今日、われわれは地球規模のエネルギー・環境問題に直面しており、エネルギー (Energy)、環境 (Environment)、経済成長(Economy)の三つをいかに充足していくか、すなわち3E問題の克服が要請されている。
特に地球温暖化対策については、種々の経済的・技術的オプションが提案されているものの、個々の効果はいずれも限定的であり、費用対効果を考慮しつつ、それらを適切に組み合わせて対処していかざるを得ないのが現状である。わが国としても的確かつ柔軟な政策遂行の基盤を確保するため、多様な地球温暖化対策技術の研究開発を推進していく必要がある。
本稿ではこのような地球温暖化対策オプションの一つでもあるバイオエネルギー利用を取り上げる。最近、バイオエネルギーに対する関心は急速に高まっており、政府内でもバイオエネルギーを「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」(平成9年3月施行。以下「新エネ法」という)に基づく導入支援措置の対象とするよう所要の規定の整備を検討している。
わが国では、オイルショック後、バイオエネルギー利用が活発に研究されたが、石油価格の低落傾向が続く中で関心が薄れていった経緯がある。バイオエネルギーも他の新エネルギー同様、エネルギーセキュリティや環境保全等の外部性を重視する社会において大きな寄与をするものである。
植物は太陽からの光エネルギーを利用し、水と炭酸ガスから炭水化物を生成する(光合成)。この炭水化物の化学的エネルギーこそバイオエネルギーの源である。植物が捕食されたり、様々な製品の材料として用いられていく連鎖の過程で、このエネルギーは、様々な農産物や工業製品、さらには農業廃棄物、家畜の排泄物、廃材、生ゴミなどの中へと転移していく。
このような、植物起源の有機資源をバイオマスと呼び、これらを利用するエネルギーがバイオエネルギーである。ただし、食料、木材、肥料など、エネルギーとしての利用が現実的でないものは、狭義のバイオマスには含まれない。
図表1にバイオエネルギー源としてのバイオマスの分類を示す。バイオマスは、生産資源系(エネルギープランテーション系)バイオマスと未利用資源系(残渣系)バイオマスに分けられる。生産資源系バイオマスは主にエネルギー利用を目的として栽培する植物である。ブラジルで自動車燃料用エタノールの原料として栽培されるさとうきびはその典型である。一方、未利用資源系バイオマスは、農林水産業における未利用資源や加工残渣、都市ごみ中のバイオマスなどである。
未利用資源系バイオマスをエネルギー利用する場合には、エネルギーの発生に加え、廃棄物処分、環境保全などの効用が生じる。一方、生産資源系バイオマスの利用に関しては、他の土地利用形態との競合を考慮する必要がある。
| 分類項目 | バイオマス資源例 | |
| 生産資源系 | 陸域系 | サトウキビ、てんさい、トウモロコシ、ナタネ等 |
| 水域系 | 海藻類、微生物等 | |
| 未利用資源系 | 農産系 | 稲わら、もみがら、麦わら、バガス*、野菜くず等 |
| 畜産系 | 家畜糞尿、屠場残渣等 | |
| 林産系 | 林地残材、工場残廃材、建築廃材等 | |
| 水産系 | 水産加工残渣等 | |
| 都市廃棄物系 | 家庭ごみ、下水汚泥等 | |
*バガス:さとうきびの絞りかす
世界の陸地のバイオマス存在量(ストック)は乾燥重量にして約1.2-2.4兆トン[1]、エネルギー換算で約24,000-48,000EJ(エクサジュール:1EJ=1018J)と評価されている。その大部分は陸上の樹木であり、海洋のバイオマス存在量はその300分の1程度に過ぎない[2]。
一方、毎年のバイオマスの純一次生産量(フロー)は1289億トンと見積もられている[3]。これをエネルギー換算すると約2580EJ/年となり、世界の年間一次エネルギー消費の7-8倍に相当する。この毎年再生産される量の範囲でバイオマス資源を持続可能に利用する限りにおいて、バイオエネルギーは再生可能エネルギーとみなすことができる。無秩序な森林資源の利用、森林破壊などはバイオマスストックを減らしてしまう。
勿論、技術的あるいは経済的な面から実際に利用可能なバイオマス資源は極めて限定される上、エネルギー利用以外の用途との競合もある。むしろ、食料、木材、紙など他の用途に用いた方が付加価値が高いのが通常である。実際に利用可能なバイオマス資源量の評価は第7章で述べる。
バイオエネルギーが地球温暖化対策オプションとして注目されている根拠は、それがネットで二酸化炭素を排出しない、すなわちカーボンニュートラルなエネルギー源である点にある。
