[特集2]

ヒートアイランド対策技術の研究動向
―エネルギー利用の視点からの分析―

環境・エネルギーユニット 根本 正博

客員研究官 小林 博和


1.エネルギー利用と都市問題

 将来にわたる都市の経済発展や環境問題を考える時、過度の都市化が逆に都市の更なる発展を阻害し環境の悪化をもたらすのではないか、という懸念がある。都市域の地上気温が周辺部より高くなるヒートアイランド現象について考えた場合、熱帯夜を避けるために都市住民の全てが冷房に頼らざるを得ないような状態は都市環境として望ましいことであろうか。更に、大気汚染物質の都市上空へのよどみや豪雨発生との結びつきの可能性も指摘されている1)

 国内における電力、石油、ガス等のエネルギー利用状況を考えると、最終的にはエネルギーの多くが都市において消費されている。消費・利用されたエネルギーはついには熱に姿を変え、その多くが都市の大気中に放出される。従って、ヒートアイランド問題は都市へのエネルギーの導入とその消費、すなわちエネルギー利用に係わる環境問題の代表的な例と見なすことができ、ヒートアイランド問題をエネルギーの視点から捉えることの重要性が浮かび上がってくる。

 本稿では、第2章でヒートアイランド問題の現状をまとめ、第3章で緩和策としての熱エネルギーの遮断や排出技術を述べ、第4章では、コジェネレーション導入における都市排熱の影響評価を紹介する。第5章でエネルギー利用から見たヒートアイランド問題についてまとめ、今後の対策研究に求められる視点について言及する。

2.ヒートアイランド問題の現状

2‐1 ヒートアイランド化の現状

 かつて、ヒートアイランド問題は東京、大阪等の一部大都市に限られると思われてきた。しかし、気温30度を超えるような時間が年々多くなる現象や熱帯夜の出現日数の増加など、ヒートアイランド現象の兆候は、福島市(人口29万人)、静岡市(人口47万人)、彦根市(人口11万人)、熊本市(人口66万人)等、日本各地の地方都市にまで現れてきている2)。夏季の気温が上がると、一般的に冷房需要が増大し使用電力量は増大する。増大した分の電力を火力発電設備でまかなうとすれば、これは直ちにCO2の排出量増大につながる。即ち、ヒートアイランド問題とは、個々の人間の活動によって引き起こされる環境問題が局地的なものとして片付けられる状況ではなく、地球全体にまで影響を及ぼしている例と言える。

 東京や大阪等の大都市において、都市域の気温を調べると高温の中心のまわりに気温の等高線が得られ、これが島の地形図のように見えることから、この現象がヒートアイランド(熱の島)と呼ばれるようになった所以である。近年の大都市における夏の異常な暑さが、地球温暖化等の気候変化によるものではないことは、観測事実からも示されている。東京においては、最近の100年間で、年間の平均気温が約2℃以上上昇して、地球規模の温暖化の程度を大きく上回っている2)。また、図表1に示すように、東京において年間に30℃を超えた延べ時間数を地図上にプロットすると、高い気温の出現する時間の長い地域がここ20年間に著しく拡大していることがわかる。

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 このヒートアイランド現象は、各種のエネルギー使用量の増加に伴う大気への排熱量の増加、植物が被覆する土地面積の縮小による植物からの水分蒸発量(蒸散量)の減少、すなわち顕熱から潜熱へと変換されるエネルギー量の減少(注1)、コンクリート製の建物やアスファルトの道路の蓄熱作用などが主な原因となっている。


(注1)顕熱と潜熱
 水は水蒸気となる時に周囲から熱を奪う、あるいは水蒸気を作るためには水に熱エネルギーを与えなければならない。そこで、水蒸気を特別な形の熱エネルギーとみなして、これを潜熱と呼ぶことがある。これと対比して一般的な熱エネルギーを顕熱と呼ぶ。


 

2‐2 ヒートアイランド現象のモデル化

 ヒートアイランド問題の解決を図るためには、現象そのものをモデル化し、考えられる対策の効果を評価することが必要である。ヒートアイランド現象のモデルは、内外の多くの機関、研究所で開発されている。ここでは、代表例として東京都の開発した予測モデル2)について述べる。

