環境・エネルギーユニット 根本 正博
客員研究官 小林 博和
人間活動が大気中に微量に含まれる温室効果ガスを増加させ、地球規模の気候変動に対し長期的に影響を与えているという概念は、既に広く知られるようになってきている。温室効果ガスには、大部分の量を占める二酸化炭素(CO2)をはじめとして、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)・パーフルオロカーボン(PFC)のフロン類、6フッ化硫黄(SF6)という合計6種類がある1)。これらの温室効果ガスの作用を取り込んだ気候理論が精緻になることにより、多くの気温上昇予測のモデルを使ったシミュレーション結果の差が小さくなり、温室効果ガスによる影響の科学的信頼性が高められてきている。このような温暖化効果の定量的評価の積み重ねを基に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今後100年間のCO2濃度の増加や平均気温の上昇に関する予測結果を含む評価報告をまとめ、これまでに第1〜3次の評価報告書1〜3)を発表している。
IPCCによって地球温暖化現象に関する科学的知見が積み重ねられるのに伴って、気候変動に関する国際連合枠組み条約(略称:国連気候変動枠組み条約(UNFCCC))締結国会議(COP、1995年〜)で温室効果ガス削減の数値目標などが議論された。第7回会合(COP 7、2001年)では、第3回会合(COP3、1997年)における京都議定書の運用規則についての合意がようやく成立し、京都議定書の発効に向けた動きが関係国で活発になっている。京都議定書が発効された場合、我が国は、2008〜2012年の第1約束期間において、温室効果ガスの総排出量を1990年基準比で6%削減することを義務付けられる4,5)。これを受けて、2002年政府は地球温暖化対策推進大綱4)を決定し、我が国における具体的な温暖化対策を提示するとともにその促進を図っている。
しかし、地球温暖化現象に関わる物質は温室効果ガスばかりではない。火山の噴火で大気中に放出される火山灰で日光が遮られ気温が低下する現象などのように、大気中を漂う微小粒子が気温に与える影響は大きい。化石燃料の燃焼や火山の噴火などによって発生し大気中を浮遊する直径000.1〜10μm程度の微小粒子はエアロゾル(エーロゾルとも表記される)と呼ばれている。エアロゾルによる地球温暖化の促進および抑制効果6,7,8)、実証が難しいとされる雲により最高気温と最低気温の差が縮まる効果9)などについては、未だ十分な科学的信頼性が確立されていない状況にあり、科学的知見のより高度な集積を目指して研究が進められている。
本稿では、エアロゾルの影響評価に関する科学的信頼性を確保する三つの研究領域、即ち、観測・モニタリング研究、モデリングによる地球温暖化メカニズム研究、シミュレーションによる温暖化の将来予測研究、を対象として議論する。第2章では地球温暖化研究の分類を行い、三つの研究領域の関連付けに言及する。第3章ではエアロゾルを中心とした観測・モニタリング研究の現状、第4章では観測・モニタリング研究とメカニズム研究との連携の在り方、第5章では将来予測研究を推進させるために必要となる取り組みを述べる。第6章で、エアロゾルに関する地球温暖化研究の今後の課題をまとめる。
地球温暖化に関する国際的な枠組みにおいて、IPCCの取りまとめる科学評価のベースとなる科学的研究成果は、(i)地球規模での気候システムの解析などを目的とする「世界気候研究計画」(World Climate Research Programme:WCRP)、(ii)地球規模での気候変動に関する生物学的・化学的プロセスに関する知見の集積を目的とする「地球圏―生物圏国際協同研究計画」(International Geosphere-Biosphere Programme:IGBP)、(iii)地球変動の人文社会科学的側面からの研究を行う「地球環境変化の人間・社会的側面に関する国際研究計画」(International Human Dimensions Programme on Global Environmental Change:IHDP)、という3つの国際研究計画の共同出資によって進められている「解析・研究・研修システム」(START:Global Change System for Analysis, Research and Training(IGBP-WCRP-IHDP))でとりまとめられている。
