より新しい特性や高機能を有する材料を開発することは、科学技術における大きなブレークスルーとなり得るが、どんなに良い新材料を開発しても、それだけでは「物質」であり、広く市場で使われてこそ「材料」と言える。材料を使ってもらうためには、設計基準とのかかわりが重要であるが、欧州は近年新たな設計基準を持とうとし、それに合う材料開発や保全技術開発を進めており、今後有利な位置を占めていくことが懸念されている。材料においても高品質だけでは市場に受け入れられず、「国際標準を制するものは世界を制する」ということもあてはまるようになっている。『国際標準』が諸外国においては重要な戦略として認識され、限られた市場の確保や新しい市場の獲得の手段として使われている。
しかし日本は「経済大国」だけれど「標準小国」と言われてきたように、国際標準に対する認識は依然として低い。燃料電池や高特性材料のように欧米各国と激しい開発競争を行いつつ市場シェアを拡大し標準化を目指している分野もあるが、我が国では一部にとどまっている。近い将来、アジアにおいても韓国や中国に標準化のリーダーシップを取られる分野が増加することも懸念される。
この「標準」は、知的基盤のひとつの構成要素である。知的基盤については近年、工業所有権の取得に、ゲノム解析競争が加わり、将来の利潤を獲得する手段としても重要視されるようになっている。材料の分野でもデータベースの整備や標準化等の推進がうたわれ、国際社会への発信も行われている。このような活動が、国際社会において認知されるためには、独自のデータを持つことが極めて重要である。
本論文では、国際標準化を日本の科学技術を産業・経済活動により有効に反映するための手段としてとらえ、材料を中心に欧米の標準化戦略をレビューするとともに、日本の取り組みについて概説し、標準に関わる課題の具体的な打開策を提案する。
2‐1.国際標準の分類
標準には大別して「デファクト標準(事実上の標準)」と「デジュール標準(公的な標準)」とがあり、それらの特徴を図表1に示す。デファクト標準は、企業間の市場における競争に基づくものであるのに対し、デジュール標準は国際的な取り決めによって制定され、対応が不十分であれば、自国の産業や消費者が不利益を被むることにもなるので、各国とも戦略的な対応をしている。デファクト標準とデジュール標準の仕分けが難しい場合もあるが、国際標準を作成するプロセスの中で欧米諸国、欧米企業は自国・自社の技術を国際標準化し、競合する企業の技術を排除して優位に市場獲得を進めようとしている。ここで取り上げるのは、主に「デジュール標準」(「国際規格」とも呼ばれる)の重要性である。
2‐2.最近の国際標準の動向
国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)といった国際標準に関わる動向やこれに関する日本としての取り組みの重要性に関しては、これまでにも概説されているが3〜9)、ここで主張したいことは、日本として好ましい結果が得られるよう状況を改善する方策を検討することである。
(1)標準の激動期
1995年のWTO/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)の発効以降、加盟国はそれぞれの国家規格(日本ではJIS等)をISO、IE等の国際規格に原則として合わせることを合意した。各国の規格を同じにすることにより、国境を超えた物流を一層自由にするという意図である。国際条約により国際規格が貿易制限を撤廃する手段として認定されたともいえ、標準化活動をめぐる国際動向は激動期に入った。
(2)欧州の動向
欧州連合(EU)は、欧州標準化委員会(CEN)と欧州電気標準化委員会(CENELEC)に対する支援を通じてISOやIECにおいて欧州としての統一的意見を提案する等の方針を明らかにした。ISOやIECと協定を結び、欧州標準(EN規格)をベースにした国際標準を制定することにより、欧州技術の世界への波及をめざすという積極的な戦略を構築している。
(3)米国の動向