 東京都環境科学研究所は、ヒートアイランド現象の緩和対策のための予測モデルを開発した。その予測モデルは、1都8県を含む数百kmスケールの地域を対象とし、気温、風向・風速、湿度について、鉛直方向の分布も予測できる。

 まず、モデル計算に必要となる対象地域の人工排熱量データは、工場・事業所、住宅、及び自動車別に、各々のエネルギー消費原単位から推計されている。その内訳をみると、東京都における排熱量は、年間約165 Peta calであり、区部の廃熱量はそのうち約70%を占めている。発生源別にみると、工場・事業所が一番多く約46%を占め、自動車と住宅が共に約27%である。人工排熱強度をみると、区部は、年間約185Mcal/m2で、市部の4倍強であり、東京地域の年間日射量的990Mcal/m2の5分の1に近い量となっている。特に、都心3区では約358Mcal/m2と3分の1を超えている。

 予測評価には、以下の4ケースが設定された。

 気温、風向・風速等の時間変化に関する観測データがある夏季日(1992年8月31日〜9月1日)について、この夏季日の各種観測データを基準データとして、4ケースにおけるヒートアイランド現象の緩和効果を予測評価し、以下の結果を得た。

a.人工排熱の削減率を6%と設定しても、日最高気温は、ほとんど低下しない。一方、日最低気温は、都心部で0.05℃低下する。

b.都市内緑化を推進すると、日最高気温の低減効果は、各対策のうち最も大きく、区部北西部で最大0.37℃の低下がみられる。これは樹木からの水の蒸散作用が活発になる等の理由によると考えられる。一方、日最低気温は都心部で約0.14℃の低下に留まった。

c.透水性舗装の普及率について、日最高気温は、普及率10%で0.02℃、普及率20%で0.05℃と、都心部が最も低下するが、緑化の推進よりも効果が小さい。

d.上記の対策を同時に行った場合の最大効果は、日平均気温が区部北西部で0.23℃、日最高気温は0.43℃、日最低気温が都心部で0.15℃下がる。

 同様の結果は、環境省の報告書3)に記述されたヒートアイランド現象モデルからも得られている。

3.熱対策技術の動向

 第2章に述べたように、都市の緑地を拡大することはヒートアイランド問題の緩和に大きく貢献する。ただし、ここで都市の公園内の樹林や道路沿いに植栽された樹木帯などの緑地を拡大することと、草花を植えて視覚的な安らぎを住民に与えるいわゆる都市の緑化とではその対策に差があることに注意する必要がある。わが国のように土地価格が高い場合、十分な面積の緑地を都市内に新たに造成するのは困難であろう。また人工廃熱を直ちに大幅に削減することも現実的ではない。

 そこで、実現可能と思われるヒートアイランド現象の緩和策としては、建物に施す対策、都市域の土地利用に係わる対策、都市域における経済活動に係わる対策などを挙げることができよう。

3‐1 建築工学における 熱遮断技術の研究動向

 ヒートアイランド現象の原因の一つは建物の外部構造物が日射により加熱されるためである。そこで加熱を防止するために、原因である日射を反射すること、建物の構造物の内部に熱が伝わらないように断熱する、等の対策が研究されている。

(1)熱反射型建築

 建物のうち、特に日射量を多く受ける屋根や屋上の表面温度を下げるために、遮熱塗装を施す。遮熱塗料としては、赤外線の反射性能が高いセラミックバルーン(セラミック製の小さな中空の粒)が配合された塗料などが実用化されている。また、塗装を二層に分け、下層には熱伝導率の小さな塗装材料を用い、上塗り塗膜には太陽光のうち可視光線や近赤外線などを高度に拡散反射する材料を用いる方法なども開発されている。

(2)建物屋上の植生と植栽基盤材による断熱

 建物の屋上に植生を置いて、植生とそれを植える植栽基盤により断熱する対策である。屋上の緑化は、都市の視覚的な快適さを高めることにも貢献できるため、広く取り入れられるようになってきた。東京都は自然保護条例によって屋上面積の2割を緑化するよう指導を開始し、さらに2001年4月からは、屋上を緑化する建物の容積率の割増制度を開始した。

 また、樹木は、地下から吸い上げた水分を蒸発させて、葉と周りの空気を冷却する、即ち、日射により与えられた顕熱を潜熱に変換して、結果として地表の気温の上昇を抑制するが(注2)、建物の屋上に乾燥と高温に強い植物で覆う、いわゆる緑化は建物への熱の流入を遮断する効果はあっても、建物内部の空気を積極的に冷却することはできない。

