特集[2]

ブロードバンド時代における
デジタルコンテンツ流通と著作権管理技術

情報通信ユニット 山崎 哲也


はじめに

 デジタル技術の発達、パソコンの高性能化と急速な普及により、ソフトウエア、文章、写真、絵画、音楽、映像など様々なコンテンツがデジタル化され、これらデジタルコンテンツがインターネットなどのネットワーク上で広く流通している。さらにADSLに代表されるインターネットアクセス回線のブロードバンド化により、従来に比べて飛躍的に大データ量、高品質のデジタルコンテンツをネットワーク上で流通させることが可能になりつつなる。特に音楽、映画、TVドラマなどのエンターテイメント系コンテンツの流通は、ブロードバンドネットワーク普及への推進役として重要であり、ビジネス的にもB2C (Business To Consumer)分野の大きな市場となると期待されている。また、デジタル放送とネットワーク通信を組み合わせた新しいサービスや、それに対応した新しいハードウエアの普及も期待される。

 その一方で、デジタルコンテンツにはコピーが容易で、かつコピーの際の劣化がほとんどない、ネットワーク上での流通が容易という特徴がある。そのため違法コピー・海賊版は従来から大きな問題であったが、違法コピーがネットワーク上で大量に流通するようになり問題が深刻になっている。

 ネットワーク上におけるデジタルコンテンツ流通を拡大するには、このような違法コピーの作成と流通を抑制する、「著作権管理技術」が重要となる。同時にブロードバンド時代にふさわしい、新しいコンテンツ流通システムや著作権流通システム、法体系も必要とされるだろう。

 本論文では、B2C分野におけるエンターテイメント系コンテンツ(書籍、音楽、映画等)の著作権管理技術を中心に、コンテンツ流通システムや著作権流通システム、著作権法の動向についても考察する。なお、著作権には楽曲や小説などを創作した者、翻訳や編曲、映画化などの加工を行った者が持つ狭義の著作権や、演奏者や俳優などの実演家、レコード会社や放送事業者などに与えられる著作隣接権があり、さらに細分化した定義があるが、ここでは著作権、著作隣接権を含むもっとも広義の著作権を対象にする。

デジタルコンテンツ流通の現状

ブロードバンドの普及と実力

 「ブロードバンド」に対する明確な定義はないが、ここではISDN(64kbps/128kbps)より速い通信速度を持つ、常時接続型のインターネット接続サービスとする。このようなブロードバンド接続サービスとしてCATV、ADSLが順調に増加しており、特にADSLは2001年半ばから急速にユーザを増やしている(図表1)。

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 一方、10Mbpsを越える光接続は、サービスの提供地域が限定されていることもあり、ユーザは2002年3月末で2.6万加入者(総務省速報値)とまだ少数であるが、今後提供地域の拡大とともに急速に増加することが予想される。

 現在中心となっているADSL、CATVでの接続サービスは数百kbps〜数Mbps程度の通信速度であるが、画像圧縮技術などと組み合わせると、テレビに近い動画の配信が可能である。より高速な光接続が普及すれば、HDTV並の動画配信も可能になる(図表2)。

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 このような状況を受けて、ISP(Internet Service Provider)やコンテンツ流通事業者(映画会社、TV会社、レコード会社、出版社など)は音楽、映像、書籍などのデジタルコンテンツを配信するサービスを開始している(図表3)。ブロードバンド用に作成された、インタラクティブ性を持つコンテンツや数分のショートドラマ、韓国映画のようなニッチ分野のコンテンツの配信も始まっている。

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 元々映画や音楽、ソフトウエアといったコンテンツは、データの授受とネットワーク上での決済ができれば、物の移動を伴うことなく取引が完結することから、ネットワーク取引に向いていると考えられてきた。通信速度が遅いアナログ電話回線やISDNではデータ受信に時間、コストがかかりすぎるという問題があったが、ADSLなどの普及によりその点が解決されつつある。

