[特集3]


革新的原子炉としての高温ガス炉の研究開発動向

環境・エネルギーユニット 大森 良太

1.はじめに

 今日、エネルギー市場自由化の進展、分散型電源の普及、欧州を中心とする脱原発や米国での原子力再評価の動きなど、原子力を取り巻く環境は複雑化の様相を呈している。

 国際エネルギー機関(IEA)によれば、今後、主にアジア諸国で原子力発電所の新設が予想される反面、欧州などの既存プラントが順次閉鎖されると見込まれることから、不確実性が高いとしながらも、2030年における世界の一次エネルギーに占める原子力の割合は、現在の7%から5%に低下すると評価されている1)。一方で、地球環境問題の解決やエネルギー安定供給の観点から、原子力発電が果たす役割の重要性についても認識されてきている。

 このような状況の下、安全性、核拡散抵抗性、経済性、社会受容性等に優れる革新的原子力システムに関する研究開発が世界的に活発化している。革新的原子力システムと言っても多様な原子炉や燃料サイクルが提案され、それらの実用化の目標時期も2010年以前から2030年頃までと様々であるが、次章で見るように、高温ガス炉に対する関心の高まりが注目される。

 現在、商用炉の主流となっている軽水炉は、冷却材、減速材共に水(軽水)を用いる。一方、高温ガス炉は冷却材としてヘリウムガス、減速材として黒鉛を用いる。50年代から研究開発が始まり、80年代までに数機の商用炉が導入されたものの、今日稼動中の商用プラントはない。しかし、高温ガス炉は、(1)固有安全性が高いこと、(2)冷却材出口温度が高く、水素製造をはじめとする核熱の様々な利用が可能であること、(3)エネルギー市場環境の変化への柔軟な対応が可能な中小型モジュール炉に有望な設計がいくつか提案されていることなどから、近年再評価されてきており、次世代型原子炉の有望なオプションの一つとなっている。

 わが国では、90年代から日本原子力研究所が高温工学試験研究炉(HTTR)による核熱利用研究を進めており、商用プラントの実現にはまだ多くの課題が残されているものの、その水準は世界トップクラスである。

 ただし、近年、工学システムの安全・安心、あるいは、水素エネルギーシステムへの関心が国内外で急速に高まる中、米国やフランスが高温ガス炉を将来型原子炉の有力オプションの一つとして認識し、本格的な研究開発に取り組みつつある。このような状況の下、わが国としても、将来の原子力プラントに対する社会的ニーズを考慮しつつ、高温ガス炉の多様な可能性に着目した研究開発戦略を構築していく必要があると考えられる。

 本稿では、次章で革新的原子力システムの研究開発を巡る国内外の動向、および、高温ガス炉への期待の高まりを概観する。3章では高温ガス炉の研究開発の経緯や特徴について触れ、4章では、高温ガス炉の新しい利用形態として特に注目されている水素製造に焦点をあてる。5章では、国内外の主な研究開発・導入プロジェクトを紹介し、6章では、わが国における高温ガス炉研究開発にとっての課題について検討する。

2.革新的原子力システム開発と高温ガス炉への期待

 
 今日、革新的原子力システムに関する研究開発が国際的に活発化しているが、この動きを先導しているのは米国である。米国エネルギー省(DOE)は、原子力エネルギー研究イニシアチブ(NERI)において、革新的原子力システムに関する技術開発を進めてきた。また、DOEの主導で発足した第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)(注1)には、図表1に示すように、わが国を含む10カ国(アルゼンチン、ブラジル、カナダ、日本、韓国、フランス、南アフリカ、スイス、イギリス、米国)が参加しており、2030年頃の実用化を目途とする第4世代原子力システム(Generation IV)の開発に向け、有望な原子力システムの選定や国際共同研究計画の検討作業を実施している。


