環境・エネルギーユニット 根本 正博
客員研究官 吉川 邦夫
家庭や工場等から大量に排出される廃棄物の処理が大きく社会問題化するに伴って、日本の経済成長を支えてきている大量生産・大量消費の経済活動は、省資源・省エネルギーを目指して廃棄物を有用な資源として再生利用する方向に大きく転換し始めている。政府は、容器包装、家電4品目、建築廃材、食品、自動車についてのリサイクルを義務付けた法令を順次施行するとともに、第2期科学技術基本計画で「循環型社会構築のための研究」を取り上げている。これを受けて、総合科学技術会議は、分野別推進戦略の環境分野において「ゴミゼロ型・資源循環型技術研究」を重点化の柱の一つとして盛り込み、社会基盤分野においても科学技術の進展で生ずる有害危険物質への対策に言及している。さらに、経済財政諮問会議の循環型経済社会に関する専門調査会においても、ごみを資源・エネルギーに活用する方策の検討を進めている。
工場でバージン原料から製品を作り出す物流量(動脈流)と、工場や家庭での不要品を再資源化して工場向けの原料にする物流量(静脈流)を同水準として、最終的に廃棄物ゼロとなる「ゼロエミッションの実現」について、産学官は環境負荷低減の有力な方策として様々な研究・技術開発に取り組んでいる。特に、産業界には、リサイクル関連法の施行に伴って環境ビジネスとして有望な市場が創生されるとみる考えがあり、数多くの企業によって環境対策のための技術が相次いで開発されている。しかしながら、いまだ静脈流を支える産業(静脈産業)を支える技術は確立しているとはいえない状況にある。このため、静脈産業による一般廃棄物(約5100万トン/年)および産業廃棄物(約40000万トン/年)の再資源化はごく一部にとどまっており、さらに産業廃棄物最終処分場新規施設数が平成11年以降激減していることなどから1)、危急的速やかなリサイクル技術の確立が求められている。
本稿では、リサイクル関連法における廃棄物の分類を機軸として、廃棄物処理の研究・技術開発と事業化への取り組みの現状を分析する。さらに、多様性に富んだ循環型社会を構築するに当たって、取り組むべき研究・技術開発の課題について言及する。
循環型社会の形成を目指した法制度(図表1)のうち、物質循環の確保、天然資源の消費抑制といった基本的な枠組みは「循環型社会形成推進基本法」に定められている。一般的な仕組みの確立のために、廃棄物の適正処理を目指した「廃棄物処理法」とリサイクルの推進を目指した「資源有効利用促進法」が制定されている。
個別物品の特性に応じた規制が、いわゆるリサイクル関連5法である。関連5法の対象は、容器包装、家電4品目、建設資材、食品、自動車であり、図表2に示したような目的や狙いがある。
廃棄物の形態が多種多様であるため、リサイクル技術の開発は多岐に亘っており、リサイクル事業では多数の生産品目がある。本章では、リサイクル関連法の対象になっている廃棄物のリサイクル技術について、(1)リサイクル技術の研究開発と事業化、(2)マテリアルリサイクル技術と従来型製造技術の比較、(3)リサイクル事業化への産学官の役割、(4)リサイクル事業の連関について分析する。
3‐1 リサイクル技術の研究開発と事業化
リサイクル技術開発の方向性は、物質の組成状態を変えないマテリアルリサイクル、化学的成分を変えるケミカルリサイクル、燃焼させて熱さらには電力として利用するサーマルリサイクルを目指したものがあるが、リサイクル技術は非常に多岐にわたるため、単純にこの3種類に分類することは難しい。
(1)マテリアルリサイクルとケミカルリサイクル
環境産業の振興を通じた地域振興を目的として、経済産業省は環境省と連携してエコタウン事業を推進している。このエコタウン事業などで開発されたものも含め、主なリサイクル技術とこれによる再生・生成品の利用先について、マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルを中心として分類すると図表3のようになる。
(2)サーマルリサイクル