 屋上の緑化は建物の積載荷重の増加をもたらすため、特別の工夫が加えられることが多い。現在、広く用いられているのは多肉植物セダム類(注3)を植栽する工法である。セダム類を利用することで、植栽基盤を薄くして建物への荷重負担を減らすことができる上、手間がかからないので維持管理費を削減することができる。植栽基盤として、ポリプロピレンやセラミック土壌を用いることで、厚さ50mmから60mm程度、重さは40 kg/m2以下程度にすることができる。芝を利用した場合と比べて、厚さと重さは約3分の1以下となるとされている5)


(注2)十分な水分の与えられた植生の表面温度は32度程度にしかならないことが知られている3)

(注3)小型の多肉のCAM(Crassulacean Acid Meta bolism)植物で、ベンケイソウ科マンネングサ属の多年草の総称である。CAM植物は気温の低い夜間に気孔を開いてCO2を取り込み、これをリンゴ酸に化学変化させて貯えておく。昼間は気孔を閉じて蒸散による水の損失を防ぎ、貯えたリンゴ酸を順次もとのCO2にもどし、これを使って光合成を行う。性質は極めて強健で、暑さ、寒さ、乾燥などのストレスに強く、しかもやせ地や薄層の土壌でも生育可能で、粗放管理にも良く耐える。


(3)工学的蒸発システムによる外表面冷却

 建物の屋上や壁面等、外壁表面に水の膜を作り、水が蒸発するときの潜熱によって建物および周囲の大気の温度を低下させることができる。光触媒がコーティングされた材料の表面の濡れ性が高いことを利用すると、外壁表面上の水の膜厚を薄くすることができる。水が流れ落ちる状態ではなく壁面を常に濡らす程度の水量にすることが可能であり、水の使用量を減らすことができる。10階建のビルへの適用を考えた場合、ビル敷地面積への年間降雨量の1/3〜1/6の水量で、真夏の一ヶ月間、屋根と壁面を水で覆うことができるとされている。

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 同時に光触媒により壁面材料の汚れの排除や緑藻類の繁殖防止が可能であり、維持管理費の削減も期待できる。代表的な光触媒である酸化チタンをコーティングしたプレハブ小屋を設置し、散水による水膜形成時の小屋の壁面や室内の温度変化、蒸発量を調べた結果、散水しない場合に比べ室内温度で10℃近い低下がみられた6)

(4)高層ビルにおける外気の積極的利用

 オフィスのIT機器類の増加により、冬季にも冷房が必要な高層オフィスビルが出現している。そこで、機械空調に必要なエネルギーを削減するため、外部の冷たい空気を、直接オフィスに取り入れる設計を取り入れた高層ビルの建築が考えられている。自然の外気を超高層ビル内に導入するにあたっては、オフィスの窓を直接開閉できるような低層のビルの場合とは異なり、新たな技術が必要である。これらの課題を解決するために、温度や湿度などの外界気象条件に対応した制御システムや建物内での機器類の使用計画に合致した外気導入ルートの設計、熱環境制御シミュレータ等が開発されている7)

3‐2 都市環境工学における 冷却技術の研究動向

(1)新たな舗装材料の研究

 都市の地面はアスファルト等の非透水性の材料で被覆されているため、植生で覆われた土地のような水の蒸発がなく、潜熱による冷却が期待できない。また、降水が瞬時に下水設備へ流出するため、水文学的見地からも非透水性舗装に対する問題点が指摘されてきた。これまでには透水性舗装等も提案されてきたが、いずれも微細な孔を穿って透水性を確保しようとするだけのものであり、長期間の使用により目詰まりが生じた。また、透水性の機能だけが考慮されて、材料自体に水を保持する機能がなかったため、蒸発冷却効果が期待できなかった。

 そこで舗装材料に化学的吸減湿材として知られる塩化物を含浸させることで、吸放湿、保水性を持たせようとする研究開発が行われている。また、塩化物を海水から作ることによりコストの低減も図られている8)

 透水性と保水性を兼備した舗装材料を実際に施工して性能試験を開始した例9)もある。保水性の材料として、製鉄過程で発生する高炉スラグを微粉末化したものを用い、これを、排水性アスファルト舗装の開口部に部分充填することによって、両機能が兼ね備えられている。