米国は、従来ASTM(米国材料試験標準協会)やMIL規格(米軍規格)を優先してきたが、欧州の標準化戦略に対して危機感を抱き、デジュール標準の国際標準化活動を重要視するようになった。ANSI(米国標準協会)は2000年9月「米国国家標準化戦略」を発表し、ISO、IEC等国際標準化機関の場でアメリカの技術が反映された国際標準が制定されるよう積極的な取り組みを行うべきとしている。このような動きはISOの幹事国引き受け数の増加に結果として現れており、米国のISO幹事国業務引き受け数は、1992年以降急増し、2000年からはトップを維持している。
(4)日本の動向
1997年11月の日本工業標準調査会国際部会の通商産業大臣への答申「今後の我が国の国際標準化政策の在り方」をはじめ、2000年4月に公表された「国家産業技術戦略」、2001年3月に閣議決定された科学技術基本計画等においては、標準化活動と研究開発の一体的な実施の必要性が指摘されている。予算の面でも、新エネルギー・産業総合開発機構の国際標準創生分野のグラントや新規産業支援型国際標準開発の委託等年間数10億円の国際標準化予算がある。また、平成10年の緊急経済対策における通商産業省技術関連予算では、知的基盤整備、国際標準化の加速的推進に、161億円が割り当てられている。しかし日本のISO幹事国業務引き受け数は、1992年以降漸増しているが、欧米諸国の半分以下と大きな差が依然としてあり、国際標準化活動が活発になったとはいえない。毎年1,000件からの規格が出てくる中で、この差を埋める対策が必要である。
2‐3. 国際標準への対応の必要性
国際規格に合わせてJISを改訂すれば、これまでJISに準じて作っていた製品も変更する必要がある。ISOやIECの規格がそのまま多くの国の国家規格として採用されれば、規格の元になった国の輸出企業は他の輸出国よりも優位に立つ。即ち国際規格の帰趨が市場の条件をも左右し、日本の製造業の競争力にもボディーブローのように効いてくる。図表3に示すように、日本が製品、技術面で進んでいたにもかかわらず国際標準を取れなかった例は多い。また国際標準とはやや異なるが、日本の携帯電話が国際規格の競争に負けた結果、日本でしか通用しない電話になったのもその例と言うこともできよう。IT関連産業のように技術の進歩が著しく標準化への迅速な対応が求められる分野、ISO9000やISO14000のように品質や環境管理規格がビジネスになっている分野、その他で国際標準への取り組み方は異なるが、過去の教訓を今後の活動に生かすことが肝要である。
(1)材料のケース
かつて圧力容器の設計の材料強度の規格計算が全てASME(米国機械学会)のコードで行われていたため我が国の材料は相手にされず、日本では国産の原子炉はできなかった。現在では国産の構造材料の品質は認められているものの、国際市場を獲得するためにISO/TC11(圧力容器)などで国際規格獲得競争が行われている。圧力容器は、米国及び日本とドイツとが世界市場を二分しており、どちらの規格が国際規格になるかが国際的に注目されてきた。米国と日本が提出した案は、欧州各国の専門家が出席した会議で合意されたにもかかわらず、国際投票では欧州各国が協調して反対したことで国際規格に至っていない。
セラミックスや超伝導材料また表面化学分析等の先進材料に関わる分野では、VAMAS活動の中で、日本がリーダーシップを取ってきた。
(2)発言権
日本は、国際規格への貢献度を示し発言権を確保するために、1996年にIECの常任理事国入りを図ったが、幹事国引き受け数がイタリアより下で上位5カ国に入っていないことを理由に当初は達成できなかった(結果的に拠出金の額で考慮されたとのことである)。
規格の提案に際して根拠となるデータが必要なことは当然であるが、反対意見を表明するにも、技術的根拠を付するのが原則であり、技術的データがなければ、反対意見も言えない。
日本からの新規提案や外国から提案された規格に対する発言権を増すためには、日頃からの研究データの積み重ね、幹事国業務の引き受けなどの地道な努力と国際貢献、国内の取りまとめ者や諸外国の理解者・協力者とのネットワークが必要である。
ISOの議論の場では、欧州と米国の立場の違いがあり、その両勢力の均衡を保つ意図から、幹事国業務の引き受けを日本に打診してくることが、しばしばある。言語の問題に始まる事務業務の煩雑さのため多くの場合敬遠されているが、専門委員会(TC)や分科会(SC)の幹事国業務や議長を担当することにより、提案を議題にすることや会議の開催地の決定のリーダーシップを取れることは、大きな効果がある。