IPCCによる科学的評価の集積は、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)による国際的枠組みでの政策決定と連携関係にある。科学的評価は、(1)温暖化を引き起こす物質の観測・モニタリング、(2)モデリングによるメカニズムの解明、(3)大規模シミュレーションなどによる将来予測、(4)自然・人間居住環境などへの影響評価、(5)温暖化対策・適応策の策定、という区分けにおいて研究成果が政策動向に密接に関連するようになっている。この区分けのうち、(1)(2)(3)は科学的な面での取り組みが主体であり、エアロゾルの影響評価に関する殆どの研究がこの取り組みに含まれる。
エアロゾルに関する科学的な研究は(1)(2)(3)の3領域に区分できるが、それぞれの領域は図表1に示すような連携関係があると言える。複数の観測・モニタリング手法により高精度のデータセットが得られれば、気候モデル研究者がそれらのデータセットを夫々の気候モデルに適用することによって気候モデルの精緻化が進むと期待できる。すなわち、それぞれの気候モデルにおいて過去の自然現象やその変動プロセスが再現できるようになると同時に、それぞれの気候モデルで使われている様々な仮定値や初期設定値の整理が図られることによって気候モデルの収斂化が予想される。気候モデルの精緻化は、シミュレーションによる将来予測の確からしさを高めることにつながる。また、シミュレーションの試行において、さらなる高精度化に必要となるデータセットが明らかになれば、観測・モニタリング研究者に対し、一層の観測・モニタリング技術開発を求めることになる。
ここで注意することは、第1に、国内外の多くの研究機関が地域的な観測・モニタリングで得ているデータを全球上で比較すると、観測時刻が異なっており時間的な同時性が確保されていないということである。第2に、将来予測で用いるシミュレーションモデルの信頼性はまだ完全には確立していないということである。現状では、過去の気候変動の再現性を確認することによってモデルの検証を行っている段階にある。
温暖化に関する観測・モニタリングには、利用する原理・手法、対象物、場所、観測時間、観測頻度の選択によって、極めて多種多様な方法がある。エアロゾルには、硫酸塩、すす、黄砂や火山灰のようなミネラルダストなどがあり、これまでの研究によってそれらの物質を観測・モニタリングする方法が実用化されている。
3‐1 エアロゾル観測の重要性
地球温暖化の原因物質には、温室効果ガスに加え、オゾン、エアロゾルなどがある。それぞれの物質がどの程度の温暖化効果・冷却化効果(負の温暖化効果)をもたらすかを示す指標として、放射強制力(1)という物理量がある。放射強制力がプラス側に高いことは温暖化効果が高いことを意味し、マイナス側に高いことは逆に冷却化効果が高いことを意味する。これまでにIPCCに集積された科学的知見により、原因物質の放射強制力が評価されている2,3,6,7)。図表2は、最新の評価であるIPCC第3次評価報告において発表された放射強制力の推定値である。さまざまな物質等の推定値に対する科学的信頼度について、IPCCは主観的に評価している。科学的信頼度の評価に当たっては、放射強制力の評価に必要とした仮定、放射強制力を決定する物理的・化学的メカニズムの理解の水準、放射強制力の定量的な推定に関わる不確実性(誤差量)などが考慮されている。温室効果ガスとオゾンについては信頼度が高〜中レベルにあり不確実性も小さいのに比べ、エアロゾルの科学的信頼度は低い。特に対流圏エアロゾルに関する不確実性は著しく大きくなっており、エアロゾルに関する科学的知見が確立していない状況にある。
用語説明
(1)放射強制力
ある因子が地球大気システムに出入りするエネルギーのバランスを変化させる影響力の尺度であり、気候を変化させる可能性の大きさを示す量である。
