[特集3]

新計測技術: マルチプローブシステム
- ナノ・生体材料の機能の直接計測を目指して -

客員研究官  長谷川 剛

材料・製造技術ユニット 多田 国之


1.はじめに

 科学技術の進歩は、新しい計測技術の開発と一体となっている場合が多い。新しい現象の発見やその解明には、新しい装置の存在が不可欠と言っても過言では無いからである。ノーベル賞に輝いた数多くの研究者がこれを実証している。例えば、最近の我が国のノーベル賞受賞者を見ても、「スーパーカミオカンデ」を開発して超新星からのニュートリノ検出を実現した東大名誉教授小柴昌俊氏(2002年、物理学賞)1)は、まさにこれを実践している。さらに、計測技術の開発そのものが高い評価を受ける場合もある。「脱離イオン化法」を開発して生体高分子の質量分析を可能にした島津製作所フェロー田中耕一氏(2002年、化学賞)2)は、その端的な例である。オリジナリティーの高い研究をする上で、新規計測技術の開発が如何に重要であるかが分かる。

 本稿では、技術立国を標榜する我が国にとって重要なナノテクノロジーやバイオテクノロジー分野において、新しい研究領域を開拓すると期待されている装置「マルチプローブシステム」を取り上げ、その概要と現在の開発状況を紹介する。

 ナノテクノロジーやバイオテクノロジー分野では、生体材料やナノ材料などの新規材料の導入によって、それらに特有な機能を利用することで、従来にない技術や製品の開発が目指されている。このような研究・開発においては、それら新規材料の機能を知ることが真っ先に求められる。従来装置では不可能であったこれら新規材料の機能の測定をマルチプローブシステムは可能にし、新たな研究手法、ひいては新たな研究分野を創成するものと期待されている。

2.マルチプローブシステムの概要

 マルチプローブシステムとは、複数本の微細探針(プローブ)を生体材料やナノ材料などに直接接触させて、信号伝達などの電気特性や、化学的、力学的特性などの機能を測定するための装置である。その基盤技術は、1本のプローブを用いる走査プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)3)にある。

 SPMは、試料表面の個々の原子の直接観察を初めて可能にした装置であり、その発明後、瞬く間に幅広い研究・開発分野で用いられるようになった。SPMを発明した研究者は、他の例にもれず、ノーベル賞(1986年、物理学賞)4)を受賞している。これに対して、マルチプローブシステムは、SPMの技術を基盤とはしているが、プローブを複数にすることにより、1本のプローブでは決して為し得なかった、ナノ・生体材料の機能の直接測定を可能にする装置である。すなわち、図表1に模式的に示すように、1本のプローブではプローブ直下の情報しか得ることが出来ないが、複数本のプローブを用いれば、入力に対する信号伝達の様子など試料全体の情報を得ることが出来る。しかも、原子分解能を有するSPMを基盤技術とすることで、ナノスケールの空間分解能でそれが可能になるのである。このため、マルチプローブシステムは、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー分野において新たな研究手法を提供するものと期待されている。

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 以下では、マルチプローブシステム、並びにその基盤技術であるSPMの概略を述べる。

2‐1.走査プローブ顕微鏡(SPM)

 マルチプローブシステムの基盤技術であるSPMは、1本のプローブを試料表面上で走査することによって試料表面の情報を得る装置である。SPMには、プローブ・試料間に流れるトンネル電流をプローブの位置制御に用いる走査トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)や、プローブ・試料間に働く原子間力をプローブの位置制御に用いる原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)などがある。

 最初に開発されたSPMはSTMであり、1982年、IBMの研究者らによって開発された5)。1ナノメートル程度の距離までプローブを試料に接近させると、トンネル効果によりプローブ・試料間にトンネル電流が流れる。このトンネル電流の大きさは、プローブ・試料間の距離に依存しており、例えば、1ナノメートルのプローブ・試料間距離をわずか0.1ナノメートル短くしただけで、トンネル電流の大きさは10倍になる。このため、トンネル電流の大きさが一定になるようにプローブ位置(高さ)を制御することで、プローブ・試料間距離を一定に保つことが出来る。例えば、トンネル電流の大きさを数%の誤差の範囲内で一定に保てたとすれば、それは、0.001ナノメートル(原子の大きさの1/100)の精度でプローブ・試料間の距離を一定に保てたことを意味する。その上で、プローブを試料表面に沿って走査すれば、プローブはあたかも試料表面をなぞるかのように移動する。その動きを画像化することで、表面の観察が出来るのである(図表2参照)。トンネル電流がプローブ・試料間の距離に敏感なため、試料表面上の個々の原子を直接観察することが出来る。