勿論、バイオマスをエネルギー利用する際、例えば燃焼する際には二酸化炭素が発生するが、その量はそのバイオマスの起源である植物が成長する過程で大気中から固定した二酸化炭素の量に等しい。つまり、ネットで二酸化炭素排出はゼロである。これはバイオマス資源をエタノール、メタノール、バイオディーゼルなどの液体燃料として用いる場合でも本質的に同じである[4]。
また、バイオマスをエネルギー利用しないとしても、いずれは土壌の微生物の作用により、二酸化炭素と水に分解されてしまうので、エネルギーとして利用した場合と二酸化炭素排出量は同じである。
以上の点で、地下に固定された二酸化炭素を一方向的に大気中に放出する化石資源の利用とは異なり、バイオエネルギーは他の自然エネルギーと同様、クリーンなエネルギー源ということができる。本年公表されたIPCC地球温暖化第3次レポート[5]においても、地球温暖化への対策オプションとしてバイオエネルギー導入の有効性が明記されている。
バイオエネルギーの法律上の位置付けについて概観する。新エネ法第二条において「新エネルギーの利用等」が規定されている。「新エネルギーの利用等」の具体的な内容は、同法施行令において太陽光発電や風力発電など12項目が定義されており(令第一条)、バイオエネルギーに関しては、「廃棄物発電」や「廃棄物熱利用」を示す項目に一部含まれるものと考えられるが、「バイオエネルギー利用」を明示的に示す規定ぶりにはなっていない。
今年6月、総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会がとりまとめた報告書[7]では、この点が取り上げられ、「バイオマスのエネルギー利用は、現在、新エネルギーとして明確に位置付けられておらず、また、国等による支援策が明示的に設定されていない状況にある」とした上で「バイオマスのエネルギー利用について、新エネ法上の新エネルギーとして明確に位置付け、積極的に導入促進を図っていくことが適当である」と書かれている(同報告書「V.新エネルギーの対象範囲の見直し」)。
これを受けて、現在、バイオエネルギーを新エネ法の対象とすべく所要の規定の整備が進められている。具体的には、バイオエネルギーの利用等を行おうとする事業者のうち、主務大臣の認定を受けた者(以下「認定事業者」という)については、新エネ法に基づく支援策であるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)による債務保証や中小企業投資育成株式会社法の特例適用(中小企業投資育成株式会社による認定事業者の株式・転換社債の引受け等)を行おうとするものである。
図表2にわが国の新エネルギー導入実績と見通し[6]を示す。新エネルギー合計で一次エネルギー総供給の約1.2%を占めているが、その2/3は紙パルプ製造工程における黒液や廃材等の利用であり、これらもバイオエネルギーの利用に他ならない。
この黒液・廃材等の利用に比べて、バイオマス発電の導入量は小さいが、太陽光発電量と同程度、風力発電量の約1.6倍となっている。また、2010年度の導入目標はバイオマス発電とバイオマス熱利用あわせて原油換算で約100万kl(新エネルギーの約5%)となっている。
(総合資源エネルギー調査会報告書[6]から引用)
新エネ法に基づき、バイオエネルギーのうち廃棄物発電や廃棄物熱利用を行う認定事業者に対し、NEDOによる債務保証(保証限度:対象債務の90%、保証料率:年0.2%、平成12年度年間保証限度額(保証枠):300億円)や、中小企業投資育成株式会社法の特例適用(中小企業投資育成株式会社による認定事業者の株式・転換社債の引受け等)が行われている。
さらに、NEDOは認定事業者に対してバイオエネルギー導入に必要な経費に対する補助金の交付(補助率:対象経費の1/3、平成12年度事業費114.9億円)を実施しており、これまでもペーパースラッジや木くず等の廃棄物の燃焼熱を利用する事業者に対して当該補助金が交付されている。この他、バイオエネルギーの導入のための直接的な支援措置ではないものの、廃棄物発電等の導入のためのフィールドテスト事業を、NEDOと事業者が共同して実施してきている。
一方で、大手の電力会社等11社の出資により平成12年11月に設立された日本自然エネルギー株式会社では、風力などの自然エネルギーの利用を希望する企業等から発電を受託し、適切な自然エネルギー発電事業者を選定して建設・運営を再委託し、発電された電気を地元の電力会社を通じて供給する「グリーン電力証書システム」を設けている。これまで、この自然エネルギーによる発電実績は、社会的な認知度とコストの問題から、風力のみが対象とされ、約20社の企業に対して1社当たり年間100〜450万キロワット時の契約を締結してきたが、今後は、バイオエネルギーについても対象に含め積極的に導入することを計画している。
