[特集3]

原子力分野における人材育成の必要性・現状・課題

環境・エネルギーユニット 大森 良太


1.はじめに

 近年、原子力分野における人材育成および技術継承に対する懸念が国際的に共有されつつあり、国内外の原子力関連機関では、その実態調査や対応策の検討を進めつつある1〜4)。この背景には、原子力従事者の高齢化と若年層の原子力離れがある。国際原子力機関(IAEA)の報告書2)では、この懸念が以下のように表現されている。

 “多くの原子力従事者が高齢化し、定年までの期間が少なくなっている。一方、質の高い若手の人材が原子力分野に入ってこない。大学で原子力を学ぶ学生は少なくなり、原子力教育プログラムを閉鎖する大学が増えている。”

 この問題に対しては、わが国でも関心が高まってきている。特に今年に入り、日本原子力産業会議等から原子力人材問題に関する報告書が出された他、様々な専門誌やシンポジウム等でもこの問題が取り上げられるなど、議論が活発化している4〜7)

 一方で、わが国の原子力産業の規模は縮小傾向にあり、長期的な見通しについては様々な見方があるものの、短中期的に大きく拡大することは想定しづらいのが現状である。このような状況において、原子力人材育成の必要性の論拠、育成すべき人材の具体像、取り組むべき施策などについては、いまだに明確なコンセンサスが得られていないように思われる。

 そこで、本稿では原子力産業の動向等を踏まえた上で、国による原子力分野の人材育成に向けた取り組みの必要性や育成すべき人材像について考察する。さらに、大学や国による原子力人材の育成に向けた取り組みの現状を概観し、今後の政策的課題について検討する。

 ここで、本稿で対象とする「原子力分野の人材(原子力人材)」の範囲について述べておく。「原子力分野」という場合、原子力発電に関する分野(狭義の原子力分野)を指す場合と、これに放射線利用、量子ビーム利用、核融合などを含めた分野(広義の原子力分野)を指す場合があるが、本稿では狭義の意味、すなわち原子力発電に関する分野における人材問題を一義的な対象とする。ただし、これはあくまでも本稿の問題意識であって、以下の議論や統計データでは広義の原子力分野を対象としている場合もある。

 また、「人材」に関しても、研究開発やプラント設計等を担う研究者・技術者、プラント補修を担う技能者、この他、政府や地方自治体の規制・防災担当官など多様であるが、本稿では研究者・技術者を主たる対象とする。なお、原子力技能者の人材問題については文献4,8に詳しい。

 本稿では以下、はじめに原子力分野の人材問題を考える上での背景として、2章で原子力産業の縮小化傾向と人材の高齢化の現状、3章で大学で原子力を専攻した学生数と企業等からの求人数のバランスに関する日米の調査結果を紹介する。これを受け、4章では、国による原子力人材育成の取り組みの必要性と育成すべき人材の具体像について検討する。さらに5章では大学における原子力教育、6章では原子力研究機関等による原子力教育・研究支援、7章では社会人技術者の教育訓練や資格制度の現状を述べる。最後に、8章で今後の原子力人材育成に向けた政策課題について検討する。

2.原子力産業の縮小傾向と原子力人材の高齢化

2‐1. 縮小傾向にあるわが国の原子力産業

 近年、わが国の原子力産業は縮小化傾向にある。この点に関して、2000年の原子力長計9)においては、「我が国の原子力産業は、成熟期に入りつつあり、研究者、技術者及び技能者の人員数並びに原子力関連の研究関係支出高は近年減少しており、設計や物作りに関する分野において、今後、人材・技術力を従来通りの規模で維持することは困難になりつつある」と述べられている。

