[特集2]

地球監視・観測衛星の動向
―衛星の縦列編隊飛行による監視・観測の高度化―

客員研究官 小林 博和

環境・エネルギーユニット  浦島 邦子


1.はじめに

 衛星を利用した地球の監視・観測は、天候や国境等の障害もなく、地球の状況を広い範囲でかつ短時間に把握することができるという特徴を持つ。

 わが国が人工衛星を用いて行っている各種の事業は、その目的として、通信衛星等の社会的インフラ整備、気象衛星等国民へのサービス、資源探査衛星等将来の資源の探索、情報衛星や地球監視・観測衛星等を用いた国土の安全の確保、宇宙探査衛星等の科学研究、各種技術衛星等の宇宙関連技術開発等、多岐にわたっている。

 中でもわが国の安全を守るための衛星事業は、単独にわが国の国土を監視するのみならず、地球温暖化問題や水問題、食料問題はおろか、地政学的な問題をも含んで東アジア地域、さらには地球全体までも視野に入れる必要があることが認識されている。このような情勢にあって、地球監視・観測衛星による事業は、科学研究を目的とするのみならず、わが国の安全を守り、かつそのための政策を決定するために必要な情報を取得するという意味からもその重要性を増している。

2.衛星の縦列編隊飛行

 衛星を利用した地球監視・観測を実行するために、従来は大型の衛星バス(1)に、多数の観測センサを搭載する方式が一般的であった。例えばわが国の地球観測衛星ADEOS‐II(2002年12月14日打ち上げ)は、重量が3.7トンで5種類の観測センサを搭載し、欧州宇宙機関(ESA)の地球環境観測衛星ENVISAT(2002年2月28日打ち上げ)では、実に重量8.2トンで10種類の観測センサを搭載している。


(1)衛星バス
 衛星に搭載される各種観測センサなどを除いた、衛星の基本システムをいう。


 一方、このような大型衛星に多数の観測センサを搭載するという方式に代わって、比較的少数(1ないし数個)のセンサを搭載した小型の衛星を縦列にして、編隊飛行(formation flyingあるいはformation flight)させるという方式が、NASA等から提案されている。この場合、衛星軌道の性質から衛星の編隊飛行は、飛行機の編隊飛行と異なって別の軌道を平行して運動するのではなく、同一の軌道上にを複数の衛星がある距離を保って並び、列車のように地球を周回する。地球のある地点から見れば、数十秒から十数分程度の短時間に上空に次々と衛星が飛来することとなる。

 従来、このように編隊飛行をする衛星間の位置制御は、必ずしも容易な作業ではなかったが、GPS受信機を衛星に搭載するようになって、編隊飛行の制御に必要な精密な衛星位置と時刻が利用できるようになった。この縦列形の編隊飛行は、衛星観測という手法に新たな展開をもたらすと期待されている。

 例えば、NASAは先頭にAqua衛星を、最後尾にはAura衛星を並べた衛星の編隊飛行の計画を持っており1)、この計画の推進事業を“Taking the A-train(2)”と呼んでいる(図表1)。A-trainに先がけて、既に軌道上にある衛星のデータの活用を図って、同じ軌道に後続の衛星を打ち上げ、結果として編隊飛行をさせている例としては、現在Landsat‐7を先頭に、EO‐1、SAC‐C、Terra衛星(3)の例を挙げることができる。これらの衛星は同じ軌道上に、30分間の時間差の範囲(軌道修正の状況により変化する)に運用されている。


(2)Taking the A-Train
 ビリー・ストレイホーンの代表作で、デュークエリントン楽団のオープニング・テーマとして有名な「A列車で行こう」のもじりである。

(3)Landsat-7、Terra、EO-1、SAC-C
 Landsat-7は1999年4月15日打ち上げ、Terraは1999年12月18日に、EO-1とSAC-Cは2000年11月21日に同時に打ち上げられた。


chart1

chart2

3.地球監視・観測センサと衛星バスとの関係

 3‐1. 大型衛星バスと複数衛星バスの間の得失

 1つのバスケットにたくさんの卵を盛るな、という格言は、しばしば大型衛星に搭載される数多くのセンサを卵にたとえて、そのリスクの議論に引き合いに出されることがある。これは、衛星打ち上げの失敗確率が現在もなお極めて高いことに起因する議論である。例えば有人宇宙輸送システムとして、高い設計安全率を持つスペースシャトルでさえ、その打ち上げ成功率の設計値は99.5%(これまでの109回の打ち上げで2機失われているので実際の成功割合は98%)である。

