4.特集:汚染された土壌環境の対策技術の動向

環境・エネルギーユニット  宮本 和明

4.1 はじめに

 1960年代、イタイイタイ病、水俣病、四日市喘息などの公害問題が表面化し大きな社会問題となった。これに対応して、1967年の公害対策基本法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法等の整備が進められ、並行して対策技術も進展してきた。
 しかしながら、土壌汚染については汚染の深刻さが表面化していなかった等の理由から、未だ法制化まで至っていない。一方で、近年、土地再開発、売却等に伴う土壌調査や、事業者がISO14001に関連する環境管理の一環として行う自主調査で土壌汚染が判明する事例が多発しており、関心が高まるとともにこの対策が喫緊の課題となっている。
 最近の動向を見ると、総合規制改革会議の「重点6分野に関する中間とりまとめ」(2001年7月)で土壌・地下水汚染に関する法制化の必要性が取り上げられ、総合科学技術会議の「分野別推進戦略」(2001年9月)の中では、土壌・地下水汚染に関する技術開発の必要性が取り上げられている。また、中央環境審議会からは、「土壌環境保全対策に関する制度の在り方について」の答申が2002年1月になされたところである。答申では、有害物質を取り扱っている工場や事業者が廃業や宅地等に用途変更する場合、また、深刻な土壌汚染の可能性が認められる場合に、都道府県知事が土地所有者へ土壌汚染の調査の実施を義務付けることができる仕組みを予定されている。また、今後この仕組みの土台となる資金や汚染原因者が特定できない時の費用負担のあり方等について、議論されることになっている。
 このような状況を踏まえ、本稿では土壌・地下水汚染対策について最新の技術動向等を分析し、技術面を中心とする解決すべき課題を取り上げる。

4.2 土壌汚染の現状と規制法

4.2.1 国内の土壌汚染状況

 「平成12年度土壌汚染調査・対策事例及び対応状況に関する調査結果の概要」(2002年2月環境省)において、都道府県等が把握した2001年3月末までの土壌汚染判明件数が報告されている。図表1は年度別の土壌環境基準値を超過した注@土壌汚染判明件数を示したもので、特に、近年、土壌汚染の判明件数が急激に伸びていることがわかる。土壌環境基準設定(1991年)後の累積件数は574件となっている。

図表1 年度別の土壌汚染判明件数

図表1 年度別の土壌汚染判明件数

(環境省資料「平成12 年度土壌汚染調査・対策事例及び対応状況に関する調査結果の概要」2002年2月より作成)

 この要因として、(1)企業におけるISO14001への取り組み、(2)地方自治体独自の条例・要綱等に基づく土壌調査等により土壌調査件数が増加したことが挙げられる。今後も汚染超過事例の増加傾向は続くと考えられる。
 図表1の環境基準値の超過事例注@を規制対象物質別に表したものが図表2である。重金属等では鉛と砒素が約6割を占めており、金属製品製造業や化学工業での汚染判明事例が多い。また、揮発性有機化合物では、半導体製造プロセス等に使用されていたクロロエチレン類が約8割を占め、電気機械器具製造業や洗濯業からの汚染判明事例が多くなっている。これらは健康上の問題が懸念視されている有害物質であり、対策の必要性も高い。

図表2 規制対象物質別の超過事例数(累積)

図表2 規制対象物質別の超過事例数(累積)

出典:環境省「平成12 年度土壌汚染調査・対策事例及び対応状況に関する調査結果の概要」(2002年2月)

4.2.2 先進諸国の土壌汚染規制の現状

 米国やオランダ等の欧米諸国では、早くから土壌環境保全に関する対策がとられており、事業者や土地の所有者による土壌汚染の届出が法律で義務付けられるとともに、行政機関による調査も実施されている。ここで、欧米で制定された土壌汚染対策制度の概要を図表3に示す。