 また、日本原子力産業会議の報告書3)においても「わが国の民間企業の原子力関係従事者は1973年に約2万8千人であったが、1992年には6万人を超え、以降も1995年度ぐらいまで安定した雇用水準を保ってきた。しかしながら、電力会社は原子力プラントの建設等の設備投資や研究開発費を抑制し始め、政府の原子力研究開発費も1995年をピークに年々減少してきている。これを受け、民間企業の原子力関係従事者は1996年には6万人を切り、1999年には約5万4千人までに減少してきている」(一部省略)と述べられている。

2‐2. 原子力分野における人材の高齢化

 原子力分野の技術継承に対する懸念の背景には、人材の高齢化がある。図表1に日本原子力学会員の年代別分布を示す。所属別では産業界が約4割、原研・サイクル機構等の研究機関が約4割、大学が約2割を占める。51〜55歳の世代をピークに、世代が下がるにつれ会員数は大きく減少しており、人材の高齢化が顕著に表れている。全会員の平均年齢は46歳である。ただし、日本機械学会および日本電気学会の会員平均年齢も共に45歳であり、人材高齢化の現象は他の伝統的な工学分野にも共通していると見ることもできる。

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 ただし、原子力分野においては、特にこれまで原子力産業の発展を中心的に担い、豊富な知識や経験を有する人材が高齢化し、定年を間近に控えていることが指摘されている。日本原子力産業会議報告書4)においても「軽水炉開発草創期に入社し、建設、運転さらに数々の事故やトラブルを身をもって体験し、機器やシステムの改良にも関わってきた経験豊な人材が後5,6年で定年を迎え、多くの企業で世代間ギャップによる原子力施設の設計・運転・補修等の技術継承に懸念を抱いている」と述べられている。

3.原子力を専攻する学生に関する需給バランス

 大学で原子力を志望する学生や原子力分野の若手人材の数を規定する最も重要な因子の一つは、原子力関連の企業や研究所等からの求人数である。これが少なければ、原子力分野の若手人材は減少し、また、学生もより就職に有利な学問分野を志望するようになろう。

 そこで本章では、大学(院)で原子力を専攻した学生(以下、原子力専攻学生と呼ぶ)とこれに対する産業界からの求人の数的バランスに関する日米の調査結果を紹介する。

3‐1. 日 本

 図表2,3に電力8社、メーカー3社、研究機関2機関における原子力部門の技術系採用者数の推移を、機関別および採用者の専攻別に示す4)。図表2において原子力部門の採用者は99年度にかけて大きく減少しているが、これは電力業界が原子力部門をはじめとする全部門の新規採用者数を減らした結果である。

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 図表3から分かるように、これらの機関からの原子力専攻学生の採用数は年間38〜56名で推移し、これは原子力部門の技術系採用者全体の約15%(電力会社では約10%、メーカーおよび研究機関では約1/3)に相当する。

 一方、原子力専攻学生の総数及び進路を図表4に示す10)。学生総数、および、就職者総数は集計対象が減少した02年度を除きそれぞれ700〜800名前後、400名前後で推移している。放射線・量子ビーム利用関連等も含めた原子力分野への就職者数は150名前後であり、就職者総数の約40%に相当する。

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 これらの結果を比較して見ると、原子力関連学科・専攻の学生総数700〜800名、および、就職者総数約400名に対して、図表3で示した電力8社、メーカー3社、研究機関2機関の採用数者数の合計は年間38〜56名にとどまっている。また、先に述べたように、広義の原子力分野に就職した割合は就職者全体の約40%であるが、卒業生の約75%は原子力関係分野への就職を希望しているというデータもある4)。以上から、わが国においては原子力専攻学生に対する原子力産業界からの求人の少なさが顕著になっていると言えよう3,10,11)。これが学生の原子力離れの大きな原因の一つとなっているが、原子力産業界が縮小傾向にある状況においては不可避的な傾向とも見ることができる。