(2)地下水のヒートシンク利用研究

 一般の空調装置などでは、熱交換器の高温側から発生する熱は大気に放出されている。そこで、発生熱を地下に埋設したヒートパイプなどで伝達し、最終的に地下水に吸収させようとする技術が研究されている。大気に熱を放出しないことからヒートアイランド問題の緩和に役立つと考えられている10)

(3)蒸散能力の高い植物の選抜研究

 植物が根から水分を吸収して葉から蒸発させる、蒸散(evapotranspiration)能力は、土壌から水を除去する強力なかつ安価な「ポンプ」とみなすことができる。そこで、有害物質に汚染された土壌から水分と有害物質を同時に吸い上げるために植物を用いたり、降水量の少ない国においては廃棄物を埋めた盛り土の上層部一面を被うように植物を栽植し、雨水を大気中に「ポンプアップ」して廃棄物相に雨水が染み込むのを防ぐことが考えられている11)

 この「植物のポンブ効果」を大気の冷却に積極的に利用することにより、植生の蒸散を活発化させてヒートアイランド現象を緩和することができる。このためには、より最適な植生の導入などが考えられ、米国等で検討されている汚染土壌のファイトレメディエーション(phytoremediation)のための蒸散能力の高い植物の選抜研究等が参考となろう12)

4.エネルギー供給システムによる影響の評価

 前章で述べた種々の対策技術により、現在の経済的活動を大きく妨げることなく、ヒートアイランド現象を緩和することが期待されている。その一方で、今後の都市においては、高いエネルギー効率を追求した熱電併給システム即ち燃料電池やガスタービンなどの分散化電源の導入進展が予想され、ビルあるいは街区などを単位としたエネルギー供給システムが現出することが想定される。

4‐1 エネルギー供給システムの 在り方と廃熱

 大都市のビル空調設備などに使われるエネルギーは系統電力に大きく依存しているが、電力供給において、発電所は大都市区域外に設置されており、発電効率は概ね40%程度である。即ち、石油やウランなどの包蔵エネルギーのうち概ね40%が電気に変換され、残り60%程度は廃棄熱エネルギーとして冷却水により海に放出されている。

 また、エネルギーの需給家である事務所や住宅などでは、一日および月毎で電力と熱負荷が変動し、両者の変動特性は一致しない13)。このために、分散化電源は負荷変動に合わせた運転を余儀なくされる。ところが、分散化電源として期待されている燃料電池やガスタービンは、負荷を低下させると発電効率が下がるという特性がある14〜16)。燃料電池の場合、負荷率100%における発電効率は約40%であるが負荷率25%時には約36%に低下する(1kW級固体酸化物型では、電気出力1kWの時に直流出力の発電効率は約25%であるが、500Wに低下させると約15%に低下するというデータもある17))。ガスタービンの場合、負荷率100%で約32%であるが負荷率25%では約20%に低下する。 このようなことから、分散化電源を大都市に導入した場合、現在は海洋投棄されている熱エネルギーを都市に持ち込むことになるとともに、低い発電効率のために多くの廃棄熱エネルギーが発生し、ヒートアイランド化を加速することが推測される。

4‐2 エネルギー供給システムから発生する廃熱量評価

 エネルギー供給システムの在り方とヒートアイランドの関連を評価する研究は、(独)産業技術総合研究所の玄地研究員らのグループ18)、大阪大学の下田助教授らのグループ19)によって進められている。

 玄地グループは、図表3に示すような電力と熱を同時に供給するコジェネレーションシステム(CGS)を組み込んだエネルギーフローを想定し、大阪市堂島地区をモデルとした天空への熱放出量と気温変動に関するシミュレーションを行った。シミュレーションには2001年7月29日から8月2日までの気象観測データが用いられた。

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 図表4は、天空に放出された顕熱量の時間変動を4日間について示したものである。分散化電源を導入しないケース、分散化電源を導入して総合効率γ(発電効率+熱効率)を変化させたケースを比較している。総合効率が70%と高い場合には、分散化電源を導入しないケースと導入したケースとで放出された顕熱量に殆ど差は見られない。一方、総合効率が50%と低い場合には、未導入時に比べて2倍を超える顕熱の放射が生ずるとともに、気温の上昇は0.7℃であると評価された。