(3)日本と先進国の認識の違い
上記のような必要性が唱えられても、日本では古来、工業技術は海外から導入するもの、輸出する際には輸出先の標準に合わせればよい、標準では儲からない、という認識が産業界では根強い。このまま与えられた標準を使うのでは発展途上国と同じで標準に支配されている状態である。
これに対し欧米諸国の認識は、標準は武器の一種とみなし、各国の標準による貿易障壁の撤廃を自分らが制定する国際規格をもって行おうとしている。また標準については、「売れる標準」(多くの企業等が使用するもの)を作ることを優先している。さらに国際標準化の会議に欧米からは業界のドンが数年間連続して出席するように、欧米企業が国際標準化活動に注力するのは、標準化活動が短期的な収益よりも重要な将来の企業の発展のための「十分なリターンを生む投資」と考えているからである。
2‐4.国際標準化の手続き
国際標準(規格)は国際条約と同じで、効力も大きく、提案され成立までに多くの審議と合意の手続きを要する。ちなみに、ISOへの新規提案を行い制定を図るには、図表4のような、以下の手続きが必要である。
(1)提案
成立までの数年間の審議に責任を持つための費用の裏づけが必要なため、通常はISO加盟国内の標準団体が提案母体になることが必要。
(2)新規提案が採択される要件
当該TCでの過半数の賛成と、新規提案をWGで審議するためのメンバーとその経費を出してまで賛成する国が5カ国以上を要する(各国では標準母体での会議費用と人件費の裏づけを考慮して対応が決まる。例えばドイツでは、規格として売れるかということが判断基準となり、事務局からの審議依頼に対し、ドイツ国内の5つ以上の企業が出資することを表明しないとドイツとしての対応をしない)。
(3)ドラフトの作成ドラフトにはWorking Draft, Committee Draft, Final Committee Draftの順で検討が進められる。認められるためには各国からコメントに全て対応し、最終的に反対なしが原則である。国際規格案(DIS)は、積極的参加国の2/3の賛成と全ての加盟国の3/4の賛成を要する。それぞれの投票には最低3ヶ月間の期間があり、提案後、成立まで通常3〜5年かかる。
(4)見直し
成立した規格は、5年ごとに見直し、使われない規格は淘汰される。結果的に、国内外の多くの識者や産業界の同意了解が無ければ規格にならず、一過性のデータや興味は、手続きの過程で淘汰される。
3‐1.経 緯
VAMASとは、Versailles Project on Advanced Materials and Standards(新材料と標準に関するベルサイユプロジェクト)の頭文字をとったものである。1982年6月に開催されたG7ベルサイユ・サミットにおいて、科学技術が主要課題の一つとして取り上げられ、科学技術は世界経済活性化の鍵であり、国際協力により積極的な推進を図るべきであるとの合意を得た。VAMASの活動に関する覚書は、サミット国及びECの代表者により署名され、5年ごとに参加国の代表者による調印を経て継続されてきた。1997年には無期限の延長の覚書が締結された。VAMAS運営委員会の日本代表委員は文部科学省の材料開発推進室長、産業技術総合研究所の材料戦略室長と物質・材料研究機構の材料基盤情報ステーション長である。
3‐2.目 的
先進材料の標準に関する国際協力プロジェクトとして位置づけられており、先進材料に関わる技術と特性評価法を含めた国際標準化を促進し、先端技術製品の貿易を活性化することである。
3‐3.成 果
得られた成果は、参加各国の国家標準化機関へ提出されることにより国家規格化が図られる。また、国際標準化機構(ISO)や国際電気標準化会議(IEC)へ提供されることにより国際規格となる。国際規格が成立するまで数年を要することから、活動を始めて10年でやっと成果が出始め、約60のISOや米国試験・材料協会(ASTM)規格の作成に貢献している(図表5)。
近年、VAMASの国際的評価が高まるとともに、ISOとの連携も強まり、相互の成果を尊重するリエゾンが結ばれるなど、G7国から構成されるVAMASの成果に基づくISO化の促進が図られている。図表4に示すように、VAMASでの国際ラウンドロビンテスト(共通試料を各参加機関に配り試験結果を比較する試験)の結果を取り纏め、技術移転評価文書(TTA文書)として提案することで、審議の時間を短縮できるようになっている。