3‐2. 米 国

 米国では過去約20年間、原子力発電所の新規建設はなされていない。大学で原子力を専攻する学生数もこの10年間で、学部で72%、修士過程で46%減少し、多くの原子力関連の学科やプログラムが閉鎖された3)。このような状況の中、1998年以前は、原子力専攻学生と原子力産業界からの求人数は“縮小均衡的に”バランスしていた。しかし、近年、原子力発電所の稼働率および経済性が向上したことや、政府が原子力を将来的にも有力なエネルギー源として見直しはじめたことなどから、原子力産業が活況を取り戻しつつあり、1998年以降、原子力産業界からの求人数が増加し、原子力専攻学生の不足に対する懸念が台頭している。

 このような状況を受け、ミシガン大学のWas教授が中心となり、1998年の米国原子力学会(ANS)冬の大会でワークショップ“Crisis in the Workplace - Manpower Supply and Demand in the Nuclear Industry: Imbalance”が開催された。さらに、1999年には原子力工学科主任協議会(NEDHO, Nuclear Engineering Department Heads Organization)は、米国の原子力関連の大学、企業に対し、原子力人材の需給に関するアンケートを実施した。この調査結果はANSの1999年冬の大会でのワークショップ“Crisis in the Workplace II -Addressing the Growing Supply/Demand Gap in the Nuclear Industry”で報告された。これらの会議の概要やアンケート結果については、報告書3)としてまとめられている。

 図表5に本報告書に掲載されている主要な結果として、原子力専攻学生に関する需給バランスの推移を示す。本アンケートは原子力工学関連の学部や専攻を有するほぼ全ての大学32校、原子力関連企業168社を対象としている。

 なお、原子力関連学科・専攻に在籍する学生の相当数は、核融合、加速器・量子ビーム利用などを中心に学んでいる(学部で約3割、修士で約5割)。図表5では、これらの学生を除外し、いわゆる狭義の原子力工学(炉工学、原子炉安全、原子炉燃料、核燃料サイクル、保健物理等)を専攻した学生数と原子力産業界からの求人数を比較している。

 図表5から分かるように、近年、原子力専攻学生に対する需要が供給を大幅に超過しており、そのギャップはさらに広がっていくと予想されている。本報告書では前節で紹介した日本の状況とは対照的に、近年の原子力産業界からの人材需要の増加により、原子力専攻学生が不足しているとのトーンでまとめられている。

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4.国による原子力人材育成の必要性とその人材像 ―原子力人材は不足しているのか?

 2章と3章で見た状況を踏まえ、本章では国による原子力人材育成に向けた取り組みの必要性や育成すべき人材の具体像について検討する。

 ある産業で必要とされる人材の量は、短期的要因を無視すれば、その産業の規模(売上高等)と労働生産性によって決定される。労働生産性の時間的変化を無視すれば、産業規模の拡大・縮小に応じて、必要な人材の量も変化する。見方を変えれば、産業動向を踏まえて、企業等においては人員の採用や配置転換を経営戦略的に実施しているということである。

 一方、先に見たようにわが国の原子力産業は縮小傾向にある。原子力産業の将来については様々な見方が存在するものの、少なくとも近い将来、わが国の原子力産業が大きく拡大することは考えにくい。従って、産業界における原子力人材に対する需要は減少していくことになる(特にメーカーでは新規プラントの発注がないためこの傾向が顕著と考えられる)。確かに、2‐2節で見たように、特に原子力産業の発展を中心的に担ってきた人材が高齢化していることから、若手世代への技術継承に早期に取り組むことの必要性は認められるが、全体として言えば、当面、産業界において人材が不足するような状況は想定しづらい。

 仮に将来、原子力産業の規模が拡大すれば、企業は採用者数の増加や配置転換を通じて必要な人員数を充足するであろう。日本原子力産業会議の報告書4)においても「電力・メーカー等では人材確保面では当面は大きな問題はないとする企業が多い」と述べられている。