 これが衛星を使った地球監視・観測事業は、現在もなお打ち上げリスクを常に考慮しなければならないことの理由である。ただし、衛星を使った地球監視・観測はセンサがその主体であり、衛星バスはあくまでこれを支える重要な土台であるので、ここからセンサをどのように衛星に搭載すべきかの問題が生まれる。例として、最初に複数のセンサを単一の衛星で打ち上げるか、それぞれを別々に打ち上げるかの利害得失を考えてみる。ここで3個のセンサを打ち上げる計画があって、仮に打ち上げの成功率を k=0.9とする。単一衛星バスに全てのセンサを搭載すると、センサを宇宙空間に投入できない確率は0.1であるが、3個の衛星バスにそれぞれ1個のセンサを搭載した場合に、センサが1個も宇宙に投入できないという事態になる確率は0.001であり、当然のことながら複数バスを用いた方が、何れかのセンサを打ち上げることができる、という確率が極めて高い。しかし、逆に全てのセンサが同時に存在する確率は、単一バスの場合には0.9であるが、3個の衛星バス使う場合にはこれが0.729となって、単一衛星バスの方が有利である。

 一方、ここに3個のセンサがあって、これが宇宙空間で運用されるとそれぞれpの成果(価値)が生まれるとして、その期待値を考えてみる(ただし、打ち上げのロケット費用は考えない)。単一衛星バスの場合にも、複数の衛星バスを用いた場合にも、その成果の期待値は、3k・pとなる。すなわち、センサの運用の価値の期待値は打ち上げリスクの観点からみる限り、バスが単一であるか複数であるかの間に基本的な違いはなく、センサの成果の期待値という観点からは、複数衛星バス方式にリスクを低下させる利点はない。

 ただし、それぞれのセンサが互いに関連して相互の取得するデータによって、個々のセンサの価値が高まる場合には、複数のセンサを単一の衛星で打ち上げた方が、より高い価値が得られる。例えば上記の例で言えば、3個のセンサが全て揃っていなければ有用なデータが得られない、とすれば単一衛星の打ち上げが有利であるのは明らかである。

3‐2. 複数衛星バスの政策的利点

 一方、技術の進歩により打ち上げロケットや衛星バスのコストが低下し、複数の衛星バス打ち上げの総合コストが単一大型バス方式のそれと比較検討できる程度に低下して、その実現性が高まった場合、複数衛星バス方式は、衛星に係わる政策的観点からみて多くの利点を持つと考えられる。例えば、次の例が挙げられる。

(1)観測中断状態の回避

 一般的に、衛星を用いた地球監視・観測を長期に渡って連続することは、地表等の変化を検知するという意味で、個々の観測結果に加えて新たな価値を生むものと考えられる。このような場合、例えば衛星打ち上げ失敗や衛星の故障などによって、観測センサが全く存在しないという状態、すなわち地球監視・観測の中断期間の出現は、政策遂行上ネガティブな要因となる。複数バス方式はこれを回避できる。

(2)予算の時間的分散化

 大型衛星と複数のセンサの組み合わせ方式は、ある時期に予算の集中的な投入が必要である。地球監視・観測政策はその性質上、長い期間これを継続することが要求される。この時、小型の衛星を複数準備する方式は、予算の時間的な分散化が可能となって、政策の実行が容易になることが期待できる。

(3)衛星観測事業への容易な参入の実現

 例えば、ある機関(民間・大学等)が独自のセンサを開発し、かつそのセンサのデータは他センサの補助利用が必要な場合、その機関は適当な縦列衛星群に参加することで、必要なセンサを全て備えた自己完結型の衛星を準備する必要がなくなり、結果として低いコストで独自の観測が可能となる。

(4)複数衛星バスの製造による標準化

 ロケットを含む小型衛星バスを複数あるいは多数製造することは、製造過程や製品の標準化をもたらすであろうから、製造メーカにとって各種の利益をもたらすと同時に調達コストの低下が期待できる。また、小型衛星バスの打ち上げのために、多数製造されるであろう小型化したロケットの信頼性を向上させることは、少数しか製造されない大型ロケットの信頼性向上よりも可能性が高いものと思われる。

4.縦列編隊飛行衛星群の特徴

4‐1. 編隊飛行衛星群の分類

 編隊飛行はその目的によって次のように分類される。

(1)軌道上の相対的な位置を厳密に保持する編隊飛行

 主に深宇宙を対象に複数の衛星による干渉計を構成する計画が多いが、地球監視・観測を対象にしている例としては、米軍のTecSat21(軍用高分解能レーダー)計画、ESAのClusterII(4つの衛星で地球の電磁場を高精度に観測)計画などがある2)。これらは初めから、特定の目的のために計画されている編隊飛行の例である。

