4.特集:カリフォルニア州技術革新イニシアティブの動向

情報通信ユニット  清貞 智絵

4.1 緒言                        

 カリフォルニア州で、産官学の連携による大規模な技術革新イニシアティブ(以下、CISIイニシアティブと称す)が実施されている。
 その目的は、21世紀もカリフォルニア州が世界最先端のハイテク地域でありつつけるために、20〜30年後を見越した技術革新の基盤を構築することである。2001年〜2004年にわたる4年間のプログラムとなっており、予算は総額12億ドル以上となる見通しである。
 同州は、過去30年間、ITやバイオテクノロジー等の技術革新に成功し、次々と新規技術を世に送り出してきた。こうしたポテンシャルを持つカリフォルニア州が、大規模な技術革新イニシアティブを始めたことは注目に値する。
 本稿では、CISIイニシアティブの中心となっているCISI(カリフォルニア科学・技術革新研究所)の概要や研究費を中心に同イニシアティブの概要を紹介する。

4.2  CISIイニシアティブの発端          

 CISIイニシアティブを初めに提唱したのは、カリフォルニア州のデービス知事である。
 最近、カリフォルニア州から州外へ移転する企業が増えている。この背景には、ここ数年、同州でネットビジネスを中心に好景気が続いたため、労働賃金や家賃が高騰していること、及び昨年来のカリフォルニア電力危機がある。
 このため、デービス知事は、同州の研究開発力が低下することを懸念し、CISIイニシアティブに取り組むこととした。

4.3  CISIイニシアティブの中核機関       

 CISIイニシアティブは、カリフォルニア州立大学(UC)内に設置された「カリフォルニア科学・技術革新研究所(CISI)」を中心に進められる。
 CISIは、図表 1に示す4機関で構成される。これらの機関は、UC各校によって共同設立され、研究開発活動には、他のUC校、カリフォルニア州の国立研究所及び企業等も参加している。

図表 1 CISIの構成機関

機関 UC内主担当校
QB3
California Institute for Science and Innovation in Bioengineering, Biotechnology and Quantitative Biomedicine
・ サンフランシスコ校(リーダー)
・ バークレー校
・ サンタクルーズ校
CAL(IT)2
California Institute of Communications and Information Technology
・ サンディエゴ校(リーダー)
・ アーバイン校
CNSI
California Nanosystems Institute
・ ロサンゼルス校(リーダー)
・ サンタバーバラ校
CITRIS
Center for Information Technology Research in the Interest of Society
・ バークレー校(リーダー)
・ デービス校
・ サンタクルーズ校
・ マースド校

4.4 CISIの学際研究                 

 QB3 はバイオ、CAL(IT)2はIT、CNSIはナノテクノロジー、CITRISは社会におけるITをコアとして、それぞれ他領域を融合しつつ、学際研究を進めている。

(1)QB3
 QB3の目標は、原子やたんぱく質から、細胞、皮膚、器官、生体系全体に至るまで、様々なレベルで生体機能を解析し、複雑な生体系の仕組みを解明することである。
 このため、バイオメディカルをベースに、数学、物理、化学、工学等を融合させながら研究が進められている。

(2)CAL(IT)2
 CAL(IT)2は、大容量・高速通信が可能なブロードバンドネットワーク時代の到来を目前に控え、電気・電子工学、ソフトウェア工学、通信工学、認知科学及び社会学等、様々な分野の専門家が集まって、「10年後にはどういったインターネット環境になり、どういったサービスの需要があるのか?」等の議論を繰り返し、将来必要となると考えられるデバイス技術及びアプリケーションの研究を進めている。現在進行中の主なテーマは図表2の通り。

図表2 CAL(IT)2の主要テーマ

テーマ 概要
Smart Roads 道路に装着したセンサーを利用し、交通量を計測することで、渋滞を解消するシステムを構築する。また、自動車が互いに交信し、「無事故・無渋滞」を可能にする交通システムを構築する。
一般家庭のPCを利用した大規模解析 一般家庭のパソコン数百万台をつなげ、遺伝子解析等の大規模計算を実施するためのソフトウェアを開発する。
環境・土木モニタリング 公害予測や地震観測の精度を高めるため、モバイル機能があり、高性能な各種センサーを開発する。

(3)CNSI
 CNSIでは、材料学、オプトエレクトロニクス、バイオミメティックス、分子生物学等、様々な分野の専門家が集まり、ナノスケールの各種研究開発を進めている。
 具体的な研究テーマは図表 3の通り。

図表3 CNSIの主要テーマ

テーマ 概要
ナノ構造 原子レベルの構造解析及び構造設計等。
ナノ画像 原子レベルの画像処理、画像解析技術の研究開発等。
シミュレーション 原子レベルでの材料物性や結晶成長に関する数値解析等。
分子医療 ナノシステムを利用した病原性遺伝子の突然変異に関する研究等。
ナノデバイス 分子エレクトロニクスによるアーキテクチャー及びデバイスの開発等。