 なお、国内における実際のデジタルコンテンツ市場の規模は、2001年における電子商取引B2C市場1兆4840億円に対し、930億円(約6%)程度である。しかしそのうち860億円(デジタルコンテンツの約90%)近くは携帯電話向け(着信メロディや待ち受け画面の販売など)が占めており、ブロードバンドに対応した市場はまだ萌芽段階である(経済産業省「平成13 年度電子商取引に関する市場規模・実態調査」)

デジタルコンテンツの不正使用の実態

 デジタルコンテンツは、

 という特性から、違法コピー・海賊版は従来から大きな問題であった。しかし違法コピーがネットワーク上で大量に流通可能になることで問題が拡大している。一度違法コピーがネットワーク上にアップロードされると、瞬く間に世界中に広がりかねないからである。すでに音楽コンテンツはCDにコピー防止がかかっていないこと、PCによるCDからのデータ抽出、圧縮が手軽にできるようになったこと、MP3などの圧縮技術が普及したことにより、大量の違法コピーが出回っている。そのほか、ソフトウエアや映画などのデータ量の大きいコンテンツもブロードバンドの普及により問題となりつつある。さらにP2P(Peer to Peer)ファイル交換技術の普及により違法コピー流通が急速に増加した。

 P2Pファイル交換技術は個人の持つPCにあるファイル(データ)をネットワーク上で共有・ダウンロード可能にする物で、常時接続されたサーバがなくてもインターネットでデータを共有できる、検索サーバがなくても必要な情報を検索、発見できる等の特徴があり、次世代インターネット技術として注目されている技術である。ナップスターやグヌーテラ、WinMXなどのフリーソフトを使うと、個人が持つCDから作成した音楽データを簡単にインターネット上で公開、交換できるようになる。

 米国では、RIAA(全米レコード協会)が中心となってナップスターなどのP2Pサービス会社を訴え、著作権料の支払い、違法コピーのサーバからの排除などを要求している。日本でも最近ナップスターと同様なサービスを行おうとした日本MMO社がレコード会社などの提訴によりサービス停止の判決を受けている。なお、オンラインでの違法コピー流通がどの程度かは不明であるが、RIAAは裁判において、ナップスターには一日当たり30万回のアクセスが行われていると述べている。また、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)及び日本レコード協会(RIAJ)の調査では、国内における2002年1月までのP2Pサービスによる音楽ファイルの累計ダウンロード数を7500万と推定している。

 ただし、P2Pサービス自体は違法ではなく、むしろ注目されている技術であり、違法コピー問題で規制が行われるようなことがあると、インターネット自体の発展にも悪影響があると考えられる。一方コピーした著作物をインターネット上に公開することは、後述するようにWIPO(世界知的所有権機関)の条約で規制されており、日本のようにこの条約に対応した法律を持つ国では違法である。

著作権管理技術

DRM(Digital Right Management system)

 著作権の保護は著作権法で決められているが、刑法があっても、家に鍵をかけないと泥棒が入るように、著作権に関する鍵となるのが、著作権保護技術である。従来の著作権保護技術は家庭用録画・録音機器に対するコピープロテクション技術が主流であった(図表4)。一方、ブロードバンド時代におけるネットワークでのデジタルコンテンツ流通においては、コピープロテクションに加えて、ネットワーク上での流通時、エンドユーザでの使用時、記録媒体へのコピーなどのいずれの段階においてもコンテンツのデジタルデータが露出しないようにする必要がある。なぜなら、一度デジタルデータが露出し、記録されてしまえば、それを複製し、ネットワーク上で流通させるのはたやすいことだからである。さらに、保護が破られた場合の対応や違法コピー流通を防止することも必要である。そのためには、配信元からユーザ端末、さらに出力機器や記録メディアまで含めたシステム化が必要になる。このような一連のシステムはDRM(Digital Right Management system デジタル著作権管理システム)と呼ばれる(図表5)。また従来の保護技術も含めて、DRMや関連するシステムに使用される技術全体を「著作権管理技術」と呼ぶことにする。