 現在、ライフサイエンスやITなどの分野では、学問的にめざましく進歩していたり、関連産業の規模が将来的に増大していくと見込まれており、人材の絶対数の不足が懸念され、人材の量的拡大に向けた取り組みが政策的課題となっている。しかしながら、上で見たように、原子力分野はこのような状況にはない。

 それでは、国にはどのような論拠から原子力人材の育成に向けた取り組みが求められるのであろうか。

 当面、原子力産業の規模は縮小し、産業界の原子力関連従事者も減少していくと予測される状況において、国の政策課題は、原子力プラントや放射性物質の安全管理・規制(勿論、安全管理のための人材育成の一義的責任は電気事業者やメーカーにある)、原子力分野の知的資産(原子力知)の保存、長期的な研究開発等の観点から、これらを担う人材を必要な水準に確保・育成していくことである。

 以下、これらの観点について簡単に述べる。

(1)原子力プラントや放射性物質の安全管理・規制

 現在、わが国で稼動している原子炉の大半はまだ相当の寿命を残している。これらの原子炉や関連プラントの安全確保・規制、さらには、放射性廃棄物管理、デコミッショニング、核物質管理等に携わる高度な知識を有する専門的人材は今後長期にわたり不可欠である。

(2)原子力分野における知的資産の継承・保全

 わが国では、1955年の原子力基本法の公布を端緒として、政府や企業は原子力研究開発に多くの予算や人的資源を割り当ててきた。その結果、わが国の原子力技術の水準は世界トップクラスであり、知識や技術の蓄積は膨大なものとなっている。このような知的資産(原子力知、Nuclear Knowledge)を次世代へ継承する受け皿として若手人材の育成が望まれる。

(3)長期的視野に立った研究開発

 近年、経済性、安全性、核拡散抵抗性等に優れた革新的原子力システム、さらには水素製造など原子力システムの多角的利用に関する研究開発が国際的に活発化している。これらのシステムの商業的導入はかなり先のことと考えられるが、将来的には大きなポテンシャルを有していると考えられ、わが国においてもこのような研究開発を長期的な観点から進めていく必要がある。

 また、国が上記の観点から育成に取り組むべき人材の具体像とは、産官学それぞれの原子力分野で中心的役割を担いうるような、原子力に関して高い専門知識を有する研究者・技術者である。このような基幹的人材は、育成に時間がかかり、短中期的な産業動向の変化に応じて他分野から補充することが困難である。

 従って、国は長期的視点に立って、産業界と連携しつつ、大学や原子力研究機関などにおける取り組みや種々の制度整備等を通じてこのような原子力分野の基幹的人材を確保・育成していくことが求められる。次章からは大学における原子力教育、原子力研究機関等による原子力教育・研究支援、社会人技術者の資格認定や継続教育に関する制度の整備に関する現状を概観する。

5.大学における原子力教育の現状

 本章では、大学における原子力教育の現状を概観する。図表3で見たように、産業界の原子力部門は、原子力を専攻した学生のみならず、電気、機械等を専攻した学生も多く採用しているが、大学での原子力教育の主体は原子力関連学科・専攻での教育である。

 近年、特に学部レベルにおいては、「原子力」という名称を冠した学科がなくなりつつある。この状況を図表6に示す。この契機となったのは、平成3年の大学設置基準の大綱化に伴う大学内の組織改革である10)。この結果、多くの大学で、それまでの縦割り的な学部・大学院の構成が大きく変わり、細分化されていた工学部の学科は、いくつかの大学科あるいは系に束ねられた。旧来の原子力関連学科は、このような系の中の1コースとして、あるいは合併して大きくなった学科の一部分として承け継がれているケースが多い。その際、大学科の名称はもとより、その中のコースの名称からも「原子力」という言葉が消え、かわりに、「エネルギー」、「量子」、「システム」、「科学」などのキーワードが多く用いられている。