図表3 欧米における土壌汚染対策制度の概要

国名 土壌汚染対策に関連した制度および概要
オランダ 1983年:暫定土壌浄化法
1987年:土壌保全法(暫定土壌浄化法を含む形で1994年に改正)
1997年:BEVERプロジェクト(汚染修復目的)開始
 1980年のLekkerkerk事件(地下水汚染)の発覚による土壌浄化開始が発端。現在、土壌汚染について、2つのレベル基準である目標値(target value)と介入値(intervention value)を設定している。
ドイツ 1998年:ドイツ連邦土壌保護法
 ドイツ各州で定められた土壌汚染対策に関する規制の統一的な基準を策定する枠組み。土壌の機能を恒久的に保全または回復することが目的。土壌を利用する者に対する、(1)土壌の生態学的機能が損なわれることを予防する義務、(2)有害な土壌変化を発生させない義務、(3)土壌の機能性を回復させるよう求めることができる封土解除義務、(4)浄化義務、(5)汚染調査義務、等の基本的義務を定めている。
デンマーク 1999年:汚染地法
 1970年代の被覆を施さない廃棄物投棄が発端。廃棄物処分法、環境保護法を改定。汚染跡地登録制度の導入、浄化措置実施上の優先順位設定、調査・浄化措置の行政庁に対する義務付け等を定めている。
イギリス 1990年:環境保護法
1999年:環境法総合的汚染規制という概念を用い、最大の汚染源である産業施設から大気、水、土壌へ排出される汚染物質を一元的に管理することにより全体量を抑制しようというもの。汚染の浄化責任、汚染された土地および特定施設の登録制度、個人の生活を守るための行政手続きや裁判所への差し止め請求の規定等を定めている。
米国 1980年:包括的環境対処・補償・責任法(CERCLA,通称:スーパーファンド法)
1999年:スーパーファンド再開発イニシアティブ
 1970年代の後半から土壌・地下水の汚染問題が顕在化。国家ガイドラインの策定や、基金の強化等の支援がなされている。一定以上リスクのある汚染地はNational Priority Listへ登録される(2002年2月現在809箇所)。

(科学技術動向研究センターにて作成)

4.2.3 アジア諸国の現状

 途上国の環境問題は様々な側面がある。例えば、急激な工業化・都市化を進めているアジア諸国では、産業公害・都市型公害・地球規模の環境悪化といった環境問題に対処しつつ開発を進めることが必要である。例えばタイでは、農薬の製造と使用によって砒素を中心とする地下水・土壌の汚染が深刻な問題となっている。同様の問題は中国等のアジア諸国でも報告されている。また、西インド、バングラディシュでは、地層から溶出砒素で汚染された地下水を推定1700万人が飲用しているとされ、深刻な事態にある1)。
 アジア諸国の環境関連法の整備状況を見ると、日本と同様に、土壌に関連する法以外はほぼ制定されている。ただ、制度が整備されていてもその実効性が問題となっている。この原因としては、(1)法を策定してもその施行令の制定が遅れている若しくは制定されていない、(2)先進国に比べ環境施策を実施するための予算、人材及び技術が不足している、といったこと等が指摘されている。

4.3 土壌汚染対策技術の現状

4.3.1 土壌汚染の特徴

 土壌は水、大気と比較して組成が複雑であり、有害物質に対する反応も様々である。
 一般的な汚染物質の一つである重金属は水に溶けにくく、かつ土壌に吸着され易い。したがって、地中へ浸透した重金属等は地表近くの土壌中に存在し、深部まで拡散していないことが多い。ただし、土壌の吸収能を越えると、水への溶解度や移動性が高い六価クロムやシアン等は、雨水の浸透とともに地下深部まで拡散し、地下水の流れによって汚染範囲が拡大する可能性がある。
 一方、揮発性有機化合物の内でも、有機塩素化合物は、自然界では分解されにくく、環境中に長期間残留する難分解性物質である。また、浸透性が極めて強いため、土壌を汚染しながら地下深く浸透し、地下水に混入・拡散して地下水汚染を引き起こす。さらに、揮発性も高いためその一部は気化して地下水から分離し、再び上層の地層を汚染する可能性がある。したがって、汚染源が狭い範囲に限定されていても、地下水の流動に沿って汚染が拡散・広域化していることも多い。

4.3.2 土壌汚染処理技術

 土壌汚染対策は、「土壌・地下水汚染に係る調査・対策指針連用基準」(1999年 環境庁)において、汚染の種類として「重金属等」注Aと「揮発性有機化合物」注Bに分類されている。さらに、汚染対策は、「応急対策」と「恒久対策」に分類される。応急対策は恒久対策を行うことが出来ない場合の対策であり、人による摂取防止対策および汚染拡散防止対策にからなっている。後者は、雨水等により対象物質が溶出し、それが将来にわたり周辺の土壌・地下水に広がらないようにするための対策となっている。図表4に土壌汚染対策の、応急対策の概要を示す。

図表4 土壌・地下水汚染の応急対策

手法 概要
人による摂取防止対策 立入禁止柵・立て札の設置
地下水飲用防止の指導、水源転換
汚染拡散防止対策 集水渠、沈砂池等の設置
舗装工、植栽工による汚染土壌の被覆
シート等による被覆、防風ネットの設置、バリア井戸の設置
モニタリング 土壌、地下水質、大気等の観測

(科学技術動向研究センターにて作成)