さらに、総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会においては、バイオエネルギーを含む新エネルギーの導入促進に向けた「新たな市場拡大措置」として、RPS制度(renewable
portfolio standard:証書を用いた再生可能エネルギーの導入基準制度)の具体的あり方についての検討が行われている。この制度は、新エネルギーによる発電実績に応じて政府が証書を事業者に発行し、電力会社等に対して一定量の証書保有を義務づけるものである。証書は市場を通じた売買が可能である。
米国エネルギー省エネルギー情報局(DOE/EIA)のデータに基づき、米国のバイオエネルギー導入状況を概観する。図表3に示すように、再生可能エネルギー(水力を含む)は米国のエネルギー消費の8%を占めている。バイオエネルギーはその内の44%を占め、太陽エネルギーや風力に比べてかなり利用が進んでいる。ただし、電力以外の用途が大半を占め、全体の80%強は産業部門で消費されている。また、形態別では、木質系バイオマスが80%、都市廃棄物系バイオマスが17%となっている。
また、再生可能エネルギー源ごとの発電量で比較すると(1999年)、水力80%、バイオマス14%、地熱4%、風力1%となっている。バイオマス発電の大部分は非公益電気事業者(コージェネレーション等の小規模発電業者および独立系発電業者(IPP))によって行なわれており、1999年におけるバイオマス発電設備容量は1101万キロワットである。
米国では、主にとうもろこしを原料としたエタノールを10%程度ガソリンに添加した自動車燃料アルコールブレンドガソリン(ガソホールとも呼ばれる)の使用が普及し、中西部のいくつかの州では、全自動車燃料に占めるガソホールの割合が40%近くに達している。米国での自動車燃料用エタノール生産量は、1980年以降、年率平均12%のペースで伸び、1998年には14億ガロンに達している[7]。現在では、ガソリン消費の約1%をエタノールが代替している。
また、現在、改質ガソリンの添加剤として用いられているMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)による飲料水の汚染が深刻となっており、多くの州ではMTBEの添加の禁止を検討している。エタノールはMTBEの代替添加剤として最も有望視されており、近い将来需要が急増する可能性もある[8]。

(DOE/EIAのデータから作成)
米国ではエネルギー省と農務省が中心となり、エネルギー安全保障、環境保護、農業振興の観点からバイオエネルギー利用を推進している。エネルギー省では、エネルギー生産の観点から、バイオ燃料関連R&Dプログラムとバイオ電力R&Dプログラムを推進している。農務省では農業の保護と振興の観点から、バイオマスの品種改良、バイオ燃料研究などに関するプロジェクトを推進している。
1999年8月、クリントン大統領は大統領令13134号「バイオ製品・バイオエネルギーの発展と促進」を発令し、2010年までにバイオエネルギー関連製品やバイオエネルギー消費を3倍にする方針を打ち出した。
具体的方策としては、@2000年会計年度に政府全体で約2億4千万ドルの研究投資を行うこと、A民間と連携して自動車燃料用エタノールを増産すること、Bエネルギー省、農務省、商務省、環境保護庁、商務省、国務省などにまたがるバイオエネルギーの推進戦略を策定する省庁横断型の推進委員会の設立等を提唱している。この計画により、2010年には年間約1億トンの温室効果ガス排出と40億バレルの原油輸入の削減が見込まれる他、農村地域に150-200億ドルの新規所得が生じるとしている。
ただし、この大統領令に関しては、大統領選挙を控え、農村部の支持を取り付ける政治的思惑が強く働いたとも指摘されている。本年6月にブッシュ政権が出した国家エネルギー政策[8]では、化石資源から自然エネルギーへの転換よりも、むしろ、国内の化石資源の供給力増大に力点がおかれている感がある(科学技術動向2001年6月号特集)。
図表4に示すように、EU内の一次エネルギーに占める再生可能エネルギー(水力を含む)の割合は5.9%であり、その内の約6割をバイオエネルギーが占めている。国別では、オーストリア、フィンランド、スウェーデンで一次エネルギーに占めるバイオエネルギーの割合が10%を超えている。一方、イギリス、ドイツ、フランスなどエネルギー消費の大きい国では、総エネルギーに占めるバイオエネルギーの割合は低い値にとどまっている。