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 また、このような組織改革と軌を一にして、学部教育においては、専門科目にかわり工学基礎科目―電気、機械、材料、情報、環境・エネルギーなど−が重視されるようになり、原子力発電に関連する講義は大きく減少した。これは、学部においては工学基礎科目を中心に学び、専門科目は主に大学院でという工学教育全体の変革の流れに沿ったものであり、学生の就職および企業の採用の自由度を増している面もある。

 一方、多くの大学院の専攻も名称を変更した。ただし、学部と比べると、名称を変更していないケースが多く、他専攻との合併なども少ない。このため、学部教育ほどには大幅な教育プログラムの変更はなされていないが、大学院では原子力工学を量子・ビーム科学、システム工学、放射線利用、核融合、シミュレーションなどを包含する広い学問領域として捉える傾向が強くなっており、原子力発電に直接関連する教育・研究が希薄化していることは否めない。

 また、大学教育に対する産業界のニーズも変化している。日本原子力産業会議が実施したアンケート4)でも、産業界は原子力部門に就職する学生に対し、基礎学力の確実な修得・養成、原子力専門科目以外の幅広い教養、また柔軟な発想、論理的思考力、チャレンジ精神、問題解決能力などを求めているという結果が出ている。

 以上をまとめると、大学(院)においては、以前のような原子力発電分野への人材供給を念頭においた教育・研究プログラムはなくなりつつある。これは工学教育・研究システム全体の変化、あるいは、先に見たような原子力産業の縮小傾向に即した対応である。産業界における原子力技術水準の維持等に向け、今後は社会人技術者を対象とした原子力教育や資格認定制度等の拡充が一層重要になってくると考えられる。

6.原子力研究機関等による原子力教育・研究支援

6‐1. 社会人技術者に対する原子力研修

 企業等における原子力教育は職場でのOJTが中心であるが、これを支援する目的で、原子力研究機関等では社会人技術者を対象とした研修を実施している。日本人を対象とした主な研修コースを図表7に示す。初学者向きのものから高度の専門家養成を目指すものまで様々なコースが開設されている。近年では、地方自治体の防災業務関係者を対象とした原子力防災関連コースの受講生が多くなっている。

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 日本原子力研究所に設置されている国際原子力総合技術センターの東海研修所では、原子力エネルギー技術者の人材養成を目的とし、原子力工学全般の教育・研修を行っている12)。現在、炉工学、放射線防護、核燃料工学、放射性廃棄物管理、原子力防災などに関する講座が開設されている。研修期間は短いもので数日、最も長いもので21週間(原子炉工学課程)となっている。1958年に本研修所が発足してから2002年度までの受講者数はのべ30,410人に達している。同センターの東京研修所ではRI・放射線技術者養成を目的とした講座が開設されており、こちらの受講者ものべ21,267人となっている。

6‐2. 大学院生およびポスドクに対する教育・研究支援

 日本原子力研究所や核燃料サイクル開発機構では大学院生やポスドクを特別研究生および博士研究員として受け入れ、それらの施設を活用した研究・教育を実施している。

 特別研究生は大学院生および博士課程終了後2年以内の大学院研究生を対象としており、研究分野は原子力全般、期間は1年間である。特別研究生には、奨励金、旅費等が与えられる。日本原子力研究所では2003年度の特別研究生として60名を受け入れた。

 博士研究員は35歳以下の博士号取得者を対象としており、契約期間は1年(所要の評価により2回まで更新可)である。本研究員は、受け入れ機関が指定した研究分野において、実験施設等を利用しながら、自発的かつ主体的に研究を実施する。また受け入れ研究室のコーディネーターから助言・支援を受けることができる。日本原子力研究所では2003年度の博士研究員として100名(継続分を含む)を採用した。

 また、近年、連携大学院制度を活用した原子力研究機関等と大学の連携が進みつつある。この制度は、研究機関の研究者を大学の併任または客員の教授・助教授として任命し、大学院生は最新の設備を有する当該研究機関において任命された教員から学位取得まで研究指導を受けるというものである。日本原子力研究所では9大学と連携大学院協定を締結している。