(4)CITRIS
 CITRISは、「今後、ITは独自に発展するのではなく、社会への適用において新たな展開を迎える。」と予測し、SISs(Societal-scale Information Systems)の研究に取り組んでいる。
 SISsは、社会ニーズに応じ、小さなセンサーやアクチュエーターから携帯情報端末、ワークステーション、部屋一杯のスーパーコンピュータ群等の様々なデバイスを統合したシステムで、図表 4の個別テーマに沿った研究が進行中である。

図表4 SISsの主要テーマ

テーマ 概要
エネルギー効率向上 低価格の小型センサーをネットワークで結び、エネルギー利用を制御する。
交通 カリフォルニア州の道路にセンサーを整備し、これらをネットワークでつないで各地の交通量を分析することで、最適ルートを算出する。
防災(地震対策) 建築物、橋、ライフラインネットワーク等の状態がリアルタイムで分かる情報システム、及び分単位で市民1人1人の安否を救急隊員へ知らせる情報システムを構築する。
教育 カリフォルニア州の学校や企業へ遠隔教育プログラムを提供する。当面は、UCマースド校の学部生を対象とした情報通信の授業を対象とする。
ヘルスケア 患者の体調の異変を検出し、医者へ知らせるセンサーを開発する。また、へき地の住人や兵士の健康状態をモニタリングするデバイスを開発する。
環境 まず、カリフォルニア州のモントレー湾から南カリフォルニア都市部にかけて環境計測するシステムを開発する。次に、環境に応じて農作物の品質を改良するsmart farmingを開発する。

4.5 CISIイニシアティブの研究費         

 カリフォルニア州政府は、QB3、CAL(IT)2、CNSI、CITRISごとに、4年間で1億ドル(約125億円)を出資する。
 さらに、州政府は、各機関に州政府拠出金の2倍以上の研究費を外部(企業、連邦政府等)から調達することを義務付けているため、同イニシアティブの予算は4年間で12億ドル(約1500億円)以上となる見通しである。

4.6 UCの研究活動に対するCISIイニシアティブの影響    

 UCは州立大学であり、定常的に州政府から研究費が出ているため、「州政府のCISIイニシアティブへの支出は、従来とは別枠の新規のものか、従来の支出の項目を鞍替えしたものか。」といった疑問が生じるが、ここでは、UCの研究活動に対するCISIイニシアティブの影響を分析する。
 州政府は、毎年、同イニシアティブの各機関に対して一定額を支出する。すなわち、州政府は、初めに設立されたQB3、CAL(IT)2、CNSIの各機関には、2001〜2004の4年間、毎年25百万ドル(約31億円)を、遅れて設立されたCITRISには、2002年度から2004年の3年間、毎年33百万ドル(約41億円)を支出する。                                  

図表5 州政府からCISIへ支出される研究費

(単位:百万ドル)

図表5 州政府からCISIへ支出される研究費

 州政府からCISIへの支出合計額は2001年度に75百万ドルとなり、さらに2002年度にはこれに33百万ドルが追加される。
 一方、UCの研究費の経年変化は図表 6の通りである。2001年度は前年に比べて研究費が88百万ドル増えており、さらに2002年度には対前年17百万ドル増であることが分かる                                      

図表6 UCの研究費

 (単位:百万ドル)

年度 研究費 対前年増加額
2002(見通し) 551 17
2001 534 88
2000 446 -

 以上の点より、州政府からCISIイニシアティブへの支出と、UCの研究費の増額には相関が見られる。
 同イニシアティブは、従来のUCにおける研究プロジェクトの名前を変えただけのものではなく、新規に開始されたものと見ることができよう。さらに、CISIイニシアティブの予算はUCの研究費の2割弱を占めることが分かる。

4.7 CISIイニシアティブにおける産学官連携  

 CISIイニシアティブは、デービス州知事の強力なリーダーシップの下、UC各校、国立研究所(ロスアラモス研究所、ローレンスリバモア研究所及びローレンスバークレー研究所)、カリフォルニア州内外の企業200社以上(図表 7参照)が参加して進められている。

図表7 学際イニシアティブの参加企業

業界 企業
コンピュータ マイクロソフト、IBM、サンマイクロシステムズ、コンパック、テキサスインスツルメンツ、SGI、他
通 信 シスコシステムズ、クアルコム、エリクソン、他
バイオ ジェネンテック、他
航 空 ボーイング、他
金 融 バンクオブアメリカ、ベイサイドを中心とするベンチャーキャピタル、他

出所 CISI公式Webサイト

http://www.ucop.edu/california-institutes/

 同イニシアティブにおける企業への期待は、

 ・資金提供
 ・研究を製品化するリードタイムの短縮(製品化へ向けたアイデア、手段等の提供)
 ・人材育成(学生にビジネスマインドを伝授)
 ・学生のインターンシップの引き受け手

である。

4.8  結言       

 CISIイニシアティブは、21世紀もカリフォルニア州が世界最先端のハイテク地域でありつつけるための同州による挑戦である。
 同イニシアティブでは、既存の枠組みにとらわれず、新たな技術シーズが追求されており、また産学が密接に結びついて、産業ニーズを取り入れた研究が進められている。
 同イニシアティブは、規模が大きく、州政府やUCが全面協力している点を加味すると、今度、ここから次世代を切り拓く新技術が生まれる可能性が高い。このため、今後とも、同イニシアティブの動向をウォッチする価値は大きい。