地球温暖化の原因物質である温室効果ガスは、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)等、6種類存在する。この中でも、CO2は約94%の排出割合を占めており、CO2排出量を抑制することが重要な課題となっている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第3次評価報告書では、地球全体の平均気温上昇の結果、異常気象の発生、農業生産性の低下、生態系への影響、また、海面上昇による人間居住環境への影響等多くの弊害が生じることを指摘している。こうした技術的検討に加え、政策面では、気候変動に関する国際連合枠組み条約第7回締約国会議(COP7、2001年)において京都議定書(1997年)の運用規則での合意が成立し、これを受けて関係各国は議定書の発効に向けて動き始めている。わが国は、2008〜2012年時点での温室効果ガスの総排出量を1990年基準比で6%削減することを目標としている。しかしながら、わが国の1999年における温室効果ガス総排出量は13億1400 万トン−CO2と、1990年の同排出量から既に6.9%程度増加して、実質13%程度の削減が必要であり、各界各層のさらなる取組みが重要となっている。
こうした世界的な地球温暖化対策の流れを受けて、わが国は、地球温暖化対策推進大綱(2002年)の中で、わが国における具体的な温暖化対策として、森林吸収、省エネルギーの推進や革新的技術開発の推進、また、京都メカニズム(1)の活用等を挙げている。また、総合科学技術会議は、環境分野推進戦略(2001年)の重点課題の中で、ゴミゼロ型・資源循環型技術開発研究等と共に地球温暖化研究を掲げ、温室効果ガスの排出削減・固定化等の技術開発を国として推進することを打ち出している。本稿では、世界的にも重要課題として認識され、さまざまな方策が進められている地球温暖化対策のうち、排出されたCO2の削減対策であるCO2分離回収・貯留・固定化技術を分析し、技術面を中心とした解決すべき課題を取り上げ、提言を試みる。
用語説明
(1)国内の対策だけではなく、他国で削減したものを自国で削減したものとしてカウントしたり、他国から排出権を買うことにより、削減目標を達成しても良しとする制度で、以下の3つの制度から成る。
- 共同実施(JI):先進国間で温室効果ガス削減プロジェクトを共同で行い削減量(CO2クレジット)を移転・取得
- クリーン開発メカニズム(CDM):先進国と途上国で温室効果ガス削減プロジェクトを共同で行い削減量(CO2クレジット)を移転・取得
- 排出量取引(ET):先進国間で目標と実際の排出量の差を排出権として売買
この制度により、各国は自国の温暖化対策費用より安い場所で対策を講じたり、より安い排出権を購入したりすることによって、経済的に削減目標を達成することができると考えられている。
地球温暖化の現状
大気は、太陽光による昇温や放射冷却による急激な気温変化を緩和する役割を持つ。この中でもCO2は、地球の平均気温を約15℃に保つ重要な役割を果たしている。しかしながら、産業革命以前において280ppm(0.0280%)であった大気中のCO2濃度は、現在までに約368ppm(0.0368%)まで増加し、地球の平均気温とともに現在も増加傾向にある(図表1、2参照)。


IPCCによる将来予測では、経済発展等のシナリオの違いにより、排出されるCO2の量は大きく異なるという結果が示されているが、化石エネルギー源重視シナリオ(2)の場合、2100年時点での世界の平均気温は1990年比で1.4〜5.8℃程度上昇すると予測している(図表3参照)。

