3.特集:米国の新国家エネルギー政策

−供給重視の論理と各エネルギー源の位置付け−

環境・エネルギーユニット  大森 良太

3.1 はじめに

 5月17日、ブッシュ米大統領は国家エネルギー政策(National Energy Policy, NEP)を正式に発表した。これは、チェイニー副大統領を座長とする国家エネルギー政策策定グループが報告書としてまとめ、大統領に提出したものであり、全体で105の政策提言を含んでいる。
 本報告書はOverviewの他、以下の8章から構成されている。
(1)現状:米国が直面するエネルギー問題
(2)家庭への打撃:高エネルギー価格の影響
(3)環境の保護:国民の健康と環境の維持
(4)エネルギーの賢い利用:省エネルギーと効率化の推進
(5)新世紀のエネルギー:国内エネルギー供給の増大
(6)自然エネルギー:再生可能エネルギーと代替エネルギーの拡充
(7)エネルギーインフラストラクチャー:統合的送配システム
(8)国際連携の強化:エネルギーセキュリティと国際パートナーシップの促進
 今回のNEPでは省エネルギー、再生エネルギーに関しても相当量の紙幅が割かれているものの、全体のトーンとしては、エネルギー供給力の拡充を最重視する姿勢を鮮明に打ち出している。本稿では、NEPにおける国内エネルギー供給力の拡大重視の論理、および、各エネルギー源と関連技術の位置付けを概観する。

3.2 深刻な国内エネルギー需給ギャップ

 NEPにおいて一貫して強調されているのは、将来にわたる国内のエネルギー需給のアンバランスである。図表1はNEP報告書の冒頭に示されている図であり、米国内のエネルギーの生産量および消費量の見通しを示している。図に示されているように、エネルギー生産が1990年代と同じ伸び率で推移していくとすると、2020年には消費量が生産量を70%程度上回り、大幅な需給ギャップに直面する。また、今日、米国の石油生産量は1970年と比べ39%減少しており、その結果、石油の海外依存度が約55%に高まっている。このままの傾向が続くと、2020年には石油の国内消費の2/3を輸入に依存すると予想され、米国のエネルギーセキュリティ上、看過できない事態となる。

図表1 米国内のエネルギー生産量及び消費量の見通し

図表1 米国内のエネルギー生産量及び消費量の見通し

出典:Sandia National Lab. and DOE/EIA

 
 さらに、NEPは、昨今のエネルギー価格の高騰やカリフォルニア州の電力危機を取り上げ、米国は1970年代の石油ショック以来のエネルギー危機に直面しているとした上で、その根本的な原因も国内のエネルギー需給の不均衡にあると結論している。電力に関しても、今後20年間に米国全体の需要が45%伸びると評価されており、この需要を満たすには、今後、1300-1900基(1年あたり60-90基)の発電所の新設や送配電ネットワークなどのエネルギーインフラの拡充が必要としている。カリフォルニア州では1990年代初頭には電力供給力に余剰があったが、その後の好景気および人口増加に伴うエネルギーの需要増加にもかかわらず、大規模発電所の建設がなされなかった結果、大きな需要超過が発生し、最近の危機的状況をもたらしたとしている。
 また、1994年時点では43,000MWの発電所新設が1995-1999年の間に予定されていたが、実際に建設されたのはわずか18,000MWのみにとどまった。この原因の一つとしてNEPは、州や地方当局による規制の相違と複雑さ、ライセンシングプロセスの不確実性を挙げており、エネルギー関連の規制の緩和やライセンシングプロセスの簡素化もNEPの提言の柱となっている。

3.3 省エネ・高効率化だけでは不十分

 前節で述べたような一次エネルギーおよび電力の需給のアンバランスを解決するには、「省エネルギーや高効率化によるエネルギー需要の抑制」、「輸入エネルギーへの依存」、「国内エネルギー供給力増大」の3つのアプローチが考えられる。
 この内、省エネルギーや高効率化について見ると、米政府および産業界は石油ショック以来、それらの推進に努めてきており、1973年以降、経済は126%成長したのに対し、エネルギー消費量は30%増加したにとどまっている(半分は産業構造のサービスセクターへの移行、半分は高効率化による寄与)。省エネルギーやエネルギー効率向上は地球温暖化問題解決のノー・リグレット戦略であり、コジェネレーションやITS(Intelligent Transport System)などエネルギー効率向上につながる研究開発や、ハイブリッド車・燃料電池車の購入などに関しては、予算面および税制面で配慮が必要と述べられているが、同時に、省エネや高効率化への取り組みだけでは現時点で予測される将来の需給ギャップをカバーするには不十分であるとしている。