(注1)わが国は2001年7月にGIFの憲章に署名


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 ここで、第4世代原子力システムの概念を説明する。図表2に原子炉の第1世代から第4世代までの流れを示す2)。50〜60年代に開発された初期の軽水炉が第1世代、60年代以降に導入され、現在稼動している原子炉の主流となっている軽水炉のPWRとBWRは第2世代に位置付けられる。さらに、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)などの先進型軽水炉が第3世代であり、第4世代は概ね2030年ごろの実用化を射程に入れた原子炉群ということになる。さらに、今後研究開発が必要であるが、第4世代より早期(2015年頃)の実用化が期待されるグループを短期導入候補(INTD:International Near Term Deployment)と呼ぶ。

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 昨年9月、GIFの政策グループ会議が東京で開催され、国際共同研究開発の対象として、以下の6つの第4世代原子力システムを選定した。これを見ると、ガス冷却炉が2つ選ばれている点が特筆される。また、半数にあたる3システムは高速炉となっている。

 ●ガス冷却高速炉システム
 ●ナトリウム冷却高速炉システム
 ●鉛冷却高速炉システム
 ●超臨界圧水冷却炉システム
 ●溶融塩炉システム
 ●超高温ガス炉システム

 また、海外では短中期的な高温ガス炉の商用炉導入計画が進行している。南アフリカのESCOM社が開発しているPBMRや、米ロが中心となって開発し米国への導入やロシアにおける解体核プルトニウムの処分の観点から期待されているGTMHRなどのモジュール型高温ガス炉については、2010年以前の運転開始を目指したプロジェクトが進行中である。これらは世界で最も早期に導入される次世代型炉になる可能性があり、上記のINTDの位置付けとなっている。

 これらの第4世代炉および短期導入候補として位置付けられた高温ガス炉システムについては5章で個別に取り上げる。

 一方、わが国では2000年の原子力長計3)において、革新的原子炉に係わる研究開発について、炉の規模や方式にとらわれず多様なアイデアの活用に留意しつつ、産学官が連携して検討することの必要性が述べられている。また、2002年11月には原子力委員会が「革新的原子力システムの研究開発の今後の進め方について」4)を公表し、わが国の研究開発の現状を整理した上で、その必要性と開発戦略についての考え方を示した。この中で、革新的原子力システムとして9概念(17炉型)が挙げられており、高温ガス炉としてはペブルベッド型高温ガス炉、プリズマスティック型高温ガス炉、大型ヘリウムガス冷却高速炉の3つの炉型が含まれている。

 また、文部科学省は2002年度より提案公募型プロジェクト「革新的原子力システム技術開発」(2002年度予算43億円)を開始した。また、経済産業省は2000年度より同じく提案公募型の「革新的実用原子力技術開発」(2002年度予算23億円)を実施している。

 また、日本と共にナトリウム冷却高速炉の研究を先導してきたフランスは、実証炉スーパーフェニックスの廃炉措置を決定し、この炉型の実用化を2050年以降に先送りする一方、ガス冷却炉の高い安全性と経済性に注目し、革新炉開発をこれに集中して行う方針を打ち出した4)。長期的には超高温ガス炉や高温ガス増殖炉の実用化を目指している。日本原子力研究所とフランス原子力庁(CEA)は2002年9月、「原子力開発分野における包括協力協定」を更新したが、新たに高温ガス炉システム開発についての協力が含まれた5)

3.高温ガス炉の研究開発の経緯と特徴

 3‐1.ガス冷却炉開発の経緯

 図表3に示すように、現在、稼動している商用原子炉の約8割は軽水炉―加圧水型軽水炉(PWR)と沸騰水型軽水炉(BWR)―であり、冷却材と減速材に共に水を用いる。この他、カナダ型重水炉(CANDU)、炭酸ガス冷却型ガス炉(Magnox および AGR)、黒鉛減速型軽水炉(RBMK)が、それぞれカナダ、英国、ロシアを中心に稼動している。

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 ガス冷却炉としては、マグノックス炉(Magnox)と改良型ガス炉(AGR)が、50年代後半から70年代にかけて、主に英国で導入されてきた。いずれも冷却材は炭酸ガスである。マグノックス炉は天然ウランをマグネシウム合金で被覆した燃料棒を用い、冷却材温度は約400℃程度である。改良型ガス炉は、マグノックス炉の経済性を向上させるため英国が独自に開発した炉型で、ウラン酸化物をステンレスで被覆した燃料棒を用い、冷却材温度を650℃程度になっている。80年代以降は新設されず、既に運転を停止している炉も少なくないが、今日なお、英国の原子炉の大半はAGRである。

