4.特集:わが国の研究成果(論文)に対する国際評価
-日本発の"一流論文"の増加-

情報通信ユニット  清貞 智会
科学技術政策研究所 第2研究グループ  富澤 宏之

4.1 はじめに     

 野依良治・名古屋大学大学院理学研究科教授が2001年のノーベル化学賞を受賞した。昨年の白川英樹・筑波大名誉教授(現総合科学技術会議議員)のノーベル化学賞受賞に引き続き、2年連続でわが国からノーベル賞受賞者が出たことは、わが国が着実に研究成果を挙げている証拠と言えよう。
 こうした背景を踏まえ、本稿ではわが国の論文に対する国際評価を、「一流ジャーナルにおける論文シェア」、「被引用回数(分野・領域)」等により分析する。

4.2 自然科学・工学全体におけるわが国の論文生産 

 Scienceの掲載論文における主要先進国のシェアを図表1に、わが国に限定したシェアを図表2に示す。また、Natureの掲載論文における主要先進国のシェアを図表3(次頁)に、わが国に限定したシェアを図表4(次頁)に示す。
 なお、各論文の所属国は、著者の所属機関の所在地から判断した。共著者の所属機関の所在地が2カ国以上となる場合は、論文の所属国を重複カウントした。例えば、ある論文が3名の著者によって書かれ、1名が日本の機関に、残り2名が米国の機関に属する場合、日本1件および米国1件とカウントした。
 また、1991~2000年のデータは、SCIデータベースから集計したが、図表2、4の2001年のデータは、Science、Natureからそれぞれ集計した。

図表1 Science掲載論文における主要国のシェア

図表1 Science掲載論文における主要国のシェア

(注) ・対象論文は"Research Articles"、"Reports"および"Reviews"。
・1998年は1月~11月の11ヶ月分のみ集計。

図表2 Science掲載論文におけるわが国のシェア

図表2 Science掲載論文におけるわが国のシェア

(注) ・対象論文は図表1と同じ。
・2001年は1月~6月の6ヶ月分のみ集計。

図表3 Nature掲載論文における主要国のシェア

図表3 Nature掲載論文における主要国のシェア

図表4 Nature掲載論文におけるわが国のシェア

図表4 Nature掲載論文におけるわが国のシェア

(注)・対象論文は図表3と同じ。
・2001年は1月~6月の6ヶ月分のみ集計。

 1991年以降、ScienceやNatureの掲載論文におけるわが国のシェアは増加傾向にあり、特にここ2年位は一層、増加している。
 次に、自然科学・工学の全分野をカバーするSCIデータベースの収録ジャーナルを対象とした主要先進国の論文シェアを図表5に示す。
 1991年以降、自然科学・工学分野のジャーナルの論文におけるわが国のシェアは10%付近を緩やかに増加している。前述のScience、Natureのシェア増加は、これに近づきつつあると見ることもできる。

図表5 主要国の論文発表数シェアの推移

図表5 主要国の論文発表数シェアの推移

・凡例は2000年のシェア順に表示。

4.3 わが国の分野別論文生産

 わが国の分野別RCA(Relative Comparative Advantage)を図表6に示す。
 RCAとは、ある国の対象分野の論文数が、自然科学・工学全体の論文数に占める割合を、全世界における対象分野の論文数の割合で割った値である。例えば、1997年における臨床医学分野の割合は、わが国で22.2%、全世界で26.4%であり、わが国の同分野のRCAは22.2%÷26.4% = 0.841となる。RCAが1を超える分野は、わが国が力を入れている分野であると言える。
 わが国のRCAは、物理学・材料科学分野および化学分野で高く、地球・宇宙分野、臨床医学分野、生物学・生命科学分野では低い。

図表6 わが国の分野別RCA

図表6 わが国の分野別RCA

出典:NSIデータベース(Deluxe,1981-1998)をもとに科学技術政策研究所が集計。
科学技術指標(H12年度) 科学技術政策研究所

4.4 被引用回数による分野別の機関ランキング       

 ISI社が1991~2000年の論文の被引用回数による機関ランキングを、生物学・バイオテクノロジー、微生物学、分子生物学・遺伝学、免疫学、神経科学、臨床医学、薬学、動植物学、農学、コンピュータ科学、環境、材料科学、エンジニアリング、地球科学、宇宙科学、物理、数学、化学、心理学の19分野で行った結果、トップ5にわが国の機関がランクインしたのは、生物学・バイオテクノロジー、材料科学、物理、化学の4分野である(図表7)。
 これらのうち材料科学、物理、化学はわが国のRCAが高い分野であり、わが国が力を入れている分野には、世界をリードする機関があることが分かる。

図表7 被引用回数による機関ランキング

(1) 生物学・バイオテクノロジー

順位 機関 被引用回数 論文数
1 HARVARD University(米) 184786 7325
2 University of Texas(米) 149017 8009
3 UCSF(米) 93710 3952
4 東京大学(日) 79673 5571
5 NCI (米) 72923 2966