エアロゾルの放射強制力量を評価するのが難しい原因は、エアロゾルの発生メカニズムが複雑であり、地球規模でその発生量を把握することが難しいからである。さらに、大気中の移動に於いては雨による除去があるため大規模分布の把握が難しい。エアロゾルの化学的・物理的性質が複雑であるために、エアロゾルが浮遊する大気がどの程度太陽光を反射・吸収するかの推定も難しく、観測による大規模分布の把握を困難にさせている。このような事情から、現在使われている多くの気候モデルでは、エアロゾルに関する多くの物理的・化学的プロセスが簡略化されて組み込まれている。エアロゾルによって引き起こされる気候変動のメカニズム解明は十分とは言えず、エアロゾルに関する知見の集積が非常に重要になっている。
3‐2 エアロゾル観測技術の現状
エアロゾル観測は物理的性質および化学的性質を特定するために行われ、地上、海上、空から数種類の観測機器によって行われている。衛星に搭載された観測装置の性能向上によって、一度に観測できる面積はより広範囲となり、また地上でも多数の地点で観測されるようになったことから、高精度のデータが得られるようになってきた。
この他、情報技術の進歩に合わせて、世界の研究機関におけるデータ整備が進んでおり、研究者が解析対象とする観測時間のデータを世界中の研究・観測機関から短時間で入手できるようになりつつある。
(1)物理的性質の観測技術
エアロゾルの物理的性質についての観測技術は、能動的か受動的か、観測波長領域、観測対象物、観測手法などによって分類できる。図表3は、主なエアロゾルの観測機器に注目して観測技術の分類を行ったものである。
メカニズム研究におけるモデル構築に当たって、3次元的に分布しているエアロゾルの粒子数密度や粒子径分布などの物理的性質を診断する観測は不可欠である。この要求に応えられる観測装置がLIDAR(light detection and ranging)10)である。LIDARは、短パルスのレーザーを発生する部分とエアロゾルからの散乱光を検出する部分とで構成されている。上空のエアロゾルに向けて発射された短パルスレーザー光はエアロゾルの特性によってさまざまに散乱するが、レーザー側に散乱された光からエアロゾルの物理特性を診断することができる。レーザーの波長の選択によっていろいろな物理特性の診断ができ、レーザー光強度を高めることでより上空の観測ができるなどの理由から、LIDARに対する期待は大きい。これまでに精力的に研究が進められた結果、(1)都市域エアロゾル、黄砂、対流圏および成層圏エアロゾルなどの観測用として小型で消費電力が小さい小型LIDAR、(2)雲の移動状態の観測用としてレーザー光を掃引して観測対象の3次元画像を得るスキャニングLIDARが開発され、(3)散乱による光の波長(周波数)変化から気温や風速の分布を測定できるLIDARの研究も進んでいる。(1)と(2)については、地上、航空機、船舶に搭載するLIDARが実用化されているが、(3)については原理検証レベルに留まっている。
衛星からの観測例は、スペースシャトルにLIDARを搭載してエアロゾルの鉛直方向の観測に成功したLITE実験があるが、未だに本格的な観測は行われていない。一方、地上や航空機からの観測は国内外の機関が精力的に進めている。気象庁は、岩手県大船渡市綾里に大気環境観測所を設置し、LIDARを用いて黄砂の鉛直方向の分布(数百m〜約10 kmまたは約5 km〜約35 kmのいずれかのレンジ)や時間的変動を定常的に観測するとともに、中国などと連携し黄砂に関する観測情報を交換している11)。独立行政法人 国立環境研究所・大気圏環境研究領域グループは、持ち運びやすい比較的小型のLIDARを用いて、高度約3 km以下の領域を24時間連続観測することにより時間的に精度の高い黄砂の鉛直方向分布データを得ており12)、観測地点をつくば、長崎、奄美大島、北京などの国内外に設定することにより平面方向の分布データも得ている。この他、千葉大学をはじめ多くの大学でもLIDARによる観測が行われてきており、LIDARは既に確立した観測技術と言える。
(2)化学的性質の観測技術