 恒久対策について、これまでに相当数の実施事例がある処理技術としては、
1) 重金属等に対しては最終処分場へ運搬しての埋立処分、現地におけるセメント等による固化・難溶化処理の採用が多い。
2) 揮発性有機化合物に対しては、土壌ガス吸引法や地下水揚水法により汚染物質を活性炭へ吸着させ、この活性炭を溶融炉等で最終処理する場合が多い。
 近年最終処分場の確保が一層困難な状況となっており、低コストかつオンサイト処理(汚染現場での土壌処理)が実施可能な処理技術へのニーズが高まっている。

4.4 新しい土壌汚染処理技術の開発動向

 図表5は、現在実用化段階にある土壌汚染の恒久対策について、採用実績の少ない技術も含めて示したものである。現状では、いずれの技術もコストや省力化の面でさらなる改善を必要とする。特に研究開発が活発に行われている技術としては、汚染現場で処理する技術、短期間で処理する技術、汚染土壌を単に封じ込めるのではなく再生利用する技術、生物の分解能を利用する技術、が挙げられる。
 以下、図表5に示した対策技術から、最近の特に注目されている技術を示す。

4.4.1 物理・化学的処理

(1)原位置酸化分解法

 汚染された地下水系に酸化剤(過マンガン酸カリウム等)を直接注入することによって、揮発性有機化合物を分解して無害化する方法である。原位置における化学反応を利用したものであるため、地下水揚水法や土壌ガス吸引法などと比べ、低コストかつ短期間で浄化処理を完了できる。また、注入した酸化剤は汚染物質と短時間で反応して分解するため、回収のための溶剤注入が不要である。

(2)透過反応壁法

 汚染地下水の下流域(敷地境界等)に汚染物質の浄化能力を有する鉄粉を含む透過壁を設置することで汚染地下水を浄化する方法である。揮発性有機塩素化合物によって汚染された地下水は、透過壁を通過するとき、透過壁中の鉄粉と還元反応を起こし、エチレンやエタンにまで分解され無害化する。透過壁設置後は、維持のための動力が不要なため、維持管理業務や費用は代表的な浄化方法である地下水揚水法と比べて大幅に低減可能となると見込まれている。

図表5 土壌・地下水汚染の恒久対策技術

◎:採用事例の多い処理技術

図表5 土壌・地下水汚染の恒久対策技術

(注)VOC・・・揮発性有機化合物、PCB・・・ポリ塩化ビフェニル

(科学技術動向研究センターにて作成)

4.4.2 生物的処理

(1)バイオレメディエーション

 微生物の物質分解能力を利用した土壌及び地下水汚染の修復技術であり、微生物の活用方法により、
1) 汚染現場に生息する微生物に窒素等の栄養塩や空気を与えて現場にいる微生物を増殖させ、浄化活性を高める方法(バイオスティミュレーション)
2) 汚染現場に培養した微生物を導入して、汚染浄化する方法(バイオオーグメンテーション)
の2つに分類される。国際的な関心も高く、最近では、2000年7月に京都で第5回国際環境バイオテクノロジーシンポジウム、2001年6月にはサンディエゴで第8回バイオレメディエーション国際シンポジウム等が開催されている。環境修復が必要な地下土壌や地下水は一般に嫌気条件であるため、嫌気性微生物の活用研究も実施されている。テトラクロロエチレン、高塩素化PCBのような難分解性物質でも、嫌気条件下で脱ハロゲン化反応によって分解することのできる微生物が見出されている。
 また、1995年より2000年まで行われた「土壌汚染等修復技術開発」プロジェクト(NEDO : 新エネルギー・産業技術総合開発機構により実施)においては、バイオレメディエーションの有効性の確認や環境への影響調査などの実証試験が実施された。2001年からNEDO は、重油等による油汚染土壌を微生物により浄化する技術開発を開始している。

(2)ファイトレメディエーション

 ファイトレメディエーションとは、環境汚染物質を蓄積・分解する植物の能力を利用した汚染修復・浄化技術である。低濃度・広範囲の汚染浄化に適応可能という特長に加え、適用範囲が有機化合物から放射性物質に至るまで非常に幅広いことが確認されている。
 技術開発では米国が先行しており、効率的に砒素を吸収するシダの一種2)の発見や、遺伝子組み換え操作により植物の重金属に対する耐性や蓄積量を向上させる技術3) が報告されている。また、ファイトレメディエーションを扱うベンチャー企業も現れているが、実用化事例は少ない。