バイオエネルギーは熱利用される割合が大きいため、他の再生可能エネルギーに比べて、電力生産に用いられる割合が小さい。それでも、バイオエネルギーによる発電はEU全体の電力生産量の1.4%を占め(フィンランドで12.0%、デンマークで4.5%、オランダで3.3%)、これは風力発電の0.6%、地熱発電の0.2%に比べて大きな値である。なお、太陽光発電はほとんどゼロである。
EUでバイオエネルギーの普及が進んでいる背景としては、環境問題への関心の高いこと、暖房用熱需要が大きいこと、また、多くの国で配電業者に対するグリーン電力購入義務制度が導入されていたり、再生可能エネルギーの導入に対して様々な免税措置や補助金が用意されていることがあげられる。林業が盛んな北欧諸国では、製材所で生じる木材チップや林地残材などの木質系バイオマスを原料とした地域熱供給システムやコジェネレーションシステムの導入が進んでいる。スウェーデンにおけるバイオエネルギーの普及には炭素税(バイオエネルギーは免税)が大きな役割を果たしており、図表5に示すようにバイオマス燃料のコストが重油を下回っている[9]。
1997年11月、欧州委員会は欧州共同体の戦略と行動計画に関する白書「エネルギーの将来:再生資源エネルギー」[10]を発表した。本白書の行動計画は域内市場施策、EUとしての政策の強化、加盟国間の連携強化、支援施策の4項目からなっており、EU全体の一次エネルギー消費に占める再生可能エネルギーのシェアを2010年に12%に拡大する目標を掲げている。バイオエネルギーの導入量は1995年時点で44.8 MTOE(MTOE:原油換算100万トン)であったが、2010年には約3倍の135 MTOEにすることを提案している。この拡大分の内訳は、バイオガス利用15 MTOE、農業残渣や林業残渣の利用30 MTOE、エネルギー作物45 MTOEである。
1999年にはこの白書の提言を実現するため「キックオフのためのキャンペーン」が開始され、バイオエネルギーに関しては2003年までに100万世帯でバイオエネルギーによる熱供給、発電出力1000MWのバイオガスプラント建設、熱出力10000MWthのバイオエネルギーによる電熱併給システムの設置という具体的目標を掲げている。また、バイオエネルギー開発・導入支援プログラムとしては、R&Dに関してENERGIEプログラム(1999-2002)、法律、行政、市場などの環境整備や投資支援の推進などに関してALTENERUプロジェクト(1998-2002)が実施されている。ALTENERUプロジェクトの予算は1998-1999で2200万ECUとなっている。
(Eurostatのデータより作成)

(文献[9]より転載、1クローナ=約12円)
ブラジルは国際市場の砂糖価格安定と石油輸入量低減による外貨節約を目的として、さとうきびからのエタノール生産とエタノール車の普及を国策主導で推進してきた。また、さとうきびの絞りかすであるバガスの工場用燃料としての使用も多い。1995年時点で、ブラジルの全自動車の内、エタノール車(含水エタノールのみで走行)は42%を占め、残りは無水エタノールを22-24%混合したガソホールで走行している[11]。ただし、近年では石油価格の低落、アルコール生産の不安定性、嗜好の変化からエタノール車に対する需要は減少している。
アジアやアフリカの多くの途上国では薪が一次エネルギーの最大供給源となっている。このような薪の利用は非商業的エネルギー源として統計に表れないことが多いが、全世界の一次エネルギー消費の15%、特に途上国では38%が薪を主とするバイオエネルギーによるとする評価もある[12]。一般に、これらの途上国における薪利用のエネルギー効率は低く、また、森林破壊などの問題も生じている。
バイオマスの形態は極めて多様であり、利用形態も発電、熱利用、液体燃料など様々である。バイオマスは化学物質であることから、これをメタノール、エタノール、バイオディーゼルなどの液体燃料に変換してガソリン代替燃料や燃料電池燃料として用いることができる。これは他の新エネルギーには見られない特性であり、輸送や貯蔵の面でも大きなメリットである。
バイオマスのエネルギー変換技術には、大きく分けて、熱化学的変換技術と生物化学的変換技術がある。本章では、それぞれについて代表的技術をいくつか取り上げる。
最も一般的なバイオマス利用法であり、直接的な熱利用、さらにはこの熱を利用した発電がある。発電プラントの規模としては数MW−数十MW程度が普通である。北欧諸国では木材チップ、廃材、農業廃棄物などが主として用いられる。また、米国や一部のEU諸国では石炭火力発電所において、廃木材、木屑、麦わら、泥炭、都市ごみなどと石炭との混焼が行われている。