気候変動に関する国際連合枠組み条約(UNFCCC)で掲げている究極の目標は、「気候システムに対して、危険な人為的干渉を与えないレベルで温室効果ガス濃度を安定化させること」である。しかしながら、地球環境にあまり害を及ぼさない許容範囲がどの程度なのかといった科学的な見解は明確には定まっていない。ただ、地球温暖化の問題は、有効な防止対策を講ぜず放置したままでいると、その影響が顕在化した時の対策費用が膨大になるばかりか、原状回復が困難となり、手遅れになるといった危険性を秘めている。したがって、不確定要素は多いながらも、地球温暖化対策は出来るだけ早期の対処が必要と言えよう。
用語説明
(2)IPCC第3次評価報告書で示された化石エネルギー源重視したA1FIのシナリオのこと。高度経済成長が続き、世界人口が21世紀半ばにピークに達した後に減少し、新技術や高効率化技術が急速に導入される未来社会を描いたシナリオがあり、これをエネルギー源の重点の置き方によって3つに区別している。
A1FI:化石エネルギー源重視、A1B:全てのエネルギー源のバランス重視、A1T:非化石エネルギー源重視
※参考
- A2=地域的経済発展が中心で、1 人あたりの経済成長や技術変化は他の筋書きに比べ緩やかなシナリオ。
- B1=経済、社会及び環境の持続可能性のための世界的な対策に重点が置かれるシナリオ。
- B2=経済、社会及び環境の持続可能性を確保するための地域的対策に重点が置かれるシナリオ。世界の人口はA2よりも緩やかな速度で増加を続け、経済発展は中間的なレベルに止まり、B1 とA1の筋書きよりも緩慢なものの、より広範囲な技術変化が起こるというもの。
- IS92a=1992年のIPCC第2次評価報告書で示された6つのシナリオの内、エネルギー需要(CO2排出量)の増加が中程度のシナリオ。
なお、SRES(排出シナリオに関する特別報告)の各シナリオ(A1FI、A1B、A1T、A2、B1、B2)については、どれも同等の根拠を持っていると考えるべきとされており、いずれのシナリオも気候変動枠組み条約や京都議定書の削減目標が履行されると仮定していない。
地球温暖化対策技術の概要
国内外で研究開発の取組みが行われている、地球温暖化対策技術の概要について図表4に示す。

冒頭でふれたように、わが国の地球温暖化対策推進大綱において、省エネルギーの推進を始めとするCO2排出抑制策は、温室効果ガス削減に向けて大いに期待されている技術である(図表5参照)。

しかしながら、エネルギー利用効率が既に世界最高水準にあるわが国にとって、省エネルギー対策での大幅な改善は容易ではない。また、発電に使用する燃料源を天然ガスへシフトしても、化石燃料依存という点で変わりなく、抜本的な地球温暖化対策技術とは成り難い。さらに、自然エネルギーは、現在の技術水準や設備投資が大きいこと、さらに立地条件といった課題から、革新的な技術開発が進まない限り、向こう10〜20年程度の期間で見てもエネルギー源の主力としての利用は難しいと考えられる。また、CO2排出抑制策の主力と目される原子力についても、向こう10〜20年程度の期間では、新規増設の見通しが極めて難しい状況である。
一方で、排出されたCO2を削減する技術は、燃焼ガス等から排出されるCO2を技術的に削減することを目的として、研究が進められている。こうした排出されたCO2の削減技術は、図表5のように多岐にわたり、技術レベルも実験室段階から実用化段階まで幅広い。現状は、企業等における地球温暖化対策の具体的な実施義務等がなく、地球温暖化対策技術の導入インセンティブが働きにくい状況にある。このため、現在のところ実用化されている事例は、排ガスから吸収法によりCO2を回収して尿素製造を行うプラント(日量160トン規模)、また、CO2を地下の油層に圧入して原油回収率を向上させる石油増進回収法(EOR:Enhanced Oil Recovery)のような副次的に地球温暖化対策が行われる技術に限定されている。
冒頭で触れたように、近年国内では、総合科学技術会議は、環境分野推進戦略(2001年)の重点課題の中で、ゴミゼロ型・資源循環型技術開発研究等と共に地球温暖化研究を掲げ、温室効果ガスの排出削減・固定化等の技術開発を国として推進することを打ち出している。特に2002年度からは、効率的・効果的な研究の推進を目指して各府省を統合した地球温暖化イニシャティブの研究体制がとられている。
一方で、海外を見ると、米国エネルギー省(DOE)は、1999年に、21世紀のエネルギープラントが必要とする5つのキーテクノロジーの1つとして排出されたCO2の削減技術(米国はCarbon Sequestration技術と呼ぶ)を掲げ1)、また、2000年には、本技術を重点的に推進する計画を発表2)し、多くの研究プロジェクトを立ち上げている。さらにブッシュ大統領は、2001年6月の演説(3)の中で、温室効果ガス削減について排出されたCO2の削減技術の重要性を明確に打ち出している。そこで本章は、「地球温暖化問題を取り巻く現状」の章で触れた地球温暖化対策技術の中でも、近年、このように国内外で重要技術として認識され、さまざまな方策が進められているCO2分離回収・貯留・固定化技術について、国内外の技術開発動向ならびに今後の展望を記す。
用語説明
(3)“America's the leader in technology and innovation.We all believe technology offers great promise to significantly reduce emissions−especially carbon capture, storage and sequestration technologies", REMARKS BY THE PRESIDENT ON GLOBAL CLIMATE CHANGE, THE WHITE HOUSE, June 11, 2001.
国内における排出されたCO2の削減技術開発の動向
わが国は、地球温暖化問題の解決にむけて、国を主体とした研究開発を進めている。図表6は、これまでに経済産業省で行われた研究プロジェクトを示したものである。