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(注4)チラ−・ユニット(chiller unit) 水や空気などを使った冷却装置。機器からの発熱を1次循環の冷媒で吸収し、2次循環の媒体により吸熱したのち2次循環媒体の蒸散や空冷などにより放熱する。


 一方、下田グループは、大阪府を対象に、民生部門、産業部門、運輸部門におけるエネルギー利用がどの程度の都市の気温変動をもたらすかを評価研究している。都市で消費される電力、石油、都市ガス等の燃料種別エネルギーが、各部門別にどのように消費され、その結果排出される熱が顕熱、潜熱、水系への廃熱にどのように分配されるかを定量的に評価した。大阪府全体としてみた場合、顕熱と潜熱を合計した年間平均エネルギー排出量は太陽日射量の約10%に相当し、御堂筋などの密集市街地でのエネルギー排出量は太陽日射量と概ね同程度となるとしている。

 さらに下田グループは大阪府全体のエネルギーフローについて、新たにコジェネレーション地域熱供給が大規模に導入された場合のケーススタディを行っている。大阪府を0.5km四方のメッシュに分けて、1年あたり1Tcal/haの熱需要密度のある地区(全体で7386あるメッシュのうち87メッシュ)に都市ガスを燃料に用いたガスタービンCGSを導入した場合のエネルギーフローの変化を調べた。ガスタービンには、都市ガスを燃料に用いる発電効率30%のタイプが選択されている。CGS は電力と熱を同時に発生できるため、一日の電力および熱需要変動に対応した運転が可能である。そこで、CGSの運転方式として、(1)対象地区の電力需要を全て供給するが熱需要には一部しか供給しない(電主熱従)方式、(2)熱需要を全て供給するが電力需要には一部しか供給しない(熱主電従)方式、(3)電力・熱とも余剰が発生しない供給方式、の3つを設定し、CGSの導入効果を従来の火力発電による供給時と比較した。所要エネルギーについては、CGS導入前が重油、灯油、都市ガス、系統電力に因っていたものが、CGS導入後は、すべての方式において都市ガスと系統電力に置き換わることになりエネルギー消費量が10〜15%減少するとしている。発電にともなう廃熱の一部しか地区内で利用できないために、すべての方式で域内の廃熱量は増加する。

5.おわりに

 東京都心での今年7月の月平均気温は平年よりも約2.5℃高く、最高気温が30℃以上の真夏日は24日間に上り、1994年以降の猛暑傾向が続いている。エネルギー利用の観点から現状を考えると、ヒートアイランド化の進行が夏の冷房受容を高めて電力を中心とするエネルギー消費を増大させ、その際の排熱増加がヒートアイランド化を更に進行させる、という悪循環に陥っている。

 第3章で述べた建物などを対象とする対策技術の開発・普及を進めていく必要がある。しかし、これらの技術の前提は、現在の生産活動や居住形態を本質的に変更しないことであり、いわばヒートアイランド化した都市での生活を維持するための適応策の追求である。今後の長期的な対策の検討に当たっては、ヒートアイランドのメカニズムにおいてエネルギー利用がもたらしている影響に関する研究が重要となる。

 ところで、都市およびその周辺産業施設に燃料電池を中心とする分散化電源が普及するのは2010年頃とも言われている。これまで述べたように、現在の性能水準(負荷により変動するが、総合効率は概ね40〜60%程度)の分散化電源が何らの対策も取られないまま都市に普及していけば、ヒートアイランド化が促進されることとなる。従って、ヒートアイランド化の抑制の観点から求められることは、需要側の負荷変動の範囲で高い発電効率と熱効率を発揮できる電源をいち早く開発することである。これらの電源の導入と第3章で述べた緩和対策によって、どれだけヒートアイランド化が抑制されるかを、詳細なシミュレーション解析技術を開発しつつ評価していく必要がある。また、分散化電源からの廃熱を海、河川、地中といった多量の熱量を吸収できる空間に移す技術の開発も鍵となるであろう。