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 図表6に代表的なDRMを示す。現在のDRMは、メモリーカードなどハードウエア側の対応が必要な部分と、ネットワーク・ユーザ端末間の部分との連携が十分でなく、使用するメモリーカードによって別ライセンスが要求されるなど、互換性に場合が出ている。また、デジタルディスプレイなどへのデジタル出力に関しては、DRMとは別に出力に使われるコネクタ(USBやIEEE1394)の仕様として、コネクタ間における出力先の認証方法や出力の暗号化技術の標準化が進められている。

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DRMが破られた場合の対策

 どのように強固なDRMでも破られる可能性はある。また、完全なDRMを求めるとコストが高くなりすぎる、ユーザにとっても、コンテンツ配信業者にとっても使い勝手が悪くなるなどの問題が発生する。そこで、DRMの主要な目的を、専門知識をもたない一般ユーザが手軽に違法コピーを行うこと(カジュアルコピーと呼ばれる)を防止することとして、DRMが破られた場合に被害を拡大しないようにする対策を組み込んでおくほうが現実的である。DRMが破られ、違法コンテンツがネットワーク上に流出した場合の対策として、以下のようなものが必要となる。

 (1)違法コンテンツをネットワーク上で検出
 (2)サーバ等での違法コンテンツフィルタリング、ブロッキング
 (3)利用者端末での違法コンテンツフィルタリング、ブロッキング
 (4)流出元の確定
 (5)鍵・ライセンスの使用停止と更新

 (1)は自動巡回ソフトによる検出が中心になるが、ファイル名、拡張子などが変更されると検出は困難である。(2)は(1)で発見されたファイルをISPなどのサーバ上で監視、ブロックを行うが、これもファイル名などを変更されると検出は困難である。(3)はコンテンツ内に何らかの制御信号・IDを埋め込み、それを検出する必要がある。(4)は鍵、またはコンテンツにユーザや再生システムのIDを埋め込むことが必要である。

 (1)から(4)を実現するのに最も望ましいのは、あらかじめ何らかのIDや制御信号をコンテンツに埋め込み、これを元に検出やブロックを行うことである。IDにユーザ情報が含まれていれば流出先の確定も容易である。コンテンツに埋め込んだIDなどを容易に除去されないようにするため、後述する電子透かし技術が用いられる。

 (5)では不正流出したコンテンツや対応する鍵に対して失効リストの発行、鍵の更新を行い、不正流出を行ったユーザ(システム)に対しても利用禁止処置を行うなどの対応が必要である。また更新した失効リストをユーザ端末に送信する事も必要である。これらは自動的に行われることが望ましい。 現時点ではこれらすべての対策を完全に実行できるDRMは無いようである。

 全体として携帯電話やSTBなどの専用ハードに基づいたDRMは比較的破られにくいが、機器の普及や専用ハードのコストが問題になる。また破られた場合に、改良・世代交代が難しいという問題がある。一方、PCなどのソフトウエアを中心としたDRMは比較的破られやすいが、改良・世代交代したソフトをインターネットで配布するなど、対策は比較的容易である。

電子透かし技術

 電子透かし技術は、コンテンツと不可分の形で何らかの信号を埋め込む技術で、上述のようなコピー制御信号や違法コピー検出信号、コンテンツの固有ID、著作者、購入者などのIDを埋め込むことができ、違法コピー流通の対策に有効な技術である。不可視すかし(人間の感覚ではわからないもの)と、「サンプル」表示や著作者表示をする可視すかしがある。著作権管理には不可視透かしが主に使用されている。

