客員研究官 清貞 智会
2003年2月3日、Bush米大統領が2004年度(2003年10月〜2004年9月)の予算教書を発表した。連邦政府全体のR&D予算は1227億ドル、対前年比6.7%増である。この増加率は、2004年度の裁量予算(連邦政府の全予算から義務的経費を除いたもの)の増加率(4%)を上回っている。これにはディフェンス関連の開発予算とホームランドセキュリティ関連の研究予算が大幅に伸びた影響が大きい。本稿では2004年度大統領予算教書をもとに、Bush政権のR&Dプライオリティ変化について議論する。
2004年度大統領予算教書は、不確定な要因が山積した中で発表された。まず、2003年度(2002年10月〜2003年9月)がスタートして既に4ヶ月が経つが、歳出法案が可決されたのはDODのみで、他省局の予算はまだ議会審議が続いている(注1)。もしイラク戦争が起これば臨時予算が必要となり、2002年度から続く財政赤字を拡大するであろう。そして最も不確定な要因が、今後の科学技術政策に及ぼすスペースシャトル事故の影響である。事故が起きたのは予算教書がリリースされる2日前で、その時すでに各省の予算要求案が確定していたため、2004年度の予算教書は事故の影響を受けていない。以上から、大統領予算教書が議会審議を経て歳出予算法となる頃にはどれほど原案を留めているか予測困難であるが、昨年秋の連邦議会で上院、下院ともに大統領が支持する共和党が多数派となっているため、議会は大統領案を重視すると考えられる。
(注1)本稿では2003年度予算として、DODは予算歳出法に基づく値を、その他機関では大統領予算教書で提示された値を用いる。
図表1に2004年度R&D予算(大統領案)の内訳を、図表2に2004年度予算(大統領案)の対前年増加率を示す。Bush政権のディフェンス重視路線に沿ってDODが大きく伸びているが、この内訳を見ると、ミサイル防衛開発プログラム(注2)等の武器システム開発予算が大幅に増加している一方、基礎研究は7.7%減、応用研究は14.4%減となっている。
(注2)2004年度大統領予算教書ではミサイル防衛開発プログラムが対前年比22%増の83億ドル。
NSFのR&D予算は対前年比10%増となっているが、これは昨年12月に正式決定されたNSFの予算倍増キャンペーン(2003〜2007年度)に必要な年率15%の増加率より小さい。
NASAの予算はスペースシャトル事故が起こる前に提案されたが、全NASA予算の3分の2を占めるR&D予算が9.3%増となっている。これは太陽系探査等のスペースサイエンスプログラムの予算が大幅に増えたためであるが、スペースシャトル事故によりNASAのプログラムの抜本的な見直しが進むと考えられ、行方が見守られる。
NIHのR&D予算はこれまで倍増キャンペーン(1999〜2003年度)により順調に伸びてきたが、2004年度はキャンペーン終了にともなって増加率が2%に留まった。インフレ率(1.9%)を考慮すれば、実質的に2004年度予算は前年度並みとなる。ただし、NIHは2003年度に単年度限りの設備投資を大規模に行った(注3)ため、2004年度のR&Dプログラム予算は実質3〜5%増となる。
(注3)NIHの設備投資予算として2003年度は$769Mが要求された、2004年度は$80Mとなっている。
新設されたばかりのDHSのR&D予算は対前年比31.5%増となっており、これは2004年からスタートするHSARPA(Homeland Security Advanced Research Projects Agency)(注4)の予算が新規計上された影響が大きい。
(注4)DODのDARPA(Defense Advanced Research Program Agency)をモデルとするファンディング機関。Directorate of Science and Technology(DHS)に設置。
図表3に分野別政府R&D予算の経年変化を示す。
NIH予算倍増キャンペーンによりNIHの予算が大幅に伸びた結果、分野間の予算配分のアンバランスが問題になっている。ところが、2004年度大統領予算教書は、ライフサイエンス重視から数学・物理重視へと変化している。例えば、NIHが微増となる一方、大部分が数学、物理、コンピュータサイエンス等のプログラムへ配分されるDOEの研究(注5)予算は8.1%増え、またNSFのDirectorate of Mathematical and Physical Sciencesは12.7%となっている。
(注5)DOEは数学・物理研究において連邦政府最大のスポンサー
イラク情勢が緊迫の度を増す中で発表された2004年度大統領予算教書では、ディフェンス開発予算が大幅に伸び、ミサイル防衛開発プログラムだけを取っても対前年比22%増の83億ドルとなっている。これはDOE全体のR&D予算にほぼ匹敵し、さらにNSF全体のR&D予算をはるかに凌ぐ。一方、NSFは2ヶ月前に予算倍増(2003〜2007)が正式決定されたにもかかわらず、予算教書では倍増トラックに沿った増加率(15%)を満たしていない。また、昨年度までのライフサイエンス分野から数学・物理分野へとプライオリティが変化していることも2004年度予算教書の特徴である。
今後、大統領予算教書は議会へ送られる。議会にはNSF倍増キャンペーンのサポーターが多い。また、一般的に市民は数学や物理よりもライフサイエンスに関心を示すため、多くの議員が再びライフサイエンス重視を支持する可能性が高い。以上から歳出予算法案が可決されるまでには様々な衝突が起こると予想されるが、まずは2003年度の予算を確定することが先決である。
本稿をまとめるにあたり、多大なるご協力をいただいたAAAS R&D Budget and Policy ProgramのKoizumiディレクターに感謝の意を表します。