 ヒートアイランド問題とその対応策に関する議論は、常に環境対経済の問題に行き着く。結果として、都市そのものを見直す以外にその解消の糸口は見えないのではないか、という考えも存在する。例えば、都市には通勤通学を含む住環境の面から適切なサイズがあって、そこでは環境問題を最小化しつつ都市の持つ経済的価値を最大にできるのではないかとする、コンパクトシティと呼ばれる概念が提唱されている。その概念通りに、社会システムの中心である大都市をコンパクトシティへと大きく改造することは現実的ではない。しかしながら、都市再開発計画に当たって、緑地の確保と並んでエネルギー利用の低減を考慮したビルの設置推進などにより、既存の都市を段階的にコンパクトシティ規模へとクラスター化していくことも考えられよう。ヒートアイランド抑制に向けた効果的な対策の策定に当たっては、快適な住環境と効率的なエネルギー利用形態が両立する実現可能な都市の将来像を描き出せるかが鍵になると言えよう。

謝 辞

 本稿をまとめるに当たって、三菱電機鰍フ太田完治博士には示唆に富む有意義な議論をさせていただきました。さらに、(独)産業技術総合研究所の玄地裕博士と大阪大学の下田吉之助教授には、長時間に亘って実り多い議論をさせていただくとともに関連資料を快くご提供いただきました。早稲田大学の尾島俊雄教授には対策を中心とした議論を通して貴重な示唆をいただきました。ここに深甚の意を表し、謝辞と致します。


参考文献

1)尾島俊雄、ヒートアイランド、東洋経済新報社、2002年.

2)東京都東京都環境科学研究所ニュースNo.13,(http://www.kankyoken.metro.tokyo.jp/).

3)平成12年度環境省報告書「ヒートアイランド現象の実態解明と対策のあり方について報告書」, (http://www.env.go.jp/air/).

4)Priestle, C.H.B. and R.J. Taylor, On the assesment of surface heat fulx and evaporation using large scale parameters, Monthly Weather Review, 100, 2, 1972.

5)薄層の植栽基盤で、建物への負担を軽減植物の特性を活かした手入れ要らずの屋上緑化、株式会社竹中工務店,(http://www.takenaka.co.jp/news/pr0103/m0103_02.htm) .

6)光触媒でコーティングした建材をヒートアイランド対策に利用, (http://eco.goo.ne.jp/navi/files/020306_02.html).

7)自然との共生を目指す高層ビル、鹿島建設HP,(http://www.kajima.co.jp/news/press/200203/7a1to-j.htm).

8)都市建築環境におけるパッシブクーリング手法の開発、九州大学大学院総合理工学研究院 エネルギー環境共生工学部門都市建築環境工学研究室,(http://ktlabo.cm.kyushu-u.ac.jp/j/theme/PASSIVE.html).

9)透水性能を兼備した鉄鋼スラグを用いたヒートアイランド抑止型舗装技術について、川崎製鉄株式会社,(http://www.kawasaki-steel.co.jp/ksnews/02_04/0418.pdf).

10)玄地裕、他4名、 地下ヒートシンク冷房を利用した新しいヒートアイランド対策の提案とその可能性の検討, エネルギー・資源, Vol.18, No.5(1997).

11)バイオサエンスとインダストリー、ファイトレメディエーション,http://www.mls.sci.hiroshima-u.ac.jp/mpb/Phytoremediation.html.

12)Treating Produced Water by Imitating Natural Problem/Opportunity,(http://www.es.anl.gov/htmls/treat.html).

13)分散型電源システムの最新動向と将来展望、(株)エヌ・ティー・エス、第1編、2.2節、p.48(2001).

14)ibid, 第2編、3.1節、p.284.

15)藤井貴志、他3名、マイクロガスタービンコージェネレーションシステムの性能評価、第18回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集、p.263(2002).

16)郡公子、他3名、コジェネレーションシステムのあるオフィスビルの実測研究 第2報 年間運転性能に関する解析評価、空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集、p.1577(2001).

17)分散型電源システムの最新動向と将来展望、(株)エヌ・ティー・エス、第2編、8.2節、p.238(2001).

18)下田吉之、他4名、大阪府におけるエネルギーフローの推定と評価−都市における物質・エネルギー代謝と建築の位置づけ その2−、日本建築学会計画系論文集、No.555、pp.99-106、2002年5月.

19)Yutaka Genchi, et al., Impacts of co-generation energy supply systems on the urban heat island effect in Osaka, Urban Heat Island Summit -Mitigation of and Adaptation to Extreme Summer Heat-,May 2, 2002, Toronto, Canada (presented in poster session).