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 これに加えて、STMは、プローブ・試料間の電流・電圧特性から電子のエネルギー状態を知ることが出来るなど、多様な物理情報を得ることが出来るという特徴がある。また、単なる観察装置としてだけではなく、プローブ・試料間の相互作用を利用した原子操作等による微細加工手段としても用いることが出来る3)。このため、STMは、瞬く間に、幅広い分野で用いられるようになった。その拡がりは、今日のナノテクノロジーを開花させたと言っても、決して過言ではない。この貢献により、STMの発明者は、ノーベル賞を受賞するに至ったのである。

 この他SPMには、カンチレバーと呼ばれる片持ち梁型の微細な検出器を用いてプローブ・試料間に働く微弱な力(原子間力)を検出してプローブの位置制御を行うAFMや、鋭利な先端を有する光ファイバーをプローブとして用いて近接場光と呼ばれる試料表面近傍のみに存在する特殊な光を検出してプローブ位置制御を行う走査型近接場光顕微鏡(SNOM: Scanning Near-field Optical Microscope)などがある。これらを用いれば、トンネル電流を流せない絶縁体試料にも対応できる他、硬さの測定、発光特性など、STMでは測定できない様々な物理量をナノスケールの空間分解能で測定することが出来る。

2‐2.マルチプローブシステム開発の背景

 デバイスなど機能を有するものの開発においては、その機能の確認が絶えず必要である。例えば、今日の半導体デバイス開発でも、プローバーと呼ばれる装置を用いてトランジスタの動作特性測定などが行われている。この方法では、ミクロンスケールの先端を有する複数のプローブをチップ表面のサブミリメートルオーダーの測定用電極に接触させて測定を行う。このため、このような測定用電極が用意されたTEG(Test Element Group)と呼ばれる動作確認用の素子の測定しか行えない。実際の演算に用いられる個々のトランジスタの動作測定を測定しようとすると、0.1μm×0.1μm以下の領域に複数本の微細プローブをアプローチする必要があり、従来の装置では測定できない。

 将来のデバイスであるナノデバイス開発においては、アプローチさせるべき領域はさらに小さくなる。加えて、カーボンナノチューブやDNAなどの新規材料を用いるナノデバイス開発では、配線接続の技術さえ開発されていない場合が多く、機能の測定には、測定物に探針を直接アプローチさせる以外に手はない。この課題を解決する方法として、ナノスケール領域へのアプローチが可能なSPMプローブを複数本用いるマルチプローブシステムが検討され、一部では既に基礎実験が進められている。なお、電気特性などの測定にあたっては、プローブと試料の直接接触を必要とする。このため、SPMのナノスケール精度でのプローブ制御技術を応用したナノコンタクト技術の開発も進められている。また、マルチプローブシステムは、抗体抗原反応やイオンの伝達など、様々な現象を高い空間分解能で明らかに出来ることから、医療応用でも期待されている。

 マルチプローブシステムは、機械的には、複数のSPMを搭載した装置である。しかしながら、複数プローブの相対位置関係の制御や、プローブ間の信号のやり取り、プローブ制御と測定システムとの連携など、従来装置にはない新たな制御手法の開発が必要となっている。この開発には、膨大なノウハウの蓄積と開発期間が必要とされるため、計測器メーカー単独での開発は困難である。現在のところ、装置開発は、一部の研究者らの努力に頼っているのが実状である。以下では、マルチプローブシステムの応用例をいくつか紹介し、ナノテクノロジー分野、バイオテクノロジー分野におけるその位置付けを明らかにする。