3‐4.特 徴
金属、無機、高分子、生体材料などの広範な材料の試験評価を対象としている。図表6に示すように、現在18の技術作業分野(TWA)が活動しており、そのうち4分野において日本が国際議長を務めている。VAMASと連携した、新材料及びその試験法の国際標準化に関する積極的な活動は、ISOにおける日本の発言力を増強することにつながり、日本主導の規格の提案も容易となる(ISOの場において、日本の発言・投票は、ISOの専門委員会を構成する20数カ国の1票であるがVAMASでは7ヵ国中の1票)。
3‐5.最近のVAMASの動向
VAMASの運営委員会は、年に1回開催され、全体の活動方針や各TWAの進捗状況や、新TWAの採択や改廃が審議される。2002年は日本で開催され、物質・材料研究機構がホストになった。2003年の運営委員会は、EUがホストとなり5月12日から14日にかけて、オランダのペッテンにある欧州共同研究センターで開催された。以下のように各国が注目している材料研究項目の紹介が行われた。各国ともナノ材料やバイオ材料の開発と評価が重点研究項目となっており、今後の国際標準化分野としての提案も行われている。
- カナダ:材料研究の主な傾向は、エコマテリアル、バイオ、ナノ、バーチャルで、燃料電池や医療用発泡チタンにも注目している。
- ドイツ:自動車の材料として、鉄鋼材料の占める割合が減り、アルミやポリマーが増えている。また鉛や水銀に続きCdとCr+6が使用禁止になり、3000を超える個々の部品の耐用試験も課題であることから、特に車材料の短期腐食試験を新規に提案した。
- イタリア:材料データベース言語、燃料電池(ECの重点項目)、ナノマテリアル等に関心がある。
- 日本:総合科学技術会議で決定された科学技術の8つの項目と科学技術の4大項目としてライフ、ナノ、環境、ITの項目が示された。またNIMSでのVAMAS研究と国内の対応体制が紹介され、さらにTiO2光触媒がトピックとして紹介された。
- イギリス:ナノ、バイオ、機能、ソフト、モデリング、量子物理や軽量合金、発泡材料、単結晶、ポリマー、粉末、液体金属が紹介された。
- アメリカ:ナノ材料の分類と対象材料、ナノチューブ、光触媒&窓に貼るTiO2フィルム、生体材料、モデリングの検証、微小磁力、光電子半導体、熱電子、熱衝撃、磁気測定、燃料電池が紹介された。
- EC:バイオ健康、IT、食品安全、ナノマテリアルナノ技術、多機能材料、航空宇宙−安全高信頼性、燃料電池等が紹介された。
VAMAS活動をG7サミット国を主体とする活動から各地域のグローバル標準に対応するものにしていくため、サミット国以外からの参加と連携を深める活動方針案が提案され、各国からの回答が求められている。これは近年オブザーバー参加し、VAMASに積極的な働きかけを行っている韓国をメンバーとして加えるものでもある。
VAMASは、サミットで合意された標準に関わる国際協力であり、新材料の調達や評価、国際調整など多大なコストを要する。日本においては、旧科学技術庁の科学技術振興調整費研究課題の一部として年間1〜3億円の予算で最大国内50機関で200人の研究者をとりまとめる活動を続け、各TWAにおいて大きな国際貢献を果たした。しかし振興調整費による継続は難しいとの判断から予算は平成13年度で終了した。代わりの予算措置がなされていないため活動が縮小し、国内コンタクトパーソンの活動費の手当てが難しく、議長引き受け数や対応TWAが減少した。日本としてG7-VAMASからの脱退も止む無しと検討された時期もあったが、国際標準への有利な道を有するVAMASへの参画を維持することは、今後の他の国際標準化活動を推進するためにも有効であることからも、今のところは物質・材料研究機構の国際標準化事業として、TWAに部分的に対応し、VAMAS対応国内委員会の再構築が進められている。