(2)軌道上の相対的な位置を比較的緩やかに制御する編隊飛行

 一方、今後の地球監視・観測に重要と思われるのは、より柔軟な監視・観測計画を提供できてかつ全体コストを下げる可能性のある縦列編隊飛行である。前述したLandsat‐7を先頭にした編隊飛行や、Aqua衛星を先頭にした観測計画がある。

 位置を厳密に保持あるいは計測する編隊飛行は、全ての衛星が特定の目的のために設計・計画されている衛星群によるものであり、プロジェクトの期間中計画に変更がない。衛星群の運用が固定的であるという意味で、従来の大型衛星による観測と本質的な違いはない。

 一方、軌道上の位置を比較的緩やかに制御する縦列編隊飛行は、全く別の目的を持った衛星群が同じ軌道上で編隊飛行をすることによって、新たな科学的政策的価値を生み出す可能性がある、あるいは全体計画が最初に設定されていなくとも次々に衛星を追加することで、衛星群の存在意義が変化するという意味において従来にない衛星観測であると言える。

 この編隊飛行は、複数の衛星を同時に運用しなければならないから、必然的により複雑な衛星運用と衛星の正確な軌道投入技術が要求される。しかしその一方で、個々のセンサデータを総合化することによって、高度な情報が得られることが最大の利点である。

 縦列編隊飛行を行う衛星間相互の距離は、既に述べたように、通常時間にして数十秒から十数分程度になると考えられる。このような短時間では、地球の状態が大きく変化することはない。よって、観測センサ群が同一の衛星バスに搭載されていなくとも、地球の同一地点あるいは地域を多種類のセンサあるいは同一のセンサによって様々の手法で地球を監視・観測することができる。即ち、地球の状態を多角的に測定してより高い価値のある情報を得ることができる。

4‐2. センサからみた縦列編隊飛行方式の利点

 地球監視・観測の視点からみて、複数の衛星による編隊飛行方式の特徴は、複数の衛星に搭載された多数のセンサを結果として、同時に運用できる仮想的な超大型衛星を形成するところにある。ここから編隊飛行方式の持つ、単一の大型衛星による方式を上回る利点を幾つか挙げることができる。

(1)センサのクラスタ運用

 例えば地球観測衛星は、様々な科学的要求に対応するために大型化してきた。既に述べたように、2002年3月にESAが打ち上げたEnvisat地球観測衛星は、10台のセンサを搭載した大型衛星である。このような場合、多数のセンサの運用は極めて複雑である。例えば、全てのセンサが同一の電源やデータ電送システムおよび衛星本体の制御下にあることから、常にセンサ間においてその運用に係わるリソースの調整作業が必要となる。編隊飛行衛星は基本的に独立でありながら従来の地球観測衛星では実現できないような、極めて多数のセンサを結果的に同時に運用することができる。

(2)センサ間干渉の回避

 例えば電波散乱計、雲レーダ等のアクティブなセンサを衛星に搭載するにあたっては、発射される電波が同じ衛星に搭載される他センサに対して、干渉を起こさないように慎重に設計される必要がある。また、機械的な振動や回転部品を内部に持つセンサもしばしば他のセンサに影響を与えるので、同じく衛星バスとセンサ類を慎重に設計する必要がある。編隊飛行衛星においては個々の衛星を自由に配置できるから、上のようなセンサ間の干渉問題を大きく軽減し得る。

(3)短時間に変化する現象を検出するセンサの形成

 先に地球の状態が短い時間で大きく変化することはないと述べたが、逆にごく短い時間の現象の変化を縦列編隊衛星により検出することができる。この特性は、地表において急速に変化しつつある現象の、変化速度を検出できるということであり、例えば、洪水の状況や災害による地形の変化が検出できることを意味している。田中ら3)は、現在編隊飛行をしている、Landsat‐7、EO‐1、SAC‐C、Terra衛星の内、Landsat‐7とSAC‐C(両者が同一地点上空を通過する時間差は約28分)の画像データから、マゼラン海峡の海流の流速分布を、またLandsat‐7とEO‐1(画像を取得した時間差は54.5秒)の画像データから横浜港の船舶の動きを推定している。

5.縦列編隊衛星の地球監視・観測活動への影響

 編隊衛星が形成されると、それは従来の個々の地球監視・観測衛星の計画・運用・データの利用とは異なる点が現れるであろうし、衛星による地球監視・観測政策全体に大きな影響を及ぼす可能性があり、以下のように考察し得る。