3.4 国内エネルギー供給力増大へ−需給ギャップ解消とエネルギーセキュリティ

 結局のところ、NEPは、エネルギーセキュリティを確保しつつ、将来にわたるエネルギー需給ギャップを解消するためには、国内のエネルギー供給力の拡充に早急に取り組むことが不可欠であるとしている。エネルギーセキュリティはアメリカの貿易および外交の最優先項目であり、エネルギー価格の変動(ボラティリティ)と供給不確実性を低減させるためには、エネルギー生産国との強力なパートナーシップを構築することと共に、基本的には国内エネルギー供給力増大によるエネルギーの海外依存度の低減が重要であると述べている。
 また、エネルギーセキュリティの観点から、エネルギー源の多様化の必要性も強調されている。現在、建設中および計画中の発電所の90%は天然ガス火力発電所である。しかし、1つのエネルギー源に過度に依存すると、その燃料価格の高騰や供給遮断などの事態に対し、消費者は大きな影響を受けることになる。したがって、エネルギー供給の量的拡大と同時に供給源の多様化を考慮しながらエネルギー戦略を策定することを求めている。
 さらに、NEPは豊富なエネルギー消費に裏打ちされた質の高い暮らしと環境保護は背反的なゴールではなく、包括的政策によって同時に達成可能なものとしており、その基盤となるのがテクノロジーの進歩であるとしている。

3.5 各エネルギー供給技術の位置付けと関連技術動向

3.5.1 一次エネルギー

 石油と天然ガスは合わせて一次エネルギー全体の60%超、輸送部門に限ってはほぼ100%を供給している。2020年には、現在よりさらに天然ガスは50%、石油は1/3の需要増が見込まれている。これに対し、米国の石油の国内生産量は、1970年以降、減少傾向にあり、天然ガスも2020年までの間、生産量の伸びは消費量の伸びを下回ると評価されている。
 特に、石油の輸入依存度は1985年以降急速に高まっている。2020年においては、石油の国内消費の2/3を海外から輸入せざるを得ないと見込まれるが、世界の原油埋蔵量の2/3は中東に存し、アラブ諸国の強い価格決定力の下にある。このため、石油価格の変動が激しくなりやすい。
 天然ガスは米国の一次エネルギーの約1/4を占めており、米国で消費される天然ガスの85%は国内で生産される。輸入依存度は1987年の5%から2000年には15%に上昇した。天然ガスは石油と異なりほとんどの場合、生産と消費が近い地域でなされるため、価格は局所性が大きく、2000年に高騰した価格は2001年に入りやや落ち着いているものの依然として高水準にある。
 一方、原油や天然ガスの採掘技術の進展はめざましく、これまで、コスト、地質条件、環境へのダメージなどの点で採掘が困難であった埋蔵地点からの採掘が可能になってきている。しかし、現在の環境規制の下では、このような技術進歩が生かされていない面があると指摘している。
 このような状況の下、NEPは既存のおよび新規の油田や天然ガス田の採掘を積極的に進める政策を打ち出しており、特に、アラスカの北極圏野生保護区(ANWR)の一部を、最先端技術を使用する資源採掘企業に対し解禁するよう提言している。また、連邦政府が所有する土地やオフショアでの採掘、新技術の利用による既存の油田や天然ガス田からの資源回収、関連規制の緩和、ガスパイプラインや石油精製所などインフラの拡充などが提言に含まれている。
 石炭については消費の約90%が発電用であるため、次節でふれる。

3.5.2 電力

 電力需要は今後20年間に45%増加すると見込まれ、393,000MW分の新規発電設備、すなわち、1,300-1,900基(年間60−90基)の発電所の新設が必要と述べられている。また、カリフォルニア州における電力危機を引き合いに出し、電力市場自由化を推進する際の適切な制度設計の重要性を指摘しつつ、電力市場におけるさらなる競争の推進を指向している。以下では、NEPに記述されている各発電源についての位置付けや関連技術動向をまとめる。

図表2 米国の発電源構成割合(2000年)

図表2 米国の発電源構成割合(2000年)