7.社会人技術者の資格認定と継続教育

7‐1. 技術士「原子力・放射線」部門の新設

 2003年6月、文部科学省科学技術・学術審議会は技術士試験における技術部門の見直しに関する答申を行った14)。この中で、原子力技術に係る新たな技術部門として、「原子力・放射線」部門の設置が提起された。これは、2001年4月の文部科学大臣からの諮問に応じたものである。今後は、文部科学省において、答申に基づいた省令・告示案を作成し、パブリックコメントを経て、改正省令・告示を公布することになる。試験は2004年度から実施予定である。

 「原子力・放射線」部門新設の必要性に関しては、原子力技術の社会的重要性、原子力工学という総合技術分野としての固有性、原子力システムの安全性確保(技術者のレベルアップ、事業体の安全管理体制強化、安全規制部門での活用、国民とのリスクコミュニケーションの充実など)、国際的な活用などがあげられている。

 本資格は、技術者個人の資質の高さを証明するものであり、技術者の自己研鑽の具体的目標として優れた原子力技術者の育成に資すると期待される。

7‐2. 技術者継続教育(CPD)

 日本工学会では、2002年度に大学卒業後の技術者を対象としたPDE(Professional Development of Engineers)協議会(41の学協会が参加)を発足させ、技術者の継続的な教育のための教育カリキュラム作成や資格認定制度について検討を開始している。

 日本原子力学会もこの委員会に参加しており、学会内にCPD(Continuing Professional Development)ワーキンググループを立ち上げた。本ワーキンググループでは原子力発電や放射線応用分野に関連する技術者継続教育について、以下の項目の検討を実施している15)

8.まとめ

本稿では、原子力産業の動向等を踏まえた上で、国による原子力人材育成の取り組みの必要性および育成すべき人材の具体像について検討した。さらに、大学における原子力教育、原子力研究機関等による原子力教育・研究支援、社会人技術者に対する教育訓練や資格制度の現状を概観した。本章では、以上の要点をまとめ、最後に今後取り組むべき課題を述べる。

 近年、わが国の原子力産業は縮小傾向にある。特に原子力産業の発展を中心的に担ってきた人材が高齢化していることから、若手世代への技術継承に早期に取り組むことの必要性は認められるが、全体として言えば、当面、産業界において人材が不足する事態は想定しにくい。

 このような状況において、国の政策課題は、既存プラントの安全確保、原子力分野の知的資産の継承、長期的な研究開発等の観点から不可欠な人材、特に産官学それぞれの分野で中心的役割を担いうる高い専門性を有する“基幹的人材”を確保・育成していくことである。このような人材は育成に時間がかかり、短期的な産業動向の変化に応じて他分野等から補充することが困難である。

 わが国の大学における原子力教育・研究に関しては、学部レベルでは専門科目よりも工学基礎科目の教育が重視され、また大学院においても、原子力工学を放射線や量子ビームの利用等を含む広い学問分野として捉える傾向が強まり、大学での原子力発電関連の教育カリキュラムは希薄化している。これは工学教育・研究システム全体の変化や原子力産業の縮小傾向に即した対応であり、今後は社会人技術者に対する原子力教育や資格認定制度等の拡充等が相対的に重要になると考えられる。一方、原子力研究機関等による大学院生や社会人技術者に対する原子力教育・研究支援、および、社会人技術者に対する資格認定制度は徐々に拡充しつつある。