(1)センサ開発・運用計画の柔軟性向上

 地球科学のトピックス的な現象を観測するセンサは、タイムリに観測を実行することが要求される。また、気象予測モデルに必要な観測値等の取得も期待される、基本的なセンサ類は、同時にトピックス現象解明のための基礎的データ取得センサとしても用いられる。縦列編隊衛星においては、標準化された衛星バスと単独のセンサの組み合わせが可能となるので、例えば基本的なセンサ類は安定した運用を重点に置いた設計を行う、トピックス的なセンサはできるだけ短い時間で開発する等、個々のセンサの開発と運用計画を柔軟に立案し実行することができる。一般に、多数のセンサを搭載する大型衛星の開発運用においては、必然的にセンサ間の計画・運用調整が要求されるため、開発計画の長期化やコストのオーバーヘッドの生じる場合が多かった。

(2)編隊飛行衛星から得られる監視・観測価値の収穫逓増

 多くの場合、個々のセンサから得られるデータは、他センサのデータを利用することにより、より価値の高いデータとなり得る。さらには、多種類のセンサからのデータを総合することで、新しい科学的政策的知見の得られる可能性もある。従来の単独の地球監視・観測衛星は衛星寿命が尽きるまで、そのセンサ類の構成を変更することができず、新規技術や提案が取り入れられるのは、次の衛星を待つより他ない。

 これに対して、衛星の編隊飛行形態が一旦形成された後は、新規のセンサはこれら衛星群のデータを利用し、その構成単位の1つとなることを考慮して開発・運用する計画がたてられる。その結果、新規の技術や提案は単独の衛星の場合より、素早く実現されるようになると考えられる。このようにして、編隊衛星群の収容するセンサ数が増大すれば、これらを利用する監視・観測の価値は増大し、またこのことが編隊衛星群に参加するセンサの数の増加をもたらすことになる。

(3)編隊飛行衛星の運用とデータ収集配布の集約化

 ある1つの編隊飛行衛星群を構成する個々の衛星の制御は、比較的緩やかであるとしても、また個々の衛星の所有やその打ち上げ機関が異なるとしても、例えばJAXA等の特定の機関がこれを制御するのが運用コストの上から望ましい。またこれに付随してセンサの運用、すなわち地球監視・観測データの受信やその配布なども、データ利用者の便宜やコストの観点から、衛星群の運用機関が担当することとなると考えられる。

6.おわりに

 わが国は、GLI(グローバルイメージャ)、AMSR‐E(改良型高性能マイクロ波放射計)、PR(降雨レーダ)等の優れた地球観測センサを持っており、米国等のセンサ開発力と比較しても劣るものではない。例えばGLIは、非常に多くの波長領域で海面や地表の画像を取得して、海面や陸地の科学に新たな展開をもたらした。AMSR‐Eは、地球表面および大気から放射される微弱なマイクロ波を測定し、水蒸気量や土壌水分などを推定するセンサで、マイクロ波放射計としては最大級の口径を持つアンテナを持つ。このセンサはADEOS‐IIおよび米国のAqua衛星に搭載された。PRは、世界初の衛星搭載降雨レーダであり、衛星センサによって降雨メカニズムの立体的な情報を広範囲に把握できることを世界で初めて示すとともに、世界の水循環研究に重要な情報を提供し続けている。PRは米国のTRMM衛星バスに搭載された主センサであり、次期センサも計画中である。

 これらのセンサが、複数の衛星に他のセンサと同時に搭載され、かつ主要な役割を担っているという事実は、これらわが国のセンサが、他の種類のセンサの価値を高めるような基本的データを取得する基幹センサであることを示すものである。わが国のセンサ開発は、世界をリードしていた。しかし、開発したセンサを継続的に準備・発展させて国内や諸外国のユーザを巻き込み、多様なユーザのニーズに対応できるような、監視・観測体制を主体的に形成するという努力は、不十分であったと言わざるを得ない。

 既に述べたように、編隊飛行衛星群を実現していくためには、衛星やセンサの技術開発そのものの他に、他国と協調をとりつつ如何に全体的な価値を高めるかというような、地球監視・観測マネージメントの高度化も不可欠となる。優れた基幹センサを持つわが国が、独自の編隊飛行衛星群を提案し、運用することは、安全・安心をはじめとする我が国の社会的ニーズに対応するとともに、宇宙開発政策の面からも、宇宙運搬システム開発、衛星開発に加えて、とりくむべき意義を有していると考えられる。


参考文献

1) CHANGES IN POLAR ICE CONCENTRATIONS、April 22, 2002,:http://www.gsfc.nasa.gov/topstory/20020418aqua4.html

2) フォーメーションフライト衛星の誘導制御技術に関する調査検討、宇宙開発事業団:http://giken.tksc.nasda.go.jp/seika/gaiyou/H11/34files/

3) 田中總太郎、高崎健二、Jose Kuba、タンデムオペレーションによるリモートセンシング、RESTEC、51、2003.6