エアロゾルの化学的性質を得るための観測には専ら航空機が用いられており、航空機内に導入した空気の分析やフィルターで漉し取った物質の分析を通して、エアロゾルの種類が同定され化学的性質が解明される。大気中を浮遊する組成が簡単なエアロゾルについては、種類や構造を特定する分析技術は既に確立しており、分析装置を搭載した飛行機や船舶による観測によって多くのデータが得られている。また、それらのエアロゾルに関わる化学反応のデータベースも豊富に揃えられており、大気組成の変動予測研究に用いるモデル構築に活用されている。しかしながら、大気中を浮遊するエアロゾルが化学反応をする際の速度定数やエアロゾルと硫化物等が結合した物質(例えば、黄砂+SO4や煤+H2SO4)の化学的性質については、ほとんど解明されていないのが現状である。さらに、そのような結合物質の分析装置は開発途上にある。
エアロゾルに関するメカニズム解明では、衛星や地上における過去の観測で得られたデータセットを用いて、過去のある期間での気候変動を再現できるモデルを構築することが研究の第1歩となっている。気候変動を再現できたモデルを利用して、エアロゾルの放射強制力が評価される13)。そのため、様々な観測においては観測時刻(または観測の時間幅)と観測対象物質の統一化(データの同時性)が重要であり、さらに観測時刻毎のデータ項目についても不変性が保たれなければならない。従って、地球規模での観測を進める上で、各国および関連研究機関が、観測の手法、観測データの交換・共有、観測結果の解析などで連携・協力することが必要となる。
現在、関連する研究機関ではいくつかの研究活動の枠組みがあり、それぞれが将来予測に取り組んでいる14)。気象庁は、現業として観測を行っている立場から、世界気象機関(WMO)が1989年に開始した全球大気監視(GAW)計画に基づいてエアロゾルなどのデータベースの構築を進めている11)。3‐2節で述べた綾里の大気環境観測所は、エアロゾルなどを対象とした地域観測所としてWMOに登録されている。また、気象庁は気象研究所を中心に観測・モニタリングとモデリングを担当する組織を庁内に設け、将来予測研究に一貫した体制で取り組んでいる。
一方、国立環境研究所などの国内研究機関や大学の研究者らは、より高い精度でメカニズム解明を行うことを目指して、GAW計画の枠組みとは別に、観測装置の開発、観測データの収集、モデルの構築を行っている。国立環境研究所では、それらの研究を担当するグループが組織されている。さらに、東京大学気候システム研究センターは、全国共同利用設備という立場でモデリングを中心とした研究を進めており、必要となるデータの一部を自ら観測して入手している。
今後のとりまとめが想定されるIPCC第4次評価報告書では、第3次評価報告書で残された課題になっている大気中の微量物質に関する研究成果に対し、高い評価が与えられると予想される。即ち、その研究成果での評価ポイントは、科学的知見の蓄積が高いとされた長寿命の温室効果ガスではなく、エアロゾルや対流圏内オゾンなどの短寿命物質が対象となる。これらの短寿命物質のうち、人為起源によるエアロゾルを抑制することが、温暖化対策としての大きな目標のひとつと考えられる。エアロゾルなどが短寿命であるのは、空気中の水蒸気と結合して雨粒になり地上に落下する他に、化学的に不安定であり様々な化学反応によって物質状態が変化することにある。エアロゾルが温暖化に及ぼす影響を予測する場合、エアロゾルの生成・移動・消滅の過程に於いて、それらの様々な化学反応による状態変遷を粒子密度と位置の関数として取り扱う必要があり、その計算量は膨大になる。このため、エアロゾルを考慮した将来予測研究では、膨大なデータ量を使った計算を短時間で行うことが必要不可欠になる。
これまでの将来予測研究はスーパーコンピューターを用いたシミュレーションが中心であったが、新たな推進ツールとして地球シミュレーターが完成しており15)、将来予測研究の新たな展開への期待が国内外で高まっている。地球シミュレーターを用いることによって、エアロゾルや排気ガス起源の対流圏内オゾンなど大気中の微量物質による気候変動の影響予測研究が格段に発展するものと期待されている。
地球シミュレーターにおけるエアロゾルに関連する研究では、3‐2節で触れた未解明の化学的性質を詳細に評価しエアロゾル分布などの時間変化を地図上に表す「化学天気図」を作成すること、エアロゾル分布などの時間変化による全球的な気候変動や炭素循環の変化を予測することが重要な課題になると考えられる。また、地球シミュレーターにおいて全球を対象とした温暖化予測を行う場合、数km〜10 km程度のメッシュ(計算する地点)の設定が可能であるが、このメッシュ設定レンジでは雲に関する挙動を盛り込むことが出来る。即ち、エアロゾルが核となってできた雲の生成・消滅を温暖化予測に取り込むことができるため、これまでプロセスが複雑で従来のスーパーコンピューターでは取り扱えないとされてきた地球温暖化における雲の効果が明らかになるものと期待される。