1999年、米国エネルギー省は2015年までに多様な原料から、電気や熱のみならず化学物質や輸送用燃料など多様な製品を生産し、かつ、環境負荷物質を発生しないプラントの実現を目指す計画Vision21を発表した。このプラントに供給される原料として、石炭、天然ガス、石油、都市廃棄物の他に、バイオマスが想定されている(これらの原料を全てガス化した上でプラントに投入する)。このプラントでは環境負荷物質の削減をほとんどゼロにすることを目指している(炭酸ガス排出削減は高エネルギー効率の実現と分離・固定化技術の併用で実現)。
木材などのバイオマスを空気、酸素、水蒸気などをガス化材として加熱し、水素と一酸化炭素を主な組成とする混合ガス(バイオマスガス)を生成するプロセスである。いかに、タール成分等が少なく、望ましい組成のバイオガスを効率よく得るかがポイントとなり、固定床、流動床、噴流床などのガス化炉を用いたプロセスが多数考案されている。一旦、適切なバイオガスが得られれば、既存の手法により、これをメタノール、ジメチルエーテル、ガソリンなどの液体燃料に容易に変換することができる。[13]
熱分解は、バイオマスを乾燥・粉砕後、窒素などの不活性ガス雰囲気下で加熱することで、ガスやオイルを得る方法である。最近では、急速熱分解法が主流になっている。この方式では、可燃性気体や固体可燃物であるチャ−の生成をできるだけ抑制して、オイル生成収率をあげるため、急速に加熱する。一方、含水率の高いバイオマスからのオイル生成には直接油化法が適している。これは、水素や一酸化炭素を必要とせずに、バイオマスを高温高圧の条件下におくだけでオイルに変換する技術であり、操作温度は熱分解プロセスよりも低い。反応装置は複雑になるが、高含水率バイオマスの場合には、熱分解プロセスに比べて、エネルギー効率が高くなる。[13]
菜種油、パームオイル、ひまわり油などの植物油を、エステル化反応等により粘性を低くした上で、ディーゼル燃料として用いるものである。バイオディーゼル油は通常のディーゼル油に比べ、排ガス中のパーティキュレート、高分子化合物、SOx、アセトアルデヒド等が減少する。その反面、バイオディーゼルコストの約3/4は植物油の生成コストであり、ディーゼル油に比べて高コストである。[13]
微生物を利用して糖を発酵させ、エタノールを生成する技術であり、古くから存在する。サトウキビなど糖質系のバイオマスの場合には糖を直接得ることができる。一方、木材などのリグノセルロース系バイオマスを原料とする場合には、発酵プロセスの前に加水分解等による糖化プロセスが必要になる。糖質系でない草や樹木の効率的な糖化プロセスの開発はバイオエネルギー利用の可能性を大きく拡大する技術であり、現在ではほぼ実用化のめどが立っている。また、キシロースなどグルコース以外の糖が混合している原液を効率的に発酵させる微生物酵母の開発も進められており、これには遺伝子組み換え技術の応用もなされている。
生ゴミ、家畜糞尿、農業廃棄物等を酸素の存在しない環境下で、嫌気性微生物により脂肪酸、アルコール、炭酸ガス、水素に分解し、さらに、メタン生成菌によりこれらからメタンを生成するプロセスであり、生成したメタンはメタンガス発電プラントの燃料に用いることができる。
なお、発酵方式には、@有機物を液中で発酵させる湿式、A水分調整した固形物を撹拌しながら発酵させる乾式とがあり、Aについては発酵処理を通じて生ゴミ等の体積・質量を大幅に減量できることから、廃棄物処理の手段として有効である。
ごみ処分場ではメタンの自然発生があり、米国ではこの回収・利用が進んでいる。畜産廃棄物や農業廃棄物を利用したメタン発酵はヨーロッパ諸国で環境汚染防止の観点から導入が進んでいる。わが国でも北海道の別海町や京都府の八木町などに家畜糞尿や食品廃棄物を原料とするバイオガスプラントが建設されている。また、わが国では食品リサイクル法(2001年6月施行)や家畜ふん尿管理・リサイクル法(1999年11月施行)が施行され、今後これらの廃棄物の適切な管理・処分が図られていくが、これに伴いこれらのバイオエネルギー原料としての有効利用にも弾みがつくものと期待される。
我が国においては、国土面積約3,700万haのうち約7割(約2,500万ha)がバイオマス資源に豊かな森林に覆われているほか、平野部を中心とした約500万haの農耕地では農業生産活動を通じたバイオマス生産が行われている。
京都大学大学院エネルギー科学研究科の坂志朗教授[11]によれば、我が国の森林や農耕地等におけるバイオマス資源の年間発生量は約1億3,000万t程度、さらに未利用・廃資源に由来するバイオマス資源の年間発生量約2億4,000万tを加えた我が国のバイオマス資源の発生量の総量は、年間3億7,000万tと推定されている。