3.マルチプローブシステムの応用例

 3‐1. ナノ材料の電気伝導度の直接計測

 近年、ナノテクノロジーの進展により、カーボンナノチューブやDNA等のナノ材料を用いたナノデバイスの研究開発が盛んに行われている。これらの研究においては、用いるナノ材料の機能測定が最重要課題となっている。例えば、カーボンナノチューブには様々な種類があり、その種類によって、金属、半導体、絶縁体のいずれにもなり得ることが報告されている。このため、実際にデバイス化に用いるカーボンナノチューブがどの特性を示すのかは極めて重要な問題である。しかしながら、それを知る術は確立されていない。また、DNAの電気伝導度に至っては、諸説紛々であり、全く解明されていないと言っても過言ではない状況である。

 これらナノ材料の電気伝導度を直接測定するためには、ナノ材料のサイズに合わせた測定システムが必要となる(図表3参照)。例えば、一般的な電気製品に用いられている大きさ1cm程度の抵抗体の抵抗値は、一般的なテスターで測定できる。これに対して、半導体デバイスなどの特性を測定しようとすると、ミクロンスケールの先端を有するプローブを用いるプローバーと呼ばれる装置が必要となる。さらに、ナノスケールの構造の特性を測定するためには、ナノスケールの先端を有するプローブを搭載したマルチプローブシステムが必要となり、装置開発が研究者らによって行われている。

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 マルチプローブシステムを用いたナノ材料の最初の測定例は、C物質・材料研究機構のグループによって為された、幅わずか3ナノメートルのErSi2細線の電気伝導度測定である6)。彼らが測定した細線の材料であるErSi2は、サイズの大きいバルク状態では金属的な電気伝導度を示す。しかし、測定された細線状態の電気伝導度は、金属的ではあるもののバルクから予測される値よりも1桁大きく、ナノスケール特有の現象が電気伝導度に関与していることが明らかになっている。このように、ナノ材料の特性は従来材料の延長線上に無く、その利用に当たっては特性測定が不可欠なのである。マルチプローブシステムは、今のところ、これを可能にする唯一の手法であると考えられる。

3‐2.生体材料の機能の直接計測

 生体材料を用いたナノデバイスの開発は勿論のこと、医療技術開発への応用にもマルチプローブシステムの寄与が期待されている。例えば、抗体・抗原反応などに際して生体材料がどのような機能を発現するのかや、生体材料内部での巧妙な信号伝達や物質輸送のメカニズムの解明が、マルチプローブシステムを用いると可能になると考えられている。

 上述のナノ材料の電気伝導度測定では、微細探針はナノ材料の表面に接触させていたが、生体材料の機能測定では、生体材料の内部の情報を知る必要性も出てくる。このため、カーボン・ナノチューブや金属ナノロッドなどの細くて長い探針の開発や、その先端部以外を絶縁性の材料で被覆することで、先端部(生体内部)のみの情報を抽出する方法などが検討されている。また、プローブの先端に抗体などの特定の生体材料を取り付け、反応による質量変化から、特定の抗体抗原反応などを検出する方法なども検討されている。また、プローブとして光を検出できるものを用いれば、発光現象を捕捉することで、化学反応を検出することもできる。これらを、3次元(空間)的にプローブを配置し、その時間変化を測定することで、生体材料の機能測定を4次元で行うことが出来る。

 図表4に、マルチプローブシステムを用いた生体材料の機能測定の模式図を示す。細胞内オデッセイと名付けられたこの計画は、マルチプローブシステムを用いて、細胞内へ信号を入力し、光や電子励起反応、電流などの時空間分布(4次元情報)を計測して、入力信号に対する細胞内の変化を捕捉しようとするものである。細胞活性を保持する環境下での測定を実現することで、生体材料の機能をより正確に測定できるものと期待されている。

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3‐3.現在の半導体デバイス開発への応用

 マルチプローブシステムは、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー分野において新たな研究分野を創出するだけでなく、既存の半導体デバイス開発にも多大なる貢献が期待されていることを述べておく。