計算ツールが従来のスーパーコンピューターから地球シミュレーターに替わり計算性能が向上したことにより、メッシュのサイズは100 km〜数100 km規模から数km〜10 km程度に緻密化している。これに伴って、雲の生成・成長・消滅過程をモデルに取り込めるようになるが、大きな課題になるのは、緻密化されたメッシュ毎の初期値であるデータセットを準備しなければならないことである。LIDARなどの観測・モニタリング機器が開発されているものの、地球規模でのエアロゾルに関連する観測データは十分に揃っているとは言えない。また、初期値として使う場合には、観測・モニタリングデータが同一時刻に観測されたものでなければならないが、現状でそのようなデータセットを準備することは、対象が中国を中心とする東アジアという限られた地域であっても、極めて難しい。従って、将来予測研究を推進する取り組みにおいては、データの同時性が確保できるように、観測・モニタリングに携わる組織や観測・モニタリング結果から将来予測研究で用いるデータセットを整備する組織などとの連携が不可欠である。即ち、国内外の組織を対象として図表1に示した3要素の連携関係を構築し、モデルの精緻化と観測・モニタリングデータの充実を図る仕組みを機能させることが重要である。
温暖化研究に残されたターゲットがエアロゾルであることから、精力的な観測・モニタリングとメカニズム解明、およびそれらの成果に基づく確度の高い将来予測に関する研究の推進が必要であるが、それらの研究課題に総合的に取り組む仕組みは未だ明確でなく、幾つもの解決すべき課題がある。
第1の課題は、モデル構築に必要な観測データが不十分であるため、現状のメカニズム研究の水準では定量的評価が可能なモデルの構築が難しいことである。各研究機関の取り組みにも関わらず、日本上空のエアロゾル分布をきめ細かく測定した観測データはない。衛星による観測・モニタリングが期待できない現状では、航空機による通年にわたる広範囲での観測が必要となる。また、地表付近のエアロゾル分布を観測する観測所が少ないため、モデルの精度を向上できるだけの地上観測網の整備も重要である。アジアについても、中国をはじめとして鉛直方向のエアロゾル分布データが不十分な地域が広く存在しているため、日本のイニシアチブによってアジア地域に関するデータの整備を図る必要がある。
第2の課題は、物理的・化学的知見の豊かなモデル研究者など、複数の研究分野に深い造詣のある研究者が国内には少ないことである。温暖化研究に携わる人材の供給源は大学であるが、エアロゾル観測を含む気候システムの研究をしている大学は、京都大学、千葉大学、東京大学、東京商船大学などのセンターや研究室に留まっており、それらの組織で今後育成が期待できる研究者数は限定される。また、今後、京都議定書の合意に基づく第1約束期間以降の温暖化対策の議論が始まると考えられるが、その議論の開始までに長い時間は残されていない。従って、今後短期間のうちに活躍し始めると期待できる研究者数は限られている。日本が今後の科学的知見の集積に貢献するためには、限られた数の若手研究者に観測・モニタリングとモデリングの両領域で研究できる能力を持たせ、さらには将来予測研究にも参画できるというような、より広範な研究領域で活躍できるような組織連携の仕組みの構築が求められる。
第3の課題は、観測・モニタリング研究やメカニズム研究において、日本発の良質の研究成果が十分に外国に伝わっていないことである。日本語論文による成果の発表が多いこともあり、IPCCの第3次評価報告書などでの引用数が少ないことが惜しまれる。ひとつの原因として、国内の関連学会やそれぞれの研究グループなどが幅広い研究領域における成果を網羅的・効果的に外国に発信する仕組みを確立させていないことが考えられる。今後、国内の一線級の研究者がIPCCを含めた国際的なプロジェクトに数多く参画してリーダーシップを発揮するとともに、彼らが媒介役となって国内の研究グループの連携および情報発信の強化を図る必要がある。