4‐1.担当者の育成国際標準の提案から成立まで、通常5年程度かかる。責任を持ってこれに対応しWGや技術委員会に対応するには、本省の担当官よりは、異動が少なく技術的議論にも対応できる企業あるいは国の研究機関の主席研究官以上が望ましい。しかし、ここ数年の企業のリストラで企業の研究所は削減され、議論の元になるデータが減るとともに人材もいなくなりつつある。また、かつて工業試験所を有していた通商産業省の工業技術院には、試験業務を担う人材の土壌があったが、10年ほど前の再編により試験所のほとんどは研究機関となり、試験業務の担当者の多くが研究者になってしまった。さらに、国研の多くは独立行政法人化され、標準を主要業務としている産業技術総合研究所の機関と後述の例に示す物質・材料研究機構の例を除いて、業績として評価されるのは、インパクトファクターの高い雑誌に掲載された論文の数が主で、標準に関わる仕事は評価を受けにくくなっている。経常的な予算もないため、余人に代え難しという言葉につられるお人よしが睡眠時間を削って行うボランティア活動に依存するケースも多く、標準化活動に関わる機関と参加者は減少している。さらに、個別の国際委員会で日本の産業界の主張や既存の国内規格を代弁し、外国の主張に対峙する前線活動を行うにもかかわらず、不十分な旅費しか支給されない。このようなことから、次の世代の有能な後継者を探すことがいっそう困難になっている。
4‐2. 企業の対応
製造分野の企業では、試験部門や測定部門の分社化が進められている。例えば、国内製鉄メーカーにおいても、機械試験部門はアウトソーシング目的での分社化が進められている。別会社になると言うことは経営の観点からのきめ細かなコスト合理化要請が強まり、結果として直接の収入につながらない実験検討に割く余力が減少することになる。たとえば、ユーロラボで進められている認証標準物質(CRM)の整備とそれを活用した引張試験速度の影響調査実験等は、我が国でも実験しておくことがグローバル時代の鋼材輸出には必要と考えられるが、その事業の推進母体が無い上に我が国の鋼材にマッチしたCRM整備や共同実験の予算が無い。
4‐3.大学の対応
VAMASでは、国ごとにコンタクトパーソンが指定され、国内の関連研究者の取りまとめやラウンドロビンテストのアレンジが求められる。その分野の代表者である大学の教官がこれを担当する場合が多いが、これらの活動を行うための活動費が別途に手当てされないため、結局その分野の国内の対応ができないケースが見られる。
4‐4.省庁の対応
例えばVAMASの運営委員会において国としての科学技術政策や標準化政策に基づく新しいTWA提案が議論される際には、日本代表の担当官としての発言が求められている。この場で日本の主張を展開することが日本の貢献でもあり、ここでの発言は、その後の技術的な提案に大きく影響する。
4‐5.研究機関の対応 ―物質・材料研究機構の例
独立行政法人 物質・材料研究機構(以下、NIMS)の材料基盤情報ステーションでは、以下の項目を主要業務としている。
- 材料データの取得と材料データシートの作成
- プレスタンダード研究、国際標準化研究
- 材料データベースの整備と公開
クリープや疲労特性に関するデータシートは、旧金属材料技術研究所時代から30年以上にわたって実施・出版し、国内約400機関、海外200機関以上に配布され、欧米の規格やデータベースに採用され設計基準にも反映されている。今年から、腐食と宇宙関連材料データシートが加わり、構造物の10年以上の耐腐食データの取得や、国産宇宙ロケットの信頼性向上に大きく貢献している。主要業務の中にある、プレスタンダード研究、標準化研究は、これまでの材料研究およびVAMASとの強い連携とリーダーシップの実績から、中期計画に組み込まれたものである。NIMSにおける研究者の評価は、Paper, Patent, Productの3Pを柱とし、データシートや標準化に関わる活動もProductの一つとして評価される。しかし、このような具体的で地道な活動を評価する定量的な目安がないことから、NIMS外では評価が低いのが現実である。
今後の日本経済の市場の確保に大きく影響する国際標準に関わる動向を、先進材料の国際標準化活動を中心に調査した。その要点は次の3つに集約できる。
- 「国際標準」の重要性と緊急性は、関連省庁の担当部局においては認識されているが、対応する予算措置は個別的・短期的であり、人材養成を含む長期的取り組みが不足している。