このように、これまでに終了した国家プロジェクト研究は、要素技術として優れた成果を納めているものの、実用化に向けたトータルシステムとしての性能が不十分と評価されている。また、図表7は、現在、経済産業省で行われている研究プロジェクトである。

図表6、7をみると、国内では、図表4で示したほぼ全ての排出CO2対策技術についての研究が行われていることがわかる。わが国の本研究分野に関する水準は、図表6で触れたように、個々の研究プロジェクトでみると要素技術として高い評価があるなど、優れた成果を挙げている。また、最近では、イギリスやノルウェー等の欧州連合(EU)諸国の一部において、温暖化対策税や排出権取引制度といった、排出されたCO2の削減技術にインセンティブを与える制度の導入も始まっている。さらに、わが国の他にもEU諸国は、京都議定書を批准しており、こうした排出されたCO2の削減技術に対する開発の必要性は今後一層高まるものといえよう。
海外における排出されたCO2の削減技術開発の動向
EU等の諸外国は、国際エネルギー機関における温室効果ガス研究開発 (IEA/GHG R&D)プログラムでの国際的な共同研究を中心に研究を進めている。日本国内で実施が地理的条件から困難なため行われていないEOR技術を除けば、わが国で行われている研究内容と差異は見られない。ただし、EU等で行われているEOR技術の開発は、石油増産が目的であり、CO2対策はあくまでも副次的効果としての意味合いが強い。
米国は、わが国と同様に、図表4に記したほぼ全ての技術について研究を進めている。近年のDOEにおける排出されたCO2の削減技術に関する研究開発予算3)は、2000年度は約18.4百万ドル、2001年度は約32.4百万ドルと増加し、さらに2003年度は、予算要求の段階ながら約54.0百万ドルと急増している。こうした研究予算の状況をみると、化石燃料を使いつつ、CO2の排出削減が出来る可能性を秘めた本技術に対して、米国は大いに期待しているといえよう。また、本研究予算の中でも、CBM(Coal Bed Methane)技術は、個別研究課題として最も多くの予算を投じられている。CBM技術は、メタンよりも数倍高い能力でCO2を吸着する石炭の性質を利用したもので、地下深部の炭層へCO2を注入し、炭層中にもともと吸着していたメタンを圧入したCO2と置換して固定化し、メタンガスを回収する技術である(図表8参照)。米国やEU等の国々では、EOR技術と同様にCBM技術の研究開発を進めている(図表9参照)。


このように、CBMやEOR技術は、これまでの対策技術と異なり、CO2を新たなエネルギー源獲得の手段として用いることができ、さらに、地球温暖化対策としての機能も兼ね備えている。
図表10に、排出されたCO2の削減技術について、導入可能性やCO2の削減ポテンシャルを評価した報告事例を示す。

ここで、CO2削減ポテンシャルと導入可能性の双方が高く評価されている帯水層貯留技術(図表11参照)について見ると、
1)石油増進回収法等で海外を中心に実績を有し、既存の石油・天然ガス生産技術の応用であることから、技術的に比較的容易に実現可能であると考えられている
2)地中に圧入されたCO2が大気中に放出される可能性はほとんどなく、安全面での問題は少ない
3)生態系等への十分な影響評価を必要とする海洋貯留の場合に比べ、環境への2次的影響はほとんどないと考えられている
4)日本近海の沖合帯水層におけるCO2貯留量に関する試算8)では約900億トン(国内の年間CO2総排出量の約70〜80年分)と膨大な貯留量である
といった特長があり、開発の必要性が高いことが理解される。