 一方、本稿で対象としている高温ガス炉は冷却材としてヘリウムを用いる。冷却材温度も800℃程度以上と高い。

 このような高温ガス炉の研究開発7)は50年代から始まり、60年代を中心にドイツや米国で実験炉や原型炉がいくつか建設されたが、これらはいずれも既に運転を終了している。70年代には米国で商用炉の導入が計画されたが、実現には至らなかった。80〜90年代にかけては、高い固有安全性を有するプラントの設計概念が米国やドイツで提案されるとともに、発電以外の用途、例えば、石炭ガス化、アンモニア製造、熱電併給システムなどへの利用に関する研究開発が、ドイツ、日本、ロシアを中心になされてきた。わが国では、高温工学試験研究炉(HTTR)が1998年に臨界に達し、水素製造等の試験研究を実施している。しかしながら、今日、世界で運転中の高温ガス炉商用プラントはない。

3‐2.高温ガス炉の特徴

 前節で見たように、世界におけるこれまでの高温ガス炉の研究開発・導入は必ずしも順調なものではなかった。この理由としては、燃料製造コストが高いこと、炉心の発熱密度が低いため建設費が高くなること、軽水炉が普及したことによる技術のロックイン効果などが挙げられる。しかし、これまでの研究開発成果の蓄積に基づき、固有安全性が高く、経済性に優れ、水素製造をはじめとする核熱の多角的利用の面に優れた新しい高温ガス炉の設計がいくつか提案されている。これが近年の高温ガス炉の再評価の背景となっている。以下では、これらの特徴について説明する。

(1)水素製造などへの核熱の利用可能性

 軽水炉の場合、冷却材の原子炉出口温度は330℃程度であるが、高温ガス炉の場合には800〜950℃程度になる。このため、ガスタービンを介して発電する場合には、発電効率が45〜50%にまで達する。

 また、最近特に脚光を浴びているのは、その高い冷却材温度を生かした熱源としての利用、特に大規模な水素製造への応用である。原子力による水素製造プロセスとしては、水の電気分解、化石資源の水蒸気改質、水の熱化学分解があるが、高温ガス炉を熱源とした水の熱化学分解プロセスは高効率で、さらに、二酸化炭素排出が実質的にゼロとなる大規模水素製造法として注目されている。図表4に示すように、この他、核熱の利用分野としては、製鉄、石炭ガス化、石油精製、海水淡水化、地域暖房などが考えられる。高温ガス炉による水素製造については次章であらためて取り上げる。

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(2)高い固有安全性

 高温ガス炉では低濃縮二酸化ウランを炭化ケイ素などのセラミックスで多層に被覆した直径1mm程度の燃料粒子を、ペブルベッド型(球状)またはブロック型に固めて用いる。図表5に日本原子力研究所高温工学試験研究炉(HTTR)で用いられている燃料(ブロック型)の模式図9)を示す。図中の燃料コンパクトは燃料棒中に封入される。

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 燃料粒子の被覆セラミックスは耐熱性が高く、1,600℃以上の高温になっても健全性が保たれる。高温ガス炉では、万一、冷却材のヘリウムが失われるような事態が発生しても(減圧事故)、自然放熱による崩壊熱除去のみにより、被覆材の温度がこの温度にまで達することを防ぐことができ、内部の放射性物質が放出されることはないとされる10)。また、減速材の黒鉛は熱容量が大きいため、事故時のシステム温度の変化が緩慢になり、運転員は時間的余裕をもって適切な措置を講じることができる。さらに、全運転状態を通じて炉は大きな負の温度係数を持つこと、冷却材のヘリウムは化学的に不活性であることも高温ガス炉の安全要因として挙げられる。