リサイクル技術での生成品は、静脈産業での資源として活用されるほか、エネルギー源にもなっている。エネルギー源の形態としては、電力が中心であり、蒸気や水素などの有価ガスもある。発電を最終目的としたサーマルリサイクルには、主に図表4に示す技術がある。
従来型焼却炉方式では、炉内に「ストーカー」と呼ばれる箱型の金属台でゴミを送り込み加熱するストーカー炉が普及しているほか、苫小牧東部開発地域では今年11月に廃プラスチック専焼の商業発電所が、大牟田市では同12月に第3セクター方式でRDF(注1)専焼の発電所がそれぞれ稼動し始めている。
図表4の発電方式のうちで、最近最も注目を浴びている技術がガス変換発電技術である4,5)。ガス変換発電技術は、さまざまな廃棄物を600℃程度以上の高温で熱分解した後、さらに煤やタール分を水素ガス等へ改質することによって、燃料ガスとスラグとよばれる溶融灰に分け、燃料ガスはガスエンジンなどでの発電に利用し、スラグは道路舗装材などに利用するものである。ガス変換発電技術は、一般廃棄物、産業廃棄物を問わず幅広い廃棄物を燃料とすることが可能であり、スラグも有効利用することで、廃棄物の最終段階の処理技術としての期待がある。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)およびその委託を受けた大手企業等は、平成13年度から200トン/日以下の比較的小規模の廃棄物処理施設で利用できるガス変換発電技術を研究している。また、東京工業大学はわずか500kg/日程度の廃棄物量でも、経済的、技術的に運用可能な小型廃棄物ガス変換発電技術を開発し、人口8千人程度の小規模な地方自治体が導入を進めている。
(注1)Refuse Derived Fuelの略で、可燃ごみを破砕・乾燥・選別・圧縮成型して固形燃料化したもの。
3‐2 マテリアルリサイクル技術と従来型製造技術の比較
図表3に示したような再生品を生産するマテリアルリサイクル技術は、従来の一般製造業における製造技術と比べた場合、「物を作る」という同じ意味を有しているが、原料や製品規格などに大きな差がある。図表5は、両方の技術について比較したものである。
図表5に示すような差異がある大きな原因のひとつは「原料が何か」である。従来型製造技術では、大規模な原料供給システムが整備されたため、低コスト・高品質で集中生産できる方式が広く行われている。これに対して、マテリアルリサイクル技術において原料になるのは廃棄物であるため、分別・収集・運搬にかかるコストを抑制して、最も低コストで製品を作れる技術が強い競争力をもつ。マテリアルリサイクル技術において従来型製造技術による製品と同品質の再生品が作れたとしても、限られた廃棄物量から効率的にリサイクル品を再生できる技術でなければ、割高な製品コストがネックになり市場での普及は難しい。
3‐3 リサイクル事業化への産学官の役割
研究・技術開発によって生まれたリサイクル技術をシーズとして、産学官はそれぞれの立場でエコタウン事業などとしてリサイクル事業化に参画している。それぞれのエコタウン事業で詳細部分は異なるものの、産業界、大学を中心とした研究機関、国や地方自治体などの行政機関は、図表6に示すような役割を果たしている。リサイクル事業化においては、産学官に加えて住民(市民)の果たすべき役割も大きい。これは、住民は一般廃棄物の排出者であって廃棄物の分別などで役割分担を求められること、廃棄物処理施設の近隣地域に居住する住民の同意なくして処理施設の設置が難しいことなどの理由による。
3‐4 リサイクル事業の連関
リサイクル事業による生産工程には、例えば、リサイクル業者がPETボトルからフレーク状のポリエステルを作り、それを原材料として企業がポリエステル繊維化して衣料品にするといった流れがある。また、札幌市リサイクル団地においては、ポリプロピレンなどの廃プラスチック製品から軽油代替燃料油などを製造している油化企業が、隣接する食品廃棄物処理企業に対して、飼料化工程でのヒーター用燃料として燃料油を供給するといった計画もある。これらの事例は、ひとつのリサイクル事業での生産品が他のリサイクル事業の原料となることによって、二つのリサイクル事業が連関を持ち始めていることを示している。このような結びつきは一般の製造事業における原料加工・製品化の流れと同じであって、静脈産業が動脈産業と同じ仕組みを構築しつつあることを意味している。このような状況にあるリサイクル事業と一般の製造事業との結びつきに注目すると、図表7に示すような簡略化した資源の流れ図が描ける。