(2) 材料科学

順位 機関 被引用回数 論文数
1 東北大学(日) 13889 3231
2 IBM(米) 13160 1369
3 UCSB(米) 12001 871
4 MIT(米) 11723 1506
5 University of Illinois(米) 9826 1328

(3) 物理分野

順位 機関 被引用回数 論文数
1 AT&T(米) 98264 4921
2 東京大学(日) 92058 10920
3 IBM(米) 87982 4649
4 MIT(米) 86292 6462
5 CERN(スイス) 85319 5937

(4) 化学分野

順位 機関 被引用回数 論文数
1 UC Berkeley(米) 57039 3846
2 京都大学(日) 56981 7215
3 東京大学(日) 56860 6781
4 University of Texas(米) 50919 4052
5 University of Cambridge(英) 48634 4287

出典:Science Watch Vol. 12, No. 4,July/August 2001, ISI

4.5 ナノテクノロジーに関する論文動向 

 前章では既存の分野ごとに被引用回数が多い論文を輩出している機関を概観したが、最先端の研究テーマは、既存の分野に収まらない境界領域や融合領域で進んでいることが多く、従来の手法では論文の引用動向について分析することが困難である。
 本章では、最近、国内外で脚光を浴びているナノテクノロジーの論文の引用動向について、ISI社が独自に集計した結果をもとに概観する。
 同社が、SCIデータベースから1991~2000年に発表された論文のうち、タイトルや著者が記したキーワードに "nano" が含まれる論文32,605件を取り出し、被引用回数によるジャーナルランキングを行った結果、図表8となった。
 図表8から、自然科学全般を対象とするScienceやNatureを除くと、物理分野、化学分野、材料科学分野のジャーナルがトップ10にランクインしていることが分かる。

図表8 ナノテクノロジーのジャーナルランキング

順位 ジャーナル 被引用回数 論文数
1 SCIENCE 13341 237
2 APPLIED PHYSICS LETTERS 12586 1132
3 NATURE 11312 192
4 PHYSICAL REVIEW B 9525 820
5 PHYSICAL REVIEW LETTERS 8023 424
6 JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY 6422 182
7 JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY 5582 270
8 JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 5415 825
9 CHEMISTRY OF MATERIALS 5392 405
10 NANOSTRUCTURED MATERIALS 4893 1099

出典:Essential Science Indicators of "Nanotechnology",ISI,, 2001年10月

 同様に国別、機関別、著者別のランキング結果は、図表9のとおりである。

図表9 ナノテクノロジーの国・機関・著者ランキング

(1) 国別ランキング

順位 被引用回数 論文数
1 米国 92108 9993
2 日本 26267 4251
3 ドイツ 20673 3579
4 フランス 17168 2673
5 イギリス 9466 1415
6 スイス 8233 792
7 中国 7653 3168
8 カナダ 5707 754
9 スペイン 5131 874
10 オランダ 4767 514

(2)機関別ランキング

順位 機関 被引用回数 論文数
1 UC Berkeley(米) 6591 393
2 MIT(米) 5370 366
3 Rice University(米) 4329 156
4 IBM(米) 4305 282
5 NEC(日) 4016 140
6 HARVARD University(米) 3278 155
7 東北大学(日) 3244 485
8 University of Illinois(米) 3093 289
9 Ecole Polytech Fed Lausanne(スイス) 3092 212
10 US Navy(米) 3045 302

(3)著者ランキング

順位 著者 被引用回数 論文数
1 Smalley RE, Rice University(米) 3816 78
2 Alivisatos AP, UC Berkeley(米) 3084 97
3 Ajayan PM, NEC(日) 2659 63
4 Ebbesen TW, NEC(日) 2424 36
5 Thess A, Rice University(米) 2213 23
6 Gratzel M, Ecole Polytech Fed Lausanne(スイス) 1980 79
7 飯島澄男, NEC(日) 1959 75
8 Rinzler AG, Rice University(米) 1937 36
9 Dai HJ, Rice University(米) 1851 31
10 井上明久, 東北大学(日) 1719 184

出典:ISI・Thomson Scientific社報告 (2001年10月)
Essential Science Indicators of "Nanotechnology"

 わが国は、国、機関、著者トップ10にそれぞれランクインしている。

4.6 おわりに                      

 ScienceやNatureの掲載論文に占めるわが国のシェアは増加傾向にあり、わが国において国際級の研究成果が増えていることがうかがえる。無論、両誌におけるシェアだけでは、わが国の研究成果の評価に不十分である。しかし、両誌は自然科学全般を対象とし、かつ国際的に一流と認められているため、国別シェアは、研究成果の評価における一つの注目すべき指標となろう。
 また、ナノテクノロジーに注目すると、過去10年間、わが国は世界中で注目される論文を輩出してきた。このような学際領域の論文動向の分析は、既存の分野概念に沿って構築されたデータベースでは困難であったが、今回ISI社が用いた手法を利用することで、他の学際領域(バイオインフォマティックスやシステムバイオロジー等)におけるわが国の論文の国際評価を推測することが可能であろう。