 図表7に電子透かしの原理を示す。不可視透かしの透かし信号は、コンテンツ信号を時間や平面に細かく分割し、各断片に書き込まれる。透かし信号は絶対値ではなく、たとえば連続する2つの区画を比較した場合にどちらが高い信号を持っているかと言った、相対的な形で書き込まれる。読みとる場合は分割周期で信号を重ねると、元のコンテンツの信号はランダム信号となってうち消しあうが、透かしの信号は強めあうので、これを検出する(これ以外にも様々な方法がある)。データ圧縮や拡大・縮小、切り取りなどの画像処理が行われた場合でも透かしが失われないような耐久性が重要だが、同時に使用時にユーザが感じ取れないようにする必要がある。この二つの要求は相反する物であるため、信号を加える方法や強度(たとえば元データの変化が激しい所では強い信号を、変化が少ないところでは弱い信号を入れる)など、各メーカが技術的な工夫を行っている。それでも画像の部分部分を少しずつ歪める処理(ランダムベンディング)等には、まだ十分な耐性がない。書き込める信号量は通常数百バイト程度である。

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 現時点では、コストの問題やDVDのようなパッケージ商品へ適用するための標準化問題など解決すべき点が多いが、違法コピーの流通を防止するのに効果的な技術であり、早急な実用化が期待されている。また違法コピー配布者が不正を否認できないよう、デジタル署名との組合せや信頼できる第三者機関の保証等の仕組みも必要である。

DRMの標準化動向

 DRMは完全な標準化か互換性が確保されていることがユーザの利便性からもコンテンツサービス業者からも望ましい。しかし実際にはコンテンツやプラットフォーム別に複数のDRMが存在し、互換性もほとんどない。図表4にも示したように、PCを中心としたプラットフォームでは複数DRMがデファクトスタンダードを競っている。また、今後、ホームネットワーク(ホームサーバを中心にした家庭用ネットワーク、AV系と白物家電系がある)の普及に向けて、PCのDRMベンダー各社は自己のDRM技術を他の流通経路に採用するよう働きかけたり、コンテンツ間や流通経路間の互換性を高めたりしている。

 音楽についてはRIAAを中心にしたSDMI(Secure Digital Music Initiative)がインターネットを通じた音楽配信および録音・再生機器への仕様をまとめていた。SDMIは1999年にPhase1としてコピー回数の制限や電子透かしの採用を含む仕様を発表し、多くのDRMがPhase1仕様に準拠している。続いてSDMIは、違法コピーされた音楽を電子透かしによって検出し、再生を禁止するPhase2仕様について検討していたが、とりまとめに失敗し、2001年に解散した。しかし、SDMIの仕様自体は権利者側が要求する一つの基準として今後も引き継がれて行くものと思われる。なお、音楽コンテンツの電子透かしについてはJASRAC(日本音楽著作権協会)が2000年にStep2000、2001年にStep2001のプロジェクト名で推奨技術の選定を進めている。

 一方映画などについてはCPTWG (Copy Protection Technical Working Group、コンテンツ事業者、IT企業、家電企業によるコピー管理技術の国際標準化検討の場)やDVD CCA(DVD Copy Control Association、DVDのコピー管理技術の標準化団体)がコピー防止、暗号化について、Video Watermark Group(CPTWGと DVD CCAの合同組織)が電子透かしについての標準化を行っている。

コンテンツID

 ネットワーク上でのコンテンツ流通を阻害している要因として、著作権管理技術の問題以外に著作権処理の複雑さがある。特にテレビ番組のように、多数の著作権(著作隣接権)者が存在し、契約的にもその処理が一元化されていない場合、それをネットワーク上で流通させるには新たに著作権者に許諾を得る必要があり、その著作権処理は非常に困難なものとなる。特に日本では、著作権の許諾範囲に関する契約条件が明確でないことも多く(契約書も存在しないことも多い)、コンテンツ流通の阻害原因となっている。また、DRMで保護する必要はないが、コンテンツの使用にある程度条件をつけたい(たとえば著作者の表示を義務付ける、著作者に無断での改変を禁ずるなど)というコンテンツもあるが、個々のコンテンツごとに使用条件を記載するのは困難であり、コンテンツを使用する側も著作権者にいちいち連絡を取って使用条件を決めるのではコストがかさむ。