 現在の半導体デバイス開発は、設計、製造、評価、設計・製造プロセスの変更のループを繰り返すことで行われる(図表5上側のループ)。従来、デバイスの動作確認(評価)は、全ての製造工程が終了した段階で、すなわち、完成品に対して行われてきた。この場合、製造開始から評価終了までおよそ50日ほどかかる。これに対して、(株)日立製作所、および(株)ルネサステクノロジでは、マルチプローブシステムを応用した製造工程途中での動作確認の導入により、デバイス開発期間短縮の試みが行われている7,8)。すなわち、マルチプローブシステムを用いることで、トランジスタなどの主要な構造の製造が終わった段階での動作確認が可能になり、設計変更、製造プロセス変更へのフィードバックがより早く出来るようになるというものである(図表5下側のループ)。この場合には、製造開始から20日ほどで評価が終了するので、デバイス開発の1ループに要する日程が半分以下になる。例えば、半年要していた開発期間が3ヶ月になる訳である。デバイス開発では、如何に早く製品開発と歩留まり(良品の取得率)の向上を達成できるかが利益に直結するため、マルチプローブシステムの導入による開発期間短縮の効果は極めて大きい。

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4.国内外の開発状況

 マルチプローブシステムの開発を行っている主な機関を図表6に示す。国内外ともに、研究機関(民間の研究機関を含む)が多数を占めている。これは、最先端の研究・開発を行うために、研究者らが自ら装置開発を始めたことを意味している。マルチプローブシステムは、単にSPMのプローブ数を増やしただけの装置と思われがちであるが、測定対象が構造から機能へと変わったことで、開発の難易度が桁違いに高くなっている。このため、開発に着手したものの、その困難さから開発を中断した研究機関もあった。しかし、前節で紹介した測定例に触発されて、開発に着手する機関は確実に増えている。

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 図表6に示すとおり、国内の研究機関による開発が多いが、これは、マルチプローブシステムのプロトタイプ開発に最初に成功したのが、国内の研究機関であることに起因している。特に、具体的な測定データを発表している機関は、現在のところ国内に限られている。すなわち、研究機関による装置開発では、今のところ、日本は世界をリードしている状況にある。

 一方、製造メーカーの国内外の開発状況に着目すると、メーカー数では、やはり、国内メーカーが多数を占めている。しかし、国外で唯一開発を進めているオミクロン社(ドイツ)は、既にプロトタイプを製品化、販売を始めている。国内のメーカーも研究機関と組んだ装置開発を進めてはいるが、市販するレベルにまでは達していないのが現状である。

 マルチプローブシステムでは、複数のプローブを如何に制御して測定を行うかが重要である。その制御システムの開発に当たっては、実際に研究に用いることによってしか得られないノウハウの膨大な蓄積が必要であり、研究能力と装置開発能力の両方が同時に要求される。すなわち、計測器メーカーが単に複数プローブを搭載した装置を製作しただけでは、マルチプローブシステムとして機能しない。最先端機器の場合、プロトタイプを製品化することで、市場(研究者)からのフィードバックを受け、より完成度の高い製品に仕上げて行くという手法が取られる場合があるが、マルチプローブシステムも、この手法による製品開発が進められていると言ってよい。市販装置を購入しただけの研究機関からのデータの発表が無いのは、プロトタイプの完成度が未だ低いためである。なお、図表6には、市販装置を購入しただけの研究機関は含まれていない。

 研究機関による開発でリードしている我が国には、マルチプローブシステム開発に不可欠なノウハウが十分蓄積されており、製品化競争において、逆転、リードできる可能性が十分残されている。研究者と装置開発者とが一体となった開発が求められる。

5.研究・開発における新規計測・分析機器開発の重要性

 研究・開発で他国をリードし、いち早く産業化に結びつけるためには、先端的な計測・分析機器の存在が欠かせない。独創性の高い研究の裏には、独自開発した先端機器の存在がある場合が多い。これは、ノーベル賞に輝いた研究の多くが、新計測手法の開発などと一体となっていることからも伺い知れる。また、身近な例では、ナノテクノロジーにおいて極めて重要な材料と位置づけられるカーボンナノチューブは、日本で発見されたが、これは、日本が世界をリードしている電子顕微鏡技術による所が大きい。

 しかしながら、現在の国内の研究現場に目を向けると、使用されている計測・分析機器の多くが、海外で開発・製品化されたものである。特に、最先端の装置ではその傾向が強い。図表7に、国内で使用されている主な先端計測・分析機器の国内・国外企業別シェアを示す。現在最も重要な研究・開発分野の一つである生体材料分野の先端機器が、国外企業によってほぼ独占されている。国内企業が多数のシェアを占めている機器でも、高性能の機器については、国外企業がリードしている場合が少なからずあり、例えば、本稿で取り上げたマルチプローブシステムの基盤技術である走査型プローブ顕微鏡もその一例である。