(3)小型モジュール化による経済性の向上とエネルギー市場環境への柔軟な対応

 多くの軽水炉プラントは最大出力が100万kWe以上である。一方、5章で見るように、高温ガス炉においては出力10〜30万kWeクラスのモジュール型炉が注目を集めている。一般的にはプラント規模が大きいほど経済性が向上する(スケールメリット)。しかしながら、小型高温ガス炉の場合には、固有安全性の高さに基づく安全システムの簡素化、ガスタービンの導入による高発電効率の達成を通じて経済性を高めている。

 また、今日多くの国々でエネルギー市場の自由化が進展している。これに伴い、特に、独立系発電事業者(IPP)など、中小規模の電力事業者は、電力料金の変動やエネルギー市場の環境変化のリスクにこれまで以上にさらされることとなり、資本回収に長期間を要する大規模プラント(特に固定費の割合が高い原子力発電所)の建設に踏み切りづらい状況となっている。その結果、初期コストが小さいことから資本回収におけるリスクが小さく、建設するモジュール数を変えることでサイト全体の出力を調整でき将来の環境の変化(電力価格やエネルギー需給)にも柔軟に対応できる小型モジュール炉が注目を集めている。

4.高温ガス炉による水素製造

現在、燃料電池をはじめとする水素エネルギーシステムに対する期待が高まっているが、その本格的な普及にとっての大きな課題の一つは、燃料となる水素をどのようにして製造するかである。高温ガス炉に対する関心が高まっている大きな理由の一つは、クリーンで経済的な大規模水素製造への応用可能性にある。

 現在、工業的に確立している水素製造法は天然ガスなどの化石資源の改質によるものであるが、この場合には製造時に大量の二酸化炭素が排出される。従って、3E問題の解決の観点からは、水やバイオマスからの水素製造法の実用化・普及が望まれる11)。特に、高温ガス炉による水の熱化学分解は、大規模でクリーンな水素製造法として期待されている。

 水を熱により直接分解するためには2,500℃以上の高温を必要とする。しかし、いくつかの熱化学反応を組み合わせることにより、800℃程度の熱で水を分解する熱化学サイクルが複数提案されている。この温度領域であれば、高温ガス炉を熱源として用いることができる。

 日本原子力研究所はISプロセスによる水の熱分解プロセスの試験研究を実施している12)。ISプロセスは米国ゼネラル・アトミクス社により考案された手法であり、以下の3つの化学反応(図表6)で構成され、原料水と反応させるヨウ素(Iodine)および硫黄(Sulfur)から生じる化合物をプロセス内部で循環使用することで、外部に有害物質が排出されない工夫がされている。

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 同研究所では、2001年にISプロセスによる連続水素製造装置(水素製造量毎時50リットル規模)を完成し、試験研究に着手し、2008年頃に、高温工学試験研究炉(HTTR)と連結させる予定である。

 米国では、昨年、エネルギー省(DOE)の主導で発足した、政府と自動車メーカーとの技術開発パートナーシップであるFreedomCAR イニシアチブ(2003年度算要求$150.3M)がスタートしたが、今年2月に発表された2004年度DOE予算案13)では水素の製造、貯蔵、インフラに関する研究開発を実施するHydrogen Fuelイニシアチブ(注2)が新規に提案され、FreedomCAR イニシアチブと合わせて、$273Mが要求されている。


(注2)当初はFreedomFuel initiativeとアナウンスされたが、最近ではHydrogen FUEL initiative、または、FreedomCAR initiativeとあわせ、Freedom CAR and FUEL initiativeと呼ばれている。


 このHydrogen Fuelイニシアチブの枠組みにおいて、Nuclear Hydrogenイニシアチブ(2003年度算要求$4.0M)が提案されている。熱源としては、高温ガス炉、あるいは、液体金属冷却炉が候補に挙げられており、2015年度の商用規模での実証を目指している14)

 なお、原子力エネルギーによる水素製造法は、上記の高温ガス炉による水の熱化学分解の他にも図表7に示すような方法が提案されている。いずれも、プラント出力の大きさから、再生可能エネルギー等による方法と比べ、大量生産が可能という特色がある(注3)