- 国際標準化の対応は、原則として産業界がリードすべきものであるが、産業の分野ごとに国際標準化の対応の緊急性や必要性等の状況が異なる。多くの場合、将来の国益を考え、産業界がサポートしきれないことは国が知的基盤戦略としてこれまで以上に、省庁を越えて積極的に支援する必要がある。即ち、「標準」を与えられるものではなく、十分なリターンのある「投資」と見なし、科学技術上の貢献として適切に評価されるよう産・学・官あげての意識改革をすることと、国際標準化活動の前線において新規提案や発言力の増加に繋がるような国の研究機関からの研究データを増やすことである。
- 今後より積極的に国際標準化活動を推進するには、欧米との協力関係に加えて、これに関わるアジア各国との協力関係を拡大することが有用である。
これらの課題に対処するための方策のうち、現状の体制を活用することにより実施できることとして、以下が挙げられる。
(1)独立行政法人等の中期計画への記載
各省庁の国際標準に関わる研究機関の中期計画に、国際標準に関わる活動を位置づけ、提案や議論の根拠となるデータの取得と委員会活動を業務の一部と認定する。これにより産業界と大学を含めた活動の活性化や後継者の育成も期待できる。
(2)標準化活動の基盤の整備
提案・制定した国際標準への寄与度またはその影響度を評価する指針等を定め、仕事を積極的に評価する。また、関係機関において、国内外の委員会活動、既存の研究の標準への適用に関わる長期的経常的な研究予算の確保を推奨する。
(3)国際標準には、個別にまた単発的に対応しているだけでは有効な結果は期待できないため、国際標準に関わる状況について、関連省庁と産業界、学会等が連携した国内対応委員会を組織する。
1)知的財産戦略について、総合科学技術会議(第29回) http://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihu29/siryo2-2.pdf
2)経済産業省、日本工業標準調査会新時代における規格・認証制度のあり方検討特別委員会報告書の公表 http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0004154/1/030617kikaku-houkokusyo.pdf
3)日本工業標準調査会ホームページ、国際標準化関係Q&A http://www.jisc.go.jp/qa/a-intl-std.html
4)「標準化戦略」について(日本工業標準調査会標準部会報告) http://www.meti.go.jp/discussion/topic_2001_11/kikou_03.htm
5)国際標準化の現状 http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g10831h13j.pdf
6)日本工業標準調査会国際部国際部会(第3回)議事要旨 http://www.meti.go.jp/kohosys/committee/oldsummary/0000646
7)国際標準化がなぜ今重要なのか―標準化音痴日本の失速― http://www.ecology.or.jp/isoworld/iso9000/globstd3.htm
8)藤田昌宏、河原雄三:国際標準が日本を包囲する、日本経済新聞社,(1998),37,39,133.
9)産業技術政策の今後の方向―産業技術戦略(分析編)、2000年4月26日通商産業省工業技術院 http://www.aist.go.jp/www_j/guide/gyoumu/singikai/saigishin/41siryo/siryo5.pdf
10)国際標準獲得の 成功例・失敗例(経済産業省第3回規格WG資料)
11)国際標準化活動の経済的効果(日本規格協会)
12)H13年度版通商白書 http://www.meti.go.jp/hakusho/tsusyo/soron/H13/Z04-02-17-00.htm
13)ISOホームページ http://www.iso.ch/iso/en/stdsdevelopment/tcpartip/Subscriber MemberList.MemberParticipationList
14)J. Early, VAMAS contribution to standards Development, VAMAS Bulletin, No.24, pp12-16(2001)