ゼロエミッションとは、1992年の地球サミットで採択された地球環境保全のための基本理念である「リオ宣言」及び行動計画「アジェンダ21」を踏まえて、1994年に国連大学が提唱した構想である。国連大学のゼロエミッション研究構想では、「ゼロエミッションは、産業に投入されるすべての資源を最終製品に活用するか、他の産業、生産工程の付加価値を持たせた資源として活用することを目指す。そうすることで、複数の産業が、すべての産業廃棄物や副産物が他の産業の資源として活用され、全体としていかなる形の廃棄物も生み出さない統合化された生産を行う、産業集団へと再編成される」と表現されている(注2)。
国連大学は「ゼロエミッション」の概念を適用できる範囲を厳密に定義しなかったため、多様な解釈が生まれ、結果として企業や地域などでゼロエミッションを謳う多様な取り組みが生まれた。ゼロエミッションを目指した活動は、3種類に分類できる。第1は、一つの工場や事業所などの産業施設における取り組みである。第2は、ひとつの工業団地などにおける複数の企業による取り組みであり、27社が参加する甲府市の協同組合国母工業団地工業会の取り組みは、このタイプでの成功事例のひとつとしてよく知られている。第3は、市町村などの地域やコミュニティーでの取り組みであり、北九州エコタウン事業、札幌市リサイクル団地などの事例がある。
第1と第2の活動は、図表7において動脈側にいる企業によるゼロエミッションを目指す活動として実現している。第3のモデルは、自治体等がゼロエミッションの実現を推進するとともに、静脈側にいるリサイクル企業群がその活動の一翼を担うものである。動脈側と静脈側の両方にいる企業群の目指すものは、製造・リサイクル技術体系を革新していくことによって、最終的にゴミゼロ・資源循環を実現することであり、その過程において廃棄物として最終処分化される物量を削減することでもある。
一方で、ゼロエミッションの達成を阻む要因もある。不法に大量投棄された組成不明の廃棄物については、リサイクル研究・技術開発がほとんど進んでいない。また、動脈産業において発生するダイオキシン類などの有害危険物質は、一時保管の形で資源循環の中で留め置かれており、これを無害化処理するための早急な技術開発が求められている。
(注2)国連大学ゼロエミッション研究構想のパンフレットでは次のように表記されている。
"Zero Emissions envisages all industrial inputs being used in the final products or converted into value-added inputs for other industries or processes. In this way, industries will reorganize into "clusters" such that each industry's wastes / by-products are fully matched with others' input requirements, and the integrated whole produces no waste of any kind. "
ゼロエミッションを目指す研究・技術開発について、多面的に議論しなければならない問題点は多い。議論すべき事項には、例えば、
- 大学等における研究・技術開発のシーズと自治体からのニーズを適合させる方法は何か
- 研究・技術開発の成果を事業化に結びつけるために何が必要か
- 静脈産業を社会システムの要素としてどのように位置づけるか
- 産業界(産)・研究機関(学)・行政(官)・地域住民(民)が担う役割は何か
などがある。本章では、これらの論点に絞って議論する。