(1)石炭

 図表2に示すように、石炭は総電力の50%超を供給している。また、石炭は米国において最も豊富な燃料資源であり、埋蔵量は250年分の供給量に相当する。国内産の石炭の99.7%は国内で消費され、そのうち電力用の消費が90%を占める。1982年以降、石炭価格は低下傾向にあり、これは2020年まで続くと見込まれている。石炭火力発電は資源の埋蔵量が豊富で低コストである反面、二酸化硫黄や一酸化窒素の排出による環境負荷が問題となっている。
 現在、建設中の石炭火力発電所はほとんどない。しかし、NEPでは原子力や水力による電力生産が伸びないとすると、石炭が電力供給の柱であり続けなければ、天然ガスへの過度の依存が避けられなくなる。したがって、今後も、石炭が主要なエネルギー源としての役割を担う必要があるとしている。
 NEPでは、クリーンコールテクノロジー(石炭火力発電における熱効率の向上、脱硫・脱硝の高度化、ハンドリング性向上等による環境負荷低減に関する技術)が石炭のエネルギー源としての魅力を増すとし、今後10年間に20億ドルの研究費の投入等を提言している。特に流動床燃焼技術(FBC)と石炭ガス化複合サイクル発電技術(IGCC)プロセスが重点的に記述されており、また、水銀排出の削減が今後の課題として述べられている。
 実際、エネルギー省(DOE)石炭・発電システム課担当者によると、クリーンコールパワーイニシアティブ(CCPI)は2002年度のエネルギー研究開発予算における1つの目玉になっており(1.5億ドル)、DOEでは、2015年をめどに、高発電効率(石炭火力で60%以上、天然ガスで75%以上)、熱電併給(総効率85-90%)、NOx,SOx等の排出ゼロ、二酸化炭素排出の大幅削減(発電効率向上により40-50%削減、さらに二酸化炭素固定・隔離により実質的に100%削減)、などを目標とした火力発電プラント(ゼロ・エミッションプラント)の実証に向け取り組んでいる。

(2)原子力

 原子力は、石炭に次ぐ発電源であり、全米の総電力の20%を供給している。90年代にいくつかの効率の低い原子炉が閉鎖されたものの、全米で103基の原子炉が稼動中であり、総発電量で見ると過去最高の水準となっている。しかしながら、1973年以降、新規の原子力発電所の建設はない。80年代に原子力発電所のパフォーマンスは大きく改善され、最近では設備利用率が平均90%近くにまで達し、コストの点でも他の発電源と同程度となっている。
 NEPでは、既存の原子力発電所の設備利用率を92%まで高めることで2,000MW、各原子炉の定格出力を上げることで12,000MWの発電量の増加が可能としている。しかしながら、定格出力の引き上げは、多額のコストがかかる可能性があり、さらに原子力規制委員会(NRC)の長期にわたる安全審査を受ける必要がある。そこで、原子力による発電量増加の別の方策として、運転期間を20年間延長することがあげられており、90%の原子炉がこのようなライセンスの更新が可能であるとしている。また、多くの原子力発電所の敷地にはまだ原子炉を増設する余裕があり、この場合には、新規立地点に原子炉を建設する場合に比べて、ライセンス手続きが簡素化されると述べている。また、固有安全性の高い先進的原子炉の例として、ペブルベッド・モジュラー炉(PBMR)をあげている。DOE原子力科学技術課の政策担当者は、PBMRについて、NRCによる型式認定手続きをこれから開始しなければならず、また、経済性が大きなポイントとなるとしながらも、早ければ2006-7年頃に米国に1基目が導入され、2010年頃までに、さらに数基が導入される可能性もあると述べている。
 高レベル放射性廃棄物地層処分に関するユッカマウンテンプログラムについては、ライセンスプロセスにおけるDOEおよびNRCの役割を再確認する記述にとどまっている。
 DOE民生放射性廃物管理局担当者によると、今年末をめどに、DOE長官からユッカマウンテンサイトが適切かどうかの判断が下される予定であり、現在、DOEでは従来のホット・レポジトリ−概念に加え、埋設した使用済み燃料の環境温度が低く、安全性評価上の不確実性を低減できるコールド・レポジトリー概念の技術的評価を実施している。
 さらに、イギリス、フランス、日本で実施されている再処理について、使用済み燃料の地層処分を不要にするものではないが、処分場の最適化が図れる(optimize the use of geologic repository)ものと位置付けている。最後に、加速器を用いた消滅処理技術にふれ、再処理と組み合わせることで廃棄物の量と毒性を大きく低減しうるとしている。
 以上をふまえ、NEPではNRCに対し安全性の確保を第一とした上で、既存の原子炉の定格出力の増大や運転期間延長に関するライセンス許可を促進するように提言している。また、DOEおよびEPA(環境保護局)に対し、原子力発電が大気環境の改善に与える寄与を評価するように提言している。さらに、先進的核燃料サイクルおよび次世代技術の開発という枠組みの中で、廃棄物の量を低減させ、核拡散抵抗性の高い燃料処理技術(乾式再処理技術など)の研究・開発・実施の可能性を再検討するべきとしている。