(注3)消費地から離れた大規模プラントの場合には水素の輸送コストが問題となる。


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 例えば、燃料電池実用化戦略研究会は、2020年における燃料電池自動車の期待する導入目標を500万台(累積)としているが16)、これらが全て水素を搭載して走行するようになると、年間60億Nm3超の水素が必要になる17)。一方、高温ガス炉による熱化学分解法、および、軽水炉による電気分解法の場合、出力100万kW当たり、1年間にそれぞれ34億Nm3、17億Nm3の水素が製造可能である18)。従って、数基の原子力プラントで上記の水素需要を満たすことが可能となる。

 また、高温ガス炉や高速増殖炉の核熱を従来の天然ガス等の水蒸気改質の熱源として用いる方法は、水の熱化学分解よりも経済性や技術的フィージビリティの観点から早期に導入可能と考えられ、日本原子力研究所と核燃料サイクル機構がそれぞれ中心となって研究開発を進めている。

5.国内外の研究開発プロジェクト

 国内外で進行中の代表的な研究開発および商用炉導入プロジェクトを図表8に示す。稼動中の試験研究炉としてはHTTR(原研)、HTR‐10(中)、2010年頃までの導入が計画されている商用炉としてはPBMR(南ア)、GTMHR(米・ロ)、より先の導入を目標とする構想炉として超高温ガス炉VHTR、ガス冷却高速炉GFRなどがある。本章では以下、各プロジェクトの概要をまとめる。

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5‐1.HTTR(高温工学試験研究炉)(日本)

 日本原子力研究所が中心となって研究開発を進めているHTTRは、原子力の非電力分野での用途開発を目的とする試験研究炉として1990年に設置許可を受け、1991年に着工を開始し、1998年11月に初臨界を達成した。燃料要素はブロック型で、冷却材出口温度は850〜950℃である。2008年頃に水素製造装置を接続する予定となっている。

 今後は、高性能燃料の照射試験、安全性実証試験、核熱利用試験(水素製造‐熱化学法、高温水蒸気電解法など)、先端的基礎研究(セラミックスの照射試験、トリチウム回収試験、高温耐熱材料及び高温耐熱計装システムの開発)、水蒸気改質法による水素/メタノール製造システム、などについての研究を進める計画となっている。

 また、原研ではわが国独自のモジュール型ガスタービン高温ガス炉GTHTR300のシステム設計も実施している。出力は100〜300MWeクラスで2010年代の実証機の導入を目指している。

5‐2.HTR‐10(高温ガス実験炉)(中国)

 HTR‐10は中国の清華大学がドイツの技術支援を受けて開発した高温ガス炉(出力10MW)であり、(1)高温ガス炉の設計、建設、運転についてのノウハウの取得、(2)実験設備の構築、(3)固有安全性の実証、(4)電熱供給技術、ガスタービン技術の試験、(5)高温利用プロセスに関する研究開発、を目的として建設され、2000年12月に臨界に達した。現在、100%の出力に向けた出力上昇試験を実施している。

 燃料要素は17%の濃縮ウランを用いたペブルベッド型である。現在は蒸気タービンが用いられているが、将来的にはガスタービンを設置し、直接サイクルガスタービン発電の実証を目指している。

5‐3.PBMR(ペブルベッド型モジュラー高温ガス炉)(南ア)

 PBMRは南アフリカ国営電力会社のESCOM社が主体となって開発している小型モジュール炉である。各国が小型モジュール型高温ガス炉の研究開発を推進している中、PBMRは導入に向け最も先行している。

 現在、南ア、欧、米の電力会社やメーカーが資本参加し、南アで原型・実証・実用1号炉を兼ねる初号炉の導入およびそれに続く10基程度の実用炉モジュールの増設に向けた計画が進展中である。この計画には日本からも三菱重工(Heガスタービン)や原子燃料工業(燃料製造設備)が技術協力をしている。順調に行けば、着工の可否についての最終判断、南ア規制当局のライセンス発行を経て、2004年にも初号炉の着工が始まり2007年頃運転が開始される予定である。これと並行して、さらに10基の増設も推進される。