 この点を解決するために、著作権者の情報や使用許諾条件をデータベース化し、これと対応したIDをコンテンツに付与する、コンテンツIDの制度が検討されている。コンテンツIDは電子透かしなどの方法でコンテンツ自体に埋め込まれる。東京大学 安田教授が提唱するコンテンツIDフォーラム(cIDf、松下、日立、NTTなどが参加)やISO/MPEG-21 (Moving Picture Experts Group_21)、ISO/TC46(Technical Committees 46、映画に対するID)などが検討されている。また、コンテンツIDフォーラムのコンテンツIDのように、コピープロテクトやコンテンツの暗号化などのDRM機能も兼ね備えるものもある。

 国内では経済産業省や文部科学省(文化庁)が検討を行っており、著作権情報の集中窓口のモデルとしてJ-CIS(著作権権利情報集中システム)の構築も行われているが、データベースの管理元やコストの負担先など未解決の点も多い。

コンテンツ流通と著作権流通の新しい形

 従来のコンテンツ流通は著作者と契約した流通事業者(出版社やレコード会社、放送事業者)が商品としてのコンテンツを販売し、著作者に利益を還元していた。インターネットとブロードバンド接続サービスの普及は、著作者が直接不特定多数の利用者にコンテンツを販売することを可能にするという、新しいコンテンツ流通の可能性を拓いた。ソフトウエアについては、利用者が直接著作者に代金を振り込むシェアウエア、無償で利用可能なフリーウエア(ただし、利用や再流通に条件を付ける場合がある)が、個人が作成したものを中心に流通している。また、音楽や小説などを個人のホームページから販売することも行われている。

 しかし、この方法は代金の授受、ライセンス(利用するための暗号解読キー)管理など、著作者、利用者ともに手間がかかる。そこで、このような個人の作品に対して、ライセンス管理、代金の受け渡しを代行し、ネット上の取引場所を与えるサービスが始まっている(たとえばベクター(ベクター社、シェアウエア販売代行)など)。

 コンテンツは自由に流通させ、その利用ごとに少額の課金を自動的に行うという、超流通(筑波大学 森名誉教授が提唱)も新しいコンテンツ流通の一つである。常時接続サービスの普及によって、超流通に不可欠な自動課金データの送信コストも無視できるようになり、これに対応したDRMも開発されている。しかし広く普及するには至っていない。超流通とは逆に、ライセンスを買えばサーバー上に置かれたコンテンツをネットのどこからでも利用可能にするサービスも一部で始まっている。

 コンテンツ流通と同様に著作権の流通も著作者と利用者の直接取引や代行サービスが考えられる。個人ホームページのデザインに使用するイラストや写真、音楽などの著作権流通(これらの公衆送信の許諾を販売する)が考えられる。また、アマチュアの優秀なコンテンツを流通事業者が発掘する場所ともなりうる。

 このような新しい流通システムが普及するためには、低額の決済を低コストで行う決済システムや低コストで信頼できる著作権管理技術、簡単でわかりやすい定型化された著作権契約と、コンテンツIDのような著作権情報管理システムが必要であろう。

法律面での整備

 デジタル化やネットワーク化等に対応した新しい著作権保護に対する著作権所有者の強い要求を反映して、1996年12月にWIPO (世界知的所有権機関)で「WIPO著作権条約」(正式名称は「著作権に関する世界知的所有権機関条約」。ソフトウエアへの著作権付与、コピープロテクション回避の規制、権利情報などの改変の禁止など)及び「WIPO実演・レコード条約」(実演家のネットワーク上で著作物を送信可能にする権利他)が採択された。ネットワーク上のコンテンツ流通に関しては、ネットワークで著作物を送信する権利(公衆送信権)およびその前段階として送信可能にする(サーバ等に記録する)権利(送信可能化権)がこれらの条約で認められた。

 日本では通信カラオケに対応するため、1986年に公衆送信権がすでに著作権法に加えられていたが、これらの条約にあわせて図表8のように著作権法が改正された。これにより、放送事業者や有線放送事業者に送信可能化権を与えるなど、デジタルコンテンツ流通に関して日本は世界でも進んだ著作権法を持つことになった。