また、排出されたCO2の削減技術の中でも、欧米等で大きな期待のかかるCBM技術は、帯水層貯留技術と同じ地中貯留技術に含まれながらも、現在、国内で研究されていない。しかしながら、国内の炭層は、メタンガスを多く含有していることが知られており、経済的に採掘対象とならない深部の炭層や採掘跡の鉱山でも、炭層中のメタンガスを採取できる大きな可能性を秘めている9)。また、CBM技術は、低品位炭でも利用できること等の理由から、国内の炭層は約100億トンのCO2固定能力を有するとした報告9)が行われている(なお、資源エネルギー庁は新たなプロジェクトとして炭層貯留に関する研究を2002年度から開始する予定10))。また、本技術は、石炭資源が豊富かつエネルギー需要の増大に伴うCO2排出増が予想される、中国等での技術展開も期待できると考えられる。こうした技術が、クリーン開発メカニズム(CDM)や共同実施(JI)といった制度で活用されれば、その有効性は一層高まるといえよう。
省エネルギーを初めとするCO2排出抑制策は、CO2の排出そのものを抑制することから、地球温暖化対策として効果的な対策と言える。しかしながら、技術的に可能であるということと、実際に各階各層が省エネルギーを実行することのギャップは依然として大きい。したがって、まず国は、いかなる対策・制度であれ、各界各層による経済的・実質的行動への関与が温暖化問題の解決に不可欠であることを、各界各層に対して十分に周知し、温暖化対策の実践を強く求めていく必要があると考えられる。こうした活動に加えて、国が地球温暖化対策に対して経済的インセンティブを与える温暖化対策税等の制度を導入すれば、各界各層における地球温暖化対策に対する認識が変わり、必然的に地球温暖化対策の実行も促進されると考えられる。しかしながら、 CO2排出抑制策の組み合わせだけでは、CO2排出の抑制に大きく寄与するものの、大気中のCO2濃度が増加することに変わりはない。したがって、「地球温暖化対策技術の概要」の節で述べたように、自然エネルギーや原子力の利用見通しが極めて難しい状況等の理由から、向こう10〜20年程度の期間を見越した場合、温室効果ガスを削減する手段としては、技術的にCO2削減が可能な、排出されたCO2の削減技術の開発に取組むことが必要であると考えられる。
わが国は、これまでに排出されたCO2を削減する技術について数多く取組んでおり、要素技術としては優れた成果がある一方で、トータルシステムとして十分でないとする評価が多くみられる。また、世界中が化石燃料に依存した現在のエネルギー事情に加えて、中国やインドといった途上国では、今後のエネルギー需要の増加に伴う大幅なCO2排出増が予想されている。したがって、化石燃料を利用しながらCO2増加を抑制できるCO2地中貯留技術は、わが国を含め、途上国においても有用性は高いと考えられる。さらに、京都議定書を批准する動きが進んでいる昨今においては、温室効果ガスの削減義務化に伴う外部要因(温暖化対策税等)によって本技術の有用性は一層高まることも考えられる。
こうした状況を踏まえると、今後の排出されたCO2の削減技術に関する研究開発は、以下の点を重視して研究を進めることが肝要であろう。
1)向こう10〜20年程度の期間を見越した地球温暖化対策技術について、排出されたCO2の削減技術の必要性が高まることから、CO2削減ポテンシャルと導入可能性の双方が高いCO2地中貯留技術の研究開発を重点的に推進すること
2)研究開発プロジェクトの計画段階から、システムとしての実用性の評価を含む開発の道筋を明確にし、さらにエネルギー政策も勘案しながら研究開発を推進すること
3)海外での適用も期待される研究開発(CBM技術等)は、関係諸国との積極的な研究交流を図り、技術の汎用性(国際標準化の先導や海外での適用)を視野に入れた総合的な研究開発を推進すること
1)DOE, Vision 21 Program Plan -Clean Energy Plants for the 21st Century, 1999.
2)DOE, CARBON SEQUESTRATION - Overview and Summary of Program Plans -, 2000.
3)DOE, FY2003 Budget in Brief, The President's Coal Research Initiative, Sequestration R&D, 2002.
4)SACSホームページ, http://www. ieagreen.org.uk/sacs2.htm#latest
5)K. Alarcon, GEOLOGICAL DISPOSAL OF CARBON DIOXIDE, 1999.
6)Government of Alberta, Request for Funding for the Weyburn CO2 Monitoring Project Submitted to“Climate Change Central", 2000.
7)Netherlands Agency for Energy and the Environment, Potential for CO2 sequestration and Enhanced Coalbed Methane production in the Netherlands, 2001.
8)エンジニアリング振興協会,平成5年度報告書,283,1994.
9)山口伸次・山崎豊彦, 第12回エネルギーシンポジウム,1,1999.
10)資源エネルギー庁,二酸化炭素固定化・有効利用技術等対策事業費補助金(二酸化炭素炭層固定化技術開発)公募要領,2002.