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 海外製品の購入による先端計測・分析機器の整備は、単に予算の海外流失にとどまらず、研究・開発分野における敗北に直結しかねないことを認識する必要がある。これまでに、先端分析技術・機器開発に関する検討会(文部科学省)を始めとして、先端計測・分析機器開発のてこ入れを行う施策が検討されているが、早急、かつ着実な施策の実行を求めたい。その際、独創性が高く、新たな研究・開発分野を開拓する可能性のある新規な機器の開発、並びに、従来機器の性能向上によって、研究・開発分野に新たな手法を提供しうる機器の開発に重点を置くべきであることを述べたい。

 特に、従来機機の性能向上化では、それにより、どんな新しい研究・開発が可能になるのかの見極めが重要である。例えば、電子顕微鏡開発の歴史で言えば、同じ10倍の分解能向上でも、10ナノメートルから1ナノメートルの時と、1ナノメートルから0.1ナノメートルの時では、研究・開発分野に与えた影響は大きく異なる。後者では、原子が初めて見えるようになり、今日のナノテクノロジーの始まりとも言える研究を可能にしたのである。また、本稿で取り上げたSTMには、それ以前にトポグラファイナー9)と呼ばれる装置の原型があった。装置構成は殆ど同じであったが、トポグラファイナーの分解能はサブミクロンスケールであったため、STMのようなインパクトを研究分野に与えることは出来なかった。STMは、原子分解能を実現したことで、広く用いられるようになったのである。

6.まとめ

研究・開発において他国をリードするためには、新規計測・分析機器の独自開発が欠かせない。例えば、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー分野では、生体材料やナノ材料などの新規材料の導入によって、それらに特有な機能を利用することで、従来にない技術や製品の開発が目指されている。この推進には、それら新規材料の機能を知ることが真っ先に求められるが、その測定は従来装置では不可能である。本稿では、これら新規材料の機能の測定を可能にし、新たな研究手法、ひいては新たな研究分野を創成するものと期待されているマルチプローブシステムを紹介した。

 マルチプローブシステムは、走査プローブ顕微鏡(SPM)のプローブを複数本搭載した装置であり、複数プローブの総合制御により、SPMでさえも不可能なナノスケールでの機能の直接測定を可能にする。始まったばかりのこの装置開発では、幸いなことに、日本が一歩リードしている。マルチプローブシステム開発の成否は、測定手法の開発も含めた複数プローブの総合制御手法の開発にある。このため、マルチプローブシステムの開発では、従来機器以上に、ユーザーである研究者と装置メーカーとが一体となった開発が必要である。現在のリードを生かし、ナノテクノロジー、並びにバイオテクノロジー分野で他国を圧倒するために、これを強力に押し進める施策が望まれる。

謝 辞

 本稿を纏めるにあたり、適切なアドバイスに加え、資料の提供をして頂きました(独)物質・材料研究機構の中山知信氏、ならびに(株)日立ハイテクノロジーズの三井泰裕氏に感謝致します。


参考文献

1) http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/index_j.html

2) http://www.shimadzu.co.jp/aboutus/nobel/

3)森田清三著、走査型プローブ顕微鏡 丸善

4) http://www-1.ibm.com/ibm/history/catalog/itemdetail_802000213.html

5) G. Binnig, H. Rohrer, Ch. Gerber and E. Weibel,“7×7 reconstrruction on Si(111)resolved in real space”, Phys. Rev. Lett. 50, 120(1982).

6)青野正和、他著、ナノワイヤーの電気伝導、学術月報54、989 (2001)

7)Y. Mitsui, et al., ‘Physical and Chemical Analytical Instruments for Failure Analyses in G-bit Devices’, International Electron Devices Meeting 1998. Technical Digest, IEEE, 1998 pp329-32.

8)尾内亨、他著、最先端半導体プロセス・製造技術の展望、日立評論2003年4月号5頁

9)R. D. Young, J. Ward and F. Scire, “The topografiner: An instrument for measuring surface micro-topography”, Rev. Sci. Instrum. 43, 999(1972)