貴重なご意見をいただきました。ここに深く感謝いたします。


参考文献

1) 新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術総合研究所、超低損失電力素子技術開発事後評価報告書、2003年8月

2) 総合エネルギー統計、資源エネルギー庁、平成13年度版

3) 総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会、今後の新エネルギー対策のあり方について、2001年6月

4) 日本コージェネレーションセンターホームページ:http://www.cgc-japan.com/japanese/info/info01.html

5) 例えば、小林、七原、石井、21世紀の電力系統―需要地系統の構築―、OHM、2002年3月

6) (株)日本自動車研究所ホームページ:http://www.jari.or.jp/ja/denki/denki.html

7) 赤木泰文、21世紀のパワーエレクトロニクス技術の展望と期待、電気学会誌、121巻1号、2001年

8) 高電力用固体デバイスに関する研究開発専門委員会報告書、日本学術振興会、1999年3月

9) 大橋弘通、最新のパワーデバイスの動向、電気学会誌、122巻3号、2002年

10) 菅原良孝、次世代半導体SiCパワーデバイスの開発動向、電気評論、2003年4月

11) 植田、大口、松井、新世紀におけるパワーエレクトロニクス教育を考える、電気学会論文誌D、122巻6号、2002年

12) 松井、大口、パワーエレクトロニクス教育の現状と課題、OHM、2003年4月

13) CPESホームページ:http://www.cpes.vt.edu/

14) ECPEホームページ:http://www.ecpe.org/en/index.html