また、こうしたバイオマス資源の発生量のうち、実際にエネルギーに変換し得る資源量については、バイオマスの利用形態や経済性の評価方法によって不確実性が大きいものの、同試算結果によれば、わが国のバイオマス発生量の約2割に相当する7,700万tが利用可能と評価されている。これは、二酸化炭素に換算すると1億2,700万トンであり、量的に見ると、我が国の1997年の二酸化炭素総排出量12億3,100万トンの約10%に相当する[11]。また、別の評価では実際的に利用が可能な未利用資源系バイオマス資源の利用によりわが国の一次エネルギーの約4%が賄えるとされている[14]。
我が国の農耕地においては、食料生産等の特定用途に充てることを目的として現に農産物の生産が行われていることから、バイオエネルギー生産に充てるため新たに農耕地を確保することは困難な状況にある。したがって、農業系バイオマスのうちエネルギー利用に供することが可能となるものは専ら稲わら、麦わら、籾殻等の農産物残渣であると評価されている。
前述の坂教授[11]によればこれらの農産物残渣の年間発生量約1,962万tに対し約4割の855万tが利用可能と試算されている。農産物残渣の平均発熱量に稲わらの発熱量16.3MJ/dry-kgを用いると、この利用可能な農産物残渣のエネルギーポテンシャルは約140PJ(ぺタジュール:1PJ=1015J)となり、日本の一次エネルギー供給量の約0.6%に相当する。
なお、エネルギー生産に充てるため農耕地において植物を栽培することを想定した場合、その形態としては、@エタノール等の液体燃料を得るために糖類の生産性が高いサトウキビ、トウモロコシ、スイートソルガム、イモ類等を栽培する方法、Aセルロース等を含めたバイオマス生産能力が高いユーカリ等の早生樹やネピアグラス等の草本性植物を栽培する方法などが挙げられる。
特に、スイートソルガムについては、比較的寒冷地においても栽培が可能であり、エタノールへの変換利用が容易であることから、これまで国内の試験研究機関において栽培試験が実施されてきており、50t/ha程度の生茎収量が得られることが明らかとなっている[15]。
畜産系バイオマスについては、ウシ、ブタ等の家畜、ニワトリ等の家禽からの排泄物によるものが我が国において利用可能なものであり、その発生総量は9,500万トン(ふん6,600万トン、尿2,900万トン)に達すると試算(農林水産省推計値)されている。
これらの排泄物のうち、エネルギー資源として利用可能な比率としては、NEDOの調査報告[16]において、畜ふんの25%とされており、これをもとに利用可能な量を試算すれば1,650万トンとなり、これをエネルギー換算(発熱量約1000kcal/kg)すると約69PJとなり、日本の一次エネルギー供給量の約0.3%に相当する。
我が国における年間の森林資源の蓄積増加量は一般に7,000万m3と評価されており、このうちバイオエネルギーとして利用可能な資源量は林地残材及び廃材等によるものが想定される。
平成13年10月に閣議決定された「森林・林業基本計画」には、図表6に示すように「林地残材・再利用材の見通し」が付されている。
これによれば、平成22年において、林地残材・廃材等の林産系バイオマスのエネルギー利用量は2,000万m3とされている。これに木材の重量換算値0.5t/m3を適用すれば、年間約1,000万tが利用されるものと考えられる。木質系バイオマスの発熱量を20MJ/kgとすると、このエネルギーポテンシャルは約200PJとなり、日本の一次エネルギー供給量の約0.8%に相当する。

(農林水産省 森林・林業基本計画による)
なお、実際の林業の現状について、例えば間伐材について見た場合、平成11年度の我が国の間伐面積は約30万ha、これによる間伐材積は約514万m3(林野庁による推計値)に上るものの、製材・丸太・チップ等原材料としては、伐出・運搬が容易な区域からその4割に相当する212万m3を利用しているに留まっている。したがって、一般に低コストでの供給が求められるエネルギー原料として、こうした林地残材を新たに回収することは現状では困難と予想され、製材工場等の廃材や建設発生木材のエネルギー利用がまず進むものと考えられる。
これまで見てきたように、バイオマス原料は極めて多様であり、また、その利用に当たっては、エネルギー利用以外の様々な用途と競合する。一般的に言えば、まず、食料、木材、肥料、紙、繊維などへの利用をまず考える必要があり、これらの需要を満たすことがバイオエネルギー利用の前提となる。それでは、21世紀の人類社会においてどれだけのバイオエネルギーの利用が可能なのであろうか。