 一方、約30年ぶりの新規原子炉建設として注目を集めている米国への導入は不透明な情勢となっている。導入を計画していた米国電力会社のエクセロン社は2001年1月に、原子力規制庁(NRC)に対してライセンス申請計画の説明を開始し、これに呼応して、NRCも予備的な許認可審査に取り掛かった。早ければ2010年までに複数基が導入されるのではないかと期待されたが、2002年4月、エクセロン社は上述の南アでの計画への資本参加からの撤退を表明した。これに伴い、NRCのレビュー作業も停止している状況である。

5‐4.GTMHR(ブロック型モジュラー高温ガス炉)(米国・ロシア)

 GTMHRはロシアおよび米国で導入が計画され、両国を中心とする国際共同研究コンソーシアムが発足している。これには、欧米のメーカーや研究機関に加え、わが国からは富士電機が参加している。ロシアにおいては核兵器の解体により生じる余剰兵器級プルトニウムの処分炉の候補として位置付けられており、一方、米国においては、水素製造への応用も視野に入れ、安全性や経済性に優れた原子炉として見なされている。ロシア国内では2006年、米国では2007年頃の建設開始を目標に安全審査の準備が進められている。

 1モジュール当たりの出力は286MWeで標準プラントは4モジュールの構成となる。直接サイクルガスタービン発電により、45〜50%の高い発電効率が達成される。核兵器解体プルトニウム処分炉としては、1回の燃料装荷・運転で大部分のPu239を消滅可能で、4モジュールプラントでは1年間に約1トンの兵器級プルトニウムを処分できる。

5‐5.第4世代原子炉

 昨年、第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)は、国際共同研究開発の対象として6つの第4世代原子力システムを選定したが、このうち2システムはガス冷却炉‐VHTR(超高温ガス炉)とGFR(ガス冷却高速炉)−である。以下では、主に第4世代原子力エネルギーシステム技術ロードマップ20)を基にこれらの炉型のシステム概念を紹介する。

(a)VHTR(超高温ガス炉)

 VHTRは冷却材出口温度が1000℃以上の炉であり、最終的には1500℃程度への目標としている。利用形態としては、ISプロセスによる水素製造に力点が置かれている。リファレンスデザインでは出力は600MWth程度、燃料は低濃縮ウラン酸化物のZrC被覆粒子燃料(ブロック型またはペブルベッド型)である。

 水素製造プラントとして用いる場合には、中間熱交換器により取り出した熱をISプロセスプラントに導入する。一方、発電炉として用いる場合には、直接サイクルの採用が想定され、発電効率は50%以上と評価されている。いずれの場合も、使用済み燃料をリサイクルしないワンススルーサイクルが想定されている。今後の課題としては、耐熱性の高いZrC被覆燃料、耐熱セラミックス材料、受動的崩壊熱除去システム、中間熱交換器等に関する研究開発が挙げられている。2020年ごろの運転開始を目途に、現在、原研や米国GA社が中心となって研究開発を進めている。

(b)GFR(ガス冷却高速炉)

 GFRはウランの資源利用効率の向上とアクチニド管理を図るためクローズドサイクルを想定したヘリウム冷却高速炉であり、特に仏CEAが本炉型の研究開発重視の姿勢を打ち出している。実用化の目標時期は2025年頃である。

 本炉型では、ウラン、プルトニウム、アクチニドのリサイクルが重視され、廃棄物中の長半減期核種の量も最小化される。リファレンスデザインでは出力600MWth/288MWeで冷却材出口温度は850℃である。水素製造を目的とした熱利用も可能であるが、直接サイクルヘリウムガスタービンによる発電が一義的には想定され、発電効率は48%となっている。燃料はcercerと呼ばれるセラミック複合燃料(UPuC/SiC(70%/30%)、約20%Pu含有)が最も有望なオプションとされている。使用済燃料再処理の方式としては、湿式オプションおよび乾式オプションを含めて今後、検討されることになっている。