(3)天然ガス・石油・水力

 天然ガスは全米の総発電量の16%を供給しており、また、今後2020年までの間に増加する発電供給量の90%を占めると見込まれている。2020年には天然ガスによる発電量は現在の約3倍になり、発電全体の33%を占める。他の発電源に対する優位な点として、低い資本費、短いリードタイム、高い変換効率、ガス排出量が比較的小さいことがあげられる。
 石油は現在、総発電量の3%を占めているが、今後20年間で発電量は約80%減少すると予想されている。
 また、水力は全米の発電量の7%を占め、ここ数年の発電量はほぼ一定である。温室効果ガスの排出を伴わない、低コストの発電源であるが、良好な立地地点の大部分はすでに開発が終了している。

(4)再生可能エネルギーと代替エネルギー

 NEPでは自然エネルギー(Nature's Power)と題した章で、再生エネルギー(renewable energy)と代替エネルギー(alternative energy)について記述している。再生可能エネルギーとしては、バイオマス、地熱、風力、太陽エネルギーについてそれぞれ節を設けているが、内容的には基本技術の説明にとどまっている感がある。
 図表3に示すように、バイオマスが水力を除く再生エネルギーによる発電の大部分を占めており、これらの再生エネルギーの利用コストは依然として高いが、近年の技術革新によってコストは急速に低下している。水力を除く再生可能エネルギーは合計して一次エネルギーの4%、発電量の2%を供給しており、2020年には総発電量の2.8%を占めると予想されている。
 NEPにおいては、代替エネルギーという言葉は、1)ガソリンやディーゼル以外の輸送用燃料、2)分散電源システムなどの従来とは異なったエネルギー使用法、3)水素や核融合などの将来のエネルギー供給源、を総称して用いられている。分散電源システムに関しては、天然ガスマイクロガスタービン、コジェネレーションシステム、燃料電池などが主に取り上げられている。また、水素エネルギーの利用が長期的には有望と明記されている。さらに、高温超伝導を利用した地下送電ケーブルも最近の技術的成功をおさめた例としてあげられている。
 DOEのGronich水素プログラムチームリーダーは、水素はエネルギー貯蔵媒体として、さらに、輸送システムと発電システムを結合する媒体として、電気と相補的なエネルギーキャリアに発展すると述べている。
 NEPにおいてはエネルギー源分散化、環境負荷低減、エネルギー利用効率向上などの観点から再生可能エネルギーや代替エネルギーの研究開発の重要性は強く認識しつつも、今後、コスト面や技術面で克服されなければならない課題が多く、米国のエネルギーシステムにおいて大きな役割を担いうるのはかなり先のこととみなしている。
 なお、北極圏野生保護区の資源開発解禁で見込まれる約12億ドルのロイヤリティを再生エネルギーと代替エネルギーの研究開発に投入することを提言している。

図表3 新エネルギーによる発電量及び発電コスト(1999年)

発電量(100万kWh) 発電コスト(cents/kWh)
太陽 940 20
風力 4,460 4-6
地熱 13,070 5-8
バイオマス 36,570 6-20
水力 312,000 2-6

出典:DOE/EIA

3.6おわりに

 今回発表されたNEPは、油田開発や原子力利用に慎重だったクリントン政権時の政策とは大きく異なっている。とはいうものの、昨年来のエネルギー業界の動きからして、大方予想通りとの意見が専門家の中に多いことも事実である。
 米国でのメディアの報道は北極圏野生保護区などの資源開発の解禁など石油および天然ガス採掘推進の方針に最大の関心を示している。これに対し、日本のメディアでは、原子力推進路線への転換に報道の重点が置かれているようである。
 一方、民主党は、油田や天然ガス田の開発や原子力利用の推進よりも、最近のエネルギー危機に対する短期的方策、および、省エネルギー、高効率化、再生可能エネルギー利用の推進に重点をおくエネルギー政策を打ち出している。最近、上院では民主党が多数派となり、エネルギー・天然資源委員会の委員長がエネルギー開発重視派でアラスカ州選出のMurkowski議員から、環境保護派と見られるBingaman議員に交代した他、Reid議員やDaschle議員(いずれも民主党)など、反原子力推進派の議員が民主党内、及び、エネルギー関係の予算委員会の要職についた。
 米国原子力研究所(NEI)のHagan理事は、今回のNEPは原子力を低コストで、環境負荷の小さい発電源として認識しており、これは、米国の政策決定者の原子力産業に対するポジティブな認識への変化を表していると述べている。しかし、今回のNEPに含まれている提言の実行には、多くの場合、法律の改正が必要であり、今後の議会審議の行方が注目される。
 ブッシュ政権のエネルギー政策はエネルギー大量消費に立脚する豊かな社会の実現と環境の維持という2つの目的を科学技術の進歩を基盤とする包括的な政策的アプローチにより解決できるとしている点において楽観的な立場に立っている。はたしてこれらを同時に達成し得るのかどうか、科学技術政策の見知からも今後の米国の政策動向を見守る必要がある。