(3)生物的処理のコスト

 汚染事例の様態(汚染の規模と濃度、対象物質等)が様々であるため、ファイトレメディエーションと物理・化学的手法等の従来技術とを定量的に比較し議論することは困難である。このため、処理コストなどの限られた項目について比較した。この結果を図表6に示す。
 ファイトレメディエーションの処理コストについて、海外の試算報告事例を見る。D.J.Glass氏が行った、汚染された土壌1トン当たりの処理費用の試算によれば、ファイトレメディエーションの処理コストが25〜100ドルであるのに対し、化学処理や焼却処理は100〜500ドルであり、処理コストは概ね5倍程度もの額としている4)。また、F.Chris氏が行った、ファイトレメディエーションとバイオレメディエーションの比較事例を見ると、殺虫剤により汚染された土壌の1立方ヤード当たりの処理コストは、ファイトレメディエーションの場合80ドル程度、バイオレメディエーションの場合は8.4〜197ドルとしている5)。
 ただし、これらコストについて詳細な比較を行うには、土壌の浄化に必要な期間中に土地に対して掛かる諸経費等の費用を検討する必要がある。

図表6 土壌汚染処理技術の性能比較

○:優、△:普通、×:劣

比較項目 ファイトレメディエーション バイオレメディエーション 化学的処理 熱的処理
処理対象物質 重金属類
VOC
VOC 重金属類
VOC
重金属類
VOC
コスト(初期コスト) △〜×
技術毎で異なる
△〜×
技術毎で異なる
外部エネルギーの必要性 × ×
即効性(短期浄化) ×
土壌の温度・湿度等が与える処理能力への影響 × ×
広範囲に低濃度で汚染された地域への適用 × ×

(注)VOC・・・揮発性有機化合物

(科学技術動向研究センターにて作成)

4.5 おわりに

 本稿では、大気や水質の汚染に比べて技術的に難しい点が多く、法制化も遅れていた土壌汚染について、海外の土壌汚染規制の現状、土壌汚染対策技術の現状と開発動向等について概観した。
 国内の土壌環境汚染対策技術の現状を見ると、最終処分場の不足といった課題があり、汚染土壌をオンサイトかつ低コストで処理するための技術開発に注力することが重要であると考えられる。
 また、法規制の導入を契機に土壌汚染の浄化を要するケースが増大することが考えられ、より安価なコストで短期間に処理できることが一層重要となってくる。
 さらに、広範囲にわたり微量に存在する有害な内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)によって引き起こされている環境汚染対策も求められている。環境ホルモンに代表される広範囲にわたる汚染の処理は、物理・化学的処理など従来技術では対応が困難な分野である。
 このように考えると、4章で取り上げた生物的処理技術の確立に向けた研究の推進が望まれる。また、重金属等の土壌汚染処理に対処する上では、バイオレメディエーションとファイトレメディエーションの組み合わせのような技術開発も必要であろう。
 以上のような課題は、近隣のアジア諸国も直面しているテーマである。上述のバイオレメディエーションを含めた土壌環境汚染対策技術開発について、我が国としても国際貢献の視点から、政策的に位置付けて推進すべきであろう。

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用語説明

@調査事例の内、土壌環境基準に適合しない事が判明した事例。ダイオキシン類に係る土壌環境基準、農用地土壌汚染防止法に基づく農用地土壌汚染事例は、本対象から除外されている。

Aカドミウム、全シアン、有機燐、鉛、六価クロム、砒素、水銀、アルキル水銀、PCB、チウラム、シマジン、チオベンカルブ及びセレン、フッ素、ホウ素の15項目。

Bジクロロメタン、四塩化炭素、1,2・ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、シス・1,2・ジクロロエチレン、1,1,1・Lトリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベンゼン及び1,3-ジクロロプロペンの11項目。

C技術予測調査とは、多数の専門家に対し同一質問票によるアンケート調査を繰り返し、回答者の意見を収斂させる、デルファイ法を用いて、今後30年間にわたる技術発展の長期的展望を把握する調査。約4000名の産学官の専門家を対象にし、2000年に2回のアンケートを実施して、2001年7月に調査結果を公表。

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参考文献

1) 安藤正典, インド・バングラディシュにおける地下水ヒ素汚染と健康影響, 公衆衛生研究, 第49巻(2000)
2) Q. M. Lena, A fern that hyperaccumulates arsenic, Nature, Vol.409 (2001).
3) 例えばH. Brim, et al., Engineering Deinococcus radiodurans for metal remediation in radioactive mixed waste environments, Nature Biotechnology, Vol.18 (2000).
4) D. J. Glass, Economic Potential of Phytoremediation, in Phytoremediation of Toxic Metals , B. Ensley and I. Raskin, eds., John Wiley & Sons (2000).
5) F. Chris, The Bioremediation and Phytoremediation of Pesticide-contaminated Sites (2000).