 

6.おわりに

 本稿では、短中期の新規導入炉および第4世代原子炉の有力オプションとして急速に関心が高まっている高温ガス炉に焦点をあて、その期待の高まりの現状と国際的な取り組み、原子炉としての特徴、特に注目されている水素製造への利用について述べ、さらに、国内外の主な研究開発・導入プロジェクトを概観した。

 高温ガス炉は固有安全性が高く、水素製造をはじめとする核熱の多角的な利用や中小型炉による高効率発電が可能である。このような特徴は、将来社会の原子力システムに対するニーズとも親和するものと考えられる。

 今日、各国は高温ガス炉を次世代型原子炉候補として明確に位置付け、本格的な研究開発に取り組みつつある。わが国も将来の原子力プラントに対する社会的ニーズを考慮しつつ、高温ガス炉の多様な可能性に着目した研究開発を推進していくことが重要である。HTTRに続く原型炉、および、小型高効率発電試験炉などの建設についても官民で検討していく必要があろう。

 目下、将来の水素エネルギーシステムの普及に伴う膨大な水素需要をどのように満たすかが大きな課題となっているが、高温ガス炉を熱源としたクリーンで大規模な水素製造が注目されている。これは発電のみに限定されてきた原子力エネルギーの用途を拡大し、エネルギーシステム全体におけるその役割を大きく変える可能性がある。DOEの2004年度予算要求ではHydrogenFuelイニシアチブの一環としてNuclear Hydrogenプロジェクトが新規提案された。わが国においても、高温ガス炉をはじめとする原子炉による水素製造の研究開発プロジェクトの発足が望まれよう。


参考文献

1)International Energy Agency, World Energy Outlook2002(2002)

2)DOEホームページより転載(http://gen-iv.ne.doe.gov/

3)原子力委員会、原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画、平成12年11月24日

4)原子力委員会研究開発専門部会、革新炉検討会、革新的原子力システムの研究開発の今後の進め方について、平成14年11月7日

5)日本原子力研究所プレス発表、2002年9月20日(http://www.jaeri.go.jp/jpn/open/press/2002/020920/

6)http://www.world-nuclear.org/info/inf32.htm

7)原子力百科事典ATOMICA、ガス冷却型原子炉の技術的進展(03-03-01-01)、http://mext-atm.jst.go.jp/atomicaf.html

8)原子力百科事典ATOMICA、高温ガス炉による核熱エネルギー利用の拡大(03-03-05-01)(http://mext-atm.jst.go.jp/atomicaf.html

9)http://httrntsv.oarai.jaeri.go.jp/index_top.html

10)早川均ほか、高温ガス炉の新展開「原子炉特性:固有安全原理を中心として」、日本原子力学会誌、Vol.44、846(2002)

11)大森良太、化石資源を用いない水素製造技術、科学技術動向、No.19(2002)

12)日本原子力研究所プレス発表、 2001年5月15日(http://www.jaeri.go.jp/open/press/2001/010515/index.html

13)http://www.mbe.doe.gov/budget/04budget/content/highlite/highlite.pdf

14)DOEホームページ資料(http://nuclear.gov/infosheets/Hydrogen%20J.pdf

15)中英昌、浮上する「原子力による水素生産」の夢と課題、原子力eye,Vol.48,No.5,34(2002)

16)経済産業省燃料電池実用化戦略研究会、燃料電池実用化戦略研究会報告、2001年1月

17)小林紀、水素導入シナリオ、エネルギー資源学会平成14年度エネルギー特別講座「水素エネルギー技術の動向とその導入シナリオ」、2002年11月27日

18)日本原子力産業会議原子力システム研究懇話会、原子力による水素エネルギー、NSA/COMMENTARIES:No.10(2002)

19)土江保男、関本博、高温ガス炉の新展開「世界における高温ガス炉の歴史」、日本原子力学会誌、Vol.44、840(2002)

20)U.S.DOE Nuclear Energy Research Advisory Committee and the Generation IV International Forum, A Technology Roadmap for Generation IV Nuclear Energy Systems(2002)