東京大学新領域創成科学研究科の山地憲治教授のグループはバイオマスバランス表を用いたわが国のバイオマスフローの解析、および、世界土地利用エネルギーモデル(GLUEモデル:Global Land Use and Energy Model)を用いた世界の余剰耕地でのエネルギーの供給可能量の評価を実施している[1][14]。
これによれば、世界全体の残渣系バイオマス発生量から技術的条件等を考慮し実際的バイオエネルギー供給可能量を評価すると、1990年時点では34.4EJ(燃料用木材消費約20EJは含まず)である。2050年においては、世界全体の残渣系バイオマスのエネルギー総量は173EJ、余剰耕地によるエネルギー作物の供給可能量は110EJ、合計で約280EJとなり、現在の世界のエネルギー所要量の約7割になるとしている。
なお、本解析においては、余剰耕地は全てエネルギー作物の栽培に用いると仮定している。また、エネルギー作物の供給可能量の評価においては途上国における食糧需給パラメータなどの設定により大きな不確実性が伴う反面、残渣系バイオマスは条件によらず安定的に大きな供給可能量を有するとしている。
また、IPCC地球温暖化第3次レポート[5]では、2050年におけるエネルギー作物の供給ポテンシャルを396EJ、残渣系バイオマスとあわせて441EJと評価している。
わが国は欧米諸国に比べて、バイオエネルギーの導入があまり進んでいなかったのが現状である。しかし、最近になり、産官学おけるバイオエネルギー利用に対する関心は急速に高まりつつあり、政府内でもバイオエネルギーを新エネ法に基づく導入支援措置の対象とするよう所要の規定の整備を検討している。わが国としても具体性のあるバイオエネルギー導入戦略を構築すべき時にきている。
従来から、バイオエネルギーの利用に関しては、経済性、特にバイオマス原料の収集・輸送コストが問題とされてきた。確かに、欧米諸国においてバイオエネルギーの導入が進んでいるのも、税制面での優遇措置、配電業者への新エネルギー電力購入義務、環境税といった政策的な支援が基盤にある。また、わが国は森林資源に恵まれているものの地形が急峻でありこれらの資源の利用が困難であること、農業や畜産業の経営規模が小さいこと、暖房用熱需要が少ないことなどがバイオエネルギー普及の障害として指摘されてきた。
いずれにしても、石油ショックのような異常事態を除けば、政策的措置を講ずることなく、バイオエネルギーのコストが化石資源エネルギーのそれを下回ることは当面は考えにくい。しかし、わが国も含め、多くの先進国では一次エネルギーの約80%を化石資源に依存しており、このような化石資源依存型の社会から脱却する方向に向かおうとするのであれば、バイオエネルギーや他の新エネルギーの研究開発や利用に対して社会が適正なコストを負担していくことが必要である。
また、バイオエネルギー利用の本格的な普及にあたっては、民間事業者の参入が不可欠であり、収益性のあるビジネススキームの構築を可能とする政策的支援やその基盤となる研究の重点的推進も重要と考えられる。
3.7.1節で述べたように、わが国において、実際的に利用が可能な未利用資源系バイオマス資源の利用に限っても、一次エネルギーの約4%に相当するエネルギー供給力があるとの試算もあり、これは決して小さくない数字である。
また、バイオエネルギー利用には、廃棄物の処分や環境の保全といった効用があることも重要である。いずれにしても、バイオエネルギーの普及の度合いは、環境保全や化石資源の節約といった外部経済的効果をどの程度内部化する社会を構築するかに大きく依存し、これはわれわれ自身の選択にかかっているのである。
以下、バイオエネルギーの導入に向けた5つの提言を述べる。
バイオマス資源の種類や変換・利用技術は多様であるため、様々な研究分野での取り組みが産業界・大学・国公立研究機関(産学官研究機関)でなされ、複数の関連する学協会において研究成果が発表されている。バイオエネルギー研究のための資源投入は、同じ自然エネルギー分野における太陽光関連研究への投資と比べるとかなり小さかったが、地球温暖化防止条約に関わる国際的動きなどを踏まえ、今後は産学官研究機関などを対象として、バイオエネルギー研究への支援の拡大が求められるであろう。
支援の拡大に当たって、制度的状況を十分踏まえることは当然であるが、まず求められるのは、研究者側からバイオエネルギーの開発・導入・普及に関わる網羅的かつ系統だった情報発信を行い、研究者側と行政側等との議論を深めていくことである。
そこでの議論の対象には、家庭廃棄物や畜産廃棄物などの処分・利用コストの社会的負担のあり方、産学官研究機関や関連する学協会の効果的な連携のあり方、研究機関の現有研究者数に見合った適正な資金投入計画・人材育成計画への支援、など幅広いものがあろう。