(1)大学の果たす役割多くの大学の研究者は実用化できる技術の開発を目標としてさまざまな研究を進めているが、研究の水準は未だに技術開発段階にあるケースが多い。一方、多くの自治体は、一般廃棄物を処理するために、企業が実用化したリサイクル技術を導入しているが、食品廃棄物から有価ガスを取り出して発電に利用する技術や食品廃棄物を飼料化する技術など、現在大学などで開発中のリサイクル技術の導入にも関心を持っている。これまで、自治体が導入してきているリサイクル技術は、大学の成果がシーズとなっているとは言い難い。今後は、大学での研究・技術開発では、自治体のニーズを取り込みながら研究を進める必要がある。例えば、その方策の一例として、個々の自治体が抱える廃棄物問題の解決を地元にある大学に研究委託するような形式で進め、密接な協力の下で研究・技術開発に当たることが想定される。
(2)事業化への取り組み
大学等で生まれたリサイクル技術などの廃棄物処理技術を事業として成長・普及させるためには、解決すべき二つの課題がある。第1は、大学等での研究規模と事業化規模には大きな差があり、スケール差による技術的課題が新たに生じることである。第2は、廃棄物処理委託費とリサイクル品の販売収入の合計が廃棄物のリサイクル処理費用を上回るような、効率性の良い技術開発の必要性である。
第1の課題への取り組みとしては、例えば、リサイクル技術について、これを開発した大学と事業化に関心のある企業や自治体が連合体を形成してフィールド試験の規模で試行することが想定される。これにより、普及技術となる可能性を確認するとともに事業化規模で生ずる新たな技術的課題への対応策を講じることが可能になる。
第2の課題への取り組みとしては、参考事例として大型都市ゴミ焼却施設を中心に導入されてきた大型廃棄物燃焼発電設備が挙げられる。この燃焼発電設備のために高度な技術が開発されたが、過大な処理能力が原因となって、事業採算性が低下したことやニーズのある自治体が限定されたことなどの要因が普及の妨げになってきている。これを踏まえて、NEDO、複数の企業、大学などにより小規模で事業採算性のとれる燃焼発電設備(高効率小規模ごみ発電)の開発が進められている。このような事例を踏まえ、自治体の想定する地域での廃棄物収集計画に見合った規模を前提条件とし、設備設計と技術開発を推進する必要がある。
(3)社会システムにおける位置づけ
静脈産業を社会システムの一員として有効に機能させることも重要である。現在は廃棄物からの再生品を直接消費者や動脈産業にいる加工業者に供給するワンパスの事業形態が主流である。その一方で、再生品を他の静脈産業の原料やエネルギー源として供給する業態も現れてきており、静脈側にいる企業がネットワーク化する兆しがある。今後の静脈産業の創生を効果的に進めるために、自治体は事業用地の貸与や行政手続の広報などで研究・技術開発の支援を行っている。これらに加えて、静脈産業で再生された原材料が積極的に利用されるようにグリーン証書のような制度を国や自治体が設けるなど、リサイクル企業を支援する方策が必要となる。
本稿の取りまとめに当たって、国連大学・鈴木基之副学長、豊橋技術科学大学・藤江幸一教授、福岡大学・長田純夫教授には、大変お忙しいところ長時間に亘って有意義な議論をさせていただきました。また、北九州市役所およびエコタウン関連企業、札幌市役所およびリサイクル団地関連企業、大牟田市役所およびエコタウン関連企業、協同組合国母工業団地工業会、その他の企業の方々には快く見学願いをお聞き届けいただき、たくさんの有用な情報をご提供いただきました。八千代エンジニアリング株式会技術本部副本部長の瀬山賢治氏には、社会システムにおける静脈産業の意義や有害危険物質に関わる処理技術などに関して実り多い議論をさせていただきました。
本稿は諸先生方に貴重な研究・業務時間を割いて戴いた結実であり、ここに心からの深い感謝の意を表します。
1)環境省、平成14年度版環境白書、第2章第3節.
2)ゼロエミッション構築技術、「OHM」9月号別冊、監修吉川邦夫.
3)分野別推進戦略、環境分野、p27-38.
4)科学技術動向No.3、2001年6月号特集「可燃性廃棄物を熱利用する廃棄物焼却処理技術の動向と課題」.
5)第2回高効率廃棄物発電技術に関するセミナー予稿集、新エネルギー・産業技術開発機構、平成14年12月12日.