謝 辞
本稿の取りまとめに当たって、茨城大学・広域水圏環境科学教育研究センターの三村信男教授には科学技術政策研究所内講演会でご講演いただくと共に、国内外の動向に関する情報をご提供いただきました。京都大学・大学院エネルギー科学研究科の笠原三紀夫教授、東京大学気候システム研究センターの中島映至教授、国立環境研究所・社会環境システム研究領域・環境計画研究室の原沢英夫室長および大気圏環境研究領域・遠隔計測研究室の杉本伸夫室長、気象庁観測部環境気象課の牧野行雄課長および佐々木徹・全球大気監視調整官、気象庁気象研究所気象衛星・観測システム研究部の永井智広主任研究官、地球フロンティア研究システム・大気組成変動予測研究領域の秋元肇領域長、千葉大学・環境リモートセンシング研究センター・データベース研究部門の西尾文彦教授には、大変お忙しいところ長時間に亘って実り多い議論をさせていただくと共に、多数の論文・研究報告書、研究情報などをご提供いただきました。本稿は諸先生方に貴重な研究時間を割いて戴いた結実であり、ここに心からの深い感謝の意を表します。
1)IPCC地球温暖化第三次レポート、IPCC編集、中央法規出版株式会社、2002年.
2)IPCC94: Climate Change 1994 − Radiative Forcing of Climate Change and An Evaluation of the IPCC IS92 Emission Scenarios, Cambridge University Press (1994).
3)IPCC95: Climate Change 1996 − The Science of Climate Change, Cambridge University Press (1996).
4)地球温暖化対策推進本部ホームページ、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/index.html
5)宮本和明、“CO2地中貯留技術を中心とした温暖化対策技術の開発動向”、科学技術動向、No.15、科学技術政策研究所、pp.28-35、2002年.(http://www.nistep.go.jp/index-j.html)
6)IPCC地球温暖化第三次レポート、IPCC編集、中央法規出版株式会社、pp.15、2002年.
7)中島映至、“人為起源エアロゾルと気候変動”、科学、岩波書店、Vol.69、pp.838-845、1999年.
8)シンビオ社会研究会、“明日のエネルギーと環境”、日工フォーラム社、第4章、pp.141-172、1998年.
9)D. J. Travis, et al, "Contrails reduce daily temperature range", Nature, No.6898, Vol.418, 601 (2002).
10)日本光学学会誌「光学」、“地球環境リモートセンシングの展望”、No.9、Vol.29、pp.532-553、2002年.
11)大気・海洋環境観測報告第2号平成12年度観測成果、気象庁、2002年3月.
12)T. Murayama, T., et al., "Ground-based network observation of Asian dust events of April 1998 in east Asia", J. Geophys. Res., Vol. 106, No. D16, 18,345-18,359 (2001).
13)例えば、Nakajima, T., et al., A possible correlation between satellite-derived cloud and aerosol microphysical parameters, Geophys. Res. Lett., 28, 1171-1174 (2001).
14)例えば、地球温暖化に関する基礎調査−気候シナリオの検討−報告書、国土交通省、平成14年3月.
15)科学技術動向、No.10、科学技術政策研究所、pp.5、2001年.(http://www.nistep.go.jp/index-j.html)