 以上を踏まえ、原子力分野の基幹的人材の確保・育成に向けて、当面、国として取り組むべき課題について検討する。

 第一に、原子力二法人の設備と人材を活用した人材育成拠点の形成があげられる。日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構には豊富な設備と人材が存在し、これらを最先端の原子力研究開発のみならず大学院教育や社会人技術者教育など次世代の人材育成に最大限活用することが肝要である。両機関の統合後の新法人においては、原子力人材の育成拠点としての役割が求められる。すでに実施されている連携大学院制度、社会人技術者向けの研修制度等を一層拡充するとともに、新法人の人材と設備を活用した専門職大学院(注1)の設立も検討すべきである。このような人材育成拠点においては、原子力の基幹技術を担う専門性の高い人材の相当数を集中的かつ効果的に育成することが可能となる。さらに、原子力人材育成に関わる機関における研究者の評価にあたっては、研究成果のみならず、人材育成への寄与を積極的に評価する仕組み作りが求められる。


(注1)平成15年7月2日、茨城県は国に対し、総合的原子科学研究開発拠点の形成を図るサイエンスフロンティア21構想の推進を要望した。その中で、個別の要望項目として、原子力の専門職大学院の設置推進があげられている。


 また、将来性が見込まれる産業には優秀な若手人材が集まるが、原子力産業は一般的にはもはや成熟したと見られているのが現状である。しかし、中長期的には、経済性、安全性、核拡散抵抗性等に優れた次世代型原子力システムの導入や水素製造など原子力エネルギーの新しい利用が期待され、近年、研究開発が国際的に活発化している。このような若手研究者にとって挑戦しがいがあり、産業的にも大規模な導入が期待される新しい原子力システムの研究開発を国が積極的に支援していくことは、わが国の将来的な原子力技術基盤の構築、および、原子力人材育成の観点から重要である。

 最後に、わが国では少子高齢化が進行しており、今後、技術継承は原子力分野のみならず多くの工学分野に共通する課題となろう。原子力をはじめとする様々な工学分野で技術継承を効果的に実施していくためには、その特性や効率的な技術継承を可能にするアプローチについての知見が重要であり、今後の研究の進展が望まれる。

謝 辞

 本稿の作成にあたり、九州大学工学研究院の工藤和彦先生、日本原子力研究所国際原子力総合技術センターの傍島眞氏をはじめとして、多くの方々に資料のご提供ならびに貴重なご意見をいただきました。厚く御礼申し上げます。


参考文献

1) IAEA, Introductory Discussion Paper of Senior Level Meeting on Managing Nuclear Knowledge, June(2002)

2) OECD/NEA, Nuclear Education and Training - Cause for Concern? (2000)

3) Nuclear Engineering Department Heads Organization, Manpower Supply and Demand in the Nuclear Industry(2000)

4) 日本原子力産業会議基盤強化委員会人材問題小委員会報告書 (2003)

5) 日本学術会議原子力工学研究連絡委員会、エネルギー・資源工学研究連絡委員会核工学専門委員会、人類社会に調和した原子力学の再構築、2003年3月17日

6) 特集「岐路に立つ原子力教育・人材育成の課題と展望」、原子力eye, Vol.49, No.9(2003)

7) 「次世代を切り拓くエンジニアの育成」、第41回原子力総合シンポジウムセッション、2003年5月22日

8) 北村俊郎、原子力発電所の補修を中心とした人材育成・強化のあり方、原子力eye, Vol.49, No.9, 13‐16 (2003)

9) 原子力委員会、原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画、2000年11月24日

10) 工藤和彦、原子力分野の人材育成の現状と課題、科学技術政策研究所所内講演会、2003年6月19日

11) 藤井靖彦、逆風下の原子力工学教育―専門生かす就職少なく人材確保心配、エネルギーレビュー、2002‐3, 46‐49(2002)

12) 日本原子力研究所国際原子力総合技術センター、国際原子力総合技術センターの活動(平成13年度)、JAERI‐Review 2003‐003(2003)

13) 日本原子力研究所国際原子力総合技術センター提供

14) 科学技術・学術審議会、技術士試験における技術部門の見直しについて、2003年6月2日

15) 宮澤龍雄、原子力分野における技術者継続教育、第41回原子力総合シンポジウム、2003年5月