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 一方、米国ではデジタルミレニアム著作権法が1998年に制定され、コピープロテクション回避の規制や、違法コピーをネットワーク上から除去するための手続き(ノーティス アンド テイクダウン)などが決められた。ただし、送信可能化権などは制定されていない。そのため、ナップスター裁判では、個々のユーザが記録しているコンテンツのコピーをP2Pサービスで交換することが私的コピーに関する社会的な合意(Fair Use)の範囲内かどうか、それをナップスター社のサービスが違法に幇助しているかが争点となり、裁判の長期化を招いた。なお、ノーティス アンド テイクダウンについては我が国でも「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(2001年11月30日公布)で同様の手続きが定められている。

 このほか、違法コピーが多いとBSA (Business Software Alliance) などから指摘されている中国は、WTO加盟に伴って著作権法を2001年10月に改正し、日本の公衆送信権や送信可能化権に相当するネットワーク上での著作権規定や被害者救済のための手続き(侵害行為の停止、証拠押収を裁判所に求める)、国外からの賠償についての規定などを制定している(著作権情報センター、人民網/Nikkei Biz-Tech)。

 しかし、インターネットは国境を越えて情報を伝えるため、国内法では違法コピーを規制できない可能性がある。実際P2Pサービス会社の中には規制が厳しい欧米から離れて第三国での存続を目指す会社もある。また、著作権に対する各国の政策の違いやRIAAのような強い政治力を持つ圧力団体の影響などにより、著作権法の国際間協調はまだ十分とはいえない。「WIPO 著作権条約」及び「WIPO 実演・レコード条約」の加盟国も、2002年3月時点でそれぞれ34、30カ国である(著作権情報センター資料)。なお我が国はWIPO 実演・レコード条約には加盟していなかったが、2002年6月に加盟することが決定された。

おわりに

 現在、DRMなどの著作権管理技術は一部実用化されており、これを使った音楽等のコンテンツ配信も複数始められている。しかし「著作権管理技術」の章で述べたように、DRM間やハードウエア間で互換性がないなど、ユーザにとって必ずしも使い勝手のよいものではない。DRMベンダー間の競争が激しく標準化が難しいことから、何らかの方法で互換性を高める対策が必要であろう。

 従来のコンテンツ流通機構は、書籍、CD、DVDなどの「物」と不可分の形か、放送などの集中管理可能な形でのデータ流通に限られていた。家庭用テープレコーダやビデオの普及は、コンテンツを商品としての「物」からの分離を可能にし、放送時間や映画館という管理からも自由にした。ブロードバンドネットワーク、デジタル放送など新しい流通経路の出現と、PCをはじめとするネットワークにつながったデジタルコンテンツの記録・再生機器の普及は、コンテンツの情報としての流通を実現しつつある。第三世代携帯電話や高速無線LANの普及が進み、携帯型デジタル機器の性能が向上すれば、いつでもどこでも、ほしいコンテンツを利用できる環境が実現することになる。しかし、現在の多くのDRMは、レコード会社などの要求を反映して、コンテンツを物(特定の機器や記録媒体)に結びつけることで、著作権管理を行う傾向が強い。この点が前述したようにユーザの利便性を損なう原因となっている。超流通のようなネットワークに基づく新しい流通システムも考えられているが、広く普及するにはいたっていない。

 一方、PCや家庭用記録機器の普及により個人によるコンテンツの作成が容易になった。さらにインターネットの普及により、誰にでも自分の著作物を世界に公開する機会が与えられるようになった。その点において著作権管理は、プロの作家や作曲家、映画会社やレコード会社といった特定の著作権者だけの問題ではなくなっているといえる。ユーザの利便性と著作権管理のバランスが取れた、誰でも利用できる著作権管理技術と流通システムが普及することを期待したい。

謝辞

 本稿をまとめるに当たって文化庁著作権課 岡本 薫課長よりご指導をいただきました。文末にはなりますが、ここに感謝の意を表します。