バイオマス資源は多様性に富むため、的確な研究評価により充実すべき研究の選別を実施しながら、支援の拡大を図るべきである。
太陽電池や風力発電と比べて、バイオエネルギーの利用には、設備費に加えて、燃料の収集・運搬、設備の運転などにランニングコストがかかる。
例えば、自然放置が法制上禁止される家畜糞尿について見ても、メタン発酵によるバイオエネルギープラントなど悪臭防止上極めて効果的な処理方法があるものの、廃棄物排出者に通常の廃棄物処理費より大きなコストが生じたり、プラント運営者にとって収益性が低い場合には、バイオエネルギープラントの導入が進まず、こうした消極的見通しに起因して研究開発が停滞する恐れがある。
このような外部経済の観点から重要と評価できるものについては、研究開発の推進と並行して、広くバイオエネルギープラント設置・運営コストの負担を求めるような制度の構築が必要と考えられる。
バイオマス資源の発生量は地域的に偏在しており、バイオエネルギー導入の効用やそのあり方も地域特性に強く依存する。また、輸送コスト低減の観点からは、原料発生地の近くにバイオエネルギー変換・利用プラントを建設した方が有利である。
しかし、バイオマス変換・利用プラントの規模も経済性に大きな影響を及ぼすことにも留意すべきである。バイオマス変換・利用プラントにおいては、通常の産業プラントと同様、より大きなプラントの方がスケールメリットが作用し経済的に有利となる(勿論、バイオマス資源のみを用いた数十万kWクラス以上のエネルギープラントの建設は材料調達等の観点から困難な面がある)。IPCC地球温暖化第3次レポートにおいても、「(バイオエネルギー利用について)プラントのスケールの経済性の方が、(材料発生地から離れた場所にプラントを建設することによる)追加的な輸送コストよりもしばしば重要である」と述べられている。
したがって、わが国がバイオエネルギー利用を推進するにあたっても、まずは、ある程度多量のバイオマス原料を確保できる地域を想定することが肝要であろう。また、同時に対象となるバイオマス原料の十分な調達を可能にする回収システムの構築や末端段階での分別・回収の効率化等が望まれる。
乾燥系のバイオマス原料を既存の火力発電プラントにおいて、本来の燃料である石炭、天然ガス、石油と混合して燃焼させる場合には、プラント規模のスケールメリットによる経済的効果を十分に享受できる上、バイオマス発電プラントの建設費を一義的には考慮しなくてよい。実際、欧米諸国では石炭火力発電所において石炭とバイオマスの混焼が行われている。
このような、既存の火力発電所でのバイオマスの混焼が、経済的および技術的な面でリスクが最も小さいバイオマス利用法の一つと考えられ、わが国として重点的に研究開発を推進すべきである。さらに、米国エネルギー省のVision21において提唱されている多様な燃料に対応できるプラントも同様の観点から、わが国にとって注目すべき研究対象であろう。
わが国の場合、他の土地利用の用途との競合から、大規模なエネルギープランテーションの導入は、少なくとも当面の間は現実的ではなく、未利用資源系バイオマスの利用の拡大が現実的である。一方、グローバルに見た場合には、エネルギープランテーション系バイオエネルギーの可能性も大きい。特に、東南アジア、中南米、アフリカの諸国においてはバイオプランテーションの資源ポテンシャルが非常に高い。
したがって、これらの国々で生産されるバイオエネルギーが世界のエネルギー供給システムにおいて重要な位置をしめるにはまだ長い年月が必要であるにせよ、京都議定書のCDM(クリーン開発メカニズム)を活用した途上国におけるバイオエネルギー利用支援には積極的に取り組むべきと考えられる。
発展途上国の多くは、薪を主なエネルギー源としているが、エネルギー利用効率が低いのが現状であって、この利用技術の高度化への支援は、技術的な障壁が小さく、かつ、地球温暖化ガス削減に即効性が期待されるため、積極的に推進していくべきであろう。
[1]山地憲治:バイオエネルギー, ミオシン出版(2000)
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[11]坂志朗編著:バイオマス・エネルギー・環境, アイピーシー (2001)
[12]T. Johansson, et al. Eds., Renewable Energy, Island Press (1993)
[13]横山伸也:バイオエネルギー最前線, 森北出版 (2001)
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